堕落勇者に立ち上がり -ギフト・ソード・ワールド-   作:はんペソ。

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第12話

堕落勇者の立ち上がり

第12話「ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン」

 

これは十三年前の話、ファンタスティアがまだ八歳の時だ。

ようやく物心がつき始めた頃だった。だが国境線等は分かるはずも無く唯一いた同年代の男友達と谷を渡って緑の森を探検しようと言う事になった。

その友人は見ただけで分かる程魔人と分かる見た目をしていた。角を生やし体は紫に近い色で尻尾を生やしている、一方ファンタスティアは一見擬態型に見える程特徴が無かった。

 

「おい!ファンタスティア行くぞ!」

 

友達がファンタスティアの腕を引っ張る。ファンタスティアもワクワクしながら国境線である大きな渓谷へと向かっていた。

当時は魔王が存在せず無法地帯だった。その為国境線から外に出ないと言うルールを守る者は非常に少なく二人共人国に入っても安全だと思っていた、あの時までは。

 

「よし!じゃあ行くぞ!」

 

「うん!」

 

二人は思い切り地面を蹴って渓谷を飛び越えた。そして魔王国には無い緑が一杯の地形で走り回って遊んでいた。そして日が沈み始めて来たのでそろそろ帰ろうとなった時だった。

 

「そろそろ帰ろ...」

 

そう言いかけた瞬間友人の首が飛んだ。目の前で起こった不可解かつ受け入れたくない事態に脳が混乱し体が動かなくなった。

急いで友人の首を跳ね飛ばした人物の顔を確認する。男だった、赤髪の、勇者だった。

 

「あ...え...」

 

「わりぃな俺も殺したくはないが国から命令受けてんだ」

 

そう言いながら剣を振りファンタスティアを斬ろうとした。だがファンタスティアは無意識にアビリティを発動していた。

 

「どこ行った!?」

 

反応を見てアビリティを使用している事に気付きその場から逃げ出した。発動中は音も出ないのでバレずに逃げ出す事に成功した。

ただこの後どうすればいいのかは分からない。友人の死体を持って帰りたいが生憎そんな力は持ち合わせていない。今はただひたすらに走って距離を取ろうとしていた。

 

「うわぁ!」

 

そう声が聞こえると同時にしりもちをつく。どうやらアビリティが切れていてぶつかってしまったらしい、誰にぶつかったか確認してみるとただの少年だった。

この少年なら匿ってくれるかもしられないと思ったファンタスティアはどうにか会話できないか試みる。だが言語が違うので通じることは無い、幸い少年は魔王国の言葉だと気付く事は無かったのでジェスチャーで意思疎通を図る事になった。

 

「どうしてそんなに焦ってるの?」

 

少年がそう聞くが通じない。どうにかジェスチャーで聞いてみたがファンタスティアは黙って俯くだけだった。

少年は何かあったのだろうと察しとりあえず水を差し出した。ファンタスティアは毒などが入っていない事を確認して少年の方を見つめる。

飲むジェスチャーを行った少年を見てファンタスティアは飲んでいいのだろうと思い水を飲む。

そして飲んでいると少年が話しかけてくる。そちらを見てみると少年は地面に名前を書いていた。

 

バリゲッド・アーケイン

 

そう書いてあったが軽い読みぐらいしか出来なかったファンタスティアはこう読んだ。

 

ハリケッド・サーレイン

 

そしてファンタスティアが名前を教えようとした瞬間遠くから誰かが近付いて来ている事に気付く。そしてすぐに逃げ出そうとする、だが少年が引き留め一言だけ書いてから逃がした。

 

またはなそう

 

ファンタスティアは頷くとすぐに逃げて行った。少年の近くに来たのはやはり勇者だった。少年は赤髪の勇者を見て興奮している。

 

「なんで爺のとこのガキがいるんだ?」

 

「何でもないよ!」

 

「そうか、とりま帰るぞ。ここあぶねぇからな」

 

