8月12日 〜活物寄生の蔓延る夜〜
暗く、暗く、ただただ暗い夜。
街からも外れた人気の無い山奥に、彼は居た。
誰も居ない山道をただ一人で駆け抜けていく。
彼がこんな山奥まで足を運んだ理由はただ一つ。
「目撃証言によればこの辺りだと思うんだけど……ホント何処行ったんだアイツ……」
───親友の捜索である。
彼の名は常夜 晴政、対エニグマ戦闘組織・通称Bee所属の特攻隊員である。
そして彼が探す相手は同じくBee所属の防衛隊員、グリヴだ。
数日前に街を襲ったエニグマとの戦闘後から様子がおかしく、更に昨日今日と全く姿を見かけなかったのだ。
知り合いを訪ねても誰も所在を知らず、家も留守。普段居るような場所に行っても何処にも居ないので流石に不審に思い、街で聞き込みを行った結果、この山に向かうのを見たと言う人が数人居た為こうして探しに来たのだ。
しかし何のために?こんな場所で何をしているのか?
いくら考えても答えは出ないので、一先ず辺りをくまなく探していく。
「ところどころ道端に転がるエナジードリンクの空き缶……比較的新しめの足跡……なるほど、確かに彼は居そうだ……と言うか分かりやす過ぎ」
彼がエナドリ厨で助かったと内心ふざけた事を思いながら跡を辿っていく。
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どれ程歩いただろうか、標高もなかなか高くなり、街の光も星のような輝きと化した辺りで、ふと真後ろに人の気配を感じる。しかも、
「……何者だ」
睨みを効かせた目で後ろを見やると、そこに居たのは……
「……へ?グリヴ?」
紛れもなく彼が探していた渦中の人物、グリヴ本人である。
「おいおいなんだよびっくりさせやがって……どんだけ探したと思ってんだ?」
先程とは打って変わってひょうきんな口調になる晴政。しかしグリヴの方は俯いたまま終始無言である。
それどころか殺気が増している。
「ちょ、なんか怒ってる?僕なんかしたとしたら全く心当たりが無いんだg…………」
次の瞬間、彼の言葉を遮るかのように居合の構えをとり、完全に戦闘態勢へとなる。
突然の事態に晴政も一瞬困惑するが、すぐに……
「ほぅ?一戦やる?良いぜ、なんだか訳が分からないけど容赦しないよ」
こちらも異能でメリケンサックを作り、構えをとる。
彼の異能、好きな武器を作り出せる武器生成の異能。
同時に1種類までしか武器を扱えない、生成や武器変更時に大量にハニーを消費するなど制約は多いものの、扱い方によってはたちまち強力な異能へと化す。
そこに彼自身の戦闘狂の一面も重なり、戦闘においては無類の強さを誇っている。
「その構えの時に攻撃を仕掛けると華麗に躱してそのまま一撃ぶち込みに来るんだったよn…………」
普段のグリヴとの模擬戦のようにまずは肩慣らしをしようと敢えて攻撃を仕掛けるが、確かに言った通り横腹目掛けて攻撃が飛んでくるが、スピードが今までの比じゃない程早く、完全に殺す気で攻撃を仕掛けてくる。
「いっっ……!?」
咄嗟に片手で受け止めるが、少し横腹を斬られてしまう。
「ま……じかよ……ホントの本気で来るってんのかよ……」
彼は更に間髪入れずに連撃を浴びせてくる。一つ一つの攻撃が食らっただけでも致命傷となりうるのは素人が見ても一目瞭然だろう。
普段との大きな違いに流石の戦闘狂も困惑を隠しきれず、何が何だか分からない為無闇に手も出せず、防戦する他なかった。
「ちょ、本気出すのは良いけどなんで急に……っと……!」
しかし相手は普段から自分と対等の戦闘力を誇る男。
防戦一方ではすぐジリ貧になるのは晴政の目にも見えている。
万事休す、そう思ったその時、突然彼からの猛攻がピタリと止んだ。
「……あれ?止んだ?」
ふと彼の方を見ると、何故かプルプル震えている。
そしてポツリポツリと言葉を絞り出す。
「……に……げろ……晴……政……君……
俺……に……近づ……くな……」
その時、月明かりに照らされ彼の顔を見る事が出来た。
彼の目は黒く染っていた。数日前見たエニグマのように……。
そしてその目には涙が浮かび上がっていた。
それを見て彼は、全てを察した。
「なるほど、ね…………相変わらずタチ悪いね、エニグマというのは」
彼の手からメリケンサックが消え、少し笑いながら言葉を続ける。
「大方君の事だから、逃げないならせめて自分を殺せだとか抜かすんだろうけど
今回は敢えて乗ってやるよ
初めてとなる正真正銘の『本気のぶつかり合い』っての、存分に楽しもうぜ?」
そう言い放つと今度は異能で刀を二本生成し、構えをとる。
グリヴの方も再び黙り込み、再び居合の姿勢をとる。
「…………神の加護あらん事を」
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それからどれ程の時間が経ったか。
刀と刀のぶつかり合い。幾度となく鳴り響く金属音。銃声。
