ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは、狸狐です。

17日「ゲゲゲの謎」を即見てきました!!
面白かった…。
めちゃくちゃ面白かったよぉぉぉお!!もう序盤からずっとダークな展開だったけど本当に良かった!!墓場見てて良かった。実は2回目見にいきました!

 けどまさかのゲスト妖怪だったな・・・。

 感想は活動報告に書いていきたいと思います。ガッツリネタバレするので見る人は注意してね。











勇気の一太刀 魂魄妖夢②

 

「嘘でしょ」

「マジかよ」

 

 

 魔理沙と霊夢が戻ってきた頃には女妖怪の姿は何処にもなかった。あるのは地面に転がる退魔針。

 

 

「自力で脱出したのか?!」

 

「あの妖怪にそんな力は無いはずよ。誰かが抜いて逃した…と考えるのが妥当かも」

 

「黒幕って訳か。にしてもこの森の中に隠れられたら、流石に見つけるのは骨が折れるぜ…」

 

 

 

──パシャッ

 

 

 

 シャッターの切れる音。

 バサバサと羽ばたく音。 

 焦る霊夢たちの前にフワリと誰かが降り立った。

 

 

「霊夢さん達の落ち込む顔見るのってラッキーですねぇ。どれもう一枚!」

 

「何しに来たのよ、(あや)

 

 

 彼女は鴉天狗の射命丸(しゃめいまる)文。

 詳細はまた後日にするが妖怪の山に住む記者である。

 

 

「あやや…、今度は怒った顔。なんか私怒らせるようなことしました?」

 

「今はお前に付き合ってる暇は無いんだぜ。悪徳記者」

 

「酷い言われよう。そんなこと言って良いのかなァ?私は良いものを見せようと思ってたのに」

 

「良いもの?」

 

「構わなくて良いわよ、魔理沙。大したことないに決まってるし」

 

「えー、そんなこと言って良いんですかぁ。貼り付けにしたあの妖怪の行方、知ってるんだけどなぁ…っと!?」

 

「さっさと見せなさい」

 

 

 霊夢は文の胸ぐらを掴み、引き寄せる。

 その迫力に怯んだ文は写真を取り出した。

 

 

「あ、あやや…、怖いですよ、霊夢さーん。けどけどォ…タダで見せるのもなぁ…。もし今の怪奇事件について取材させてくれるなら喜んで見せるんですけど…」

 

「祓うわよ?」

 

「ジョーダンですよ、冗談〜!えへへ!はいっ、どうぞ!」

 

 

 文から渡された数枚の写真を覗く。

 そこには必死に針を抜くねずみ男の姿が映っていた。2枚目を見ると全て抜き終わり喜んでいる姿。魔理沙は流石に呆れてしまう。

 

 

「やっぱりアイツが黒幕か…」

 

「いや、そうじゃないかも」

 

「何でそう思うんだ?」

 

「これよ。……ハァ」

 

 

 3枚目以降の写真は全て女妖怪に齧り付いている姿が映っていた。ムシャムシャと咀嚼する姿。全部飲み込む姿。満足に腹をさする姿等が映っていた。

 

 

「ねずみ男は……食べ物だと思って食っちまったってのかよ!?」

 

「バカすぎる…」

 

「実は私もこの事件追っててですね。霊夢さん達が女妖怪を貼り付けにしたのを目撃したのでこっそり写真撮ってたら、偶然にも見てしまって」

 

「見てたんなら止めろよ!」

 

「だって面白い記事が書けそうじゃないですか!」

 

「記事だと!?あの妖怪は3人も殺してんだぞ!」

 

「私が殺した訳じゃありませんしねぇ。同族がやったわけでもないし。私が止める意味も、怒られる意味も分からないんですけど」

 

 

 笑う文に怒る魔理沙。

 流石は妖怪というべきか。彼女は悪人ではないが人間達の味方、正義のヒーローというわけでもない。面白い記事を書きたいだけの記者なのだ。だから道徳や倫理を説いても響かないのは無理もない。

 

 

「ほっときなさい、それよりもこの男は何処に向かった?」

 

「えーと…団子屋でお茶を飲もうかなとか言ってましたよ」

 

「分かった。行くわよ、魔理沙」

 

「……おう」

 

「私もついて行きますね!カッコいいシーンが見れるかも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

「寒い…、寒い……」

 

 

