こんにちは、狸狐です。
私は以前、鬼太郎ファン、東方Project、そして読者を裏切る行為をしました。
許してくださいとは言いません。許せないのは当たり前です。
反省し続けて、誠意を示していこうと思います。
では完全新作、よろしくお願いします。
墓場の奥。
蛙の合唱が響く沼を超えて。
亡者の魂が踊り狂う廃墟を抜けた先。
常人ならば絶対に近づきたくない廃トンネルの闇の中を、裸足で歩く『男』があった。手に持っていたスマホの光を闇に向けるが、そんな小さな機械の出す光を嘲笑うかのように、闇が飲み込む。
だが、臆する事なく進み続ける男。
永遠の闇は存在しない。
次第に明るい光が彼を出迎える。トンネルを抜けた先には、広大な自然が待ち受けていた。化学物質で汚されていない綺麗な空に川、青々しい草原、そして何千年と君臨し続けた古木がある。──日本にはもう存在しないだろう景色。
そして、そこの中央には木の上に建てられたであろうツリーハウスがあった。
「へへへっ、こりゃツイてるね」
梯子の足の近くには、ポストがあった。
木製で、今にでも壊れてしまいそうなポスト。その中には手紙が一通だけ入っていた。男はヒョイとポストから手紙を抜き取り、封を破り、そこら辺に捨て、中身を取り出す。
「え〜と、なになに……。『
男は封筒をぐしゃっと握りしめた。
自信溢れる彼は、手紙を服の内側にしまうと、踵を返す。目指すは鹿羽山。焦点を定めて、歩み始める。両方に伸びる髭に唾つけて、汚い鼠色のローブを見に纏うその男の名は──。
「この『ビビビのねずみ男』にお任せあれェッ!!」
───鹿羽山 集落地帯
ここは鹿羽山。
中部地方にある全く知名度のない山である。
ここで疑問だが、なぜ日本、いや世界中の様々な山全てにはちゃんと名称があるのにも関わらず、人に知られない、地元の人でも知っているのはごく僅かな山があるのか。
そんな疑問に対し、かのエベレストを30回も登頂し、他にも名のある山脈を制覇してきた登山家 “
『誰もが知り、誰もが崇め、誰もが挑戦したくなる山になる条件?ははっ、そんなのちょっと考えれば分かるさ。そして答えは簡単!
でもね、人間が登りやすいように手を加える…。例えば、手すりやロープウェイをつけたり、山小屋なんか用意したりして、是非山にいらしてください。怖くないよぉってメッセージを伝えるのさ…。こうするだけで人は山に登る。どんなに高くてもね。
逆に人が手をつけず、獣道だらけの場合、どんなに低い山でも誰も登らんて!登った時に得られる達成感は皆無だしね。死んでも見つけてもらえんかも。………まぁ誰もいないからイチャつくにはもってこいかなぁ、ははは!』
つまり、人の手が介入していない『神秘』の山、ということだ。
獣道は動物たちが築いてきた歴史。
静けさは広大な証拠。
そして誰にも見つかったことのないこの世のものではないものたちが静かに暮らしている。
しかし、いや、だからこそ・・・・・・いるのだ。良いものだけでは、ない。この山に巣食う邪悪な奴らも。
「随分と廃れた村だこと。本当にこんなところに人いんのぉ?」
ねずみ男は顎に手を当て、様子を伺う。
山の中にほんの小さな集落があった。
棚田のようになっているのか、辺り一面田んぼしかなく、首の折れた
集落という方を見るが、家は数軒。あとは家の残骸で住めるものではないものが転がっている。住めるのは両手で数えられるほど。きっとここにも若者たちがいただろうが、過疎化の影響で、都市部に行ってしまったのだろう。残っているのは後先短い老人たちだけだと予想する。
「まぁ、行くしかないよな…」
ボロボロな木材が2本。
それがしっかりと地面に突き刺さり、鳥居のようになっている。手のひらで、ゆっくりと触れてみると、じんわりと全体に感触が伝わってくる。ボロボロだがしっかりとしており、これがこの村と外の境界になっているのだろうと実感した。
きっと何百年もの間も、外敵から村人を守っていたのだろう。だが悲しいかな、今では壁も壊れ、獣の爪でできたのか謎の傷だらけで、昔の面影は感じられない。
「どなた…ですかな」
「!?」
突然の低い声。
ねずみ男の隣には、いつの間にか老人がいた。足音を立てずに、それでも杖を持って、立っていた。驚いたねずみ男はパッと大木から手を離す。
