タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
「――――ねえ、わかってる?」
怜は怪訝そうにこちらをみた。――――――――正直なところ、わかっているかどうかは怪しいところがある。静乃の記憶喪失、常和さんと静乃が親戚という情報、杏さんの暴走に、竜崎のカミングアウト・・・そんなことがあったから、頭が沸騰していたせいで、論理の飛躍を起こし、怜への疑惑が増長してしまったのだろう。怜を信じていいのか、という思いもあるが――――――――――――
「あ、ああ、すまん・・・確かに、静乃の小学生時代を知っているのは、身近な奴だと俺だけだからな・・・」
俺は気が付いたら、そんな返事をしていた。
「―――――正直、そう答えてくれてうれしいわ。私じゃ、静乃の助けに離れなさそうだから。積み重ねてきた歴史が、ないもの。」
ぎゅっと俺の肩をつかむ力が増した。その手は若干震えていた。――――怜自身には、確かに、疑わしい部分はある。けれど、今の彼女は、とても演技しているとは思えない。勿論、情報統制により言葉に嘘は混じっていたのだろうが、嘘の言葉を紡いで起こした、起こさせようとした行動には、嘘はないと信じたい。正直、記憶を取り戻す具体案がない以上、藁でも蜘蛛の糸でもなんでもいい。すがらせてくれ。
「ひとまずは、静乃の病院に通って、話してみるよ。どこまで覚えているかを聞けばいいんだな?」
「ええ。―――――――けれど、注意して。静乃の発狂したときの様子から推測するに、覚えている最新の出来事は、彼女にとって思い出したくない最悪の事象と言って差し支えないものに違いないわ。ねえ遼、静乃が小6の時に、なにかひどい事件とか起こったりしなかった?」
深刻な顔つきで彼女はそう告げた。思い出したくない記憶。ひどい事件。―――――――――静乃は小6のある時を境にだんだんと暗くなった。けれど、その理由までは聞いていなかった。聞こうとすら思っていなかった。小学生の頃の俺は、そこまで周りのことを気にかけていないんだ。
「・・・少なくとも、彼女の口から何か聞いたことはない。当時の俺は、あまり気に留めていなかったから。」
「――――了解したわ。」
怜は両手をゆっくりと、俺の肩から離した。
「遼は、そこのところを慎重に調べて頂戴。私は私でやれることをするわ。――――――――私はもう帰るわよ。今日は、早めに寝たいから。」
そして怜は、俺に手を軽く振って走って帰っていった。一緒に帰る?とも言われなかったことから、本当にさっさと体を休めたかったのだろう。ほどなくして、俺もゆっくりと帰路に就いたのだった。
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帰宅後、リビングには向かわずそのまま自室に入り、ひとまず俺は静乃の記憶喪失のラインを見定める方法はないものかと考えを巡らせた。―――――――――――――が、即座に思いつくほど簡単なことではなかった。全く見当がついてないわけではない。少なくとも冬休み明けにはダウナーな感じになっていたはず。静乃自身、冬休み開けはあんまり学校には来ていなかったけど、逆にそれが印象に残って覚えていた。だけど、具体的な境目がどうしてもわからない。うんうん唸っていると、俺の部屋をノックもせず、どたどたと有希が乗り込んできた。
「兄さん!どこ行っていたのさ!何度も連絡入れたのに!」
「ごめんごめん、いろいろあって碌にスマホを見ていなくて・・・」
「そのいろいろを聞きたいから連絡してたのに・・・。で、静乃さんはどうだったの?なんか倒れたって聞いたけど・・・」
有希の顔からは、深刻さがそれほど伝わってこなかった。おそらく、貧血か何かで倒れたんだと思っているんだろう。逆の立場なら、俺だってそう思うさ。それでも、彼女のことを慮ってくれてるあたり、こいつはいいやつだなと思うし、静乃もいい後輩を持ったなと思った。―――――精神年齢的には、もう先輩になっちまったけど。。。
「・・・いいか?落ち着いて聞くんだぞ?」
俺は今日あった出来事をすべて伝えた。朝の寝っぱなしの様子、そして病院で目が覚めた時の様子、そして・・・記憶を・・・・・・。有希は「いやふざけないでよね笑」なんて返事をしたが、俺の顔があまりにもシリアスだから、彼女の顔から笑みが消え、驚愕と悲壮の混ざったような顔つきへと変わった。