グリヴは容赦無く晴政に連続斬りを仕掛けるが、晴政は全て躱すなり受け止めるなりで防いでいる。
晴政の方も投げナイフやマシンガン、スナイパーライフルや薙刀、その他諸々の多種多様な武器を次々と切り替えて攻撃をするが、全て躱されてしまう。
それもそのはず、グリヴの異能は五感強化。
いくら攻撃を仕掛けても全て予測され躱されてしまう。
しかも彼は今目を瞑っている。
つまり空気の振動などの触覚や聴覚のみで予測している為、死角というものが存在しない。
視覚潰して死角なし、とはよく言ったものである。
そして晴政は長期戦に持ち込まれるとハニー不足を起こし、最悪の場合命の危険にさらされる事にもなる。
「……ははっ、相変わらずどっちの攻撃も当たんねぇなぁ」
余裕そうに振る舞うが、実際はハニーが不足してきて動きも鈍くなってきている。
その証拠に今まで躱せていた攻撃も徐々に当たってきており、徐々に形成が逆転してきている。
しかし、それでも彼は笑っている。
「なぁ、グリヴ
なんで今、君の方が有利だと思う?」
まるで独り言を嘆くかのように、ポツリと言葉を零す。
その突然の呼び掛けに対し、グリヴ……いや、『グリヴを乗っ取っているエニグマ』の動きが止まる。
晴政は気にせず言葉を続ける。
「僕ら、まだ対等じゃぁ無いんだよ
君は死角を無くすという、今までの弱点の一つを克服するという芸等をやってのけている。
分かるかい?つまり、僕の異能の制約が君との対等を邪魔してるんだ。
だったらそれを取っ払えばいい話じゃないかい?」
そして彼は武器を消し、大きく深呼吸をして、叫ぶ。
「リミッター解除……機銃一斉掃射!」
するとハニータンクに残っていたハニーが全て消費されると同時に、彼の周りに無数の銃器が出現していく。
エニグマの方も異変に気付いたようで、準備が整う前に始末しようと晴政本人に斬り掛かるが……
「…………流石グリヴ、ここぞという時にはやりやがるんだね」
一瞬、ほんの一瞬だが、グリヴの意思が蘇ったのか、晴政に斬り掛かろうとする動きが止まったのだ。
その一瞬でも、晴政にとっては十二分な時間であった。
「サンキュ、後で一杯奢ったるよ」
そのままグリヴ、もといエニグマに向けて絶え間ない砲撃の嵐が容赦なく浴びせられる。
彼も必死に避けるが、流石の彼でもこの弾幕の嵐には抗えず、何度も被弾してしまう。
終いには耐えれなくなったのか、グリヴの身体を捨て、本体のエニグマが飛び出してきた。
「よう……親友の中はどうだった?とてつもなく不健康で過ごしづらかったろうに……」
一斉掃射を終え、銃器がバラバラと地面に落ちて消えていく。
全てのハニーを消費し、意識も朦朧としてきたが、尚も『標的』へと歩みを進める。
その姿は『戦闘狂』と言うより、『軍神』と呼んだ方が良いだろうか。
「グリヴ……痛かったろう……キツかったろう……だがもう大丈夫だぜ……
後は僕に任せて…………さっさと片付けちまおう」
気絶しているグリヴに言葉を投げかけると、傍に突き刺さっていたグリヴの刀を抜き、更にハニータンクから何とか絞り出した最後の数滴で生成した自身の刀を共に構え、エニグマと対峙する。
「最後に、神に言い残す事は無いか?
まぁ、祈る間も懺悔する間も与えないけどね」
そして勢いよく走り出し、二つの刀でエニグマを斬り刻む。
グシャッという音と共にバラバラとなったエニグマはそのまま灰となり消えていく。
「ったく……あんなに厄介だったのに本体はこんなに呆気ないとはなぁ……
ま、何はともあれ終わったよ……」
再びグリヴの近くに刀を刺すと、限界が来たのか晴政もその場に倒れ込んでしまう。
「あぁ……僕死ぬのか……まだやり残した事あるのになぁ………………」
それを最後に、彼の意識は暗転する。
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声が聞こえる。
自分を呼ぶ声だ。
揺さぶられてる感覚もある。
おかしいな、自分は死んだはずなのに。
というかこの声、聞き覚えがあるような。
「晴政……起きろよ……なぁ……!
頼むよ……起きてくれよ……!」
パニックに陥り半ば過呼吸気味の声で呼びかけられている。
その声に呼応するかのように、徐々に意識が覚醒していく。
「ん……おはよう……?」
第一声がこれとは如何にマイペースか。
「おはようじゃねぇよ!心配したじゃねぇかよ……!ホントにお前は無茶しやがって……!」
「え、あー、なんかごめん?」
正直何があったか、なんでこんな事になってるのか、何も覚えていない。
ま、なんか何とかなったみたいだからいっか。
「ってか君がそんなに取り乱す事があるなんてねぇ、珍しい事もあるもんだねぇ」
「……うるせぇ!!!」
その後また三途の川を渡りかけたのは言うまでもない。
あと何故か色々奢らされ、危うく財布の中身まで三途の川を渡るところだったらしい。
to be continued……?