ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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新年あけましておめでとう御座います!!

 今年は始まった瞬間に色々と悲しい出来事がありました。
 どんな年になるのかめちゃくちゃ不安ですね。















新年空腹大騒動!?①

 江戸時代中期。

 幻想郷が創立されるかなり前の時代の話だ。当時日本全国の人々は飢餓に苦しんでいた。大規模な土地開発や冷害により食べ物は何も取られず備蓄も尽き、人々は家畜だけではなく移動手段に用いられた馬を食い、犬や猫といったペットも食い、最悪なことに死人の肉を食らうという禁忌さえも行った。

 

 

「ひもじい……。正月だってのに……ちくしょぅ…」

 

 

 粉々に壊された家屋の中で、倒れた箪笥の中を漁る1人の男がいた。皮が浮き出ているくらいガリガリで、髪の毛も爪もボロボロとなっていた。明らかな栄養失調である。喉や腹の方に筋肉もないため一言声を出すたびにゼェゼェと息切れをしていた。

 

 

「一郎、何かあったか?」

 

 

 フラフラと歩きながら廃屋にもう1人男が近づいてきた。彼もその男と同様に栄養失調である。

 

 

「次郎か。何もねえ。そっちは?」

 

「・・・」

 

 

 首を横に振るい否定する。

 

 

「なぁ、俺たちも……っ」

 

「ダメだ・・・!!」

 

 

 漁っていた男は頑なに否定する。

 そして外の方を指差した。廃屋の外では目を逸らしてしまうほどの地獄絵図が広がっていた。生き絶えて冷たくなった乳飲み子の首に噛み付く母親、誰かを殺してその地肉を貪る子供たちがいた。

 

 

「俺たちがあんな事しちゃあなんねえ…!親が子どもを食うなんて…許されて良いわけがねえ」

 

 

 血の匂いと生肉の咀嚼する音と生き血を啜る音が聞こえる。嫌な匂いだ。本当に嫌な匂いが鼻につく。

 

 

「俺たちがどれだけ……どれだけ苦しくても、人の道から逸れたことはしちゃあならねえんだよ…!!」

 

「分かってるよ。分かってる。でもよ…このままじゃあ俺たち…っ」

 

「耐えるんだ。耐えろ…」

 

「クソが・・・っ。ん?おい、なぁ、()()はどうした?」

 

 

 アイツ。

 この男たちは実は3人組である。一郎、次郎、三郎と三兄弟みたいな名前だが兄弟ではない。ただの同級生なのだ。幼少期からずっと一緒で、大人になっても農家として共に頑張ってきた。1人が困ったら2人で助け、2人が困れば1人が助けるくらいに仲が良かった。まさに竹馬の友だった。

 

 

「そういやぁ…見ねえな」

 

「何やってんだ。いや、まさか…」

 

「おい、行くぞ」

 

 

 走る力は残っていないがそれでも体に残った力を使い急ぐ。歩き回った先に辿り着いたのは竹藪だった。よく子どもの頃に遊びまわった思い出の遊び場だった。そこにアイツはいた。何かが倒れており、その前でグチャグチャと音を立てて何かをしていた。

 

 

「お、おいっ、三郎、何をしてるんだ」

 

「うぐぅ……っ!?」

 

 

 驚き、振り向いたもう一人の仲間の口は真っ赤に染まっていた。滴る血液が地面に跳ねたところで口を動かすのをやめた。

 

 

「お前…、まさか…」

 

「やりやがった…」

 

「ちがっ、違う!俺はただ腹が減って…、そしたらこの女が……っ!!」

 

 

 言い訳をする仲間に駆け寄り、首元に掴みかかる。“ひぃいい”と情けない声を上げた仲間の服は血に濡れて、その冷たさが手のひらに伝わってきた。やるせない気持ちと怒りきれない感情に手を離し、涙を流す。

 

 

「これも全部アイツらのせいだ…」

 

 

 絶対に人の道から外れたことはしない。そう決めたのに空腹のせいで仲間がそれを破ってしまった。その全ての元凶に怒りが湧く。

 

 

「幕府の奴らは俺たちを助けもせずに、自分たちだけ美味いもんを腹一杯食ってやがる」

 

「この恨み、決して消えることはない。俺たちは永遠に呪い続けてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新年!あけましておめでとうございます!!」

 

 

 幻想郷にも新年がやってきた。

 外の世界では2024年を迎えたのだが、ここにそういうものがあるのだろうか。分からないが人々が楽しそうにしているのならどうでも良いことなのだろう。皆んな楽しそうに笑い、子どもは凧を上げたりコマを回し、大人は餅をついて食べたり酒を飲んだらと楽しそうだ。

 

 

「ケッ。なーにが“あけまして”だヨ。あけてもあけなくても喜んでるくせに全くおめでたい奴らだぜ」

 

 