「ぉ──…こ、これはこれはどうもぉ〜。怪しいものではありませんよ、お爺ちゃま!私、あの『ゲゲゲの鬼太郎』の師匠であるビビビのねずみ男と申しますです」
驚いたのも束の間。
直ぐに営業モードに早変わりする男。手をこすこすとこ擦りながら、ペコペコと、そしてペラペラと早口で自己紹介を始める。鬼太郎の師匠なんて嘘を交えるが、どうせ会ったこともないだろう。疑われる必要はない。
「おぉ、なんと!あの鬼太郎さまの師匠ですか!」
この反応。
手紙を出したのは、この老人だと直感する。そして素直に聞き入れたその姿勢、簡単に騙せると長年のわるぅい経験が告げていた。
「如何にもタコにも!あの鬼太郎に様々な技を授け、生きる術を教えたのは俺よん!……ご存知ない?俺の名前」
「す、すみません。儂はこの村から一度も出たことないので、知識があまり……」
「構わんよ。今度からは覚えてね。はい名刺」
「ど、どうも」
名刺には『怪奇現象なんでもござれの心霊研究会兼妖怪コンサルタント ビビビのねずみ男・住所不定』と書いてある。
何とも胡散臭いし、長くて結局何を言いたいのかは分からないが、こういった妖怪絡みには強いことだけわかる。
(──それにしても俺を知らないのは好都合だネ。にひひひひ)
ねずみ男は内心笑っていた。
自分の正体を知っていたら、きっと出て行けと言われてしまう。お金を稼ぐチャンスを失ってしまう。
自分を知らない人がいるなら、ここではどんなに大きな嘘をついても、真実になる。
「そ、それで、ねずみ男様…。鬼太郎様は……?」
「鬼太郎は別の依頼に行っていて今日は来れない!」
「そんなぁ」
「だからこそ俺様が来たのだ!あの鬼太郎を育てた俺が君たちを助けに来たのだ!──勿論、有料で」
「ゆ、有料、ですか?」
「ボランティアじゃないんでね。だがまぁ、良いことを教えてやるよ、爺さん。耳貸して」
老人が耳を傾ける。
ねずみ男は小さい声でつぶやいた。
「ここだけの話だがな、俺が来てラッキーだったぜ」
「と、いいますと?」
「鬼太郎はな、セコい男でよぉ。金持ちしか相手にしないんだ。それに一回依頼するだけで100万円!」
「本当ですか!?あの正義の味方の鬼太郎さんが!?」
「それはアイツの流した調子の良い嘘だよ。良かったな、来たのが俺で。俺は依頼料、そして達成した報酬合わせて10万で良いんだから。ニヒヒヒヒ」
勿論嘘。
そして見事なドアインザフェイス。鬼太郎は100万かかるが、自分は10万円で良いと言われたら、安い!こっちの方がいい!と錯覚してしまうのも無理はない。
嗚呼、その時の、嘘をついているねずみ男の顔を、本当に皆さんに見せたかった。自分を罰する者がいない自由人の邪悪な笑顔の凄まじいこと。
「・・・では!ねずみ男様、お願いします。我々をお救いください」
「任せなさい!!」
契約成立。
ねずみ男を完全に信じた老人は、ねずみ男を自宅へと招く。
─────
話を聞けば、老人はこの村では村長であり、村の者を導いてきたとのこと。ただ、まぁ導くといっても税金の払い方等だ。ここ、鹿羽山集落は、都市部からも離れ、スーパーや公民館などは存在せず、コンビニもない。本当にごく稀に来るトラックでの移動販売以外には娯楽を手に入れる術はない程の弩級の田舎。病院もないので、行くには滅多に来ないバスに乗って、片道2時間かけるしかない。電波もほとんど届かないのでスマホはいつも圏外。電気は通っているので、この村での唯一の情報を得られるものはテレビだけ。そんな暮らしに耐えきれず、九割の子どもたちは
「──我々は、不便な村だと自覚しておりますが、それでも少人数で逞しく生きてきました」
暗かった老人の表情は更に暗くなる。
「1週間前、隣の市の市長がニコニコとした顔でやってきました。何しにきたのかと思えば、この鹿羽山に太陽光パネル?…というものを建てたいとの事でした。だから我々には出ていって欲しいと」
「それで?」
「勿論、承諾しました。パネルの事は分かりませんが、都市部の方に家を用意してくれるとの話でしたし、都市部なら病院も近いので。それにもうこの村には年寄りだけ。失うものは何も何も。ですが……」
「読めたぜ。その日を境に襲われ始めたってわけだ」
「はい。移動は1ヶ月後との話でしたので、それまではこの村で生きようとしましたが……。今日から1週間前の夜、6尺(約2メートル)は超える獣のような者が現れたのです。それは我々の食糧を奪い、酒を奪い、
