タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
8/12(水)
また静乃とパークへ行く日が来た。連日でかけてばかり、楽しいことばかりで幸せなことだが、体力はしっかりと消費されている。特に一昨日の戸隠さんとのラーメン&北大観光はなかなか骨が折れた。戸隠さんの父親へのおつかいに同行した後、教授の父親から同じ研究室の中国人ポスドクへと別のお使いを頼まれた。そのポスドクがなかなか強烈だった。どこかのタイミングで誰かに話したいと強く思った。ただ、今日ではない。これは伊藤とかそういったバカやれる相手に話したいんだ。なお、竜崎にはもちろん話している。竜崎はずっと怪訝そうな顔をしていた。そんなに俺の話が怪しいかよ、と思ったのだった。で、今日のおでかけについては、竜崎はやることがあるとかで同行しなかった。一昨日も来なかった。正直、ここ数日のやつはよくわからん。怜は連絡すらよこしてこない。この件について、竜崎が言うには、彼女は調べ物で忙しいとのことらしい。なので、今日も俺単独でお出かけだ。今回も駅で待ち合わせ。集合時間の10分前には着いていようと家を出、駅へ向かって歩いていると、その道中で静乃とバッティングした。
「・・・おはよう。こんなところで会うつもりはなかったんだけど・・・」
少々バツが悪そうに俺を見る。その瞳は、あまり濁っておらず、普通の女性の瞳に見えた。俺は思わず彼女から目を逸らしてしまった。
「どうせこうなると思ったさ。まあ行こうぜ。」
俺は彼女に動揺を悟られないよう、急いで横に並び、歩き始めた。顔を見られないように…
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「あれ、もしかして萩原先輩ですか?」
パークのある最寄り駅で降り、目的地へと向かう途中、静乃を呼ぶ誰かの声が聞こえた。反射的に振り返ると、いわゆるユニセックスファッションに身を包んだ人が―――――あれ?確か、同じ学校の生徒会1年・・・神前じゃないか?こいつって一人だとこんなファッションなのか・・・いや似合ってるけども。
「――――いや、人違いじゃないかな。」
なぜか嘘をつき、首をかしげる静乃。そんな彼女を、彼はにやけながら見ていた。真顔でちょけてくるやつだとは思っていたけど、こんな表情もするのか・・・。
「へえ、自分のこと知らないフリですか?いいんですよ、あの事を言っても」
「おやおやドラム君、こんな所で奇遇だね。一体なんの用事で街中まで来たのかな?」
「露骨ですね・・・」
静乃はやれやれといった顔で神前と話し始めた。――――とりあえず、静乃はこいつに弱みを握られているらしい。一体どんな弱みがあるんだ?どんな関係なんだこいつと静乃は?てかドラム君ってなんだ?―――そうか、生徒会バンドだ。刹那、会長と静乃は仲がいい。そこつながりで知り合いになってもおかしくはない、か。
「まあいいです。で、隣の方は――――国広先輩ですよね?」
「あれ、俺のこと覚えてたんだ。プールでも数えるほどしか喋ってないからわからないかと思った。」
「さすがに一緒に行った人を忘れたりはしませんよ・・・」
「そりゃそうか――――って、おいちょっと待てい、じゃあなんで知らない体で俺の名前を聞いてきたんだよ???」
「というか、そんなことより、もしかしてお邪魔でしたか?デートの最中ですよね?」
神前は俺のツッコミをガン無視して話を続けてきた。半分本気、半分からかいが混じった顔で俺らを見ていた。否定しようと口を出そうとしたら、タッチの差で
「いやいや、そんなんじゃないよ。―――――じゃないよね?」
いや静乃さん、なんで疑問形なの?自信持って否定してよ。照れちゃうだろ。俺は突然の静乃の奇行に挙動不審になったが、静乃は悪意に満ちたにやけ顔をこちらに向けていた。完全に手の上で転がされている。
「あークソ面白い顔見れた。デートなわけじゃないよ。あそこのパークのマッサージがかなりいいんだけど、正規料金だと厳しいから、こいつを利用して割り引いてもらってるってだけ。」
「そ、そうそう。俺に彼女なんているわけないじゃん!デートなんて・・・はは!俺は静乃の犬だからさ!」
客観的に見ればデートなんだが、それを自分の口から認めてしまうのは気恥ずかしくて、俺は焦って静乃に同調した。そうして気恥ずかしさを紛らわせるために、いつものようにアホみたいなことを言ってしまった。そういう意味では、俺の内面は怜が来てから成長していないのかもしれないな、と、そんな考えが頭をよぎったのだった。
「犬を自称するなら首輪とリードを準備しなよ。手を地面につけろ。そこまでして、初めて犬を自称しな。最も、ぼくはこんな犬いらないけど。」
「・・・(´;ω;`)」
俺が静乃と漫才している間、神前は手を顎に当て何か考えているようだった。――――え?何を考えてるの?まさか本気で犬だと思ってる???