 ガタガタと全身を震わすねずみ男。

 青白い顔に重い足取り、口からこぼれる白い息。確かに冬だが明らかに様子がおかしい。重病人のようだ。何か熱いものを摂取したいと必死に考え、死ぬほど寒いのを耐えながら団子屋に向かう。

 

 

「死ぬ…、本当に死んじまう……。あの干物に当たったのかな…。あ、あれは団子屋!早く中にぃ…」

 

 

 何とか辿り着いた団子屋。

 中を覗くとそこには先程喧嘩したばかりの妖夢がいた。彼女は小さい口を頑張って開けて団子を頬張っていた。ねずみ男と目が合うと全身を弄られたことを思い出した事に加え、口を大きく開けている姿を見られたことを考え、赤面しつつ固まる。

 

 

「うぅっ…また恥ずかしいところを見られた…」

 

「お茶ぁ、茶ぁぁ」

 

 

 ねずみ男は団子屋に入ると直ぐに妖夢の所へと走った。何かされるのではないかと妖夢は刀を抜こうと構えるが、彼女に用はない。用があるのは机の上のお茶だ。

 

 

「我慢できねえーー!!」

 

「あっ、ちょっと!?」

 

「ンゴンゴ……」

 

 

 温かいお茶を全て飲み込む。

 だが所詮は焼け石に水。お茶を飲んだところで凍える体が温まることはなかった。

 

 

「何するんですか!私のお茶ぁ!」

 

「寒い寒い…っ」

 

「聞いてるんですか!?」

 

 

 ねずみ男はその場でしゃがみ込む。

 妖夢は肩を揺らすが特に反応はなく“寒い寒い”としか呟かなかった。最初は怒っていたが、そのおかしい様子に心配し始める。

 

 

「あのぉ……?」

 

「寒い寒い」

 

「あ、あの…大丈夫ですか?」

 

「ダメだ…。寒い、寒い……」

 

 

 ねずみ男は大きな口を無意識に開けた。

 口の中に何かが見える。

 

 

「寒いんだよぉおおお〜〜〜おげええええっ!!??」

 

「きゃああああっ!?」

 

 

 妖夢は見た。

 ねずみ男の口から女の幽霊が飛び出したのを。恨めしそうな瞳に、妖夢は身体の芯から固まってしまう。

 

 

『ヒヒヒヒヒヒィィ…ッ!!』

 

 

 女の幽霊はねずみ男の身体から解放されると周囲を見渡す。遠くにあの時自分を攻撃してきた魔女と巫女の姿が見えた。急いで団子屋に向かう魔理沙は叫ぶ。

 

 

「妖夢、目の前のが今回の犯人だ!直ぐにそいつから離れろ!」

 

「えっ、えっ、さっきから何が何だか…!?」

 

『まだ来るか、邪魔者どもめぇ!・・・ヒヒヒ』

 

 

 何かを思いついたのか幽霊は妖夢を見て笑う。その場で4回ほどクルクルと飛んだ。すると空間が歪み、真っ暗で何も見えない謎の世界が現れた。

 

 

『ヒヒヒィッ』

 

「きゃあっ!?」

 

「ちょっと何ぃっ!?」

 

 

 そして近くにいた妖夢とねずみ男の首を掴むとそのまま謎の世界に飛び込んだ。3人がその世界に入るとあっという間にその入り口は閉じてしまい、魔理沙と霊夢が団子屋に到着した頃には初めから何事もなかったような静寂が流れていた。

 

 

「やられた…。理屈は分からないけど完全に逃げられた」

 

「霊夢、どうするよ?」

 

「餅は餅屋よ。変な空間に逃げ込んだなら、空間を行き来できるアイツに頼みましょう」

 

「なるほど!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・」

 

 

 その世界には何もない。

 暗く、何も見えない闇が永遠と続いていた。立っているのだから床はある。だが周囲を探ろうにも壁らしきものはなく果てしないくらいに広い事だけは分かる。いくら声を出しても誰かに届くわけもなく、反響する壁も無いのでそのまま消えていく。そしてこの世界はとても寒かった。何をしようにも寒さが邪魔をして行動させる気を奪っていった。

 

 

「大丈夫っ、とにかく進まなくちゃ…」

 

 

 暗中模索。

 前に前に歩みを進める。足が重い。進みたくないと言っているようだ。それでも逃げずに進み続ける。帰らなくてはいけない。主人がきっと心配している。心配をかけるのは従者としてあってはならない。そうやって自分を鼓舞して歩き続けた。

 

 

