タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?―   作:すうどんたくろう

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3-3-6 「人がどんな服着ようが勝手でしょう?」

 8/3(月)

 

 戸隠さんとランチの日がついに来た。俺が可能な限りのオシャレを尽くし、部屋を出ようとした。すると、珍しく竜崎が「今回は私も同行させてくれ。なに、カバンの中にでも入れておいてくれれば、会話は聞ける。状況をリアルタイムで把握したいんだ。」と言ってきた。竜崎が同行を申し出るときは、数えるほどしかないが、いずれも①怜が同行せず②重要フラグが立つときである。確かに、今日は戸隠さんとの関係が切れるかどうかの瀬戸際だ。最も、俺の覚悟は決まっている。選択肢なんて、ないんだ。

 

 

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 待ち合わせは12時、札幌駅の白いオブジェ(妙夢)の前とした。札幌市民で知らない人はいないんじゃないかと、俺は勝手に思っている。それくらいわかりやすい場所だ。俺は地下鉄を降り、一直線に向かうと、そこには多くの人がいた。考えることは皆同じなんだろう。そしてちょっと探すと、すぐに彼女は見つかった。ノースリーブの地雷系コーデ、まじでぶれねえなあ。近づいていくと、いかにも金を持っていそうな服装や髪形を整えている、小太りのおじさんと話していることが分かった。

 

「ごめん、待たせたかな?」

 

 俺がそう言うと、戸隠さんはぱあっと顔が明るくなった。だが、これは嬉しさからじゃなくて、安心からきているように思えた。

 

「ちょっと兄ちゃん、私が先に彼女と話しているんだ。――――な?金なら出す。これでどうだ?」

 

 そう言って、おじさんは手のひらを広げ、そこに指三本を乗せた。”8”という数字を示しているようだった。

 

「だから何度も言っているじゃないですか。私は()()()()()()してませんって。それにこれから彼とデートなんです。もう関わらないでくれませんか?」

 

 戸隠さんはそういって、俺の後ろに身を隠した。俺の左腕をがっちりホールドし、絶対に離れない、といった意志を感じられた。もちろん彼女のデカパイは感じられたが、若干腕から揺れを感じたことから、彼女の怯えがわかり、不純な気持ちはどこかへ飛んでいった。

 

「――――なんだ、男いんのかよ。ウリしてないくせに紛らわしいカッコしやがって・・・」

 

 おじさんが吐き捨てるその言葉を聞いて、彼女はびくっと震えたあと、腕を組む力が強くなった。確かに戸隠さんの格好は目立つ。けれど、それは好きだからやっていること。その好きを否定されたことへの悲しさと、おじさんの口汚い言葉への恐れが、じんわりと感じ取れた。

 

「――――ちょっと待ってください。」

 

 俺はたまらず、声をあげていた。おじさんは立ち去ろうとしていたが、足を止めてこちらに振り向いた。

 

「何か失礼な勘違いしていたようですが、彼女に謝罪の一つもないんですか?それに――――人がどんな服着ようが勝手でしょう?」

 

 じっと俺は、おじさんをにらみつけた。おじさんはまともに取り合うつもりがないようで、「――――ああそうだね。すまないね嬢ちゃん。」とさらりと言って、すたすたとその場から立ち去っていった。

 

「・・・ごめんね、つい口が出ちゃった。」

「―――――ううん、とっても助かったよ。ありがとう。こういうの、今までも何回かあったけど、いつも一人だったから、結構大変だったんだあ。これからも一緒に出掛けるときは、こうして頼ってもいい?」

「そりゃもちろん、俺でよければ。」

 

 俺はいまだに抱き着いている戸隠さんに向かってそういうと、またぱあっと顔が明るくなった。うん、よかった。これでいいんだ。

 

「・・・でもすごいな、ナンパの現場を初めて目撃してしまった。」

「―――――遼君、うすうす思っていたけど、やっぱ根はピュアだよね。」

「え?」

「知らないくていいことだよー。さ、そろそろいこっか。こっちだよ~。」

 

 彼女は腕を組んだまま、ずんずんと前に進んでいった。俺はそれに引っ張られるようにして後をついていったのだった。

 

 

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 戸隠さんに連れられて行った店は札幌駅から徒歩数分の韓国料理店だった。戸隠さんからは俺はいったことなさそうと考えていたが、まさにその通り。俺はこの店に行ったことはない。この店に行くなら、その隣のラーメン屋にきっと入っているだろう。

