協力。それは仲間と力を合わせ、大きなものに挑み、乗り越えること。
一人では力不足な事を、他者の力を借りて障害を乗り越えることを言う。
強いエニグマを倒す為に、Bee隊員達は互いに協力し合い、助け合っている。
……だが、僕は違う。
僕は戦闘においては他者の力を借りない。
戦闘においての協力とは、力の弱い者達が互いを補う為に行う行為、という認識だからだ。
僕は、自分の実力には自信がある。
だからこそ、弱者のような行動はしない、そう決めていた。
……奴が現れるまでは。
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「ふん、この程度か。やはり低級は倒し甲斐が無いな。」
住民から通報を受け、流れるように低級エニグマを始末する。
もう少し骨のある奴かと思っていたが、刀を一突きしただけで散ってしまった。
「あ、ありがとうございました……かなりお強いようですね……」
少し不完全燃焼気味でいると、通報者の女性から声を掛けられる。
「……いや、まだまださ。まだ技を極める必要があるからね
じゃ、僕はこれで。また何かあればいつでもお声掛けを」
暴れ足りない気持ちを抑え、その場から逃げるように立ち去る。
自分の実力に自信があるとはいえ、それを自慢するような事はしたくないので、このように敢えて謙虚な姿勢でいる。
ちなみにだが、僕の目標は一人で上級エニグマを仕留める事である。
それが出来れば、真に強いと言える証明になるからである。
「……まぁ、上級なんか早々出てこないけどな。わんさか居られちゃ逆に困るし。」
そんな言葉を吐き捨て、家に帰ろうと歩みを進めようとするが……
「…………なんだ、あれ?」
目に映るその光景に、思わず歩みが止まる。
遠くの空に突如として現れた大型の生物。シャチのようにもサメのようにも見えるそれは、ゆっくりとこちらへと泳いで来ている。
突然現れたそれに唖然としていると、スマホに着信が入る。
電話をかけてきたのは弟の晴明だった。
「晴明か、どうした?」
「もしもしお兄ちゃん!?今何処居んの!?」
声の感じから察するに、何やら慌てているらしい。
「何処って、依頼受けて街に来てるけど……何かあったのか?」
「いやもう大アリよ!緊急事態だよ!どうやら街に上級エニグマが近付いてるらしくて…………」
「……上級だと!?まさかあの空飛ぶ魚みたいなのがか!?」
上級という言葉に即座に反応し、晴明の言葉を遮るように聞き返す。
「そ、そうだけど……お兄ちゃんも目視したんだね?」
「あぁ、たったさっきな」
まさか、こうもタイミング良く上級が現れるとは思いもしなかった。
やっと巡り会えた上級エニグマに対し、気持ちがどんどん昂っていくのが分かる。
晴明が何か言っている気もするが、もはやその言葉は耳に届かない。
今こそ自分の実力を世に示す時だ。
「晴明、情報あんがとな。じゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「ちょ、話聞けって!いくらなんでもお兄ちゃんひとりじゃ無理だから!ひとまず僕らと…………」
電話を無理矢理切り、スマホの電源を落とす。
無理?そんなものやってみなきゃ分からないだろうが。
そうして僕は、猛スピードでエニグマの元へと向かって行く。
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「だいぶ近付いてきたが……こりゃ思った以上にデカいな……」
街の外れの山の中で、エニグマが通過するのを待つ。
ジンベイザメより少し小さいくらいの身体には、いくつかの小魚のような模様が青く発光している。
見た所、弱点は見当たらない。
「……上空を通過した所を、下からライフルで撃ち抜いてみる、か
向こうは当然気付いてない訳だし、このままだと街に突っ込まれるしな」
木に登り、スナイパーライフルを真上に構え、エニグマを待つ。
山に巨大な影を落としながら、徐々にこちら側へと近づいてくる。
もう少しで上空に差し掛かるという所で、突然動きが止まった。
「…………なんだ?何故止まった?」
その直後、エニグマは大きな口を開き、一直線にこちらへと突っ込んでくる。
「嘘だろ……位置バレしてやがる」
しかし、ピンチはチャンスとよく言う。現に大きく開いた口の中にはしっかりと弱点らしきものが…………
