タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?―   作:すうどんたくろう

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3-3-2 「叔父さん、生きてる?」

 7/30(木)

 

 いろいろな人たちと非常に楽しい一日を送った翌日、俺はピクリともせずに眠り続けた。肉体的にも精神的にも疲れていたのだ。かわいい女子たち、目の毒な水着姿、特に静乃と戸隠さん―――――俺の心を惑わすことや、プールで激しく動いたことから疲れが本当にたまっていたのだ。だから、昨日は帰ってからカバンを部屋に投げ捨て、そのままベッドに入った。本当はちょっとだけ横になって、落ち着いたら風呂に入って寝るつもりだったのだ。でも、寝てしまった。起きてからはすぐ差分回収装置を使って先日に起こり得た未来を確認していた。――――もっとも、起こり得た未来が複数あったという事実だけを確認し、その中身までは見ようとしなかったが・・・。で、ずっとヘッドギアを被っていたから、かなり疲れてしまったため、リビングで一息入れることとした。俺はふらつきながら立ち上がると、同じくダイブしていた竜崎がこちらに話しかけてきた。

 

「――――なるほど、私はあの場に行けなかったが、こんなに面白いことが起こっていたんだね。」

「そうか、直接行かなくても、差分回収装置を使えば何が起こったかを追体験できるわけか。」

「そういうこと。だから、なるべくこれを使うときは私を呼ぶように。」

「へいへい。」

 

 俺の気の抜けた返事に、竜崎はぷくーっと頬を膨らませた。可愛らしいデフォルメ美少女フィギュアに憑依しているから、見てくれは可愛いけど、こいつ中身は男なんだよな・・・。と、久々にそう思ったのだった。

 

 

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「兄さん、ずいぶん遅起きだね。」

「おお、有希、おはよう。」

 

 俺はシャツのたくしあげて体をぼりぼりと掻いた。そして後頭部も掻き、大あくびをしたところで、有希がまあまあ小奇麗な格好をしていたことに気づいた。

 

「あれ?お前どっか行くの?」

「行かないよ。てか顔洗って着替えてきてくれない?」

「まあいずれはやるけども・・・」

 

 ほどなく、俺の後ろに誰かいる気配を感じた。ばっと振り返ると、そこには小柄な少女が立っていて・・・

 

「せ、先輩・・・お邪魔してます・・・」

「おお、柄谷か、来てたのか―――――って、なるほど、確かにこんな姿は見せちゃダメか。」

 

 客人が来ているのに、だらしのない格好はいけないな。俺はリビングで一息入れる前に、顔を洗って着替えることとした。にしても、柄谷も元気だな。昨日の今日で疲れているだろうに。

 

 

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 ひとしきり身支度を終え、コーヒーを淹れた。時刻は10時だった。有希と柄谷は、リビングのでかいテレビでずっとマリカをやっていた。俺は二人のプレイングをだらっと見ていた。柄谷は相変わらずうまい。一位をずっと死守している。しかし有希も、俺のしごきを受けていたこともあり、その柄谷の後ろにずっとついてきており、二位をとっていた。これが英才教育というやつですな・・・って、リビングで堂々と遊んでいるということは、叔父さんは出かけているか、書斎にこもっているかだな?キッチンを改めてちゃんと見ると、そこには有希が朝ご飯を食べたであろう食器が洗われずに置かれていた。叔父さんが朝飯を食った痕跡はなかった。となると、飯を食うことを忘れるほど、執筆に没頭している可能性がある。俺はちょっと書斎に向かってみることとした。

 

「叔父さん、生きてる?」

 

 書斎には、俺の声に全く介さず、ひたすらにキーボードを走らせて、文字を打ち込んでいた。机の上には、空になっているであろうコーヒーカップや、無数の書類が散乱していた。

 

「―――――おお、遼か、どうした?」

「や、俺はこれから遅めの朝飯を作ろうかと思うんだけど、叔父さんもいる?」

「それはありがたい。―――――ああそうだ、飯食い終わったらでいいから、ちょっとお使い頼まれてくれないか?」

「どうしたの?」

「ちょっとコーチャンフォーまでいって、このリストの本を買ってきてくれないか?買うときはこのカードを使ってくれればいいから。で、領収書ももらってきてくれ。昼飯代は渡しとく。今日中に渡してくれれば助かる。」

 

 そういって、叔父さんは俺に三千円を渡すのだった。このようなお使いはたまにある。いつもなら叔父さん自身が買いに行くもしくは通販で済ませるのだが、手が開かないときは、俺や有希にお願いするのだ。

 

「お、わかっているじゃあないの!」

 

 俺は、昼飯代にしては多すぎる金を握り締めて部屋を後にした。そうして、簡単な朝食を二人分作り、書斎へもっていった。俺の分はリビングで食べ、それを終えたのち、すぐに家を飛び出した。

 

 

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 コーチャンフォーは北海道釧路市に本社を構えている、ローカル複合商業施設である。田舎の広い土地に建てているので、地元民に愛される施設だ。多くの人は書店目当てで来るが、雑貨やCDなども売っており、幅広い層にリーチしている。自分はよく、コーチャンフォーのミュンヘン大橋店に行く。ここは自転車で10分くらいで到着できる好立地である。よく漫画を買った後、併設しているミスドでコーヒーとドーナツをいただくのだ。

 俺はコーチャンフォーにつくと、まず店内の検索用パソコンでリストの書籍を検索した。すると、どれも俺が普段覗きもしない棚に陳列していることが分かった。なるほど、これは哲学のコーナーにあるわけか。まだ倫理は学校でやってないから、哲学者はよくわからないんだよな。漫画で出がちなニーチェの名前くらいしか知らないや。俺は哲学書が並ぶ棚を見つけた。この辺のコーナーはニッチなせいか、あまり人はいなかった。だからこそ、俺が目的のコーナーについたとき、先客がいたことに驚いた。さらに、その人は女性であり、地雷系コーデで身を包んで、黒いマスクをし――――

 

「いや、まさかな、そんなわけないよな。」

 

 俺はなにもみなかったことにして、お目当ての本を探すことにした。そして目的の書物を手に取り、本の表紙を見ていたら――――

 

「それは実存主義を説いたサルトルの『嘔吐』だね。遼君、そんなの読むんだ。」

「――――やっぱ戸隠さんだったか・・・。」

 

 声をかけてきた女性は、やはり戸隠さんであった。偶然にしては遭遇率が高すぎるだろ、と思ったのだった。 

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