堕落勇者に立ち上がり -ギフト・ソード・ワールド-   作:はんペソ。

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第13話

堕落勇者の立ち上がり

第13話「round 2 fight」

 

ラックはファンタスティアと猫騎士の喧嘩を止めてからずっと歩き続けている、魔王城の構造を把握するためだ。

そして一階はおおよその形を書き出す事に成功した。そして誰か救援が来た時の為に紙飛行機にして入口の方向へ辿り着くよう計算しつくしてから投げた。

紙飛行機はしっかいりと入り口付近に墜ちる、安心したラックは少しだけ休憩を取る事にした。と言っても歩くスピードを落とすだけなのだが。

 

「にしてもそうとう変わったな。改修工事なんてする金あったか?..無いな。なら誰かの能力か何かで構造を変えたと考えるのが妥当っちゃ妥当だが..うーん、分からん」

 

そんな独り言を口にしながら女を探し続ける。もしかしたら玉座の間で魔王と一緒に待っているのかもしれない、そう考えたラックは玉座の間に向かう事にした。

だが一階にあったはずなのだが部屋が見つかっていない、どこか隠し通路でもあるのか?そう疑問に思っていると全身に鳥肌が立つ。

 

「まさか..いや、ゴドルフィンが..とりあえず早く探し出して帰るか」

 

嫌な考えは消すことに決め気持ちを入れ直してから再び玉座の間への道を探す。だが何処にも無い、無いのだ。右側の壁に沿って歩き続けていたから見落としは無いはずだ。

 

「やはり隠し通路か?」

 

だがあのバカっぽい魔王がわざわざそんな事するだろうか?そもそも宣戦布告をしてきた時点で隠れる選択肢を取っても意味が無いと分かっているはずだ。

 

「一階では無い?」

 

もうそう考えるほか無いだろう。ただそうなると階段があるはずだ、だがその階段さえも見つけられていない。何かおかしいとやっと気付く事になる、構造が滅茶苦茶すぎる。ただの客人部屋の中にキッチンへと繋がるドアがあったりしていた、幻術にでもかかってしまい幻覚を見せられているのではないか?そう考えたその時音がする。

 

「アルスか?」

 

アルスの二本の剣の鞘同士がぶつかりあっている音がしたのだ。そしてその質問にアルスの声が返答する。

 

「ラック?なんで?」

 

「いや俺も分からん、構造がハチャメチャだ」

 

「構造は変わってるけどそんなおかしい所とかあった?」

 

「は?あっただろ、所々部屋の中に部屋があったり異常な部屋とかが...」

 

「ねえそれよりずっと気になってたんだけどさ..」

 

「俺もだ」

 

二人は少し黙り込んでからほぼ同時タイミングで口を開き全く同じことを言うのだった。

 

「「なんで壁の中?」」

 

二人共感じていた違和感の正体を突き止めようとする、互いに壁の中にいるように聞こえているのだ。ラックはその時確信した、幻術だ。

 

「やっぱりか...」

 

「?」

 

「所々明らかに構造がおかしい部屋があった。そして今互いに壁の中に埋もれている様に聞こえているが実際はそんなことはない。となれば一つだ、幻術」

 

「幻術か..あの幻見せるアビリティとか魔法の事だよね?」

 

「あぁ。ところでバリゲッドは一緒じゃないのか?」

 

「うん..ちょっと前に突然消えちゃって」

 

「恐らく幻術で分断されたんだろうな。ひとまず俺はそちらに行けない。だからバリゲッドを探して玉座の間に向かえ、俺は女と戦わなきゃいけない。でも安心しろ、絶対に行ってやるからな」

 

「うん!それじゃあ僕も行くよ」

 

「あぁ。そんじゃあな」

 

二人はそれぞれ幻術で作らされた道を進み始めた。アルスはバリゲッドを、ラックは女を探しに行くのだ。

そして分かれてから結構な時間が経った。相当歩き続けているが女は見つからない。もう普通に探しては絶対に見つからないだろうと思い少し探索方法を変えてみる事にした。

 

「もしかしたら女に幻術がかかっていて分からないのか?だとしたら適当に声上げながら歩くか」

 

その後ラックはずっと「スギラウェンド」と叫びながら城内を練り歩いた。数回アルスと遭遇したがそれ以外の人とは会う事が無かった。それにも違和感を感じ突き止めようとしたその時背後から剣を突き立てられた。

 

「おせーぞ。どんだけ歩いたと思ってんだ」

 

「黙れ」

 

「どうせお前も道が分からなかったとかだろ」

 

「...」

 

「バカだな」

 

「黙れ」

 

女がほんの少しだけ背中に突き刺す。ラックはこんな事で刺して来る女はやはりバカだと再確認してからある事を訊ねる。

 

「お前リリアの妹なんだろ?名前なんて言うんだよ」

 