 

「絶対隣のラーメン屋入ってるでしょ?」

 

 俺の気持ちが漏れ出ていたのか、戸隠さんは俺の気持ちを見事に言い当てた。俺は組まれていない右手で頭の後ろをぽりぽりと掻いた。

 

「たはは、ばれたか。」

「見てたらわかるよ~今度一緒に行こ?」

「それくらいなら喜んで。」

 

 そうしてまた俺は、しれっと戸隠さんにデートの約束を取り付けられたのだった。店の中に入って、俺はさっそく叔父さんのサイン本を彼女に渡した。戸隠さんは目をキラキラとさせて喜んだ。叔父さんもこんなかわいい子がファンなんて最高にうれしいだろう。

 

 

 で、ここから俺は、一抹の不安を抱き始めたのだった。

 

 

 戸隠さんとのランチ、それ自体は楽しく時間は過ぎていった。その間、告白なんてされることはなかった。こんな人が多いところでするわけはないとは思っていたから、まあ予想の範囲内ではある。で、ランチの後、「ちょっと服を見たいんだ!」というものだから、札駅内のレディース物の服屋に行った。そこでも特に告白らしきことはなかった。そして服を買った後もぶらぶら散策したが、そこでも何も起こらなかった。やがて日も暮れ始めたところで、「そろそろ家に帰るね。今日は家族でディナーに行くんだ。」というものだから、そこで解散する運びとなった。――――最後まで、告白はなかった。

 

 

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 戸隠さんから告白をされなかった、という事実は、俺に重くのしかかってきた。この言葉だけ切り取れば、お前はなんて自信過剰な男なんだ、と静乃あたりから指摘を受けるだろう。だが、この場合における告白は、単なる好意の伝達に収まる話ではない。告白券の効果が作用しているのに、告白券の期間最終日なのに、告白されない、ということは、相手の好感度を規定値まで上げられなかったということ。だから、告白券の期間中における、俺に関する記憶はすべて操作されてしまう。――――おのれのふがいなさが招いた結果だ。自分は戸隠さんに好かれていない。これまで俺に向けてきた好意はまやかしである、という事実を痛感した。――――あんなに楽しそうにしていた過去を、なかったことにしてしまう、その現実をひどくつらく想うのと同時に、そもそも好かれていなかったのだから、”楽しかった過去”と決めつけて勝手に悲しく想うのは、俺のエゴなのではないか、と気づいてしまい、ますます気分が落ち込んだ。俺は戸隠さんと別れてから、駅のホームに向かったが、どうにも気分がやるせなかった。すぐ帰る気にもなれなくて、俺は地下鉄に乗らず、そのまま駅併設の地下歩行空間を歩き、南下していった。ゲーセンで憂さ晴らしする気にもなれず、かといって家にも帰りたくない。――――そうだ、喫茶店にでも入って、ゆっくり心を落ち着けよう。どうせなら、人通りの少ない通りの――――なんて思いながら、俺はバイト先の喫茶店へと足を進めた。

 

 

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「いらっしゃいませ~――――って、国広君じゃない!こんな時間にめずらし~。しかも一人だし。バイト時間間違えちゃった?」

「ああいや、そういうわけじゃないんですけど――――」

「なんなら働いてもいいよ?ホール足りないのは事実だし。こうして店長である私出張るくらいだからさあ。蘇芳君にホール来てもらうわけにもいかないし・・・」

 

 そう言われると、確かに今働くのはありだな、と思った。無心で働けば、勝手に心も落ち着いてくるだろう、との算段だ。

 

「――――じゃあ、ホール入りますよ。三時間くらいちょっくら働きますよ。」

「ほんと?言ってみるもんだね。これで私は別の仕事できるよ~」

 

 店長は目をキラキラさせて手を取って喜んできた。――――有地店長、見てくれは大人の色気抜群なのに、内面は子供の無邪気さが入り混じっているものだから、こういう何気ない仕草にも、いつもならドキリとするのだが、今日はそういう気にはならなかった。

 

「―――――よし、じゃあ裏に回って準備初めて。くれぐれも、粗相のないようにね。」

 

 店長はいつもなら言わない言葉を吐いた。俺はここで働くのはまあまあ経つのにさ・・・

 

 裏に回ると、蘇芳会長がせっせと料理を作っていた。俺が軽く挨拶すると、会長は目を丸くしていったんこちらを見た後、すぐフライパンに目を戻した。

 

