ドスドス、という重たい足音がだんだんと大きくなって聞こえてくる。もう少ししたらこの広間 ルームに来るだろう。格上相手に狭い通路では話にならない。近くにこの広間 ルームがあってよかった。
眼前の通路をみる。少し遠くにある角からミノタウロスが出てきた。あっちもこっちを見て向かってくる。まず僕がすることは、
「【許してくれ、過去の遺物たる私が出てくるのを】」
呪文を唱えること。
この魔法が発現したのはお爺ちゃんから改宗 コンバージョンした日のこと。アストレア様の護衛の中にいたリュールーにそっくりなリューさんを見たとき、過去の遺物である私は今を生きるベルの邪魔ではないかと思い私の意志は消えようとしていた。
だが、ベルは私のことを望んでいた。アルテミス様に改宗 コンバージョンしたとき、その想いが私を魔法に昇華した。その魔法の効果の1つによって私は身体の操作権を得られた。その効果を与えるのが、
「【アルゴノゥト】」
これより私が主導権を得た。ミノタウロスはまだ向かっている途中。なら次は、
「【私は願う、かつての象徴を。右手には雷 いかずちの精霊ジュピターから授かりし雷霆の剣 つるぎを。左手には私の相棒クロッゾが鍛えし炎の魔剣を。その2つを今一度私に与えたまえ。】ーー【パスト ウェポンズ】」
2つ目は付与魔法 エンチャント。武器を雷と炎の魔剣にする魔法。追加詠唱 スペルキーが2つあり、【雷霆の剣】で武器に雷を纏い、【魔剣よ】で炎が噴き出る。私の武器を再現する魔法。
準備はできた。あとは倒すのみ。
「ヴオオオォォォォォォ!!!」
ミノタウロスが入ってきてそのまま突進してくる。受けることはできないから右に避ける。そしてすぐに振り向き、
「討て、【雷霆の剣】よ!」
と唱えて、雷を纏って斬る。
「グヴオアアァァァ!」
肉を断ち血を噴出させ、少し感電させた。
けれど、深くはなく動きを阻害させるほどではない。ミノタウロスは振り向きながら腕を振るう。それを後ろに跳びながら両手の剣で受け飛んでいく。そしてミノタウロスは右拳を上げて、飛んでいった私に走ってくる。私は着地して叩きつけてくる右拳を右の雷剣で払い、左の魔剣で斬る。振るわれる左拳を今度は左の魔剣で払い、右の雷剣で斬る。
それらの攻防を幾度かしたらミノタウロスは後ろに跳んだ。そして両手を地面に振り下ろした。両手は地面を踏み締める。頭は低く構えられて、臀部の位置は高く保たれる。四つん這いになるその姿は猛牛のそれ。
突撃態勢 ・・・・。
それを見て私も構える。
「ヴオオオォォォォォ!!!」
ミノタウロスは吠え、突進する。私も突っ込んでいき頭に向けて右の雷剣を振るう。
ガッキーン!!
雷剣が飛んでいったが、ミノタウロスを一瞬止めることができた。そして勢いを利用して左の魔剣を腹に差し込み唱える。
「【魔剣】よ!」
ドゴンッ、とミノタウロスが膨らむ。差し口から火炎が溢れる。
「【魔剣】よ!」
更に膨れ、風船のようになる。口からも火炎が溢れる。
「グヴオアッ、グヴオアアァァァ!」
ミノタウロスは咆哮を上げ、張り付いている私に攻撃しようとするが、私が唱える方が早い。
「【魔剣】よ!」
爆散。
ミノタウロスの上半身は粉々に弾け飛んだ。体内で圧縮された炎はダンジョンの天井にまで届き、火山の噴火を連想させる光景をつくる。そして、宙を舞っていた巨大な魔石がザンッ、と音を立てて灰の上に落ちた。
「LV1でミノタウロスを倒した。ああ、この偉業は私たちの物語の1つの山場となるだろう。おめでとう、私。ありがとう、ベル。これからも一緒にのぼろう、高みへ。・・・ひとまず【私の出番は終わった】」
アルから僕に主導権が移った。精神力 マインドが枯渇しそうで不快な発汗が止まらない。お義母さんがきて、賞賛する。
「おめでとう、ベル。よくやった。」
「ありがとう、お義母さん。」
「辛いだろうから帰るぞ。」
「うん。」
ホームに帰った。
「おかえりなさい、2人とも。随分と早いな。」
「ベルが1人でミノタウロスを倒したからな。疲労が溜まって帰ってきた。」
「えっ?本当かオリオン?」
「うん、倒したよ。」
「すごいなオリオン!頑張ったな!ところでステイタス更新するか?」
「すごい疲れたから今日はもう寝たい。」
「そうか、おやすみオリオン。」
「うん、おやすみなさい」