「いや、うそでしょ?そんなことって・・・・・・」
「俺だってまだ信じられない。でも面と向かって言われちゃもう、どうしようもないというか・・・。」
「―――――私のことも、忘れちゃったのかな・・・。」
――――いや、待てよ?有希なら、ワンチャン、覚えているかもしれない。
「一応、同じ小学校だったんだし、話したことあったなら、ワンチャンあるかもな。」
「え!?同じ小学校だったの!?!?」
「は?お前知らなかったの???」
「知らないよ!あんなニヒルでクールな上級生いなかったよ!!!なんで言ってくれなかったのさ!!!!!」
「てっきりもう知っているものかと思って――――」
有希は驚愕の顔をこちらに向けてきた。食い気味にかかってきたのだった。――――ただ、悲しいことに、小6の静乃の認識が、今のキャラクターなら、本当に知らないんだろうなあ。
「でもまあ、残念と言っていいのかはわからないけど、今日目が覚めた時の静乃は、小学生のころそのままなんだよ。昔は悪魔みたいな陰気臭い奴じゃなくて、むしろ天真爛漫なクラスのリーダー感だってあったんだぜ。」
「え?何それ、全く想像つかない。―――――――そうだ!卒アル見せてよ!その天真爛漫な静乃さんみたい!」
有希は目をキラキラさせていたのだった。お前、つい数十秒前は深刻そうな顔していたよな?変わり身早すぎんでしょ―――――――いやまてよ?それは名案だ!静乃の目が腐り始めた時期が、すぐわかるじゃないか!中学を卒業したばかりの有希だからこそ、すぐさま出てきた考えだ。脱帽です。俺は有希に礼を言うと、すぐさま部屋に戻り棚から卒アルを引っ張り出してきた。あいつは人気者だから、写真に写る頻度も多いはず。誰か彼かの写真には写っているはずなんだ。そして、その予感は的中した。
「うわ、これ静乃さん?目元とか全く同じなのに、発するオーラが全然違う。この人こんなに可愛かったんだ・・・」
「客観的に見ると、そうなんだよなあ。」
「兄さんは・・・なんていうか・・・今と大して変わらないね。」
「そんなことないよ、俺だってダンディになっているさ。」
「客観的に見ても、変わってないんだよねえ。」
「ぴえんだなマジで。」
有希と俺はぱらぱらとページをめくる。そうして小6のころのページにたどり着いた。だがそこで異変に気付いた。
「このページ以降、静乃さんの写真が一枚もない・・・」
有希は先のページを何回もめくっては戻してを繰り返した。有希が示したページは、秋に行った遠足のページ。確かあれは、10月だっただろうか。
「まさか、そんなことないだろ。卒業式は?」
「そのまさかなんだって!ほら、卒業式の集合写真にいないじゃん!兄さん覚えてないの?」
恥ずかしいことに、まったく思い出せなかった。
「―――――ねえ、そもそもなんで静乃さんって、今のようなキャラになったの?昔の静乃さんって、こんなに明るくて、可愛い人じゃん。何が静乃さんをああさせちゃったの?―――――それは、小6の秋に何かあったからなの?」
「俺も詳しいことはわからない。けれど、おそらく、この時期に何かがあった。――――――なあ有希、おそらくしばらくすれば静乃がまた学校に来るだろうが、ここの部分は掘り起こさないでほしい。おそらく、トラウマレベルの何かがあって、また発狂でもしたら、たまったものじゃないから。」
俺は真面目な顔をして有希を見据えた。有希も、俺の意図を汲んで、ゆっくりと頷いた。
「わかった。――――まあ、私ができるのは、いつも通り過ごして、いつも静乃さんがやっているようなことをやらせて、想起させることだけだもんね。私もそこまで馬鹿じゃないから大丈夫。伊達に北山高校受かってないから。」
そうして有希は俺にサムズアップした後、立ち上がった。
「あ、そうだ、いくらドタバタしていたとはいえ、連絡はすぐ返してほしいなあ。」
有希は置き土産を残して、部屋を去った。俺は確かに悪いことをしてしまった、と反省して、スマホを取り出した。―――――――そうしてLINEの通知、来ていたメッセージを読んだ。―――――俺は、どうしようもなく、取り返しのつかないことをしてしまったと、思い知ったのだった。