タマゴのカラを割らないでっ! ―彼女づくりのサポートはしてくれるのにできなかったら皆殺しってマジ?― 作:すうどんたくろう
「――――――――――――――――――じゃあ、いい時間だし、俺らはそろそろ帰るかな。」
俺は聞けなかった。核心を突く話は、少なくとも今ではない。復学して、刹那とかと話しているうちに情報を漏らすかもしれない。今日は楽しい日で終わらせようじゃないか。
「俺のスマホの電話番号教えておくよ。一応LINEのIDもね。昔のスマホに、俺の連絡先あるかもしれんけど。」
「あ、私も一応教えとくね。もしうまく追加できなかったら、日曜直接教えるから。」
二人して紙にIDを書き、それを静乃に渡した。
「おっけー。―――――月曜日は遼の家に行けばいいの?」
「・・・いや、俺が迎えに行くよ。詳しい時間は家の電話に掛けるから、それで調整しよう。持っていくものとかは――――日曜に刹那と遊ぶなら、その時に詳しく聞いたらいいんじゃないかな。」
「そうそう、刹那ちゃんと静乃ちゃん、同じクラスだしね。制服の着方とかも、いろいろあるし、私と刹那ちゃんでレクチャーしてあげる。」
「そんな、制服くらい・・・」
「何言ってるの!いろいろと高校生は大変なの!」
戸隠さんは、メっと静乃を一喝した。静乃は、なるほど・・・と納得したようであった。
「まあ楽しみにしておいたらいいさ。じゃあ、また月曜にね―――」
俺はそういって、静乃の病室を後にした。
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「復学するって言っていたけど、本当に大丈夫なんかね?」
帰り道、遅くなってきていたので、戸隠さんを家まで送っているときに、ふと俺はつぶやいた。
「常識的に考えると、小6が高校生の授業についていけはしないと思う。ただ――――――」
「ただ?」
戸隠さんはちょっと含みのある言い方をしたものだから、俺は続けて質問した。
「・・・静乃ちゃんのスマホでさ、自撮りしたじゃない?どうやってやったか覚えてる?」
「え?画面起動して左にスワイプして、そしてスマホを上に掲げて、スマホを反転させて―――――あれ?」
俺はそこに違和感を覚えた。
「なんでスマホを反転させたんだ?」
「そこ、遼君は知らなそうだよね。でもそっか、違和感を覚えたのはそこか~。まだまだだね、遼君。」
ふふっと笑う戸隠さん。なんだ?俺はなにを見落としているんだ?
「わかってなさそうな顔してるから教えてあげる。スマホのインカメって広角レンズが採用されてるから、どうしても顔が大きくなっちゃうの。それをあえてインカメ使わずにとることで、可愛く盛れる写真を撮れるってこと。女子高生はみんなインスタとかで見たことあるんじゃないかな?でも、私がそれを知ったのは、中学生のころ。少なくとも、小学生のうちでは聞いたことがない。言っとくけど、東京の中学生は進んでるからね?――――ま、何が言いたいかって、小6の静乃ちゃんが知らないはずの方法で自撮りしていたってこと。これってさ、中高の生活の中で、無意識に行っていたことは、体が覚えているってことだよね?」
・・・その着眼点はなかった。これは俺だけだったら気づけなかったことだ。そう考えると、スマホを写真フォルダを見れてしまったのも納得がいく。おそらく顔認証や指紋認証で開けたか、もしくは指がパスワードを覚えていて、開けてしまったのだろう。使い方がわからない人の挙動じゃない。なら、記憶は一時的に思い出せなくなっているだけで、喪失したわけではない、ということか・・・?
