タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
朝から幸せなことばかり。目覚めもよかったし、ハーブティーを飲みながらの朝の勉強もはかどった。メイクもばっちり決まったし、本屋さんでは目当てのレア本も買えた。そして何より、遼君に偶然会えた。遼君から教えてもらったハンバーグ屋はとてもおいしかった。―――――なんでだろう。東京で会ったときよりもずっと遼君のことが素敵に見える。好きな人に偶然会えて、会うだけじゃなくて一緒にご飯もいけて、そんな幸せ絶頂の真っただ中にいるはずなのに、客観的に自己を見つめるもう一人の自分は、どこか冷めていた。
――――自分の行動が、見えない何かに操られた結果のように錯覚する。
――――この幸せな感情は、本当に自分のもの?
転校初日、学校で生徒手帳を拾って、名前を知って、東京でお茶した彼の顔を再び見た時から、何かがおかしくなっている。遼君を人前であんなに困らせるつもりもなかった。同級生の前で牽制するつもりもなかった。―――――告白だって・・・。―――――東京でお茶したときにはなかった違和感―――札幌に移ってからは、ずっと自由意思に、何者かが介入してるような違和感を覚える。これはいったい―――――
「ねえどう思う刹那ちゃん!」
「――――ただの恋煩いでは?」
私は、会長のバイト先の喫茶店で、ひたすらに桜子のコイバナを聞き続けていたのだった。
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桜子からオシャレカフェ行こ!ってメッセージが来たのは今朝。私は特にやることもなかったから、快く返事をした。それで、どこに行くかちょっと考えた結果、そういや会長のいるカフェをまだ教えてなかったな、と思い出したので、こうして連れてきた。ちなみに、会長が今日出勤かどうかは把握していない。聞けば教えてくれるだろうけど、別に会長に会うことが目的ではないので・・・。まあ、正直ちょっとは期待している。あわゆくば、という気持ちがないと言ったらうそになる。で、店前まで来て、遼君もここで働いていることを思い出したのだった。まあ、長い夏休みだし、時間も時間だし、いない可能性のほうが高いよなあって思っていたんだけど・・・
「りょ、遼君!?ここで働いてたの!?いってよ刹那ちゃん、そういった重要情報は先にさあ~~!」
「会長が直々に料理を運んでくださるなんて・・・!はわ~~♡」
二人して知能がすっかり下がってしまっていたのだった。
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で、ひとしきり盛り上がった後、私はコーヒー、桜子は紅茶をゆっくりと嗜んだことで、クールダウンした。そうして、冴えた頭で桜子はコイバナを始める。―――冒頭に至るわけだ。
「――――あれこれ悩むくらいなら、いっそデートに誘ったらいいんじゃないですか?」
いい加減じれったくなってしまって、私はそうぶっちゃけてみると、桜子は大きなため息を吐いて、紅茶をずずっと啜った。
「それは本当にそうなんだよねえ。失敗したなあ。月曜日にご飯行った時にまた行こうって約束したんだけど、日取りまで決められなかったんだよね。ここ数日はバタバタしてて連絡できてなくてさー。期間開いちゃったから連絡するのもちょっと気が引けて・・・」
桜子は髪の毛の毛先をくるくると巻いては解いてを繰り返していた。煮え切らない態度をまだまだ続けていた。
「なら、ちょうど本人居ますし、聞いてみたらどうですか?」
「それ思ったんだけどさ~あ~・・・お仕事中に引き留めるのは・・・」
「ここのカフェってわりと融通きくから、聞くだけ聞いてみましょうか。」
そういって私はあたりを見回した。時刻は午後3時半、すっかり落ち着いていた。ホールスタッフも遼君と副店長の山吹さんの2人だけではあったが、ほかのお客は読書や仕事をしているようで、追加オーダーをするようなそぶりはなさそうだった。私は遼君と目配せして、こちらの卓に呼んだ。
「どうした?注文?」
「いや注文じゃないです。ですよね?」
私は桜子に問いかけた。彼女は手をわたわたとさせたのち、手を胸に当てて深呼吸をしてから、キッと遼君のほうを見た。一々しぐさが可愛いなあと、同性ながら思った。
「―――――月曜の話、覚えてる?」
桜子がそう尋ねると、遼君は手を顎に当てて思案するそぶりを見せた。数秒後、
「月曜―――――ああ、ラーメン屋行こうって話してたな。そういや日取りを決めてなかったか。いつにする?」
次のご飯の約束ってラーメン屋行くって話だったんですね・・・。いったいどういういきさつでこうなったのか・・・
「そうだねえ・・・12日はどうかな?明日は家族の用事が入っちゃって厳しくてさ。」
「じゅ、12日はちょっと俺が難しいかな―――――」
遼君にしては珍しくばつの悪そうな顔をした。中学時代から彼を見ていますが、なにかを断る時、正当な理由がある時はいつもからっとっした表情をしていた。何か後ろめたいことがある時は、苦い顔をしていた。今回の顔は、後者だ。
「あれ、バイトのシフト入ってましたか?」
私はちょっと不審に思って、もっともらしそうな質問を問いかけてみた。
「遼君はその日シフト入っていないよ~」
すると、どこから話を聞いていたのか、副店長の山吹さんが話に割り込んできた。
「や、山吹さん・・・」
遼君はもっとばつの悪そうな顔をした。
「へえ、じゃあ家族の用事ってことですか?」
「――――まあそんな感じっすな。なんで、10日はどうかな?」
――――この感じ、たぶん嘘をついている。しかも、桜子に対して後ろめたさを感じる嘘を。と、いうことは・・・
「えっとね・・・うん、問題なさそう―――――だけど、その日ちょっとお父さんのところに寄る必要あるから、帰りに北大寄ってもいい?」
「場所近いし問題なし。俺もちゃんと入ったことなかったし、いいよ。」
「じゃ、また集合時間とかは連絡するね~!―――――てかごめんね、呼び止めちゃって。もうお仕事戻っても大丈夫だよ。」
桜子の言葉を聞いて、遼君はそそくさとこの場を後にした。多分、さっさと離れたかったんだろうなあ。遼君がいったんキッチンに戻ったのを確認してから、桜子は大きく深呼吸したのだった。
「よかった~断られたらどうしようかと思ったよう。」
「―――――遼君は基本暇な人ですからね。そんな心配は杞憂と思いますが・・・」
「それはわかってるよ。わかってても、心配なものは心配なの!刹那ちゃんだってハム君から拒否られたらいやでしょ?そんなことないんだろうけどさー」
思わぬ流れ弾が飛んできて、思わず手に持っていたコーヒーカップを落としそうになった。
「――――――なんであの人が出てくるんですか?」
「またまた~とぼけちゃって・・・」
ニマニマと笑う桜子、自分が安全圏にいるとわかり、無敵の人となっていた。私はこの件については徹底的にあしらった。そして、うやむやにした後店を後にして解散したのだった。
・・・さて、遼君はおそらく別の女の子とデートが入っているのだろう。部活の用事なら、あんな顔はしない。怜とのデートも――――たぶんないかな。遼君は彼女のことを何にも思っていない気がする。遼君が意識しそうな相手となると、容姿端麗な会長か、幼馴染の静乃―――――――まあ、確かめることはやめておこう。野暮なことは、慎んでおいたほうが、巡り巡って、自分のためになりそうなので・・・。