タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
8/13(木) ~静乃視点~
先日は遼と出かけ、今日の晩は会長たちと学園祭バンドの練習――――だけれども、その前にやる事がある。今はお盆。先祖の墓参りだ。萩原家の墓は家の近くにあるため、墓参りは午前中に終わる。昼はトリトンで寿司を頼み、家に持ち帰って親戚含め一同で食べるのが恒例となっている。ぼくの母と伯母はとても仲が良く、墓参りも一緒にいく。そして数年前からぼくの伯母の娘―――従姉が結婚したから、今は義理の兄も交えての行事となっていた。
「それにしても静乃ちゃん、かなり雰囲気明るくなったね。」
アイスを買いにコンビニから戻ってきた後、義理の兄はぼくにそんなことを言ってきた。――――実はその話題、今日が3回目である。朝に伯母、次に出張先から墓地に直行してきたぼくの従姉、そして今。
「―――――気のせいですよ」
まあでも、言われて悪い気はしない。しないけど、こうも繰り返されるとうざったくもなる。
「お義兄さんは相変わらずお変わりないですね。ああでも、今はとても幸せそうに見えます。となりに美人な奥さんがいるからですかね?幸せなことですねぇ」
「そうだな。幸せなことだ。数年前の自分に教えてあげたい。今お前は不幸に塗れた生活をしているが、数年後はとっても幸せになっているよってね。」
「もう、なかなか恥ずかしいことを言うじゃないですか。」
従姉は困ったようにそうツッコミを入れていた。顔は特に赤らめていない。というのも、こんなやりとりはもう何度もしているので、慣れてしまったのだろう。
「―――――ごちそうさまです。」
微笑む義兄を見て、思わず目をそらしてしまった。いつもなら冷笑してあしらっていたのだが、今日はそれができなかった。従姉夫婦は間違いなく幸せをつかんでいる。それを少し、羨ましく思ってしまったのだろうか・・・。
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「久しぶり静乃ちゃ―――――あれ!?なんかいつもの5倍くらい爽やかオーラ出てる!」
夜、バンド練習で会長たち行きつけのスタジオに入った。なぜこんな場所を、格安で使用できているのかを以前尋ねたことがあった。どうやら、宮永先輩の兄経由らしかった。宮永先輩の兄も音楽をやっていて、バンド活動もしていたらしい。そのメンバー内にスタジオ経営している強い仲間がいたのだが、なんと宮永先輩の作曲家名義、”火竜”のファンになっていたんだとさ。で、仲間の妹が好きなアーティストだとわかると、応援もかねて、格安で貸し出してくれるようになったんだと。なんとまあ、ストーリーの濃いことだと、感じたのだった。
中に入ると、すでに準備していた宮永先輩がそこにいた。プール以来会えてなかったので、本当に久しぶりなわけだが、宮永先輩は変わりなくとても元気であった。そして開口一番のセリフがこれである。今日4回目だ。また、神前と会長も既に準備万端。ぼくが最後の到着だ。
「―――――気のせいじゃないですか?」
「いやいや、瞳の輝きが全然違うよ!ねえ結衣に神前?」
宮永先輩は神前と会長に質問を投げかける。神前と会長はニヤつきながらこちらを見た。―――――百歩譲って神前は昨日出くわしてしまったからわかる。けれど蘇芳会長はなぜだ?
「昨日男の人と出かけてからじゃないですかね?」
神前は一言余計なことを漏らした。いや、漏らしたという表現は不適切か。ばらしたといった方がいい。悪意が混じっているぞ、こいつ。
「マ?静乃ちゃんやるねえ!相手は誰?同じ学校の人?やだなあもう隠さなくてもいいじゃんねぇ!」
興味津々、目をキラキラさせてこちらに話しかけてくる宮永先輩。そんな目でぼくを見ないで欲しい・・・。
「まあ男と一緒にいたのは否定しません。けれど、ぼくが元気に見えるのはそいつのおかげではないですね。間違いなく。―――――あのアミューズメントパークのマッサージを受けにいったんですよ。すごく良かったんではまっちゃいましてね。」
「なんてこといってますけど、昨日自分がばったり出くわした時はなかなか楽しそうにしてましたよ。国広先輩と。」
神前はまたしても余計な一言を付け加えていた。けれど、遼のことをよく知る宮永先輩は、遼の名前が出た瞬間、一気にテンションが落ちていくのが、傍から見ていてもわかった。
「―――――なんだ国広か。ならまあ・・・そうねぇ・・・腐れ縁の国広には可能性はないね。大方互いの利益のために止むを得ずといったところだろうねえ。」
ぼくは首を縦に振った。なんだあ、と宮永先輩は納得した。
「――――そうなのですか?」
