ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。

 今回長めです。
 あと最近調子悪い…。何なんだろうか














 








悪魔の妹 フランドール・スカーレット②

 

 誰かに頭を撫でられている感覚がする。

 優しく、心地の良い感覚。

 何とも懐かしい。まだ両親が生きていた頃、よく姉が私を膝の上に乗せてくれたり寝かせてくれたんだ。立派な姉になってみせると息巻いていた姿を見て、幼いながらに笑っていたんだ。

 

 

「・・・おねえ・・・さま・・っ」

 

 

 ゆっくりと目を開ける。

 知らない天井だった。

 地下の無機質なものではない、表現するには難しいが木目の天井というのは何とも暖かさを感じる。

 

 

「……んっ」

 

 

 ゆっくりと身体を起こす。同時に頭から湿ったタオルが落ちてきた。辺りを見渡すと小さな部屋で、近くには水の入った桶がある。どうやら誰かが看病してくれていたらしい。何度もタオルを濡らして、絞って、頭に乗せてくれているようだ。窓も空いてはいるが太陽の日差しが入らないようにされており、秋の心地よい風だけが流れてくる。

 このあまり感じることのない朝の心地よさを感じていると、ガラガラと玄関の戸が開く。

 

 

「おっ、フランちゃん。目が覚めたのか。良かった良かった」

 

 

 現れたのは自分に傘をさしてくれた男性。

 初めて見た時はあまり気にならなかったが、よく見てみると私の想像する服とは思えない布だけを身に纏っており、そして裸足。失礼な言い方だが貧しい格好をしていた。彼はタライと紙袋を持っており、紙袋からはリンゴが頭を出しているのが見えた。

 

 

「ね、ねずみ男…さん……だっけ?助けてくれて……」

 

 

 お礼を言おうとすると、ねずみ男は頭を横に振る。

 紙袋を置いて止めた。

 

 

「お礼なんかやめろぃ!俺ぁは目の前で死なれたら夢見が悪くなると思って助けただけだ。それと“ねずみ男さん”って固く呼ばないでくれ。むず痒くなる」

 

「で、でも…」

 

「デモもストもねえんだよ。子どもは子どもらしいってのが1番なんだからよ」

 

 

 ねずみ男は別に子どもが嫌いというわけではない。寧ろ、子どもは好きだ。生意気で泣き虫、強がりに怖がり、いじめっ子にガキ大将にいじめられっ子と色々いるが全てにおいて純粋だ。そんな彼らが大人にへいこらしているほうが好きじゃあない。フランにも伝わったのか、先程とは違った思い切りの良い笑顔を見せる。

 

 

「・・・分かったわ。おじさま!」

 

「おじ様って…。まっ、“さん”付けよりはマシか。よし、元気になったなら薬飲んで朝飯だな」

 

 

 そう言って、ねずみ男は袋から薬を取り出す。

 汲んできた水をコップに入れて渡す。

 

 

「今、ウサ耳の薬売りから薬買ってきたんだ。()()()で値引きしてくれねえでやんの」

 

「前の…?」

 

「こっちの話よん。……ほれ、飲めるか?」

 

「うん。……ん、苦〜っ」

 

 

 あまりの苦さを訴えるためかベェっと舌を出す。

 昨日とは大違いの子どもらしい姿にケラケラ笑う。

 

 

「ケケケケ。甘い味だと思ったか?良薬口に苦しっていうだろ。薬飲んだなら、次はこれだな。ほれっ」

 

「わわっ」

 

 

 ねずみ男はリンゴを投げた。

 フラン本人に言うつもりはないが本当ならお粥でも作ってあげたかったが金が足りなかった。薬代は意外とかかってしまい、残った金で買えたのは果物だけだった。

 

 

「ええと…」

 

「? 食わねえのか?」

 

「切ってあるのしか食べたことないの。皮もあるし食べ方がちょっと分からなくて…」

 

「ま、まじかよ・・・」

 

 

 フランの発言に目を丸くする。

 しかし、それと同時にねずみ男の心の中に悪い物が芽生えていた。言動や服装、言葉遣いなどを聞いたり見たりしたところ、このフランという少女は『金持ちの家系』だ。あんなにボロボロだったところを助けたんだから謝礼が貰えるかもしれない。

 

 

「じゃあ俺が教えてやるよ。リンゴの1番美味しい食べ方をな。・・・こうやって齧り付くんだよ!あーん」

 

 

 ガブリと皮ごと齧り付く。

 ジューシーな果肉から弾ける果汁。そして何よりもねずみ男の美味しそうに食べる表情がお上品なフランの食欲に火をつける。

 

 

「お姉様の前だと出来ない食べ方…!!いただきます」カプ

 

 

 ねずみ男とは違う小さな口でカプリとリンゴに齧り付く。家で咲夜がうさぎの形にしてくれたリンゴとはまた違って、気持ちの良い歯応えを感じた。極たまに人間の首筋に噛み付いた時のようなピンと張っている肌に歯を突き立てて、中の果汁のように甘い鮮血を飲んでるかのようだった。

 

 

「〜〜〜〜っ!!」

 

「うめぇだろ。ニヒヒヒヒ」

 

 

 声は出さずに表情で美味しさを伝えるフラン。ねずみ男はそれに満足して、あっという間にリンゴを芯まで食べてしまった。彼の持つ歯は大岩さえも削ってしまうくらいの力があり、更に何でも消化する胃がある。彼の前ではどんな食べ物も骨すら残らない。

 

 

「美味しかったわ…。こんなのはじめて」

 

「なら良かった。薬飲んで、飯食ったなら、後は寝るだけだな」

 

「・・・うん」

 