「何処かに出口が必ずあるはず…、諦めちゃだめ……」

 

 

 どの位歩いたのか。

 どの位経ったのか。

 何も分からない。

 主人に会いたいという気持ちで奮わしてきた心が果てしなく続く無限の闇により折れそうになる。

 

 

「諦めちゃ……だめ…」

 

「諦めな」

 

「──!?」

 

 

 体がその声に大きく反応した。

 まさか。まさかずっと1人だと思っていたのだが、自分以外に誰かいるとでもいうのか。声のする方を見るが何も見えない。だが落ち着いてみると確かに気配を感じる。

 

 

「出口なんかねえよ、お嬢ちゃん」

 

「その声・・・!」

 

「よっ!さっきぶりだな。俺だよ、ねずみ男様だよ」

 

 

 もう1人というのがまさかの“ねずみ男”という名の自分の体を弄った奴だった。変な名前に変な格好で身体が少し匂う事と大人気ない事は覚えている。

 

 

「どういう意味ですか、諦めろって」

 

「そのままの意味さ。俺も出ようと必死に出口を探したが見つからなかった。だから無駄に体力を使うんじゃなくて、諦めて寝てた方がいいのさ」

 

「ふざけないで!もっとよく探せばきっと──」

 

 

 “きっと”…。

 その続きを言おうとしたのだが言葉が出ることがなかった。生暖かい風が吹き、冷や汗が垂れる。背中をツーっと垂れていき、余計に全身が冷えていく。

 

 

『その男の言う通りさ。諦めろ』

 

「ぁ──」

 

 

 振り向けば、女の幽霊が目の前で笑っていた。諦めずにもがく妖夢を嘲笑うように愉快そうに笑っていた。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

『ヒィ〜イッヒッヒッヒッ』

 

 

 息が上手く吸えない。

 ただでさえ暗い所にいて幽霊が出るかもしれないと怖くて震えていたのに、その幽霊が本当に現れてしまったのだから気がおかしくなる。

 

 

『この世界は私が作り出した恐怖の世界だ。私が許可しない限り出る事はできないよ。ヒヒヒヒヒヒ…!』

 

「そ、そんな・・・」

 

『良い顔だねぇ』

 

 

 舐め回すように絶望する妖夢の顔を見る幽霊。

 そんな幽霊にねずみ男は抱きつこうとジャンプをした。しかし抱きつく事はできずに通り抜けてしまう。

 

 

『なんだ?』

 

「頼むぅ!俺だけでもいいから出してくれぇ〜!!」

 

『嫌だね』

 

 

 ねずみ男は幽霊に近づく。

 必死に笑顔を作り、敵対心がない事をアピールする。自分だけでも気に入られようとしていた。

 

 

「あの巫女を殺す手伝いだってするし、アンタがバレないように援助する事だってやる!ほら、仲間がいた方がいいだろ?本当に何でもするからさあっ!ねっ、大先生ぇ?」

 

『嫌だと言ってるだろ。お前みたいな臆病者と組んで得することなんかないわ』

 

「こっ、この野郎!こっちが下手に出てるからって好き放題言いやがって!!大体何が目的だってんだ!」

 

『ヒヒヒ・・・!』

 

 

 幽霊は笑う。

 ふわりと空を舞い、踊るように飛んだ。

 

 

『目的なんて分かりきった事を…!恐怖に塗れた魂を食らうためさ!!』

 

「魂…!!」

 

『近頃の人間は手に小さな機械を握って深夜まで起きていたり、至る所に街灯を設置したせいで“闇”を恐れなくなった。そのせいで恐怖の濃度が薄くなっちまってねぇ。そしたらある日“アイツ”が来てね。飢えて困っている私を幻想郷に連れてきてくれたのさ』

 

 

 幽霊が手のひらを開くと、そこにはあの3人の死んだ顔が映り出した。それを愛おしそうに眺める。

 

 

『この世界は良い。昔そのものだ。夜を、闇を恐れている!私の求めていた楽園だ!……そして私は人間の恐怖心を食らったのさ。取り憑いて…、幻聴や幻覚を見せて…、この世界に連れ込んで……!骨の髄までしゃぶり尽くしてやったのさ!!ヒヒヒヒヒヒ…!!』

 

「恐ろしい…!!」ヒィイイ

 

『あの3人は美味かった…。私はね、()()()()()()人間が恐怖に屈した時に出る恐怖心が大好物なんだ。恐怖に勝とうとしているが、心の中では怖くて震えているんだ。その真の恐怖こそが魂を美味しくするんだよぉ〜!!』