「―――――戸隠さん、すごいね。」
「でしょ?もっと褒めて褒めて~。」
戸隠さんは立ち止まり、頭を若干こちらに寄せてきた。これは・・・撫でろってコト!?いや、そんなイケメンムーブ俺には・・・
「―――――ま、遼君ならこんな反応するよね。」
そしてすっと俺から離れ、家へと足を戻した。そしてそこからは、特にからかわれることもなかった。戸隠さんを家に送り届けた後、若干の無念感を胸に抱き、地下鉄に乗ったのだった。
8/22(土)
「―――――――――てのが、昨日のお見舞いでの情報になる。」
翌日、竜崎の方から『怜のツールが怜の元に届いたので、怜の家に行こう。』と報告を受けたので、竜崎を連れて隣に住んでいる怜の家に向かい、昨日の顛末を報告した。静乃の記憶は小6の10/1から止まっていること、式部さんが言うには、昔のことをありありと覚えていすぎること、戸隠さんの考察では、無意識下の行動は体が覚えている可能性が高いということを。
「なるほど・・・」
「これは・・・そうね。いやでも、それならば・・・・・・・・・いったいなぜ・・・“誰が・・・?”」
竜崎は黙りこくったままであり、怜は明らかに動揺していた。いくばくかの不安を俺は感じた。時間にしてはそこまで長くはなかったのだろうが、気持ち的には長い沈黙が発生した。怜が重苦しく口を開き、静寂を破った。
「・・・念のため遼に聞いとくわ。」
怜はいつになく真面目な表情で俺の方を見た。
「あなた―――――――――“告白券”を静乃に使った?」
告白券。竜崎らが俺に渡した、彼女を作るためのアイテムである。ここに彼女にしたい名前を書けば、一定期間好感度が非常に高い状態でその人と話すことができる。だから、意中の人と恋愛ごっこができるというわけだ。しかしながら、あくまでも一定期間のため、それがすぎると相手から俺の記憶は消され、”なかったこと”となる。もし期間中好感度をさらに上げることができれば、記憶を残したまま期間後も恋人を続けることができる。(もっとも、告白券によるチャームが切れていることに間違いはないから、普通にフラれることもありうるのだが。)
俺は先日、そんな告白券が静乃の記憶喪失に関与していると決めつけて、怜に疑いをかけた。だが、怜本人は使っていないと言った。続けて、告白券以外に記憶をいじる手段はないとも言った。そんな彼女が、改めて告白券の話を持ち出したということは・・・
「そんなの・・・使ってるわけないだろ。戸隠さんに対してだけだ。もうあんなものは使いたくもない。」
「そりゃあ、そうよね・・・」
怜はそういった後、一つ小さなため息をつき、指を顎に当て神妙な顔つきで何かを考えていた。
「・・・けれど、やはり静乃に対しては告白券が使われたとしか考えられない。告白券の“誤った使い方をした時の結果”に、あまりにも似すぎている。」
「ちょっとまった、“誤った使い方”ってなんだ?」
怜の引っかかるセリフに、突っ込まざるを得なかった。告白券の誤用ってなんだ。名前を書いてそのままにするか、破って破棄するかの二択じゃないのか?
「私が以前告白券の使用方法を伝えた時、対象の相手ともう関わりたくないって時には破りすればいいと言ったわ。その時、実ははっきりとは言わなかったんだけど、他にもまずいことがあるってちらっと言ったの。ありえないケースだから言わなくていいかなって。けれど、今回の静乃の異変は”それで”すべて説明できてしまう。」
怜はその”ありえないケースを”一言一言重く話し始めた。
「もとより告白券は一種のチャーム掛けのようなもの。相手の好感度を無理やりに跳ね上げさせる。そうして、期限が来た時にチャームの効果が切れ、その時点での好感度が閾値を上回ると、覚えていてもらえる。けれど、そうでない場合、記憶操作が行われ、それまでの記憶はもやがかかったかのように思い出せなくなる。これって簡単に言っているように見えるけれど、対象者の脳をいじっている、実は非常にデリケートなことなの。」
近くの椅子に怜は足を組んで座った。そうして、竜崎の方をちらりと見、再び俺を真っすぐ見据えて話を続けた。
「でね、PCで例えると、告白券を破らず放置するのは、手順を踏んだシャットダウン、破るのは、PCごと破壊すること。それぞれ、記憶操作と記憶破壊に該当するわ。―――――で、破るとチャームが消え、使用者に関する記憶がすべて破壊され、その人に関連する記憶が全く分からなくなる。そうすると、記憶の齟齬でさらなる混乱を生み、2次災害が起こる。普通に期限が切れるだけでは、チャームがかかった以降の記憶を思い出せなくなるだけだけど、それ以前の記憶も消されるし、何より脳へ多大なる負荷をかけることになる。だからまずい。――――――――それで、それとは別系統でまずいのが、”便箋を破らずに便箋を傷めること”。・・・どんなものか想像つく?」
”破らず傷める”?
