堕落勇者に立ち上がり -ギフト・ソード・ワールド-   作:はんペソ。

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第19話

堕落勇者の立ち上がり

第19話「仮面の裏側、家族に剣を」

 

アルスは首が飛んだが一瞬で元に戻り傷も全て無くなっている。

綺麗に着地し魔王に突撃する。だがそれを止める者が居た。

 

『カリシュリニア』

 

前勇者の奥さんに引き寄せられた。そしてお叱りを受ける、もう少し安全な戦い方をしろと。だがアルスは反省はしていない様子ですぐにでも攻撃を再開しようとする。だが同じ魔法で引き寄せ行かせない。魔王も律儀に待ってくれているのでしっかりと言い聞かせる。

 

「あのね!いくら勇者と言えどもう少し...」

 

「大丈夫ですよ、僕は負けません。勝ちへの道は見えてきました」

 

「そう言う話じゃなくて!もう次死んだら終わりなんだよ!?」

 

「分かってます。だけど今仕留めます、僕が、この手で」

 

「...しょうがないなぁ...手助けは?」

 

「大丈夫です...いや、ちょっと危なくなったら欲しいかな、バリゲッド。奥さんはあっちを見ててください」

 

アルスはそう言いながら前勇者の方を見つめる。奥さんはほんの少し呆れつつも背中を押す、バリゲッドはアルスがピンチになった場合割り込めるように構えている。

ゆっくり冷静に近付いて行く、魔王はこれで終わりだと確信し余裕だと思っていた。だがアルスにはある作戦があった。その作戦が成功した時点で勝利は確定する、再度笑みを浮かべながら走り出す。

 

「来い!!!」

 

「言われなくても行ってるよ!」

 

アルスは物凄いスピードで距離を詰め予備動作も無しに剣を振る、一見ろくな力も無さそうな斬撃だがとんでもない威力があった。何故なら予備動作自体はしていたからだ、速すぎて目に捉える事が出来ず予備動作無しに剣を振っている様に見えただけなのだ。

アルスは成長している、自分を斬る訓練を終えたは良かったがその後は結局実戦に使えていなかった。だがこの高度な鍔迫り合いを繰り返した事によりコツを掴んだのだ。

 

「強くなったな、一瞬で」

 

「あぁ。僕は最強だからね」

 

「いや、最強は私だ」

 

魔王も応えるように攻めてくる。アルスは剣で受け止めている、だがこのままではジリ貧だ。剣から手を離し左側にスライドする、魔王は何も力がかかっていない場所に攻撃しているので体勢を崩す。だがアルスも剣は持っていないので何とかなる、そう思った矢先アルスはとんでもない行動に出る。

右手で剣身を握り引き寄せる、そして左手で剣を掴み取った。そして今度は本当に予備動作などなく乱雑な斬りを魔王に放った。

 

「うわ!」

 

魔王はそんな声を出しながら背中に一撃もらった。予備動作はなかったはずなのに相当深い傷が出来ている。

 

「五年の間僕は体の強化は勿論左手も聞き手の右手と同じ程度には扱えるように訓練をした。だからこういう事も出来るのさ」

 

「流石勇者..身体強化が強いな..」

 

「そんな事言ってる暇は無いよ」

 

アルスは次の斬撃を送る。だが魔王はすばしっこく避け体勢を整えて行く、そして隙が出来た瞬間斬りかかった。

ただアルスは完全に見切っていた、軽々と交わし反撃を行おうとする。だが魔王もそれぐらい読めていたのだろう、ウインクをしながらアルスに向かって指を鳴らす。

 

「どっかーん」

 

それは魔王の能力である『物体を倍増させる能力』だ。先程のように爆発を起こした、アルスは絶体絶命化と思われたが手は先に打っていた。

その衝撃は全て盾に吸収される。バリゲッドが割り込み防いだのだ。

 

「あぶねぇ!鍛えてなかったら間に合わなかった!衝撃は大丈夫か!?」

 

「うん。ありがとう」

 