 

 

 

 別にあの3人じゃなくても良かった。

 だが幻想郷に来て、人間達を観察している時に発見したあの3人は良いものを持っていた。暗闇を恐れていたのに強がって威厳を見せようとした者。女からの報復を恐れていたのに強がって自分には関係ないと目を逸らし続けた者。孤独を恐れていたのに強がって1人でいようとした者。

 

 そんな3人に取り憑き、恐怖を見せ続ける事で、次第に体と心は擦り切れていき、心を折り、死に至らしめた。その味が今でも忘れられないのだ。

 

 

 

『ヒヒヒ……。だからねずみ男(おまえ)は嫌いだ。強がらず弱い自分を変えようともしない。恐怖に負けても別に良いと思っている負け犬。絶対に普通の味だ。それに比べて・・・』

 

 

 幽霊は妖夢の顎を掴み無理やり上を向かせた。

 幽霊と妖夢の目が合う。

 

 

『女…。お前は素晴らしい。強がってまだ希望があると信じている。幽霊を克服できるとも思っている!!ああああ味わいたい・・・!その希望が、心が、絶望に染まり折れた時に出る恐怖心を早く味わいたい…!!ヒヒヒヒヒヒィィィ〜〜〜ッ!!』

 

 

 幽霊の姿は消えた。

 再びこの世界に静寂が訪れる。幽霊は居なくなりはしたが、不安と恐怖は消えない。妖夢の心は折れる寸前だった。

 

 

「大丈夫か、嬢ちゃん」

 

「・・・」

 

「そうガッカリすんな。大丈夫だよ、きっと」

 

「何が大丈夫なのよ…。諦めろって言ったのは貴方じゃない!諦めろとか大丈夫とか訳わかんないのよっ!!」

 

 

 防衛本能というべきか。

 人というのは心が折れそうな時や諦めそうになる直前に『怒る』事で、絶望から目を逸らそうとする。だから妖夢は敬語を使うことも忘れるくらいにねずみ男に怒鳴ってしまった。

 

 

「俺っちは出口を探すのを諦めろって言ったんだよ。俺はまだここから出る事は諦めてねえよ」

 

「出口が無いのに出れるわけがないわ…」

 

「あるね」

 

 

 ねずみ男は得意そうに笑う。

 段々と暗闇に視界が慣れてきて、2人はお互いを認識する。その時に彼のニヒルな笑みが見えた。

 

 

「出口が無いなら誰かが助けてくれるのを待つんだよ。嬉しい事に霊夢ちゃんはめちゃくちゃ強えし、きっと助けてくれるさ」

 

「来なかったらどうするの…」

 

「そん時はそん時だ。まっ、とりあえず気長に待とうや。どっこいしょ」

 

 

 ねずみ男はその場で横になる。

 そんな彼を見ていたら怒っているのもアホらしくなり、不思議と落ち着いてきた。落ち着いて冷静を取り戻すと、確かに霊夢の実力や霊力ならば助けに来てくれるのではないかと希望を持つことができた。

 

 

「ねずみ男さん」

 

「あん?何よ、お嬢ちゃん」

 

「私はお嬢ちゃんじゃない…。魂魄妖夢……。その、よろしく」

 

「おう」

 

 

 唯一救いだったのは1人じゃ無い事だ。

 仮に一人ぼっちでこんな所にいたら発狂していた。妖夢はねずみ男と話す。自己紹介から始まって次に自分の住んでいる所等を簡潔に。自身の主人の自慢話をしたりと兎に角沢山話した。話していないと直ぐに目の前の闇が迫ってきて自分を飲み込むような気がしたからだ。

 

 ねずみ男の話もとても面白かった。

 嘘が本当かは不明だが、彼と彼の親友?である“鬼太郎”の話は聞いていて飽きない。例えば“人身御供信仰のある村に行ったら島自体が妖怪だった”とか、“人間を自殺に追い込む妖怪に追いかけられた”、“巨大な建物が実は巨大な骸骨妖怪の体内だった”等、ある種の冒険譚のようでとても楽しかった。自分は永遠亭から買い物する時以外殆ど出ないので外の世界というのにほんの少しだが憧れもあった。だからこそこんなにも聞けるのだろう。

 

 

「ねえ」

 

「あんだよ」

 

「あの幽霊に“負け犬”って言われて悔しくなかったの?」

 

「・・・」

 