そういきなり言われても、紙を傷める方法なんて・・・・・・
「え?燃やすとか?」
何もそれらしいことが思い浮かばなかったので、ふとそんなことをつぶやいた。しかしながら、どうやらこれは当たりらしい。
「そう。切断のように一気に傷めるのではなく、燃やす、もしくは水中でグズグズにするなど、じわじわと傷める。便箋がじわじわと傷められることでチャームのONOFFを繰り返す。その結果、脳に大きな負荷をかけることになるの。――――――――でね、脳にそのように断続的に負荷をかけるとどうなるか。簡単な話よ。破壊されそうな記憶を守ろうとするの。PCに例えるなら、席の手順を踏まず、電源を落とす。作業中にもかかわらずね。それでも、PC内のデータが全て壊れるわけじゃないじゃない?作業中のファイルなんかは、自動保存されている。――――――なにか刺激を受けた時、人間は脳を経由する”反応”か、経由しない”反射”を起こす。それと似たようなことが脳内にも起こるわけ。一気に起こる刺激に対し、関連する記憶をすべて破壊することで脳を守る反射。逆に、断続的に刺激が来るおかげで記憶の破壊ではなく、逆に”すべての記憶に蓋をする”ことで脳を守る反応が。」
「記憶に蓋・・・?」
「よく、『臭い物に蓋をする』というじゃない?ようは、脳に刺激を与える良くない原因を、見なかったことにするの。断続的に来るおかげで、蓋をするのが間に合ってしまう。ゆえに、チャームにかかった以降の記憶全てを思い出せなくするの。全く。だから、”あるときの一点からの記憶が一切なくなるの”。」
そこまでいわれて、ようやく俺は理解した。
もしかして、静乃は・・・・・・
「――――――――察した顔をしてるわね。そう、おそらく、静乃は誰かに告白券を使われた。そして、焼かれたかなにかして便箋を傷められた。その結果、”記憶封印”が起こった。」
確かに、そういわれたらすべて納得のいく。
「――――――――封印ならさ、解けるのか?それは。」
「ええ、もちろん。だから医師の言うように、想起による治療は間違いじゃない。ただ、それはあくまでも部分的に元に戻しているだけ。PCを強制終了させたとき、作業中のファイルが2~3個なら、復元は容易でしょう?けれど、この場合は、作業中のファイルが無数にある状態。一つ一つを元に戻しても、完全に元通りにはならない。」
「じゃあ、もとの静乃には戻せないってことか・・・?」
「そういうわけではないわ。ただ、完全に元通りにするためには、大本のバックアップデータを探す必要がある。つまり、静乃が覚えている最新の記憶、告白券を使われる瞬間の状況を再現すれば、強烈な早期により、すべて思い出す可能性が高いわ。」
だから、記憶喪失の境目を探れ、というわけか・・・。ただ、やっぱりおかしい点がある。今の怜の説明だと、告白券を使用した――――チャームがかかった期間以降の記憶が封印されるはずだ。静乃の記憶封印は数年単位だ。時系列がおかしい。
「・・・納得いっていない顔ね。わかるわよ。時間の説明だけが、どうしてもできなかった。そこについては――――――」
怜はそこで言葉を止めた。そして逡巡し、
「―――――まだ解明できていないの。いずれにせよ、あなたには静乃の最新の記憶を掘り起こす、ということを引き続き行ってもらう。頼むわよ。」
明確な回答が得られないまま、そこで話は切られた。
「任された!」
若干しこりは残っているが、わからないという以上、聞き返しても無駄と判断し、帰ろうとリビングの扉に手をかけた。
「いやいや、ちょっと待って、そもそもここに来たのはその報告をするだけじゃないだろう?」
