堕落勇者に立ち上がり -ギフト・ソード・ワールド-   作:はんペソ。

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第15話

堕落勇者の立ち上がり

第15話「遺言書」

 

それは少し前の事だった。ラックとメルトの戦いに終止符が打たれる少し前、具体的に言えば仮面が溶け始めた時だ。

前勇者である[ユーデンガル・クレシュティーン]は妻と犬のアレキサンダーと共に魔王城に侵入した。それぞれのルートで向かう事に決めさっさと歩き始める。

アレキサンダーと前勇者は来た事があったのでとりあえず心当たりがある場所を片っ端から見ていく事にした。

 

「とりあえず訓練場だな。あそこが一番戦いやすいし」

 

前勇者は訓練場へと向かう。少し嫌な予感を感じ取りながらも進み続ける。そして到着した、訓練場へと。すると唐突に同期と冷や汗が止まらなくなる。

 

「なんだよ..これ」

 

深呼吸をして心を落ち着かせてから手に力を入れ扉を開いた。その瞬間惨(むご)たらしい状況を目にする、ゴドルフィンが血塗れになって座り込んでいる。ピクリとも動かずもう血も出ていない。

 

「ゴドルフィン!!」

 

前勇者はすぐに駆け寄り脈を測る。

あった、まだ生きている。だがほぼ死んでいるような状態だ。どうにかして回復させなくてはいけない、妻を呼ぶため部屋を出ようとしたその時部屋にある音が鳴り響く。

剣が地面に刺さった音だ。それは前勇者が鳴らした音ではない。その後方、そうゴドルフィンが鳴らした音だ。

 

「来たか..」

 

「おい!!無茶すんな!!今回復できる奴を...」

 

「いらぬ..もう手遅れじゃ」

 

「はぁ!?いいから黙って...」

 

「それよりバリゲッドの所に行け..あやつは今..危険じゃ..」

 

「お前の方が!!」

 

「わしはいい..元々老い先短いんじゃ..若い奴らを..」

 

「知らねぇよそんな事!!とりあえず黙ってくれよ!!」

 

「最後にお主と話せて良かった..ただの鍛冶屋だったわしなんかを仲間にしてくれて嬉しかった..そのおかげでバリゲッド、リリア、アルス、ラック、そしてお前に会えたんじゃ..もう体にガタも来ていた..あの青年を仕留める事は出来なかったが充分働いた..」

 

「いい加減に...」

 

「バリゲッドにこう伝えてくれ..『鍛冶屋を継いでくれ』と..アルスには『自分の為に動け』と..リリアには『仲良くな』..と...ラック..と..お主は...言わないでも..分か..る...か...」

 

ゴドルフィンは力尽き倒れた。前勇者は再び駆け寄り脈を測る、無かった、完全に無かった。死んでしまったのだ。何度も呼びかけるが返答はない、目を閉じ、安らかに眠っている。

 

「なんで..そんなに..嬉しそうなんだよ..」

 

ゴドルフィンは少しだけ口角を上げ笑っていた。最後に勇敢な戦友であり大切な親友だった前勇者と話せて満足したのだろう。だが前勇者からしたらそんな事知ったこっちゃない、何故自分の身を選ばなかったのか、前勇者はすぐに理解し立ち上がった。

 

「分かったよ..あいつらのとこに行けばいいんだろ!!分かったよ!!」

 

前勇者は涙をグッと堪えゴドルフィンの剣を地面から抜き遺体から鞘を受け取った。そして腰に装着しゴドルフィンを後にして部屋から出て行った。

全速力で館内を駆け巡る、そしてある人物の声が聞こえる。泣き声だ。女の泣き声だ、すぐにそちらの方へ向かう。

 

「ごめんなさい..ごめんなさい..」

 

近くの部屋からそう聞こえてくる。すぐに中を見てみるとそこには涙を流しながらレイピアを自らの首元に突き立てているメルトがいた。

そして突き刺そうとする、だが前勇者がレイピアを掴み放り投げた。

 

「何やってんだよ」

 

自殺と言う道さえ閉ざされたメルトはただひたすらに泣きじゃくる。前勇者はラックの死体を見て全てを察した。

 

「お前も..」

 

遺体へと近づく、するとタイミング良くある物がポトリとラックの体から落ちて来た。血に濡れている一通の便せんだ。

遺書だと瞬時に理解した前勇者は一度心を落ち着かせてから便せんを開けた。やはり遺書だった。血のせいで所々読めない箇所があるが脳内で補完しつつ前勇者は遺書を読む。

 

『誰が読んでるかは知らない。けどこれは遺書だ。

 どちらにしろ俺は死んだんだろう。誰が見るか分からないから全員に通じる事だけ書く。

 多分魔王には勝てるだろう。けどリリアは分からん。だが大丈夫だと信じている、頑張れ。

 お前らといた時は結構楽しかったぜ、そんじゃあな』

 