 ただ1人、楽しそうにしていない奴がいた。

 それこそ我らがねずみ男である。年末から年明けにかけて紅魔館でお仕置きをされていたり、お金を没収されたせいで楽しい食事とはかけ離れた生活を送っており、いつにも増してイライラとしていた。

 

 

「どいつもこいつも楽しそうに…。ちぇっ、ちぇっ!楽しい正月なんかぶっ潰れちまえってんだ。あーあ、帰っても飯なんかねえし……。霊夢ちゃんのところでも行って餅でもごちそーになろうかなァ」

 

 

 歩けば歩くほど腹が減る。

 どんな生物も空腹になれば刺々しく意地が悪くなってくるものであるからか足元に咲く花なんかをわざと踏み潰し、小便をかけたりして、向かっていた。

 

 

「ダメだ…ッ、もーダメ」

 

 

 だが人里から博麗神社まではかなりの距離があり、段々と足がフラフラになってきた。()()()()()()空腹度も高まり、遂には歩くのをやめてしまう。その場にうずくまってしまう程の飢餓感に襲われて指先から水分が失われていく。

 

 

「腹…、減った……。死ぬぅぅ……」

 

 

 ねずみ男は手を伸ばして足元に生えていた雑草を引っこ抜く。土まみれで如何にもどこにでも生えており誰からも気にされないような汚らしいその雑草を口の中に放り込む。昔から空腹には慣れている。漁るゴミが無いのなら地面に生えている草や転がる石のようにもう何だって良かったのだろう。

 

 

「むしゃ…んぐっ…ふぅ〜」

 

 

 胃の中に食べ物を入れたのが上手くいったのかは不明だが、不思議と飢餓感は無くなっていき気持ちも落ち着いてくる。とても気怠かった気持ちも晴れていき、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

『・・・』

 

「ゲゲゲッ!?」

 

 

 立ち上がった瞬間に気づいた。

 ──3()()()()()()()()()()()()

 

 

「な、なな、何だテメェらッ!?」

 

 

 目の前に立っている3人は共通しているのはその姿。三者三様全く同じの人間の姿をしており、頭には頬被りを巻いており顔は見えなかった。服装は農家のような格好をしていた。ただ1人だけは錫杖を握っており、手はミイラのようにカサカサではあるが包帯が巻かれているのを確認できた。

 

 

『ふんっ!!』

 

「うべぇっ!?」

 

 

 錫杖で殴られ、地面に転がった。

 

 

『我々は……ひだる神だ』

 

「ひっ、ひだる神…!?」

 

『素直に餓死すれば良かったのに、無駄な抵抗をしおって』

 

 

 ひだる神。そう名乗った錫杖を持つリーダー格の妖怪は残り2人に向かって顎をクイと動かすと、2人はゆっくりと頷いてねずみ男を押さえ付けた。両腕をがっしりと掴み、逃げれないように拘束する。

 

 

「おっ、おい、何すんだ!離せ!会話をしよう!だから暴力は絶対にダメぇぇぇ〜〜っ!?!?」

 

『我々はひだる神。憤怒の化身……』

 

「はあ!?」

 

『貴様のような今を生きる者は平気で食べ物を残し、捨て、感謝もしない。よって粛清する』

 

「しゅ、しゅしゅしゅくぅぅう〜〜〜っ!?!?」

 

『そうだ。粛清だ。貴様も我々の仲間となり、今を生きる人間達に怒りの鉄槌を下すのだ』

 

 

 そう言うと無情にも錫杖でねずみ男を突いた。ギャアアアアアと叫び声を上げて、数秒経つ。ねずみ男の身体には何も変化は起きていない。

 

 

「ひえええ・・・え?」

 

『?』

 

『どうした?』

 

『い、いや、何でもない』

 

 

 首を傾げたリーダーはもう一度突く。だが変化はない。後ろの2人も動揺していた。

 

 

「おい!何度も腹を突くのが粛清だってのかよ!?」

 

『な、何故だ…』

 

『まさかコイツ』

 

『食べ物を粗末にしたことないのか!?』

 

 

 パッとねずみ男から腕を退かす。

 解放されたねずみ男は戸惑っている3人に段々と腹が立っていき、形勢逆転。今度はねずみ男がひだる神リーダーの胸ぐらを掴み、怒鳴る。

 

 

「テメェら!全員そこに正座しやがれぇぇぇーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 里と博麗神社の中間地点あたりで、岩の上に座り怒っているねずみ男と正座をして気まずそうにしている3人がいるという何とも言えないシュールな光景が広がっていた。

 

 

「それで…何でこんな事したんだ?」

 

『・・・』

 

「黙ってないでハッキリしやがれ!!」

 

『・・・我々は元々餓死した人間だった。死後、妖怪となり人間達の生活を見ていたら食べ物を粗末にしているのが分かり……怒りが込み上げてきた』

 

「だから誰でも良いから取り憑いて殺そうとしたってわけだな」

 

『これは復讐なのだ。食べ物を粗末にする人間たちに食べ物の大切さを身に染みて教えてやるのだ』

 

