タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
結局刹那はそのまま早退した。土日を挟むから、そこで回復してくれることを祈ろう。放課後となり、戸隠さんと一緒に静乃のいる北大病院へ向かった。なお、戸隠さんも生徒会の仕事があったのだが、会長から許可をもらったので問題ないとのこと。会長も行きたい気持ちがあったらしいが、さすがに3人も穴をあけるのは申し訳ない、とのことで、今回は見送った。北大病院は歩いていける距離なので、二人並んで北大キャンパスを歩いていった。彼女は流石にいつものテンションではなく、口数も少なかった。けれど、沈黙に耐えかねて、ちょくちょくこちらに話しかけてきた。そうして二言三言かわしたあと、再度沈黙、ということを繰り返してしまっていた。もしもデートでこんなことをしてしまったのなら何てきまずいことだろうか。ほどなくして病院につき、受付を済ませた後、戸隠さんを静乃の病室に案内した。扉の前につくと、彼女は大きく深呼吸したのだった。そしてドアをノックすると、中から「どうぞー!」と声が聞こえてきた。この声色の時点で、静乃はまだ元に戻っていないのだな、と思ったのだった。
「失礼します・・・!」
戸隠さんが病室に入室する。それに続いて、俺も入っていった。静乃は椅子に座りながらテーブル上に肘をたて頬杖を突いて、片方の手でスマホを握っていた。
「―――――あ!写真にいた人だ!ごめんなさい覚えてなくて、初めましてになります!・・・てか遼もいるじゃん。昨日の今日で来るなんて、私のこと大好きか~こいつぅ!」
静乃はスマホを机に置き、こちらに駆け寄ってきた。たはは、と笑う静乃。一人称が“僕”じゃない。明らかに俺がよく知る陰鬱な静乃ではなかった。そのギャップに、戸隠さんは想像以上に戸惑っていた。
「えっと、私は戸隠桜子って言います。その――――」
「じゃあ桜子ちゃんだね!写真通りめっちゃ美人!遼とどういう関係?もしかして・・・彼女!?」
「あはは、そんなんじゃないよ。」
戸隠さんは笑って否定した。一瞬悪乗りして、そうだよとかいうのかと思ったが、違った。俺は少し、拍子抜けしてしまった。
「でもお見舞いに来るのは遼ばっか。クラスの友達が誰も来ないんだもん。ちょっと寂しいなあ。」
「はは、静乃は俺と同じで市内の中でトップクラスの北山高校に来ちまったからな。同じ小学校でそこ入ったのは俺ら二人しかいないし、しょうがないんじゃね。」
俺は真実を言って、本音を隠した。
「そーゆーもんかなあ。私、高校が別だからって縁を切るタイプじゃないんだけどなあ。お母さんたちに聞いても教えてくれないし・・・てか、私北山高校行くの!?勉強頑張ったな私・・・」
そのセリフを聞いて、親は静乃に情報規制をしているように思えた。中学でかなり病んでしまったから、交友関係リセットされてます、なんて言えないだろう。にしても、陽の静乃は交友関係リセットしないってことは、そうさせてしまうほどの何かが起こったことは、間違いないんだろうな。
「てか、写真ってどういうこと?」
「ああそれね。スマホに入ってた写真フォルダの中にいたからさ。なんかプールに行った時の写真?なのかな?水着着てたし。でもごめんなさい、その写真に私もいたけど、まったく思い出せなかった。」
「・・・それ、私もインカメでとったやつじゃん!静乃ちゃん、ちゃんと保存してくれてたんだ・・・」
戸隠さん、静乃、刹那の三人が映っていた。少し切ない言葉だった。静乃は戸隠さんに少し距離を取っていたようにも見えた。高校の静乃はそこまで友達を作るタイプじゃない。パーソナルスペースはしっかり確保したいタイプだ。戸隠さんもそれを薄々感じていたのだろう。だけど、こうしてしっかり写真を本体保存しているということは、悪く思っていないという証拠。不安に思っていたのなら、十分安心材料になるだろう。そうすこしほっこりしたのもつかの間、すぐさま俺に電流が走った。
「―――――ちょっとまて、スマホの写真を見ただって?」
「うん。昨日少しだけね。」