「無……いだって!?」
口内に弱点があると踏み、あえて回避行動を取らずに銃を構え続けていた。
だが、読みが外れたのだ。
それに気付いた時には、既にエニグマは目の前まで来ていた。
咄嗟に武器を刀に切り替え、攻撃を受け止める。
エニグマの鋭利な歯は金属のように固く、刀がぶつかった途端甲高い音が鳴り響く。
そして、まるで何処かの怪力男のように、圧倒的な力で押し切ろうとしている。
だが、彼はまだ、余裕そうに笑っていた。
「良いじゃんか、この強さ。相手にとって不足無し!」
一瞬の隙をつき、エニグマを横へと受け流す。
そして、少し距離を置くと、懐からハニーの注射器を取り出す。
そう、いつもの、である。
「その強さを超えるためには、こちらも限界を超える必要があるだろう……
さぁ、とくと見よ。これが、僕の強さ。僕の鍛錬の成果だ!」
ハニーを注入すると、すぐに周囲に大量の銃火器を出現させる。
かつて、
かつて、
かつて、
それらを合わせた、僕の全て。
「ギャルルルルル!!!」
エニグマの方もけたたましい雄叫びをあげながら、再度こちらへと突っ込んでくる。
そしてこちらも、静かに、技名を言い放つ。
「……弾丸よ、荒れ狂え。『
直後、周囲の武器が全てエニグマに向かって放たれる。
無数の弾丸、強力な一撃、数多の爆弾。
その全てが、エニグマへと降り注ぐ。
瞬く間にエニグマは煙幕に包まれ、姿が見えなくなる。
「はぁ……はぁ…………これが……『全力』だ」
ハニーを全て消費し、今にも倒れそうだが、意地と気合いで立ち続ける。
徐々に煙幕が晴れていくと、そこには……
「…………グルル……グルァァァァァ!!!」
無慈悲にも、一切ダメージを食らっていないエニグマが佇んでいた。
「う……そだろ……今の僕の全力じゃ、アイツに傷一つ付けれないと言うのか……?」
これが上級。弱点が無いとはいえ、中級までなら深手を負わせれるであろう攻撃でも、コイツはピンピンしている。
改めて格の違いを認識させられた所に、更なる追い討ちがかかる。
「ギャルルルゥゥゥ!!!!!」
今度こそ獲物を喰らい尽くそうと、大口を開け、先程よりも早く、突っ込んでくる。
対する僕はハニー不足でもはや一歩も動けない。
「…………万事休す、か」
「そうやってすぐ諦めようとすんのも、お兄ちゃんの良くない所、だぜ?」
よく聞き慣れたその声と共に、エニグマに向かって数多のナイフが飛んでくる。
突然の出来事にエニグマも驚いたのか、一度距離をとる。
「全く、世話の焼けるお兄ちゃんだ事。一人で突っ込むなんてホント無茶過ぎるんだって、なぁ?」
よく見ると、
「はぁ……ホント、ザ・脳筋みたいな先輩ですね
そんなんだと命がいくつあっても足りないですよ」
「なんだよ……白夜まで来たのか……」
「取り敢えず、このままじゃどうにもならないから、一旦退いて体勢を立て直すよ」
そう言うと、晴明は僕を背負い、エニグマを背にして全速力で走り出す。幸いにもエニグマは深追いしてくることは無く、ひとまず安全は確保出来た。
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晴明から予備のハニーを貰い、何とか動けるまでには回復した。
だが、僕の全力を持ってしても傷一つ付けられなかった事実は、僕の心に深く刺さっていた。
俯いて色々考えていると、不意に晴明に声をかけられる。
「お兄ちゃん、さては落ち込んでる?」
相変わらず、人の心を読むのは昔から上手いんだよな、コイツは。
「まぁな……僕の全力をぶつけても傷一つ付けれなかったことが……な。」
「ふーん……なら一つ、大事な事教えたげるよ」
そう言うと晴明は真剣な眼差しでこちらを見ながら話し始める。
「お兄ちゃんは確かに強いよ。実力で言えば僕らより圧倒的にね。
でも、そんなお兄ちゃんでも、一つ、大事なものが抜けてるよ」
「大事なもの……?一体なんだと言うんだ?」
「単純な事だよ。協力、だな」
協力。その言葉を聞いた途端、心の中に何かが引っかかる。
「協力か…………そんなもの僕には……」
「絶対に必要不可欠だよ」
僕の言葉を遮るように話す。そしてそのまま、落ち着いた口調で言葉を続ける。
「お兄ちゃんは強さは十分だけど、状況判断力とかが不足してる。
僕は状況判断力は十分にあるけど、お兄ちゃん程の強さは無い
白夜に関しては戦闘力は無いけど、僕ら以上に情報を集めるのは得意
