ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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 どうもっす、狸狐です。
 大きな仕事がほとんど片付いて、やっと小説の方に集中できます。ペースを上げて投稿していければなと思います。

 話は変わりますが、皆さんは漫画ワンピースはお好きでしょうか?私はとても好きなのですが、その中でも特に好きなのはモリア様です。ペローナを育てた優しい一面もありつつ、クマに対して物怖じしない所も好き。能力も好きで、どう考えてもソルソルやホビホビなんかよりも強い。

 そんな彼が最近漫画に出ないのでとても悲しいな、と思う私でした。







──────────────



「おい、マジかよ」

「なんかおかしいと思ったんだ。俺は」

「騙しやがったんだな!?」


 新聞を握りしめて叫ぶ人間たち。
 ねずみ男の家へと向かう怒り狂う人々の中を反対方向に進む1人の亡者のような男。ふらりふらりとした足取りであてもなくただ歩いているだけだった。


『・・・ぁ』


 裏路地に入るとゴミ箱があった。蓋が開いており、中を覗けばおせち料理が捨てられていた。そしてまた新たに目の前で食べ物が捨てられていく。食べ切れないから、少し傷んだから、見た目が整っていないからという理由で人々は捨てていき汚い言葉を吐き捨てる。


「“食べ物を大切にしてほしいと願うひだる神の叫び”ぃ〜?いひひひぃっ、誰が妖怪の言葉なんか聞くかよ」

「妖怪はな、人間を食うんだぜ。敵の言葉なんか聞く気ねえっての」

「勿体無い勿体無いって、妖怪のくせに偉そうにな」ギャハハ


 拳をギュッと握る。
 憎しみと怒りが全身に巡っていくのを感じた。それと同時に、やはり一郎と次郎のやり方では何の意味もない事を理解した。


『言葉で心に訴えかけるなんて無理に決まってるだろうが・・・っ。今の人間たちは感謝なんかしないのだからな・・・!!』


 三郎はゆらりと動き、1人の人間の背中に取り憑いた。ひだる神は基本的に幽霊に近い妖怪であるため姿を自由に消す事ができる。取り憑かれた人間は訳がわからないまま空腹に陥った。
 

「な、何で、また腹が・・・」

『ひだるい、ひもじい、ひだるい、ひもじい……』

「ひぃいいいっ!?何だお前ぇっ」

『粛清だ』

「──ぇ」


 どぷん、と飲み込まれるような感覚。泥の中に無理やり頭を突っ込まれて呼吸をしようと踠けばもがく程這い出ることはできない深い深い絶望に沈んでいく。


『我と同じ苦しみを味わい続けろ』


『同じ“ひだる神”になってなあ……!!』
















新年◻︎◻︎大騒動②

 

 江戸時代中期。

 当時日本全国の人々は飢餓に苦しんでいた。大規模な土地開発や冷害により食べ物は何も取られず備蓄も尽き、最悪なことに死人の肉を食らうという禁忌さえも行った。

 

 

「何か…、何か食べ物を……っ」

 

 

 竹藪の中で1人の男が食べ物を漁っていた。

 手付かずの竹藪ならば何かがあるかも知れないと回らない頭を必死に動かして歩き回る。無数に生える竹には歯形が残っており、力が無いので噛みきれずにいた証が残っていた。ならば筍ならあるかもと時期では無いのに必死に地面を探ってはいるのだが当然何も出てこない。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ、・・・あっ」

 

 

 そんな時だ。

 仏が微笑んでくれたのであろうか。近くに馬がいた。馬の上には自分たちとは正反対の高貴で上品、ふっくらとした男女が騎乗しており、何故か竹藪を散策しているようだった。

 

 

「ねぇ、本当にここなの?」

 

「ああ。この時期はな、極たまに竹の中に竹水っていう美味い酒が湧く事があるんだ。片っ端から切りまくって俺らで飲んじゃおうぜ」

 

「ふーん。けど私は切らないからね。斧なんて重いの持ちたくないわ」

 

「分かってるよ」

 

 

 耳を澄まして男女の会話を盗み聞く。

 だが興味は惹かれなかった。確かに酒なんて飲んでみたいが、それよりもあの肉付きの良い馬が欲しかった。だからふらつく足に力を込めて、その2人の元へと歩いていった。

 