「私は『強がってる』って言われて…悔しかった。半分幽霊のくせにって周りは笑うし、自分でも情けないのは知ってたけど……改めて言われるとね。だから修行をすれば克服できると思ってたんだけど…結局こうなっちゃった。……変わらなかったなぁ。悔しいなぁ……」

 

 

 妖夢はねずみ男に見えないように反対方向を向き、溢れてくる涙を拭う。拭っても拭っても涙は止まらなかった。ねずみ男は起き上がると妖夢に背中を向けた。敢えて気づかないふりをした。

 

 

「半分幽霊の奴が幽霊怖いってダメなのかねぇ。俺は半分妖怪だけど…妖怪はいつだって怖えよ。大体誰が何を怖がっちゃダメなんて決まってねえんだから気にすんな」

 

 

 ねずみ男は妖夢の方を向かずに言った。

 

 

「それによ、強がってもいいと俺は思うぜ」

 

「・・・何でよ。かっこ悪いじゃん」

 

「馬鹿か。強がるって行為は、自分の弱い所を知ってる奴しか出来ねえもんだ。()()()()()()()()()()()()()()()だよ。……カッコいいじゃねえか。俺にゃあ出来ねえな」

 

 

 

 あの3人もそうだった。

 1人は我が子達に弱い父親を見せたくなかった。何があっても家族を守りたい。その為に強い姿を見せなければという思いがあった。

 

 もう1人もそうだ。自分のやっている事は女性を騙している事だと知っていた。ただ毎回罪悪感を抱えていたらこんな仕事は続けられない。金持ちになるためには非情にならなければという思いがあった。

 

 最後の1人も同じ。ただでさえお茶屋という金にならない仕事をやって苦労をかけてきたというのに、歳を取ってからも家族に苦労をかけさせてしまうと思ったら寂しくても1人で生きてやろうという思いがあった。

 

 全員がそうだ。

 妖夢だってそう。

 自分の悪い所、嫌な所、弱い所と向き合うためにも人一倍強がってやるしかなかったんだ。

 

 

 

「ふふ・・・」

 

「なんだよ」

 

「カッコいいって言われたの初めてで」

 

「可愛いの方が良かったか?」

 

「いえ、でも……もっとカッコつけたくなりました…!」

 

 

 妖夢は腰に携えた刀を握る。

 先程までは恐怖で抜けなかった刀が簡単に抜けた。相手は幽霊なんだ。幽霊を切る手段なら持っている。ねずみ男の肯定的な言葉に不思議と力が入っていた肩から力が抜けた。

 

 それこそが妖夢の持つ二本の剣の一つ『白楼剣』。

 魂魄家に伝わる家宝の一つ。

 迷いを持つ者の迷いを断ち、幽霊を強制的に成仏させることが可能な剣。物体を通り抜け怨念の力で動く幽霊に対する妖夢の唯一の手段だ。これならば奴を倒せる。

 

 

「ふぅ…」

 

「だ、大丈夫かよ…!?そりゃあ立ち向かう奴はかっこいいけど無理しなくても…」

 

「そりゃあ大丈夫じゃないけど・・・。馬鹿にされたままは私の性に合いません。精一杯強がってみせます…!!」

 

 

 冷静に剣と向き合う。

 大きく深呼吸し、雑念を払う。

 妖夢がコンディションを整えようとしていた時、タイミングを見計らっていたかのように歪む空間から幽霊が這い出してきた。

 

 

『何だ?』

 

「きた」

 

『嫌な感じだ…。私の嫌いな空気がこの世界に漂っている…』

 

 

 苦しそうに言う幽霊。

 目も半分くらい開けて妖夢を見る。しかし直視はできなさそうで眩しそうな様子だった。

 

 

『何だ?さっきまであんなに心が折れかけていたのに…』

 

「・・・やってやる!」

 

『眩しいぃぃ…!苦しいぃぃ…!!』

 

 

 ついに背を向ける幽霊。

 誰がどう見ても隙だらけだった。勝ちを確信したねずみ男が跳ね上がり、叫ぶ。

 

 

「今だ!!」

 

『ひぃいいっ!?死にとうないぃっ、嫌だぁっ!?』

 

「この世を彷徨う亡霊の迷いを断ち切る…。──断迷剣(だんめいけん)

 

 

 抜刀。

 逃げようとする幽霊の頭部に振り落とす。

 

 

迷津慈航斬(めいしんじこうざん)ッッ!!」

 

『ギィヤアアアアーーー』

 

 

 見事なまでの剣戟。

 そして圧倒的な速度。

 振り上げられた白楼剣による上段斬り。華奢な少女が振るっているとは思えない程の重い一撃が命中した。

 

 だが──

 

 

(手応えがないっ!?)

