ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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 こんにちは、狸狐です。
 23日の昼頃に急な腹痛によりちょっと大変な目に遭いまして、病院にいたので投稿遅れました。マジで最近体調が悪い。血便が多いとは思ってたけど、まさか腸に血の塊があったなんて思いませんでした。でも完全に治り、復活したので本当に良かったです。




─────────






 数十年前
 とある小国の研究室内の地下。


「ええと…、ここが魚…かな。その反対位置には母を意味する海。それで……」


 地下室の床にガタガタとずれている円と何語かは不明だが象形文字のような絵に似た形があった。そして中央には神に叛く逆五芒星があり、その上に花が一輪置いてあった。


「こんな感じよね?・・・まぁ、うん、この本通りにはなってるでしょ」


 机の上に置かれた魔導書を読み返す少女がいた。
 古びた魔導書には掠れた文字で色々何かが書いてあり、きっと我々には読めないものだろうが不思議と邪悪さを感じた。


「見てなさい、レミィ。私だって悪魔くらい簡単に召喚できるんだからね…」


 少女はとある友人の顔を思い出しては悔しそうな顔をする。悪魔召喚は基本中の基本だが、病弱のために外に出て材料を集める力はないので、基本が未だにこなせない事を馬鹿にしてくるのだ。次期当主だからと伸びている鼻をへし折ってやりたい。


「生贄はコスモス。集められなくて花瓶の花を持ってきちゃったけど大丈夫かな。・・・でも無いよりはマシよね」


 蝋燭を立て、両手で三角の形を作り、六芒星を空中に作る。込められた魔力が逆五芒星に集中していく。


「エロイムエッサイム…、エロイムエッサイム…、我は求め訴えたり……!出でよ、悪魔!!」


 黒煙が吹き出し、地獄と地上がつながった。
 過去の文献では悪魔が出てくると腐った肉の匂いがすると読んだはずなのだが、実際には甘い匂いが鼻腔をくすぐった。


「貴女様が召喚者ですか?」

「・・・やった!出来た!私にも召喚できた!」

「あっ、あのぉ?」

「あっ、……んんっ、そうよ!私が貴女を召喚したの。これで友達の鼻を明かせるわ!さっ、契約しましょ」

「あ、あはは…」


 困ったように笑う悪魔。
 ポリポリと頬を引っ掻く姿にどこか人間味を感じてしまう。


「期待してくれて大変申し訳ないんですが、私は悪魔の中でも下級。いろんな方から召喚される度に追い返される程に弱くて落ちこぼれのダメダメ悪魔と馬鹿にされるくらいですし……。ご友人が私を見たら、馬鹿にされてしまいますよ?」


 自虐をして乾いた笑いをする。
 少女はそんな悪魔の額に指を伸ばしてデコピンをした。


「──ったぃ!?」

「悪魔のくせにレッテルなんて気にすんじゃないわよ!大体言われっぱなしで悔しくないの?」

「いやぁ…、でも……事実ですし」

「うっさいわね。私だって魔法学校で使い魔も呼べない落ちこぼれって同級生たちから馬鹿にされてるし、吸血鬼の友達からは勉強だけの頭でっかちって言われてる。でも、やり返してやろうとこの城に忍び込んだ悪魔召喚に成功した!これで見返せるわ」

「おっ、幼いのにお強いんですね…」

「言われっぱなしは悔しいもの!けど…、そうね。貴女、結構自己肯定感低そうだし……。そうね、なら私が貴女の価値を決めるわ」

「え?」

「私と共に生きて、死ぬまで仕えなさい。私は今後すごい魔法使いになる。そしたら貴女は大魔法使いの使い魔ってことよ。その時に貴女の価値が決まる。誰からも馬鹿にされないわ」


 少し驚き、最後に笑った。


「ふふっ、こんな私を選んでくれてありがとうございます。ご主人様。誰かに仕えるのは初めてですが、精一杯仕えさせていただきます」

「因みに貴女ってなんて悪魔なの?」

「えーと種族は夢魔でして、名前は・・・」

「待って」

「なんでしょう?」

「やっぱりまだ名乗らなくて良いわ。強い悪魔は自信満々に名を名乗るものって本で読んだわ。貴女はまだ弱いしナヨナヨしてる。だから貴女が自分自身に自信を持てた時に真の名をなりなさい。それまでは『小悪魔』よ!」

「・・・!はい、分かりました。この小悪魔、末長く永遠にお側に仕えさせていただきます!」


 これが私とあの人との出会いだ。
 落ちこぼれという泥の中にうずくまっていた私を、そこから救い出してくれた。


(小悪魔、か。へへ…)


 魔女から名を与えられる。
 その行為は“貴女の一生は私のもの”というプロポーズ的な意味合いなのだがこの魔女はそのことを知らないだろう。








「・・・読書中失礼します」

「どうしたの?咲夜」

「宝物庫の中で気になるものがありまして」

「気になるもの?」


 2人が宝物庫に向かう。
 そして咲夜は気になる箇所を指差す。扉の取手には黒い粒や白い何かが付着してあった。


「何これ?ゴミ?」

「いえ、おそらくですが……小豆と生クリームかと」

「何でこんなところに。・・・ん?待って。もしかして」

「どうしました?」

「咲夜。お願いしたい事があるの」











小悪魔の事件簿②

 

「大門寺さんは優しくてねぇ」

 

「こんなに美味いラーメンを失いたくないってお金を工面してくれて」

 

 

「大門寺さんは私たちの結婚式のお金を出してくれて。本当に良い人だよ。なあ?」

 

「え、ええ…。あの人のお陰です」

 

 

 

 ラーメン屋を営む虎子と龍子の姉妹。そして結婚式代を工面してもらった飯島夫婦。旦那は凪、妻はナミである。彼女たちがこの1週間で大門寺と接触が多かったという証言があった。それぞれに小悪魔は話を聞いた。

 

 

「・・・はぁ」

 

「散々でしたねぇ。全員が同じように“優しい”とか“尊敬してる”とか……つっまんねぇ〜。誰かしら恨んでるとかあれば記事を書く時にも面白くなるのになあ。悪魔(アッチ)関係はどうでした?」

 