「ハァ〜。なんて小さい奴らだ」

 

『何だと?』

 

 

 ねずみ男の発言に怒る3人。

 しかし怯むことなく馬鹿にするように頭をトントンと叩いて煽る。

 

 

「小さいって言ったんだよ、馬鹿。せっかく妖怪になって蘇ったのにやる事がただの“八つ当たり”なんて小さいにも程があるっての!」

 

『我々の浄化活動を八つ当たりと罵るとは・・・!』

 

『この若造が…!言わせておけば!』

 

『死ぬほどの空腹を味わった事がないくせに我々の事を語りやがって!』

 

「正論だろうがっ。それになお前らのやり方じゃあ、博麗の巫女とかいう無茶苦茶な奴に祓われるのがオチだっつうの」

 

『では……、ではっ、どうしろと言うのだ!!』

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に、ねずみ男はニヤリと笑う。ヒゲをビビビと動かして胸を張り、大きな声で言った。

 

 

「お前らの力をビジネスに使わねえか?」

 

『びじ…?何だ、それは』

 

「ビジネス。つまりは社会貢献だヨ」

 

 

 3人が首を傾げた。

 ねずみ男はベロベロと舌を動かして続けた。

 

 

「お前らの気持ちは理解できる。俺だって毎日空腹でゴミを漁る毎日だからな。でも暴れて餓死させるだけってのはダメだ。アイツら、人間には怒りは伝わらねえからな。ならどうするか?答えは人間達にも身を持って空腹の辛さを味わってもらい反省させるんだ」

 

『・・・なるほど。確かに餓死させれば反省はできん』

 

『退治されたくもない。この男の言うことも正しいかもしれん』

 

『具体的には?』

 

「ンフフフ…。ちょいとお耳を拝借…。ゴニョゴニョゴニョニョニョニョ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 ぷくぅと餅が膨れ上がる。

 こんがりと焼けた餅を箸でひょいと持ち上げて、醤油を塗って海苔を巻いて一口。別にいつでも食べようと思えば食べられるが、正月に食べるからこその特別感もある。

 

 

「ん〜〜!やっぱり餅は美味しいな」

 

「流石に磯部焼きは食べ飽きた。こう、小豆とかきな粉はないもんかね」

 

「妹紅は贅沢だなぁ〜。餅というのは醤油と海苔!これが至高なんだぞ。それ以外は邪道だよ」

 

「慧音、贅沢とかってレベルじゃねえよ。朝から磯部焼きだぞ。飽きるに決まってるっての。ちぇっ…残りはやるよ」

 

「んむんむ……ごくん、残すのか?」

 

「流石に腹一杯だよ。ヤニ吸ってくる」

 

 

 そう言ってタバコを取り出し口に加えて出ていく。指をパチンと鳴らし火をつけて吸う。慧音はタバコを好まないので外で吸う事にしているのだ。

 

 

「ぷはぁ〜…、寒いとこで吸うタバコは格別だなァ………ぐはっ!?」

 

 

 

──ぐぅううぎゅるるる

 

 

 

(嘘だろっ、あんなに食ったのに…!?腹が減ってきやがったッ!?)

 

 

 

 タバコを落とし、その場に蹲る。

 グゥグゥギュルギュルと腹が鳴り響き、あまりの空腹に思考がぐちゃぐちゃになる。

 

 

「は、腹が…減った……」

 

「おんやぁ〜、どうしたのかナ??」

 

「テ…メェ……は…」

 

 

 妹紅の前に現れたのはねずみ男だ。

 以前少しだけあったくらいの仲であり親しくはない。背中に沢山の重箱を背負うねずみ男は蹲る妹紅の前にしゃがみ込む。

 

 

「妹紅さん、でしたっけ?こんな所でどうしましたか?」

 

「……ッセェ、他所へ行け」

 

 

 

──グゥウウゥゥゥ〜〜〜

 

 

 

「おやおやおやおや」ニヤニヤ

 

「〜〜〜〜ッ!!??」

 

 

 腹の音を聞かれて赤面する妹紅。

 その反応を見て、ねずみ男は愉快そうに笑うと重箱を取って、妹紅の前に差し出した。

 

 

「ンフフフ。お腹が空いたのなら言ってくれればいいのに。これ食べますか?」

 

「こ、れは」

 

「“おせち”ですよン」

 

「くぅっ」

 

 

 これ以上は我慢できない。

 この異常な空腹には耐えられずねずみ男の差し出した重箱に手を伸ばすが、ねずみ男は取られる前にひょいと持ち上げた。

 

 

「何の真似だ…っ、助けてくれるんじゃ…」

 

「助ける?これは商品でしてね。悪いんですけどボランティアじゃないんです。ンフフフフフ」

 

「商品だと…?」

 

「実は僕ちゃん、今おせち売りっていう商売してましてね。どうです?一つ、10000円ですけど買いますか?」

 