 

 

 水を切ったときのような実態のない感覚が手のひらに広がる。これまで数々の妖怪を切ってきた事もあり手全体の感覚を用いる事で有効だったかを判断してきた。この感覚的に無効、効いていない。

 

 

「なっ、何で・・・っ」

 

 

 ありえない。白楼剣は幽霊を切ることが出来るのに。今までこんな事なかったのに。理解ができない。まさか弱い自分のせいなのか。そうやって疑問で頭を埋め尽くされ自問自答を繰り返す。

 

 

『アァぁぁぁ──……あ?何ともない…?ヒッ…!ヒヒヒヒヒヒィッ!!どうやらそのナマクラ如きじゃあ私を切る事は出来ないようだな。──びびらせやがってッ!!』

 

 

 幽霊は妖夢の髪の毛を鷲掴みにすると地面に叩きつけた。

 ズシンと重い衝撃。遅れて走るのは鈍い痛み。目を開けると視界が真っ赤に染まり、垂れる血液の温かさがじんわりと広がっていく。少し裂けた額から血が滲み出てきているのが認識できた。

 

 

「かはっ…」

 

『この!私を!ビビらせる!悪い子は!お仕置きしなくちゃダメよねぇぇええッッ!!』

 

 

 何度も。

 何度も何度も叩きつける。

 鼻からも血が流れ、ジンジンとした痛みに悶える。握っていた白楼剣から手を離してしまう。涙と血がこぼれ落ちる。みるみる赤く染まってゆく地面の様子を、震える瞳が捉えていた。

 

 

『ヒェヒヒヒヒヒィッ!!痛みもまた恐怖の一つなり!』

 

「ぁぁ……なん、で…」

 

『ヒヒヒヒヒヒィッ…!!』

 

 

 幽霊は妖夢の背中に張り付く。

 必死な思いで立ち向かった妖夢の心に隙間が見えた。幽霊はその瞬間を見逃さなかったのだ。直ぐに耳元で呟く。

 

 

『やっぱりお前はただ強がってるだけで何も変わってないのさ。本当のお前は怖がりで、弱くて、大切な主人も守ることができない惨めな存在なんだ』

 

 

 妖夢は耳を塞ぐ。

 しかしその負の言葉は耳に入ってきた。

 

 

『諦めろ諦めろ。お前には何もできない。お前は変われない。無駄な足掻きをするくらいなら諦めて私に身を委ねろ。ひひひ』

 

「この幽霊野郎!!妖夢ちゃんから離れろっ!」

 

『黙れ』

 

「ごめんなさいっ!」

 

 

 幽霊は心が折れたであろう妖夢の背中から離れて、今度は向かってきたねずみ男の背中にべたりと張り付いた。その瞬間全身に恐怖が広がり、妖夢を幽霊から守らなければという立ち向かう意志を粉々に砕いた。なけなしの勇気もこの幽霊の前では無駄だった。

 

 

「離れてくれぇっ!冷たいぃ〜!」

 

『このまま魂を食い、殺してやるか』

 

「俺が悪かったから、先に殺すのは妖夢ちゃんからにしてくれよぉ〜!!」

 

『嫌だね。あの女はもっともぉっと絶望させてから魂を食う事に決めた。お前の魂は美味そうじゃないから、今から食ってやる』

 

「うひぃっ!?なんで幽霊のくせにこんなに強えんだよぉ…。幽霊なんか怖くなかったはずなのにぃ!」

 

『・・・さっきから幽霊、幽霊と失礼な奴だねぇ。この私を青白いだけの幽霊なんかと一緒にするんじゃないよ』

 

「何ぃ!?」

 

『私は妖怪だ。妖怪…震々(ぶるぶる)。ヒィーっ!ヒッヒッヒッ!!』

 

 

 

 

 妖怪『震々』。

 別名“ぞぞ神”や“臆病神”とも呼ばれる。幽霊に酷似した姿と体質をしているが歴とした妖怪である。太陽や光などの“明るさ”、熱いところや人の持つ“勇気”等を嫌い、洞窟や墓場といった暗く冷たい場所を好む。

 

 この妖怪の能力は【恐怖】

 取り憑くと、人間の奥底にある恐怖を呼び起こすことが出来る。それを応用し、何かに対して頑張ろうと思った者のやる気を奪い無気力にしたり、寒気を発生させたりする。このような悪質な方法で人間の心を折り、寒気と恐怖で心身共に弱らせて、魂を食らう邪悪な妖怪である。

 

 皆さんは急にブルルと震えたことはないだろうか?悪寒は?急に何かに対して“恐怖”を抱いたことはないだろうか?何かをやろうと思っていたのに無気力になった事は?