 

「あの……」

 

 

 そう声をかけた。

 反応した2人は声の主を見て、一気に嫌な顔をする。特に女性の方は着ている服で鼻や口元を覆うくらいであった。しかし男は嫌な顔をされているのは分かっているがグッと堪えて、土下座の姿勢を取った。身分が低いのだから我慢するしかない。

 

 

「何だ・・・」

 

「わ、私はそこの村のもんです。い、今、村は大変な飢饉でして…っ、親が我が子を食う始末です」

 

「で?」

 

「後生ですっ、その馬を頂けないでしょうか!?人が人を食うなんてあっちゃならねえんです!どうかっ、どうか食べ物を恵んでくださいっ」

 

 

 必死に頼む男。

 武士か役人かは分からないが、とにかく目の前の男は大きなため息をついた。相手にも聞こえるように嫌味たっぷりに。

 

 

「貴様、馬鹿か」

 

「・・・え?」

 

「卑しいやつめ。農民のくせに馬が欲しいだと?無理に決まっておろう!この馬は貴様よりも価値があるのだ!それに農民なら畑を耕せ、田を植えろ!さっさと年貢を納めろっ!我らと違って下級のくせに偉そうに物を頼むでないわ」

 

 

 後ろでは女がケラケラと愉快そうに笑う。

 

 

「食べ物が無いならもっと犬を食えば良かろうが。役に立たん子どもも減らせるし子どもも食え」

 

「まっこと農民とは……卑しいのぉ」

 

「違いない」

 

「そうじゃ。そんなに腹が減っているなら……ほれ、菓子じゃ。拾って食うがいい」

 

 

 女が愉快そうに笑ってから、包みの中のお菓子を地面に捨てた。そして遂に、早く拾え、犬や子どもでも食っていろと言われ続けた男の中の何かが切れた。

 

 

 

「うわああああああ───」

 

 

 

 気づいた時には目の前で女が死んでいた。

 火事場の馬鹿力というものが発揮したのかは不明だが、どうやらめちゃくちゃに大暴れしたらしい。男と馬の姿は無いので逃げ出したようだが、女は殺してしまったのだろうと我に帰った時に察した。

 

 

「お、俺は…、なんて事を…っ」

 

 

 逃げようか、死体を隠そうか等、色々と悩んでいる時に下の死体に触れてしまった。死んだばかりでまだ温かく、自分たちと違って柔らかかった。その手の中に溢れる肉、肉、肉肉肉・・・。

 

 

「はぐっ、ぐっ、あむ……っ」

 

「お、おいっ、三郎、何をしてるんだ」

 

「うぐぅ……っ!?」

 

 

 自分の名前を呼ぶ声に手を止めた。途端に自分自身から漂う血生臭に吐き気を催し、咥えていた臓物を吐き出す。自分が何をしていたのかを知り、恐怖に震えた。

 

 

「お前…、まさか…」

 

「やりやがった…」

 

「ちがっ、違う!俺はただ腹が減って…、そしたらこの女が……っ!!」

 

 

 軽蔑の目。怒りの目。

 それらに晒されて情けない悲鳴のような声を出してしまう。そして仲間たちが自分の代わりに涙を流しているのを見て、三郎はなんて事をしてしまったんだ、仲間を裏切ってしまったなどという気持ちになりググッと唇を噛み締める。

 

 

(・・・もう、俺はお前らの隣を歩けねえ)

 

 

 そして、それと同時に何故か目の前の2人に対して、『軽蔑』という感情がむくむくと湧き上がってきた。

 

 

(もういいや。どうせお前らの怒りなんて口だけだ。昔から正義感溢れるお前らが復讐なんかできっこねえ。バカ真面目に人の道を進んで野垂れ死ねば良いのさ)

 

(でもな。俺はお前らと違う。例え人の道から逸れようとも……生き延びてやる…。生き延びてっ、生き延びて生き延びて……こんな地獄を作ったボンボンや幕府共に復讐してやる……!!)