「あんま危ない戦い方するんじゃねえ!」

 

「分かってよ、それじゃ危ないから下がってて」

 

アルスはバリゲッドから離れて魔王の元へと向かう。今回はギリギリ間に合った、だがこれも必然だったのかもしれない。

今は運に身を任せるしかない。それだけ頑張ってもアルスの作戦は時間がかかる、まだ手の内は隠しているが見せつける前に倒されてしまっては元も子もない。

 

「そろそろ観念したらどうだ!!!」

 

「僕のセリフだよ、それ」

 

アルスは全く顔色を変えず笑顔を崩さないで戦い続けている。正直バリゲッドには追えていない、何処か動きが遅くなったタイミングで割り込むぐらいしか出来ない。

更にスピードが上がって行く、前勇者も現勇者のアルスもスピードが速すぎて第三者は介入するにも一苦労なのだ。だがそれが本来あるべき姿なのかもしれない、誰の助けも借りず一人で魔王を倒す。そう思ってしまう程には速い戦闘だ。

 

「じゃあこんなのはどうだ」

 

魔王は距離を取ってから剣を頭上に投げた。そしてそちらに向かって指を鳴らした。すると剣がとんでもない勢いで増殖して行く。だがそれだけではない、魔王は増えた剣の後方の空気を増殖によって爆発させた。

すると剣達はアルスに襲い掛かる。しかもスピードや威力、剣先の方向も様々で対応が難しい。かと言って今バリゲッドが入って来ても防ぎきれるとは思えない。

 

「どうだ!!これなら...まじか」

 

魔王はあまりの行動に驚愕する。アルスは痛みを和らげるため自分の剣を神経が多く通っている手に突き刺し剣の群れをやり過ごしたのだ。だがもうボロボロで血だらけ、やっとの事で立っていると言う状況だ。

 

「凄いな..昔見たんだ..ラックの家に置いてあった..感覚がマヒするんだね...やっぱラックは凄いや」

 

「そんな防ぎ方する奴見たのは二度目だよ、本当に頭がおかしい奴らしかやらないんだな..だがもうこれで終わりだ!!!」

 

魔王は再び剣を増殖させる、そして同じ様に空気を爆発させたその瞬間アルスの体は勝手に移動する。

 

『カリシュリニア』

 

前勇者の奥さんが引っ張ったのだ。だが魔王は空気を爆発させ進路を変更させた、ただその剣はバリゲッドの盾が防ぐ。五年前とは別人のような反応速度、バリゲッドも鍛え続けていたのだ、鍛冶の腕前と共に。

 

「とりあえず私が回復させる!それまで耐えて!」

 

「分かってますよ!!」

 

バリゲッドは次々飛んでくる攻撃を盾一枚で防ぎきっている。魔王も流石におかしいと思いバリゲッドに訊ねる。

 

「その盾、何かおかしくないか?強度が」

 

「これは俺が毎日のように改造を施したんだ!だから強固な盾となっている!だけどほぼ当たり所が良いだけで運で何とかなっていると言っても過言では無い!」

 

「ならば今すぐ壊してやろう!!」

 

魔王は剣を飛ばすなんてくどい方法はせずシンプルな空気爆発で盾を壊そうとする。だがバリゲッドはがっしりと構えてどうにでもなれと思い防御を続けている。

 

「何故壊れない?」

 

「俺も分かんねえよ!そんな不思議なら止めろよ!」

 

「それは出来ない」

 

魔王は何回も爆発させる。だがバリゲッドの盾はヒビ一つ入らない、魔王は何か変な力が働いているのだろうと思う事にして後方で回復魔法を受けているアルス付近の空気を爆発させようとする。

 

「これで、終わりだ!!!」

 

指をアルスに向けたその瞬間玉座の間の扉が吹っ飛ぶ、それと同時に十一人の兵士と先導して来たアレキサンダーが突入して来た。

 

「うおおおおお!!!!!」

 

「わんっ!!わんっ!!!」

 