まずいと思った。あのスマホの中に、静乃の過去がつまっているはず。それは、今の彼女が開けてはならないパンドラの箱の可能性がある。静乃は実質タイムスリップしてしまったようなもの。当然空白の期間を知りたがるだろう。友達の存在を隠していたことから、両親は静乃の過去をまだ本人に教えていない。それは、伝えるタイミングを模索しているからだ。それって、そうしなくちゃいけないような、悲しい内容だからじゃないか?そしたらなおさら、スマホを中身は見せられない。写真フォルダの奥底に、見てはいけないものが埋まっている可能性がある。
「でもさ、すぐお姉ちゃんにスマホとられちゃって、パスワード変えられちゃったんだ。」
「お姉ちゃん?」
「あ、そっか、知らないか。ごめんね。私の従姉で常和まひろ――――あ、千歳先生の奥さんね。」
「え???千歳先生の奥さんって静乃ちゃんの従姉なの???」
・・・戸隠さんは、記憶喪失当日いなかったもんな。驚くのも無理ないか・・・。
「ま、それはいいとして―――――だからスマホは使えないの。写真撮るくらいしか――――そうだ!せっかくだし一緒に写真とろ!桜子ちゃんも一緒にさ!前の自撮り、私の顔死んでたし(笑)」
そうして静乃は自撮りするようにスマホを掲げた。俺らはその勢いに圧倒され、静乃の横に並んだ。
「ほら、遼!もっと寄って!入んないでしょー!」
俺はどぎまぎしながら、より静乃に近づいた。ふわりと香る彼女の匂いにクラっとしそうになった。
「よし、いい感じ!でも、みんなに送れないんだよね。パスワード解除できないから・・・」
静乃はしょんぼりしていた。――――常和さん、グッジョブすぎる。だが、その行動に出たということは、俺の予想は確信へと変わった。今の彼女に、スマホは見せられない。俺がそんなことを思っているとき、隣にいる戸隠さんが俺を指でつついて、耳打ちしてきた。
―――静乃ちゃん、マジ天使。このビジュでこの性格?推せるんですけど。みんな好きになっちゃうよ。―――
―――ぶっちゃけその気持ちはわかる。ただ、精神年齢低いから、俺にとっては庇護対象にしかなっていねえ。ビジュが大人だから、ギャップで頭がおかしくなりそうだ。―――
「静乃ちゃん、大丈夫!これからいっぱい一緒に撮っていけばさ、いつか記憶戻ったときにまた思い出共有できるでしょ?」
「・・・そうだね!桜子ちゃんの言う通り!前向きに考えなきゃね!でも、昔のことはやっぱり知りたいよ。遼、多分私たちって、小中高ずっと同じだよね?」
「ん?そうだぞ。」
しめたと思った。俺が知りたいのは静乃の記憶喪失の境界線。今の彼女は小6のことをありありと覚えている。一方静乃は最近のことを知りたい。利害の一致だ。
「俺も昔話したいし、今覚えてることを教えてほしいな。今何歳?」
「馬鹿にして、12歳だよ!――――あ、違うか、17歳なんだっけ?」
すっかりやられちゃったと、てへへと笑う静乃をみて、戸隠さんは目をキラキラとさせていた。
「ふふ、可愛い。マジ推せるわ~」
「推すって何?」
「えっとね、大好きってこと。静乃ちゃんマジで可愛いな~」
戸隠さんはもう静乃に抱き着いて顔を谷間にうずめていた。静乃は静乃で戸隠さんの頭をなでていた。―――――クソッ!うらやまけしからん!
「バブみ、感じる~!静乃ちゃんでおぎゃりたいな~~~!」
「バブみ?おぎゃるってなに?」
戸隠さん、推し活するときこんな感じなんだな・・・。でも、わかっているのだろうか?ここに来る前の道すがら、戸隠さんとは事前に取り決めをしていた。”昔の静乃は今と違って超明るい。そんな彼女がああなってしまった原因が、おそらくある。だから、迂闊に昔のことは聞かないように。”と。彼女はすんなり了承してくれた。
「静乃、それはね、静乃がママみたいで、静乃ママの赤ちゃんになりたいってこと。」
「へえ、お姉さんなのに赤ちゃんになりたいんだね。可愛いじゃん。」
「あの、真面目に解説しないでいただけますか・・・?」
戸隠さんは我に返ったのか、顔を赤くして両手を額に当てていた。
「あはは、こんな面白い人を忘れちゃってるなんて、私ってば酷いね。――――ね、高校の写真ほかに持ってない?普段の私、どんな感じだったのか知りたい。」
さっそく来た。だが、高校はニヒルなだけだからセーフのはず。俺は写真フォルダを見たが、そこにはFLDのスクショやラーメンの画像ばかりで、静乃の写真なんて出てこなかった。ま、ただのクラスメイトの写真を持っているわけ―――――いやまて、LINEのアルバムなら―――――なんてことをしてる間に、戸隠さんが自分のスマホを使って静乃に見せていた。俺、いらなくね?
