堕落勇者に立ち上がり -ギフト・ソード・ワールド-   作:はんペソ。

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第7話

堕落勇者の立ち上がり鎧

第7話「相棒」

 

ラックは早速先手を取ろうと殴り掛かる。女はレイピアで刺して攻撃を止めようとする、だがラックは気持ち悪いぐらいに速い動きで回避して殴った。

女は吹っ飛び壁にぶち当たる。だがすぐに立ち上がり攻撃を試みる、だがラックは手の動きを見てから避けてしまう。

 

「速いな、スピード勝負では勝てないか」

 

「あぁ。あんまり俺と真っ向勝負しようって奴はいねぇよ」

 

「仕方がない、少し苦手なのだが一撃の重さが勝敗を分けるのだ、仕方がないな」

 

女はスピード勝負では勝てないと判断し一発一発が強くするよう方向性をシフトチェンジした。そして溜めに溜めて人間の急所を確実に突くようにレイピアを放つ、だがその溜めに溜めている時間は三秒だ。

ラックも対応できず喉を突かれた、だが喉に穴が空いたぐらいじゃ倒れないのがラックだ。

 

「それで倒せると思ってんのか?」

 

ラックはレイピアを掴み逃げれなくした状態で自分も力を溜めに溜めて思い切り腹部を殴った。その女の肋骨が四本ぽっきりと折れた。だが女は怯まないでレイピアを抜き今度は心臓部に突き刺す。ラックもこれには少し焦った様子で無理矢理レイピアを引き抜いてどうにか止血をしようとする。

 

「させる訳が無いだろう」

 

女は追撃でもう一突き心臓部に穴を空けた。ラックは決めた、傷が出来てもどうせリリアが回復してくれるのでもう特攻隊のように戦う事にする。

 

「やっぱ傷が出来ても良いってなるとよぉ!もうなんも怖くねぇなぁ!!」

 

そう声を荒げながら殴り掛かる、それまでの攻撃と違い凄まじいスピードとパワーだ。あまりに勢いが強すぎて切れて拳から血が出ている、そんなパンチをくらったらどうなるかなど分かり切っている。女は回避することに必死になる。

 

「おいおいどうした!?急に逃げ腰じゃねぇか!!」

 

ラックの攻撃はどんどん勢いと力が増して行く。本当に青天井なのではないかと思うほどに威力が上がっていく、もう殴った時の衝撃波だけで離れている壁に傷が出来てしまうぐらいだ。

もう一発でもくらったら負けだ、そんな状況でレイピアを刺しに行けるわけがない。もうラックが大量出血で動けなくなるのを待つしかない、そう考えて回避に専念することにした。

 

「悪いが私が勝つだろうな」

 

「そうかそうか!!とんだ切り札があるようで何よりだよ!!」

 

ラックは吹っ切れてから一度も攻撃を止めていない、もうそう言ったアビリティなのではないか、そう思ってしまう程の力だ。

どうするべきなのか、考えても見当たらない。もうかすっただけで動けなくなってしまうだろう、どうすれば確実に倒せるか考えながら回避し続ける。

 

「そうだ」

 

良い案を思いついた女はレイピアをラックに向かって投げつけた、当然ラックはそれを蹴って跳ね除けた。だがその瞬間目の前に女が近付く。レイピアを囮にして攻撃しようと言うわけだ。

そしてその攻撃は見事に決まりラックは少しの距離を転がった。だがすぐに体勢を整え動き出す、先程と同じように殴ったが威力が下がっている。

 

「やはりそうか。原理は分からんがお前は気分が上がっているほど力が増すようだな、そして私が一発殴って一瞬受け身の事に全神経を集中させた。そのせいで気分が普段通りに戻ったのだろう。そういうアビリティでは無かったはずだが...」

 

「何ぶつぶつ喋ってんだよ」

 

ラックが一瞬で距離を詰めて殴った、だがさっきまでの攻撃に比べると拍子抜けする程度の威力だったので怯まず殴り返す。ラックは魔人の力を体全体に感じながら吹っ飛び壁に当たりそうになるがギリギリで受け身を取り最低限のダメージで済ますことが出来た。