「話してみたけど魔力は特に感じられなかった。アテは外れたかな……。でも…」

 

「でも?」

 

「私の好きな姦淫(ニオイ)がしたなぁ…」ジュルリ

 

「おんやぁ…、これは特ダネの匂い。詳しく詳しく…」ウヒヒ

 

 

 夢魔。

 その悪魔の特性の一つに『男女関係を察知できる』というものがある。勿論、夫婦や恋人の繋がりも見えるがそれだけではない。不倫関係さえも見えてしまう。そういうものを司る夢魔としては興奮してしまうくらいに好きなものである。

 

 

「虎子、龍子、そして飯島ナミ。全員から大門寺とのアッチの匂いがぷんぷんよ」

 

「ふむふむ…。これはこれは……。()()()()()は殺したくなっちゃいますよねぇ」

 

 

 とあるお方。

 2人は大門寺を恨んでいるだろう人物に想像がつく。小悪魔はその者の家に向かい、証拠を確定させるために文はもう片方の方へ向かった。

 

 

「こんにちは、飯島凪さん」

 

「こんにちは。…ええと、何ですか?」

 

「“お家に入れてもらえます”?」

 

「・・・はい」

 

 

 小悪魔が向かった先は飯島夫婦の元だった。

 家の中には旦那である凪しかおらず、小悪魔の頼みで家の中に入れてもらえた。

 

 

(襲われても嫌だし…、魅了はもう止めておくか…)

 

 

 オンオフは出来ない。

 だが強弱は可能だ。めちゃくちゃに魅了の力を弱めた瞬間に、我に帰ったように凪は表情が変わる。

 

 

「あ、あれ?何で私は…、貴女を家の中に?」

 

「快く入れてくれたじゃないですか。うふふ」

 

「・・・まぁ、いいか。それで何の用です?」

 

「面倒なんで単刀直入に言いますね」

 

「?」

 

「貴方、大門寺を殺そうとしたでしょう」

 

「・・・は?何を言って。あんなに感謝してる人に手をかけるなんて真似をする訳ないでしょう」

 

「動機は奥さんの大門寺との不貞行為。それを知った貴方は大門寺の家に向かい、包丁で滅多刺し。悪魔の力で証拠隠滅…といったところでしょうか」

 

「さっきから何なんだっ!!証拠とか、殺すとか。それに……ナミが不貞行為だと?馬鹿にするのも大概にしろ!大体、悪魔って何なんだ。わけわからんことを言うな!」

 

「私にとって殺人なんてどうでもいいんです。それよりも魔導書を返してもらいたいだけなんで」

 

「本当に何言ってるんだ。魔導書?知るわけないだろ」

 

「アクマでシラを切るつもりですか?この私の前で男性は嘘をつけませんよ。“正直に言い──”」

 

 

 再び魅了をかけようとした瞬間に小悪魔の言葉は大きな羽の音と声にかき消された。空から文が大慌てで飛んでやってきたのだ。

 

 

「小悪魔さん!スクープです!」

 

「今いいところだったのに……」

 

「それどころじゃありませんよ。実は今、あの虎龍姉妹に話を聞きに行ったら……大門寺ってやつはとんでもない悪党だったんです!」

 

「悪党?」

 

「はい。あの大門寺は初めは善意で金を貸しつつ、返金が遅かったり出来ない時には体で払えと言ってくる奴なんですって。その被害者は姉妹だけではなく、たくさん!恩着せがましいな。まさに女の敵ですねえ」

 

「まぁ複数の方と関係あるくらいですから。怪しいとは思ってましたよ」

 

「ちぇっ、つまんない反応。じゃあ…もし新婚したてのナミさんがそれに耐えられずに……殺そうとした、なら?」

 

「・・・本当に旦那は知らなかった、ってこと?」

 

 

 先程から黙って聞いていた凪は立ち上がる。

 そして小悪魔たちに悲しそうな、必死な顔をして近づいた。

 

 

「なぁ…、本当に妻は…、ナミは大門寺と……その…」

 

「ええ。間違いないでしょう」

 

「……そんな」

 

 

 絶望する凪。

 そして不意に、何かを思い出したかのように言葉をポロリとこぼした。

 

 

「そういえば最近妻は部屋に篭って…、ブツブツと何かを言っていました」

 

「奥さんの部屋を見ても?」

 

「ええ」

 

 

 凪の案内により、ナミの部屋へと向かう。

 そして部屋の戸を開けた。

 

 

「これ・・・!!」

 

 

 そこには黒魔術に使われる道具や生き物の死骸が転がっていた。そして中央には何かの紙切れが丁寧に置かれていた。小悪魔はそれを手に取り、中身を読んだ。

 

 

「これ…。アルマデルの切れ端。悪魔の召喚方法の部分だ」

 

「予想通りですね」

 

 

 床から何か嫌な感じがした。

 生き物を生きたまま焼いた匂いと、肌を汚い獣に舐められているようなじっとりとした感覚が全身に走る。床を壊してみると、地面には円と様々なマークなどが描かれたものが書いてあった。

 

 

「これは魔法陣…」

 

 

 1()()()()()()()()()()()()だった。

 汗をびっしょりとかいて、全身がびちょびちょになっていた。常人には中々に堪えるのだろう。

 

 

「とりあえず奥さんが悪魔か何かを召喚したのは確定ですね。写真撮っちゃお!パシャリ⭐︎」

 

「じゃあ奥さんが本自体を持っているんだ。旦那さんっ、奥さんはどこに」

 

「え、ええ…と、あっ!大門寺さんの所にお見舞いに行くって…」

 

「文さん!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迷いの竹林を2人が歩く。

 1人は案内人の藤原妹紅と、もう1人は飯島ナミだ。この竹林は一般人なら必ず迷い、無理に進めば即死級のトラップが多数。だからこそ里の人間たちは妹紅に頼むのだ。

 

 

「ほい、着いた」

 

「ありがとうございます」

 

「それじゃあ私は外で待ってるから終わったらここで待ち合わせよう」

 

「はい。()()()()()()()()()()()

 

 

 にっこりと笑うナミ。

 その笑顔に違和感を覚えつつ妹紅は時間潰しのためにタバコを取り出した。本来なら楽しい殺し合い(アソビ)をしたい所だが、今はお客さんが来てるので出来ない。

 

