晴政の日記   作:かいっち

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8月30日 〜心機一転の成長せし夜 晴明〜

日常。それは大きな変化がなく、毎日が同じように過ぎ去るもの。

変化が無い、即ちそれは退屈で面白味のない事である。

平和で良いだとか、落ち着きがあって良いだとか言われているが、僕はそうは思わない。

僕は常に刺激を欲しており、よく街で何か問題を起こしている。

しかし、それで得られる刺激はほんの僅か。

もっと大きな、非日常を味わってみたいものである。

 

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「なんだよ、この程度かぁ?ほんっと、威勢だけじゃねーか」

 

街で女性がナンパされているのを見掛け、流れるようにナンパ達をボコボコにする。

もう少し骨のある奴かと思っていたが、顔面に一発叩き込んだだけで尻尾を巻いて逃げてしまった。

 

「おい、怪我はねぇか?」

 

少し不完全燃焼気味だが、その気持ちを抑え、声を掛ける。

 

「は、はい、助けて下さりありがとうございました……」

「別に礼は要らねぇよ、僕が好きでやった事だし

じゃ、僕は行くぞ。帰り道には気を付けろよ」

 

暴れ足りない気持ちを発散する為、さっさとその場から退散して、本部備え付けのジムへと向かう。

僕は別に兄のように人助けがしたい訳では無い。

合法的に喧嘩という非日常を味わえる。それだけの理由だ。

 

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ジムに着くや否や、早速筋トレを始める。

まずはストレッチで身体を解し、そこから様々な器具を使って全身の筋肉を鍛えていく。

兄ほどでは無いが、僕も恵まれた体格を持っているので、不完全燃焼をどうにかするついでに鍛えれるという、まさに一石二鳥である。

 

「……さて、と。だいたいこんなもんかなぁ、割と身体も動かせたし、さっきの埋め合わせくらいにはなっただろ」

 

ひとしきり身体を動かし終え、備え付けのシャワーを浴びる為立ち上がると、ふと遠くによく見知った人物が居る事に気付く。

 

「にじゅう……はち……にじゅう……きゅう……さん…………」

「なんだ、白夜じゃねぇか、お前がこんなとこ居んの珍しいな」

 

バーベルを持ち上げている彼に声を掛けると、彼は凄く驚いたような反応を返す。

 

「っ……!?晴明先輩!?なんであなたが…………っととと……」

 

驚いた拍子にバランスを崩しそうになるも、なんとか耐えてバーベルを地面に置く。

 

「なんでって、ちょい身体動かしたくなったから、かな。そういうお前こそなんでこんなとこに?」

「べ、別に深い理由は無いっすよ。ただボクも身体を動かしたくなっただけで……」

 

明らかに何かを隠している反応に、つい僕の探究心が掻き立てられる。

 

「ほんとかぁ?なんか他に大きな理由あるんじゃねぇの?隠さなくたっていいだろぉ?」

「い、いや、ですから深い理由は…………」

 

その時、突如としてジム内に警報音が鳴り響く。

 

「緊急警報!緊急警報!

大型エニグマが発生した模様!

Bee隊員は即刻現場へ向かいたまえ!

なお、このエニグマは上級の可能性が高い。くれぐれも注意して討伐するように!」

 

上級。その言葉に、その場に居たBee隊員達は思わず足がすくんでいる。

何せ滅多にない上級の襲来だからだ。慣れてない者達も多いだろう。

現に普段は自信過剰な白夜でさえ、少し不安気な表情をしている。

僕も例外では無いが。

 

「上級、と言いますと……今までのエニグマ達より遥かに強い、という事ですよね……」

「……そりゃぁな。正直僕も、初めての事だからその強さは知らない

まぁひとまず、彼にも連絡しなきゃだな」

 

スマホを持ち、彼に電話をかけながら、僕自身もジムを出る。

回線が混み合っているようで、なかなか繋がらない。

 

「ちっ……早く繋がってくれ……彼なら間違いなく一人で突っ走りかねないから…………」

 

