タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
静乃に関する公式発表は、六時間目に突入しても入ってこなかった。先生の目を盗んでSNSを確認しようかとも思ったが、クラスメイトが「救急車が来たみたい」とか「保健室までお姫様抱っこで運ぶ千歳先生かっこよすぎ」とか噂みたいなものを流しているものだから、スマホをいじる必要がなかった。続報が来たのは帰りのSHR。担任の千歳先生曰く「気を失った理由は判明していないものの、命に別状はない」とのこと。一安心する一方、理由不明の失神というのは、どうにも気味が悪い。早いとこ目を覚ましてくれ。まだ俺は昨日のことを謝ってないんだ。
俺は部活の欠席連絡を部長にするため、スマホをタップした。しかし、まだ電源が切られていたのを完全に忘れていた。電源を入れようとしたが、ちょうど都合よく梓先生が教室の外にいたので、「梓先生ごめん、部長には今日の部活休むって言っといてください!」と伝言を頼むことにした。俺、刹那、怜、伊藤の4人は、千歳先生の運転する車に乗って、静乃が搬送された病院へと向かった。伊藤は「自分が事の発端になってしまったかもしれないから・・・謝りたいんだっ・・・!」とのこと。病院までの車内、いつもせわしないあいつにしては珍しく、終始無言だった。ただ、手を閉じたり開いたり、せわしなさは挙動に出ていた。刹那も怜も、黙ったままだった。千歳先生は「そんなに深刻そうにするなって、きっと大したことないよ。」と俺らを終始落ち着かせようとしてくれていた。やっぱり大人だな、と思ったのだった。俺は俺で、組んだ指の箇所が赤くなっていたのに気づいた。どれほど力を込めていたのだろうか。
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「病院って北大病院か・・・」
俺にとっては、夏休み中に足を踏み入れた場所だ。確かに、北山高校のすぐ近くのでかい病院ってここだけど・・・。千歳先生に連れられて、静乃の病室の前へ来た。
「ここが静乃の病室ですね。」
そう言って刹那は、先陣を切って扉を開けた。どたどたと俺ら学生4人が一斉に教室入りした。千歳先生は、我慢できないようでトイレに駆け込んでいった。途中までかっこいい大人だったのに、締まらないな・・・膀胱もケツも・・・。
中に入ると、ベッドに横たわる静乃とは別で、病室にはたった一人、非常に美しい女性が椅子に座っていて本を読んでいた。柔和な雰囲気を漂わせ、こざっぱりとしたメイクに、少し色素の抜けている髪色、髪の毛の先端がちぢれていて、体のラインがあまり出ないようなノースリーブのワンピースを着ていた。しかし、胸のサイズが規格外で、結局激しく自己主張をしている。彼女がこちらに気づくと、立ち上がって会釈した。顔をあげると目が合った。その目は妖艶さを醸し出していて―――――ってちょっと待て?俺、この人見たことあるぞ???
「―――――常和さん!?!?!?」
俺は思わず大きな声を出してしまい、すぐ口を手で覆った。ここは病室だった。なぜここに?