 ・・・もしあったのなら貴方には震々が取り憑いている可能性がある。そんな時は熱い風呂に入れば出ていくので直ぐに入って欲しい。

 

 

 

 

「・・・よう、かい・・・?」

 

 

 妖夢は頭を上げた。

 あんなに恐ろしかった幽霊が実は妖怪だというのか。妖怪なら()()()()()()

 

 

『ヒヒヒヒヒヒ……ッ、どぉれ…寒くなって魂が出て行きたがってきたかなぁ』

 

「寒いぃぃ…──ぷわぁ〜…」

 

『出た出た。ヒヒヒ、ヒ…』

 

 

 意識が遠くなり魂が飛び出る。

 それを震々は手に取り自身の口の中へ放り込もうとした。飲み込まれればねずみ男も死んだ3人の仲間入りだ。魂が唇に触れた瞬間、震々は動きを止めた。殺気だ。殺気を感じるのだ。

 

 

『おやぁ?』

 

「・・・」

 

 

 ギギギと音を立てて振り返る。

 振り返った先には長刀を抜刀し構える妖夢の姿があった。額から出た血は固まり皮膚と髪の毛に張り付いて顔を赤く染めていた。例えるなら修羅のようだ。

 

 

『ひひ…』

 

 

 ねずみ男の魂を投げ捨てる。震々はまた切られるのではないかと恐怖や焦りを感じる事はなかった。なぜなら先程あの女の短いナマクラでは自分の体を切ることが出来なかったのだから長刀も同じであろうと思ったからだ。そう思うとあの構えた姿勢も愉快になってくる。

 

 

『おやおやおやおやぁ…?何事かと思ったら、今度はそっちのナマクラで私を切るつもりかい?ヒヒヒ…躾が足りなかったようだねぇえ…!!』

 

 

 幾らでも切ってこい。

 どうせこの身体に刃は通らない。何度でも真正面から叩きのめして私には勝てないことを身体に叩き込んでやる。そうしてお前は私には勝てないことを痛みで自覚して絶望と恐怖で満ちるんだ。きっとその魂は食ったことのない味になるだろう。やっぱり芯のある奴は折りがいがある。折ってやる、折ってやる折ってやる。

 

 

『かかっておいでぇえ〜ッ!!』

 

「・・・」

 

『ヒヒヒヒ……ヒ……?』

 

 

 妖夢に飛びかかる、その時だった。

 突如として胸部に走る鋭い痛み。震々は自分自身の体質をよく理解しており物理攻撃はほとんど効かない事を自覚しているからこそ今まで感じた事のなかった直接的なダメージに驚く。カッと熱が込み上げてくるかのような感覚の後、血反吐のような透明でドロドロした体液を吐きだし、激しく咳き込む。

 

 

『ごふっ……!?!?ごはっ、ごはっ!!』

 

 

 理解できない。

 先程は切れなかったのに、どんな攻撃も躱せられる体質なのに、何なんだこの激しい痛みは。

 

 

『あ、ああ……いだっ、いだああああい…っ!?』

 

 

 視線を落とすと長刀が突き刺さっていた。妖夢が抜き放った長刀は、亡霊女の胸を背中から貫いていた。ドクドクと溢れ出る体液とシューシューと吹き出す妖力。震々は見る。妖夢の怒りに染まった瞳が、こちらの姿を捉えていた。

 

 

「どうしましたか?」

 

 

 怒りの声。

 あんなに怯えていた少女はもう何処にも居なかった。あんなに自分に対して醸し出していた恐怖の香りは完全に消えていた。そして、これまで他者を陥れて絶望させてきた震々が今度は生まれて初めて【死】への恐怖を感じた。

 

 

「お仕置きするのでは?」

 

『ひぃいいいっ!?なんっ、何でっ、刀がっ、ささ刺さってぇっ!?』

 