「なるほどな」
「何とか残ったものを隠し、少しずつ食べ、生きてきましたが、奴は2日に一度山から降りてきて、家を壊し、隠したものを見つけて奪っていくのです。・・・もう我々には食糧が尽きてしまいました。そして鬼太郎様を呼ぼうと今に至った次第であります」
「ふぅむ……」
ねずみ男は考える。
これまで様々な修羅場を生き延び、色々な妖怪を見てきた。その知識を総動員させて、聞く限りの情報をまとめ考える。
(……聞く限り、人を襲うような妖怪ではないな。壊すだけじゃなくて、食べ物を襲い、人は生かして、恐怖を与えるタイプ。つまり……知能はある!なら
(俺の口八丁手八丁を使って、丸めこめるなら楽勝だ。だ、だが…。もしダメなら……鬼太郎に泣きつこ!うん、そうしよ!まぁ、アイツが来たら、報酬は貰えねえが・・・)
(俺にはアレがある!…ここに来る前に、ちょいと現地を調べようと、ここの市の資料館で見た中部地方のお宝伝説!!詳しく調べたら、この山だけは誰も調べていないから、見つかる可能性は大!見つけたら10万なんてカスだ、カス!)
(とりあえず現地調査して、その妖怪と話して、上手くいけば報酬と宝探し。ダメなら鬼太郎呼んで退治してもらってる間に俺は宝探し!へへへへ!どっちを選んでも俺に得しかない!我ながらナイスアイディア!)
シクシクと泣く村長。
そんな事は気にせず、ニタニタとほくそ笑む。
そしてゆっくりと立ち上がり、村長の肩をポンと叩いた。
「安心しな!今から山に行って、その妖怪をやっつけてくるからヨ!」
「おぉ…!!」
その自信満々な表情。
仏のような笑顔。
村長にとって、ねずみ男はまさに、まさにまさに、救いの神と等しかった。手を合わせてひれ伏す。
「お願い致します!ねずみ男様ぁ」
「どれ、妖怪退治に行ってくる!──とりあえず10万円は頂きますよ」
「それはダメです」
「え?」
「以前、排水管工事を頼んだら前金だけ貰って、逃げられたことがありまして。達成したらお払い致します」
「・・・・し、しっかりしてるのねん。ガクッ」
───────
鹿羽山。
枝をくぐり、草木に迷いながら、山中を歩く。
イライラしながら山を登る彼には虫も寄りつかない。風呂に全く入らない臭い彼が、汗をかいているのだ。その匂いときたら、蝿も逃げ帰る。
「チッ!チッ!金も貰ってねえのに山に登らせるなんて!この俺を誰だと思ってんだよ!」
予想してた展開とは違い、モチベーションは低いまま。
乱暴に木の枝を折って、花を踏み潰して、時には立ち小便をして、進んでいく。しかし妖怪の痕跡は見えない。仮にも半妖怪の彼は、少しくらいなら妖気を感じることも出来るが、この山の気が邪魔しているのか、気持ちの問題かは不明だが感じられない。
このままだとジリ貧だ、そう思い、彼は声を上げる。
「おーい!村を襲う妖怪さーん!おーい!居たら返事しておくれー」
勿論、返事はなく、返ってくるのは自分の声だけ。
しかしもう歩きたくはない。
体を使うのは専門外だ。そう思い、近くの岩に腰掛けて、大きな声でまた叫ぶ。
「返事くらいしてみろってんだ!馬鹿やろーーーっ!!」
『オイ』
「何だよ、邪魔すんな。おーい、妖怪!出てこいよー」
『オイ』
「だから邪魔すん──ヒョッ!?」
自分は1人で登ってきた。
だからこの状況で、隣で話しかけてくるのは、自分が追い求めている
『この俺に何か用か?』
「で、でで、出たァァァーーーッ!?」
ひっくり返ったねずみ男の目の前に現れた妖怪。
『らんらんと光る一つの目玉。
腕、胸、足、背中等、ほぼ全身に生えわたる体毛。
鋭い爪に、丸太のような手足。
そして局部を隠すように身につけている腰蓑』
──例えるなら、一つ目の原人
そしてねずみ男を見下ろす約2メートル身長が怖さを倍増させる。その大体2メートル50センチの大男が、ねずみ男の背後に立っていた。
『何をそんなに驚くんだ…。オメェが俺を呼んだんだろうがよ』
「あわ、あわわわわ、貴方様は一体・・・っ!?」
『俺?俺は──
「へ?」
『聞かせてやってもいいゾ。・・・山童が
「あ、あはは・・・」
ねずみ男は立ち上がり、状況分析。
会話は通じるか? YES
温厚そうか? YES
馬鹿そうか? YES
いけそうか? YES YES YES!!