焦る気持ちを抑えながら周囲を見渡すと、遠くの空に、例の上級エニグマであろう生物を見つける。

シャチのようにもサメのようにも見えるそれは、ゆっくりとこちらへと泳いで来ている。

ターゲットを目視したところで、ようやく彼と連絡がつく。

 

「晴明か、どうした?」

 

連絡相手はお兄ちゃん……晴政、である。

ようやく繋がった事に安堵しながら、少し焦り気味で話す。

 

「もしもしお兄ちゃん!?今何処居んの!?」

「何処って、依頼受けて街に来てるけど……何かあったのか?」

「いやもう大アリよ!緊急事態だよ!どうやら街に上級エニグマが近付いてるらしくて…………」

「……上級だと!?まさかあの空飛ぶ魚みたいなのがか!?」

 

予想通り、上級という言葉に即座に反応し、お兄ちゃんは僕の言葉を遮るように聞き返してくる。

 

「そ、そうだけど……お兄ちゃんも目視したんだね?」

「あぁ、たったさっきな」

 

やはりお兄ちゃんも既に異変自体には気付いていたらしい。

 

「良かった……なら説明する手間も省けるよ

取り敢えず、白夜も一緒だから、僕達もそっちに合流するよ。

だから少し待っ…………」

「晴明、情報あんがとな。じゃ、ちょっくら行ってくるわ」

 

再び僕の言葉を遮り、言葉を発する。いや、もとより僕の言葉は耳に届いていないのかもしれない。

 

「ちょ、話聞けって!いくらなんでもお兄ちゃんひとりじゃ無理だから!ひとまず僕らと合流してから対策を練ろう!?」

 

言葉の途中でプツンと電話が切れる。

やはり口頭でお兄ちゃんを止めるのは無理があった。

 

「はぁ……やっぱりこうなるよなぁ……仕方ない、行くぞ白夜」

「……え、行くって、僕らだけでですか!?それこそ無茶があるのでは!?最低でも他に人を誘ってチームを組んだ方が……」

「形振り構ってられるか!今はお兄ちゃんを止め……いや、助けるのが急務!人誘ってチーム組んでる時間なんかねぇんだよ!」

 

僕には分かる。お兄ちゃんは確実に一人で先に突っ込むと。

そして、上級の強さは未知数とはいえ、いくらお兄ちゃんだとしても…………負ける、と。

 

「で、でもこのまま無鉄砲に突っ込んでも、晴政先輩の二の舞になるだけで…………」

「やかましい!良いから来やがれ!」

 

未だ確実性を求める白夜に痺れを切らした僕は、白夜の腕を掴み、無理矢理引っ張って走り出す。

……そもそも、最低でもお前が居れば十分どうにか出来るんだよ。

 

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街の外れの山の中。

恐らくこの山の中で、お兄ちゃんはエニグマを迎え撃つだろう。

根拠の無い勘だが、そんな気がする。

そして、エニグマに近づいてくるにつれ分かったが、大きさはジンベイザメより少し小さいくらい。そしてその身体には、いくつかの小魚のような模様が青く発光している。

弱点は、あの中のどれかだろう。

木々の隙間を駆け抜けていると、ふと白夜が嘆く。

 

「ホントに二人だけで来ちまったよ……到底勝てるはず無いってんのに……

そもそも晴政先輩ですら勝てないんならボクらなんて足でまといになるに決まってる……」

 

普段は自意識過剰な癖に、いざ格上が出た途端尻込みしだす。

グダグダと弱音を吐き続ける白夜に、ついに堪忍袋の緒が切れる。

突然足を止めると、白夜の頬に向かって一発拳をぶつける。

 

「いっ……!?何するんすか!」

「さっきからちんたら弱音吐いてんじゃねぇよ!勝てるはずない?そりゃ個人で突っ込みゃ勝てねぇよ、けどなぁ、てめぇもお兄ちゃんも協力ってのを知らねぇのか!?」

 

声を荒らげる僕を前に、白夜は尚も自信なさげに、俯きながら言葉を続ける。

 

