自信。それは自分の才能や実力を信じること。
それはつまり、自分自身を信じることでもある。
よく自信をもって行動しろだの、自分を信じろだの言うが、ボクは、自分に自信が持てない。
自分の才能、実力に価値が見い出せないのだ。
だが、他人にはそんな事口が裂けても言えない。
ボクが欲しいのは哀れみの気持ちでは無いからだ。
だからボクは、自分を、他人を偽る。
自分の実力に、見栄を張り続ける。
いつかはバレるという事も知らずに。
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「ケッ、口ほどにもねぇ奴だったな、行くぞお前ら」
チンピラ達に集団でボコボコにされ、倒れ伏せるボク。
周りから見たらとても惨めであろう。
「はぁ……おいおいボクの実力はこんなもんなのか?
いいや違う……ただ調子が悪かっただけだ……」
そんなことを嘆きながら、重い体を無理矢理動かしながら立ち上がる。
ボクの名は汐月 白夜。これでもBee所属の情報部隊員である。
そんなボクが何故こんなヤツらにボコボコにされているのか。
理由は簡単。街で難癖を付けられたボクは、ついうっかり威勢のいい事を言ってしまい、それにキレたチンピラ共に集団で暴行を加えられたからだ。
幸いにも傷はすぐ治りそうで、少し休めば問題無さそうだ。
「でもなぁ……アイツら相手に一切反撃出来なかったのはやはり悔しいな……やっぱりボクは…………いや違う、ただ身体が鈍っていただけだ」
自分の弱さを思い知るのが怖くて、つい誤魔化してしまう。
本当は分かっているはずなのに、つい見栄を張ってしまう。
「はぁ……考えても埒があかないや、気分転換に身体でも鍛えに行くかな……」
少しでも強くなるため、最近は周りに内緒でジムに通っている。
特に、あの二人の先輩に知られたら、なんて言われるか考えたくも無い。
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ジムに着くと、早速ストレッチを初め、全身を解していく。
そして、バーベルを持ち上げ、筋トレを始める。
5回、10回、20回。日を追うごとに重さと回数も増えてきており、きちんと鍛えれていることを感じる。
「にじゅう……はち……にじゅう……きゅう……さん…………」
今日は30回で止めておこう。そう思った瞬間、不意に横から声を掛けられる。
「なんだ、白夜じゃねぇか、お前がこんなとこ居んの珍しいな」
声の主はよりによって、一番バレたくない兄弟の片割れ、晴明先輩だった。
「っ……!?晴明先輩!?なんであなたが…………っととと……」
驚いた拍子にバランスを崩しそうになるも、なんとか耐えてバーベルを地面に置く。
「なんでって、ちょい身体動かしたくなったから、かな。そういうお前こそなんでこんなとこに?」
「べ、別に深い理由は無いっすよ。ただボクも身体を動かしたくなっただけで……」
強くなる為、だなんて口が裂けても言えないため、適当に誤魔化す。
しかし、何かを隠しているのを悟ったのか、しつこく色々聞こうとしてくる。
「ほんとかぁ?なんか他に大きな理由あるんじゃねぇの?隠さなくたっていいだろぉ?」
「い、いや、ですから深い理由は…………」
必死に言い訳を考えていると、突如としてジム内に警報音が鳴り響く。
「緊急警報!緊急警報!
大型エニグマが発生した模様!
Bee隊員は即刻現場へ向かいたまえ!
なお、このエニグマは上級の可能性が高い。くれぐれも注意して討伐するように!」
上級。その言葉に、その場に居たBee隊員達は少したじろいでいるようだ。
晴明先輩ですら、少し不安気な表情をしている。
ボクに関しては……完全に唖然としている。
「上級、と言いますと……今までのエニグマ達より遥かに強い、という事ですよね……」
「……そりゃぁな。正直僕も、初めての事だからその強さは知らない
まぁひとまず、彼にも連絡しなきゃだな」
そういうと先輩はスマホを持ち、誰かに電話をかけながらジムを出る。
ボクもその後に続いてジムを出る。
未だ見た事のない上級エニグマ。その恐怖心や不安を胸に秘めながら周囲を見渡すと、遠くの空に、その上級エニグマであろう生物を見つける。
シャチのようにもサメのようにも見えるそれは、ゆっくりとこちらへと泳いで来ている。
「あれが……上級……今までのエニグマよりも格段に強いとされる……」
上級、桁違いの強さ。そういった言葉で頭が埋め尽くされていたが、晴明先輩の声で我に返る。
「ちょ、話聞けって!いくらなんでもお兄ちゃんひとりじゃ無理だから!ひとまず僕らと合流してから対策を練ろう!?」
やはり電話の相手は彼の兄、晴政先輩だったらしい。
あの晴政先輩でも無理となると、相当な強さなのは容易に想像出来る。
そんな奴に対し、ボクは何が出来る?