舌に力を入れろ。脳内にエンジンをつけろ。煽てろ。褒めろ。とにかく好かれてからが勝負だ。
「あはは!あはは!あははのは!!いやー天才的なギャグセンスですね!山童大先生!笑いすぎてお腹がよじれそうですよ!ほら、見て見て!」
『ガハハハハハ!ノリのいい奴!にしても誰だ、おめえさん?』
「お初にお目にかかります!私、ビビビのねずみ男と申すものです!勿論、あなた様と同様!妖怪でございます。はい」
『妖怪?・・・くっせえし、人間の匂いもするけど、……確かに妖怪の匂いもするな』
「いやーそれにしても、随分と立派な筋肉でございますですねェ!それに貫禄もある。そして何よりそのお顔!よっ、かっこいい!日本一!──実は、アタクシ、そんな日本一の大先生にお話があって参ったんですよ!」
『ガハハハハハ!褒められるのは気分がいい。どれ、その話とやらをしてもいいぞ』
基本的に動植物と共に生きる山童。
人間と関わる、いや言葉を持つものと会話をしたのは久しぶりであり、そして褒められるのも久しぶり。
怪しんでいたが、すっかり気を良くし、その場で
「あのですね…、えへへ、今ぁ、人間の村を襲っているとかいないとかの噂を聞きましてね……。本当かなって」
『おう!本当だぞ!』
「じ、事実でしたか。にしても、どうしてそんなことを?」
『
「嘘つき?」
『そうなんだよ。俺はさぁぁ……何百年もこの山に住んで、この村の人間たちと協力しながら暮らしてたんだ。一緒に田植えして、稲を刈って、荷車動かして、土耕してな。そして俺は約束したんだ!これからも
山童はため息をつきながら、そこら辺に落ちていた石を拾う。
そしてぎゅっと握りしめた。
グゴっと音を立てて、手のひらを開くと、石はなく砂になっていた。きっとイライラするのを石に当たったのだろう。その恐ろしい握力に、もし自分が掴まれたりしたらと思うと、声が出なくなる。
『だがよ、時代が進むにつれて、あの村の人間たちが俺と関わろうとしなくなって……最近じゃあ俺のことを知らない奴らが現れてよぉ〜。それって自分たちの子孫に、俺のこと伝えてなかった訳だろ。協力していこうって約束したのに、嘘ついたって訳だよなァ〜』
(・・・これって?)