「うん。だって小学生からのつるみでしょ?もしそんな中なら今頃とっくにくっついてるだろうし。けどそうじゃないならいい友達なままだろうねえ。あとあいつは気持ち悪いからないでしょ。ないない。いいやつだけどね。」
「はいはい、無駄口たたいてないでさっさとやりますよ。龍華、いいですか?静乃さんも迷惑でしょうし。」
会長はにやつきながらもフォローに入ってくれた。――――なんで、会長は思わせぶりな態度をしてるんだろう。わからないけど、これ以上掘り起こしたくはないから、ほっておいた。ぼくはケースからベースを取り出した。ちょっと乱暴にケースを置いてしまったからか、大きな音が出てしまった。いつもならこんなことないのに、どうして・・・・・・
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今回学園祭でやるのは新曲三曲。一曲はぼくが作詞、残りは宮永先輩、蘇芳先輩が作詞をやる。宮永先輩の作曲家としての才能は本物だと思う。既に2曲、ほぼほぼ出来上がっていた。ジャンルはEDMとロック。打ち込みで作り、ボカロによるデモボーカルも入っているのを聴かせてもらったが、どちらも普通に投稿してもかなり伸びそうなクオリティだった。学園祭のステージでEDMはかなり挑戦的と最初は思ったが、宮永先輩が言うには「実はバンドでできるように調整してるから大丈夫!足りない音は打ち込みすりゃいけるよ~」とのこと。打ち込みできるってすごいなと思ったのだった。
「――――――神前ドラム上手くない?」
歌なしで一回通しで演奏してみたところ、特に詰まるところもなくこなせてしまった。神前を交えた練習はこれが初めてだ。リズム隊だからすり合わせが特に大変で、しかも宮永先輩のEDM楽曲は変拍子できついはずなのに・・・
「それ、ぼくも思った。ぼくなんてついていくのがやっとなのに・・・」
「まあ、ほかに趣味もないですからね。暇なときは家で電子ドラム叩いているので、そのおかげだと思いますよ。」
「おかげで学園祭バンドも余裕なんですよね。来年以降も存続できそうです。」
会長は相変わらずギターのレベルが高かった。手元だけ映した弾いてみた動画が伸びるのもよくわかる。
「刹那がボーカル兼ギターとして、ほかはどうなるんですか?ドラム君がドラム、朱鳥がベースでしたっけ・・・」
「桜子がピアノできるので、キーボード担当ですかね。後は新人に期待しましょう。最低限その四人がいればまわるので。」
戸隠さん、やっぱりピアノできるんだ。――――この学校来て思ったけど、かなりの人がピアノを弾ける。学歴とピアノ弾ける率はやはり比例するのだなと、最初は恨めしく思ったものだ。
「あれ?林は?」
「――――彼はMCに回した方がいいでしょう。あの性格は貴重ですから。」
丸坊主じゃV系バンドできないからって理由もきっとあるんだろうな、と思ったが、口にするのはやめておいた。
「確かに。しかも彼はV系顔じゃなくてロック顔だし、ちょっと暑苦しすぎ。」
「――――あいつは確かにそうですね。自分も大変よくわかります。顔も行動も暑苦しいんですよね。」
「林、フルボッコじゃん。ちょっと同情しちゃうな・・・」
ぼくは全方位からうざがられている彼に対して、心の中で祈りをささげた。
「―――――ねえ、ちょっとスルーしようか迷ったけど、静乃ちゃんに聞いていいかな?神前と実は仲良かったりする?軽口叩ける間柄っぽいし、ドラム君ってあだ名ついてるし。」
宮永先輩、やはり気づいていた。ぬかりないよなあこの人。
「まあ、ちょっといろいろあって仲良くなったんですよ。ねえ?」
「そうですね。アングラ趣味が同じだったんですよ。」
神前は約束通りぼかしてくれた。言えるわけもないだろう。夜公園で煙草吸ってたら偶然出くわして、神前も嗜んでました、なんて。会長に知られたらとんでもないことだ。
「――――ま、いっか!仲良いことは美しきかな。じゃ、どんどん練習しよっか。・・・てか、ちゃんと決めてなかったけど、今回の曲、ボーカルは全部結衣でいいんだよね?」
「ぼくは全然それでいいですよ。まあ、サイドボーカルくらいならやりますけど。ベースのぼくが担当するのが筋でしょうし。」
「まあ、そうなりますね。私もボーカル頑張ります。」
「ね。今回を機に、私の楽曲の生声版は結衣のボーカルで行こうと思うし、その練習って感じ。結衣歌上手いし、今のところの不安要素は全くなし!じゃ、どんどん合わせていこ!」
そうして、四人での練習が再開した。こういうのも青春だよな、と、しみじみ思ったのだった。――――ぼくはいま、とても充実している。こんな夏休みは、初めてかもしれない、と思ったのだった。