「何故私がそれを言わなければならないのだ」

 

「別に良いだろ」

 

「まぁそうだな。どうせお前はここで死ぬ」

 

「威勢は良いな」

 

「私の名は[メルト・スギラウェンド]だ、姉はお前らが知っている通り[リリア・スギラウェンド]だ」

 

ラックは名を聞いてから振り返り剣に手をかけながら会話を試みる。最初は何も答え無さそうなメルトだったが根負けしたのか段々話すようになってきた。

 

「なんで俺と戦いたがってたんだ」

 

「分かるだろう、負けたままは嫌なんだ」

 

「勝てる自信があると思ってんのか?」

 

「片目しかないお前に負けはしない」

 

「そういや片目見えないんだったわ。全く変わらない生活だったから気付かなかったよ」

 

完全に煽りながら言うラックに苛立ちを感じたのか再度突き刺そうとする。だがラックがアビリティを発動し剣を盾に変形させて防いだ。

 

「はぁ..やるなら早くやりたいのだが」

 

「こんな場所でやったって戦いにくいだけだろ?しかも狭いと俺の変形がスッゴイ強いぞ」

 

「...それもそうだな」

 

メルトはレイピアを下ろし深く息を吸ってから仮面のせいで少し籠っている声で叫ぶ。

 

「魔王様ーーー!!!!!」

 

するとラックとメルトの幻術が解除された。これは魔王の能力なのだろうかと推測する暇も無くメルトは剣を構える。

ラックは軽く周囲を見渡す。特に変哲もない廊下だった。五年前と来た時と変わっていない、最初から幻術を見せられていてただ廊下を歩いたりしていたのだ。アルスと遭遇していたのも恐らくただ廊下ですれ違っただけだと思われる。

 

「クッソみたいな時間を過ごす事を強要されていたのか...まぁいい。やるか」

 

ラックは剣をいつもの大剣に変形し戦闘体勢に入る。メルトは集中して初撃を確実に入れる事にする、ラックもどう動いて来るか伺う為見つめるだけだ。

 

「行くぞ!!!」

 

メルトの大声と共に動き出す。途轍もないスピードで突くが人間離れの反射神経を持つラックは簡単に受け流す。だがメルトは体勢を立て直す事もしないで次の突きを行った。ラックは流石にそんなやり方はしてこないだろうと思っていたせいで遅かった、だがそこはラックと言うべきか最低限の怪我に済ませる事が出来た。

 

「あっぶね!」

 

なんとか右腕に少しかすっただけに出来た。そして今度はラックが攻撃しようと腕を動かそうとしたその瞬間右腕にレイピアが刺さった。

 

「マージか」

 

メルトは体勢を立て直さずほぼ転びかけているような状態で三回攻撃をしてきた。ラックはこの時点で本気を出さなくては負けると直感的に理解していた。

 

「お前がスピードで制してくるなら私がもっと速くなればいいだけだ。目には目をぶつけない、目には針をぶつける、絶対に勝てるモノをぶつけなくては勝負にならないだろう」

 

「クソみたいな言葉だな、俺はちょっと苦戦するぐらいが好きなんだ。生憎昔から強すぎてお前が言う勝負しか出来なくてつまらないんでね」

 

「こんな状況でも煽るのか、命知らずが」

 

メルトが一瞬で体勢を整え攻撃を繰り出そうとする。だが二度目は通じないとラックも攻撃に出る。変形させ同じくレイピアの形にして剣先と剣先をぶつけ合わせた。

あまりに正確な突きにメルトは驚くが絶対に怯まず次の攻撃に移る。だがラックも全く同じ動きをしてくるせいで触れる事すら出来ない。

 

「何故全く同じ動きをしてくる」

 

「駄目なのか」

 

「質問に答えろ。何故全く同じ動きをしてくるのだ」

 

「ひ・み・つ..だ」

 

「そろそろウザイんだよ!!クソ野郎!!」

 

遂に我慢しきれなくなったメルトが怒りのパワーで力とスピードを強くした。だがラックも次第にテンションが上がって来る。そしてラックにはテンションが高い程身体能力が増すと言う特異体質も持ち合わせている。メルトはこの存在を知っていたし対策をしていたつもりだったのだが挑発に乗ってしまい短期決戦を仕掛けるのを忘れてしまっていた。

 

「おら行くぞ!!」

 

ラックは先ほどよりも何倍も速い連続突きをお見舞いする。メルトも完全に受け流したまに反撃を行う。やはり五年前より別人と言っていい程強くなっている、ラックもその事は分かっていたがテンションが上がり過ぎてそんな事どうでも良かった。もう二人共本能の様に戦っている、互いのアビリティの事なんて忘れて突き合っているのだ。

 

「これで、どうだ!」

 

「馬鹿だな、私にそんな弱い突きは通用しな..」

 