『ったくよぉ、俺があんなに手伝ってやったのに、その恩を忘れやがってよぉ』
(やっぱり・・・)
頭の良いねずみ男。
この妖怪中心の話を聞いたうえで、人間の視点になってみる。すると見えてくる。お互いの誤解を。
(人間たちにとってコイツは協力してくれる仲間じゃなくて……、
その予想通りである。
だが結局はただの予想。真実はわからない。
ねずみ男がいくら頑張っても真相を知る方法がないので、この話を読む方々にだけ真相を伝えよう。
〜
実は、数百年前、この山に住む人間たちの前に突然、山童は現れた。
その姿、その声。
一目で人間ではないと察するが、こんな異形に何をされるかも分からないので、とりあえず放置していると、山童は人間の仕事を代わりにやり始めたのである。
驚き、固まっていると、流石は異形の存在だからか、あっという間に農作業を終えた。
勿論感謝はした。何も言わずに仕事を手伝ってくれたのだから。
だが、問題はここからだ。
山童は人語を使い、人間たちに言った。──『手伝ってやったのだから、お礼を寄越せ』と。
勝手に来て、勝手に手伝って、お礼を寄越せ?? 何と図々しい奴だと思っていると、米倉の戸を山童は開けて、米俵を全て持っていってしまった。その中には年貢として収めなければならない米もあったというのに、全てを持っていってしまった。
勿論、農民たちは処罰された。
命を奪われることはなかったが、次の年貢は更に重くなる事を条件で許されたので、結局は死んだようなものだ。
そしてここに住む人間たちは決めた。
もう妖怪には頼まないと。
そして、この妖怪の話はせずに、このまま闇の歴史として葬ろうとしたのだ。そして成功。初めのうちは農作業の時期になると現れ、無理やり手伝おうとしたが、断ったりする、酒を飲まして眠らせ放置されるなどをした結果、手伝えず米も貰えないと知った山童は姿を消した。
〜
(まぁ人間と妖怪の考えや思考は合わないものよね。だが悲しいかな。こういった類は気づかねえ。ありがた迷惑なんて言葉、知りもしねえだろ)
『けど、こんな温厚な俺でも許せねえことがある!』
「太陽光パネルですね?」
『んだ!その、ぱねるぅってのを俺の住処に建てようって話を許可した訳じゃねえか。あんなに人間に尽くしてきたのに、俺の気持ちを、優しさを、踏み躙りやがってェ〜〜〜ッ!!』ギリギリ
歯を強く噛み締めるとギチギチという音が鳴る。
それをねずみ男は大音量で聞いていた。
まるで餌を奪われたボス猿が、怒り狂うように、口から涎を垂らし、犬歯をくわっと見せるようだった。
先程まで、おだてられて、喜んでいたのに、イライラし始めた。
「け、けけ、けど!山童先生はお優しいじゃ、あーりませんか!命を奪うんじゃなくて家を壊すくらいですし!」
『俺はやられた事はキチンとやり返す男だ!!俺の住処を奪うなら、アイツらの家を奪う!俺の食べ物を奪うなら、アイツらの食べ物を奪う!ガハハハハハ!!殺さずに苦しめて生かしてやるのさ!』
(こ、怖ぇ〜〜!?俺、もうここから逃げたいよぉ〜。でも…)
血走る単眼を見て、完全に震え上がる。
元より怖がりなこの男。
こういった場合、本当なら走って逃げたいのだが、彼の脳裏には10万円がちらつく。
老人たちが死のうが、生きようが、苦しもうが、自分には関係ないが、お金だけは欲しい。その気持ちが彼の原動力となる。
「や、山童先生、あのですねぇ」
『何だ?ねず公』
「その仕返し…、もう終わりにしませんかねェ…、なんて、あはは」
一気に真顔になる山童。
同時に木に止まっていた鳥たちも一斉に逃げ出す。
途端に吹き出す冷や汗。そして猛烈に喉が渇いていく感覚に襲われる。だが、このままではダメだとカラカラな口を必死に動かす。
『俺に意見するのか?ああ?』
「ええっ!?」
『おまえ・・・、まさか人間の味方するってのか? 俺が悪いって言いてえのかアァッ!?』
「ち、違いますよ!私はただ、貴方の身を心配してるだけなんすよ!もしこのまま襲い続けたら、我々妖怪の天敵……ゲゲゲの鬼太郎がやってきますよぉ!そしたら退治されちゃいますって!」
『鬼太郎?』
「はい!!生意気なクソガキなんですが、強いのなんのって!私をよくいじめる人間の味方なんですよ!」
強い人の名前ほど便利なものはない。
例えば、喧嘩のシーン。
自分の背後にはこの学校で1番強いお方がいる。私に手を出せば、大変な目に遭うとでも脅せば、争おうとする気は起きない。
ここでも同じだ。
今まで数え切れない妖怪とのトラブルを乗り越えてきた伝説的に有名で、幽霊族の末裔の鬼太郎の名前を出せば、妖怪たちは怖がってしまう。
だが、それは
『・・・』
「へ、へへっ、ねっ、今回のところは人間を許しましょうよ。誰だって命は惜しいですしね。へへへへへ」
『・・・れが』
「はい?」
『この俺が!
「ひぃいいーーーッ!?」
山童は、座っている状態で、地面を叩く。
ダンっと叩いた衝撃で、地面は割れる。そして、それと同時に一瞬だけ浮き、立ち上がった。圧倒的な腕力だからこその出来る技だ。
『許さん!!俺に意見するだけじゃなく、脅そうとまでしやがって!!この野郎!グチャグチャにしてやらねえと気が済まねえェッ!!──殺す!』
短気。
圧倒的な気の短さ。
血走る目玉がねずみ男を捉えた。
「お助──うごぁっ!?」
ガシッ!!
