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6月28日 〜黒風白雨の荒れ狂いし夜〜
しとしとと降りしきる雨。
世間では梅雨入りしたと騒がれる中、外に出れぬもどかしさを抱えながら、今日も僕は本を読む。
僕はお兄ちゃんのように依頼は受けてないし、積極的に人を助けるつもりも無い。
しかし人々は『常夜 晴政の弟』という肩書きだけで判断し、よく依頼を投げつけてくる。
それは本部も例外では無く、今日も今日とて依頼書は届く。
読書に夢中なこの僕───『
「晴明さん〜、ポストに大量の書類が詰め込まれてましたよ?」
彼の名は
彼が抱える書類の束を見て、思わずため息が漏れる。
「……はぁ、また本部からの依頼書だろ、無視しとけ無視」
「で……でも皆さんお困りでしょうし……僕達も何かお手伝いするべきでは無いでしょうか……?」
「そういうのは全部お兄ちゃんの役割っしょ、僕そんな面倒な事したくないし〜?」
のらりくらりと依頼の件から目を背けていると、ふと電話がかかってくる。
「ちぇっ、こんな時間に誰だよ……」
無視しようとも思ったが、着信相手を確認すると顔色が変わった。
電話をかけてきたのはお兄ちゃんだった。
「あーい、もしもし?こんな時間にどしたん?」
先程までとは明らかに違う態度に、守も苦笑いを浮かべている。
「悪ぃ、ちょっと骨の折れる仕事を引き受けちまってさ、少し手を貸して欲しいんだ」
お兄ちゃんからの頼み事は今に始まった事では無い。
もはや慣れっこなので普通に引き受けるが、何かしら見返りが無いと僕は動かない。なので─────
「まー別に良いけどさぁ?タダで働くわけにはいかないじゃん?やっぱ何かしらの見返りは欲しいよねぇ?」
「…………何が欲しい」
「んー、最近僕も守も色々やっててくたびれてきてるからさぁ、温泉とかに行きたいよねぇって話が出てるんだよねぇ」
「は、はい!?そ……そんな話初耳なんですけど!?」
真横で守があわあわしてるが気にしない。温泉に行きたいのは本当だし。
「はぁ……わかったよ、手配しといてやるよ」
「サンキュー、さすがお兄ちゃん
……で、内容は?」
急に声のトーンが変わった事に驚いたのか、色々抗議していた守が途端に静かになる。
僕は気にせずお兄ちゃんからの説明を聞く。
「多分そっちにも届いてるだろうが、低級エニグマが大量発生したらしい」
「なんだよその激レア色違い出そうなイベント……」
「…………で、低級とは言えどもそこそこ数が居てな、街中の各地に散らばってる可能性もある訳だから探すのに骨が折れる訳だ」
「なるほどな…………ま、詳しくは手元の資料見ときますわ」
「あぁ、頼んだぞ」
電話を切ると内容を聞いていたであろう守が既に資料を見つけていてくれた。
やはり実はデキる奴だコイツ。
「低級エニグマ『A5』、別名テルテル……
涙をうかべたてるてる坊主みたいな見た目だな。分かりやすくて助かるわぁ」
「い、今から早速討伐に向かうのですか?」
「そりゃな、さっさと終わらせて温泉入りてぇからな」
「そ、それについてですけど!どういう事か詳しく説明を…………」
「善は急げと言うからなぁ!さぁ行くぞぉ!」
守の言葉を無理矢理遮り、軽く支度を済ませて勢いよく家を飛び出す。
「ちょ、ちょっと晴明さん!?せめて傘は持って行ってください〜!!!」
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街の中心から少し逸れた、とある廃墟。
街の人からの話によると、この廃墟内で不審な影を見かけたらしい。
当たりなら狩るまで。ハズレならボコボコにするまで。
「こんちわー、不審者根絶やしに来ましたー」
「ほ、本当に不審者だったらどうするんですか!?」
守も怯えながら僕の後ろを着いてくる。
中に入ると散乱した家具に蔓延る植物など、いかにも廃墟らしい光景が広がっていた。
当然電気は来ておらず、昼間なのに薄暗い。
「わーお、こりゃ相当な有様だな……エニグマや不審者とは違った……幽霊とか出て来たりして?」
「こ、怖いこと言わないでくださいよ!」
そう言いながら歩みを進めた瞬間、廊下の奥から数体の黒い影が飛んできて、攻撃してくる。
「で、出た〜〜〜!?!?!?」
「ビンゴ、やっぱ僕の勘ってば冴えてる〜」
驚いて腰を抜かす守を庇うように前に出て、数本のナイフで軽々と攻撃を受け流す。
するとテルテル達は部屋の奥へと逃げていく。
「やれやれ……この中だけでも3匹は居るって訳か……大丈夫か?立てるか?」
「あ、ありがとうございます……」