 

 

 

 殺人に、食人。禁忌を犯したせいで三郎の価値観は変わった。この世には優しさや正義だけでは生きてはいけない事を学んだ。

 

 怒りと憎しみだけがこの世を変えるのだと知った。

 

 

 だが三郎が1番初めに死んだ。

 食人のせいで感染症等に侵されたのが原因である。そして後を追うように2人は餓死。

 

 

『この恨み 晴らさでおくべきか』

 

 

 それぞれ考え方は違えど怒りは本物。それが力を与えて、3人を『ひだる神』へと変えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

※※

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 まさかのまさかで射命丸文が爆発的に売れた。『空腹になる異変の背景・蠢く闇の正体』という目を引くその文章に人々は数百円を握りしめて買い求めた。

 そして全てを人々は知った。この異変の背後には『ねずみ男』が関わっている事を。内部告発により、ひだる神という妖怪たちを使ってねずみ男が雑草を一万円で売りつけていた事を。

 

 

 

──ブ〜ッ

 

 

 

「んーっ!……ふわぁ〜。屁で目覚めるとは俺様らしいぜ。でも、……くんくん…この匂いは誰かが悪い噂をしてる気がするな…」

 

 

 散々儲けた金は昨日の夜にほとんど消えてしまった。彼は高級飲食店にスーツを着て乗り込み片っ端から食べまくり、更には酒や女にも注ぎ込んだ。まさに酒池肉林の宴をしていたのだ。

 

 

「ねずみ男〜」

 

 

 外から猫撫で声がした。

 ねずみ男はギョギョッと立ち上がる。

 

 

「い、嫌な予感が・・・」

 

 

 ドキドキと鼓動する心臓を押さえつけながら、ゆっくりと戸を開けた。家の前には妹紅を筆頭に、里の人間たちが顔を真っ赤にして仁王立ちしているのが見えた。

 

 

「やっぱりぃ〜〜ッ!!」

 

「おはよ。ねずみ男」

 

「お、おはよござんす…、妹紅さんに里の皆様ぁ…、あは、あはは…っ。朝っぱらから怖い顔してどうしたのかしらん?」

 

「これ、読んだよ」

 

 

 そう言って渡される新聞。

 そこには──。

 

 

「な、内部告発だとぉ〜っ!!まさかアイツら裏切ったのか〜〜〜っ!!・・・アッ」

 

 

 急いで口を噤む。

 しかしもう遅かった。笑顔を張り付けたような顔をした妹紅はねずみ男の肩を掴む。

 

 

「よくも詐欺()ってくれたな。・・・あ"あっ!!」

 

 

 途端に発火。

 一瞬にしてねずみ男は焦げネズミになり、ケホっと黒い煙を口から出す。

 

 

「騙した金を返して貰おうか・・・。全員にな」

 

「あ、えと、それはその」

 

「まさかお前、返せないっていうわけじゃねえだろうな」

 

「は、はは、そのまさか……って言ったら?」ガタガタ

 

「うふふふ。殺す」

 

「それだけは嫌ぁぁぁ〜〜〜ッ!!」

 

 

 ねずみ男は泣き叫ぶと同時に妹紅の方にケツを向けた。焦げた尻を目前にして妹紅の頭にはハテナが浮かぶ。後ろの人々はもっとハテナだ。何を血迷ったのかは知らないが、それにしても何故尻を。

 

 

「俺はまだ死にたくない。喰らえッ、最後っ屁ェェ〜〜ッ!!」

 

「!?」

 

 

 

──ブババババババババァァァーーーッ!!

 

 

 

 ねずみ男から放たれた猛毒のガス。

 最近ガス抜きをしていなかったのに加えて、昨日の暴飲暴食により腸に溜まりに溜まった最悪臭のガスが狭き門から噴出した。

 

 

「──ぴぇっ」

 

 

 それを誰よりも真正面から受け止めた妹紅。訳の分からない悲鳴を小さく上げて膝をつく。臭気というのは色々あるが余りにも臭くなると刺激へと変換される。妹紅は白目を剥き、泡を吹き、全身の穴という穴から涙のような液体を出して倒れてしまった。後ろの人々も同様で倒れたり、泣き出したり、逃げ出してしまう姿も確認できた。

 

 

(今のうちだ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「へぇっ、へえっ、はあっ、はあっ!!」

 

 

 ねずみ男は里を出た。

 寒さも凌げて、自分の悪い事を知っていない人物……博麗霊夢のいる博麗神社へと急いで向かって行った。

 

