タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
~静乃視点~
午前の授業が終わり、休み時間を迎えた。周りの生徒たちは教室内で昼食を取ったり、他クラスへ弁当箱を持って行ったりしていた。そんな中、ぼくは何も持たずに教室を出た。―――いや、厳密にいえば、スマートフォンは持っている。今日は困ったことに弁当がない。ぼくの弁当は母がいつも作ってくれるのだが、母の体調がよくなくて、今日はなし。購買で惣菜パンを電子マネー決済で買った後、踵を返して教室に向かおうとしたところ、同じように購買でパンを買おうとしていた蘇芳会長に出くわした。
「あれ、静乃さんじゃないですか。」
「こんにちは、会長。今日は弁当じゃないんですね。」
「ちょっと最近立て込んでいて、なかなか弁当を用意する暇がないもので・・・」
ちょっと前までは、蘇芳先輩の弁当事情なんて知ろうともしなかった。刹那に連れられて会長らの教室に行ったとき、いつも弁当箱を広げていたことだけは覚えていた。だけどこの前蘇芳先輩の家に行ったときに、彼女への認識を少し改めることとなった。あの家に、おそらく先輩は実質一人で住んでいる。先輩ら以外の人影がまるでなかった。となると、何気なく見ていた彼女の弁当、あれはおそらく自炊して用意したものだろう。生徒会業務だけでなく、ギタリストとしての活動もある中、趣味の時間も割きつつ弁当を作る余裕があると考えると、彼女の超人ぶりが目立つ。そんな彼女が、弁当を用意できないほど急がしい、というのであれば、それは文字通りの意味なんだろう。寝る間も惜しんで作業しているに違いない。
「――――
忙しさの理由がちょっと気になったから、ぼくはかまをかけてみることにした。
「それもありますが、桜子の転入に伴う業務内容説明なども重なっているので、普段の仕事の進捗が遅れていまして・・・」
「あー・・・戸隠さん、生徒会入りましたもんね。刹那から聞きました。それなら、忙しい理由もわかります。でも不思議ですね、先輩ならそのくらい見越して業務進捗調整しそうなものですが。」
ぼくは当然の疑問を彼女に投げかけた。すると、彼女はこちらを見ずに、パンを買いながらぽつりとつぶやいた。
「あとはゲーム研究部のトレーニングに付き合ってることで、寝る時間がさらに遅れているというか・・・むしろそっちに力を注ぎすぎてる感もあるというか・・・」
「・・・それは単に、先輩がそっちをやりたいだけでは?」
にやにやしながらツッコむと、会長はばつの悪そうな顔をしてはは、と笑った。やっぱりこの人、ゲームが大好きなんだな・・・。
「ここで立ち話もなんですし、よければ生徒会室きますか?」
「え?まあ会長がそう仰るならぜひ行きますけど、そんな私的利用許されるんですかね?」
「大丈夫です。こんなの私的利用の中に入りませんよ。ただまあ、大義名分が欲しいのであれば、
そのとき、会長は悪知恵も働く人なんだなあとぼんやり思うのだった。
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「あれ、静乃ちゃんと結衣先輩!まさかみなさんもここでご飯してたなんてー!」
ぼくたちが生徒会室でだらだらと昼食を取っていた時に、扉がゆっくりと開かれた。現れたのは、刹那と戸隠さんだ。手にはお弁当箱が提げられていた。
「こんにちは、皆さん。刹那はともかく桜子はどうしてここに?」
「それがですね、なかなかここの生徒会ハードそうだったので、早いうちから仕事覚えとかないとなーって思ってきちゃいました。刹那ちゃんに聞いたら、生徒会役員は自由に出入りしていいとのことだったので、やるぞーって。」
ぼくは彼女のその言葉を聞いて、戸隠さんは見かけによらずかなり真面目な努力家タイプと感じた。きっちり仕事をこなすが真面目過ぎるがゆえに人によっては息苦しさを与えてしまうっような刹那をカバーするように、ほんわかした空気感であぶれた人を包み込み、だけどそこで終わらず仕事はきっちりこなす戸隠さん、そして二人のパワーが不足する場には、荒々しくも難題をぶち壊していく朱鳥があてがわれる―――――将来の生徒会はバランスがいいように思えるな。