「大丈夫だよ。寝るまで隣にいてやるさ」

 

「ほんと?」

 

「ああ」

 

 

 そう言って、ねずみ男はフランの前に座る。

 フランは治ったといっても病み上がり状態だ。ねずみ男の言葉に安心して、直ぐに横になった。食べて直ぐに寝ると牛になるなんて迷信をお姉様が言っていた気もするが気にしない。

 

 

「・・・」

 

 

 目を閉じると、あの家出をした日を思い出す。

 あの日は朝から虫の居所が悪かった。生まれ持って備わっている破壊衝動が溢れていた。しかし霊夢たちと出会ってからはコントロールしようと頑張ってきた。だがあの日だけはどうしても我慢できなかったのだ。

 

 咲夜や美玲に当たり散らし、小悪魔やホブゴブリン達に罵詈雑言を放つ。そんな状態で姉が私の楽しみにしていたケーキを食べてしまったのを見て、流石に我慢できなかった。姉に襲い掛かり、返り討ちにされ、悔しくて悔しくて家出したのだ。

 

 その後は雨に直撃。

 濡れて、火傷を負った時点で冷静になり、ねずみ男に助けてもらった。こうやって誰かの家にお泊まりしたのは初めての経験だが、経験して分かったのはこんなにも家族に会いたくなる、恋しくなる事。寂しい…、寂しい寂しい…。やっと地下室から軟禁されなくなったと思ったら家族と離れ離れになるなんて思わなかった。

 

 

(・・・お姉様)

 

「眠れないみたいだな」

 

「おじ様」

 

 

 小さい声で言ったと思ったが聞こえていたようだ。

 ねずみ男は寝ているフランの頭をポンポンと触った。彼のことを冷たい男だと周りは言うが、実は子どもには甘いのだ。

 

 

「何があったんだよ」

 

「やっぱり聞いちゃうんだ…」

 

「言いたくないなら言わなくても良いけどよ……1人で強がるよりも誰かに言える奴の方が立派なんだぜ?それが出来なくて勝手に自滅する奴は多いけど、自滅するよか周りを巻き込むのも悪くねえさ」

 

「・・・」

 

 

 フランは少し黙って俯く。

 ねずみ男はとにかく答えるのを待っていた。フランはゆっくりと起き上がるとウルウルした目をねずみ男に向ける。

 

 

「笑わない…?」

 

「もちろん」

 

「・・・実はね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃーっ!はっはっはっ!!!い〜っ!ひっひっひっ!!」

 

「ううぅ〜〜っ!!」

 

 

 ねずみ男は大爆笑。そのねずみ男を、顔を真っ赤にしたフランが半泣き状態で睨みつける。それでも構わずにねずみ男は床をダンダンと叩く程笑っていた。

 

 

「家出した原因がケーキッ!ケーキって!!そんな赤ちゃんじゃないんだから!」ゲラゲラ

 

「おじ様の嘘つきィィィ〜〜〜ッ!!笑わないって言ったのにィィ〜ッ!!」

 

 

 一通り笑い、ねずみ男は落ち着くために深呼吸。

 フランは頬っぺたを大きく膨らまして怒っているのを表現し、そっぽを向いた。

 

 

「そんな怒んなよ〜」

 

「知らない…」

 

「でもよスッキリはしただろ?」

 

「・・・それは、そうだけど」

 

「それによ、こうやって笑えるレベルって事は必ず仲直りは出来るってもんさ。話してくれたって事は謝りたかったんだろ?姉ちゃんに」

 

 

 返事は無かったが頷いたのは見えた。

 きっとフランも自分がこの程度で家出してしまった事を恥じているのだろう。変なプライドが邪魔して今に至るわけなのだから。

 

 

「じゃあ今日の夜に謝り行こうぜ。俺も付いてくからよ」

 

「もし許してくれなかったら? お姉様も、咲夜も、パチュリーも…皆んな許してくれなかったら?」

 

「そん時きゃ、俺んちにずっと居たらいいさ。まっ、大丈夫だとは思うけどな」

 

「ずっと!?……ば、ばかっ!どうせ本気じゃないくせに。……でも、ありがと」

 

 

 顔を赤くしたことを悟られないように布団の中に潜り、顔を隠す。ねずみ男はフランが眠るまで隣に居続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 夜が来た。

 太陽が沈み、お化けの時間がやってくる。

 フランとねずみ男は既に紅魔館に向かっていた。フランは家族が許してくれるだろうかとドキドキと緊張していたが、ねずみ男にとっては大したことのないただの夜の散歩の気分だった。

 

 

「着いた」

 

「ほへ〜〜っ!ここが紅魔館かぁっ!確かに外装全部が血のように真っ赤だ。良い趣味してるぜ、西洋さんは」

 

 

 フランは門を見て、何か異変に気づく。

 いつもならいるものが居ないのだ。

 

 

「・・・あれ?」

 

「どったの?」

 

「美鈴がいない」

 

「えーと……門番だっけか?」

 

「うん。いつもなら立ったまま寝てるのに」

 

 

 門へと近づく。

 紅魔館はとても静かだった。まるで誰も居ないような、ここだけ時が止まっているかのような冷たく静かで少し怖かった。

 

 

「おいおい……すげえよ、これ。びぃーっちりと植物のツタが門に絡んでるぜ。うわっ、屋敷にまで。これさ紅魔館よりも植物館にした方が良いんじゃねえか?」

 

「・・・」

 

 

 ねずみ男の言う通りだ。

 紅魔館全体に植物のツタが巻き付いていたり、這っているのが確認できる。いつも見慣れた紅魔館が別な場所、例えるなら廃墟のように見えた。

 