 

(お見舞いって顔じゃなかったなぁ〜)

 

 

 タバコに火をつけて口に咥えた時に、何かが竹林を飛んでいるのが見える。少し身構えるが、緊張を解いた。

 

 

「何だお前か。それと珍しい奴もいるな」

 

「どうも妹紅さん…って挨拶してる場合じゃなかった!い、いい、今、ナミさん来ませんでした!?」

 

「・・・来たけど」

 

「本当ですか!こ、小悪魔さん!!」

 

「急ぎましょう」

 

「おいおい。何なんだァ」

 

 

 

 

 

 

 

「こちらです」

 

 

 ヤギみたいな妖怪とウサミミの看護師に連れられて、入院されている部屋に連れて行かれた。大門寺の体には手術痕は無く、これほどまでに上手く処置された技は中々に見られない。

 

 

「2人にしてもらえますか?」

 

「はい」

 

 

 ヤギ顔とウサミミが出ていく。

 部屋には眠っている大門寺とナミしかいなくなった。ナミは服の裏側から包丁を取り出すと、大門寺にゆっくりと近づいた。

 

 

「・・・ス。殺ス。コォォォ…ロォスウゥゥゥ……!!大門寺、死ネェェエ……!!』

 

「そこまでです!!」

 

『──ッ!?』

 

 

 小悪魔と文が飛び込んだ。

 驚き、振り向いたナミの顔を見て絶句する。その顔は人間の顔というよりも獣のような顔だった。牙を剥き出し、白眼になっていた。

 

 

「アルマデルを渡しなさい!」

 

「そこは違うでしょ!」

 

「私はそっちが本命です!・・・あと、人格を乗っ取っているのは悪魔ですね!」

 

『オ前ェッ、同族カ』

 

 

 小悪魔の指摘通りだ。

 ナミの言葉を借りて、誰かが喋っていた。ギラギラとした牙を見せて笑う。

 

 

『悪イガ、アルマデルハ渡サネエヨ。ソレト…コイツハ殺スゼェェ…!』

 

「アルマデルを返せ!」

 

『ウケケケケ!!邪魔ダァッ!』

 

 

 ナミは敏捷に身体を動かし、走ってくる小悪魔に向かって一気に蹴りを繰り出した。彼女の足はしなやかで、関節が軽やかに動き、その動きに敵も一瞬反応できない。小悪魔の腹に蹴りが命中すると、衝撃が広がり、彼女の力強い一撃によって小悪魔は跳ね飛ばされた。

 

 

「うぐぅっ!?」

 

「小悪魔さん!…このっ!!」

 

『今度ハ、カラス女カ!』

 

 

 ナミは蜘蛛のような身のこなしで地面を這ったり壁を走りながら文に近づき、棚の上を飛び跳ねた。この狭い部屋を縦横無尽に走り回る。文は圧倒的な不利である狭い場所での戦いに苦しむ中、普通は動かないような場所の関節を回して、瞬時に近づいてきた。

 

 

(早い…!?)

 

『コッチダ。バーカ!!』

 

「あがっ!?」

 

 

 ナミの巧妙な動きに対処しきれない文は、無慈悲な一撃を顔面に打たれてしまう。ナミの包丁が巧みに羽を刺し貫き、血が床に散る。文は苦痛に歪む表情を浮かべながら後退する。

 

 

「──っつぅ。よくも羽を」

 

『ウケケケケ!オ前ラヲ殺ス契約ハシテナイカラナァッ!』

 

 

 その流れで大門寺に包丁を持って飛びかかる。

 だが大門寺に刺さることはなかった。

 

 

『ア?』

 

「殺させやしねえよ。この野郎」

 

『ウベェッ!?』

 

 

 妹紅だった。

 突き刺そうとした包丁を自分の手に突き刺すことで防ぎ、抜けないと驚いた瞬間にその顔面に拳を叩きつけた。

 

 

「この豚野郎。ナミの体使って人殺しなんかさせるかよ」

 

「うわぁ。そんな事しつつ女性の顔を殴るなんて」

 

「うっせえ」

 

『チィッ……!!」

 

 

 大きな舌打ちをしたと思ったらバタンと倒れるナミ。近寄ってみると気を失っているようだ。ナミの周りに感じていた悪い気配は消えており、妹紅は安堵する。

 

 

「小悪魔さん…」

 

「いたた…。うぐっ、悪魔は逃げたようね。でも何で契約者を見捨てて……」

 

「そうなんですか?」

 

「契約した悪魔は願いを叶えるまでは何があっても契約者を守るから、逃げるなんて考えられない」

 

「じゃあ召喚者は別にいるんですね。じゃあ一体誰が…」

 

「・・・あ」

 

 

 小悪魔は何かに気づく。

 ポケットの中に手を突っ込み、飯島家から持ってきたアルマデルの切れ端を取り出すと助けに来てくれた妹紅に見せた。

 

 

「妹紅さん、これが何かご存知ですか?」

 

「あ?」

 

 

 既に穴の塞がった腕で紙を受け取る。

 そして中を覗き、渋い顔をした。

 

 

「あぁ……悪いけど、私さこーいう洋風なの分かんないんだよな。難しくてよ。けどたまに魔理沙とかは使うよな。ほら、この()()()()()()()とかさ」

 

「やっぱり…」

 

「やっぱり?・・・小悪魔さん、今のやり取りで何を確信したんですか?私には何もわかりませんが」

 

「文さん。じゃあこの妹紅さんが言ったヘンテコマークが何だか分かりますか?」

 

「ええ。詳しくは知りませんが魔法陣ですよね。小悪魔さんと一緒にいたお陰でそっち系に少し詳しくはなった気がしますが…」

 

「そうなんですよ。それが普通の反応なんですよ。文さんには色々と教えたから知ってますけど、大抵の人は妹紅さんみたいに知らないんです。元より里はそういった本は置いてありませんので、そういった方を勉強していないと知りようがない」

 

「はぁ」

 

「でも、今まで会話した中に知っていた人がいたんですよ。文さん、飯島さんの家で魔法陣を見つけた時のことを覚えてますか?」

 

 

 文は腕を組み、ウンウンと唸ってから頭の上の電球がピカッと光った。

 