だがその間に女はレイピアを拾ってしまった。ラックは再び劣勢になってしまった、だがそんな事お構いなしに殴り掛かる。

 

「遅いな、全然交わせるぞ」

 

女はひょいっと交わしレイピアを脇腹に突き刺した。ラックは理解する、どれだけテンションを上げられるかがコツになっているのだと。だがそのテンションを上げる行為がこの敵に対して非常に難しい、だがやるべき事はその戦闘方法を極める事ではないのだ。ラックは無造作に弱い回し蹴りを繰り出す。当然女は回避して反撃をする、だがラックもそれぐらいは読めている。

 

「残念だな」

 

そう言ってもう片方の足で顔面を蹴った。両足が地から離れ宙に浮いている状態だがラックには大したことじゃない、しっかりと着地し攻撃を再開する。

再びラックが優勢になってくる、凄まじい猛攻にガードもせずただ逃げるだけの女はさっきと同じ方法では通用しないと分かっていたので違う方法でラックの気分を下げようとする。

 

「関係の無い話にはなるがお前のギフト・ソードはここにはない、私達はお前の剣をまだ買っていない」

 

「あ?嘘も体外にしろよ?そんなんでテンションが下がるなんて思って...」

 

「ならば真実を言おう、壊した」

 

ラックは動きを止め目を丸くする、そして聞き直した。だが同じこと言う、流石のラックでも少し怒りを露わにする。

 

「お前ぇ!」

 

ラックは殴りかかる、だがこの時はテンションが上がっているどころかダダ下がりだったので女にとっては全く痛くない攻撃だ。女はわざと攻撃を受けその時に生じる隙を突きレイピアで右耳の耳たぶを刺した。

 

「うがぁ!!!」

 

訳の分からない奇声を上げながらラックは耳を抑える、なんだかんだ言いつつ心臓部などより耳に刺される方が痛かったりするものだ。ラックはどうにか女を倒せないか考える、ひたすら殴っても良いが現状では傷一つ負わせることが出来ないだろう、ならば元々やろうとしていた戦法で戦うしかない。時間を稼ぐのだ。

 

「なぁ..なんでお前らはそんなに魔王を支持するんだ..?一般の魔人やモンスターも苦しんでいるんだぞ、それなのに何故魔王なんかを...」

 

「あまり偉い口を聞くな、私の気に障る。だが答えてやろう、魔王様に従ってこそ我々魔王国の民というものだ」

 

「それだけか?」

 

「あぁ、それ以外に何の意味があるのだ」

 

「バカじゃないか?一般の民を蔑ろにするような奴がトップに立って言い訳が無いだろう、崩壊するぞ、この国」

 

そう言ったラックの眼球に剣先が突き立てられる、だがラックは止まらない。沢山沢山魔王に駄目出しをする。

 

「魔人やモンスターが死ぬかもしれないのに人国に入り込んでくるのはお前んとこのお上さんが馬鹿みたいな政治しかしないから助けを求めにやって来てんじゃねぇか!?言葉通り命がけでな!!」

 

そう言い放った瞬間ラックの右目の機能が停止した。そして右目から血が噴き出す、だがラックは存分に魔王を罵倒出来てテンションが上がっていた。ラックは人の悪口を言っていると段々ヒートアップしていく、そしてテンションも同時に上がって行く、そういう人間なのだ。だが今回ばかりはその性格を持ち合わせていて助かった。

 

「ばーか」

 

女はフルパワーの殴りを腹部にくらった。凄まじい衝撃と鈍い全身に伝わってくる痛み、そして吐き気、この三つが重なりながら壁に激突した。

そして口から血を吐く、だがまだ立ち上がる。絶対に負けられない勝負なのだ、動くしかない。動かなかったら終わりなのだ。

 

「まだ..やれる」

 

「やめておけ、限界だろ」

 

「いいや..まだ!」

 

そう言って女はレイピアを突き立てながら残っている左眼を潰しにかかる、だがラックはレイピアを掌で受け止めた。狂っている行動に女は困惑し動きを止めた、ラックは攻撃するでもなく女を説得する。

 

