タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
~結衣視点~
休み明け初日はリハビリ、ということで生徒会業務はお休みだったため、本日から通常営業に戻った。ただ、刹那はこの場にいない。静乃さんが倒れたことで、その容態を確認しに千歳先生に同行しているのだ。
「静乃ちゃんは大丈夫だったのかなあ・・・」
生徒会室で作業をしてる中、桜子がぽつりとつぶやいた。皆PCで作業中だったが、キーボードを弾く指が止まった。事件そのものはみんな把握している。瞬く間に情報は拡散しているのだ。SNSにとある画像が挙げられたことが、原因である。
「千歳センセがお姫様抱っこしてる写真は衝撃的だったぜ。俺も保存しちまった。ただ、SNSに画像を挙げていた人はさすがにもう消したみたいだな。転載もなさそうだ。この学校の民度が高くて安心したぜ。」
そういって朱鳥が私にその画像を見せてきた。いや、私も見ましたから見せなくていいですよ・・・
「千歳先生すっごくかっこよかったですよ!隣のクラスでしたから、偶然生で見れました!」
「これ、みればみるほど安らかな寝顔だよね。苦しそうにしてるわけでもないし。」
カトルは静乃の顔を見てそのように分析した。刹那に話を聞く限りだと、どうやら朝からずっと寝てて、昼休みになっても寝っぱなしで、全く起きる気配がないから、ただ事じゃないと判断して救急車を呼んだ、とのことでした。
「俺も!俺もみたいっス!アスカ先輩、俺にも見せてくださいよ!」
「林は暑苦しいんだよ落ち着け。――――あ、神前もみるか?」
「・・・ええ。」
暑苦しい林を押しのけて、朱鳥は神前の眼前にスマホを見せた。神前はその画像を見ると、普段無表情な彼の顔も少しゆがませているように見えた。―――――昨日の今日ですから、気になりますよね。氷の仮面の下にはふつふつと煮えたぎる熱い思いがあるんでしょう。きっと。
「おおい!なんで俺よりも先に月が見てるんスか!」
「林君、煩いですよ。」
「すいませんでした。」
林は私が少し凄みを見せると一瞬で引き下がるので扱いやすくていいですね。彼には体よく雑用をしていただきたいから、このままでいてくださいね。
「で、容態はどうなんですか?まだ不明?」
私は朱鳥に尋ねた。朱鳥は私の意図をくみ取ってくれたのか、ポケットからスマホを取り出した。
「ちょいっと待ってくれ。中河に聞いて――――」
「いや、ちょっと待ってください。国広君にしておきましょう。」
「え?なんでですか?」
「――――刹那は常識があるので、律義に病院内でスマホの電源を落としています。それに、仮に電源を入れていても、もし最悪なことが起きていた場合、まともに話ができない可能性があります。スピーカーにして電話をかけてください。」
「あー・・・それは一理あるかも。遼君、あんまりこういう時に取り乱さないと思う。」
「よしきた、任せろ。」
そういって朱鳥は即座に電話をかける。そして、机の上にスマホを置いた。
「あいあい朱鳥だけどさぁ、萩原ってどうなった?」
『―――――なあ、これは仮定の話なんだが、もし朱鳥が意識を失って倒れて、しばらくしてから病院で目が覚めた時、俺とか・・・そうだな、生徒会の面々がお見舞いに来てたとするじゃない?その時お前、俺らを見て『あなたたち誰ですか!?』って怯えたりするかな?』
「そ、それは・・・」
あり得ない。
どんなに突然のことがあっても、見知った人たちを誰呼ばわりなんてしない。でも、口ぶりからすると、国広君はそう言われたんだろう。その言葉が意味することは――――――
『――――静乃は目が覚めてからすぐその言葉を発した後、錯乱して過呼吸になって、それきり。俺らは静乃の容態が落ち着くまで待機ってこと。俺はちょっと外の空気を吸いたくて外に出てて、たった今刹那からもう戻って来いって連絡あったから、今から向かうとこ。朱鳥も連絡ありが――――――』
そこで、国広君の声が遠くなった。ほどなくして、国広君以外の女性の声が、生徒会室内に轟いた。
『アスカ君?初めまして、私、垰杏言います。』
「え?ああ、初めまして・・・って、どなた?」
朱鳥はあっけにとられて、律義に返事をした。スマホをのぞき込むと、あちらはどうやらビデオ通話に変えていることが分かった。
「ちょ、ちょっと待ってください!アンズさん!?」
桜子だけが、事態を把握していた。桜子は朱鳥のスマホを手に取り、ビデオ通話に切り替えて返事をした。
『おおーサクラ!あなたもいた!どういうこと?どうしてアスカ君と一緒に?』
「あのですね、今生徒会活動中なんです!だから朱鳥君もいるんですよ!」
『ああなるほど。理解!』
「――――ちょっと桜子、状況を説明してもらえます?」
混乱する場を何とかするため、私は桜子に説明を求めた。
『私もいるよ~』
私がカメラをのぞき込むと、垰さんの隣にもう一人の女性がいることが分かった。
「式部先生まで・・・」
桜子はこちらに説明する余裕はなさそうだった。目の前の異常事態に対処するのが精いっぱいのようだ。
「――――急でびっくりしたが、この人らめっちゃ可愛いじゃん。戸隠、紹介してくれよ~」
朱鳥の悪癖がここで発動していた。勘弁してほしいな・・・。
『アスカ君!超イケメン!私、あなたと仲良くなりたい!今度ご飯行こ!』
「え?マジ?いくいく。」
私が朱鳥の悪癖に頭を抱えていると、むしろ相手側がノリノリだったことに、なお頭を抱えた。私は静乃さんの容態が気になったから電話を掛けたのに、どうしてアスカのデートの約束現場を聞くことになっているんだ?