 

「流石におかしくねえか?話で聞いたのと違って、何百年も手入れされてないってくらい荒れてるし…」

 

「お姉様に何かあったんじゃ…!!」

 

「…よし、入ってみるか」

 

 

 ゆっくりと門に手を伸ばす。

 しかし触れる前に勝手に門が開いた。その重く低く音を立てて開く門は何年も開いていないかのようだった。その奥に視線を向けると門の先、玄関の前にメイド服を着た女が立っていた。

 

 

『お待ちしておりました』

 

「咲夜!!」

 

 

 フランが駆け寄る。

 しかし咲夜は目を合わせる事はしなかった。表情などに光は無く、何処か冷たくて人形と話している気がした。

 

 

『・・・』

 

「咲夜・・・?咲夜、怒ってる?……っ、ごめんなさい!!私、あの時カッとしちゃって、それでそれで…」

 

『・・・』

 

 

 そのまま玄関を開ける咲夜。

 フランはきっと昨夜が怒っているからだと悲しくなり、スカートの裾をギュッと握る。それを見かねたねずみ男が間に入った。

 

 

「なぁ、おい。咲夜…さんだっけ?フランちゃんが謝ってんだからそんな態度しなくても──」

 

『どうぞ、こちらです』

 

「おっ、おい!?」

 

 

 咲夜は2人を紅魔館に招き入れる。

 何を聞いても答えずに、ただ同じことだけを壊れたスピーカーのように繰り返すことしかしなかった。2人が入ると同時に玄関の扉は誰にも触れられていないのに閉じた。

 

 

「い、家の中にもツタが…っ」

 

「おじ様…」

 

 

 紅魔館の外部だけではなく、内部も植物のツタが巻き付いたり這ったりしていた。その赤いツタはまるで血のような色であり、少しゾクリとする。怖くなったのかフランが寄ってきて、ねずみ男と手を繋いだ。

 

 

「何なんだよ…」

 

『主人がお待ちです。こちらへ』

 

「お姉様が待ってるの?でも、そっちは──」

 

 

 咲夜が連れて行こうとしているのは地下のようだった。地下室へは人間の血液が保管されている部屋、その先に図書館、最後にフランの部屋である。レミリアがいるはずではない場所だ。彼女はこんなところに来るはずがない。長年暮らしているからそれは分かっていた。

 

 

「おじ様…、私、また閉じ込められるのかな。悪い子だからっ、喧嘩したから閉じ込められるのかな…っ」

 

 

 あの時のトラウマが浮かび上がる。

 もう1人は嫌だ。

 しかしねずみ男はギュッと更に強く手を握る。フランはねずみ男の顔を見た。彼は安心させるようににっこりと笑う。

 

 

「大丈夫だ。俺が助けてやっからな…」

 

「うん…!」

 

 

 階段を降りる。

 一つ一つ降りるたびに鉄臭い匂いが濃くなっていく。フランも、ねずみ男も嗅いだことのある『血の匂い』。溢れ出した鮮血とは違って、飛び散ったり血溜まりになって固まりつつある時特有の鉄の匂いだ。

 

 

『こちらで主人がお待ちです』

 

 

 辿り着いた場所は紅魔館の血液貯蔵庫。

 迷い込んだ人間や里の外に出た人間、外来人たちから血を抜いて樽に詰め、パチュリーの魔法で保管されている部屋だ。主人が吸血鬼であるために血は絶対に必要になる。しかし毎回人間を襲うのは博麗霊夢や幻想郷のルールが許さないため、こうやって保存するしかないのだ。

 

 

「何だこりゃあ…」

 

 

 部屋に通され、中を見た。

 中央に巨大な大木が生えていた。幹や根の部分は普通の木だが、そこから上がおかしな形状で枝が重なり合い、2、3人程度なら入れるくらいの広さの(かご)の形になっている。大木、つまり植物であるのは間違いないが全てが赤い。枝も幹も根もツタも全てが血のように赤く、時折ドクンドクンと波打っているのが分かる。まるで巨大な心臓にある血管のようだ。

 

 

(何処かで見た気が・・・)

 

 

 ねずみ男の脳内にある記憶。

 あの形の植物を外の世界で見た気がする。必死に自分の過去を振り返り、いつ見たのかと思い出そうと試みる。

 

 

『お帰りなさい、フラン』

 

「お姉様…?」

 

 

 籠の中にフランを手招くレミリアがいた。

 青白いというよりも土色で生気の感じられない表情に、痩せてしまったのか枝のように細い手足、虚な瞳をしたレミリアに最後に見た時とは違う感覚に襲われる。

 

 

「お、お姉様、なの…?」

 

『当たり前でしょ、フラン。・・・あの時はごめんなさいね。私の行いが貴女を傷つけてしまったわ。許してね?』

 

 

 深々と謝罪をするレミリア。

 違和感を感じつつフランも暴れてしまったことや暴言を吐いたことを謝ろうとする。

 

 

「お姉様、実は私も…」

 

『フラン…、フラン…。私が全部悪いのよ。私が悪いの。ごめんね、ごめんね』

 

「──」ゴクリ

 

『その人に助けてもらったのね。心配したのよ…。さぁ…姉さんに抱きしめさせて。こっちにおいで、おいでおいで』

 

(違う──)

 

 

 おかしい。

 こいつは姉なんかじゃない。

 何百年も一緒に暮らしてきたから、家族だから分かる。自慢じゃないが姉はめちゃくちゃにプライドが高い。主人であることに誇りを持ち、カリスマを得るために格言集なんか読んで咲夜に笑われて怒るくらいだ。そうだ、姉は簡単に謝らない。

 

 