 

「あっ!凪さんが“魔法陣だ”って一番最初に言ってました!」

 

「そうなんですよ。悪魔や魔導書とかは知らないとか聞いたことないって言ってたのに、魔法陣にだけは直ぐに気づいた。普通あり得ますか?魔法陣だけを知ってるなんて」

 

「隠そうとしてたけど素で出してしまったって訳ですか」

 

「けどこれで犯人はわかりましたね。私は急いで凪さんの所に戻ります!」

 

「私も行きたいんですけど……あやや」

 

 

 羽からは少しだが未だに血が流れていた。

 それを見せて申し訳なさそうにする。

 

 

「四肢や身体なら良いんですけど、我々天狗は羽が傷つけられると平衡感覚とか色々ぐちゃぐちゃになっちゃって……。ここで直してもらったら直ぐに戻ります」

 

「分かりました。お大事にしてください」

 

「お気をつけて!」

 

 

 騒ぎに驚いた看護師2人と永琳がやってきた。

 妹紅が病室でタバコを吸っていたり、文の羽から血が出ていたり、大門寺の周りが散乱していた。

 

 

「何があったのかは知らないけどタバコはダメよ」

 

「あだっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凪さん」

 

「ああ!さっきの!つ、妻は!ナミは大門寺を殺してしまいましたか!?私は心配で心配で…」

 

「見え透いた演技なんかしても無駄です」

 

「え?」

 

「凪さん。貴方が大門寺を殺そうとした真犯人です」

 

「え?え!?何を言ってるんですか?私が犯人?」

 

 

 馬鹿にするように笑う凪。

 だが小悪魔は至って真剣だった。

 

 

「ええ。そうです」

 

「妻は大門寺に無理やり抱かれていて、その恨みで悪魔…でしたっけ?それを召喚して、殺そうとした。でも失敗したから病院にまで行って〜とか何とか言ってませんでしたか?」

 

「初めはそう思っていましたが、ナミさんは悪魔に取り憑かれていただけでした。同じ悪魔ですから契約者を守ろうとすると思っていたのですが、悪魔は逃げた。つまりナミさんではない。そして……初めは悪魔とかを知らなかったはずなのに、魔法陣は知っていた」

 

「・・・」

 

「もし犯人じゃないなら、なぜ魔法陣だけを知っていたのか教えてくれませんか?ねえ、飯島凪さん」

 

「・・・あぁぁぁ」

 

 

 終始黙っていた凪が叫ぶ。

 

 

ああああああああ!!

 

 

 頭をガリガリと掻きむしり、頭から血を流す。

 爪の間には肉と髪の毛が挟まって赤く染まっているにも関わらず気にしていないようだった。

 

 

「やっぱりバレたじゃん!!()()ぅぅぅぅ〜〜〜ッ!!!!」

 

『落ち着けよォォオーーーッ!!お前っ、うるせえんだよぉ〜〜〜ッ!!』

 

 

 影の中から這い出してきた悪魔。

 小悪魔はゴクリと唾を飲む。

 

 

 

「あれは悪魔イルっ!!」

 

 

 

 悪魔『イル』。

 原初の時代に生まれた下級の悪魔である。

 容姿は我々のよく想像する悪魔の姿に近く、長い鼻にギョロリとした目玉。鋭い角に牙、爪を持ち、大きな蝙蝠の羽をつけている。先端が尖った尻尾も付いている。このように悪魔の姿の例として挙げられるイルだが、唯一特徴を持っている。それは背中にもう一つ顔があると言うことだ。首は無いのでお面のように張り付いているように見えるが、ただニタニタとニヒルな笑みを浮かべるだけの第二の顔を持っている。

 

 

「自分の奥さんを操って殺人を犯させようとするなんて最悪ね」

 

『知らねえよ!!俺は契約に基づいたまでのことをしただけだ』

 

「契約ですって?どうせ唆したんでしょ」

 

『唆すわけねえさ。なぁ、凪ィ』

 

 

 小悪魔の問いにに対してイルはケラケラと愉快そうに笑う。中指をピンと立て、長い舌をベロリと出す。

 

 

「そう。イルの言う通りだ…。イルのやった事は私が命じた事だ」

 

 

 項垂れる男は掠れる声で小さく言った。

 イルは愉快そうににっこりと笑う。

 

 

「私は…、私は許せなかったんだ。尊敬してた人と妻が私を裏切っていた事を許せなかったんだ。絶対に殺してやると決めたが……勇気がどうしても出なかった。2人の裏切りを知りながら耐えるしかなかった。そんな時にこの()()()()()()()()本を変な男から買ったんだ。そして、そして──」

 

 

 見たこともない字なのにスラスラと読めた。

 導かれるようにイルのページを開き、その内容に従って魔法陣を書いて、生贄を用意して、呪文を唱え、地獄とこの世を繋ぎイルを召喚することに成功したのだ。

 

 

『そしてコイツは俺を召喚した。欲望と憎しみ、後悔、絶望に塗れながらコイツは言ったのさ。“アイツらを殺してください”ってな!!』

 

「イルは私に勇気をくれた。心が折れそうな時は必ず応援してくれたんだ。でも殺すのは失敗してしまった。悪い事は続くもんだな……。お前もあの天狗も俺を怪しんでるのは明白だった。それで、気を逸らそうと……イルに頼んで妻を操り、殺そうとした。大門寺が死んで妻が殺人者として捕まれば私の復讐は果たせたのに……結果バレてしまった」

 

 

 凪の目は小悪魔を捉えていた。

 悪いことが親にバレた子どものように甘えるように、妙に優しく同情を向けてもらおうとする声色で言った。

 

 

「でも私って悪くないよね?」

 

「は?何を言ってるの?自分の大切な人を身代わりにしようとしたのよ・・・」

 

「だって裏切った2人が悪いじゃん。なんで怒られるのは私なの?ふざけんなよっ、ふざけんな…!!被害者は私なんだよ!!イルは私のこと悪くないって…、悪いのはアイツらだって言ってくれたのに…!イルだけだ。私の味方は」

 

 

 そう言って言い訳をする凪。

 彼の耳にイルは耳打ちをする。

 

 