遺書とは思えない程てきとうな文だった。だがそれがラックらしい、前勇者はあまりの適当さに少し笑いがこぼれた。

この遺書で少しだけ勇気付けられた気がする、前勇者はすぐにでもアルス達の元へ向かう為準備を始めた。ラックの剣を持ち上げアビリティで小さくする。

アビリティは剣に憑くモノなので誰でも使う事が出来るのだ。

そして三本の剣を手にした前勇者はメルトの元へ近寄る。そして自分の剣を引き抜く。

 

「ああああ!!!」

 

声にならない声を上げながら突き刺そうとする、だが寸前で止めた。ここで殺しても負の連鎖が続くだけなのだ。そんな事になるより生かしておいた方がマシだと思ったのだ。そしてせめてもの報いとして魔王が死ぬ場面を目に焼き付けてもらう為玉座の間まで連れていく事に決めた。

自分で歩く事は出来ないだろうから前勇者が無理矢理腕を引っ張り連れ歩く、メルトは落ち着きはしたものの薄く涙を浮かべていた。

一方バリゲッドは未だ迷路の様な道を彷徨っていた。

 

「こんな道なかっただろぉ...」

 

ゴドルフィンとラックが死亡しているなんて見ず知らずのバリゲッドはアルスと合流しようと歩き続けている。すると足音が聞こえて来る、すぐに盾を構え音の鳴る方を警戒する。

よく聞いてみると足音だけじゃない音も聞こえてくる、ポトッポトッと何か液体が流れ落ちている音も聞こえて来ている。それだけは無い、変な場所から音が聞こえて来ているのだ。

 

「壁の中?」

 

そう呟いた瞬間足音が止んだ。だが水滴が落ちる音は止まらなかったので何処にいるかは大雑把だが理解できている。何も進展が無いので話しかけようと口を開きかけたその時歩いてきている人物の方から会話を試みてきた。

 

「そこにいるのは..誰だ..」

 

「お前こそ誰だ」

 

「バリゲッドか!?」

 

驚きと興奮、嬉しさが混じった声を出しながら壁からある男が飛び出してきた。壁から出て来たことなんて気にならない程ボロボロの男、[ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン]だ。

 

「やっと会えた..久しぶり」

 

「久しぶり..だけど何故俺の所へ?」

 

「覚えてない?君が小さな時にカリアストロ付近でぶつかった魔人」

 

バリゲッドは二秒程度固まってから思い出した。そして目を丸にしてファンタスティアを眺める。よく見ると面影はある。

 

「お前が!?」

 

「僕がそうだ!!」

 

「ええええ!!!」

 

「そう言う反応をしてくれて嬉しいよ..それでなんで一人なんだい」

 

「いや..なんかいつの間にかはぐれちゃって」

 

「そうか...じゃあ僕が勇者の所まで連れて行ってあげるよ」

 

「その前に少しだけ話しない?」

 

「?別にいいけども」

 

バリゲッドは力を抜きファンタスティアと話を始めた。

 

「何故君は魔王の部下なんかになったんだ?」

 

「...僕は友人を前勇者に殺された。しかも目の前でだ。そして前勇者も殺したいしバリゲッドとも話したかった、だから魔王様の部下に入るのが一番良いと思った...と言いたいんだけど実は魔王様の圧が強すぎてね..不可抗力と言うやつさ」

 

「そうか..じゃあもう戦わなくて..」

 

「いや、前勇者が来ている。そいつを殺すまでは...」

 

そう言いかけた瞬間遠くから女の人の声が聞こえてくる。それは魔法の名前だ。

 

『マシュテン・ウェルベンズ』

 

遠くから無数の針の様なものが飛んでくる。ファンタスティアはボロボロで回避が出来なさそうだったのでバリゲッドが盾で防いだ。やはり五年前のバリゲッドとは比べ物にならない反射神経だ。

 

「大丈夫!?今もう一発...」

 

「やめてください!!」

 

バリゲッドが叫ぶと女性は杖を下ろしどういった状況なのか説明を求めてくる、バリゲッドは冷静に全てを話した。昔の事から全て。話を聞いた女性は杖をファンタスティアに向ける。

 

「やめてくださいって!」

 

「あの人を殺そうとする奴なんて..」

 

「バリゲッド、やめろ。この人は前勇者の奥さんだ」

 

バリゲッドは完全にやらかしたと思い背筋が冷え始める。このままではファンタスティアが死んでしまう、魔人で魔王の部下とは言えども思い入れのある“友達”だ。

どうにか止める方法が無いか模索しとりあえず延長させる事にした。

 

「待ってくださいって!こいつは根は良い奴で..」

 

「でもあの人を殺そうとしてるんでしょ、私は許せない。何があろうと許せないよ」

 

「それでも!」

 

「いい加減にしてよ!!アルス君が魔王と戦おうとしているのに貴方は魔人を庇うの!?」

 

「それは..」

 

バリゲッドはもう何も反論できず黙り込んでしまった。奥さんは少し待ってからバリゲッドの反論が無い事を察すると魔法を放とうとする。だがファンタスティアが大人しくしている訳が無くある一言を残してからアビリティで透明化し何処かに行ってしまった。

 

「それじゃ、また会おうね」

 

ファンタスティアが居なくなり残された二人の間では微妙な空気が流れる。先に口を開いたのは奥さんだった。

 