『こっちに──…フラン?』

 

「あなた、誰」

 

『誰って…。私はレミリアよ。貴女の姉よ。まぁ…まだ怒っているのね。だから意地悪しないでぇ。そんな忘れるなんて演技しないで…。寂しい。泣いちゃっても良いのぉ?』

 

「私の大切なお姉様は…簡単に人に頭を下げないわ!」

 

『・・・』

 

 

 レミリアは固まる。

 羽を動かし、ゆっくりと籠から降りる。ねずみ男たちの背後にいた咲夜も移動しレミリアの側に。同時にどこに隠れていたのかは知らないが美鈴、パチュリーも現れて全員が揃うと大木の前に(かしず)いた。

 

 

「フランちゃん、全員本物だ」

 

「でも!お姉様はあんな事しないわ!!咲夜も、美鈴も、パチュリーも木なんかに頭を下げるわけないもの!」

 

「そりゃそうだ。だって、()()()()()()()んだからな…!!」

 

 

 大木がゆっくりと動く。

 ツタも枝もそれぞれが別の生き物のように、意志を持って動き出す。そして更に大きくなる大木の籠の中から赤い目玉が生えてきた。植物に目玉とは考えられないかもしれないが、実際に一つだけ目玉が飛び出して、フラン達を睨みつけた。

 

 

「あ、あれって・・・」

 

「吸血性植物妖怪……妖怪樹(ようかいじゅ)だ!!」

 

 

 

 『妖怪樹』。

 別名、吸血樹とも呼ばれる吸血性植物妖怪である。日本の小笠原諸島や南方といった暖かい場所に生える植物の妖怪であり、生き物や妖怪の血を吸う事で何百年も生き続けるとされている。木の妖怪という特性上、根が生えているために移動する事はできないがツタを動かす事は可能である。

 

 

『こんばんは。青白い吸血鬼に代わって、新たにこの紅魔館の主人になった妖怪樹よ。まだ生まれて2日くらいしか経ってないの。よろしくネェェ〜。それにしても私を知ってるなんて有名人だったのね、アタシ!キャハハハハ!!』

 

 

 口はどこにも無いのに言葉を発する異様さ。

 何かテレパシーのようなものを発しているのかは不明である。

 

 

「妖怪樹といやぁ、外の世界のあったけえ場所でしか生息できないはずだ。それなのにどうやって…」

 

()()()()種の私を血の入った樽に入れてくれたのよ。そこで色々この世界のことを教えてもらったわ。それにしても、ここの血と空気、土は完璧だわァ。寒いけど、私がこんなに成長するなんて思わなかった。幻想郷の質と私の体質はベストマッチだったのねェ』

 

「あの人?」

 

『教えるわけないじゃん!ばぁか』

 

 

 最近幻想郷中には人間が妖怪に対して怯えることに発生する『畏れ』が溢れ出している。畏れは妖怪たちのエネルギーとなり、生きる活力にもなる。外と違って“それ”が溢れている幻想郷は、妖怪樹を成長させるのにとても適していた。だが、そんな事はどうでも良い。知らなくても良いし知った所で興味もない。フランはねずみ男よりも前に出ると青筋を立てて怒鳴る。

 

 

「お姉様たちに何をしたァッ!?」

 

『こっわあ☆』

 

「答えろ!!」

 

『フン。何をしたって……毒を注入しただけよ。私の体内から分泌される『女王命令絶対毒(クイーン・ポイズン)』を注入されるとね……どんな相手でも私の言うことを聞いちゃうの〜!貴女の姉も、この通りィィィ〜ッ!!』

 

 

 ツタを伸ばしてレミリアに巻き付け締め上げる。

 物凄い力で締め上げ苦悶の表情を浮かべるが、決して抵抗したり、泣いたり弱音を吐く事はなかった。完全に服従しているようだった。

 

 

『アンタのお姉さん、強いみたいだけど・・・馬鹿よねェェエ。この仲間(メス)たちを盾にしたら何もできなくなっちゃった!キャハハ〜☆』

 

 

 妖怪樹はツタを咲夜に向ける。

 咲夜はそれに応えるように立ち上がった。

 

 

『まずこのメイドに毒を注入して操り、門番と魔女を操るのに手伝わせた。異変に気づいたアンタの姉が私のところにやってきたけど、コイツらを盾にして狼狽えている間に毒をブチュっ♡とね』

 

「貴様ァ…!!」

 

 

 ねずみ男はフランの怒りに初めて触れた。

 あんなに幼くて可愛らしい姿からかけ離れた牙を剥き爪を立てる吸血鬼本来の姿だ。かつて友と旅行した際にフランスで見た『怒りに狂う獣』のような姿を彷彿とさせた。

 

 

『私の子供達はみんな倒されちゃったけど、コイツらを使って幻想郷を支配してやる!私の青春の1ページが今はじまるのよぉ〜!!』ケラケラ

 

「殺してやるっ!!・・・『きゅっとして──』」

 

『レミリアちゃ〜ん!守ってぇん!』

 

 

 命令だ。

 我らが女王様の命令は絶対だ。

 たとえ目の前の敵が血を分けた妹とだろうと、何年も暮らしてきた家族であろうとそれよりも我が主人の命令の方が絶対だ。

 

 

『・・・』

 

「──っ、お姉様!?」

 

『我が主に手出しはさせない』

 

「きゃっ!?」

 

 

 レミリアは、妖怪樹に能力を発動させようとするフランの目の前に立つと胸ぐらを掴み、轟音を立てるほど力強く、天井を突き破って屋外へ出ていった。ここで暴れても良かったが主人に迷惑がかかってしまうと考えて外に出た。

 

 