「──っ!!凪さんっ、アイツの言葉に耳を傾けちゃダメ!心を強く持ちなさい!」

 

『ヒヒヒ…』

 

 

 

 悪魔にはそれぞれ能力が備わっている。

 上級悪魔とは比べ物にならないくらいに弱い能力だが、どんな下級でも必ず最低一つは持っているのだ。

 

 そして、イルの能力は『肯定』。

 別名、悪魔の囁きや甘言とも言われる。耳元で『お前は間違ってない、お前は正しい、お前は悪くない』等と言うだけの能力で何の役にも立たないと思うだろう。

 

 だがこの能力の真価は、どんな悪い事を考えても、悪行をしても、お前は悪くないと肯定し続けて、その人間の『反省する機会を奪ってしまう』事にある。特に心が折れかけている人間などにはよく効いてしまうのだ。自分を肯定してくれる物を心酔してしまう傾向を上手く利用した邪悪な力である。

 

 原初の時代からいたイルの肯定の力は大変恐れられていた。人間が己の弱さに負ける時に神は反省する機会を必ず与えるのだが、イルの力により反省することはなく元の正道に戻ることさえできなくなってしまうからである。

 

 

(馬鹿。悪魔を使役する者が、逆に掌握されてんじゃないわよ!)

 

 

 悪魔の召喚はその過程が大変難しいとされているが、それよりも大変なのは悪魔と共にいる事で召喚者が心を奪われてしまわないように自分自身を保っていられるかどうかである。魔女ならまだしも、普通の人間が悪魔という強力な力を得た場合、その力に酔わずに使いこなせるかが肝となるのだが凪にはその才能は無いようだと見て分かった。

 

 

「凪さん、今ならまだ間に合う。契約を解除し、イルから手を引いて!」

 

「・・・うるさい」

 

「凪さん?」

 

「もう遅いんだ。遅いんだよ!!私は何も悪くないのに……皆んなして責めやがって!悪いのはアイツらなのにィィィ……!!」

 

 

 イルは耳元にそぉっと唇を近づける。

 

 

『ジャアドウスル?』

 

「・・・殺す」

 

 

 凪はポケットから小型のナイフを取り出すと小悪魔にその小さな刃を向けた。その銀色の刃には恐怖する小悪魔の顔と全てに諦めた凪の顔を反射していた。

 

 

「幸い、私が犯人だって知ってるのはお前だけだ。お前さえ殺せば私の犯行がバレることはない。安心して目的を果たせる!」

 

『イィィ〜ヒッヒッヒッ!!殺せ殺せ!殺しちまえ!!ナミも、大門寺も、この里の人間たちも皆殺しだァァァ〜〜〜ッ!!』

 

「死ねぇええーーーっ!!」

 

 

 小悪魔の体を前に凪のナイフは残忍な意図を秘めて振り上げられた。彼は無情にも刃を彼女に向けた。辺りの静寂がナイフの斬撃音で裂けるようだった。小悪魔は咄嗟に身をよじらせ、危機一髪で刺されることを免れた。だがそれは偶然によるものだ。馬鹿同然に真っ直ぐに突っ込んできてくれたおかげで避けられたが、この結果は戦闘経験がほぼ無い彼女にとって次はない事を知らせていた。

 

 

「はぁっ、はぁっ…!!」

 

「避けられた」

 

「凪!イルになんか負けるな!自分を取り戻しなさい!!」

 

 

 声は届かない。

 彼の頭の中には小悪魔を殺す事しかない。

 

 

「あぁ〜〜…また殺せなかったよぉ。イル、力を貸して」

 

『あいよ』

 

 

 そう言うと、イルは背中に溶け込むように入っていった。そして直ぐに変化は訪れる。筋肉のない細い体をしていた凪の腕や脚、肩や首がグググと盛り上がり、一瞬にしてボディービルダーのような体へと変化した。

 

 

『凄い…!力が漲る!頭の中に沢山の殺し方が浮かんでくる…!!』

 

 

 獰猛な獣のように彼の瞳は燃えるような狂気に満ちていく。殺意、闘志と破壊のエネルギーが彼を取り込み、周囲の世界が彼にとってはもはや存在しないかのようだった。

 

 

『ははは…!今度は上手くいきそうだ……なあっ!!』

 

 

 バギィッと大きな破壊音が響く。

 凪の手の中に収められた小さなポケットナイフは原型をとどめておらずパラパラと手のひらからこぼれ落ちた。

 

 

『ナイフ、壊れちゃった』

 

(人間の域を超えてる…!?)

 

『まっ、いいか』

 

 

 腰を抜かす小悪魔の前に凪は仁王立ち。

 まるで落とした消しゴムを拾うように、腕を伸ばして小悪魔の首を掴み両手で持ち上げる。首に触れられているだけで次に何をされるのかを察してしまい生存本能的に全身に震えが伝わる。力では敵わない相手に命を鷲掴みにされている。このままじゃ死ぬ。その情景を小悪魔の脳が勝手にイメージして、恐怖のあまり涙が出ていた。

 

 

「うぐぁ──」

 

『うけけけけけ…!!』

 

 

 そのまま両手のひらに力が込められる。その手が首全体を圧迫し、気管を塞ぐ。バタバタと暴れるが、力のない小悪魔が暴れたところで意味はない。子どもが相撲取りの足にぶつかって倒そうとするくらいに無意味な行動である。

 

 

「あぐっ、ぐ、ぅ……っ」

 

 

 段々と意識が遠くなる。

 青ざめた顔面は涙と涎まみれでベタベタになる。酸素が全身に回らず脳の稼働が止まる。引き離そうと力を込めていた腕やバタついていた足も次第に力を失っていき、ブランと垂れ下がるような形になる。

 

 

『死ね。死ネ。シネェェーーーッ!!』

 

 

 不甲斐ない。

 なんて不甲斐ないんだ。

 不思議なことに死ぬ恐怖よりも最期に脳裏に浮かんだのは愛する主人の顔だった。自分の手でどうにかしたかったが、どうにもならないらしい。不甲斐ない従者でごめんなさい──。

 

 

「ぱちゅ…りぃ……さ、ま……」

 

 

 

 

 

 

──ドゴンッッ!!