男が少年を持ち上げ帰っていく。ファンタスティアは死体を回収するのは不可能だと判断し一人で魔王国の領土内に帰った。

そして少年の『またはなそう』と言う言葉の意味をよく考え理解すると次第に勇気が湧いてくる。勇者を殺し、バリゲットと話す。これが最適解だと思っていた。バリゲッドからするとそんな事してほしくないだろう、だがファンタスティアはこれが一番良い選択だと信じていた。

そして勇者を殺す為文字通り死ぬ気で鍛錬を重ねた。次に出てくる魔王などどうでも良かった、一人で人国に入って勇者を殺してバリゲッドを探すだけだ。

だが六年が経ち時は廻って来た、魔王がやって来たのだ。当時ファンタスティアはサーベルでの戦闘方法を探求していた、そして不意に声を掛けられる。

 

「何をしているんだ!!!???」

 

あまりに大きな声に驚き振り返るとそこには白髪の少女が立っていた。ファンタスティアは何故こんなへんぴな場所に少女がいるのか不思議に思い訊ねてみると少女は変わらぬ大きな声で返答する。

 

「我は魔王だからだ!!!」

 

「は?」

 

「我は魔王だ!!!」

 

「こんなガキが?」

 

「ガキとはなんだ!!我は偉大なる魔王だぞ!!」

 

そう言われてファンタスティアは困り果てる。だが勇者の赤髪の様に魔王にも絶対に共通している身体部分がある、ファンタスティアはそこを確認することにした。

 

「じゃあ証拠見せてよ」

 

「え..」

 

「見せられないなら嘘でしょ」

 

「むぅ..しょうがないか..」

 

少女はそう言って頬を少し赤らめつつ少しだけ服をたぐり腹部を露わにする。すると腹部には魔王の証拠である禍々しい文様が描かれていた、謎の魅力を放ち本能的に魔王だと思わせる文様を見せつけられたファンタスティアは本物だと確信した。

 

「マジかよ...」

 

「これで信じてくれただろう!!!我は魔王だ!!!!!」

 

そう叫ぶ魔王の口に布を丸めた物を突っ込んだ。

 

「うるさい」

 

「むぐーー!!!」

 

それでも耳に障る声だ。イライラしてきたファンタスティアは魔王の首元にサーベルを突き立てた、そして黙るよう脅そうとしたその瞬間凄まじい殺気に襲われる。

そして魔王は口に入っている物を吐き出してから別人と言っていい程変わった雰囲気でファンタスティアに問いかける。

 

「貴様は魔王である我に剣を突き立てた、と言う事実を否定しないか?」

 

「な、なんだよ..」

 

「我はちっちゃいせいで舐められる事が多いが貴様らなんかには負けないぞ、今にも貴様の首を跳ね飛ばしてしまいそうだ」

 

そう言われたファンタスティアは自分の首元に剣が突き立てられている事に今更気付いた。そしてやむを得ずサーベルを下ろしサーベルを置いてから両手を上げて降伏した。すると魔王の雰囲気は戻り剣も何処かに消えた。

 

「それでいい!!!」

 

「それで..なんでこんな所に来たんすか」

 

「知りたいか!!!」

 

「はい」

 

「ならば教えてやろう!!!お前が欲しい!!!」

 

「プ、プロポーズ!?」

 

「違うぞ我はもっとデッカくて筋肉が凄い奴が好きだ」

 

「...」

 

「それでちゃんと話をしたいのだが」

 

「あ、はい」

 

「我は魔王だ。だが姿を隠している、都合良く勇者側も身を隠して生活しているらしい。そして我は優秀な部下を集めている最中なのだ!いつになるか分からない勇者との戦いに備えてな」

 

ファンタスティアはもう理解した。部下として招き入れたいのだろう。好都合だ、自分の目的とマッチしている。今世代の勇者を殺せば前世代の勇者に近づく事が出来るだろう。

 

「分かりましたよ、行きましょう」

 

「話が分かる奴だな!!!それなら今から行くぞ!!!後一人探すぞ!!!」

 

「その言い方だと既に部下がいるんですか?」

 

「あぁ!いるぞ!しっかりアビリティを持っている可愛い女がな!!」

 

「そいつは今どこに?」

 