 

「ふぃーっ、ここまで来れば大丈夫だろ。あとは、ほとぼりが覚めるまで霊夢ちゃんに匿って貰えばいいや」

 

「あら、ねずみ男じゃな──くさっ!?何っ、今日のアンタ、いつも以上に臭くない!?」

 

「開口一番ひどいヨ。俺はな霊夢に会いたかったってのに」

 

「奇遇ね。私もよ」

 

「本当か!?いやーやっぱり俺らって運命の赤い糸・・・って冗談は置いといて、実はよぉ、ちょいとお願いがあって……」

 

 

 鼻をつまむ霊夢に挨拶をするねずみ男。

 誰かに媚びるときのように甘ったれた声を出して擦り寄ろうとした時、境内に見覚えのある人影が見えた。あれは魔理沙と……ほっかむりを被った貧しい姿をした2人の姿が見えた。しかも縄で縛られて、正座させられている。

 

 

「あれ…、ひだる神ぃっ!?」

 

 

 ねずみ男の声に2人のひだる神が反応した。

 霊夢は腕を組みながら答える。

 

 

「そうよ。捕まえたの」

 

「捕まえた!?何で!」

 

「今朝から里のお偉いさん方がやってきてね。空腹にさせて高い金で雑草を売りつけられた〜って泣いて言われたから。幻想郷を守る巫女として使命を果たしたのよ」

 

「──ったく、調子が良いぜ」ケラケラ

 

 

 魔理沙が笑いながらやってくる。

 

 

「いひひっ、カッコつけんなよ。礼金貰ったからだろう」

 

「うっさい」

 

「あーーー!私に任せてくれたら無償でやってたのにぃ!私が捕まえたかったぜ〜」

 

「戦闘狂だもんね。あんた」

 

「ふん、グータラよりはマシだもんねぇ。・・・あっ、違う。喧嘩しようと思ったんじゃなくて!ねずみ男!」

 

「なんすか…」

 

「お前本当にいいタイミングだったぜ」

 

 

 魔理沙は階段の方へと歩く。霊夢は側から離れない。出入り口である階段を封鎖され、近くには職質中の警察官みたいに離れる気のない霊夢がいて逃げられない環境がいつの間にか形成されていた。

 

 

「なーんか嫌な予感……」

 

「実は、アンタも捕まえようと思ってたのよ。捕まえに行く手間が省けて良かったわ」

 

「やっぱりぃぃぃ…!」

 

「今回の件、首謀者はアンタなんでしょ。ひだる神(コイツら)から全部聞いたわよ」

 

「ち、違うんだよっ!目の前で困っていたから何とかしてあげたかったくてよ」

 

「問答無用ッッ!!」

 

 

 そう言って、霊夢は新聞でねずみ男の頭をパコンと叩く。どうやら全てバレているのだと察した。直ぐにここからも逃げ出そうとするがあっという間に髭を掴まれてしまう。

 

 

「あだだだだっ!?」

 

「人里で異変紛いの事したのは!とっくに!バレてんのよ!!」

 

「ごべんばざぁ〜っ!!」

 

「何度やったら気が済むのよ!面倒くさいことを増やすなっ!このーーっ!」

 

 

 いつもよりも激しめにねずみ男の髭を引っ張っており、顔が半分伸びてしまっていた。見かねた魔理沙が間に入る。

 

 

「おいおい。落ち着けよ、霊夢」

 

「魔理沙…。ふん、コイツが悪いのよ、コイツが」イライラ

 

「あひぃ、俺の顔どうなってふ?」

 

「半分垂れてるぜ」

 

「しょんなあ〜。とほほ、折角の美形が・・・」

 

「まぁ初めから悪いことしなきゃ良かったんだぜ。おっ、そろそろ始まりそうだな」

 

 

 霊夢はお祓い棒を家の中から持ってきて正座するひだる神の前に移動する。どうやらお仕置きが始まるようなこで、魔理沙がねずみ男をロープでぐるぐる巻きにして完全に逃げられないようにしてから連れていく。

 

 

「ま、待て待て、何する気だよ!?その棒でェェ!」

 

「何って……叩くのよ。お尻を。ほら、さっさと向けなさい」

 