「式部さんはどうする?」
『え?私?ごめん普通に既婚者だからNG』
「たはー、じゃまあ、アンズと二人で行くことにすっか~」
『連絡先はサクラに聞いて!じゃあね!』
そうして会話は終了した。カトルはあっけに取られ、私は呆然としていた。
「―――――桜子、あの方たちについて詳しく。」
「ですよね。」
桜子も、さすがにこの事態は予想できていなかったのか、かなり疲れた様子だった。
「私の父、脳科学の研究をしていて、北大の教授なんですよ。」
「え?そうだったんスか?桜子パイセンすげーじゃん。」
「いや、すごいのは私じゃなくて父親ね。で、父親の研究室のポスドクの方が、先ほどの垰杏さん。中国人留学生で、本人はアンズと呼んでほしいということで、私はそう呼んでいます。で、もう一人の女性が、父の研究室の准教授の式部先生。おそらくですけど、静乃ちゃんの搬送先が北大病院だったみたいですね。で、北大病院は医学部の近くにありますから、偶然出くわした、という感じでしょう。」
「それなら納得です。―――――では、どうして国広君のことを知っていたのでしょう?」
「それはですね、夏休み期間中に遼君とご飯行ったんですよ。で、その日、ちょっと父に用事があって北大行った時があって、その時に知り合いになりました。」
「こいつ、さらっと国広と出かけてんじゃん。あいつも隅に置けねえな。」
朱鳥のツッコミに、戸隠はえへへと笑った。可愛いですね。国広君もさっさと覚悟を決めてしまえばいいのに。
「二人とも、サークルであるギャルゲー研究会の人たちで、いろいろあって遼君も仲良くなったって感じです。」
「はあ・・・とりあえずわかりました。――――――じゃあ、本題に移りましょう。静乃さんの容態確認は、このあともう一度やる必要がありそうですね。」
「ああ、今の情報だけじゃよくわからない。だけど、最悪の想定をするなら、記憶に何らかの障害を抱えているような気がしてならない。」
カトルはそう、深刻そうにつぶやいた。カトルにとってはあまり親しい人ではないかもしれないが、私にとっては大切な友達。リアルでもネットでも深い繋がりのあった彼女の記憶に障害が出ているとなると、気が気ではない。ただ、まだ詳細はわかっていない。
「まあでも、俺らにできることは、祈ることじゃないっスか?静乃パイセンの無事を祈りましょう。」
林の言うことはもっともだ。私たちにできることはない。皆もそう感じたのか、各々の仕事に戻っていった。―――――ただ、その傍ら、私はこの原因について考えていた。記憶障害が突発的に起こるなんて聞いたことがない。何か原因があるはずだ。創作の世界では、強い衝撃を頭に与えると記憶喪失になることが多い。けれど、今回はそういったわけではない。外傷はないって言っていたし。―――――最初は寝ていたが、途中から気を失った。睡眠から失神へと移行したということになる。いったいなぜ?どのようにして?超常現象でも起こらない限り記憶をいじくるなんて・・・・・・
――――――――――いや、少なくとも、現実離れした出来事は目の当たりにしている。国広君が持っているあの小さい人形、本人は高性能のAIで喋っていると言っているが、そんなものが世に出ていたなんて聞いたことがない。あれに似たものを、私は過去に見たことがある。あいつのせいで、私の父親はおかしくなってしまった。―――――――――――脳をいじくる何かを持っている可能性がある。もしかしたら危ない道かもしれないけれど、聞く価値はありそうね。