タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
戸隠さんは俺に気づくと、筐体につながれたイヤホンを引っこ抜いて、ぐるぐるとまきとってポケットにしまった。流石に、知り合いがいるのに連コインはしないか。
「そういや昨日のカフェでゲーセンよくいくって言ってたもんね。まさかいるかも、とは思ったけど本当に会えるなんて!」
昨日戸隠さんと渋谷のカフェで会ったとき、俺は確かにそんなことを話した。学校近くのゲーセンに通って、部活の特訓してるってさ。でも、戸隠さん側からゲーセンに行くって話は聞かなかったから、この展開は全く予想できなかった。
「え?狙ってたの?」
「ワンチャンあるかも?とは思ってたけど、今日来たのは普通に遊びたかったからだよ。引っ越すってわかってたから、事前にDIVAの筐体調べてたらさ、家の近くにあるんだもん。しかもここ、メンテがしっかりされているのに人が全然来ない!もうやりたい放題だし、ホーム確定だよ~」
戸隠さんは目をキラキラさせて筐体を指さした。
「―――――そういやゲーセンとか好きっていってたけど、まさか音ゲーマーだったとは・・・」
俺が何の気なしにそう返事すると、戸隠さんはどこかばつの悪そうな顔をして、指先を合わせ、人差し指をくるくると回した。
「私がゲーセンに行くって話をすると、決まってみんなどこか引いてるような返しをしてきたんだもん。だからちょっと、遠慮していたというか・・・引いた?」
「まさか、むしろゲーセンの同志が増えてうれしいぜ。それに、俺の身の回りにはゲーセン行く女子いっぱいいるから、違和感もないなあ。」
またしても俺は、思っていることをつらつらとしゃべってしまう。
「・・・うれしい。ありがとう。」
彼女のその表情を見て、同情にも近い感情がわいてきたのだった。おそらく、似たような言葉は今までももらっていたのだろう。けれど、心の底からでた言葉ではこれが初めてだったのかもしれない。――――――――”好きなものには正直に”という言葉が家訓だと、昼間に言っていた。もし、それを馬鹿正直に実行していたのなら、おそらくそれで痛い目に何度も遭っている可能性がある。ある種のエゴイズムなんだ、好きの押しつけは。俺だって、アニメやゲームを人にお勧めするときも、題材も相手もかなり選ぶ。昔それで痛い目に遭っているからだ。ただ、幸運なことに、アニメや漫画なら伊藤が、ゲームなら部長や柄谷が、最近だと会長も話が合う。俺の好きは、かなり正直になれている。けれど、戸隠さんは昼間、東京の高校ではそういうことを話せる相手はいなかったといっていた。だから、オフイベでそういう欲を発散していたんだろうけど、身近にいないってのは本当にきついと思う。そういう意味では、境遇が違うだけで、彼女と俺は根っこは近いところにあるのかもしれない。
「でも、遼君の周りにそういう女の子が多いってのはちょっと複雑かなー。」
「や、そんなこと言われても・・・」
「うんわかってる。困らせようと思って言ったから。」
「ちょっと意地悪じゃない?」
そしてその場で、他愛もない話をした後、俺は彼女の連絡先を聞いていないことを思い出した。口裏合わせないと、いろいろと面倒なことがあるんだ。
「そういや、昨日のことでちょっと話したいことがあるんだ。だから、連絡先教えてくれない?」
「確かにそうだった!―――――ここで聞くのもなんだし、隣のスープカレー屋で詳しい話聞かせてよ。今日は家に帰ってもご飯ないから、どのみち外食するつもりだったんだあ。勿論、遼君が家で食べるなら全然メッセでいいんだけど・・・」
戸隠さんはちょっともじもじしながら、奥ゆかしそうに聞いてきた。可愛いじゃん。なお、今日は有希が飯づくり当番なので、あいつに一言いえば、外食するのは問題ではない。だが、ここで話に乗るべきかどうかは、考える余地がある。本当に、このまま彼女と仲良くなっていいのか?という葛藤だ。だが、昼間彼女が言っていた”好きなものには正直に”という家訓が、俺の脳内で反芻する。正直言って、俺は彼女の提案に、戸惑いはありつつも、うれしさを感じている。なら―――――
「いいよ。じゃあいこっか。てか、引っ越してきていきなりスープカレーは結構攻めてるね。北海道に来たての人って海鮮系とかラーメン、ジンギスカンに行くかと思ってた。」
「あ、そういえば言ってなかったね。私、お父さんの出張のつきそいとかで札幌にはそこそこ来てるんだあ。」
「あ、そういうこと――――――だから雪ミクの会場限定ステッカーとか持ってたんだ。」
「そうそう!この時ばかりは、お父さんの仕事が誇らしく思ったよ~」
なんてことを話しながら、俺らはマキシムを出て隣のスープカレー屋に入った。そこから戸隠さんに昨日は渋谷じゃなくてアキバでやった話にしてくれと頼んだところ、二つ返事で了承してくれた。深いわけは聞いてこなかったのも、都合がよかった。これで俺の目的は達成できたのだが、その話をした後も、また別の話で盛り上がってしまった。戸隠さんの父親はなんと大学教授で脳科学を専門としており、この春、東工大の准教授から北大の教授になったんだと。ただ、春は東工大での仕事が微妙に残っていたらしく、4月は父親だけがまず札幌で家を借り、いつでも東工大に長期で入れるようにもともとの家は契約したままにし、東工大での仕事が7月にようやく片付いたことで、東京の家を引きはらって、引っ越ししたんだと。家も北大近くに借りているようなので、このゲーセンはマジで徒歩数分らしい。普通にすごい。羨ましい。
飯を食った後は、彼女を一応家まで送っていった。借りていたマンションは超高級感が漂っており、これが金持ちか・・・と素直に感心するのだった。その後、特に何もなく解散し、帰路についた。
家に着いた後は、リビングにいた有希から案の定質問攻めが入ったのだが、部長たちにした説明を繰り返すと、納得してくれた。こいつもちょろくて助かったぜ。そうして自室に入ったとき、朝いなかった竜崎が俺の机の上で横になり、サブスクで映画を見ていたのだった。
「おかえり、国広君。―――――――どうした?なんかすごくやつれてないか?」
竜崎は最初こそ能天気な顔をしていたのだが、俺の異変にすぐ気づくと、神妙な顔つきになり、立ち上がって寄ってきた。
「実は――――――」
そこで俺は、今日あった出来事をすべてぶちまける。そうして、その告白が、この日からの二週間の運命を決定づける、大きな分岐点となっていたのだった。