こればかりは……見栄だとか虚勢を張ってる暇は無い。
無理だ。勝てる訳無い。
そんな事を考えていると、不意に晴明先輩に声をかけられる。
「はぁ……やっぱりこうなるよなぁ……仕方ない、行くぞ白夜」
突然そんな事を言われ、思わず変な声を出して驚いてしまう。
「……へ?行くって、僕らだけでですか!?それこそ無茶があるのでは!?最低でも他に人を誘ってチームを組んだ方が……」
「形振り構ってられるか!今はお兄ちゃんを止め……いや、助けるのが急務!人誘ってチーム組んでる時間なんかねぇんだよ!」
珍しくボクに対して声を荒らげてくるので、ついビビってしまう。
しかし、さすがである。形振り構わず突っ込んでいくところは実にそっくりだ。
だが、このまま僕らが行っても何も変えれないので、再度説得を試みるが……
「で、でもこのまま無鉄砲に突っ込んでも、晴政先輩の二の舞になるだけで…………」
「やかましい!良いから来やがれ!」
遂にはボクの腕を掴み、無理矢理引っ張って走り出してしまう。
こうなると振り解くことも出来ないので、大人しく引っ張られていく。
……僕らだけで行ったところで、どうにも出来ないのに。
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街の外れの山の中。
腕を引かれるがままここまでやってきてしまった。
エニグマに近づくにつれ分かったが、大きさはジンベイザメより少し小さいくらい。そしてその身体には、いくつかの小魚のような模様が青く発光している。
弱点は、あの中のどれかだというのは先輩も分かっているはずだ。
でも、それが分かった所で、どうしようと言うのだ。
次第に募っていく不安に耐えきれなくなり、つい口を滑らせてしまう。
「ホントに二人だけで来ちまったよ……到底勝てるはず無いってんのに……
そもそも晴政先輩ですら勝てないんならボクらなんて足でまといになるに決まってる……」
普段は自意識過剰は何処へやら。一度弱音を吐き始めると芋づる式にどんどん出てくる。
すると、先輩の足が不意に止まる。
そして次の瞬間、ボクの頬に向かって一発拳をぶつけてくる。
「いっ……!?何するんすか!」
いきなり殴られ、訳が分からず困惑する。
しかし先輩は先程のように声を荒らげながら話し始める。
「さっきからちんたら弱音吐いてんじゃねぇよ!勝てるはずない?そりゃ個人で突っ込みゃ勝てねぇよ、けどなぁ、てめぇもお兄ちゃんも協力ってのを知らねぇのか!?」
協力……ボクに力があればとっくにしているさ
でもボクに力なんか……
「協力って言ったって……ボクは君らと違って戦闘向きじゃないし……それこそ足でまといに…………」
「足でまといだと?もしほんとにそうなら今この場にお前は連れてきてねぇよ
だいたい、確かにお前は戦闘向きじゃねぇかもしれねぇけどな、僕ら特攻部隊にとっちゃお前ら情報部隊の寄越す情報が割と重要なんだよ
だいたい……お前、いつもの自信ありげな態度はどうしたってんだ、さっきからお前らしくねぇぞ」
ボクの言葉を遮るように、言葉を発する。
ボクは……何も言えなかった。反論する点が見当たらない。
何も言わなくなったボクを見て、更に言葉を続ける。
「お前さ……実の所、自分に自信がねぇんじゃねぇのか?」
その言葉は、今のボクの心に深く突き刺さった。
図星である。しかもよりによって先輩に見抜かれたのだ。
しかし、先輩はバカにしてくるどころか、先程より優しげな口調で言葉を続ける。
「図星か……だけど僕は無理に自信をつけろとは言わんし、自信が無い事についてとやかく言う事もしねぇよ
だがな、これだけは覚えておけ。人の能力ってのは適材適所ってのがある。
戦闘向きの異能もあれば、お前のように情報収集向きなのもあるようにな。
だから一概に強さだけで全てを判断する事は出来ねぇんだ」
そして先輩はボクに背を向け歩き出そうとするが、まだ何か言いたい事があったようで、言葉を続ける。
「それと、お前のその異能、情報収集の分野においては他に引けを取らない能力だと、僕は思うぞ。
あとはそれを、どう活かすか、だ」
そう言うと、先輩は再び歩きだす。
適材適所だの、強さ以外の判断基準だの、いきなり言われても理解するのに時間がかかりそうだ。
だが、先輩に褒められた事によって、新たな考えが生まれてきた。
「……単純な強さにこだわるな、って事ですか。
確かに、そう考えた事は無かったですね。
ありがとうございます、晴明先輩」
既に先へ行った先輩には届いていないだろうが、別に構わない。
「さて、ならボクはボクの得意な面で、少しでも彼らに貢献出来るようにするかな」
そうして走り出した彼の足取りは、心做しか軽くなっているように見えた。
To be continued