それらの力を合わせれば、例え上級だとしても十分打ち勝てると思わないか?」
「確かにそうかもしれない。だが……」
「プライドが邪魔するって?」
またしても僕の心を見抜いてくる。
事実を言われた僕は何も返せない。
それを見てそうだと確信したのか、更に言葉を続ける。
「そもそも協力ってのが、力の無い人達の行う事だと思ってるんでしょ。
そんな訳無いじゃん、例え実力が十分な人でも、何かしらの欠点はある訳だから、そこを補う為に他人の力を借りるんだよ。
一人でなんでもどうにかなるだなんて思わないで。
それに、僕達だって、お兄ちゃんの力になりたいし、お兄ちゃんの力を借りたいんだよ」
そう言う彼の目には、うっすら涙が浮かんでいる。
すると後ろに居た白夜も、晴明に続いて言葉を発し始める。
「晴政先輩が一人で突っ走るから、晴明先輩も日々心配で仕方ないんですよ。
これでもし晴明先輩の知らない所で何かあったとしたら、何も出来なかった晴明先輩が無力感を感じてしまいますし……
そもそも、晴明先輩だってこう見えて、晴政先輩に頼られたいって思っているんですよ?」
「白夜、皆まで言うな…………」
彼らに言われて、初めて気づいた。協力とは、弱者に限らず、誰だって必要不可欠なものだと。
そして、いつも晴明が、どんな思いで戦場に出る僕を見ていたのかも。
「………………済まんな、二人共。僕の考え方が間違ってたよ」
「分かりゃ良いんだよ、全く手間かけさせやがってぇ……」
「晴明先輩……何様のつもりですか……」
今思えば、僕に足りないものは、協力と言うより、彼らのような仲間だったのかもしれない。
せっかく気付くことが出来たこの仲間達に、改めて、頼ってみることにする。
「取り敢えず、早速だけども……二人の力を借りたい」
「言われなくたって元よりそのつもりだって」
「ですね……さ、一矢報いてやりましょうよ」
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山を抜け、ついに街に入るエニグマ。
街では既に多くのBee隊員達が迎撃体勢に入っていた。
だが、エニグマの高度が高く、近距離攻撃はまず当たらない。
だが遠距離攻撃をしようにも、エニグマに意外と機動力があり、簡単に避けられてしまう。
膠着状態が続く中、突如としてエニグマの背後に二つの影が_______
「まさか……白夜のユニットにぶら下がる時が来るとはな……」
「そうだねぇ、しかし僕は行けるとしてすごく重いお兄ちゃんすら持ち上げるなんて、結構馬力あるんだねぇこのユニット」
「お前な……一言多いんだよ……」
エニグマの背中に乗ると、それに気づいたエニグマが振り落とそうとしてくる。
晴政は刀を、晴明はナイフをエニグマの皮膚に刺し、振り落とされないように掴まる。
振り落とせないと悟ったエニグマは、ならば地面に叩き付けてやろうと急激に高度を落とし始める。
だが、これこそが彼らの狙いだったのだ。
「予想通り高度落としてきたな……これで他の奴らも戦いやすいだろ」
「そうだな。相変わらず白夜の読みって当たるもんだねぇ」
そして地面に叩きつけられる直前、二人は同時に飛び降り、晴政はスナイパーライフルを、晴明はナイフ使い、鱗へと攻撃を加える。
「さっきの借り、ここで返させてもらうぞ……!」
「僕だって、せめて一矢報わせてな」
その二人の攻撃を皮切りに、他の隊員達も一斉に攻撃を加え始める。
そして肝心の二人は、再び白夜のユニットに捕まり、地面へと降り立つ。
着地したと同時に、再びハニーが切れ、そのまま膝から崩れ落ちてしまう。
だが、やる事はやったのだ。もう思い残すことは無い。
「あそこまでお膳立てすりゃ、あとはみんながどうにかしてくれるっしょ……それよりお兄ちゃん、なんか死にそうなこと言ってるけど大丈夫?まだまだやる事あるんだからシャキッとしなよ」
「冗談だって……だけど、少しくらい休ませてくれよ……」
「まぁ良いけど……それより、あれが協力ってもんだよ、それも、他の隊員達との、ね
こうして見ると悪くないって思えるっしょ?」
「……そうだな」
いつの間にか、僕にかかっていたプレッシャーやら、絶望などは消え失せていた。
誰かと協力するのも、悪くないな。
後日、白夜のユニットのうち二機が不調になったらしいが、それはまた別の話……
To be continued