「たっか…!?そんなの買うわけ…っ」

 

「あっそ。なら勝手に餓死しとけばぁ〜」

 

「そう…させて……もらうよ…」

 

「まっ、餓死なら……きっとお笑い草でしょうけど!うしゃしゃしゃ!!」

 

「──っ」

 

 

 その言葉に妹紅の思考にとある人物が浮かび上がる。真の意味の殺し合いができる関係であるアイツに餓死して蘇った事を知られたら、どんなに馬鹿にされるだろうか。そう考えたら死ぬに死ねない。他の奴らには笑われても関係ないがアイツに馬鹿にされるのは耐えられない。

 

 

「ま、て…」

 

「ん?」

 

「一つくれェ…。ほらっ、中に一万円が入ってる…。取りやがれ」

 

 

 そう言って財布を投げつけられる。

 ねずみ男はオトトと言いながらしっかりとキャッチすると中を開ける。財布の中にはポチ袋が入っており、どうやら誰かからお年玉を貰ったのだろうと推測できた。そのポチ袋を開けて一万円取った。

 

 

「毎度ありィ〜。ほらよ、しっかり食ってくれ」

 

「うぅぅ……うっ!?何だこりゃあ!」

 

 

 重箱を開けてみれば中には雑草がこれでもかと入っていた。詰め込まれた雑草を手に取ってみるとそこら辺の地面に幾らでも生えているただの草にしか見えない。

 

 

「何って見りゃあ分かるでしょ。薬草おせちよ」

 

「薬草、だと!?馬鹿にしてんのか…。これはどこにでも生えてる雑草だ…」

 

「薬草って言ってるでしょ。無知なあんたに教えてやるけど、これは妖怪の山の奥底の川辺の謎の洞窟の先にある地底世界から持ってきた伝説の薬草なの。疑うなら食べてみなさいよ。一口食べれば空腹も収まるからさ」

 

「・・・背に腹はかえられぬ、か。南無三……ッ、ぱくっ」

 

 

 もしゃもしゃと苦くて青臭い草を噛み締める。口全体に広がる苦味とエグ味に何度も吐きそうになるが、グッと堪えて必死に飲み込む。

 

 

「うぐぅ…っ、ふぅ…っ、あれ?」

 

 

 腹に入った瞬間にあんなに自分を苦しめてた飢餓感が無くなった。全身に力が漲っていく。ゆっくりと立ち上がり、重箱の薬草とやらを拾って観察してみた。

 

 

(本当に薬草だったのか?でも、どこからどう見てもただの雑草なのに…)

 

「タバコ、吸い終わったのか?」

 

「!!──慧音」

 

「私も腹一杯になってな。くぅ〜…気持ちいいな、外の空気は」

 

 

 体を伸ばし気持ちよさそうにする慧音。

 そういえばねずみ男は?と辺りを探すが、奴の姿はもうどこにもなかった。

 

 

「ん?何だその雑草の山は」

 

「あ、ああ。実はこれな・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「ングフッ、グフッ、グフフのフ〜〜〜♪実験はァッ!うーまくいったぞ〜ん!いひゃひゃひゃひゃひゃ」

 

 

 物陰で笑うねずみ男。

 一万円を握りしめて愉快そうに笑っていた。

 

 

「ひだる神達を使って人間達を腹ペコにさせる。無知な奴らはどうする事もできずに苦しみ続けぇ〜……藁にも縋りたい時に俺様が参上!!そこら辺で摘んできた雑草を、薬草と嘘ついて売りつければァ〜!原価もかからず大儲け!!やっぱり俺って大天才〜〜♪」ウシャシャシャ

 

 

 そんな彼の背後から幽霊のように姿を現したひだる神3人組。ねずみ男はヨォと軽く挨拶をした。

 

 

「どうよ。そっちは?」

 

『・・・上手くいったぞ』

 

「どぉれどれ?……おぉっ!!」

 

 

 こっそり覗けば、道端に老若男女問わず様々な人間達が腹を空かせて苦しんでいた。楽しく凧を上げていた子どもも、談笑していたお母さん達も、こたつに入っている老人達も涎を垂らして食べ物を求めて転がっている。腹を空かせた赤ん坊は泣いていた。

 

 

「お腹空いたよぉ」「苦しい…っ、苦しいよ」「あんなにお腹いっぱいだったのに」「眩暈が…っ」「うううっ」「おぎゃあ…おぎゃあ…っ」

 

『人間達よ、苦しめ苦しめ。我らはもっと苦しんでいたのだ。ヒヒヒ……笑いが止まらぬわ!』

 

『『・・・』』

 

 

 ねずみ男と同様にゲラゲラと笑う1人のひだる神。3人の中で一番人間達が苦しんでいる姿を見て喜んでいるのだが、錫杖を持ったリーダーともう1人は笑ってはおらず、不思議なことに俯いていた。

 

 

『ねずみ男』

 

「ヒヒヒ、何だよリーダーさん」

 

