█月█日 〜常久不変の始まりし夜〜
「…………それでさぁ、ケンくんったら授業中にプロレスとか始めちゃってさ〜」
「あらあら、それは先生も手を焼いたでしょうねぇ」
「██は参加しなかったのか?」
「流石に授業中にそんな事はしないよ〜、僕弱いし」
「確かに、お兄ちゃん隣ん家の犬にも負けてたしw」
「やかましいわ!」
家族全員で食卓を囲み学校での出来事について語り合っている、ごくごく普通の平和な光景。
今日の夕飯は██の好きなカレーである。
「でもさぁお兄ちゃん、そんなに弱いといじめられちゃうかもよ?」
ちょっと小生意気な少年が煽るかのように話す。彼は██の弟で、名前は▒▒。██より5つ下の小学一年生である。
「へっ、いじめがなんだってんだ、今別にそういうの無いしなんとかなるなる〜」
「けど、もし何かあったらすぐお母さんに相談するのよ?」
「はぁい」
██の母親は街でもかなり評判の美人で、その上非常におっとりとしていて人気が高い。父親は大手企業の社長で、仕事と家庭の切り替えがしっかり出来るこちらもとてもいい人である。
普段の生活もなかなか贅沢で、家族全員不自由無く幸せに暮らしていた。
……この日までは。
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「はぁ〜、スッキリした」
食事を済ませ、夜の勉強も終わらせ、時刻は午後10時過ぎ。風呂にも入り、あとはいよいよ寝るだけである。
「明日は何しよっかな〜、久しぶりにみんなとドッチボールでもやろっかな〜」
あれこれ考えているうちに意識は次第に遠くなっていき、やがて夢の世界へと誘われていく。
庭から嫌な気配を感じた気がしたのはきっと気の所為だろう。
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「─────!!!───ゃん!!!お兄ちゃん!!!」
どれ程寝ただろうか、今までにないくらいぐっすり眠っていたと言うのに、▒▒に大声で揺さぶられて起こされる。
「なんだよ▒▒……まだ朝じゃ無いだろ…………」
「お……お父さんが…………!!!」
薄目で▒▒を見ると怯えたように泣いている。コイツが夜中癇癪を起こすのは今に始まったことでは無い。
「全く……お父さんがどうしたって?」
面倒臭そうに、▒▒に引っ張られるがまま1階へと降りる。微かに変な匂いがするが、酒で酔っ払いでもしたんだろうか。
「お父さ〜ん、▒▒がすげぇ泣いてるんだけど何かし…………」
リビングの扉を開けた途端、██は言葉を詰まらせる。
そこに広がっていたのは…………赤い液体の上に横たわる父の姿と部屋の隅で怯える母の姿。そして────
「縺翫√≧縺セ縺昴≧縺ェ縺医&縺後�縺医d縺後▲縺溘●」
未知の言葉を話す、巨大な蜘蛛のような黒い謎の生物。
しかも3匹も居る。
その特異な見た目から、度々ニュースでよく見かける『エニグマ』という化け物である事はすぐに分かった。
その化け物は父『だったもの』を貪りながら、次はお前だと言わんばかりに二人を見つめる。
「え、なんだよこれ…………夢……だよな?」
恐怖で身体が動かない。▒▒も██にしがみついており、大泣きしている。
エニグマ達は目の前で硬直する獲物を逃がすはずも無く、
「縺医b縺ョ縺ッ縺励s縺帙s縺ェ縺?■縺ォ縲√>縺溘□縺阪∪縺!!!」
再び未知の言葉を話しながら3人一斉に襲いかかってくる。
「ひっ……!!!」
死を覚悟し目を瞑るが、直後に誰かに思いっきり押され、同時に───
グシャッ
「ッ……!!!」
「お……かぁさん……???」
生々しい音と共に、腹部を思いっきり刺されている。
一瞬の光景に、██も▒▒も頭が追いついていない。
「に……げて……」
痛みに悶えながらも発せられた声で、二人とも正気に戻る。
「今すぐ……ここから逃げて……!!!」
「ぁっ……で、でも、そしたらお母さんが……!!!」
「貴方達が死ぬよりはマシよ!!!お願い!!!私を置いて走って!!!」
普段の母からは想像も出来ないような叫びに、少し恐怖を覚える。しかも母の後ろからは逃がさないと言うかの如くエニグマの鋭い脚が伸びてくる。
そこから先は無意識だった。ただ怖くて怖くて、この状況から逃げなければならないという生存本能が働いたというのか、気付けば一目散に走っていた。
───▒▒を置いてきたのにも気付かないくらいに。
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気付いた時には近くの交番に駆け込んでいた。お巡りさんに泣きながらも状況を説明して、すぐにBee隊員が派遣された。
到着後すぐにエニグマは討伐されたが、父は既に死亡しており、母も搬送先の病院で死亡が確認された。
そして、現場からは▒▒は発見されず、以降も消息は不明、との事だった。
それからしばらくの間、僕は孤児院に引き取られたが、暫くは夜も眠れず、食事も喉を通らなかった。
学校へ行っても今までのように友達と関わる事も出来ず、更に友達の間で事件の事が広まっていったのか、すぐに僕はいじめの標的とされた。
あの時、僕はどうするべきだったんだろう。あの時エニグマを倒す力さえあれば、両親は助かったのだろうか、はたまた、恐怖で逃げ出したりしなければ、▒▒を助ける事だって出来たかもしれないのに。
もう二度と、こんな悲劇は起こしたくない。それに逃げる前に微かに聞き取れた、母の言葉を裏切らない為にも、僕は───
「貴方達だけは生き延びてちょうだい、晴政、晴明───」
───強くなって、生き延びてみせる。
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「ん……よく寝た……」
朝の眩しい光が室内へと射し込む。時刻は朝の7時半。なんだか懐かしい夢を見ていたような気がしたがきっと気の所為であろう。
大きく欠伸をしながら、身支度を整えていく。
「さて、今日もひと狩りいきますか、エニグマを」
こうして、今日も何ら変わらないいつもの一日が始まる。
To be continued