「今ならまだ回復が間に合う、そしたらこんな場所抜け出して人国に入ればいい。擬態型のお前ならバレないで生活できるはず...」

 

「あまり私をおちょくるなよ、ラック・ツルユ」

 

女はレイピアを物凄い勢いで突き刺した。ラックも反応は出来ていたが回避はせず反撃で何発も殴っていた、だが両者強固な意志により一歩も動かず攻撃を続ける。そして女が優勢かと思われたその時ラックは後ろに下がった、何のために下がったのか疑問に思いながらも追撃のため腕を突き出した。

だが今までなら肉に刺さり生々しい音が鳴っていたはずなのだが今回ばかしは違った、鳴り響いたのは鉄の音だ。

 

「久しりにやろうぜ、相棒」

 

持って来た、リリアが持って来たのだ。ラックの唯一の相棒、『ギフト・ソード』を。そしてラックはこの時点で勝ちを確信した。数年ぶりに扱うとは言えどもかつては毎日数千振りはしていた剣だ、簡単に感覚は取り戻せる。

 

「間に合ったよ!!!!!アルスの剣も持って来たよ!!!!!」

 

「よくやった、後は任せろ」

 

ラックは自分の図体ぐらいある剣を構え女と本気の戦いを始める、だが女はあんな大きな剣を持っているなら動きは遅くなるだろとスピード勝負に切り替えた。だがそれが一番の悪手だった。

ラックは遅くなるどころか剣を持っていない時より速くなっている、ラックの本領は肉弾戦ではなく剣同士での戦いの時に発揮されるのだ。

 

「おいおい!!クッソ弱いじゃねぇか!!」

 

「くぅ...一撃が重い割に攻撃頻度が速すぎる...」

 

「よーく分析できるじゃねぇか!!」

 

ラックはどんどん感覚を取り戻して行く、それと同時に威力が凄まじく増しスピードも増えて行く。女は確信した。

 

[ラック・ツルユ]は天才だ

 

その瞬間女の胴体からは鮮血が噴き出し遂には動く事も出来なくなってへたり込み気絶した。それと同時に仮面が割れた、だが素顔を見ている時間の余裕は無い。ラックはすぐにリリアに回復をしてもらう。

 

『ヒール・アメイジング』

 

それを数十秒かけ続けたら全ての傷が治った、と言いたかったのだが何故か右眼だけは治らない。どれだけ力を強めても何秒回復させても絶対に見えることは無かった、ただ形だけは治った。

 

「恐らくこいつのアビリティによる効果だろう、まぁしょうがない。右眼が無くなっても左眼があれば前は見えるからな」

 

「えぇ...そう言う話じゃないでしょ...」

 

「とりあえずアルスにも剣を渡しに行くぞ、後行く途中にお前の出生の話を聞かせろ」

 

「...分かった。だけどみんなには言わないでね?私の唯一の汚点だから」

 

「あぁ、約束しよう」

 

二人はリリアの出生の話をしながらアルス達が言った方へ歩みを進める。そして置いて行かれた女はすぐに意識を取り戻した、そして体の傷も全て完治している。顔を上げると仮面をはめられる、そして尊敬している者の声が聞こえる。

 

「よくやったぞ!今回は負けちゃったがしょうがない!あいつらの今回の目的はギフト・ソードの奪取及び我との接触だろう!なので次に本腰を入れて突入してくると思われる!その時に倒せばいいのだ!」

 

そう、魔王だ。声はデカいが分かる、しっかりと慰めてくれているのだ。魔王は実に慈悲深い、部下の事を思い民の未来も思っている。だからこそ勇者と争わなければならないのだ、だが魔王国の民はそれを良い事として受け取ってはくれまい。なので常に辛い立ち位置に立たされているはずなのだ、だが魔王はいつも元気一杯だ、そんな姿に心を打たれたのだ。

 

「ありがとうございます。次は絶対に負けません」

 

「次に活かそうと思えるのならヨシ!!では我と一緒に玉座の間へ行こう!割れの身長ではカーテンが付けられない!!」

 

「そうですね、行きましょう」

 