『赤ん坊はやらなくても良かったのではないか?』

 

「・・・はア?何言ってんの?」

 

『確かに我らは人間達を苦しめたいと思っているが、それは食べ物の大切さを伝えたくて……だな。それで、その…』

 

「君、……オモチロイねぇ。ひだる神のくせに人間の味方なんてするんだ!」

 

 

 ねずみ男はリーダーの肩をガッと掴み、引き寄せる。

 

 

「コイツらは食べ物を無駄にした悪い奴らだ。気を使う必要なんかねえんだよ。・・・それともお前の怒りはこんなものか?」

 

『・・・っ』

 

「赤ん坊も腹を空かせて苦しんでいる。そんな姿を見せられれば、人間達は必ず反省するから…!なっ!俺を信じろ!俺に従えば、人間達は必ず食べ物を大切にするからよ」

 

『・・・』

 

 

 黙るリーダー。

 何かを言うとしていたもう1人のひだる神も口を噤んでしまう。一方、愉快そうにねずみ男と3人目のひだる神はゲラゲラと肩を組んで楽しそうだった。

 

 

「さぁて、どんどん腹を減らしていけ!」

 

『おうよ!任せてくれ!人間達に復讐だーい!』

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「新年1発目の新聞の内容はどこに転がっているのかなぁ〜」

 

 

 射命丸文が里へと向かっていた。

 何かイベントが起きるとすれば博麗神社なのだが、ここ最近は人里で不思議なことが多発している。どれもこれも『例の男』が原因だというのも既に掴んでいる。

 

 

「ここ最近幻想入りして、未だ妖怪に食われずに生活している謎多き存在……『ねずみ男』。数回くらいしか見かけなかったけど、彼を観察していれば必ずとくダネが〜〜!ぐふふ」

 

 

 里に辿り着く。

 そして到着した瞬間に里の全体を撮った。見慣れている光景が広がっているのだが、すぐに分かるくらいの異常があったからだ。

 

 

「何これ・・・」

 

 

 里の殆どの人間達が一ヶ所に集まっているのだ。その異常性は不気味さを醸し出しており流石に面白がってはいられない。何があるのかとゆっくりと地面に降りて跡をつけた。するとそこには──。

 

 

「ねずみ男・・・?」

 

 

 里の中央には露店が一つ出ていた。

 そして里の人間達は全員そこに集まっていた。手には一万円札を握り、老若男女が重箱に手を伸ばす。

 

 

「はーいはい、押さないでね!ちゃんと全員分あるからネ!ねずみ男特製『薬草おせち』!」

 

「また腹が減った!俺にくれぇ」

「私に早く!早く!」

 

「この薬草はとっても貴重!本当なら一つ100万円するものだけど出血大サービスしちゃうわよん!なんとッ、一つ10000円ネ!!ンフフフ」

 

 

 ねずみ男から受け取った薬草を手に取り、口へ運ぶ人々。すると先程の苦しみが嘘だったかのようにケロリとしていく。腹を空かせていた人たちがただの草を食べただけで元に戻っていったのだ。

 

 

「ちゃんと大切に食べなさいよ。中の薬草には限りはあるんだから、一つ一つ感謝するんだからネェ!」

 

(儲け儲け!大儲けェェ〜!!()()()()()()()()()()()()()()!また腹が減る恐怖を思い出せば、俺様に頼ってくると思ってたけど!大成功みたいねぇん!)

 

 

 

 

 

 

 

「私にも一つ……」

 

「はいはい…って、何だお前さん」

 

 

 人が減ったからかねずみ男に1人の女が近づいてきた。明らかに貧しそうな見た目をしており、一万円札を持っているようには見えない。

 

 

「お願いします。私にも薬草を一つください…。お金なら働いて返しますから……どうか、どうか…」

 

「金が無い奴はお断りだよ。さぁ、帰った帰った」

 

「そんな…このままでは餓死してしまいます」

 

「いいかい、おばさん。この世ってのは残酷なんだ。情とか心なんてもんは存在しない。金が無い奴は生きられないんだよ。死ぬなら俺が見てない所でやってくれな」

 

「う、ううぅ……!」

 

 

 泣きながら去っていく女。

 ねずみ男にとっては関係のない相手なので、直ぐに客の相手をするのに戻る。

 

 

『なぜ渡さない』

 

「うわぁっ…て急に出てくんじゃねえよ!心臓に悪りぃな」

 

 

 ねずみ男の背後から1人のひだる神が現れて問う。このひだる神はリーダーのように赤ん坊が腹を空かせている事に喜んでいない考えの持ち主であった。心の底から真剣そうに聞くひだる神に対して、ねずみ男は軽く流しながら答えた。

 

 

「ふんっ、金がねえんじゃ物は渡さないのは当たり前。ガキでも知ってるルールだヨ」

 

『だが困っていたぞ。本当に食べ物を必要にしているようだ。それに見ろ、貧民の者たちは誰も買えていないではないか』

 

