タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
午後三時ほどでハムも帰ったあと、俺は竜崎を探しに家の中をぐるぐる回った。しかし、どこにもいなかった。おそらく怜のところだろうから、俺は電話の発信履歴から怜に電話をかけた。こういったときに彼と直接連絡を取る手段がないのは面倒だな・・・。数コールで彼女は電話に出た。
『何?どうかした?』
「そこに竜崎いない?」
『いるわよ。話したいことでもあるのかしら?』
「ちょっとね、ほら、明日って戸隠さんに告白券が効いている場合、明日で期限切れじゃない?ちょっと相談したいことがあってさ。」
『そういうことね。承知したわ。今すぐ来る?――――てか、あなたたち麻雀してたんじゃなかったの?』
「いや、実はいろいろあってもう終わったんだわ・・・」
そうしてやりとりを終えたのち、俺は怜の家に移動したのだった。
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怜の家のリビングで、竜崎は映画を観ていた。暢気なだなあ、こっちはいろいろと考えているのに・・・。
「ちょっと待ってなさいね、コーヒー淹れてくるから。」
そうして怜はキッチンに向かっていった。それを竜崎は横目でちらりと見やり、ほどなくして俺に向き合い、手招きをしたのだった。近づくと、どうやら耳を貸してほしそうなしぐさを見せたので、俺は竜崎の眼前に自分の耳を寄せた。
「(―――――告白券の効果を消せる云々の話は、怜も知らない話だ。ちょっと知られると面倒なので、怜の家から戻った後に詳しく話すでいいかな?)」
「(え?まあいいけど―――――)」
俺の本題はそこだから、そこを今すぐ聞けないとなると、ちょっともどかしいな。会話はそこで終わり、俺はソファに座ってコーヒーを待つことにした。
「さ、何が聞きたいの?」
怜はコーヒーを両手に持って、片方を俺に突き出した。俺は会釈した後、淹れたてのコーヒーに口を付けた。酸味が強く、フレッシュな気分にさせてくれるうまいコーヒーだ。俺が一番聞きたいことは竜崎に封じられたので、何とかひりだそうと頭をひねった。
「――――ん?告白券について聞きたいことがあったから連絡してきたんじゃないの?しかもメッセージじゃなくて電話だったし、急ぎなのかなって思ったんだけっど。」
怜は怪訝そうにこちらを見た。そりゃそうだ。俺だって今すぐ聞きたかったさ、どうやったら告白券の効果を消せるのかって。でも聞くなって言われちまったんだから・・・
「―――――なるほどわかったわ。告白を受けるかどうか迷っているのでしょう?」
「―――――うん、そうなんだ。」
怜は都合よく勘違いをしてくれた。厳密にいえばそれも迷っているのだが・・・
「まあ、遼に彼女ができたら、私たちの役目も終わりかなあ。」
「・・・確かに、当初の目的は達成できるのか。」
そうすると、この生活も終わり、いつも通りの、トンデモ装置のない日常に戻る。―――――年末まで、との話だったが、こんなに早く解決することになるかもしれないとは。
「ま、まだ帰らないけどね。」
「え?」
「戸隠さんとこれで表面上付き合ったとしても、長続きするかどうかはわからないし。これで問題ない、という確証が得られるまではいるわよ。私が見る限り、遼は心の底から彼女のことを好きになっているわけではなさそうだし。大方、記憶を消して思い出をすべてなかったことにするよりも、自分の心に半分嘘をついてでも、思い出を残してあげる方を優先しようとしている、ということかしら。記憶操作した場合、運命的な出会いをしたことも、プールに行ったことも、全部思い出せなくなるのだから。」
その言葉に、俺はなにも言えなかった。ここに来る前まで、効果だけ消せば、付き合うことなく記憶を消さずに済むから安心だ、と思っていた。だからこそ、竜崎にその方法を聞きたかった。だからこそ、俺はなにも気にせず過ごしていたんだ。竜崎が普段通りにしろっていうから!――――だけど、自分に向けられる他人の感情が引き起こす結果について、他人に何とかしてもらおうという虫のいい話をしていたんだ。そんな無責任なことを、俺は竜崎に頼んでしまっていた。―――――自分のことは、自分で責任を取るしかない。もし俺が戸隠さんの告白を断り、記憶をすべて消してしまったとする。そんな状態で、俺はほかの人と付き合うことが果たしてできようか?戸隠さんと再度関係を構築することをできようか?――――――できるわけがない。彼女の想いを踏みにじっているのに、自分だけはのうのうと元通りなんて、筋が通らないだろう!それだったら、
「―――――思うところはあるようね。それなら、彼女からの申し出には、拒否せず全部承諾することね。否定さえしなければ、告白券による記憶操作は起こらないから。」
「・・・わかったよ。ありがとう。迷いは晴れた。」
俺はアツアツのコーヒーをグイっと飲み干すと、家にすぐさま帰ったのだった。そうして、戸隠さんに月曜のことについて連絡を取ることとした。――――文面を考えていたら夜の10時を過ぎており、ときめき男子かよって苦笑した。とりあえず連絡を終え、俺はたまっているLINEの通知を処理していくこととした。たいていは告知の連絡だったが、一番下に、俺は無視してはいけない通知が来ていることを見つけてしまった。
「――――静乃からの連絡だ・・・」
内容は、8月3日にまたあのアミューズメントパークに行かないか、というもの。そしてその連絡は、昨日の日中に来ていた。―――――全く気付かなかった。多くの通知に埋もれてしまっていた。しかもその日は、戸隠さんと会う日。俺は後ろめたい気持ちになった。別にあいつは彼女でも何でもない。が、通知のタイミング的に、先に約束をしたのは静乃からだ。俺はこのダブルブッキングに非常に申し訳なくなり、謝罪といきさつを説明した後、[8/5でどう?]と打診した。ほどなくして[遼もついに未読無視決め込むようになったか・・・まあその日でもいいよ。]と連絡が返ってきた。去年の俺には考えられないことだったが、こうして一週間のうちに女の子と出かけるのが、二度も起こることが確定したのだった。――――最も、その一回目は、共通ルートの分岐点になりそうな予感がするな、と、思うのだった。そして、静乃へどう返事するかに脳のリソースを割いていたせいで、竜崎に、結局告白券の効果を消す方法を聞き忘れてしまっていたことに、気づかなかったのであった。