ねずみ男の肩を、その巨腕に掴まれる。
もがいても逃げられない。圧倒的な握力の前に、ねずみ男の行なっている行為は無駄な抵抗だ。
『このまま骨を折って殺してやる』
「ぎぃやあああ──」
メキメキメキと悲鳴をあげる骨。
その攻撃に悲鳴をあげる。
全身を、万力で挟まれる感覚に襲われ、死を実感し始めた。
しかし。
しかしだ。
山童は知らないのだ。
この『ねずみ男』という存在を。
ただのセコイ、臭い、弱いだけだと決めつけていた男のピンチの際に起こる能力を!!
──ブッ
『あ?』
──ブブブ…ッ
──ブババババババッッッ!!!!
『ヌゥウウウッ……ウンギャアアァァァーーーッ!?!?』
「出たぁ・・・」
美しい自然の中に、腐ったような臭気が立ち込めていた。
今まで生きてきた中でこんなに強烈な匂いを嗅いだ事はない。その匂いはまるで死の予感を運んできたかのようで、山童はねずみ男を放り投げ、膝をつき、目鼻を両手で押さえる。
「いつ嗅いでも恐ろしい俺様の屁の威力、思い知ったか!!」
危機的状況に陥ると、イタチの最後っ屁ならぬ、ねずみ男の最後っ屁が炸裂するこの体質。以前は鬼太郎たちに火炙りの刑にされそうな時に出したが、今回はその時よりもキツい匂いだった。
山童がこんなに苦しむのも、無理はない。何と恐ろしいことか、周辺の自然が少しだけ腐っていた。
「俺の屁を嗅いで立てた奴はいない! けど、まぁ……」
『グオオオオオ──』
「とりあえず・・・にーげよっと!!」
脱兎の如し。
その逃げるねずみ男の背中を、涙を流しながら、山童は睨みつける。全身から血管を浮き出しながら、呪いの言葉を発して、睨み続けるのだった。
───────
とりあえず奥へ。
とにかく奥へ。
逃げろ。逃げろ。逃げろ。
鹿羽山の自然が作り出した、複雑な迷路に迷い込んだねずみ男。人間が一切手を加えていないのだから、考え無しに進んで行けば遭難するのはあっという間。ねずみ男がこの山から出る事は厳しいだろう。
「はぁ…、はぁ……。と、とにかくここまで来れば……」
無我夢中で走ったねずみ男。
素足だから、植物の葉で足を切っており血が流れていた。だが人体の不思議というもので、アドレナリンが出ていると痛みを感じなくなる。
「早くこの山から脱出しねえと…。・・・ん?あらぁっ!?」
一応、今は敵から逃げている最中だ。
それだというのに。
分かってはいるのに。
「俺様のヒゲがビンビン反応してるぞぉ!?この強い反応!きっと!伝説のお宝ぁ!!……あーもうダメ、俺様、我慢できない。お宝の方が優先よーん!」
これは、ねずみ男の『お宝アンテナ』。鬼太郎の『妖怪アンテナ』と似た、彼の能力の一つである。
このアンテナは、『金目のもの、儲け話、宝、未知の存在』といった自分にとって都合が良かったり、興味や関心あるものを感じ取ることができる。非常に便利なものなのだが……あまりの性能の方はよろしくない。不定期に反応するからだ。
「お金〜お宝〜大判小判〜〜!全てはこの俺のものぉ〜・・・・・っておおおおおっ!?!?」
アンテナが示す方向。
ねずみ男の視界の先には、廃墟と化しているが『神社』があった。
山の奥深く、自然の雄大さが侵食しようとも拒み続けるかのような場所で、かつて繁栄し、今は静かな『神秘に包まれた神社』の跡地を見つけた。荒々しい風が青々と茂る草木をなびかせ、神聖な空気がそこに満ちているかのようだった。石段は苔に覆われ、建物の一部は崩れ落ちてはいる。
だが、何か重要なものが、ここに、この場所に息づいていることは間違いない。
「すげぇ・・・」
歴史的建造物。
芸術的アート。
それらを見て、全く理解を示したことのないねずみ男だったが、さすがのこの歴史に
「──っ、柄でもねえ。さぁて、お宝お宝」
あんなに疲れていたのに足取りは軽かった。
とても長い階段を登り切ると、苔に覆われた鳥居が待ち構えていた。そして、その鳥居には・・・。
「ん〜?……『博…神…』?掠れてて読めねえな。まぁいいや。お邪魔しますよん」
本殿の方へ向かう。
賽銭箱らしき残骸を見て、金はないだろうなと察する。