「始まるぜ。地獄の尻叩きが…。悪戯した後、いっつもチルノがやられてたな〜」

 

 

 抵抗しようとすればするほど縛りはキツくなり、魔理沙の方からも力を加えられたせいで動けなくなってしまう。

 

 

「俺たちは悪くねえんだよ!!」

 

「往生際の悪いやつね」

 

「全部里の人間達が悪いじゃねえかよ!平気で食べ物は残すし捨てる!食べ切れないくせに沢山頼む奴だっている!俺たちはそんな社会にメスを入れようとよぉ〜!」

 

「・・・事件を起こして反省を促そうとした、とか言いたいんでしょ」

 

 

 図星な顔を見てハァと大きな溜息。まるで物語を語ろうとしたら結末を知っていたような反応だ。別に驚くこともなければ感動する事もない。心底つまらなそうだった。

 

 

「馬鹿ね。世の中、そんな事で変われるんなら苦労しないっての」

 

「そうはっきり言うなよなあ」

 

「まぁ……私もさ、お金ない時の方が多いから雑草食べるとかで飢えを凌ぐ事があるわよ。そういうの経験してるから無駄にする奴見ると腹が立つし、良いものを食べてるのを見ると嫉妬もする。だからひだる神達(コイツら)の動機は“同情”できる」

 

「なら…」

 

「でも“理解”はできないでしょ。餓死した事ないんだから。・・・餓死したことある奴と無い奴じゃあ価値観が違うのは当たり前。そこで価値観を押し付けたとしても理解は出来ないわ」

 

 

 昔から価値観の違いで争いはよく起きていた。特に人間と妖怪の争いは価値観や考え方、自然と共に生きるものと自然を壊して生きるもので起こり続けている。今回もそうだ。【空腹の恐ろしさを知る妖怪】と【食べ物に困らない人間達】では根本的に考え方が違うに決まっている。そんな中で無理やり食べ物を奪うような事をしたところで理解してもらえるはずがない。

 

 

「んな正論言われても……」チラリ

 

 

 ねずみ男が2人の方を見る。ひだる神達は頷いていた。霊夢はそれを見てやれやれ、というふうに力なく笑った。

 

 

「あの2人は分かってるようね。だから告発したんじゃない?」

 

「勝手に改心すんなよォ」

 

 

 リーダーがねずみ男に頭を下げる。

 

 

「ねずみ男よ、すまぬ」

 

「じゃあお互い納得したという事で、巫女としての役目を果たしますか。3人ともお尻向けてね」

 

「結局やられるのかよぉ〜・・・ん!?」

 

 

 霊夢がお仕置きの準備を始めた。野球の選手が球を打つときのような構えをして、お祓い棒でベチンとやろうとした時、空から落ちてくる物体のせいで中断される事となる。

 

 

「大変だァーーーッ!!霊夢ぅーー!」

 

 

 空からロケットのようにものすごい勢いでで神社に飛び込んできたのは、チルノだった。そして軌道がずれて石畳ではなく地面に直撃したが勢いは消える事なくズボッと頭が埋まってしまう。

 

 

「もがもがもが〜〜っ」

 

「・・・何やってんのよ。こっちは仕事中だったのよ」

 

 

 埋まるチルノを引っ張り上げる。

 プハっと息を吐いて、ペッペッと口の中の土を吐き出す。

 

 

「うへぇ、ジャリジャリするぅ……ってこんな事してる場合じゃなかった!霊夢、大変なんだよ〜」

 

「分かったから落ち着きなさい。何があったのよ」

 

「里の皆んなが…ッ!()()()()()()()()んだよ〜ッ!」

 

「・・・?」

 

「あー、チルノ?何言ってるか分からないぜ?」

 

 

 直ぐに助け舟を出す魔理沙。

 チルノは何で通じないのと怒るが、頑張ってもう一度説明しようとした。

 

 

「だから〜!里の皆んなが、えーとこー…変な姿……あっ!」

 

 

 チルノはひだる神達に気づく。

 2人を指さしながら言った。

 

 

「そこにいる2人と同じ姿に変わっていってるんだよ!慧音先生が皆んなを避難させてて、サイキョーのアタイでもどーにもできないから霊夢を呼びにきたってわけなの」

 

