タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
刹那と戸隠さんに連れまわされ、学校案内を終えた後、どっと疲れが押し寄せてきたため、1階にある自販機近くのベンチに座った。そして、自販機で買ったガラナを一気に流し込んだ。たまたま、今の時間帯は誰も人がいなかったから、より心が落ち着いた。
「し、しみわたる~~~~!!!」
針の筵だった。ただでさえ戸隠さんは可愛い。しかもその隣には違うベクトルで可愛い刹那がいる。その二人の間に挟まれている凡人の俺。マジで視線がきつかった。しかも戸隠さんは事あるごとに俺をからかってくるんだから、精神的負荷、この上ない。だから、俺は一人になりたくて、なんとか都合つけて彼女たちと別れて今ここに―――――
「あ、生徒手帳、返してもらってないや。」
でもまあ、今から戻って回収するのもなあ。元気ないや。俺はもう一度、ガラナを喉に流し込もうとしたとき、視界の端に戸隠さんが見えてしまった。
「あ!ここにいた!」
俺に気づくと、戸隠さんはとてとてと近づいてきた。
「生徒手帳返してなかったなあって―――――大丈夫?疲れさせちゃってごめんね。」
「そんな、謝ることじゃないよ。戸隠さんが可愛すぎるから、俺の凡人さが際立っていたんだ。」
俺は事実をそのまま告げた。これが柄谷や部長なら、ただからかってるだけととらえて雑に流していただろう。ただ、彼女は違う。告白券の効果が発動している可能性が高い。発動していないにしろ、もともと俺への好感度が高いっぽいんだ。だから、その言葉をこぼした瞬間、これって若干口説いてね?と気づいてしまった。
「そんな自分を下げないでよ。私にとっては遼君はキラキラ輝いてみえるよ。大好きだもん。」
「そ、それ禁止!まじで恥ずかしいって!」
これだ。もうずっとこのノリ。刹那もマジでしんどそうに俺らを見ていた。途中から、俺を同情するかのように見ていたのがよくわかった。
「えー、”好きなものには正直に”、というのが戸隠家の家訓なんだもん。」
「いやその・・・あれだよ、好きって言葉を連発するとさ、一言の重みがなくなってくるじゃん?たまにいうから破壊力がでるっていうか・・・」
「たまに言う方が好きになっちゃう?」
「―――――うんうん、なるなる。」
「遼君がそこまで言うなら・・・」
俺は目先の安全のために、とんでもないことを口にしてしまった。どんどん逃げ場がなくなっていく。俺はこの先どうなってしまうんだ?
「まあ、もとから今後は控えるつもりだったけどね。」
「え?」
「だって刹那ちゃんも呆れてたのわかってたし。――――目的は遼君をからかうことと、遼君から言質取ることだもん。」
「ほわわ???」
こ、この女~~~!!!天然に見えた行動は、ちゃんと考えたうえでのことだったのか???いや、この子は裏表で性格変わるとかじゃなくて、ちょっと本音を隠して動いてただけだ!
「見たところ遼君はノリは軽薄だけど人の扱いはしっかりするタイプっぽいし、まさか私のことも雑にあしらわないよね?」
「そ、そりゃあまあ・・・」
「ふふっ・・・・・・じゃあはいこれ、約束の生徒手帳ね。」
そういって彼女は、胸ポケットの中から生徒手帳を取り出した。俺はガラナをベンチの上に置き、彼女から生徒手帳を受け取った。生徒手帳は温かかった。―――――温かい!?!?!?!?ぱいぱいの熱でhotになってるお!?!?!?!?
「じゃあ、遼君、また今度ねー。」
戸隠さんは手をひらひらとさせて、その場を去った。嵐のような時間だった・・・。俺は生徒手帳をポケットにしまい、ベンチに置いたガラナを手に取――――あれ?ないぞ?
