タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
8/13(木)
バイトも休みで、勉強する気にもなれなかったので、こうしてぐうたらリビングに寝転がっている。俺は半袖短パン、有希はパンツルックにノースリーブというなんとも大胆な格好である。なんとはしたないことか。
「ねえ、私が遊びに来ていること、忘れてませんか?どちらもだらしなさすぎじゃ・・・」
柄谷が流石に苦言を呈してきた。――――そう、いつものように有希が柄谷を家に呼んで遊んでいたのだ。最初は俺含め3人でスマブラしてたが、あまりにも暑くて一時間でギブアップし、今に至る。彼女はソファの上でぐでっとしている。こいつもだいぶくつろいでんな~
「いやーほんと、こんな格好は栞ちゃんくらいにしか見せられないな〜」
「――――先輩はいいんですか?」
「あーね、いちいち気遣ってたら私の身が持たないというかめんどいというか、だから、考えないことにしたのさ。誰にでも欲情する変態ならともかく、流石に家族に欲情するような人ではないでしょ。もしそんな人なら、私の下着とかがいつのまにかなくなってたりするわけだし?けど、そんなこと今までなかったから、きっと大丈夫。」
「有希、俺の特性をわかっているじゃあないか。えらいぞ、褒めてやろう。」
ナデナデでもしてやろうかと思ったが、そんなことすると有希は本気で嫌がるだろうし、何より暑すぎることによって何もかもが面倒臭く思え、結局声だけ飛ばした。
「でもな有希、おぱんちゅ様が見えてるのは感心しないぞ。」
「死ね。―――――セクハラ罪だよ。兄さん、アイス買ってきて。」
「いいですね!私、ハーゲンダッツで妥協しますよ。」
なぜ俺がおごる前提で話が進んでいるのか。それになぜ柄谷は奢られる身なのにこんなに上から目線なのか。しかもハーゲンダッツってなにも妥協じゃないじゃん!いろいろ思うことはあったのだが、今の俺が何を言っても無駄だろうし、暑いし、面倒くさいし・・・
「―――――一応、柄谷は客だしな、行ってやろう。可愛い後輩のためだ――――」
「とりあえずお礼言っておきます。ありがとうございます。」
俺の軽口を柄谷はさらりと流した。いつもなら「か、可愛いだなんて・・・!」とか言ってくれそうなもんだが、当てが外れた。なんもかんも気温が悪い。
「言ってやろうって何?罪状わかってる?きびきび歩きなさい!」
有希は俺を眼で殺してくるかと思うくらいの眼光を見せつけてきた。だが、俺はぬるりと立ち上がり、リビングを出た。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
コンビニは歩いて10分弱の所にある。雲ひとつない空から太陽光が届き、加えてアスファルトでその光を反射させ、溶けそうなほど外は暑かった。いくらめんどくさいとはいえ、こんな灼熱地獄にいたら茹で上がってしまう。初めてめんどくさいから何とかしたいという気持ちが上回り、ここから抜け出したい一心で、俺は駆け出し、結局5分で着いた。コンビニ内は冷房がガンガンかかっていて、かいた汗が急激に冷やされたから、むしろ寒いくらいであった。アイス売り場に向かうと、そこには見慣れた人がいた。その人は俺に気がつくと、「まさかこんなところであうとは」、と嫌そうな顔をしながらこちらに話しかけてきた。
「そのセリフは昨日も言われたんだよなあ静乃さんよ。」
昨日のきれいな恰好とはうって変わって、静乃はTシャツにジーンズという究極にリラックスした格好であった。・・・・・・こんなラフな格好も初めてみたゾ。Tシャツパツパツじゃん。どえっちすぎる。――――いや、冷静になれ俺。流石にこれはキモ過ぎる。脳みそがチンポになっちまってる。冷静になるんだ!静乃をみやると、彼女はアイスケースに視線を向けていた。右手を唇に当て、左手は右ひじに当て、唸りながらアイスを選別しているその様は、まるでケーキ好きの女の子がどのケーキにしようか目をキラキラさせて眺めている構図によく似ていた。まあ奴の場合目は腐り切って――――――――いなくもない!?昨日の今日だからましになっていた!でもやっぱり普通の人と比べたら、ハイライトないよなあ。―――――目はさておき、表情のそれ自体は悪くなかった。なんてことを思うくらい、彼女をじっと見ていた自分に気づいた。無意識の行動であった。―――――そして、そんなにジロジロ見られると、奴も気づくのである。静乃は再びこちらに向き合った。
「・・・なんかぼく、おもしろいことしてた?」
「いや、なんでもない。ぼうっとしてただけだよ。」
そういって誤魔化し、俺もアイス選びをすることにした。なんで俺はまんじりと彼女を見ていたのだろうと思いつつ。
静乃は何を買うのか決めたのか、アイスケースの引き戸を開けて、一個、二個、三個と――――
「って、随分買うのな。」
「ん?ああ、親戚来てるからその分買おうと思ってさ。ほら、お盆でしょ?墓参りから戻ってきて、いっぱい人がいるのさ。」
「あーなるほど。てかもう終わったの?お墓ってこの辺なの?」
「そうだね。午前に行って昼に戻ってきたんだ。せわしなくて仕方ないよ。親もぼくをパシリにつかうんじゃなくて・・・・・・いやいいやこれは。」
静乃はそれで話を打ち切った。特に気になりもしなかったから、その後は別の話題に移り、自分、有希、柄谷、叔父さんの分を買って――――さらに一つ買った。
てかお盆か。もうすぐ俺の両親もイギリスから帰ってくるんだよな。直前になっても連絡よこしてこないけど、ほんとに帰ってくるのかね。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
二人してコンビニから出た時、むわぁと太陽が俺らを溶かしにかかってきた。二人して大きなため息をついた。そこで俺は、一つ多く買ったアイスをコンビニ袋から取り出して、開けた。
「お前、家に着くまで用のアイスとか買ってないの?」
「え?なにそれ、考えたこともなかったよ。」
「と思って、ほれ。」
俺は自分のアイスの半分を静乃に差し出した。
「いいの?」
「パピコは二人で食べるものだからさ。」
「――――くれるのなら、ありがたくもらっておく。――――ありがとね。」
そういって静乃は微笑して、とてとてと走って帰っていった。―――――俺が知る限り、あんな表情の静乃は見たことがなかった。握ったパピコの先からアイスがこぼれていたことさえ、俺は気づかないほどの、衝撃だった。
◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎
「もうけものをしたなあ。」
遼のやつ、なかなかやるじゃん。ぼくはパピコの先端をちぎり、コーヒー味のアイスを口に流し込んだ。
「あーおいし。」
まさか夏休み入ってもこんなにあいつと会うとはね・・・・・・。ここ最近の頻度はすごい。先週も昨日もあってるし・・・。
「って、早く行かなきゃ。」
ぼくは片手にレジ袋を持ちつつ片手にパピコを持って、急いで家に向かった。ぼやぼやしてたらアイスが溶けてしまう。―――――――なるほど、パピコなら溶けても心配ないのか。気が利くじゃないか。
「本当、ありがとね。」
自分の中の遼の存在が、少しずつ大きくなってきているのを感じる。小学校や中学校と比べても・・・いったいどこから、変わってきたのかな。けれど、ただそれだけ。”ぼく”は、まだ過去と決別をできていないから、すべて終わるまでは―――――