「里の皆んなが・・・」

 

「ひだる神に!?腹を空かせるだけの能力じゃなかったのか!?」

 

 

 それを聞いて、2人は立ち上がる。

 直ぐに誰がそんな事をしたのか察したからだ。

 

 

「三郎だ!!三郎が『粛清』を始めたんだ・・・っ」

 

「粛清って俺にやろうとしてたやつか?効かなかったけどな」

 

「粛清……食べ物を粗末にした人間を……ひだる神に変えて永遠の空腹を与える罰の事だ」

 

 

 

 

 【ひだる神

 

 山の中に現れる妖怪である。食べ物が無く、餓死した人間の怨念が死後に妖怪化したもので基本的に集団で移動する。取り憑かれれば、どんな人間でも空腹と疲労に襲われ、そのままにしておくと死んでしまう。だが直ぐに何か食べたり、手のひらに「米」という字を書いて舐めれば助かる。

 

 ひだる神自身も元は餓死した人間であるため、妖怪になった今も常に空腹感に襲われており、何も食す事ができない。だからこそ食べ物を食べられる人間達をとてつもなく恨んでいる。その恨みの力は底知れず人だけでは無く牛や馬といった動物にも取り憑く事ができる。

 

 そして、更に【ひだる神】には恐るべき能力が隠されていた。

 

 

 それは──【粛清(ゾウショク)

 食べ物を粗末にした人間にのみ使用可能の能力である。この能力を使うと、その人間は“ひだる神”となり永遠の飢餓に襲われる。ひだる神になれば生きている人間を恨むようになるので平気で人間を襲い、その人間もまた該当者ならば“ひだる神”になってしまう。このように、どんどん数が増えていく恐ろしい力なのである。

 

 

 

 

「・・・元に戻す方法は三郎本体を見つけて倒す事だ」

 

「なら話が早いわね」

 

「こうしちゃいられねえな!私も行くぜ」

 

「俺は待ってるぜー。行ってらぁ〜」

 

「いや、お前も来い。粛清って奴が効かねえなら役に立つかもしれないぜ」

 

 

 ねずみ男は逃げようとするが、魔理沙に頭をガシッと掴まれる。バタバタと暴れるがそのまま空に連れていかれる。そのはちゃめちゃな高さに暴れ続けていたら落ちてしまうと思い、抵抗を止める。

 

 

「何で俺が〜〜〜・・・」

 

 

 残されたひだる神達は立ち上がる。

 何とか縄を解くとリーダーは錫杖を拾い、二郎はほっかむりを強く結び直す。

 

 

「我々も行こう!」

 

「三郎を止めなければ!」

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

『だるい、ひだるい、ひもじい…』

 

「こりゃあひでえな」

 

 

 上空から見る里の姿は一変していた。

 亡者のようにひだる神たちが彷徨っており、ひもじい等の言葉が地獄の底から響き渡っているようだった。普通の人間を見つければ数十人で追い詰めて無理やりにでも仲間へと変えていき、見ている間にもどんどん数が増えていく。このままでは里の人間たちは消えてしまうだろう。

 

 

「こ、この中に本体が?」

 

「全員が同じ見た目じゃあ……見分けられる訳がねえよ」

 

 

 霊夢たちは気づかれないように裏路地に降りる。物陰から様子を伺うが誰も気づいている様子はなかった。無策に挑んだところで意味はない。直ぐに作戦を立てた。魔理沙が慧音に助力し、霊夢とねずみ男の食べ物を無駄にしないコンビが本体を探す事を提案すると、魔理沙は任せてくれと言わんばかりに胸を叩く。

 

 

「よっしゃ!チルノ、案内してくれ」

 

「分かった!」

 

「ねずみ男、私達も行くわよ」

 

「トホホ。何で俺が〜」

 

 

 魔理沙達が上空から向かった先にはバリケードが設置されていた。慧音と妹紅が生き残った人々を守るように率先して前に出て、バリケードを壊そうとするひだる神達を蹴散らしていた。

 

 

「おーい!2人ともー!」

 

「魔理沙か!チルノ、呼んできてくれたんだな!」

 

「霊夢は?」

 

「本体を探しに行ったよ…っと!!」

 

 