驚き過ぎて何も出来なかったのが申し訳無かったのか、少ししゅんとした声をしている。
「ま、突然の事が起こると人間誰しも何も出来なくなっちまうもんだからな、気にすんなって
僕がめちゃくちゃ例外ってだけさ」
「はい……」
頭を撫でてやると少し元気が出たらしい。
気を取り直して、廊下を進んでいき、リビングへと入る。
すると再び、待ってましたと言わんばかりにテルテル達が飛びかかって襲ってくる。
「ふっ、どうせ襲ってくると思ってたぜ」
「ぼ、僕も二度は驚きませんよ!」
僕は構えていたナイフでテルテルの攻撃を防御し、少し遠くへ吹き飛ばす。
守もご自慢の超巨大ハサミを構え、攻撃を防ぐ。
あっさり攻撃を防がれたテルテルだが、それでもお構い無しに、手のような部分をムチのように振り回しながら攻撃してくる。
「行動パターンは至って単調。弱点も恐らく明らかに分かりやすい目の部分だろう。」
軽々と攻撃を受け流しながら、分析していく。
それに対し、守は勢いよくハサミを振りながら、闇雲に攻撃を仕掛けていく。
「あハハハハ!切れるモノが三匹も〜!!!」
「闇雲に振り回すな。的確に弱点へと攻撃を集中させな。コイツの弱点は恐らく両目だ。」
そう言いながら、攻撃の間を縫うように数本のナイフを投げる。
ナイフは見事に両目に命中し、テルテルは瞬く間に散っていく。
「目ん玉〜!!!今すぐ斬ってあげるからネ!」
守もハサミを開くと両目目掛けて同時に刃を突き刺し、撃破する。
残り一匹となったテルテルは慌てた様子で更に奥の部屋へと逃げていく。
「あハハ!逃がさないヨ!」
完全に興奮している守はそのまま奥の部屋へと追いかけていく。
それにしても、何か不穏な予感がする。
ここに入った時、何か強い気を感じたのだが、戦った感じアイツらの物では無さそうだった。
なら一体誰のだ?
そういった事を考えながら守の後を追い、奥の部屋へと入る。
すると、一瞬で疑問は吹き飛ぶのだった。
「繧医¥繧らァ√?縺ェ繧上?繧翫〒證エ繧後※縺上l縺溘↑縲∬ィア縺輔s縺」
部屋の真ん中には巨大なカタツムリのようなエニグマが鎮座していた。
殻のようなものもあり、鋼鉄のように硬そうである。
「チッ、やはり本命が居やがったか、それも雰囲気的に中級、と言ったところか」
ナイフを構え、分析の姿勢に入るが、またしても守が闇雲に突撃していく。
「大きイ!硬そう!でも斬ル!!!」
「バ……無闇矢鱈に攻めるなとあれ程……!」
巨大ハサミで斬りかかるが、エニグマは殻に入って攻撃を完全に防ぐ。
しかし守はお構い無しに殻に連撃を浴びせていく。
そして次の瞬間、殻の中から勢いよくエネルギー弾が飛んでくる。
「かはっ!?」
突然の攻撃に為す術もなく、守は正面からモロに攻撃を食らってしまい、壁に叩き付けられる。
「ったく……言わんこっちゃねぇ」
ただでさえ華奢な身体なんだから、骨の一つや二つ折れててもおかしくは無いだろう。
だが、痛みなどお構い無しと言わんばかりに立ち上がる。
これも全て、守の『
「す、すみません……!お恥ずかしいところを……!ですがまだ動けます……!」
「…………ったく、無茶し過ぎなんだよ
少し休んでろ、僕は少し『気になる事』を試してくる」
心配のあまりつい強い口調になってしまったが、今は形振り構ってられない。
少し悲しげな表情を浮かべる守を横目に、僕はナイフを構え、エニグマへと突っ込んでいく。
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エニグマは距離が空いていると殻から出てきて小さなエネルギー弾を放ってくるが、距離を詰めた途端殻に籠って一切の攻撃をしなくなる。
遠距離から無数のナイフを投げるも、全てエネルギー弾によって相殺されてしまう。
「遠方から攻撃しても無意味そう……だな」
続いて距離を詰め、殻に籠った状態の行動を分析し始める。
殻の硬さを見極めようと、ナイフで連撃を放つ。
すると中から反射音のようなものが聞こえ、次の瞬間、守の時よりは小さいエネルギー弾が放たれる。
予め予測していた僕は軽々と躱すが、エネルギー弾は壁に当たる前に軌道を変え、再度こちらへと飛んでくる。
「ッ……追尾弾か……!」
瞬時にナイフを投げ、当たる前に爆発させる。
「危ねぇな……しかし参ったな……まるで攻守とも完璧な要塞のようだ……」
思考を巡らせていると、ふと後ろから声をかけられる。
「あ、あの……あの巨大なエネルギー弾を上手くアレに当てられたら、少しはダメージを与えられるのでは無いでしょうか……?」
声の主は守だった。