「何だ2番目。偉そうに説教でもする気かよ?大体、人間を反省させるこの計画に乗ったのはそっちだろうがよ」

 

 

 ねずみ男はひだる神の肩にガバッと腕を乗せた。そして顔を近づけて言う。

 

 

「お前、食べ物を粗末にする人間が許せなかったんじゃねえのかよ。・・・見てみろ。お前たちの能力が効くって事はあの貧乏人たちも平気で食べ物を粗末にする悪だって事だ。アイツらもお前らの言う“裁かれなきゃいけねえ存在”じゃねえのか?」

 

『それは!……そうだが』

 

「この世ってのは悪い事をしたら必ず罰を受ける。そこに金持ちも貧乏人も差はねえ。そして()()にも差はない」

 

 

 ねずみ男は溢れるほど溜まった金を見せる。

 

 

「俺はその反省の形を金として集めてるんだよ。だから貧乏人は金を払わなくていいとはならねえ。無いなら無いで、あーやって空腹に苦しんで反省させられるんだ。お前らの大きい理想に合ってるし、俺も幸せになれる。Win-Winだろ。違うか?」

 

『・・・もういい』

 

 

 ひだる神は、ねずみ男の言葉を聞いて、一言言い返すと消えていった。ねずみ男は気にする事なくフンと鼻息を吐いてから営業に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お腹が空いた…っ、うぅっ」

 

「おぎゃあおぎゃあ……」

 

「ごめんね。せめて私のお乳が出れば…、坊やだけでも救えたのに……」

 

 

 あの貧しい女はこの家にいた。

 腕の中には細い赤ん坊がおり、腹を空かせて泣いていた。栄養がなく乳を出せない母親はただただ無意味に抱きしめ揺らしていた。意味のない事だと理解しているが、見捨てることはできなかったのだ。

 

 

『おい』

 

「は、はい…!?」

 

 

 声がした。

 振り向けば、背後に見知らぬ誰かが立っていた。自分たちと同じように貧相な姿をしており腕や足はガリガリだった。

 

 

「な、何でしょうか。…あっ、坊の泣き声がうるさかったのでしょうか。申し訳ありません…。すぐに静かにさせますから…」

 

『違う。赤ん坊は泣くのが仕事だ。それよりも手を貸せ』

 

「え、え?」

 

『良いから手を貸せ』

 

 

 言われるままに手を差し出す。

 正体不明の男は、女の枯れ木のような手を掴むと手のひらに指で『米』という漢字を書いた。書き終えると手を離す。

 

 

『手のひらを舐めろ』

 

「な、何を言って・・・」

 

『良いから』

 

「う……」

 

 

 訳がわからない。

 手を貸せと言ったり、手のひらに米を書いたり、更には舐めろという理解ができない。理解ができないが言うことを聞かないといけないと感じて嫌々ながら手のひらを舐めた。

 

 

「あ、れ……?あれ?あんなにお腹が空いていたのにっ、急にお腹が満たされた感じがする」

 

『ただの()()()()だがな。…さっさと、赤ん坊にもやってやれ。それじゃあな』

 

「はい!・・・って、いない?」

 

 

 感激し、自分の手のひらを不思議そうに眺めている間に男の姿は消えていた。一瞬その不思議さに固まってしまったが我が子の鳴き声に我に返り、赤ん坊にも同じことをした。そして赤ん坊に米と書いた赤ん坊自身の手を舐めさせると

 

 

「……きゃっ!きゃっ!」

 

「す、すごい。…きっと今のは救いの神よ。ありがとうございます。ありがとうございます…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「るんるんるん」

 

 

 少し時間を戻す。

 ねずみ男の事を陰から見ていた文はゆっくりとカメラを向けた。カメラのレンズはねずみ男に売ってもらえずに何処か寂しそうに去っていく女性を捉えていた。

 

 

「ひっど〜。まっ、カワイソだけど人間社会じゃあるあるか」

 

 

──パシャッ

 

 

 小さくシャッターがなる。安物の使いにくい『使い捨てカメラ』と呼ばれるこのカメラではちゃんと撮れているかは不安であった。今日持ってきたカメラはいつも持ち歩いている一眼レフではない。かなり前だが香霖堂で手に入れた大切なものだが少し動作が鈍くなってきているので河童たちに修理してもらっていた。

 

 

「謎の空腹現象と怪しい草を売っていること、関係大アリね。とくダネいただき──」

 

『こんな所にネズミがおったとはな』

 

「ひっ!?」

 

 

 振り向けば、人の姿をしているが明らかに人ではない雰囲気を醸し出している存在が1人立っていた。文の持っていたカメラに手を伸ばし奪い取ろうとしてくるが体を反転させて避ける。

 

 

「あやや。新聞記者の戦道具を取ろうとするとは非常識ですねぇ」

 

『・・・』

 

