タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?―   作:すうどんたくろう

84 / 87
5-1-3  その時は思いもしなかっただろう

病室の前には、お見舞いに来たメンツ、そして静乃の両親が立っていた。どうやら、静乃と面会する前に、病状の説明を医師が行いたいとのことだった。静乃のいない場で説明するという事実から、ただ事ではないことが起こっているということを、嫌でも思い知らされた。俺らは別室に移動した。医師の説明によると、今は落ち着きを取り戻したとのこと。静乃は心因性、逆向性の全生活史健忘―――――記憶喪失とのことだ。ある時期からの記憶が全くないらしい。ただ、想起させることで元の記憶を思い出せるとのこと。―――――これは、あくまでも予想であって、実際は異なるかもしれない。医師もはっきりと断定はできなかったみたいだ。式部先生の言葉を思い出す。現代の医療では、説明できないことが起こっているのかもしれない、と、俺は思ったのだった。

 

 説明後、俺たちは静乃がいる病室へと入った。静乃は窓のそばに立って、外をぼんやりと眺めていた。寝込んでいるわけではなく、錯乱もなく、特に問題なさそうな体であったので、少し安心した。俺らの入室に気づくと、静乃はにっこりと笑ってこちらに手を振って挨拶をしてきた。・・・明らかに、いつもの静乃ではなかった。

 

 

 

「静乃・・・?父さんたちのことはわかるかい?」

 

 

 

 恐る恐る静乃の父親が問いかける。今こうして静乃に話しかけるのも相当な勇気を要しただろう。事実を真正面から受け止めるために。

 

 

 

「うん。ちょっと老けてるけどわかるよ。にしても、なんか不思議な気分。私の身体もかなり成長してるんだもん。おっぱいめっちゃでかいし。」

 

 

 

 そうして静乃は自分の胸をぽよんぽよんともみ始めたのだった。そのビジュでその行為は刺激的すぎる・・・

 

 

 

「にしても、いきなりこんなことになってるなんてさあ、びっくりだよ。だって私まだ小6だよ?昨日の授業のことをありありと思い出せるよ?でもいつの間にか、季節は夏に戻ってるし、一応今高2らしいし・・・。浦島太郎みたい!」

 

 

 

 静乃は先ほどの狂乱状態とは打って変わってあっけらかんとしていた。あの時が嘘みたいだ。何もかもが支離滅裂で人格が崩壊してたりしたらきっとここにいる全員が何も言えなかっただろう。だから、この状態は不幸中の幸いであった。―――――――――そう本気で思っていたのは、果たしてこの中に何人いただろうか。少なくとも、俺は―――――

 

 

 

「小6ってことは・・・俺はわかるか?」

 

 

 

 静乃は手を顎に当てふんふむと考えている風であった。―――――当時は気にしていなかったが、俺のよく知る彼女はよく腕組みをして、手を口に当てて考え事をしている。組んだ腕に乳が乗っていたからよく覚えている。その行為は、小学生の時もやっていたのだな、と思った。癖はそのまま残っているのだな。

 

 

 

「ちょっとまって―――――――うん、わかる。あなたは遼でしょ?そっか、遼が大きくなるとこんな感じになるのかあ。」

 

 

 

 記憶喪失とはいえ、俺のことを覚えてくれていたのは、幸いであった。ただ・・・

 

 

 

「中学のことは全く覚えてないんですか・・・?」

 

 

 

 刹那は心細げに尋ねたが、結果は勿論NO。

 

 

 

「ごめん、全く。今ここにいる人で知ってるのは、両親と、遼と、それに・・・あ!お姉ちゃんはわかるよ!すっごく綺麗になってる・・・。隣の人は―――まさか千歳さん!?ああっ!指輪してるじゃん!なんだもうゴールインしてるのかあ。」

 

「ちょっ、そこらへんにして、教え子たちがいる手前変な話は・・・」

 

「教え子?え?学校の先生やってるの!?すごいじゃん公務員だ!持ち合わせてる不幸で潰さないようにね。」

 

 

 

 思わず苦笑いしてしまう千歳夫妻たちである。

 

 ――――――――間違いない。これは明るかったころの静乃――――小6前期の静乃だ。陰鬱な、みんなの良く知る静乃になる前の頃だ。

 

 

 

「――――――――ねえ、どうしてさっきは、ああなってしまったの?」

 

 

 

 誰しも疑問に思っていて、でも触れなかった話題を切り込んだのは怜であった。静乃の顔には翳りが見えた。

 

 

 