そう言いかけたは良いものの頬が切れた。メルトは今更思い出した、[ラック・ツルユ]が特異体質である事に、だがもう手遅れと言っていい程ノリノリだった。

しかも五年前の決闘とは違いラックも特異体質の事を気にしていない、既にテンションを下げてリセットさせると言う方法は使えなくなっていたのだ。

 

「まだまだ!」

 

そうは言うがどうにかしないと五年前と同じ道を歩む事になる。もうあんな姿は見せたくないと五年間毎日欠かさず一人で練度を上げていたのだ。

こんな一時の気持ちのせいでそれが無駄になってしまうなんて嫌だ、そう思うと次第に力が湧いて来る。

人を突き動かすのは勇気などの『プラスの感情』だけではなく妬みや不安等の『マイナスの感情』の場合もある、そしてプラスの感情よりマイナスの感情の時の方が動きやすい。メルトは今「無駄になるかもしれないと言う『焦燥感』、負けてしまうかもしれないと言う『不安感』」この二つが混じり合っている状況だ、一方ラックは「死ぬほど楽しいと言う『高揚感』」だけで戦っている。特異体質も考慮すればラックが優勢になるがメルトだってそんな弱くは無い、プラスより強いマイナスの感情で動いているメルトならラックに負けない事なんて簡単だ。

 

「私は負けない!!」

 

その時のメルトの表情は(マイナス)の感情で動いているとは思えない程にたくましい立ち姿だった。まさに勇気で動いている正義の騎士に見えてしまう、だが実際は人国に被害を及ぼす悪、大悪党なのだ。

二人は不毛な争いを続ける、ラックは次第に猿真似をやめて自分のやり方で戦い始めた。その光景は異様なものだ、笑いながら突きを繰り返すまるで悪の権化の様な正義(ラック)と勇敢に戦っている正義の権化の様な(メルト)、誰がどう見ても気持ちの悪い光景だ。

 

「いい加減諦めたらどうだ!?」

 

「私は諦めない..あの方に誓ったんだ!!」

 

メルトはどんどん加速してくるラックに対応するようにして力が増して行く。もう端から見たら何も分からないだろう、だがラックとメルトには軌道さえも正確に見えているのだ、この世で一番速い勝負だろう。

 

「いい加減観念しろよ!!」

 

「このまま戦っていても決着がつかない。ここはどうだろう?少し話さないか」

 

メルトはいちかばちかの賭けに出る、レイピアを下ろして体を大の字にして仮面の下で目をつぶり待ち構える。そしていつになっても刺されなかった事で話し合いに応じてくれたのだろうと思い目を開けた。

すると超至近距離でラックが見つめていた。

 

「うわあ!」

 

「んー一応穴はあるのか」

 

「いやまぁ..無かったら見えないし..」

 

「にしてもなんだその模様は」

 

「いや..魔王様に貰っている奴だから分からない」

 

「ふーん。それで何を話したいんだよ、早く続きやりたいんだが」

 

ラックはうずうずしている。その時メルトは察した。こいつは無理矢理にでもテンションを下げて話を聞いてくれている、圧倒的な自信があるのだろう。だがこの過度な自信のおかげで真っ暗だった闇に少しだけ光が差し込んで来た。

 

「何故お前は要望に応えてくれたのだ」

 

「色々試したい、後なんで目が見えないか知りたいからだ」

 

「それに関しては後で分かるだろう。だが理由はそれだけじゃないだろう」

 

「...リリアの情報を引き出したい」

 

「やはりな。だが話さない」

 

「リリアは謎が多かった。ガリキガラクで魔物と話せた事や『マンハッタン』とか言う謎の独自魔法を扱っていた所とかもだ、だけどよく考えたらマンハッタンって山の多い地域とかを指す言葉だったよな?"魔人語"で。ここは山が多いからな、よーく考えたら最初から突き止める事は出来たのかも知れない」

 

「そこまで分かっていて私に聞く事があると?」

 

「あぁ。二つある、魔王の事と何故人語が喋れるかだ」

 

「魔王様の事はあまり話せない、だから人語が喋れる事だけ話そう。理由は簡単勉強したからだ。高い金を払い闇商人を教師に教えてもらった。だから話せるんだ」

 

「思ってたよりつまんないな」

 

「何を求めているんだ」

 

「まぁ俺はこの世の者じゃないからな」

 

その発言の意味は分からないようで頭に?を浮かべている。ラックはそろそろ戦おうと剣を持つ。その手は我慢の限界からかプルプルと震えている。

メルトは深呼吸してからレイピアを持ち上げ極限まで集中しながら構えた。テンションをある程度下げる事に成功した、ラックもその事には気付いていないようで絶好のチャンスだ。

策にはまった人間の一人ぐらい易々と殺してしまうだろう、形勢は一気に傾いた、[メルト・スギラウェンド]の方へと。

 

 

第13話「round 2 fight」

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