アレキサンダーが魔王に噛みつきに行き兵士たちは身を挺してアルスの位置を隠した。アルスと奥さんは少し移動し適当に爆発させても当たらない位置に移動した。

アレキサンダーは魔王に噛みつく寸前で周囲を爆発されてしまう。だが完璧な身のこなしと野生の直感で回避した、そして噛みつきはしなくとも時間を稼ぐ。

 

「アレキサンダーが時間を稼いでいます!!その内に体勢を...」

 

兵士の一人がそう言いかけた瞬間に足元の空気が爆発した。魔王に吹っ飛び天井に打ち付けられた、他の兵士が恐怖や怒りなどの感情を表に出そうとするが魔王討伐を優先とするよう命じられた為自分の事なんか押し込んでアルスを護る。

 

「わんっ!!!」

 

アレキサンダーが気を引こうとするが魔王は視界にすら入れない。ゆっくりと確実に狙いを定めてから指を鳴らす、先程と同様に足元が爆発し兵士が二人血を流しながら吹っ飛んだ。

兵士達の足は震えている、何故こんなにも数秒が長いのか理解できない。この兵士達はエリートだが実際に魔王や直属の部下と対峙したことは無かったのだ。

 

「兵士さん達はもう良いから!私が何とかするから!」

 

奥さんがそう言って兵士たちを逃がそうとする、だがその中でも一際たくましい背中をしている漢がそれを却下する。

 

「我々はあなた方を身を引き換えにしてでも護れと命じられた!!だから引く事は許されないのだ!!そんなに引いてほしいのならば早く回復するのだ!!」

 

その間にも一人一人兵士達が撃沈していく。流石に危険だと感じたのか二人を相手にしていた前勇者が話しかける。

 

「大丈夫か!?」

 

返答をしたのはアルスだった。だがその返事は前勇者だけではなくその場にいる全員に対するものだった。

奥さんの指示を拒否した兵士の肩を叩きながら言う。

 

「大丈夫です。もう、終わりますから」

 

アルスはアイコンタクトを図った、漢もうなずき後方に引き奥さんを護る体勢に入った。

前勇者も返事を聞き安心したのか最高スピードに戻した、猫騎士もファンタスティアもそろそろ決めないと魔王がやられてしまうと思い本気になり出す。

 

「どけええええ!!!」

 

「もういいだろ!死んでくれよ!」

 

「ばかじゃねえのか?俺が死んだら悲しむ奴がいるんだよ、だから死ねない。だがそれはお前らも同じだ、だから殺さないで足止めで留めてやってんだぞ」

 

その言葉を聞いた猫騎士は限界を迎える。度重なる煽り、魔王への侮辱、そして舐めた戦い方、もう限界だったのだ。

自分の不甲斐なさを今までにない程感じる、そして今が、今こそが仮面を外す時なのではないかと思い出す。

だが今では無いのかもしれない、この後の数秒、その時に外すべきなのかもしれない。だが猫騎士は判断力が衰えていた、長い戦闘に日々の訓練の疲れが祟ったのだ。

 

吾輩にはメルトやファンタスティアの様に悲しい過去や経験は無かった。だが共に過ごしていく内に仲間としての精神は芽生えた、この気持ちは初めての物だった。だから失いたくはない、どうにかして、護り抜きたい。初めてそう思えたのだ。

だがもういいだろう、どうせ今日で終わる命なのだ。折角ならば、格好つけて死ぬまでだ!