 

 

 

 

 

 

 

『あ"うっ!?』

 

「──ぁっ、げほっげほっ…!!」

 

 

 小悪魔は剛腕から解放された。

 塞がれたところに空気が入ってきたことにより一時的にむせ返ってしまうが、全身に酸素が巡っていき思考もクリアになっていく。首を絞められた跡に指を這わせながら、何があったのかを目で追うと凪は地面に倒れており、左脇腹から煙が出ていた。

 

 

「一体何が・・・」

 

「大丈夫、こあ」

 

「!? その声って…」

 

 

 凪は起き上がる。

 脇腹の火傷を気にすることなく、自分を吹き飛ばした相手だけに意識を向ける。怒りにより全身から血管を浮き立たせ、奥歯をギリギリと噛み締めてビシィっと指を向ける。

 

 

『誰ダ、貴様ァァーーッ!!』

 

 

 その者は長い紫色の髪をした女性だった。

 だが普通の女性ではないことはすぐに分かった。

 圧倒的な魔力。魔導本を開き、魔法陣を形成し、彼女を囲うように色とりどりの精霊たちが踊っていた。

 

 

「そこの小悪魔の主人よ。よくも私の従者を痛めつけてくれたわね。……けほっ、けほ」

 

「パチュリー様…!どうして外に…」

 

「ちょっと里に用があって咲夜に連れてきてもらったの。咲夜には別のことを頼んでて離れてるけどね。でも立ち寄って良かったみたい。けほっ…」

 

「お体に障ります!役に立たない私なんかに助ける価値はありません!」

 

 

 パチュリーが図書館に引き篭もっている理由は、人付き合いが苦手だとか髪や本が焼けてしまうことを避けているからだと周りの人たちは勝手に想像しているが、実際は違う。パチュリーは膨大な魔力を持っている反面、体が非常に病弱なのだ。喘息も持っており、激しい運動はもってのほかだ。

 

 

「こあ」

 

「!?」

 

 

 どうしてだろう。

 いつもの冷静な顔なのに怒りが垣間見えた。パチュリーは小悪魔の頬をぎゅっと両手で掴む。

 

 

「価値は私が決めることよ…!分かったなら返事をしなさい」

 

「ひゃい…!?」

 

「げほっ、げほっ…。それで…敵は?」

 

「あ、悪魔イルですっ、契約者はあの男です」

 

「分かった」

 

 

 そう言って本を捲ろうとした時、大きな影が重なった。見上げれば凪はパチュリーの目の前に移動しており、首を締め上げようと手を伸ばしていた。

 

 

『何が“分かった”だァ〜ッ!魔女風情が偉そうにィィ〜〜ッ!!』

 

「偉そうに、ではなく偉いのよ。悪魔如きが魔女に勝てると思わないで」

 

 

 

 

 

──バヂィッ

 

 

 

 

 

『い"っ!?』

 

 

 触れようと手を伸ばすが触れない。

 目に見えない防御壁に阻まれ、電気を伴い弾かれる。右手の指先を負傷し、少し仰け反る。だが直ぐに体を向き直し、拳を大きく振り上げてその防御壁に叩きつけた。

 

 

 

──バリン…ッ

 

 

 

(すっご…。想定外。それなら…)

 

 

 防御壁にヒビが走り、砕けかける。

 更にもう一撃加えようとするが壊されないように全体に巡らせていた壁を一箇所に集めて、叩きつけてきた拳を逆に弾き返す。ぐらりと凪の体が揺れた。

 

 

『おっ』

 

「今よ!!」

 

 

 その瞬間を見逃さずに本を握らない方の手から魔法陣を一瞬のうちに構成すると、それを凪の足元に展開する。

 

 

「土の精霊たちよ、この地を穢すものに罰を与えよ。土符『レイジィトリリトン』」

 

『があっ!?』

 

 

 大地から岩の塊が咆哮とともに天に舞い上がり、巨漢の前に立ちはだかる。轟音とともに、その堅牢な岩の柱が鋭い勢いで急襲し、腹部に見事に命中。轟音とともに爆風が巻き起こり、巨大な衝撃波が周囲に広がりながら、巨漢は吹き飛ばされ、その威容が崩れ落ちた。残るのは、魔法の影響で揺れる塵だけであった。

 

 

『ぢぐじょぉぉ……ごふっ!!』

 

 

 生身の人間なら即死してしまうかのような鋭い一撃を喰らったはずなのに、目の前の凪は気絶さえもすることなく血反吐を吐きながら起き上がろうとしていた。

 

 

「パチュリー様…。あの男はただの人間です。それなのに悪魔に取り憑かれただけではあそこまで頑丈になるのですか?」

 

「過去に普通の女の子が階段をブリッジしながら登り降りしたり、小さな男の子が大人を殺す事例があるくらいだから、別に不思議な事じゃないわよ。それよりも貴女は下がってなさい。イルが出てくるわ」

 

 

 凪は白目を向いており、あり得ない位に体が肥大化していた。筋肉が膨張してはち切れそうだった。そんな状態で明確にパチュリー達に怒りを向けているところを見ると人格はもう残っていないだろう。イルが完全に乗っ取っていたのは明白だった。

 

 

『テメェら、よくもやってくれたなァ。がふっ…、骨は折れてるし内臓もボロボロだ。絶対に許さねえぞ……!!この(アマ)ぁ』

 

「ならその人間から離れれば良いじゃない?契約者に死なれるのは悪魔の恥なんでしょう?」

 

 

 悪魔には使命しかない天使と違って『誇り』がある。

 それは契約を叶えるというものだ。召喚した相手と契約し、願いを叶える。更に人々を不幸にし、対価として魂をもらう。この一連の流れができるものは地獄では尊敬される。だがその逆に契約者を失い、願いも叶えられずに魂を貰えないと永遠に愚者として扱われるのだ。

 

 

(知ったような口を〜……。俺は弱えんだ。出て行ったところで負けんのは分かってんだよぉ。クソが…。そうだ…!!)