「――――遼君、数週間ぶりですが、相変わらずお元気ですね。」
「まひろさん。お久しぶりで―――――あれ、遼君?どういうこと?なんでまひろさんと知り合いなの?」
刹那はとてとてと、常和さんに駆け寄ろうとしたところで、違和感に気づいたのか、俺の方へUターンしてきた。
「俺の叔父の仕事相手だったんだって。たまたま家で打ち合わせするときに出会って・・・」
「遼っ・・・お前・・・また女性の知り合い・・・まじでそういう星のもとに生まれてんだな・・・!」
伊藤はマジで悔しそうにしていた。まあ、そういう星のもとに生まれておきながら、特定の相手がいないから、こうして怜がエージェントとして派遣される羽目になっちまってるんだがな・・・。
「――――中河さん!お久しぶりです。いったい何年ぶりでしょうか・・・。」
「・・・あの、失礼ですが、遼の叔父の仕事相手の貴女が、どうして静乃の病室に?」
いまいちピンときていない怜が、常和さんにそう質問した。
「あ、ごめんなさい。確かに、その関係についての説明はまだでしたね。」
「彼女は静乃の従姉の常和まひろさんです。」
常和さんが説明する前に、刹那が解説してしまった。なるほど、静乃のスタイルの良さは遺伝だったのか・・・。ということは、静乃も将来これくらいになる!?!?ドスケベすぎんでしょ―――――いや、こんな時に考えることじゃないだろ!まじで思考がDT過ぎて嫌になるな・・・。俺は勝手に盛り上がって、勝手に落ち込んだ。
「はい、静乃ちゃんの従姉のまひろと言います。静乃ちゃんの両親は共働きで、どちらもいま取り込み中でどうしても外せないようだったので、代わりに来ました。幸い、ワタシの仕事は雑誌編集者で、フレックス制――――働く時間に融通が利くので・・・。」
一同が、なるほど、と頷くのだった。そうしてすぐ、トイレから戻ってきた千歳先生が病室内に入ってきた。
「みんな、萩原さんの容体は――――」
「ああ春樹君、みんなを引率してくれてたんですね。」
常和さんが千歳先生に笑いかけると、千歳先生は硬直してしまった。
「――――まひろさん、いたんですね。」
千歳先生はぽりぽりと頭を掻いた。一同、皆状況がわかっていなかった。そんなあたふたする姿を、常和さんは不思議そうに見ていた。
「・・・あれ?もしかして、とは思っていましたが、生徒さんにはまだ教えていなかったんですね。」
「まあ、聞かれもしていなかったですから・・・」
「――――え?もしかして、まひろさんって千歳先生の奥さんですか?」
刹那が耐えかねて常和さんに聞いていた。
「ええ。そうですよ。――――てっきり生徒には写真か何か見せてばれているものかと思っていました。」
常和さんはクスクスと柔和に笑っていた。・・・千歳先生の奥さん美人過ぎない?どうやって知り合ったんだまじで。――――そういや、高校教員の旦那がいて、いとこが高校生って言っていたな。あれって千歳先生と静乃って意味だったのか。となると、静乃と千歳先生って親族じゃん、なんで黙っていたんだよこいつ・・・。
「千歳先生の嫁・・・・・・めちゃくちゃ美人・・・・・・!どうして教えてくれなかったんですかっ・・・!」
「・・・そういう反応されるからだよ。」
千歳先生は、頭を抱えていた。
「とりあえず、このことは他言無用で頼む。表立って喋ることじゃないからさ。」
「あ、はい。それはもう重々承知です。」
我々は激しく頷いたのだった。
「―――で、紹介が遅れましたが、こちらが静乃ちゃんのクラスメイト達です。国広君と中河さんはもう知ってるから言いとして。伊藤君と榊さんです。」
千歳先生、静乃のことはちゃんづけなんだ・・・と思ってしまった。
「先生・・・普段は萩原のこと静乃ちゃん呼びなんですね・・・・・・!」
この馬鹿アホたれっ・・・!俺がわざわざ黙っていたことをっ・・・!
「――――――フー、伊藤君?君は何のためにここにいるのかな?」
「そ、そうでした・・・」
千歳先生、顔こそ笑ってはいたけど、本心は全く笑っていないんだろうな、というのが声色から分かった。
「ええと、伊藤君たちは静乃ちゃんとどういったつながりなの?」
常和さんが空気を変えようと動いてくれているのか、気を利かせて話題を振ってきた。
「ええと・・・自分がきっかけで、もしかしたら気絶させちゃったかも・・・しれなくて・・・」
「ああ、それなら違うと思いますよ。医者が言うには、目立った外傷はないようで、何かの衝撃で気を失ったわけではないようです。」
伊藤はほっとしたようで、その辺の椅子にゆっくりと座った。
「え?それならどうして気を・・・」
不思議がった怜が、ぽつりとそうつぶやいた。
「そこは医者も不思議に思っているようで、もっと検査しないとわからないと仰っていました。―――――榊さんは・・・」
「ああ、私は今年こちらに転校してきまして、静乃とは仲良くさせてもらってるんですよ。」
「静乃ちゃんが・・・。」
常和さんは、感慨深そうな顔を見せたのだった。どこに思うところがあったんだ?