「おや。貴方、妖怪ですね。写真を奪おうとした事から考えると……どうやら貴方が人々を空腹にさせているのカナァ?そしてそれを利用して雑草を売りつけているとか。どうですぅ?」

 

『・・・好奇心は猫をも殺すぞ』

 

「わっかりやすい脅し文句。肯定しているもんですよ、それ。あっは」

 

 

 謎の存在の言葉には怒気が含まれていた。

 プロ根性というべきか、流石の文はそんな脅しには屈しない。新聞記者としてのプライドがあるのでカメラをしまい、代わりにペンと手帳を取り出す。

 

 

「でも私、()()()()()じゃあ無いんです。ただの新聞記者。色んな人に私の記事を読んでもらいたいだけなんで。・・・誰にもバラしませんから取材受けてもらえませんか?」

 

『どうやら……猫だけじゃなく天狗も殺されるようだ』

 

「交渉決裂のようです、ね……ぐっ…!!これ、は…これは……かなり強烈な空腹感…ッ」ギュルルルル

 

 

 射命丸文の腹が勢い良く鳴った。

 全身の栄養がなくなり、身体中が栄養を寄越せと暴れているようだ。一気に貧血状態になり膝をつく。

 

 

『貴様はここで死ね。この世で最も苦痛である飢餓によって・・・!!』

 

 

 そう言って、文のカメラを手に入れようと再び手を伸ばす。動けない相手から物を奪う事など赤子の手をひねるようなものだ。ほっかむりで表情は何も見えないが愉快そうなのは分かった。だから文はそんな自分の方が優位に立っている相手に一泡を吹かせようと服に手を入れようとした瞬間に──。

 

 

『!?』

 

「舐めんなッ!!おりゃあっ!!」

 

『うぐぅわァッ──』

 

 

 綺麗に決まった一本背負い。

 伸ばしてきた手に掴み、腰を回して吹き飛ばす。咄嗟のことに受け身を取ることができず頭から落ちてしまう。

 

 

『あが、が、が……ッ!!』

 

 

 ぐわんぐわんと揺れる頭。

 『よくもやりやがったな、この女』などと恨み言を吐き散らしてやりたかったが、それよりも先に出た言葉は

 

 

『ガガガ、ガ、ガ、ぁあぜ動けぅ!?』

 

「そんなの……貴方が『ひだる神』だからですよ」

 

『何を言ってる…っ!?』

 

「ひだる神。昔、私の一番偉い上司から聞いた特徴とあなたがそっくりでしてね。当たってるでしょう?」

 

 

 ひだる神は答えなかったが、その反応から“やっぱりな”と確信する。人が他人を知らないように妖怪同士でも相手が分からない事は勿論ある。だがひだる神はかなりの有名妖怪。それに山に住む者、特に知識人である天狗といった存在ならば山道で人に取り憑いて空腹させるのは『ひだる神』という妖怪の仕業であることくらいは知っていた。

 

 

「対処法は知っています。もし取り憑かれた時は、草でもなんでも良いから何か食べるか、()()()()()()()()()()()()()()()()()。この二つだとね。私がやったのは勿論後者ですが」

 

『この小娘…!!』

 

 

──シャン…

 

 

『何をしている。三郎(さぶろう)

 

『一郎・・・っ』

 

「もう1人いたんだ」

 

 

 シャンと金属がぶつかり合う音がこの場所に響いた。2人が向いた先には錫杖を握るもう一体のひだる神が立っていた。三郎と呼ばれたひだる神は気まずそうにして俯く。どうやら錫杖を持つ一郎と呼ばれるひだる神こそがリーダーのようである。

 

 

『姿が見えないと思ったら、貴様は何をしているのだ。まさか……その少女に手を出そうとしたのではあるまいな』

 

『ちが──…っ、こ、この女が我々の計画の邪魔をしようとしていて…』

 

『本当か?』

 

 

 一郎は文を見た。

 どうやら会話の通じる相手であると感じた文は別に戦う必要が無いので戦闘態勢を解いて、素直に話す。

 

 

「私はただ今回の異変を記事にしようと調べていただけで、邪魔するつもりなんてありません。この人の勘違いです」

 

『見え透いた嘘を──』

 

『黙れ』

 

『……ッ』

 

 

 一郎は文へと近づいてきた。

 多少は警戒していたが、敵意は感じられなかった。段々と近づくにつれて死体のような香りが鼻につくが気にしてられないほどの威圧感に、確かにこれは黙ってしまうなと心の中で思いながら、緊張で文はゴクリと唾を飲む。

 

 

『記者だと言ったな』

 

「は、はい」

 

『ならば、その取材をして貰おうではないか』

 

「──え?」

 

 

 まさかの快諾に言葉が詰まり、文はポロッと疑問の言葉のみを発してしまう。絶対に断られるか、もう1人と共闘して自分を潰してくるのかと思っていたので完全に不意をつかれてしまった。

 

 

『我々は“ひだる神”。この里で起きている空腹異変は……全て我らとねずみ男が引き起こしたものだ』

 