「国広君、今日シフトでしたっけ?」

「いえ、そうではないんですけど、ちょっと働きたい気分になって――――」

「ワーカーホリックですね。まあ私は人のことを言えませんが・・・。」

「ほんとですよ、会長はいろいろ働きすぎです。もっと羽伸ばしたらいいんじゃないですか?」

「私の翼はそう簡単には折れないので大丈夫です。」

 

 

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 店長が”粗相をしないように”とくぎを刺してきた理由がよくわかった。明らかに業務に支障をきたしている。無心で働けると思った。けれど、どこかにちくりと、魚の骨が刺さっているかのような居心地の悪さが続き、一度オーダーミスをしてしまった。それでも何とか働きぬいた。店長からは、「――――何があったかわからないけど、逃避は何も生まないよ。」と、暗に仕事にプライベートのもめ事を持ち込むな、と言っているように感じた。俺は着替えた後、休憩室でぼーっとしていた。店長はもう人が少ないから、という理由で、店長ともう一人のキッチン担当の二人で店を回し始めた。ほどなくして会長も休憩室にやってきた。その手には、二人分のコーヒーカップが握られていた。

 

「明らかに集中できていませんでしたよ。何があったんですか?」

 

 会長は俺の前にコーヒーを置き、俺の対面に座った。ずず、とコーヒーを啜ると、しっかり苦みを感じた。やけに濃かった。

 

「濃いでしょう?悩みが少しでも晴れたらなと思いまして。」

「会長・・・なんてお優しい人・・・!―――――でも――――」

 

 言ってしまいたい。けれど言えない。告白券のことは会長は何もわからない。俺のおかれている境遇について知っているのは静乃だけだ。――――会長にありのままのことをしゃべっても・・・

 

「国広君はいま、ちょっと自己嫌悪中なんだ。」

 

 俺がまごついている傍らで、しびれを切らしたのか、第三者が声を発した。竜崎はどうやら、俺が働いている間にカバンの中から這い出ていたらしい。テーブルに置いてあったティッシュ箱の中から飛び出してきた。お前、そんなところに隠れていたのか・・・いくら会長には存在ばれているからといって、ほかにも人がいるだろうに・・・。

 

「――――相変わらず、貴方の存在は理解に苦しみますね・・・科学ってここまで進歩していましたっけ?」

 

 会長は眉間にしわを寄せて竜崎を見たのだった。会長のレア顔・・・!

 

「まあいいじゃないか。国広君の恋のキューピットとしては、この状態はよしとできないんだよね。」

「その設定まだ続いていたんですか・・・。でもまあ、常に自分を好きでいられる人なんていないと思いますよ。私だって、自分の言動で自己嫌悪することだってあります。でも自己嫌悪できることは悪いことじゃないと思います。自分の駄目なところを客観視できている、ということでしょう?そうやって俯瞰してものを見ることができるのは、国広君の強みだと思います。」

「か、会長・・・!」

 

 そうだ、今回の敗因はいろいろわかっている。自覚もしている。大切なのは、次に同じ過ちをしないこと―――――告白券なんて代物を、二度と使ってはいけない。過去は消えない。過去は変えられない。ならせめて、今と未来を変えるんだ。戸隠さんのことは悲しいが、もうどうしようもないじゃないか。

 

「なんか元気が出てきました!ありがとうございます!」

「いえいえ―――――って、こういう役目ってあなたの仕事なんじゃないですか?」

「む、返す言葉もないな・・・」

「もっと人間のことを知った方がいいんじゃないですか?3()()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 竜崎は会長の言っている意味が分からなかったのか、一瞬動きが止まった。

 

「――――いや、何を言っているんだ?遼のもとに来たのは今年からだが・・・」

 

 会長は竜崎を一瞥した後、笑みを浮かべて、

 

「すいません、今のは適当に言いました。それくらいの距離感に感じたものですから。――――にしても、そのロボット?フィギュア?起動日を”来た日”というなんて、結構夢を持たせてくれるんですね。」

 

 そのあと、コーヒーをグイっと飲み干して、カップを手に取り厨房へと戻っていった。俺も後に続いて、コーヒーを飲み干した。強烈な濃さのブラックコーヒーを胃に落とし込む。今日の出来事を整理しよう。何をしてはいけないか、ということはわかった。家についたら、今日までの現状把握をちゃんとやろう。そう決意したのだった。

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