「―――――まさか!」
俺は戸隠さんの後姿を見やると、手には俺の飲みかけのガラナが握られていた。もう何でもありじゃん、この子・・・。
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「国広、戸隠さん―――――彼女はアンタの何なの?」
あの後、午後の授業は特に何事もなく始まり、放課後も戸隠さんと特に会うこともなく、ごく自然に部室に行くことができた。今週末はFLDの大会があるんだ。今日は部室で軽く作戦会議した後に、ゲーセンに出向く予定となっている。
「そ、そんなことより今週末のFLDの全道大会の話しましょうよ~ぶちょ~」
が、部室に入ると、そこにはすでに部長と柄谷が、厳しい顔をして座っていた。
「先輩・・・渋谷でナンパしたんですか?ナンパされたんですか?どっちですか?先輩は東京に行ったらアキバにしか行かないと思っていたのに・・・」
柄谷も食い気味で突っかかってくる。女性は恋愛話がお好きよのう。でも、勘弁してほしいんだな。昼からずっと疲れているんだ―――――って待て、なんで渋谷とアキバに行った話を柄谷が知っている?この情報って、弁当食ってる時だから俺と刹那、静乃しか知らないぞ?だれかから情報が漏れた?刹那は自分からひけらかすタイプじゃない。それに昼休みはほとんど俺らと一緒にいたから・・・そう考えると・・・静乃から洩れたと考えるのがいいだろう。――――――――てか、あまり深く考えてなかったけど、その二か所を日帰りで観光するってできるのか?柄谷のことだ、有希から全部聞こうと思ったら聞けてしまう。となると―――――彼女と口裏合わせて、せめてアキバで会ったことにしとかないとまずい!怜のワープ技術を疑われる懸念があるぞ!
「ちょっと話せば長くなるからできれば話したくないんだけど・・・」
「国広、お前には説明責任がある。お前が持ち込んだ爆弾のせいで、部の調和が乱れている。このままでは、連携もまともに取れず、敗退は必至だろう。」
俺が言い訳しようとすると、後ろからハムが刺してきた。こいつはいつの間に部室に入ってきたんだ?
「ほんとそうだよ国広!大会近いんだよ!頑張って勝たなきゃならんのだよ!だからこんなことで部の雰囲気めちゃくちゃにされたくないんだよぅ!」
バンバン机をたたく部長はやかましく、その行為にはさすがにハムや柄谷も嫌そうな視線を向けていた。
「―――――――みなさんヒートアップしてますけど、大会の前に学力テストあるの、忘れてないですよね?」
そんな中、奥の机で仕事をしていたゲーム部顧問の梓先生が、呆れた顔をしながらこちらの会話に入ってきた。この学校は夏休み直前に学力テスト行っている。成績に直結はせず、現在の自分の学力が、校内のどの位置にいて、かつ志望大学の合格率はいかほどか、というのを出す大切なやつである。
「うっ・・・!」
テストという単語を聞いた途端、バンバン机をたたいていた手はそのまま前方へスライドし、部長は机に突っ伏した。
「梓ちゃん、空気読んでほしいな・・・てか、梓ちゃんも気にならない?二年に入ってきた転校生の戸隠さん、国広がナンパしたらしいんですよ!」
「え!?国広君があの子をナンパ!?!?」
「俺はナンパなんてしてないっすよ!」
「じゃあどういうことなのさ!あの子国広のことらぶらぶちゅっちゅな感じじゃん!」
「らぶらぶちゅっちゅ!?!?」
「それはこっちが聞きたいですよ!てか梓先生も驚きすぎです!」
「だってさ、国広君って3次元の女の子興味ないと思っていたし、モテなさそうだし・・・」
「前半部分はあながち間違いじゃないですけど、後半部分はさすがの俺も傷つきますよ?」
「じゃあ何なんです?いきさつを洗いざらい吐きなさい。」
梓先生がそう命じたものだから、俺は覚悟を決めて事の顛末を話した。昼休み、戸隠さんは確かに渋谷を名前を出した。しかし、渋谷で俺と会った、まではしゃべっていないはず。だから、場所を秋葉に挿げ替えて、起きた事実だけを伝えた。戸隠さんの携帯を偶然拾い、回収しに来た彼女がお礼にとカフェに連れて行ってもらったら、相手もオタクだったから思いのほか話が弾んだ、とね。東京を離れるとは聞いていたが、まさかその転校先が札幌だとは全く知らなかった、だからキョドってしまっていたと言うと、一同みな納得していた。