「知らん!!!だが絶対に来てくれるさ!!!」

 

あまりに雑な管理に少し不安を感じたがあんなにバケモノ級の気配を放った少女だ何とかしてくれるだろう。

そして二人で軽い旅をして四日が経過した、特に変わった事も無く仲間を探していた。そんなある夜焚火に火を付けようと奮闘しているファンタスティアに魔王がある質問をする。

 

「そう言えば名前はなんだ!!!」

 

「あー言ってませんでしたね。俺の名前はファンタ...いや[ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン]です」

 

「ファンタスティックか!!!」

 

「ファンタスティアです」

 

「お前は何を目標としているんだ!!!」

 

「前勇者を殺し人間のある男と話す事です」

 

「いいな!!」

 

「まぁそのために頑張りますよ。ところで魔王様の名前は何ですか」

 

「秘密だ!!!」

 

そんな話をしながら旅を続けた。そしてそこから十六日が経過した、遂に良い仲間を手にし魔王城に向かう事になった。

猫騎士を迎えた二人は話が弾んで仕方が無い、猫騎士も楽しそう話していた。そしてそのまま七日間が経過した、魔王城に到着した三人はクソ汚く崩壊しかけていた箇所を修理した。そして門番亀とも仲を深めそろそろもう一人の女が来る頃かもしれない、そう思ったある日の朝二人は玉座の間に呼び出された。

 

「よく来たな!!!今日は二人にある事をしてもらう!!!」

 

「何をするんですか?訓練なら一人でやる方が好きなんですけど」

 

「私もです」

 

「そういう事じゃない!!これから継続してやってもらう事がある!!!」

 

二人は見つめ合い頭に?を浮かべた。そんな二人を無視して魔王は話を始めた。二人は黙って聞くことにする。

 

「お前ら二人には今日から仮面を着けてもらう!!」

 

「仮面?」

 

「あぁそうだ!!!仮面はどんな形でも良い!!!それを破壊した時に本物の力を得る事が出来るのだ!!!そしてどんな形でも良いので我が決める!!!にゃん太郎はこれだ!!!」

 

そう言って鎧を投げつけた。猫騎士は超高級品の鉄鎧に驚愕し装着していいのかと興奮交じりに問う、魔王は当然首を縦に振った。猫騎士が鎧を着ると次はファンタスティアの仮面の話に進む。

 

「そしてファンタスティックの仮面は鉄や素材が足りないので精神的な物とする!!!」

 

「そう言うのでも大丈夫なんですね」

 

「あぁ!!!そして今日からファンタスティックは『ナルシストで変な喋り方をする奴』になってもらう!!!」

 

「はぁ...」

 

「今からやるのだ!!!」

 

「えぇ..分かりましたよ」

 

「まずは自己紹介をして貰おう!!!」

 

ファンタスティアは咳ばらいをして声のトーンを上げて仮面を被った自己紹介を始めた。

 

「ボ・ク!は[ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン]!!偉大なる魔王様に仕えし部下が一人!!超イケメンな僕に付いて来られる奴がいるとは思えないがよろしくダ・ヨ!」

 

「良いな!!そんな感じだ!!!その仮面が自然に破壊される時を我は待っているぞ!!!」

 

 

その記憶が蘇って来た。走馬灯と言うやつなのだろうか、正面にいるゴドルフィンに怖気づいているのかも分からない。だがファンタスティアの心は折れてなんかいない、むしろこの走馬灯を見た事によって力が湧いてきた。だが仮面が割れたわけではないのだ。ファンタスティアは血塗れになりながらゴドルフィンを睨み口を開く。

 

「これは走馬灯なんかじゃない!僕が勝つ為の道しるべだ!!」

 

サーベルを片手にアビリティも発生させないでゴドルフィンに突っ込む。ゴドルフィンは片手のファンタスティアになんか負けないと思って剣を振るう。だがその気持ちが命取りだった、ファンタスティアは火事場の馬鹿力とでも言わんばかりのスピードで詰めゴドルフィンの胸部を斬った。

 

「なに..」

 

「僕は偉大な魔王様の部下だ、民衆を救うんだ...お前なんかには..負けないッ!」

 