そこで、当初の目的を思い出した。例のツールをもらいに来たんだ。怜もハッとして、椅子から立ち上がり、近くに置いてあった段ボールをガサゴソした後、俺の方に近づいてきて、そのツールを手渡した。渡されたのはBluetoothイヤホンのようなものであった。
「使い方なんだけど、ちょっと耳に着けてみて。」
言われるがまま、イヤホンを耳に着ける。すると――――――――
【―――――聞こえるかしら?】
「え?なんだこれ?」
【脳内会話を繋げたの。あなたもできるはずよ。私の方を見て。口が開いてないでしょう?】
そういわれ怜をみたら、確かに口が開いていない。
【こいつ・・・直接脳内に・・・・・・】
【はいはい、で、次に、イヤホンをとってみて。】
俺は言われるがままイヤホンをとる。すると――――――
【それでも聞こえるわね?一度受信してしまえば、あとはつけなくてもいいの。これから、私たちと込み入った話をするときは、これでやり取りすることにするわ。ちなみに、他の人には使えないようになっているし、そちらからこちらに話しかけることもできない。だから、話をしたいときは・・・・・・そうね・・・・・・「ご飯を○○時○○分に食べる」という暗号にして、その時にこのイヤホンを耳に着けていてほしい。いいかしら?】
【了解。】
【ちなみに、竜崎さんとの会話はもう1つのイヤホンをつけること。試しにつけてみて。】
俺は怜から手渡されたもう一つのイヤホンを手に取る。なるほど、怜用はL、竜崎はRね。LeiとRyuzakiってことか。言われるがままつけると、今度は竜崎の声が聞こえてきた。
≪表情そのままで聞いてくれ。暗号は「あのyoutuberの新着動画○○時○○分に投稿だって」にしよう。話したいときは、お互いこれでやろう。≫
≪なんか・・・・・・俗世間に染まってるな・・・・・・まあいいや。了解です。≫
≪ちなみに、私との念話はこちら側で個人回線、全体回線を切り替えることができる。今言った暗号は、怜にも聞かせたくない話をするときだけね。実は回線も個人に切り替えている。いまから全体に切り替えるからね。≫
【――んんっ、国広君、聞こえるかな?】
【あ、ああ、聞こえるよ。】
【よかった、ちょっとラグがあったから、何事かと思ったわ。これで問題なしね。】
直接脳内で語り合うなんてガンダム顔負けの精神世界に足を踏み入れたみたいで少し興奮するな。けど、茶化してる場合でもない。静乃のことはデリケートな話なんだ。これもつかって何とかやっていくぞ。ただ、怜にも聞かせたくない話があるっていうのが少し気になる。やっぱり、直属の部下ではない、というのが引っかかるポイントなのだろうか・・・。俺は若干の疑念を抱きつつ、怜の家を出た。さて、月曜日は気合を入れるぞ。
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「ひとつ、嘘を吐いたね。」
遼が家から出た後、残された私と竜崎さんは2人でミーティングをしていた。遼が出てすぐに、彼は私にそう言った。
「不確定ですから。私にとっては推測でも、彼にとっては真実のようにとらえられてしまう。それだけ、我々と彼の間には技術的にも、知識的にも、時間的にも隔たりがある。」
「君の判断は正しい。・・・・・・これまで調査してもらっていたこの件について、怜には追加で指令を与える。」
私は覚悟していた。これまでの調べ物よりも比じゃないレベルで苦しくなるのがわかっていたから。
「5年前の10月1日以降の札幌市内小学生への強姦事件の有無、および違法アップロードされたのレイプ動画に件の“次元犯罪者 ロック”が出ていないかを片っ端から調べ上げるんだ。」