 

ゴギン、それが一番合っている擬音だ。そしてその音が鳴ると同時に[ハーミット・シュワレペントゥ・キースイッチ]の仮面、鉄鎧が砕け散った。

それと同時に本能に刻み込まれた極限の力が引き出される、途轍もないパワーで剣を振る。前勇者はラックの剣を盾に変え防ごうとした。

だが猫騎士の剣は無情にも[ラック・ツルユ]のギフト・ソードを叩き割った。すると前勇者は怒りを越えた殺意の顔を押し出しながら声を上げる。

 

「何やってんだ!!!おまええええ!!!!!」

 

そして先程までのスピード重視の攻撃では無く力に特化した思い斬撃を振りかざす。だが背後からファンタスティアが攻撃する、対応しないわけにはいかず殺意を抱えたまま戦闘スタイルを元に戻した。

だが猫騎士の威力とスピードが何倍にも上がったことによって前勇者が押され始めた、少しも押し戻す事が出来ずにだたひたすらに押されるがままなのだ。

一方アルスは周りを見ていなかった、いや見えていなかった。今アルスの視界にあるのは自分の斬撃と魔王の斬撃のみだ、それ以外は何も頭に情報が入ってこない。

 

「楽だぁ」

 

無駄な情報を処理しなくていいので非常に楽だ。魔王はアルスが極度の集中状態(ゾーン)に入っている事を察知していた。

だからと言って何かが出来るわけではないので変わらず攻撃をするしかない。

 

「ゾーンにしても速く..なりすぎっ..だろっ!」

 

アルスは勇者の身体能力に加えて極限状態(ゾーン)にも入っているので人間とは思えない速度で動いているのだ。魔王も追いつけているだけ凄いのだが非常に押され気味で少し焦り出している。だがアルスにはその表情さえも視認できていないので機械的に淡々と避け剣を振るう。

だが周囲の音などの情報が多すぎて段々とゾーンから抜けて行く、アルスは決めた。

 

「終わらせよう」

 

その瞬間更にスピードが上がった。魔王は致し方ないとアルスの中の血液を倍増し殺す事にする、指をアルスに向けたその瞬間剣が目の前まで近付いて来る。

すぐに顔を逸らし回避には成功したがアルスの動きが速すぎて攻撃などしている場合ではない事にやっと気付いた。

 

「クソ!!」

 

魔王は乱雑に周囲の空気を爆発させる、だが集中力が半分程度になったアルスでもそれぐらい避けられる。

しっかりと距離を詰め勝利の手立てを掴み取った。その掴み取った物、それは魔王の肩だ。左手で魔王の左肩をがっしりと掴み右手で剣を動かす。

 

「ばーか」

 

なんと魔王は苦肉の策として自分とアルスの僅かな隙間を爆発させた。当然両者に相当の衝撃がぶつかる、だが両者怯まず再度起点を作るため動く。

アルスは一気に距離を詰めるが魔王は足元を軽く爆発させて距離を取ってしまう。ゾーンが切れたら勝機は無いと判断したアルスはある行動に出る。

 

「しょうがないか」

 

アルスはギフト・ソードを投げ槍の様にぶん投げた。魔王は剣で弾いたがアルスはそれが狙いだった、速攻で距離を詰め剣を掴んだ。

そして途轍もない力で剣を魔王から引き剥がした。そして後方に投げた、魔王が爆発で引き戻そうとしてもすぐに駆け寄り後方に蹴り飛ばす。

 

「丸腰で勝負しろって事か」

 

アルスは返答すらしない。

だが状況が物語っている。ただアルスに勝機は無い、剣は無く身体能力だけで戦わなくてはいけないアルスと能力で戦える魔王、どちらが勝つかは明白だ。

 

「まぁいい。終わりだ」

 

棒立ちのアルスに向けて指を鳴らした。その瞬間アルスの周囲の空気が爆発した。

アルスは死亡、するわけがない。バリゲッドが必死の思いで防ぎ切った。だが衝撃を完全に受け止める事は出来ず数個所から血が出てくる。

 

「アルスなら倒せるか!?」

 

「あぁ。絶対に倒せるさ」

 

「そうか..なら行け!こいつを倒さないと俺ら一緒に墓場行きだ!」

 

「言われなくても、分かってるよ」

 

アルスは先ほどまで集中していたせいか真顔だった。だが今は少し笑っている、バリゲッドはこの時確信した、勝ちだと。

アルスは距離を詰める、魔王は何回も何回も爆発を起こした。だが一撃も当たる事は無くタッチが出来る距離まで詰められた。

 