アレを直で食らったのだから威力は一番理解している。
「ほぅ、悪くないな。ただ僕のナイフだと大きく刺激を与えられないだろうから、守のハサミが必要になるだろう
力を貸してくれ」
その言葉を聞いた守は途端に嬉しそうな顔をする。
「は、はい!もちろんです……!」
頭の中で軽くまとめた戦法を守に説明し、双方早速配置につく。
僕は大きく息を吸い、心を整える。
そして、ナイフを構えると、守に合図を送る。
「始めよう、守」
「はい!」
合図を聞くと、守はハサミを構え、殻の色んな位置へと連撃を仕掛ける。
大きな反射音が辺りにこだますると、殻の入口が開き、最初の頃より数倍の大きさとなったエネルギー弾が僕目掛けて放たれる。
ギリギリのところで大きく横に動いて躱すと、先程のようにエネルギー弾は軌道を変え、再度飛んでくる。
「やはり近くの奴を狙うか……攻撃してきた奴を標的にしなくて助かったぜ」
あとはこれを奴に叩き込むだけ、そう思い守に距離を取るよう指示を出そうとするが、すぐにとある異変に気づいた。
守の後ろにひとつの影。この時まで完全に存在を忘れていた、『ここに来た目的』である。
守の背後からムチのような手で攻撃を仕掛けようとするのを、守本人は気付いていない。
「なっ……!おい守!後ろ!」
「は、はい?」
ダメだ、確実に反応が間に合わない。
僕はエネルギー弾そっちのけでテルテルに向かってナイフを放つ。
間一髪のところでテルテルの目に刺さり、テルテルは悲鳴をあげながら消えていく。
直後、僕の身体に凄まじい衝撃が走る。
「がっ……!?」
「は、晴明さん……!」
巨大なエネルギー弾に思いっきり弾き飛ばされ、そのまま壁へとぶつかりそうになる。
だが瞬時に体勢を立て直し、壁を蹴ってエニグマの目の前に立つ。
エネルギー弾は、尚も自分を追ってくる。
もはや避ける隙さえ無いだろう。
「ふっ、上等だ
さぁ、僕諸共巻き込むがいい
……僕が死すとも、夜が明ける事は無い
常夜は、永遠に不滅さ!」
その声と共に、エネルギー弾が身体に直撃する。
薄れゆく意識の中、微かに守の叫ぶ声が聞こえた気がするが、もはや何と言ったのか聞き取る事は出来なかった。
これでいい。愛すべきものを守れれば、それで────
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暖かい。
非常に心地いい感覚が全身を包む。
周囲を見渡すも、真っ白い空間が広がっているだけで何も無い。
あぁ、死んだのか。天国とは如何なる場所だろうか。
いや、そもそも僕は地獄行きだろうな。
そんな事を考えていると、ふと遠くから声が聞こえる。
泣き声、だろうか。
妙に聞き覚えのあるようなその声に釣られ、一歩一歩歩みを進めていく。
今まで誰かが泣いていても気には留めなかったはずなのに、何故かこの泣き声を聞いた途端、歩みを進めなければならないと思った。
声が大きくなってくるにつれ、徐々に白かった空間に彩りが産まれてくる。
僕はそのまま声のする方へと手を伸ばす。すると────
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「…………ん、あれ、何処だ、ここ」
目が覚めるとそこは病室のようだった。
全身に包帯が巻かれ、ベッドで横になっている。
ふと手元を見ると、しっかりと手を握りながら突っ伏して寝ている、僕がよく知る最愛の人が居た。
逆の手で優しく撫でてあげると、少し安心したような声を出す。
そうしていると、ふと病室内に誰かが入ってくる。
「目が覚めたんだな、晴明。
悪ぃな、ここまで大事になるとは思って無かったんだ」
入ってきたのはお兄ちゃんだった。
申し訳無さそうに語るお兄ちゃんに対し、僕はいつもの調子で言葉を返す。
「いやいや、僕も予測出来なかった訳だし、しゃーないしゃーない
って、結局あの後どうなったん?」
「守が僕を呼びに来てくれてね、急いで駆け付けたけど既にエニグマは撃破されてたみたいでね、傷だらけになったお前とエニグマの殻?の破片のようなものが散乱してただけだったよ」
どうやら奴は倒せていたらしく、一安心である。
しかし、今回は守に色々と助けられた。
僕一人じゃ撃破までは至らなかっただろう。
そう考えたら、こんな傷など安いものだと思えてくる。
「……ありがとな、守」
そうして再び頭を撫でてあげる。
その後、目覚めた守にとことん謝り倒され、それを落ち着かせるのに半日はかかったらしいが、それはまた別の話_______
To be continued
お借りした子
シノンさん宅の守くん
(鍵垢の為リンクは割愛)