「なんで?」

 

「...俺はあいつが悪い奴じゃないって分かってるんです」

 

「魔王の部下が良い奴なんて...」

 

「あると思いますよ。そもそも魔王は悪い事なんてしてないじゃないですか」

 

「..そう言われればそうだけど..」

 

「魔王が良い奴かは判断できませんが少なからず被害は出していません。彼ら彼女らは別に人国を脅かしたいのではなく魔王国を安定させたいだけなんですよ!だからわざわざ殺してしまう必要なんて...」

 

奥さんは少し黙ってから心の中で決意を固めある話を始める。

 

「私ね..半分人間じゃないの」

 

「は?」

 

「みんなには秘密にしておいてね..お母さんがモンスターと子供を作ったの、それが私。でも風当たりは強くてお母さんは殺された..私とおばあちゃんも公に出れる立場では無くなった、そんな中おばあちゃんがある男性を紹介してくれた。それがあの人だった...けど産まれた子に辛い思いをさせたくないからって言う理由で子供は作らなかった...けど結局はアルス君に辛い思いをさせただけになっちゃった..親御さんがいないのに勇者の責務を任せちゃって...」

 

「それに関しては重く思わなくても良いと思いますよ」

 

「そうかな...どちらにせよ私は魔物や魔人が好きじゃない。結果的にあの人と会えたのは良かったけどあまりにも負の出来事が多すぎた...だから当てつけとして殺すしかないの」

 

「なら賭けをしませんか」

 

「賭け?私今お金無いよ?」

 

「違いますよ。俺が先に玉座の間に到着したら殺さないでください、精々半殺しで。逆にあなたが先に着いたら殺して良いですよ」

 

「でも私この城初めてだから不利じゃない」

 

「先に入った四人は幻覚のようなものを見せられています。ですが幻覚でも通り抜ける事は出来ないです。なので俺達もほぼ初めてみたいなものなんですよ」

 

奥さんは数秒間バリゲッドの目を凝視し嘘をついていない事を確認してからその賭けに乗った。そして何も言わずに壁の中に入って何処かへ行ってしまった。

バリゲッドも向かおうとしたその時目の前にファンタスティアが現れた。

 

「うお」

 

「その賭け僕がいれば確実に勝てる」

 

「いや、いらないよ。俺は勝つから、安心して好きに動いていてくれ」

 

「...もう助けはいらないか..ごめんね。じゃあ僕は行くよ」

 

ファンタスティアは言い終わると同時に姿を消した。バリゲッドは早速廊下を歩み始めた、全て感覚で向かうのだ。

これは詰めていくつまらない賭けではない、運命で決まる謂わばルーレットの様な物だ。二人共それは理解している、だが運命だけだと信じ込んでいる方が負けるのだ。

全ては収束する、全て運だと言い続け進む奴よりも少しの変化に気付きそこにひっそりとつけ込む事が出来た奴が勝つのだ。結局は粗探しと言う事になる。

ただの粗探しに友人を使って勝つ程バリゲッドは落ちぶれていない、自分の力で友人の命を手にするのだ。

そんな事をしている一方アルスはある場所へ到達していた。

 

「着いた..玉座の間..バリゲッドとは合流できなかったけど来てくれるでしょ...よし行くぞ」

 

筋肉を動かし決戦の幕を開けた。

 

「来たか!!!!!」

 

あまりの声の大きさに驚き固まる。

 

「どうした!!!!!」

 

「あ、いや..うるさいなって」

 

「...むぅ」

 

「とりあえず来たよ。やるんでしょ、決闘」

 

「あぁ。準備は出来ているのか?見た所盾の男がいないようだが」

 

「大丈夫だ、来てくれるさ...それよりそれってなんだ」

 

アルスは魔王の横にある物に目が行く。それは砂の入った瓶の様な物だ、初めて見るのでついそちらに興味が向かってしまった。

魔王は自慢気に説明する。

 

「これは砂時計だ!!一日の時間が測れるぞ!!この砂が落ち切ったら一日が終わったと言う事だ!!そしてこうやって...」

 

魔王は砂時計をひっくり返した。その行為をする事でもう一日を測れると説明する。だがアルスはあるポイントに突っ込む。

 

「それ今ひっくり返したら時間ズレるんじゃ...」

 

「ああああ!!!!!!またメルトにやってもらわなくては..」

 

「いや、やらなくても大丈夫だよ。君はもう死ぬからね」

 

「ほう、随分と偉い口をきくじゃないか。ならば答えてやろうその勢いだけの心に」

 

魔王の雰囲気が変わった。邪悪な気配が漏れている、アルスはギフト・ソードの方の柄を握り引き抜いた。魔王は懐から剣を出す。その見た目は黒や紫などで出来た相当趣味の悪い剣でどう考えても背丈と同じぐらいの長さだ、とは言っても魔王が小さすぎるだけで剣の長さ自体はアルスとほぼ変わらない。

そんな事は置いておこう。二人は見つめ合ってから同時タイミングで踏み込んだ。そうして遂に始まりを迎えた、勇者と魔王の繰り返される愚行が。

 

 

第15話「遺言書」

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