「これは刹那ちゃん―――昨日お見舞いに来てた、ツインテールの子ね。そのこと一緒にカフェに行った時の写真だよ~。」
「うわ、私サングラスかけてるじゃん。サングラスありならマジできれいだなあ。こういう綺麗系を将来は着るんだ。未来の私、センスいいじゃん。あ、今の私か。」
戸惑いつつも、少しずつ今の自分を自覚していく静乃だった。
「そうなの。静乃ちゃんって背も高めで骨格ウェーブだからさあ、何着ても似合うの。私は骨格ストレートだから、ウエスト絞らないと太って見えちゃうんだよね・・・」
「うーん、やっぱお姉ちゃんの遺伝子強いな私・・・。でもあれだね、サングラスとると顔が邪悪だ。味方のクールキャラというより、敵の女幹部みたいな顔してるじゃん。」
「ごめん、ちょっとそれわかる。けれど今の静乃ちゃんはその、味方のクール系さわやかイケメンみたいな感じだよ。」
「なにそれー」
二人して雑談が盛り上がっていた。戸隠さん、マジでグッジョブ。静乃の高校暮らしをしっかり教えてあげている。俺はこのままなら任せても問題なさそうだな、と感じ、いったんトイレに向かうことにした。ちょっと緊張してたから、尿意が・・・。俺は病室をいったん出ると、今にも病室に入ろうとしていた式部先生に出くわした。
「――――――式部先生、何やってるんですか?」
「あ、国広君、ども~。」
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「初めまして萩原さん。私はここで脳の研究してる式部繭っていいます。気軽に繭ちゃんって呼んでいいからね~。」
「あ、はい、式部先生。よろしくお願いします。」
式部先生は幼児に話しかけるがごとく静乃に話しかけていた。椅子に座っていた静乃は、それをさらりと流したのだった。
「あの、式部先生、どうしてここに?」
「それ、俺も気になる。―――――え?マジでカルテ勝手に見たんですか?」
「違う違う。普通に用事があってこの辺に来たの。で、戸隠先生が『娘が今日こっちに来るんだ!』って言ってたの思い出して、もしかしたらワンチャンこっちいるかもってさ。んで、せっかくだし挨拶しようかなって。」
「―――――お父さん、そんなことまでみんなに喋ってるんだ・・・。」
というか、律義に報告するアンタもなかなかよ。
「ま、それはいいとして。本題は萩原さんね。萩原さんはさ、失くした記憶をもとに戻したい?」
「え?そうですねー。見た目は大人、頭脳は子供って、ただのバカですよ。」
「あはは・・・お医者さんからはいつも通りの生活してたら思い出すって言われたんだよね?」
「ですです。」
「その通りなんだけど、ちょっと今までの記憶喪失の人たちと違って、萩原さんはありありと昔のことを覚えていすぎるんだよね。だから、もしかしたら私のよく知る記憶喪失と違うかもって思ってさ。」
「はあ・・・」
静乃はいまいちピンときていないのか、生返事をしていた。
「もし自分の頭に何が起こっているか詳しく知りたいなら、私に連絡してほしいんだ。これ、私の電話番号と内線番号――――病院内での電話番号ね。そこにいる桜子お姉ちゃんと国広君も私の連絡先知ってるから、気軽に連絡してね。勿論、一緒にご飯行こうでも可!」
「ほんと!?病院食は一日で飽きちゃったんだよ~」
「はは、私が美味しい店に連れて行ってあげるよ。」
権力を振りかざし、飴で静乃を釣り上げた。このひと、優しいのか、マジで研究したいだけなのか、まだわからんな・・・。
「じゃ、私は用事があるからこれにて。じゃね~」
式部先生は、ものの十分でここからいなくなった。
「あの先生美人だったなあ。それでいて脳の研究してるなんて、すごすぎ!」
静乃は若干興奮していた。いやほんとしてやられたよ。
「―――――ちなみに、戸隠さんからいろいろ聞いて、何か思い出せた?」
「それが何も・・・。ごめんね、桜子ちゃん。でも高校のことはよくわかったから、次は中学のことを聞きたいな。・・・・・・中学生の私はどんなだった?」
――――うそを言ってもいいのだが、ばれるうそはつきたくない。できる限り、嘘をつかないで説明するとなると・・・
「クール系かなあ。高校の自分を邪悪な顔って言ったけど、そういわれたらそうかもしれないって感じ」
「―――――なるほどね、中学からそうなっちゃったんだ。」
その発言は、高校の自分は、望まない姿であることを、示していないか?俺は慎重に言葉を選んだ。
「ま、人間いろいろ山あり谷ありですからな。大体の男は中二で邪気眼に目覚めるし。」
「は?何遼、もしかして今も小学校のキャラ引き摺ってるの?それは流石に若干引く。」
その罵倒は若干高校の静乃感があった。
「そしてなんでニヤニヤしてるの?え?もしかしてそういう趣味?やーねー。高校生で拗らせちゃったんだ。」
くすくす静乃は笑った。悪の女幹部からメスガキにジョブチェンジしたな?