「お前の負けだ、アルス・ラングレット!!!」

 

魔王はニヤリと笑いながら指を鳴らした。その瞬間二人のすぐそばで爆発が起こった、先程と同じ状況だ。だがアルスはうろたえない、そもそも魔王を殴るために近づいたわけではないのだ。

 

「ありがとう、策に嵌まってくれて」

 

アルスの体は傷一つ無かった。寸前まで付着していた血も無いし切り傷すらない、魔王は後方を向きとある物を確認してから全てを悟った。

 

「僕の勝ちだ、魔王」

 

アルスは拾ったギフト・ソードを使って魔王を斬った。とても大きな傷が出来ると同時に血が噴き出す、兵士、バリゲッド、前勇者、奥さん、猫騎士、ファンタスティア、全員の動きが止まる。

何が起こったのか理解できなかったのだ、何故アルスは生きているのか。バリゲッドが恐る恐る訊ねる。

 

「なんでだ..?なんでアルス..傷が」

 

「簡単な事さ。リセットされたんだ。一日が」

 

「は?」

 

「僕の能力は『一日に一回生き返れる』だ。そしてその一日の定義は今までよく分かっていなかった、だが今日分かったんだ」

 

そう言いながら玉座のすぐ傍にある物に指を差す。そこには砂時計があった。

 

「あれは?」

 

「砂時計と言って砂が落ち切って上段が空になったら一日の日付が変わるという代物だ」

 

砂時計を見た事により定義が定まり再度生き返れたのだろう。そこまではギリギリ納得できるが矛盾している点が一つある、そこには前勇者が突っ込んだ。

 

「でもその砂、半分しか落ち切ってないぞ?」

 

「その答えも簡単だ。魔王がずらした。僕に仕様を教える際誤って砂時計を反転させてしまった、そして残っている砂はほぼ半分だった。僕はそれを覚えていたから時間を稼いだんだ、眠かったし一人になりたかったのは事実だ。だが時間を稼ぎ砂時計が半分になったタイミングで決めに行った。それだけの話さ」

 

「って事は...」

 

「あぁ。僕たちの勝利だ」

 

バリゲッドは心から喜びアルスを褒め称える、だが後方に居る二人は怒りがせり上がって来る。血を大量に流しながら倒れる魔王様の前で淡々と説明をするアルスに。

 

「あああああ!!!!」

 

「死ねええええ!!!」

 

二人はアルスの所へ向かおうとする、だが前勇者が二つの剣を使ってそれを止める。二人は暴れ前勇者を退かそうとする、強行突破でも良い。だから魔王様の元へ、行かなくてはならないのだ。

元々溶けかけていたファンタスティアの仮面はいつのまにか取れていた、怒りによる制御の崩壊。二人は凄まじいパワーで前勇者を殺そうとする、ラックの剣が無くなった前勇者は受け止めきれず斬られそうになった。

バリゲッドや兵士、嫁が止めに入ろうとしたその時だった。その中の誰でもない者が間に入り身を挺して剣を受け止めた。

 

「もう...やめよう...やめようよぉ...」

 

「何故間に入った!!メルト!!!」

 

「どけ!メルト!」

 

「もうやめようって!!!こんな事しても意味が無い!!!負の連鎖が続くだけだよ!!!」

 

「だが今は!!」

 

「そうやって一時の感情で人を傷付けるから連鎖は止まらないんだよ!!」

 

メルトは泣きながら二人に訴える、二人は次第に怒りも収まって来る。次第に悲しみと言う感情が出て来る、すると一瞬で怒りは悲しみに浸食され力も抜けて行く。

へたり込んで自分の弱さに打ちひしがれる。メルトも全部が終わったと分かっているので安心したのか力が抜けて行く。そして目からは涙が溢れ出す。

 

「お前ら...俺は許さないからな...どれだけ大層な理由があろうとラックとゴドルフィンを殺したと言う事実は消えない。俺は絶対に...許さないからな」

 