本殿の戸を開けると、空気が変わるのを感じる。
そして中には、鏡があった。別に何か変わった装飾がついていたり、古代からある銅鏡というわけでもない。ボロボロで、もう何も写せない、何も変哲のない鏡だけがポツンとあり、それを手に取った。
本殿の中は暗いので、外へ出た。
木漏れ日で見る鏡には、特に価値を感じない。
「まさか……これだけ?このボロっちい鏡だけ!?骨折り損じゃねえか…」
『見つけたぜェエ〜〜〜ッ!!』
「ひっ!?」
山童が遂にねずみ男を見つけた。
鳥居を破壊し、ねずみ男の所までズンズンと向かってくる。
万事休す。
ねずみ男は腰を抜かし、立つことが出来ない。唯一、怒り狂う山童の顔を見て、許して許してと声を出すしか出来なかった。
『ここは昔からある廃神社でなァ。ここには鏡以外何もねえのさ』
「そ、そんな」
『にしても、死ぬ場所を神社にするたぁ、なかなか良い趣味してんじゃねえか』
「お慈悲をぉ〜っ!!」
『許すかアァァァッ!!ぶっ潰れろオォォォッ!!』
巨大な拳が来る。
あぁ、もう逃げられない。
死ぬんだ。
(あー…)
(死ぬんなら…)
(特上の寿司を腹壊すまで食ってみたかったなあ……)
実際に死ぬ時は、走馬灯を見る暇もないんだな。
涙を流し─。
目を、ゆっくりと閉じた。
(あれ?)
(殴られない?)
(攻撃やめてくれた?もしかして誰か来てくれた?鬼太郎来てくれた!?それとも痛みを感じる間もなく死んだ?えっ、俺、今一体どうなって──)
恐る恐る目を開く。
開いた先。
そこには──。
『ぬぅうううわあぁにいいいいいっ!?』
「・・・」
「女…の……子…?」
今、夢を見ているのだろうか。
試しに頬をつねってみると、ジーンと痛みを感じた。
つまり今見ている─『山童の拳を、紅白の巫女服を着た女の子が止めている』──光景は、嘘じゃないってことだ!!
「ねえ、おじさん」
「はっ、はい!」
「危ないから離れてなさい。巻き込まれて死んでも責任取れないけど」
「あ、ありがとうございますぅっ」
腰を抜かしながら、必死にその場から離れる。
遠くから改めて見ると、まるで特撮映画の撮影現場を近くで見ているようだった。
『この俺の拳を、女に、ましてや子どもに、止められるなんてェッ!?』
「自分の力を過信して良いのは、強者だけよ。デカブツさん」
『くぅううっっっ!? 何者だっ、貴様アァァァッ!?!?』
「博麗の巫女……『
博麗霊夢。
そう彼女は名乗った瞬間に、自分の3倍以上もの大きさを誇る巨体の足を、サッと払った。
この様子と来たら、まるでスペインの闘牛を余裕で避けるマタドールのように、軽々と。
「よっと」
『ガッッ…ハッ!?』
思い切り顔面を地面にぶつける。
それに普通の自慢ではなく、石畳が割れていた。相当のダメージだろう。悔しそうに頭を上げる山童の額からは赤い血が流れていた。
「あーあー…。掃除したばかりなのに、どうしてくれんのよ、これ?ガタイが良いのに受け身も取れないわけ?」
『〜〜〜っ、ぐうぅっ』
「何よ、その目は。まだやられたいの?今ので察しなさいな。アンタじゃ私には勝てないんのをさ。ほらっ、さっさと出ていきなさい。今回は許してあげる。けど、まだやるっていうのなら──“容赦はしない”」
『・・・へっ、へへっ、へへへ』
突然笑い出す山童。
霊夢はなんだ急に、と首を傾げる。
ねずみ男はその笑いに恐れを感じていた。
『へへ…はは…ガハハハハハ!! 容赦しない、か…。・・・舐めんじゃねえ!この俺は怪力の山童だ。その余裕綽々な顔をグチャグチャのメタメタにしてやるよぉ〜〜〜〜』
──ゴキゴキバキバキゴリュリュ……
「きっも・・・」
山童の右腕が。
右腕が、山童自身の体の中に飲まれていく。
それと同時に、左腕が伸びる。伸びて伸びて、更に伸びていく。
『俺はナ……、元々『
「へー。“アイツ”もできんのかな」
ここで、山童の事を少し紹介しよう。
山童は人間の仕事を手伝ってくれる山の妖怪だ。伝承としては、手伝った後にはお礼は与える。もし与えなかった場合、大暴れをするというものがある。
そして、ここからが重要!!
