タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
保健室に入り、ベッドに横になって目を閉じてしばらくした後、夕焼けの光が強烈に差し込んできたことがわかった。どうやら俺は、2時間程度寝ていたらしい。慌てて荷物をまとめて帰路に就いた。赤い空の光が、俺の影を伸ばしていく。そうしてやがて、影だかどうだかわからなくなり、溶けていった。昼寝をしても、自分の気持ちが憂鬱なのは変わりがなかった。
―――――いや、いい加減、自分の気持ちから目をそらすのはやめよう。俺は嫌なんだ。静乃が誰かと仲良くすることが。付き合ってもいないのに、独占欲だけがある。俺は彼女が好きなのか?――――いや、それはないだろう。ちょっと一緒に出掛けたからって、ちょっと腐れ縁で過去を知ってるからって、そういう風に思ってしまう、勘違い野郎なだけだ・・・。
家に着くと、リビングには入らずすぐに自室へこもった。アニメもゲームも漫画も何も手がつかない。眠って紛らわそうにも、保健室で寝ていたから、どうにも眠気はやってこない。仕方なく、スマホの電源を切って勉強に打ち込むことにした。頭をひねる数学なら、余計なことを考えずに済むだろう。というか、考えている余裕はないだろう。
どれくらい時間がたったのかわからないが、有希が部屋に入ってきた。
「兄さん、いい加減にしてよ!どれだけ呼んでると思ってるのさ!もうご飯だよ!」
そういわれて、はっと部屋の時計を見る。時刻は8時。もう2時間も立っていた。
「ごめんよ。勉強がはかどっててさ。」
「あれ、そうなんだ。新学期そうそう頑張るね。頑張らなくちゃいけない理由でもあったの?」
そう有希に言われたせいで、忘れていた今日の出来事を思い出してしまった。そうして、しまい込んでいた負の感情が体をめぐる。
「・・・・・・別に何にもないさ。」
俺は部屋を出、リビングへ向かった。夕飯は中華丼であった。ぐちゃぐちゃに餡とご飯を混ぜ、がつがつと掻き込んで食べた。腹いっぱい食べ、風呂に入り、また勉強を再開して、12時ごろようやく眠くなってきたから、布団に入って目をつむった。スマホの電源は切りっぱなしだった。いつもならアラームを設定してから寝るところだが、そんなことは忘れてしまっていた。
8/20(木)
けたたましい音が耳元で鳴らされ、飛び起きる。有希が満面の笑みでブザーを鳴らしていた。休み明け初日は俺が起こしたというのに、二日目からはすっかり平常運転だな。
「・・・めしの時間か。あいよ、今行くよ。」
俺は寝巻きのまま部屋から出た。食卓には一人分のご飯が置かれており、キッチンには二人分の食器が置いてあった。どうやら俺だけ飯を食いそびれたらしい。リビングには堂々と朝の情報番組でなく映画を観ている竜崎がいた。
「竜崎、有希はどうしたの?」
「ああ、彼女ならとっくに出て行ったよ。なんでも朝に用事があるんだってさ。―――――――そうそう、今日は久しぶりに君の学校に行こうと思っていたんだけど、ちょっと野暮用で行けなくなった。」
そういや、学校始まってからはまだ来てなかったな。来たところで正直意味あるのかとは思うけど・・・・・・
「うむ。」
俺は目の前の飯をぺろりと平らげると、洗面所に向かった。顔を洗って、制服に着替えて玄関に向かうと、なぜか竜崎が玄関横の小棚の上に立っていた。
「行ってらっしゃい。」
「・・・見送りなんて、どういう風の吹き回し?」
「ははは、たまにはいいじゃないの。とりあえず今日も頑張るのだぞ!」
竜崎はサムズアップしてきた。・・・この自称神、よくわからんな・・・。
「・・・・・・顔色は悪くない。どうやら、寝て起きたことで、嫌なことは忘れることができた・・・ないしは立ち直ったのかな?」
家を出ると、横の電柱に持たれながら怜がスマホをいじって待っていた。
「おはよう遼。昨日はごめんなさい。」
怜はすぐさま俺に謝ってきた。なんのことだ?もしかして、―――――昨日保健室に行くときアンタ病気にならないでしょとかいったこと?そんなことで?