「刹那ちゃんは中学から、で、国広君は―――――確か静乃ちゃんと同じ小学・・・でしたっけ?」
「ええ、そうです。よくご存知ですね。静乃はなんて僕を紹介したんですか?」
「そうですねぇ・・・からかい甲斐がある、と言っていましたね。もっとも、小学校くらいの話ですが。高校ではいじめ甲斐がある、と言っていました。」
思わず苦笑いしてしまう。奴め、小さい時と比べ、明らかに今は悪意がこもっているぞ・・・。そうして、静乃の方を見やる。本当に、ただ眠っているだけのように見える。苦しそうな寝顔、何てことはなく、むしろ幸せそうな――――――――――――にしてもこいつ、寝顔がかなり綺麗だな。いつも突っ伏して寝てるとこしか見たことないからわからなかったが、こんな風に寝てるとは・・・。んんっ・・・って今声が漏れたな。・・・って、起き上がってきたし・・・え?起き上がった?
みんなも気がついて、各々驚きの声を漏らしていた。
静乃の元に真っ先に駆け寄ったのは刹那だった。
「静乃!目を覚ましたんですね!心配したんですよ全く・・・ずっと眠ってしまっていたなんて・・・。」
まくし立てていう刹那の傍ら、静乃は寝惚け眼を擦っていた。まだ意識が完全に戻っていないんだなあ、と俺は呑気にそんなことを思っていた。瞼がゆっくりと開けられていき、そこで俺は、静乃の身に起こっているある異変に気付いた。
こんな生気の宿った眼・・・つい先日マッサージを受けた時でもここまでではない。あの時は、あくまで濁った水を濾過した程度の鮮度。今のは、化学的に不純物をすべて取り除いた、きれいな蒸留水のような鮮度。こんなの確か、小学生以来じゃ・・・
静乃はあたりをキョロキョロと見渡して、それから自分の頬、額、唇へと手を当てていく。それはさしずめ、何か危ないものに触るかのような手つきで・・・
「・・・って、静乃、さっきから反応ないけど、やっぱりまだどこか悪いの?」
なんてことを聞く怜であったが、それすらも無視する。そして重苦しく開いた口から発せられた言葉に、一同は言葉を失った。
「み、皆さん誰ですか・・・?」
タチの悪い冗談だなあと、俺は思い込もうとした。けれど、先ほどまでのこと、そして今の静乃の様子、それらの異常事態から目をそらすことができなくて、どうしても最悪の結果を思い浮かべてしまう。
「ついさっきまで車の中にいたのに・・・どうしてこんなとこに?ここはどこ?
急に叫び声をあげて、頭を抱えてうずくまって、ぶるぶる震えていた。錯乱状態に陥って、嗚咽をこぼしていた。しだいに過呼吸気味になり、今度は胸を抑えつけていた。
「静乃ちゃん!?」
常和さんが駆け寄り、千歳先生はすぐさまナースコールをした。ほどなくしてナースが駆けつけた。俺たちは一旦病室から出て、ロビーに腰を下ろしていた。静乃の容態が落ち着いたら医師が呼びに来るそうだ。―――――静乃はきっと一種の錯乱状態に陥ってるに違いない。そう前向きに捉えようとするのだが、胸の内に広がる黒い靄をかき消すことはできなかった。
なんだこれは?
何が起こっているんだ?
第4部 完