「姉妹で殺し合いをさせるなんて……!!ひぃいいっ!に、逃げなきゃっ!」

 

 

 外が見えるほどポッカリの穴を見て血の気が引くねずみ男。流石に話し合いができる相手ではなさそうだし、自分とは圧倒的にレベルが違うことを肉眼で把握すると、彼の脳内コンピューターは瞬く間に動き出し、逃げろという判断を下した。運の良いことに敵は上を眺めている。フランには悪いが自分の命が優先だ。

 

 

「抜き足差し足……うわぁっ!?」

 

 

 何かに躓いた。

 思い切り転び、自分が転倒した原因を見る。それを見て再び声が出なくなる。瓦礫かと思ったが、それは──

 

 

「ミイラ…!?」

 

『ん?』

 

「な、何でミイラがこんなところに…!?」

 

 

 瓦礫ではなくミイラだ。

 それも一つだけじゃない。大量のミイラが無造作に積まれている。ねずみ男に気づいた妖怪樹はニヤリと笑うと、ツタを伸ばしてそのミイラを拾い上げる。

 

 

『これはここに居た有象無象たち。戦力にならないから血を吸ったのよ。この悪魔?みたいな子の血は甘くて有象無象の中でも格別だったわよぉ』

 

「血を吸ってカラカラにして殺したのかよ・・・!?」

 

『キャハハ。妖怪とか妖精とか悪魔ってね…血を吸われたくらいじゃ死なないの。凄いわよねェ〜。・・・感じる?カラカラの体でも心臓がゆぅっくり動いてるの。ほらっ、トクン…トクン…って。きゃわいい〜〜☆』

 

 

 妖怪樹の指摘した通り、浮き出た心臓がゆっくりだが動いていた。きっと本当に絶命するかしないかのギリギリまで血を吸われたのだろう。グロテスク好きなのは本当だが、ここまでくると結構惨い。

 

 

「かっ、可愛い!い、いやはやお見事です!まさに生と死の狭間を表現したかのような芸術です!!」

 

『嬉しいこと言ってくれるじゃナイ』

 

「で、ではアタクシはここで…」

 

 

 しかしこの部屋から出る事は叶わない。

 出入り口に美鈴が立っていた。それも戦闘体制で。気づけば自分はこの住民たちに囲まれていた。

 

 

『逃すわけないじゃん』

 

「へ?」

 

『きったなくて、ざぁこで、みっともな〜い()()()()でも私のご飯にはなるでしょ。美鈴捕まえて』

 

 

 はい、と返事をする美鈴。

 ねずみ男にじっくりと近づくが、ねずみ男も伊達に修羅場を潜り抜けてきたわけじゃない。ねずみ男は大きく息を吸う。

 

 

『?』

 

『構わないわ。どうせ雑魚のやる事だもん。アンタなら対処できるでしょ』

 

 

 ねずみ男の喉が動く。

 それが喉から口へと上がりモゴモゴと頬が動く。美鈴は妖怪樹の命令通りにねずみ男の異常を気にする事なく飛びかかる。

 

 

「はぁ〜〜〜ッ!!」

 

『!?』

 

 

 ねずみ男の口から黄色いガスが発射された。

 それは『息』だ。

 普通の息は口臭を感じるものだが、今回は違う。胃から喉、そして口と熟成された最大級の悪臭だ。屁よりは臭くはないが、その口臭の恐ろしさは10メートル先の蝿さえも撃ち落とすほどの威力だ。美鈴は妖怪だからきっと耐えるだろうが死んだほうがマシだと思えるだろう。

 

 

『パ○☆$〒€→ッッッ!?!?』

 

 

 鼻が曲がる。

 視界がチカチカする。

 全身の穴という穴から訳の分からない汗のような液体が吹き出す。手足が痺れ、喉が激しく痛む。そして何より込み上げてくるのは圧倒的な不快感と吐き気だ。

 

 

『ウ"ッ…オ、オエエェェ……ッ!!』

 

「へっへへ〜!じゃあな!」

 

 

 胃の中のものが全て出てきた。

 ねずみ男がその傍を通り抜けていくが追いかけられない。手足に力が入らないのだ。次第に視界が暗くなり、妖怪樹の命令が聞こえなくなる。美鈴は自分の吐瀉物の上にばたりと倒れた。

 

 

『美鈴、動け!命令よ!・・・チッ、完全に気絶してやがる』

 

 

 女王命令絶対毒は命令されれば誰であろうと妖怪樹を主人だと思い、どんな命令にも従わせる技だが弱点はある。それは命令が聞こえなくなる事。耳が聞こえなくなったり、気絶した場合はこの毒の力は発動されない。

 

 

『博麗霊夢に知られるのはまずい…!!咲夜、追いなさい!殺してでもよ』

 

『はい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 その戦いに優雅さなんてものはなかった。

 吸血鬼の戦いというのは凄い技を使ったり、何かに化けたり、見るものを魅了するような派手さや上品さというものがあるが、この姉妹の戦いにそんなものはなかった。

 

 

 

 

──バキィッ…ドス…

 

 

 

 

 殴り合いだった。

 フランの能力『ありとあらゆる物を破壊する程度の能力』は、対象の最も弱い箇所、急所、弱点等を自身の手のひらに移動させて、握りしめる事で対象を破壊することができる。この()()()()()()のせいで、フランは過去に地下室に幽閉されていた。実の姉の手で。だが霊夢たちとの一件があり、今は外に出られるがこの能力のせいで周りから愛されていないとフランは自覚している。

 

 今の所フランは実の姉に使う事は決してないが、レミリアとしては妖怪樹に向けて使わせないためにフランの両手を引き抜いてしまおうと考えて圧倒的な暴力で襲いかかってきていた。