「別に謝ることじゃなくない?実際、あれは風邪じゃないし。」
「あ、ああー・・・・・・やっぱり。」
「やっぱりって・・・まあいいや。」
そうして気づく。俺はさほど、昨日のことを引き摺っていないようだ。
「まあ、馬鹿は風邪ひかないっていう怜の煽りは、君のおごりが見えて少し不快になったけどね・・・」
「・・・ああなるほど。あなたはそう考えていたのね。てっきり――――――――いや、何でもないわ。とりあえず、学校向かいながら話しましょう。遅刻するかもしれないわ。」
そういわれスマホを見て時間を確認―――――しようとしたら、ホームボタンを押しても反応がない。電源が入ってないことを忘れていた。反射的に俺は左腕につけた腕時計を確認した。
「まあいい、急ぐぞ!」
俺は怜と一緒に早足で駅へと向かった。
静乃と鉢合わせるT字路に入ったが、彼女は見当たらなかった。いつもこの時間帯なら出くわしてもおかしくないのだが、見当たらなかった。昨日のことがあったから、いけなかったことを謝ろうと思ったが・・・まあ、学校ですればいいか。
学校に到着し、教室に向かっている最中、廊下の曲がり角で刹那の後ろ姿が見えた。声をかけようと近寄ったら、だれかと話していることがわかった。丁度死角になっていてだれとしゃべっているのかはわからなかったのだが、まあ謝るだけなら・・・と思い声を掛けたら、なんとそこには―――――
「お、国広じゃあないか。もう体調は大丈夫なのか?」
「遼君、元気そうでよかったです。」
朝からハムと刹那が楽しそうに話している現場に鉢合わせてしまった。――――やっぱもうこれ、確定でしょ。ひと夏のおもひで、経験しちゃったんだな・・・。―――――そうだ、昨日のこと謝らないと。
「行けなくてすまん。」
「いや、きにしなくていい。体調不良は誰にでも起こりうる。国広が元気になったのなら、それでいいさ。」
は、ハム~~~~~!!!!!なんてイケメンな奴なんだ。
「それに、やっぱり国広がいなくても場は回ったぞ。」
は、ハム~~~~~!!!!!それは言わなくていいんだぞ~~~???
「ははは、ハムめ、彼女ができてからすっかり余裕じゃあないか。」
「うむ。」
自信満々に答えるものだから、刹那は目を見開いてハムの肩をたたいた。隠す気ないなこいつら・・・開き直ったのか?
教室に入ると、静乃は突っ伏して寝ていた。昨日の葛藤はだいぶ落ち着いたが、それでも顔を合わせづらかったから、ちょっと安心した。
「おはよう・・・・・・・遼・・・・・・」
伊藤がこちらにゾンビのごとく寄って来る。こいつは変わらないな・・・
「静乃ってずっと寝てんの?」
「萩原?そうだな・・・・・・俺が来た時にはすでにこうだった・・・・・・」
まあ、起きた時に謝ればいいか・・・
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昼休み、日光がうざったいとのことで遮光カーテンが閉められているから外の様子は分からなかったのだが、ふとカーテンを開けて窓の外を見てみると、あたりがものすごく暗かった。(勿論この時間にしては、である)そしてなんと、静乃はまだ眠り続けていた。午前中、マジですべての授業をブッチしている。たくましすぎる。どんだけ昨日疲れたんだ?