「まあいいです。ではまたどこかのタイミングでよろしくお願いします。デート、楽しんできてください。それでは〜」
置き土産を残して彼は去っていった。――――神前は、意外と表情を表に出すんだな。でも前見た時のようなクールさは損なっていなかった。クソガキ系キャラなのか?こっちが本性なのだろうか?
「まあとりあえずいこうか。」
静乃はやや早足で歩く。俺はその半歩後ろついていった。静乃の顔は見えないが、耳を見ると多少赤みを帯びているように見えた。これは照れなのか、それとも暑さにやられてるだけなのか、俺には確かめるすべはなかった。
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パークに到達して、受付店員にカップル割を使いたいことを言った。店員は「先週もいらしてましたね。ありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。」と対応した。俺ら、覚えられていた・・・俺は全く覚えてないけど・・・。俺もバイト先の常連くらいは覚えているけど、一回かそこらしか見ていない客なんて覚えてらんないぞ。この店員はすごい――――いや待て、この店員俺を見てないぞ?静乃の方しか――――そうか、あいつの見た目が強烈だったから覚えてただけか。この店員が先週も受付対応していたとなると、そりゃ覚えもするか。フツメン(自称)がこいつの恋人役だったのを不審がっていたからな。
「前回SNSに投稿されたと思いますが、今回もよろしくお願いします。」
割引のためのSNS投稿は静乃にすべて任せている。――――今思えば、俺は奴のSNSを知らない。やってはいるんだろうが、どんな投稿をするのだろうか。
「そういや、SNSは何に上げてるの?」
先ほどふと思った疑問を静乃に聞いたら、
「ん?ああ、大丈夫。捨て垢作ってカップル共同垢って事にして、そこに上げたから知り合いには知られてないはずだよ。そもそも鍵垢だし。店員はそこまで確認してなかったからね。」
とのこと。微妙に回答になっていなかったが・・・。
「なるほど。てかカップル共同垢なんてあんのか。今の時代はどうなっているんだ。なあ、俺もその垢見ていい?」
「ダメ。」
ま、わかってはいた。
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マッサージを受けた後、前回とは違い今回はゲームコーナーに向かった。今回はマッサージ行くだけじゃなんか物足りなかったから、俺から提案した。めんどくさがりの静乃がこの誘いを断らなかったのは、彼女の中にも物足りなさがあったからなのだろうか。それとも単なる気まぐれなのだろうか。
静乃は俺と一緒に体感型ゲームで遊ぶよりも、俺一人のプレイングが見たいとのことだった。なので、俺は普通の格ゲーを選択した。FLDは基本2 vs 2なので、今回はパスした。彼女はずっと後ろから見ていた。
「おお、また勝ったね。初心者狩りして楽しいの?」
「いやいや、相手も強いし。てかそれ、俺じゃなくて相手を煽ってる事になるからな?また俺なんかやっちゃいました?的な?」
「は?」
「――――なんかすんません。」
静乃は対戦が終わるたびに俺に話しかけて来た。煽りもあれば、純粋な質問もあって、彼女なりに楽しみを見出しているんだなあと感じた。ただまあ、このゲームは連勝すれば次回の対戦も無料でやれる。連続で勝ち続けているため、かなり長い時間楽しめているが、静乃はどうだろうか。そろそろ飽きてきてるんじゃないかと思って後ろを見たら―――――。
「ねえ、ちょっと最後はぼくにやらせてくれない?」