「まだまだ負けるわけにはいかん」

 

ゴドルフィンはまだ戦う。二人共血だらけになりながら戦う。次はゴドルフィンが攻撃を仕掛けたがファンタスティアのアビリティで回避されてしまう、次の攻撃を試みるが音も出ない状態でファンタスティアの位置を特定するのは不可能だ。そして先程よりも何故か効果時間が長い、ファンタスティアは戦いの中で成長しているのだ。

 

「厄介なやつじゃのう」

 

ゴドルフィンが上下左右全ての方向を注意しながら効果時間が切れるのを待つ。そして効果が切れサーベルの刃が近付いて来ている事に気付いたゴドルフィンはそちらに剣を振った、当然剣同士がぶつかり合いカキンと言う甲高い音が鳴るだけだった。

 

「そんな子供騙しでは倒せんよ」

 

ファンタスティアは何を言う訳でもなく姿を消した。そして次のステップに突入する、ファンタスティアは違う領域へと足を踏み込む事に決めた。

透明化状態の時は両者何もアクションを起こしていなかった。だがファンタスティアはそこで攻撃することにした、何故今までやって来なかったかと言うとその行動を起こそうとした瞬間本能が否定するからだ。何か嫌な事が起こると分かっていたからだ。だがこの老いぼれクソジジイに勝つにはそれをやらなくてはならないのだ。

 

「まだ僕は剣を握らなくちゃいけないんだ。だから僕は勝ったんだ、爺さん」

 

斬りかかった。透明の状態が解除された。だがゴドルフィンは対応できず腹部に致命傷をくらう。老体に致命傷が出来るともう立つ事も出来ない、ゴドルフィンは少し悔しそうに倒れた。

勝ったのだ、実感を感じると共に代償を負う事になる。ファンタスティアのアビリティは複雑で透明化中に攻撃を行うと凄まじい代償が必要になるのだ。

 

「ぐわあああ!!」

 

体全体にとんでもない激痛が走る、今にも気絶してしまいそうだ。だがバリゲッドに会いたい一心で意識を保つ。そして三十秒が経つと痛みはパッと治まった。左腕は無く、体中から血を垂れ流しているが足は止まらない。

 

「行くんだ..行かなくては..待っていてくれバリゲッド...僕は..成し遂げたんだ...」

 

動く事が出来ないゴドルフィンを置き去りにしてフラフラになりながら右手で扉を開きある場所へと向かう。そこは玉座の間だ。ラックが単独行動をしていたならばアルスとバリゲッドは一緒に行動しているだろう。そして勇者は魔王の元へ行くはずだ、その考えの元向かうのだ、尊敬する者と追い求めていた者の所へ。

一方水面下の中二人と一匹、いやもっと沢山の人が動き始めていた。

 

「行くぞアレキサンダー」

 

「わんっ!」

 

「私も行けるよ!」

 

「宮殿に連絡はしてあるな?」

 

「うん」

 

「よし。じゃあ行くぞ!」

 

おっさんと奥さんがアレキサンダーに跨り家を後にした。四人を助ける為に、少し不甲斐ないアルスを助ける為に。

そして宮殿では王の元に一匹の鳥が到着していた。前勇者の嫁の遣いだ。手紙を一枚持っていた、一人が読み上げる。

 

『私たちは魔王城へ行きます。恐らく私達だけじゃ勝てないと思います。できれば兵士さん達を十人ほど送ってはくれないでしょうか』

 

内容は以上の通りだった。だが王は手紙を破り捨てた、何故破り捨てたか?簡単だ、既に派遣している。エリートの兵士を十人ピッタリ高速で向かわせている。

王たちは何も出来ない不甲斐なさを感じている。なのでせめてもの助けになればと勇敢な兵士を送ったのだ。

だがアルスは何も気付いていなかった。全て自分で終わらせようとしていた。だが魔王はその一人で抱え込む癖に付け込もうとしている。この時点で崩壊しかけていた、だがあくまで水面下での行動、魔王城にいる人物達は誰一人として気が付いていないのだった。

 

 

第12話「ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン」

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