「―――――渋谷からアキバまで、彼女は取りに戻ったわけだ。大変だったねえ。」
「でも、これで納得です。先輩らしいムーブです。」
「あの転校生、そういういきさつだったのか・・・。」
「そういや、ハム君のクラスに入ってきたんだよね、彼女。クラスに溶け込んでた?」
「私が見る限りだと、問題はない。もっとも、初日から遅刻してきたことに加え、昼はずっと少年と一緒にいたから、交流の機会こそ少なかったが、休憩時間のたびにいろんな人と話していたぞ。」
「それなら安心だ。俺に絡みすぎて浮くとかなったら嫌だし。」
「――――――国広、今のセリフ、すっげー彼氏面っぽくてやだ。」
「部長直球すぎません!?!?」
「あはは、でも確かにそうかも。」
「梓先生今日あたり強くない?お便秘指摘されたことがそんなに嫌だったの?」
「え?梓ちゃん便秘なの?ウケる。」
「私は便秘で悩んでいません!宮永さんも指さして笑わない!」
「すみません先生・・・そんなに大きな悩みを抱えていたなんて・・・私のお家の人の薬分けてあげましょうか?」
「柄谷さんも何言ってるの?だから悩んでないって!」
「便秘酷いから職員室でハブられてるの?もしかして便秘でいじめられてる?」
「そんな事実はありません!私が職員室にいないのは――――――」
梓先生をみんなしていじったことで、梓先生もヒートアップし、そこから梓先生の説教兼愚痴が始まったのだった・・・。
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「でね?正宗先生って酷いんだよ?私がこの前一生懸命小テスト作ってたらさあ―――――」
ここまで30分。部長と柄谷は、完全にやらかした、という顔をしていた。無理もない。テスト勉強もせず、FLDの作戦会議もせず、ただただ時間を無為にしているのだから。なお、ハムは我関せずといった形でテスト勉強をしていた。こういった隙間時間をうまく使えるあたり、ハムも要領はいいんだろうなあと思う。誰か先生を止めてくれ、と念じていたら、部室のドアがノックされた。そうして扉を開けたのは、
「またここにいたんですか梓先生・・・」
俺の担任の先生、千歳春樹先生だった。年はたしか梓先生の一つ上、年が近い先生同士、そこそこ仲は良かったはず。
「ゲッ、はる―――――千歳先生・・・」
「ほら、行きますよ。この前の借りを返してくださいね。」
「え?いや待って?今?――――ああ、わかりました行きます!行きますから!」
梓先生は度々校内アナウンスで呼ばれるのだが、一度生徒の間で回数の多さがうわさされた。その話を聞きつけて、仲のいい千歳先生が善意で呼びに来る、というわけだ。この光景も割と見慣れてきた。
「・・・そんじゃま、作戦会議、しよっか。」
「うん・・・」
先生たちが部室を出て静かになったから、本来の目的を果たすべく、動き出したのだった。
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なお、時間を無駄にしてしまったことへの焦りからか、部長の話は最適化されており、その後のゲーセン(マキシム)凸でも、最良の結果を出すことができた。なお、その間ずっと、俺は今日あった出来事はまったく思い出さなかった。それだけ没頭していたということだ。帰宅直前、さんざん便秘で梓先生を煽った罰が下ったのか、腹を下した。俺は3人を先に帰らせ、マキシムのトイレにこもる羽目になった。そうして十数分が立ったのち、すっきりした顔でトイレから出ると、音ゲーコーナーにひっそりと置いてあるProject DIVAをしばいている女性がいた。甘可愛いファッションの小柄な子。ゲーセンに似つかわしくないその格好に、ちょっと目が引かれてしまった。ちょうど3曲目が終了したので、イヤホンを引っこ抜かず後ろを確認した彼女と目が合って――――――
「げ。」
「え?遼君?」
なあ、どんな運命だよ。こんなことってあるかよ。神様――――竜崎よ、これも告白券の効力なのか?どんだけ忘れようとしても、離れようとしても、引き合わせてしまうものなのかよ。と、俺は心の中で吐き捨てたのだった。