「ん?なんだ・・・うおおっ・・・なんて天気っ・・・!暗雲立ち込める・・・・・・何かが起こりそうな予感っ・・・!」
伊藤は溌剌として窓の外を見ていた。ほかのクラスメイトも、窓の近くにワイワイ集まってきた。窓席に近かった俺は、その場を離れた。振り返った時、静乃はその場から動くことなく突っ伏していて。刹那がそれに寄り添っていたのが見えた。
「なあ刹那、なんでそんな静乃寝てんだ?何か知ってる?」
「私が8時にここに来た時には起きてましたよ。なんでも、昨日は眠れなかったみたいですね。」
「・・・眠れないようなことが、まさか起こったのか?」
「眠れないようなことって?」
寝かせてくれなかったんじゃ?なんて思ったけど、んなわけないよな。
「まあそれはそれとして・・・昨日は無難に終わったの?神前は静乃と仲良くなれたの?」
言葉にすると、チクリと胸を刺す。けれど、聞かずにいられなかった。
「うーんどうでしょう。帰りもどこかによることなく解散しましたしね。・・・・・・ああそうそう、一人変な男に絡まれましたね。」
「変な男?」
「ええ。なんか『この料理頼んだはいいけど、アレルギー起こしちゃう食べ物入ってたので、よければもらってくれませんか?まだ手を付けていないので。』とかいって料理を渡してきた人がいたんですよ。不審に思われたくないのか、ご丁寧に自己紹介もしてきて・・・。で、料理渡すとき、私たちの顔―――――特に静乃をじろじろ見てきたので、不振だなと思いまして・・・。料理はハム君が普通に平らげましたけど、彼の体に何も起こりませんでした。」
それは・・・確かに謎だな。なんなんだろう。会長じゃなくて静乃?まあ物珍しい眼光してるけど・・・。
「まあいいや。にしても、こいつ寝すぎやしないか?いくらなんでも4時間も寝てるぞ?」
「そうなんですよね・・・。さすがに私も不安になってきたといいますか、普通にご飯食べたいので、無理やり起こそうかと。」
ゆさゆさと揺さぶるが、起きない。どれだけ眠りが深いんだ・・・
ちょうどその時、刹那の立っている通路を通ろうとした伊藤が、足元に置いてあった運動部のクラスメイトのエナメルバックにつまづき、刹那を押してしまった。そして刹那は静乃を揺さぶっていたもんだからそのまま勢いよく静乃を押し倒してしまった。大きな音がして、周りが静まり返った。
「うわっ・・・!すまん中河っ・・・!」
「ご、ごめん静乃!押し倒すつもりなんて全くなくて・・・あれ?静乃?・・・え?なんでこれでも起きないの・・・?」
刹那の呼びかけには全く応じず、勢いよく隣の机にぶつかったのに痛がる素振りも見せず、そんな姿はさしずめ―――――
「―――――――伊藤、近くにいる先生を呼んできて。今すぐ!」
「お、おうっ!」
伊藤はすぐさま教室を抜け出て行った。周りの生徒もこの事態が異常だとわかると、不穏なざわつきが広がっていった。
「あんまり揺さぶると帰って危険よ。ちょっとどいて!」
怜の叫び声に応じてすぐさま刹那はその場を離れる。怜は静乃の手首に指を当て、脈を測っていた。そのあと、口に手をあて、呼吸の有無を調べた。
「・・・大丈夫、脈はあるわ。呼吸も・・・ある。なのにどうして気絶したままなのかしら・・・。こんなスイッチ切れたみたいに動かなくなるなんて・・・。」
「・・・なあ怜、お前は何かわからないのか?」
人間の人知では到底考え出でぬことでも、神界人なら分かるのではないかと思って聞いてみたけれど、
「わかるわけないじゃない。」
一蹴された。
「私は医者じゃないのよ。仮にそうだったとしても、朝からずっと突っ伏してたんでしょ?朝は起きていたのよね?」
怜は隣にいた刹那に確認をとった。刹那は大きく頷いた。
「ということは、寝ている最中に気を失ったということになるわね。そんなの、情報が少なすぎるわ。寝る前になんらかの兆候があったなら話は別だけど、そういうわけでもないし。」
とまあ、この有様である。
そんな話をしていたちょうどその時、伊藤に連れられて教師である千歳先生と梓先生が駆け込んできた。
「先生!あそこにいます!一向に目を覚まさなくて・・・」
「静乃ちゃ―――萩原さんが!?・・・・・・わかりました。梓先生は救急車を呼んでください。僕は一旦彼女を保健室へ連れて行きます。」
そういうと千歳先生は静乃を抱きかかえて――――――――俗に言うお姫様抱っこをして、そのまま教室を出て行った。
「――――――――――ふう。ええと、あなたたち次の科目は私の現代文だよね?私が戻るまで自習でお願い!私が戻ってきたら授業再開ね!」
そう残して、梓先生も教室を後にした。5時間目の自習時間は、みんな静乃のことが気がかりで、勉強をしてる人など一部しかいなかった。梓先生は戻ってこなかった。
俺は自習時間、ふと昼間の伊藤のセリフを思い出した。
―――暗雲立ち込めるっ・・・・・・何かが起こりそうな予感っ・・・・・・!―――
もしかしたら、水面下ではなにかとんでも無いことが起こっているのかもしれない。俺は外を覗いてみた。そこに広がるのはまるで夜のように真っ黒な空であった。
静乃・・・いったいどうしちまったんだ?何があったんだんだよ・・・・・・?