タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
4-1-1 「カレシとデート中だから、ごめんなさいね」
8/5(水)
夏休み真っただ中、俺はバイトをするでもなく、勉強をするでもなく、ゲームしながらごろごろするでもなく、駅のホームに立っている。陰キャの俺には珍しく、これから女の子と二人で出かけるのである。――――――先月から、何かと女の子とのイベントが多かった。最も、多くは告白券に振り回された結果だ。そしてその一件でかなり思い悩んだ。おかげさまで、昨日は何にもしなかった。ひたすら寝てばかりであった。今日に関しても、正直あまり乗り気ではない。というのも、ここ二週間は戸隠さんとのイベントばかりで、そのせいでいろいろ思い悩んでいたのに、今日はまた別の女の子と会うって、手のひらぐるぐるじゃん。節操ないじゃん。あらかじめ決められていた予定でなければ、キャンセルしていたところだ。とはいえ、行くからには楽しみたい思いもある。たとえ、あいつの欲求を満たすための数合わせに過ぎないにしてもだ。
「あれ、やけに気合入った格好してるね」
ハッとして横を見ると、そこにはいつものように瞳の腐った―――――いや、多少はましな瞳をした静乃が腰に手を当て立っていた。オフショルダーの涼しげな衣服、手首にはブレスレット、首にはチョーカー、そしてサングラスを身につけていた。―――――うん、高校生に見えないな。まじでオシャレ着用意してよかった・・・下手な服だと俺が浮く。
「そりゃあ、男女ペアって言葉でごまかしていたけど、ようはこれってカップル割で処?なら、カップルっぽく見せないと変じゃん。静乃の私服ってまじで強い女って感じだし。」
「物分かりがよくて助かるよ。―――――いや、強い女って何?」
静乃はサングラスを取って、こちらを見やった。―――――うん、いつも通りのレイプ目だ。ハイライトがない。でも―――――
「まあそれはいいじゃん。てか、なんかいつもより目も普通じゃね?ウキウキワクワクって感じ?」
「まあ否定はしないよ。」
静乃は肩をすくめてそう行った後、改札へ足を向けた。俺も彼女の背中を追った。
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本心からやるのと、うそをついてやるのとではやはり店員には見分けがつくのだろうか。戸隠さんとの交流で多少は慣れたと思っていたのだが、パーク受付で俺らに対応した若い男性店員は訝しげに俺らを見ていた。静乃をじっと見た後、俺をさげすむように見た。こうも疑われるなんてな。ぴえん。とはいえ、何とか目的のカップル割が通ったので、俺らは目的地であるマッサージルームへと向かうのであった。夏休み故、キッズが多く、クレーンゲームコーナーやプール系のところは混んでいるように見えた。ファミリー層がそちらに流れたせいか、店内は比較的すいていた。それでも、ある程度埋まっているあたり、流石全国展開する巨大施設であると思ったのだった。静乃はさっさと受付を済ませ、マッサージルームへと入っていった。俺はここで別れてゲームコーナーへ向かってもよかったのだが、カップル割のおかげで安くなっていることだし、あのだるがりの静乃の心をここまで動かすマッサージへの単純な好奇心から、俺も試してみることにした。もちろん男性と女性は別室に分かれており、俺は受付を済ませるとマッサージ用の衣服に着替え、寝台に横になった。現れた男性の言われるがまま、なすがまま俺はゆったりとマッサージを受けた。
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「静乃があんなに夢中になる理由がわかったよ。」
マッサージ後、俺は静乃と施設内のカフェでお茶していた。いやはや、本当に気持ちがよかった。俺には肩こりなどの蓄積している肉体的疲労なんてないと思っていたが、終わってみると意外や意外、体が想定以上に軽いのである。
「ぼくも大変満足できた。週1で受けたいくらいだよ。」
「でもそうすると、マッサージ受け終わるたびにナンパされるんだろうな。今日は俺がいたことに感謝して?」
「はは、ぼくも彼氏作って毎回協力してもらおうかな。ま、今のところその予定はないんだけど――――――――」
静乃はそういって、コーヒーをすすった。日ごろの疲れが取れるとともに、瞳の濁りも取れたように見えた。彼女はスタイルもよく、顔もよい。本来モテモテであるべきなのに、陰鬱な雰囲気と腐った魚のような眼で中和され、その辺の女子と変わりないポジションにいる。しかし今、マッサージを受けたことにより陰鬱な雰囲気が薄れ、眼もましになっている。モテない原因が消えたのだ。実際、俺と二人で並んで歩いていたのにもかかわらず、大学生くらいの好青年にナンパされていた。静乃はとっさに俺の腕を組み「カレシとデート中だから、ごめんなさいね」と言って、もう片方の手をひらひらとさせ、流していた。勿論、彼女のデカパイが急に押し付けられたのだから、俺は俺でドキドキしていた。色仕掛けに弱すぎだわ。俺。プールの時といい、ほんとこいつは眼さえなんとかなればモテるんだな。そう再認識させられた。―――――そう思えば、認識すればするほど、『彼氏でも作って』、と発した静乃の言葉が、小骨がのどに刺さったかのような気分に俺をさせた。―――――これは彼女への疑惑からくるものだ。なんで今まで彼氏作っていなかったんだ?今の静乃を見る限り、やろうと思えばできるだろうに。俺はコーヒーを飲みながら、アーケードの方をぼんやりと眺めていた。決して、今の静乃を直視するのが照れ臭かったわけではない。
「でもまあ、今日は来てくれてありがとう。助かった。」
柄にもないことを言われ、俺はハッとして彼女のほうを見た。彼女はカップに手を添えて、ぼんやりとコーヒーの揺れる波面を見ているように見えた。自然と出た言葉なのだろう。俺の驚いた目と目が合う。そして自分の言った言葉に気が付いたのか、すぐ目をそらして、手を頭の裏にあて
「いやあ、疲れとともに毒気も抜けたのかな。今のは失言だった。きにしないでほしい。」
明らかに照れ臭そうにする彼女を見ると、俺も照れ臭くなってしまった。こんな表情初めて見た。これはあれだな。雰囲気に流されているんだな。でも確かに、マッサージ終わってからはいつものいじりは全くなかった。地下鉄内でもマッサージ前までもずっと詰ってきたのに・・・
「―――――ここのマッサージはお前をこんなに変えてしまうのか。これは毎週行けば心も体も清らかな女性に慣れるに違いないな。俺も気に入ったし、来週もまた行く?」
「あれ、今度はぼくが誘われてしまった―――――でもま、時間が合えばいいよ。カップル割使えば超安価で行けるしね。」
こうして俺たちは来週再びここに来る約束をしたのだった。これで俺は戸隠さんとのお出かけ含め、二人の女性と約束をしてしまった。―――――いや、これは俺にとっても実利がある。静乃と同じで、格安でマッサージを受けたいから、しょうがないのだ、と信じ込んだ。――――――どうしてそんなことをする必要があるんだ?と、自問したが、解を出す前にその問いを心の奥底に押し込めたのだった。