タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
~有希視点~
お昼休み、特に変わったこともなく、中学からの友達である柄谷栞ちゃんと一緒に、私、天海有希はお弁当を食べていた。食べ終わった後は、とりとめもない会話をしていた。そうこうしているうちにお昼休みが終わり、次の授業が始まるものだと、思っていた。けれど、その日は違っていた。
「有希ちゃん、二年の先輩が呼んでるよ・・・?」
「え?ああうん今行くー」
ちょっとおっかなびっくり私に話しかけてきたクラスメイト。普段から仲良くしている子だ。だからこそ、こんな話かけられかたは珍しい。何かあったのかなあと教室を出ると、そこには腕組みして壁に寄りかかっている静乃先輩がいた。ホワイトアッシュの髪色に、恐ろしく鋭い眼光、背丈もあるほうだし、怖がられるのも無理はない。根はいい人なんだけどなあ。
「あれ静乃さん、珍しいですね。どうかしましたか?」
「ああ有希ちゃん、ちょっと聞きたいことがあって・・・。―――――日曜日の遼って何してた?」
神妙な顔して何聞くかと思ったら、同居人の従兄《にい》さんのことだった。
「兄さんですか?なんか怜さんのおごりで東京観光に行ってました。アキバのよくわからないお土産渡してきたときはキレそうになりましたよほんとー。」
「ふむ、奴の証言と同じだな・・・。ほかには何か言ってなかった?」
何かを疑っている。静乃さんは頭がいい。クールな顔つきになっているときは、何かをじっくり考えているときが多いのだった。
「うーんどうでしょう。興味なかったから何も聞いてないですねー。また兄さんが何かやらかしたんですか?」
「まあ、やらかしたといえばやらかしたのかなあアレは・・・ぼくもちょっと今までにないパターンで困ってて・・・」
静乃さんにしては歯切れが悪そうに言葉を返していた。私が不思議そうに静乃さんを見ていると、ゆっくりと口を開き――――
「実は――――」
「あ!有希ちゃんいいとこにいた!国広が大変なんだよ~~聞いてよ~~!」
どたどたと一年の廊下を、三年の宮永龍華さんが歩いてきたのだった。
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~静乃視点~
宮永先輩が同じ部活の後輩である栞ちゃんも呼び出して、階段横の小スペースに集合させた。
「なにかあのクソ兄貴がやらかしましたか?」
「昨日、遼が渋谷で女の子ナンパしたらしいんだけど―――――」
「ちょっとまって先輩がナンパ!?!?!?!?」
ぼくが事実と思しきことを告げると、その内容のぶっ飛び具合に栞ちゃんがド派手なリアクションをとってしまっていた。
「―――――ぼくだって信じがたいんだ。で、問題なのは・・・」
「そのナンパした女の子、今日うちの高校に転校してきてたんだよ!でね?生徒会入るからってことで結衣のクラスに挨拶しに来たんだけどさ、隣になんか国広いてさ、そしたらさ、もうめっちゃイチャイチャしてるの!私も結衣も、もうどうリアクション取ればいいのかわからないし、案内役の刹那ちゃんはもうあきれ果ててたし・・・」
「「めっちゃイチャイチャしてる!?!?」」
「―――――宮永先輩のとこでもそうだったんですね・・・。」
ぼくは大きなため息が漏れた。
「え?所かまわず?どういういうこと?兄さんにそんな気配は一切なかったよ?――――――てか、ちょっと待ってください?渋谷でナンパしたって言ってました?なんで兄さんが渋谷に行ってるんですか?兄さんの性格上、一日しか東京観光できないってわかっているのなら、アキバだけで一日潰しそうなものですけど・・・。」
有希ちゃんのその言葉に、一同頷いていた。
「確かにあの先輩が、二次元より三次元を優先するなんて明らかにおかしいです!今までもそんな兆候全くなかったのに・・・もしかして、先輩は洗脳でもされたんですか?」
「はは、現代技術で洗脳なんてできるわけないじゃーん。でも、そう思わないとつじつまが合わないのはよくわかるよ・・・。」
宮永先輩の言う通りだ。遼が自発的に女のことを遊びに誘うなんて、それも、アキバ観光よりも優先するなんて、明らかにおかしい。洗脳でもされてなきゃ―――――――――怜のおごりって言ってたんだよね?となると――――――――
「――――ねえ、遼は昨日何時に出て、何時に帰ってきた?」
「え?確か八時半ではまだ家にいたと思います。八時過ぎに目が覚めたら、私のベッドと壁の間に逆さになって挟まっていたのを見たので。で、帰ってきたのは夕飯前だったので、七時くらいですかね?」
「あいつはいったい何をやっているんだ・・・。」
でも、これでわかった。――――恋愛のサポートしかない。ああまでして東京に行ったのは、さしずめ、地元でやるのは恥ずかしいから、誰も知らない土地で、とでも思ったのだろう。札幌から東京に行くためには、新千歳空港―羽田空港の飛行機が最速だろう。札幌から新千歳空港までは、直通バスでも、JRでも一時間以上かかる。そこから二時間弱のフライトで到着するんだ。となれば、最速でも片道三時間。往復六時間。日帰りで観光するには時間が足りなさすぎる。―――――怜の何かしらの能力でワープかなにかをしたんだ。怜が休みだから真偽は確かめられないし、仮に問いただしたところで教えてくれるとは思えない。怜のことだ、遼にどうせ口止めでもしているかな。となると、戸隠さんは恋愛サポートの相手と考えるのがいい。転校してくるのも話ができすぎている。きっと、怜の側の人間に違いない。
「OKよくわかった。」
「え?なにが?」
「―――――まあ、あの子かなりオタクだったし、類は友を呼ぶんでしょ。それに見た感じ、遼はひたすらからかわれてただけのようにも見えなくもないというか・・・。」
あいつは戸隠さんへ接触すら避けようとしていたように思えた。彼女と会うのがまずいことかのようにふるまっていたのも不思議だった。無理やりあてがわれた?
「あ、静乃ちゃんのとこでもそうだったんだね。私が見た時も、彼女がガン攻めで、国広がたじたじになっていたんだよ~。」
「?先輩がナンパしたのが本当なら、どうして相手に主導権が握られてるんですかね?」
「確かに。しかもたった一日で逆転するなんて・・・。」
「―――――ごめん、ナンパした
確かに、と一同また頷いていた。
「それならすべて納得がいくね。国広のあの感じを見るに、転校してくることはマジで想定外っぽいから、大方たまたま話した相手と、思いのほか盛り上がっちゃって、相手が本気になっちゃったってところかなあ。」
「あー一番納得しました。先輩、普段オタトークは伊藤先輩くらいしかできてないっぽいんで、抑圧されていたんでしょうね。欲が。」
「兄さん、非行に走る前に発散できる相手が見つかってよかったね・・・でもあんな兄さんに
しみじみと語る有希ちゃんの言葉に、一瞬空気が変わったように思えた。栞ちゃんも、複雑な表情をしていた。宮永先輩は、相変わらずにこにこしており、その上っ面の内側には、どんな心が隠れているのかは、全く読めなかった。彼女ができそう―――――いや、遼が恋人作りをしなくちゃいけないっていうのはわかっていたはずだ。だから、これは応援すべきことのはずなんだ。のはずなんだけど、すとんと腹落ちしないのは、自分の中で消化しきれていないことがあるからだろう。だけど、それが何であるかは、結論付けられなかったのであった。