 

 

『・・・!』

 

「おねえっ…さまっ、やめ、うぐぅっ!!うぐぁっ!!」

 

 

 髪を引っ張り、顔や腹を殴る。

 フランは必死に抵抗して姉の顔に爪を立て引っ掻く。頬から耳にかけて皮膚が切れてしまい血が流れる。

 

 

「はぁ…はぁ…っ、あっ、お姉様、ごめんなさ──」

 

『・・・』

 

 

 しかしレミリアは怯むどころか、余計に殴る力を強めてきた。苦しめるように何度も何度も腹を殴り、痛めつけるように顔を殴る。フランの腹は服の内側で青くなっていき、顔面も歯が折れ、瞼を切り、鼻血を流して血まみれだ。あんな幼い子がしていい怪我ではない。レミリアの拳も殴りすぎたせいか皮膚が裂けていた。

 

 

「やめ…て…っ、いたい…」

 

『・・・』

 

「いたいよ…ぉ…」

 

 

 フランとレミリアの血がこぼれ落ちる。

 下の妖怪樹が目覚めた後のシャワーのように気持ちの良いブラッドシャワーを浴びていた。

 

 

『良いわぁ…、良いわよぉ…。もっと殴り合ってぇ…、貴女たちの純血が私を……成長させるわぁぁ……!!』

 

 

 成長。

 妖怪樹の身体が更に大きくなる。幹は更に太くなり、根っこは深く伸び、ツタは巨大な蛇のようだ。血液貯蔵庫を突き破り、遂には紅魔館の天井を抜けた。並の成長じゃない。吸血鬼という自分に近い種族の血を吸収することで今までにないくらいの成長を遂げたのだ。

 

 

『キャハハハハッ!!レミリア、もっと痛めつけて殺しなさい!』

 

 

 フランの息は絶え絶え。

 レミリアは命令通り、更に血を流させるために無慈悲にも剥き出しの拳を振おうとした。意識がはっきりしない中、完全に戦意を喪失したフランは抵抗する気も失せてしまい、両手両足がダランと垂れ下がる。

 

 

(私が……あの時、家族(みんな)に死んじゃえって……言ったから…、酷いこと言ったから…罰が当たったのね……)

 

 

 脳裏に浮かぶは、最後の会話。

 全員に罵詈雑言を飛ばして、家出して…。帰りたいと思った時には家族はどこにも居ない。なんて惨めな最後だろうか。

 

 

(……お姉様…)

 

 

 意識を閉ざそうとしたその時。

 自分自身の耳の中に何かが響いた。小さい雑音のようだったが、不思議な事に集中して聞き取ろうとしていた。

 

 

「フランちゃーん」

 

(この声…)

 

「フランちゃーーーん!起きろォォオーーーッ!!」

 

「お、ぃ、さま…?」

 

 

 ねずみ男だ。

 理由は不明だが褌一丁である。崩れていく紅魔館の中で彼が大きな声でフランの名前を呼んでいた。答えようとしたが口が切れて上手く話せない。

 

 

「諦めんなよおーーッ!姉ちゃんに謝るって決めたんだろーッ!ならやり遂げろぉい!!諦めるのは!やりきってからだぞォーーッ!!」

 

「・・・!!」

 

 

 ねずみ男の激励。 

 そうだ、決めたじゃないか。

 謝るために帰ってきたじゃないか。全身に力を込めろ。口の中に溜まる血の塊を吐き出して、見せたことのないようなとびきり邪悪な笑みを飛ばす。

 

 

「おねえ、さまらしく無いわよ…っ。あんな変な奴の言うこと聞くなんてっ。私の好きなお姉様は誰かに従う人じゃない…!!」

 

 

 もうここに泣き虫の少女はいない。気品とカリスマに溢れた吸血鬼がそこにはいた。

 

 

 

 

※※

 

 

 

(フランちゃんがやられたら、俺が殺されちまうだろ〜ッ!?諦めてる暇なんかねえんだぞ!)

 

 ねずみ男の激励(自分の命を守るための必死の叫び)は、フランだけではなく妖怪樹にも届いていた。妖怪樹はねずみ男の方を見る。理由は不明だが時間を操る咲夜から逃げ切ったというのか。驚いていると、ねずみ男は妖怪樹がフラン達に意識を向けないように、妖怪樹に向かってお尻ペンペンという行動を取る。

 

 

「やーい!妖怪樹!こっちだよーん」

 

『んな…!? 咲夜はどうしたのよ!!』

 

「あのメイドはそこら辺でぶっ倒れてるさ!へっへーん」

 

 

 

 

 

 少し遡るが、とっくの前に咲夜はねずみ男を捕まえていた。時を操る彼女の前では逃げるなんて不可能だった。しかし近付いてくれた事こそがねずみ男の狙い通りである。

 

 ねずみ男をただの雑魚と思った時点で勝敗はついていた。窮鼠猫を噛む、というように咲夜に自分の着ていたローブを投げつけたのである。あの不潔なローブを咲夜は被ってしまい──。

 

 

『くぁwせdrftgyふじこlpッッ!?!?』

 

 

 ─と、意味不明な奇声をあげて気絶してしまった。もし1ヶ月以上も洗っていない物だったら発狂し、気が狂い、元に戻る事は出来なくなっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

『雑魚のくせに…!!パチュリー!行きなさい!パチュリー!!返事をしなさい!』

 

『むぎゅぅ…』

 

『へっ!?』

 

 

 パチュリーは既に気絶していた。

 妖怪樹が成長して天井を突き抜けた際、落ちてきた瓦礫が頭に直撃していたのだ。

 