「ま、それはいいとして、さっきの式部先生の話にもあったけど、そんなに昔のことを覚えてる―――というか、寝て起きたら年がたってたって感じなんだよね?」
「そうそう。私調べでは、昨日は10月1日だったはず。普通に学校から帰ってきて・・・そして―――――――」
それきり、静乃は黙ってしまっていた。俺は戸隠さんに目配せした。戸隠さんはサムズアップした。これ以上は、いけない。
「秋だったんだー。じゃあ暑くてびっくりしたんじゃない?今夏真っ盛りだし。」
「そうなの。しかも私の知ってる札幌はもっと涼しいのにさ。なに今の札幌。地球温暖化進みすぎでしょ。ちょっと今日外に出たらあまりに暑くてすぐ病室戻っちゃった。」
戸隠さんのフォローにより、なんとか明るい静乃に引き戻せた。ともあれ、聞きたい情報は聞けた。次は、なぜこの日までありありと覚えているのか、そのきっかけはつかむことだ・・・
「―――――そういや、さっき見せてくれた写真の子、刹那ちゃんだっけ?めっちゃ可愛いんだけど、高校でできた友達?」
「ああ刹那ね、中学からの友達だよ。てか昨日のお見舞いにも来てたじゃん。」
「あの時はちょっと混乱してたし、なによりここまで可愛い顔じゃなかったよ。――――いや、やつれてたから可愛く見えなかったんだ。それって、それだけ私が心配かけちゃったってことだよね・・・。」
「刹那にとっては静乃は親友だったからな。最近までの静乃がどう思っていたかはわからないけど、俺から見ても、いつも一緒にいたから、静乃も親友と思っていたんじゃないかな。」
「そっか、中学からの親友―――――よかった、中学時代も、ちゃんと普通に生活して、ちゃんと幸せだったんだね。」
そのつぶやきに、思わず息をのんだ。こんなこというなんて、今の静乃を形作るきっかけを覚えていないと絶対に出ない。普通の小学生までの記憶しかない状態で高校の静乃を見ると、単に感じ悪い奴になっちゃったって話で終わるだろう。”幸せ”なんてワードは出てこない。そんな言葉が出てくるってことは、何か不幸なことが起こる直前までを覚えていて、その結末だけを知らないのではないか?不幸なことが起こっても、ちゃんと幸せをつかんでいる、とういうことを確信したから、そんなつぶやきが出ちゃったんじゃないか?
「・・・・・・うんそっか、あの女の子、私の親友だったんだ。それなら、昨日は少しひどいこと言っちゃったな・・・」
しょんぼりする静乃、戸隠さんに対してもそうだが、覚えていない友達のことを気遣ってやれるなんて、普通にいい奴だな。
「まあ次あった時に仲良くしてあげればいいさ。昔―――――ああいや、静乃にとっては2,3日前の話か。話しかけてあげるだけでも彼女はうれしいはずだよ。」
「―――うん、そうだね。じゃあ月曜・・・いや、日曜に遊ぼうかな!退院は日曜だし、その日の午後なら時間あるからね。桜子ちゃんもいこ?」
「いこ~!」
「うんうん、それがいい――――ちょっと待て、退院が日曜!?」
いくらなんでも早すぎないか!?
「私が出たいって言ったの。で、いつも通りの生活したら思い出すかもってことで、通常登校します!遼、一緒に登校しようね。どうやら地元から通ってるのはアンタしかいないみたいだし。」
にかっと笑う静乃、本当に別人に見える。――――可愛いな、まじで。
「ま、最寄り駅同じだしね。てか、スマホ使えんのにいろいろどうすんの?」
「あ、それなら大丈夫、どうやらお母さんたちが昔の私のスマホを使えるようにしてくれるみたい。今のスマホにはクレカ情報とかいろいろ紐づいてて、昔と比べて危なくなったから、ちゃんといろいろ知るまでは使用禁止って言われちゃった。」
「それなら、私が刹那ちゃんに連絡するよ。午後1時に北大病院前集合でいいかな?」
「いいよ~」
それからしばらく、他愛のない質問を互いにし合った。俺の中学、高校の話、世間の話・・・なにもかも、静乃にとっては初めての話なので新鮮に聞こえることであろう。
俺も戸隠さんも核心を突くような話ではなく、世間話を続けた。記憶喪失のきっかけと思しき事実を避けながら。
しかしながら、必ず聞かなければならないことでもある。もういっそ静乃に聞くか?それとも当初の予定通り常和さん?
日はもう暮れはじめている。もう帰らないとならない。だから――――――――――――
俺は静乃に―――――――――――