「なるほど、素晴らしい心がけですね。刹那の言う通り、生徒会役員はここへの出入りは自由にしてかまいません。また、相手が信頼に足る人物であれば、役員以外も読んでもいいですよ。彼女のように。」
そういって会長は、ぼくのほうを見た。生徒会役員しかいないので、いていいよと言われても、若干の居づらさは感じてしまっていた。
「会長がそんなこと言わなければ自覚しなかったのに・・・あーあ、変なこと言うせいで居づらくなっちゃったな~~~」
「う、静乃さん、そんなつもりでは・・・」
会長がちょっとおどおどし始めた。この表情が見れただけでも良しとしよう。
「静乃、会長をからかうんじゃないですよ。・・・というか、会長もからかえるくらいには仲良かったんですね。うすうすわかってはいましたが・・・」
刹那は不審そうにこちらを見ながら、彼女の席に着いた。刹那が座ったのを見て、戸隠さんは棚に置いてあった書類を手に取り、刹那の横に座って弁当箱と書類を広げた。
「へー、結衣先輩と静乃ちゃんって仲いいんだ!どういうつながりなの?」
「刹那と一緒にいると何かと会長と触れ合う機会が多くてね、そうこうしていたら、気が付いたらこんな関係になってたんだよね。」
ネット音楽関係で仲良くなったとは言えないので、適当にはぐらかした。なお、刹那もこのことは知らない。刹那の会長像を崩しちゃいけないと思って。
「あるあるですねー。一緒に遊び行ったりはするんですか?」
「そういうときもありますよ。」
「え!?静乃、会長とお出かけしたりしてたんですか???」
刹那はかなり驚いてこちらを見てきた。――――――確かに、会長と遊びに行ったりしたって話、したことなかったな・・・。刹那にとって会長は憧れの対象だから、遊びに誘うのはなかなかハードル高いとか言っていたような・・・。これ結構めんどくさいことになりそうだなあと思い、会長をちらりと見ると、会長はあーとかええと、とか言って必死に言い訳を考えていた。
「ほら、最近だと水着買いに行ったじゃん。そういった感じで、偶然出くわすとかさ。」
「なんだ、びっくりしました。てっきり会長とは蜜月な関係になっていたのかと・・・。」
「蜜月な関係って・・・刹那ちゃんも結衣先輩と遊び行きたいのなら普通に誘えばいいんじゃないですか?」
「それはその・・・」
ごにょごにょ言ってもじもじし始めた。でも戸隠さんの言うことももっともである。そんなにハードル上げずに気楽に誘えばいいのに。にしても、思ったことズバズバ言ってくれるから、刹那のこの体質も、もしかしたら改善させてくれるかもしれないなと、淡い希望を持ったのだった。
「というか、水着かー。道産子《どさんこ》ってプールとか海に行く文化あったんだ。夏あんまり暑くならないし、あんまりいかないと思ってた。」
「ああ、それでしたら、いろいろあって近くにできる大型アミューズメントパークのタダ券を龍華―――――ゲーム研究部の部長からいただきまして、せっかくだからみんなで行こうということになったんですよ。――――――そうだ、せっかくですし桜子さんも行きますか?生徒会役員の分は龍華からもらいましたが、彼女の口ぶり的にまだ余ってそうでしたよ。」
「え!ぜひ行きたいです!ゲーム研究部かあ、―――――うわーちょっと緊張しちゃうかも。」
会長はにっこりその話を聞いていたが、その笑顔は引きつっていたように見えた。気持ちはわかりますよ、会長。緊張しちゃう、という言葉の裏に潜む本当の意味を・・・。ぼくは視線でぼくの気持ちを伝えようとした。
「じゃあ龍華に聞いてみますか。」
そういって会長は宮永先輩に電話をかけ始めた。
「もしもし龍華?今いいですか?この前くれたアミューズメントパークのタダ券あったじゃないですか。あれってまだ余ってます?――――――――ええと、転校生の戸隠桜子さんも一緒にどうかと思いまして――――――え?もうない?国広君にあげた分が全部?――――あと一枚だけ余っているかも?なるほど・・・」
会長は、ぼくたちにも話の内容がわかるように、あえて復唱しながら電話をしてくれていた。電話をし終えた後、「ということです。」と戸隠さんに告げた。
「じゃあ後で遼君に聞いてみよーっと。――――――――さ、話してばかりいないで私もやることやりますか。」
戸隠さんはそういうと、それきり黙々とお弁当を食べながら書類を眺め始めるのだった。オンオフをしっかり分けられてすごいなと思うのだった。