 

「やっぱり生まれたばかりのクソガキにゃあ何もできやしないのよ〜ん」

 

『馬鹿にしやがってぇ…!!』

 

 

 紅魔館全体に広がっているツタを動かし、ねずみ男がいるところまで伸ばす。そしてツタを大きく動かし叩きつけるがツタは自動で動くわけではなく妖怪樹が操作しているためちゃんと見えていないと精密性は低く、大きくなりすぎた妖怪樹はひょこひょこ逃げ回るねずみ男を捉え切れなかった。

 

 

「ノーコンノーコン!こんなの屁のカッパ」プッ

 

『ちょこまかと!!』

 

「え?──あっらぁぁぁーーッ!?!?」

 

 

 しかし遂には吹き飛ばされてしまった。

 邪魔者が居なくなり、妖怪樹は直ぐにレミリア達の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・?』

 

 

 レミリアの拳が止まる。

 不思議そうな表情を浮かべる姉の異変に妹は即気づいた。引っ掻いた傷や皮膚が破れた拳から赤い血以外の、紫色の液体が流れている事に。どうやら毒は体内に溶けず血液と共に全身を巡っているのだろう。

 

 

(これって……あの妖怪が言っていた“毒”っ!!)

 

 

 レミリア自身も怪我を負う事で、血だけではなく体内に循環していた毒素も流れてしまっていたのだ。フランはそれに気づくと、姉を助ける方法を思いつく。ゆっくりと動けない姉の首元に唇を近づける。

 

 

「お姉様、血を吸われるのは初めてよね。私もお姉様の血を吸うのは初めてだから許してね………んっ」

 

『──ぁ』

 

 

 かぷっと首元に噛み付く。

 ストローで飲み物を吸うように、姉の首元に必死に吸い付きちゅうちゅうと血を吸った。

 

 

「んっ……ちゅっ…んぅ」

 

 

 口の中に甘い血が流れてくる。

 キャンディ?プリン?それに似た甘い血がトロトロと口内を染める。しかし、それと同時に不快な味も混ざっていた。きっとこれが毒だろう。一度首元から口を離す。

 

 

「やっはり……んべぇ…」

 

 

 ペッと吐き出す。

 血と唾液の中にドロリとした紫色の液体が見えた。確実に毒だ。毒を抜かれてレミリアの表情は少しずつだが明るくなってきた。フランはこの毒抜きを何度も繰り返す。

 

 

(お姉様っ、私のお姉様はこんなところでやられない。やらせはしない!!)

 

 

(言いたい事が私にはある。これからもずっと一緒にいたいの!だから──)

 

 

(元に戻って!!)

 

 

 

 10回は超えただろうか。

 フランの唇が11回目を向かおうとした時、頬っぺたを優しくむにゅっと掴まれる。レミリアの手が吸血を止めた。

 

 

「吸いすぎよ、ばか」

 

「おへえさま…っ!!」

 

 

 レミリアは本来の自分を取り戻した。

 姉が元に戻った事により力が抜けるフランをレミリアは抱き寄せる。その温かみに触れて涙が溢れた。

 

 

「お姉様…っ、良かった…」

 

「フラン…」

 

「ごめんなさいっ、ケーキ食べられたくらいで死んじゃえって、酷いこと言っちゃって…!!」

 

「楽しみを奪っちゃった私が悪かったのよ。ごめんなさい。でも・・・貴女が帰ってきてくれて本当に良かった…」

 

 

 レミリアは優しくフランの頬を撫でる。

 あんなに殴られた傷もゆっくりだが回復しつつあった。操られてたとはいえ妹に手を挙げた事実は消えることはない。このことは決して忘れないだろう。

 

 

「お姉様。うぅ…」

 

「泣かないの。一人前のレディの涙は簡単には流してはいけないのよ」

 

 

 

 

『テメェらッ!!』

 

 

 抱き合う2人に妖怪樹は近づく。

 上空で戦う2人に近づけるくらい大きくなった。噂の博麗霊夢も怖くない。幻想郷に自分の種を撒き散らし、支配してやる。

 

 

『おぉわぁすぅれぇでぇすぅかぁ〜〜〜ッ!?アタシがまだいる限り、ハッピーエンドはやって来ねえぇんだよぉ〜!!』

 

 

 ツタが2人を囲む。逃げ場なんてどこにもない。しかし姉妹は妖艶に笑う。

 

 

「せっかちね。フラン」

 

「ねー!お姉様!」

 

「でも確かに終わりにしましょうか。私たちに手を出したこと……一生後悔させてあげる」

 

 

 レミリアは指先を自身で歯で少し切る。

 そこから流れる血をフランに飲ませた。

 

 

「吸血鬼が吸血鬼の血を吸うとね…。一時的だけど、爆発的に回復能力と心身の力が向上するの。……本当は私がやるべきなんだろうけど、フランにお願いできる?」

 

「ちゅっ……ん…、任せて」

 

 

 フランの両手にエネルギーが溜まっていく。

 そのエネルギーによりフランの周りだけの空間が歪み始めた。瞬間的に空中に赤い炎の粒子が舞い上がり、その粒子は彼の手の前に集まって剣の形を成した。その剣は炎を纏い、火花を散らし、まるで宇宙からの力を具現化したかのように、圧倒的なエネルギーを放っていた。

 

 

「・・・禁忌『レーヴァテイン』」

 

『たかが光る剣で私の手足をどうにか出来んのかよォォーーーッ!!串刺しじゃあァァァーーーッ!!』

 

 

 ツタという名の植物の槍が全方向から飛んでくる。

 フランは自分よりも大きな剣『レーヴァテイン』を振るった。

 