『い、一郎…?何言ってんだ、お前?』

 

 

 三郎の疑問は最もだ。

 ねずみ男に“バレたら巫女が来て消されてしまう”と言われたのに、自分からバラしてしまったのだから。だが一郎は三郎とは違い、どこか憑き物が落ちて軽くなったような様子であった。

 

 

『・・・ねずみ男と組み、里の人間達を空腹にさせていた時に気付いたのだ。子どもまで空腹にさせるのは違う、とな」

 

『ま、待てよ。ちょっと待てって!何言ってんだよっ、おい!?……人間の時を忘れたのかよっ。俺たちは飢え死にしたんだぞ。…コイツらを空腹にさせて反省させなきゃ……妖怪になった意味ねえだろう!!』

 

『初めはそうだった」

 

『じ、次郎…っ?!』

 

「まだ居たんだ……」ボソッ

 

 

 新たな3人目。

 どうやらこれで全員揃ったようだ。3人組のひだる神とねずみ男が共謀し、里全体に空腹異変を起こしていたのだ。

 

 

「だがな、一郎と私は気づいたんだ。我々のやっている行為は“八つ当たり”だとな。自分たちが飢え死にしたから、今食べ物に困っていない人間達をみて嫉妬しているだけだ」

 

『次郎まで・・・っ!!うわあああああああーー……』

 

 

 三郎は変わってしまった2人に耐えきれず何処かに走って行く。この場に残った2人は文の方を向いた。

 

 

「我らの言葉を全て記事にしてくれ」

 

「そして人間達に飢餓の恐ろしさと食べるものがあることの感謝を伝えてくれ」

 

「わ、分かりました…」

 

 

 文が記事を書きに去って行く。

 2人のひだる神は顔を見合わせてゆっくりと頷くと、里全体に広がっていた力を解いた。異常な空腹感は消し去り、全員が飢餓から解放される。

 

 

「これで良かったんだよな」

 

「良かったさ」

 

「・・・」

 

「恨み続けてやる……って心に決めた筈なのに。今は子ども達がしっかりと飯を食えている事を知れたらさ。怒りがだんだんと薄れてきた」

 

「飯を残す奴がこんなに多い事も知れたがな……。まぁ、そのくらい食べ物があるってわけだ。良い時代になって良かったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 山の中に三郎がいた。

 木の株に座り、膝を抱き抱えた状態で座っていた。あの2人と違って未だに消えぬ怒りの炎に燃えながら、変わってしまった2人のことを思い涙を流す。

 

 

『ふざけんなよ…っ、ふざけんなっ。許せるわけがねえ』

 

 

 命を繋ぐ食事という行為。

 それが出来ない苦しみを知っていた。だからこそ平気で食べ物を捨てたり残したりする現代の人間達が許せない。

 

 

『でもアイツらがいなきゃ……俺には…っ』

 

「お困りのようだな」

 

『──!?』

 

 

 顔を上げれば、見知らぬ老人。

 しかしただの老人、いや、人間じゃないことだけは一目見て分かった。異様に発達した頭部と美しい着物が何故か不気味さを出している。

 

 

『き、貴様は・・・』

 

「なぁ〜に、儂の事など知らんで結構。それよりもコレを授けに来たのだ。受け取れ」

 

『これは?』

 

 

 渡されたのは緑色に曇ったガラス玉。

 手のひらの上に置いた瞬間にじんわりと温かみが広がっていく。まるで命そのものに触れているような感覚だった。

 

 

「これは貴様に()()()()()()()()魔法の玉。ここぞという時に飲み込むと良い。お前の望むものを与えよう。ハハハ!」

 

『・・・』

 

 

 そう笑うと最後に老人は言った。

 

 

「元気を出せ!!今の人間たちはいつでも食べられる食事に感謝なんかしない。だがな、それを思い出させるのは正しい心を持つお前だけなんだ」

 

『・・・!!』

 

「だが、良い事をしようとすると必ず障害が現れる。それでもな……諦めなければ乗り越えられると儂は信じておる。ひだる神の三郎よ…。お前が幻想郷を変えるのだ・・・!」

 

 

 老人の言葉に元気が湧いてくる。

 不思議な玉をギュッと手のひらで握りしめてお礼を言おうと老人の方を見た。

 

 

『俺がこの世界を変え、る……ってあれ!?居ない!?』

 

 

 しかしどこにも居なかった。

 お礼は諦めて、三郎は立ち上がる。幻想郷に住む生きとし生けるもの全てに食べ物のない苦しみと大切さを教えるために。

 

 

『それにしても何で俺の名前、知ってたんだろ・・・?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

 今回のゲスト妖怪は『ひだる神』でした。
 ですが、まだまだ続きます。
 
 次回、ただ1人で暴走を始めたひだる神の三郎。彼が幻想郷に齎すのは希望か絶望か・・・。ことの顛末を知る謎の玉は鈍く光っているのだった。






 
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