 

 

 悔しそうな顔をしていたが、直ぐにニヤリと笑う。

 

 

『ヒッ!ヒヒヒッ、言われなくても出てってやるサァァァ〜!!』

 

 

 背中からビリビリと音を立てて剥がれるように悪魔イルが這い出てきた。筋肉質な体とは違って枯れ木のように細い手足に長い爪、鷲の嘴のような鼻に、耳まで裂けた口をしたイルが悔しそうにパチュリーを睨みつける。

 

 

『ウケケケケェェ〜ッ!!』

 

悪魔(ほんたい)が出てきた…!一気に決め──」

 

「パチュリー様、後ろ!!」

 

「!?」

 

 

 パチュリーが振り向いた瞬間、意識を失っている凪が飛びかかりガシッと掴みかかり押さえつけた。それは羽交締めと呼ばれるものでパチュリーが本を開けないようにした。一般人よりも貧弱なパチュリーでは振りほどくことは出来ない。

 

 

「なっ、何でっ!?」

 

『背中を見てみな、夢魔』

 

 

 小悪魔は凪の背中に目を向ける。

 背中にはニヒルな笑みを浮かべたお面のような顔が貼り付いていた。あれはイルの一部であった。

 

 

『これが俺の秘技さ。自分の一部を残せば操れる。魔女みたいに技をつけるなら、その名も『悪魔的双子(ワイフィッシング)』!我ながら天才的命名!グハハハハハ!!』

 

 

 本体であるイルは相手の背中に自分のもう一つの顔を貼り付ける事で、まるでラジコンのように相手を自由自在に操れる。それはイルの思考をもう一つの顔がアンテナのようにキャッチしているカラクリだ。

 

 

『そのまま押さえとけよ。ヒヒヒ…、おい夢魔。お前の主人が死ぬところ見とけよ。俺の爪を突き立て内臓をぶち撒けさせてやる。そしたら腸をマフラーみたいにお前の首に巻いてやるよォ!ウケケケケ!!』

 

「くぅっ!?」

 

『死に晒せェいっ!!』

 

 

 ガキンと鈍い音がする。

 あの時一箇所にまとめておいた魔法壁がパチュリーの腹部に刺さらないようにガードした。だが魔法壁はあの時にひび割れており、長時間は耐えられないようで今の一撃で更に深くなっていた。

 

 

『無駄な抵抗しやがって…!ウキャキャキャアァァァ〜〜〜ッ!!』

 

 

 連打連打連打。

 破片が舞い、ヒビが広がっていく。パチュリーは壊れないように壁の方に気を集中させるが凪の力が強く、体が悲鳴を上げていた。小悪魔は凪に殴りかかる。

 

 

「パチュリー様っ!!こっ、このぉっ!!」

 

『ふんっ!』

 

「きゃっ!?」

 

『無駄無駄!お前には何も出来やしねえよ!黙って見てろ!』

 

 

 だが意味はない。簡単に蹴り返される。転がり、土を被りながらパチュリーを見て、改めて自分の無力さに絶望する。イルの言葉に苦しみ、頭を抱えて悲鳴を上げた。

 

 

「あ、あぁ…、ああああァァァーーーッ!!主人も守れないっ。私は何も出来ない…!」

 

「前を…向きなさい…!!」

 

「──!パチュリー様…」

 

 

 主人が名前を呼んだ。

 血の塊を吐き出しながらパチュリーは小悪魔に言葉を発した。

 

 

「げぼっ…、っぁぁ……私との契約を忘れたの…っ、こあ!!」

 

「!」

 

「契約を破って…、はぁはぁ……私の顔に泥を塗ったら許さないわよ…!前を向きなさいっ。自分にできることを模索しなさい!諦めたら…呪うからね……ごはっ」

 

「私にできること…。私にしか出来ないこと……」

 

 

 考えろ。

 自分自身にしか出来ないことってなんだ。

 私の能力は夢魔らしく異性にしか発動しないような役に立たない能力だ。そんなのが何の役に立つ。いや、待てよ・・・。

 

 

(・・・異性にしか使えない能力)

 

 

 凪を見た。

 悪魔が体に潜んでいたら発動しなかったが、今はどうなんだ?悪魔イルと凪は完全では無いが離れているではないか。ならば私の言葉が、力が、届くのではないだろうか。

 

 

「・・・!」

 

 

 小悪魔は立ち上がる。

 パチュリーを羽交締めにする凪へと向かった。イルはその行動を見ていたが特に興味を持ったり、注意する気にはならなかった。何故なら小悪魔には何も出来ないことを知っていたからだ。誰だって1匹のアリを見て恐れることはないのと同じだった。

 

 

「凪さん、“パチュリー様を離して”」

 

『ああ"・・・?』

 

「“離しなさい”」

 

『!?』

 

 

 ()()()()()()()()()()この女を捕まえろという指示が頭の中に入ってきたので、指示通りに捕まえたのだが、彼女の言葉を聞いていたら不思議と力が抜けていく。ゆっくりとパチュリーを解放した。

 

 

『あ、れ……」

 

何をやっている!手を離すな!この馬鹿!!()()()()()()()()()()()()()!そんな女の言うことなんか聞くな!!聞く、な……。……い、……のか。………

 

 

 頭の中に響いていた言葉が消えていく。

 代わりに聞こえてきたのは、とても聞き馴染みのある声だった。震えながら凪はゆっくりと振り向いた。

 

 

「凪…」

 

「ナミ・・・?何で、君は今、病院にいるはずじゃあ・・・」

 

 

 そこにいたのは愛する妻のナミだった。彼女は優しく私の頬に手を触れ、そして抱擁をしてくれた。その匂い、皮膚感、呼吸音、温かさは間違いなく妻のものであった。『夢魔』という悪魔の特性として、もう一つ特殊な能力が存在する。それは対象の好きな人の姿になれるというものだ。本来は効率よく精気を奪うために備わっている能力だが、小悪魔は頭を使い応用させたのだ。

 

 

「ごめんなさい」

 

「やっ、やめ、やめろ!やめてくれ!謝罪なんてするな!」

 

「なぜ?」

 

「わ、私がクズだからだ。私こそが本当の悪魔だったからだ。愚かな私は怒りに全てを委ねて…、大門寺を殺そうとしただけじゃない。君に全ての責任を押し付けようとしたんだ。謝罪すべきは私の方なんだ」

 

「凪」

 

 