 

 

 

 

──スン…

 

 

 

 

 

『へっ──』

 

 

 レーヴァテインを手にし、襲いかかる触手の群れに向けて大きな一振り。エネルギー体の剣の刃から燃えるような赤い光と炎が放たれ、触手は一瞬で焼き尽くされ、その灰と煙が舞い散った。妖怪樹の全身にあったであろうツタは全て無くなり、唯一の自身での攻撃手段を失ってしまう。

 

 

『あ……ああ…ああああぁぁぁーーーっ!?!?誰か、誰かぁぁぁ…!助けてぇぇぇーーーッ!!まだ生まれて3日くらいなのッ!0歳なのォォーーーッ!!青春だって謳歌してないの!』

 

「うるさぁい…」

 

 

 フランは剣を向ける。

 圧倒的に大きいはずの妖怪樹が、圧倒的に小さいフランに怯えていた。全身をガタガタと震わし、頭部らへんの枝は恐怖て枯れていく。剥き出しの目玉は死の恐怖を目の前で味わう。

 

 

『ひぃいいっ!?』

 

「『ブラッディカタストロフ』」

 

 

 避けられない。

 逃げられない。

 レミリアの血を体内に取り込み、急激に力が向上したフランの一撃が妖怪樹を一刀両断した。真っ二つに切断された瞬間に妖怪樹が今まで吸ってきた血が噴水のように噴射した。

 

 

 

『ギャアアアアア───』

 

 

 

 敵の最後を見届けて、レミリアは上空で気を失う。フランとの一戦で血が抜け過ぎたのだ。満身創痍でボロボロなフランは姉に抱きつく。姉がこれ以上怪我をしないようにゆっくりと地面へと落ちていく。

 

 

「よっ…と、へへへ…上手く行ったみたいだな」

 

「おじ…さま、フランやったよ…。がんばった」

 

「ああ、ちゃんと見てたよ」

 

「え…へ、へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 妖怪樹の死亡。

 流れ出した血が紅魔館全体に染み渡り、ミイラになっていた小悪魔達の皮膚に触れると元の姿に戻っていった。勿論完全回復とまではいかずに召使い一同自室で療養中との事だ。咲夜、美鈴、パチュリーの体内に巡っていた毒はレミリアの眷属である吸血コウモリを使い、毒を吸い出させる事に成功した。3人とも大事はなく直ぐに動けるように回復した。

 

 パチュリーは動くことはできたのだが、咲夜と美鈴は1週間ほど鼻が効かなかったとの事だ。ついでに全身にこびりついた匂いも3日は取れずに苦労したとの事だ。

 

 レミリアとフランは咲夜、美鈴の看病により回復。フランの顔はまだ少し腫れており、レミリアの方は緊急輸血用パックが手放せない状態であった。崩れた紅魔館はパチュリーの魔法を中心に復活した。完全に復活した紅魔館内部の玉座の間でレミリアはねずみ男と話していた。

 

 

 

「フランから全て聞いたわ。紅魔館の主人として感謝を……と言いたいけど」

 

「ひぃいいっ!!」

 

 

 レミリアは素直に喜べなかった。

 なぜなら目の前で、我が妹がねずみ男の腕にずっとくっ付いているからだ。それも完全に乙女の顔をして、湿った瞳がどれだけこの男を好いているのかを示していた。

 

 ねずみ男としては興味のない子に勝手に好かれて、その姉に殺意を向けられているのでこの状態を素直に喜べなかった。

 

 

「おじ様…、おじ様…。私のおじ様ぁ…♡」

 

「何なのかしら、この状況は!!離れなさーーい!!」

 

「俺だって分からねえよ!離そうとしても離れてくんねえし!!」

 

 

 フランは発情していた。紅魔館に満ちる血の香り、姉から摂取した血が体を巡り、吸血鬼として大人の階段を登っていた。更にはねずみ男に助けてもらったり応援してくれた思い出補正もあり、フランはねずみ男にメロメロになっていた。

 

 

「ちょっとお姉様。私ね、本当は誰にもおじ様を触れさせたくないの。もし、おじ様に色目使ったら絶対に許さないから」

 

「は?」

 

 

 静寂が流れる。

 ねずみ男は耐えきれずに走り出した。

 

 

「また喧嘩かよ!!もう俺は関係ねえよォォーーーッ!!」

 

「あっ、待ってえ〜ッ!おじ様ぁ〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 後日。

 地下図書館。

 

 

「急に呼び出してどうしたの?パチェ」

 

「レミィ…、これを見て欲しいの」

 

 

 2人の間には小さなコウモリがいた。

 これは監視コウモリ。紅魔館全体の天井にぶら下がり、監視をしているコウモリ達である。

 

 

「紅魔館に設置した監視コウモリの見ていた記憶を見返していたんだけど……」

 

「これは・・・」

 

 

 記憶の映像を見る。

 そこに写っていたのは、血液貯蔵庫に何やら大きな植物の種を持ち込んでいる()()()姿()が映っていた。

 

 

「フランが家出した時に生じた穴から入ってきたようね」

 

「そう。・・・地下の奴らか」

 

「どうするの?」

 

「決まってるじゃない。──報復よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます

 妖怪樹と吸血樹で悩みましたが、原作リスペクトで妖怪樹。
 今思うと5期の吸血樹は生まれて1週間くらいなのかな?そう思うと私のが1番赤ちゃんかも…。

 最近バトル多かったんで、次回は戦いやめようかな…。
 鬼太郎も毎回バトルってわけじゃあないもんね。うん。

 秋にちなんだキャラ描こうかな。
 描きたいキャラ多いのよね。


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