静乃はそんなことを提案してきた。今、俺のアカウントを使ってるから、負けたらレートは間違いなく下がる。だから本音は嫌だが、それを言うのは野暮だってことは流石にわかる。なので、俺は立ち上がって席を空けた。
「やりかたわかるか?」
「操作は後ろで見て何となくわかったよ。」
静乃は俺の開けた席に座った。そうして、初めて後ろを見ると、順番待ち以外にギャラリーがいるのがわかった。・・・なんでだ?確かに連勝はしているが、たまたま相手が初心者だからうまく見えてるだけで、実力はそんなんでもないぞ?――――まあいい、今は静乃のプレイを見よう。彼女は確かにキャラを動かすことはできていた。けれどやはり経験の差というか、案の定負けてしまった。それでも、敵の体力の半分弱を削ったのは健闘だろう。
「うーん、負けたけど楽しかったかな。会長の気持ちもちょっとわかったかも。」
そういって俺に向ける彼女の顔からは、とてもすっきりした表情がみられた。すごく心が晴れやかになった。自分の好きなことが、相手にもわかってもらえるって、気持ちのいいことだな。
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ゲーム後は喫茶店に向かい、お茶した後は家電量販店へ向かった。というのも、静乃が俺のスマホを見かねて「――――スマホカバー変えたら?物を長く使うことが、必ずしも美徳とは限らないんだよ?人からどう見られているか、ということを理解しないと――――いや、理解していないからあんな言動してしまうのか・・・」と煽ってきたからだ。俺はそれに一部納得をしてしまった。俺は今まで、人からどう見られているか、ということを強く意識していない。いや違うか、意識をしてないわけじゃない。けれどそれが自分の言動を変える理由にはなっていなかったってだけか。だから、戸隠さんから好かれているのもいまいち自分で納得ができていないし―――――。で、二人して家電量販店に入り、静乃におすすめされるまま、俺は赤色のカバーを買い、店を出た。いい時間になっていたので帰路につき、駅へ向かった。
自宅の最寄り駅につき、家へと向かう。日は暮れはじめ、影が伸びていることがわかる。今日のことを振り返ってみる。静乃と一緒にマッサージを受けに行き、ゲームしてお茶飲んで電気屋行って帰る。その間他愛もない話をし―――――非常に楽しい時間を過ごせた。静乃はいつものように俺をいじるのは変わらなかったが、詰まらなさそうな表情や曇った表情は見せていなかったから、同じ気持ちであると信じたかった。
「じゃあぼくはこっちなので。」
静乃と俺の家の分かれ道、俺は彼女に手を振って、前へと進んだ。視界の端に静乃がちらりとうつる。振り返ってこちらを見ているように見えた。確認しようと彼女の帰る方向を見ようとしたが、もし俺の勘違いで、逆にそんな俺を彼女がみたら不審がるだろうし、めんどくさくなりそうなのでやめた。――――今までこんなことまで気にしたことはなかった。どうしてこんなことも考えているんだろう。
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遼と別れた後、ふと振り返ってみた。遼を一瞬視界にとらえたが、立ち止まらず進んでいたので、すぐ見えなくなった。なんでぼくはこんなことをしたんだろう。自分のした行動の理由がわからない。無意識であった。今も昔も腐れ縁、友達のまま。ただ最近ちょっと話す機会が多いから、変に勘違いしているだけだ。“そういう”関係になるのは、当分はないだろう。あまり認めたくはないが、遼はいいやつだ。そんないいやつに、腐り果てたぼくをあてがっちゃ、だめだ。