「協力って言ったって……ボクは君らと違って戦闘向きじゃないし……それこそ足でまといに…………」

「足でまといだと?もしほんとにそうなら今この場にお前は連れてきてねぇよ

だいたい、確かにお前は戦闘向きじゃねぇかもしれねぇけどな、僕ら特攻部隊にとっちゃお前ら情報部隊の寄越す情報が割と重要なんだよ

だいたい……お前、いつもの自信ありげな態度はどうしたってんだ、さっきからお前らしくねぇぞ」

 

その言葉を聞いた途端、白夜は俯いたまま何も言わなくなってしまう。

そんな彼に対し、僕はふと思った疑問を投げかけてみる。

 

「お前さ……実の所、自分に自信がねぇんじゃねぇのか?」

 

その言葉を聞いた途端、彼は肩を竦める。

見るからに図星である。

僕は先程より優しげな口調で、言葉を続ける。

 

「図星か……だけど僕は無理に自信をつけろとは言わんし、自信が無い事についてとやかく言う事もしねぇよ

だがな、これだけは覚えておけ。人の能力ってのは適材適所ってのがある。

戦闘向きの異能もあれば、お前のように情報収集向きなのもあるようにな。

だから一概に強さだけで全てを判断する事は出来ねぇんだ」

 

そして僕は彼に背を向け、先へ急ごうとするが、ふともう一つ言っておきたい事が浮かび、背を向けたまま言葉を続ける。

 

「それと、お前のその異能、情報収集の分野においては他に引けを取らない能力だと、僕は思うぞ。

あとはそれを、どう活かすか、だ」

 

そう言い残し、僕は先を急ぐ。

あれで少しは自信を付けてくれれば良いのだが……

 

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山中を更に奥へ進んでいくと、木々が薙ぎ倒された、明らかに戦闘があった場所へと出る。

後から追いついてきた白夜に対し、早速仕事を任せる。

 

「白夜、お兄ちゃん達はどっちに行ったのか、分かったりするか?」

「えぇ、少し手掛かりを探してみます」

 

白夜が4つの機械を飛ばすと、すぐに何かを感じ取ったらしい。

 

「木々の薙ぎ倒され方から察するに……進路を変えず街の方に向かったのだと思います

それと、この先から何やら金属がぶつかり合う音が……」

 

そう言われ耳を澄ますと、確かに金属同士がぶつかり合うような甲高い音が微かに聞こえる。

 

「……確かに聞こえるな。よし、行こう」

「……えぇ、行きましょう」

 

木々が倒されて出来た道を、全速力で走る。

聞こえてくる音は徐々に大きくなり、近付いているのが分かる。

もう少しでお兄ちゃんの元だと思った矢先、けたたましい轟音と共にこちらまで爆風が吹き付けてくる。

 

「な、なんだ!?凄い風だ……!」

「恐らく……晴政先輩の攻撃の余波かと……!」

 

爆風に何とか耐えると、すぐさま先へ進む。

するとすぐ、再び開けた空間に出る。

そこにはお兄ちゃんと、煙幕に包まれたエニグマが居た。

恐らく、お兄ちゃんの全力を食らったのだろう。

すると後ろに居た白夜が叫ぶ。

 

「煙幕の中に強烈な生体反応が……奴はまだ生きてるどころか、狙いを定めて…………」

 

彼が言い終わる前に、煙幕の中から大口を開けながら、お兄ちゃんに向かってエニグマが突っ込んでいく。

お兄ちゃんは突然の出来事に反応出来ていないようだ。

だが僕は……白夜の情報のおかげで、咄嗟に身体を動かすことが出来た。

 

「…………万事休す、か」

 

そんな事を言いながら、お兄ちゃんは潔く攻撃を喰らおうとする。

ホント、世話の焼ける兄だ。一人で突っ込んだと思ったら、闇雲に戦って最後は諦めて潔く攻撃を喰らおうとするなんて。

これだから放っておけないのだ。

でも、そんな彼に着いていくおかげで、僕の日常が非日常になるのは確かだ。

ありがとな、お兄ちゃん。

 

そんな事を考えながら、何本ものナイフをエニグマに投げつける。

そしてそんなお兄ちゃんに対し、一言、こう言ってやる。

 

「そうやってすぐ諦めようとすんのも、お兄ちゃんの良くない所、だぜ?」

 

To be continued

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