「・・・あれは悪い夢だったってことにしてるの。ピアノのレッスンから帰って、疲れ果てて家で寝て、起きたら病室のベッドの上だった。きっと記憶喪失とかそんなんじゃなくて、なんかの事故に巻き込まれて、長い間眠っていただけ。その長い昏睡期間の一つの夢にすぎない。・・・そう思いたいんだけど、ツインテールの子をはじめ皆がひどく悲しそうな顔をしてる。・・・そんなの見せられたら、いやでも信じるしかないよ。」

 

「ねえ、言いたくないなら言わなくていいんだけど――――――――」

 

「イヤ。」

 

 

 

 静乃は、さらに追求しようとする怜の言葉を無理やり遮った。

 

 

 

「こんな大勢の人の前で言うような話じゃないと思う。てか、二人きりとかでも嫌だよ。ましてや"見ず知らずのあなたには"二人きりでも決してね。」

 

 

 

 見ず知らずという言葉にグサリときたのか、怜は口を噤んでしまった。刹那や伊藤もビクついて、ますます肩を落としていた。

 

 

 

「・・・ごめん。言いすぎた。でも言いたくないのはほんと。治療に必要なら―――――言うことも考えるけど。」

 

 

 

 夕焼けが窓から差し込み、逆光となって顔は良く見えなかったが、静乃が辛そうにしていたというのは、ありありと見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

  

 

 

 

 静乃はその日は病院に泊まり、数日には退院するそうだ。日常生活を普通に送り想起を促しつつ病院で治療。そういったスタイルを望んだからだ。

 

 もう時刻も遅いとのことで、俺たちは帰路に着いた。行きは千歳先生の車で向かったが、帰りは徒歩で帰ることとした。みんな黙り込んでいた。刹那なんか虚ろな状態で、何度も転びそうになっていた。無理もない。数少ない親友が自分のことを完全に忘れていたのなら、こうもなろう。怜は「調べ物がある」とかで、そのまま札幌駅に消えていった。こんな時にも仕事かよ、とうんざりしたのだった。帰宅後、俺はリビングを経由することなく自室に戻った。すると、竜崎がすでに待ち構えていたのだった。いつもなら映画を観ているのだが、今日は中空に浮かぶモニタをパチパチと動かしていた。

 

 

 

「お帰り。さあ、事の顛末を聞こう――――と言いたいところだが、すまない、出かける準備をしてくれ。」

 

「は?」

 

「夜風に当たりたいんだ。そうだな、あの緑地公園にしようか。」

 

 

 

 竜崎は有無を言わさない感じだった。しょうがないから、言われるがままに再度出かけることにした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 夜の緑地公園は、人がいなく、薄気味が悪かった。

 

 

 

「どうしてここに?」

 

「その説明をするためには、まず、なぜ私がわざわざ公衆電話から君に電話をかけたのか、という背景を説明する必要がある。」

 

「―――――そういや、非通知着信が一件あったな。」

 

「そうだ。――――――実は、我々とは別に、この世界に移り住んでしまったやつがいたんだ。」

 

 

 

 竜崎は重苦しそうに話したが、俺はぽかんと話を聞いていた。まあ一人や二人いるんじゃねえの?

 

 

 

「でね、そいつはかなり悪辣な奴で、我々の世界での罪人なんだ。君らの世界でいえば、死刑囚が脱走している状態だ。」

 

「そりゃ、まずいね。」

 

「ただ、身一つでこちらに来たところで、何もできないものと思っていたんだ。野垂れ死ぬと思っていた。―――――けれど最近、奴が、しかもこの辺に潜伏していることが分かった。」

 

「そりゃ、まずいね?」

 

 

 

 俺はいまいちピンとこず、適当に相槌を打っていた。

 

 

 

「他人事じゃないんだ。――――――私と怜がこの世界に来た目的は覚えているよな?」

 

「ああ、年内に俺が彼女を作るか、できないなら、俺の周りの女性、もしくは俺を殺すんだろ?でも、竜崎たちは前者の方を取らせようと動いているんだよな?」

 

「だが、まどろっこしいと思わなかったか?この三種の選択肢、君を殺すのが一番手っ取り早いんだ。しかも、我々はこの世界の住人じゃない。君を殺した後、我々の世界に戻れば、完全犯罪成立だ。」

 

 

 

 竜崎のその言葉を反芻した。―――――確かに、RTAならこんな時間かかる選択は取らないだろう。竜崎たちにとって、俺が死のうが生きようが、ぶっちゃけどうでもいいはずだ。

 

 

 

「―――――確かに、最初から選択肢なんて与えずに、俺を殺してしまえばよかったのに、なぜしていないんだ?」

 

「本当は、君が彼女を作るまでずっと黙っていようと思っていた。けれど、そういっていられない事態になっている。だから、我々の目的を、少し開示しよう。」

 

 

 

 その時は思いもしなかっただろう。まさか、俺の置かれている状況が、こんなにも危ういものだったなんて。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。