「あぁ。初めに切り掛かった時に用いた刀は()()()()()ものです。つまり迷い彷徨う幽霊を切ることが出来るのです。ですがこの長刀は…これまでに数え切れないほどの妖怪を切り鍛えてきた。()()()()()事に特化した刀という事です」

 

 

 妖夢のもう一つの武器。

 長刀『楼観剣』。

 魂魄家に伝わる家宝の一つで、妖怪を切るためだけに特化したまさに妖怪殺しの名刀である。何度も何度も妖怪を切り倒し、鍛え続けられたこの刀は妖刀へと変貌したとも言われている。

 

 

「どんなに硬くても、どんなに()()()()()()…… 妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無いッッ!!」

 

『こ、殺さな──』

 

「あと私は幽霊は怖くても妖怪を怖いと思った事は一度もないッ!!」

 

 

 刀を引き抜き、一瞬で首を刎ねた。

 先に落ちた身体は煙のように霧散した。地面に落ちて跳ねる頭は少しゴロリと転がって妖夢を睨みつけた。

 

 

『ひぃいい……。“あの女”に騙されたぁっ、来るんじゃなかったぁ…』

 

「おや。まだ息が」

 

『ひぃい…ひひひっ、ひひひーーっ!!』

 

「?」

 

『私が死んだところでこの世界からは出られないよ!無駄な努力ご苦労さ──』

 

 

 ザクリ。

 喋り続ける頭に刀を突き刺す。ぶしゅうと音を立てて頭部も完全に消滅した。煙のように消え去り、震々はついに倒された。

 

 

「・・・」

 

 

 だが死に際に放った言葉。

 “永遠に出られない”。

 確かに震々は倒したのにこの世界に変化はない。妖夢は倒れるねずみ男の隣に座った。

 

 

「もう出られない……」

 

 

 そう声に出した時だった。

 目の前の空間に亀裂が走った。割れた先には目玉だらけの空間があり、そこから誰かが近づいてくる。主人に似た気品ある女性が。

 

 

「妖夢、諦めるなんて貴女らしくないわよ」

 

「!!──貴女は」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢ぅ〜!心配したのよぉ〜!!」

 

「幽々子さまぁ〜!!」

 

 

 助けられた妖夢を幽々子は出迎えた。 

 抱きしめられ、その温かさを感じて妖夢は涙を流す。あの空間にいた寒さや心細さも溶けていく。

 

 

「うううぅっ…!!」

 

「怖かったのによく頑張ったわね…。よしよし」

 

 

 頭を撫でられ、妖夢は無意識に抱きしめる力を強くする。その包容力と母性に包まれて妖夢のコチコチに固まった心は蕩けていった。すると自分の悩みを打ち明けたくなり、何があったのかを全て話した。なぜ幽々子に止められても尚修行をやり続けたのか、自分の弱いところや、震々に襲われた経緯などを全て。

 

 

「馬鹿ね、妖夢は。そんな事で私は貴女を見捨てないわよ」

 

「・・・ですがぁ」

 

「そうやって自分を卑下しないっ!私の従者は女々しくないわよ!」

 

「はぃ…」

 

 

 ぐずる妖夢。

 今回の異変は妖夢にとって大変な事だったのだ。幽々子は妖夢の頬をむにゅっと掴む。

 

 

「よく聞きなさい」

 

「?」

 

「確かに何も怖いものがないのも“強さ”よ。でもね、自分の弱さを理解して、助けてと言えるのも“強さ”だと私は思うわ。誰かと協力し合える強さの方が私は素晴らしいと思うわ」

 

「・・・!!はひぃ、わかりまひたぁ」

 

「あと、そのねずみ男?っていう人の言ったことも正しいわよ。強がる妖夢はカッコいいし、可愛いんだからね〜〜♡♡」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「・・・はっ!?俺は何を!」

 

「やっと起きたの?寝坊助ね、()()()()()

 

 

 魂が戻り、目を覚ますねずみ男。

 見上げると金髪の女性。霊夢や魔理沙に比べるとグラマラスな身体をしており少し顔が赤くなる。

 

 

「相変わらずってどちら様…?」

 

「記憶が……。…やっぱり藍の言う通りね。ねずみ男」

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

 震々。
 能力的には『4期』をイメージしました。
 本来はマジで悪寒を発生させるだけの妖怪ですが、本文中に書いたように臆病神の類なので、人間のやる気を奪ったり、孤独感を感じさせたりなどもできると私は考察しています。

 そうなると今、皆様の中に『震々』に取り憑かれている人がいるかもしれませんね。




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