 ナミは凪の手を握る。

 じんわりとした温かさが全身に伝わった。

 

 

「誰だって必ず過ちを犯す。……そして、それは私も同じ。お互い、相談しないで1人で抱え込んだ。それが今回の事を招いたの。でももう終わりにしなきゃ。これからは罪を償うことをしなきゃ」

 

「私に変われるわけ……」

 

「変われるわ。だって貴方は1人じゃないもの」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に凪は気を失った。

 大門寺を刺してからいつかはバレる、元の生活には戻れないという緊張や不安、恐怖で全身がボロボロになっていたが小悪魔のおかげでそれから一気に解放されたのだろう。

 

 小悪魔自身もその場にしゃがみ込む。力を使いすぎたのとパチュリーを解放をできたことで力が抜けていたのだ。倒れる凪を横目に呟く。

 

 

「・・・こんな安っぽい言葉で止められるなら初めからすんじゃないわよ。パチュリー様、あとはお願いします…」

 

 

 

 

 

 

『何やってんだっ!?』

 

「けほっ、あんなに馬鹿にしたあの子にしてやられるのはどんな気持ち?」

 

『うっ、うるせえぇっ!!』

 

 

 

 

──コキン……

 

 

 

 

『あだぁっ!?』

 

 

 再び爪を突き立てるが、いとも簡単に弾かれる。

 両手の拘束から解放されたパチュリーは瞬時に防御壁を再構築したのだ。力のないイルには破る術はない。自分の割れた爪を見て、ひぃいいと情けない声を上げる。

 

 

「・・・はぁ」

 

『あひぃいい……!!た、たた、頼む…!殺さないで…!』

 

「やめてよ。そんな風に媚びないで。あまりにも哀れで同情してしまいそう」

 

 

 炎の精霊たちがパチュリーの周りを舞う。

 パチパチと音を立てながら火花が舞い、次第に火花というよりも炎の塊へと大きさが変わっていく。

 

 

「勝手に自滅するなら見逃していたけど、私の従者に手を出したなら話は別よ。イル、償いはしなければならない。さぁ、久遠の炎に焼かれなさい」

 

『あ、ああ、あああァァァーーーッ!!??』

 

「火符『アグニシャイン』」

 

 

 暗闇に打ち勝つような熱線が、イルを取り囲むかのように広がっていく。炎はまるで舞踏をするかのように、不規則に揺らめきながら全身を包み込む。その瞬間、巻き上がり轟音響かせる炎の中に苦悶の声が交じり合い、まるで忌まわしきものが神聖なる浄化によって取り込まれていくかのようだった。

 

 

『ひぎゃああああ……ああ…ぁぁぁ……あ………』

 

 

 炎が徐々に高まり、悪魔の姿がその中でユラユラと影のように不安定になっていく。息つく間もなく炎に全てを飲み込まれ、最終的には灰となって空中に散りばめられていった。その美しくも厳かな炎は、まるで神聖なる浄化の儀式が完了したかのようだった。

 

 

「パチュリー様!お怪我は!?」

 

「フッ…、こあ。私を誰だと思ってるの?」

 

 

 バタン。

 爽やかな笑顔したまま地面に倒れ込む。

 

 

「満身創痍よ。もうダメ」

 

「パチュリー様ぁぁぁーーーっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 

 

 その後のことは文さんの新聞で知った。

 女性たちに対しての性加害を行ってきた大門寺は直ったら牢屋にぶち込まれるらしい。家財も没収とのことで写真には憔悴しきっていた姿が見られた。

 

 凪は悪魔のせいではあるが有罪となる。だが未遂ということもあり軽くはなった。精神科にも通っているらしい。ナミは健気にも旦那が帰ってくる日を待っている。

 

 

 

 そして肝心の魔導書を盗んだ犯人だが・・・。

 

 

「俺になんか用?」

 

「え?俺がなんか盗んだって。そんな事僕がするわけないでしょ」

 

「机の本?これは……ええと…ひぎゃああああ!?」

 

 

 

「あ、ああ、ごごごめんなさ〜〜〜い!!」

 

 

 

 ねずみ男さんだった。

 現場に残された汚れや凪の証言、パチュリーの推測から絞り込まれ、その日のうちに咲夜さんによって捕まった。特に、彼の家の中にはクリーム塗れの魔導書が発見されたのが決めてとなったらしい。本来なら私が見つけるべきであったのにパチュリー様に尻拭いをさせてしまった。もっと成長しなければならない。

 

 

「やけにトイレの回数が多いと思ったけど…」

 

 

 トイレの際に、お宝の匂いに誘われて宝物庫内に侵入。ピッキングの才能があるので容易に開けた。半妖怪という事とあまりにも弱い妖力という彼の特性で中のセンサーには反応せずに簡単に盗めたらしい。

 

 

「ちょっと魔が差しただけなんですぅっ!そうっ、『魔』!悪魔!僕も悪魔の声に唆された被害者なんです!だからここから出してぇ〜!」

 

「…との事ですが、どうしますか?」

 

「ダメ。有罪(ギルティー)

 

「だそうです」

 

「ひぇえええーーーっ!!!!」

 

 

 ねずみ男は樽の中に両手両足を縛られた状態で入れられていた。レミリアの掛け声と共に上からドボドボと生クリームが流れてくる。

 

 

「もがががっ!?」

 

「謝れば許されるなんて、お菓子よりも甘い考えが通る訳ないでしょ。身も心も砂糖みたいにサラサラになってきなさい」

 

「もがーっ!今年もこんな感じで終わるのかー!!来年こそは金持ちにィィィがぼぼぼ………っ」

 

 

 

 パチュリー様はお咎めなしとなった。

 元々そんな事はするつもりはなかったらしい。レミリアお嬢様やパチュリー様に騙されたのかな。けどまぁ何はともあれ無事に終わって良かった。

 

 

「こあ」

 

「何ですか?」

 

「来年もよろしくね」

 

「こちらこそです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。
もうとにかく書き切らなきゃと急いで書きました。読みにくくて申し訳ないです。誤字脱字あった場合は報告してください。私の方でも読み直していこうと思います。

とりあえず今年は色々とありましたがありがとうございました。

来年はもっと書きたい日本妖怪があるので書いていこうと思います!!




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