山童という妖怪は、元々『河童』が進化した妖怪なのだ!!
(例えるなら、某モンスター育成ゲームで、レベルアップで進化するのではなく、特定の場所で進化するようなものである)
水中で生きる河童が、陸地で生きる事を決意。
お皿が乾く苦行に耐えながら、陸地に上がる。キリンが木の葉っぱを食べようと首を伸ばしたように、子どものような身体は、ぐんぐんと成長。草木や石で怪我しないように硬くなる。(用途は不明だが、二つあった目玉は一つとなる)。手足にある水かきを失う代わりに、皮膚は厚くなる、筋肉量は増える。川から山へと生きるための体へと変わるのだ。
『この圧倒的な
山童の瞳には憤怒が燃え盛り、怒りに震える手が無意識にこぶしを握りしめた。その拳はまるで怒りの炎を込めた鉄の塊のように、空中に突き上げられると同時に、その周囲の雰囲気までもが熱く燃え盛った。
『喰らってくたばれ───ッ! 【
拳が、当たる。
ダメだ。
これは流石にダメだ。命を助けてくれたのは、ありがたいが、相手は妖怪だ。死んでしまう。いくら鬼太郎みたいにすごくでも、華奢な体じゃ耐えられない。
「逃げ」
「──ふっ」
「ろ……、えっ!?」
先程のを見て、耐えると思っていた。
正面から耐えると思っていた。
きっと相手もそうしてくると思っていたんだろう。
だけど、目の前の少女は“天才”だった。だって──。
『うわおおおおーーー』
投げたのだ。正面から受けるのではなく、受け流す。そして長い腕をガシッと掴んで、ぶん投げた。そう、あの技は『一本背負い』。
戦闘の素人の俺でもわかる柔道技だ。柔道は元より相手の力を利用する技だ。だからこそ、力で押してくる相手にとってはピッタリな技なのだ。
『ーーーガベバッッッ!?!?』
2度目だ。
あの山童が地面にめり込めむのは。
だが1度目と違って、長い腕がボキッと折れる。重症だ、どこからどう見ても重症だ。
それでも怒りが収まらない山童に、流石に呆れた巫女は、護符を取り出した。
「怨みの魂、我が祈りに屈せしめ。神々の加護、この儀に宿り、悪しきものよ、我が手に封じられん。──『夢想封印』」
『GYAAAA──』
山童の身体が、護符に吸い込まれた。
今までと同様、妖怪の封印。
護符の表面に山童の姿が浮かび上がる。完全に護符の中に封印され、破られない限り、この世に出る事はないだろう。
「妖怪なら住みやすい環境なのに…」
「す、凄え…」
護符を本殿の中にしまう。
きっとこれまで悪い事をしてきた妖怪たちも封印されて、この中にいるのだろう。
片付けが終わった巫女は、自分の目の前に立つ。差し出された手をとって、ねずみ男はやっと立つことができた。
「え、えと、どうもありがとございます…」
「お礼なら良いわよ。仕事だし」
「それで貴女は・・・、あれ、ここは?」
落ち着いた事で、現状の異変に気付いた。
あんなに薄暗かったのに。
あんなにボロボロだったのに。
自分の目の前には、壮大な山々と、荘厳で神聖な神社があった。そして掠れていたはずの文字もはっきりと書いてある。『博麗神社』と。
「外の世界からお疲れ様」
「外・・・?」
「ようこそ、幻想郷へ。歓迎するわ」
今回のゲストは『山童』。
本来は河童と同様に、小柄な体で、気の良い妖怪だそうですが、悪い妖怪にしてしまいました。
読者さんからのアドバイスによって知りましたが、2021年頃の『東方虹龍洞』から『山城たかね』なる山童キャラが東方側でも登場したみたいですね。あんまり最新作すぎる東方キャラには詳しくないので、彼女を出す可能性は極めて低いですが……
鬼太郎作品ではメインになった事ない妖怪です。
もし出して欲しい妖怪がいましたら、言ってくれると嬉しいです。