女は仮面の下で微笑みながら二人で玉座の間へと向かう、本来はこうあるべきなのだ。人国も魔王国も常に平和であるべきなのだ、だが必ず何処かで相違が発生し争いになる。これもまた運命なのだ。

一方アルス達は未だに探索していた。そして何か大きな部屋を見つける、少し嫌な雰囲気を感じ取りながらも扉を開ける。

中は闘技場のようになっていてその中央に堂々と一人の魔人が佇んでいる、そう猫騎士だ。

 

「来たか、吾輩は独断で貴様らと決闘をする事に決めた。三人まとめてかかってくればいい、どうだ?やらないか」

 

「どうする?バリゲッド、ゴドルフィン」

 

「俺は大丈夫だ」

 

「わしもいいのだが一ついいか?」

 

「なんだ」

 

「これは殺し合いか」

 

そう訊ねるゴドルフィンの殺気は凄まじい物だった。その殺気には思わず魔王直属の部下である猫騎士でさえ恐れおののく、そして殺し合いにしたら殺されてしまうと思った猫騎士は非常に悔やみながら口を開く。

 

「今の吾輩では殺し合いには向いていない、なので今回は殺し合いではなく模擬線、訓練、そう言うのならどうだろうか」

 

「いいじゃろう。アルスもいいんだな」

 

「その前に聞かせてくれないか」

 

「何をだ?」

 

「なんで一般市民が苦しむんだ、王ならば市民を守らなくてはいけないんじゃないか」

 

「この国は非常に長い間人国で生まれる勇者と戦って来た。そして毎回敗北していた。その為段々と武装を強化しだした、だがそれでも勇者には敵う事が無かった。そして資材を取りつくしてしまったのでアビリティ持ちの剣さえ買う事が出来なくなってしまった。そして数世代前の魔王様が食料を売って武装を強化した、だがお察しの通り敗北だ。

そうなるともう売る物も無く人国に勝つ未来も見えない、そこから魔王国は衰退の一途を辿って行った。そしてご飯さえもろくに食べる事が出来なくなった。

だが近世代の魔王様は非常に優しい方だ、この方ならば勝てる!平和を取り戻せる!!もう苦しまなくて済む!!!そう思ったのだ。

だが実際はそんな事なかった、あまりにも鉱石が無い。吾輩が着ている鎧も貴様らの国の通貨で言うと金貨七百枚はくだらない値段をしている。そんな状態で勝てるわけがない、そう思った魔王様は現在の民に苦しんでもらうしかないと苦渋の決断をされたわけだ」

 

「そうか..やっぱり争いはよくない」

 

「勿論だ、だが」

 

「やらなくちゃいけないんだよね」

 

猫騎士もアルスも何処か哀しそうだ。だがどちらかが奪われどちらかが手に入れる、もうそうやって安定を保つしか方法は無いのだ。これは大昔にしっかりと協定を結ばなかった両者の責任である、だが今更嘆いたってもう遅い。

争うしかないのだ、泥水をすすってでも、民を見殺しにしてでも、殺したくなくても。

アルスは剣を抜く、猫騎士は鎧兜を被り剣を抜いた。

 

「さぁやろう」

 

「ああ、行くぞ!!」

 

争いの幕が上がった。これは模擬戦だ、だが両者共殺し合う気で戦うのだ。

 

「始まったぞ!!にゃん太郎が勝つかな!!」

 

「どうでしょう、勇者の力が未知数なので」

 

「そうか!!それよりファンタスティックは何処にいったのだ!」

 

「[ハリケッド・ファンタスティア・サーレイン]の事ですよね?“ファンタスティア”ですよ」

 

「別にいいだろう!!それでどこに行ったのだ!」

 

「修練場で特等席で観戦してますよ」

 

「そうなのか!!我も行きたい!!」

 

「駄目です、魔王様はまだ姿を見せないのでしょう?」

 

「...むぅ」

 

魔王は不機嫌そうに頬を膨らませながら水晶で戦いを観戦していた。そしてラック達も戦いが始まった事を察知して少し歩くスピードを上げた。

アルス達は最大限協力して戦う事にしていた、直近の部下二人、そして尊敬する魔王様に見られながら猫騎士は剣を奮うのだ。

 

 

第7話「相棒」

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