前勇者も剣をしまい三人に罵倒を浴びせるしかやる事は見つからない。バリゲッドもアルスも動く事は無い。だが前勇者の嫁[サラス・シグリン]だけは杖を持って三人に駆け寄る。

そして三人に向けて魔法を放った。

 

『ヒール・アメイジング』

 

するとみるみる怪我が治って行く。だがファンタスティアの左腕と猫騎士の片目は治癒が遅くなったせいで治る事は無かった。

 

「何故私たちにかけるのだ」

 

「行くの」

 

「?」

 

「行くのよ。あんた達も。それで魔人が悪い奴じゃないってことを証明して、そうすれば私もおばあちゃんも表に出れる。だからその為にあんた達は生きてもらうの」

 

「僕は...その人を許してなんかいません」

 

ファンタスティアは前勇者の方を睨む。

 

「俺だって許しちゃいない。やるってならやってやるよ、次は殺すけどな」

 

「...」

 

ファンタスティアは黙りこくる。そして数秒沈黙が続いたその時アルスの背後から声が聞こえる。

 

「三人..を..連れて..来てくれ..」

 

魔王が残っている僅かな体力を使って声を出す。三人はすぐに反応して立ち上がりアルスを退けて魔王の元へと向かった。

魔王は三人がいるのを確認すると短いが話をする。

 

「もう..限界だから..短く話すぞ...我はお前らとは少し違う..だが数年の時を共に過ごした..するとどうだ..家族だと思い始めたんだ...私には家族なんていなかったからな...嬉しかったんだ...調子に乗り過ぎたのかもしれない...だがこれで良かったと..思う..最後に頼みがある...勇者も聞け..」

 

「なに?」

 

「魔王国と..人国を繋いでくれ...誤解を解いて...くれ...」

 

「無理。約束はできない、僕はもう隠居生活を送る」

 

「そうか..じゃあバリゲッドでも良い...なんとか...頑張ってくれ...」

 

「俺も約束はできない、ファンタスティア以外の魔人を良く知らないからな」

 

「そうか...無理を..言って...すま..ない...だが..これだけは伝させてくれ...幸福を祈っている...ぞ....」

 

魔王はそう言って目を閉じた。メルトはより一層強く泣き猫騎士は魔王の手を強く握る、ファンタスティアは拳に力を入れ下唇を噛む。

そんな三人をアルスが退ける。

 

「少し退いて」

 

そしてアルスはギフト・ソードを魔王の遺体に突き刺した。猫騎士が何か言おうとしたがそれより先に魔王に声をかける。

 

「これは勇者の剣だ、もう必要はない。アビリティも消えただろう。だから、これと一緒に逝ってくれ」

 

そして立て続けに魔王の剣を突き刺した。

猫騎士はそれを見て自分も決めた。今後はこんな物必要ない、そう思った。だから突き刺したのだ、自分のギフト・ソードを。

ファンタスティアも同じ考えだった、魔王に言われた通り人国と共存の道を行く。その為にこんな物は必要ない。ファンタスティアも同様にサーベルを突き刺した。

メルトも同じ気持ちだった、だが自分の剣は今ラックの死体の傍にある。自分は刺さなくてもいいか、そう思った時背後から声がする。

 

「わんっ」

 

振り向くと血塗れのレイピアを加えたアレキサンダーがいた。

 

「あ、ありがとう...」

 

メルトはレイピアを受け取った。そして言葉を掛けながら最後のギフト・ソードを突き刺す。

 

「ありがとうございました...魔王様...私達に生きる道を作ってくださり..ありがとうございました」

 

そうして五本の剣が刺さった。だが全ては終わっていない。埋葬などもあるが今回の本命だ。

 

「じゃあ僕は、行ってくるよ」

 

誰も何も言わなかった。アルスが何をしに行くかは理解していたからだ。

 

「今行くよ、メルト」

 

 

第19話「仮面の裏側、家族に剣を」

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