 魔理沙は箒から降りて、帽子の中から八卦炉を取り出す。そして襲ってきたひだる神にレーザーを直撃させて吹き飛ばす。だが特に聞いている様子は無く、ゆっくりと立ち上がって再び向かってくる。

 

 

「何だ?効いてないのかよ」

 

「何度も攻撃してるんだが止まらねえッ!!おらっ!!」

 

 

 妹紅の連撃。一斉に飛びかかるひだる神達の首、腹、顎と急所を連打。仕舞いには火炎の海で飲み込むのだが、鈍い声と共に倒れて、“ひだるい、ひもじい”と声を上げて起き上がってくる。

 

 

『ひもじい・・・、ひだるい・・・!!』

 

 

 勿論、痛覚が無いわけじゃない。とても痛い、苦しいのだ。だがそれ以上に空腹の方が辛いので耐えられる。これがひだる神達の体質でもある。だから起き上がれる。何度も何度も起き上がれる。

 

 

「こっの!・・・ハァ、ハァ。それで“本体”というのは!?」

 

「ああ。コイツらはひだる神の能力で妖怪化してるんだよ。何処かにいる本体のひだる神を倒せれば、皆んな元に戻れるみたいでさ!!──このッ!」

 

「持久戦というわけか。承知した!」

 

「私たちだけで持つかねェ……」

 

「やらなければ幻想郷が終わるぞ。妹紅、気合い入れろよ!」

 

「わーってるよォォーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひだる神達の群れの中を駆けていく2人。霊夢とねずみ男は食べ物を無駄にしたことがないので狙われない。増殖体達の目的は粗末にした奴だけのようである。

 

 

「違う…」

 

 

 一人ひとりの顔を見てみると生気のない顔がほっかむろの中にあった。里の人間達である。それとはまた別で、本体は一郎や二郎同様に顔が陰で見えないのでそこで判断しなければならないのだが、いかんせん数が多すぎる。

 

 

「ハァ…ッ、ハァ…ッ。だめ、俺もう歩けない」

 

「くっそ…。見分けもつかない」

 

「もしかして同じ奴を見てるんじゃねえかア!?」

 

「かもね…」

 

 

 そんな時だ。増殖ひだる神の群れの流れに逆らって、2人のひだる神が霊夢たちの方へと向かってきた。他の有象無象とは明らかに見た目と雰囲気が違っていた。錫杖も持っているので神社に置いてきた奴らであると直ぐに分かる。

 

 

「我々にも協力させてくれ」

 

「仲間を売るってこと…?」

 

「違う。我々の気持ちを無理やり押し付け、迷惑をかけた責任を取りたいのだ。兄弟の暴走を止めたいのだ。我らは元より三位一体の妖怪。三郎の位置なら感覚で掴める。迷惑をかけた分、力になりたい」

 

「そういうのは早く言えよなぁ…。骨折り損だよ……」

 

『──いいよ。探さなくて』

 

 

 ガラリと近くの戸が開いた。三郎だ。バレないように、捕まらないように、見つからないようにずっと近くの家の中に隠れていたのだ。自分自身が潰されたら、全てが元に戻ってしまうからだろう。

 

 しかし、それを知っていて隠れていた本体がしっかりと顔を見せてきた事に霊夢は謎の不気味さを感じる。

 

 

『お前らが出るんじゃあ隠れてても意味ねえじゃん』

 

「三郎!」

 

『よお、兄弟。昨日ぶりだな』

 

 

 昨日の様子とは、まるきり違う。

 霞が晴れたかのようなスッキリとした表情だ。

 

 

『どうだい…、この俺の復讐を!!ねずみ男の知恵なんか借りなくても余裕だったぜ。一人ひとり餓死させるよりも、こうやってよォッ!』

 

 

 近くにいた増殖ひだる神を蹴り上げる。転び倒れるが、またゆっくりと起き上がり、他の仲間達と同様に生者たちの方へと向かって行った。その機械のような姿にゲラゲラと笑う。

 

 

『こうしちまえば良かったんだよ!最初から恵まれている事に感謝もしねえ奴らには飯を食う資格なんてねえもんなアッ。これこそが俺の求めた理想の世界だ!平等な世界だ!!アハハハハッ』

 

 

 ひだる神は飲食ができない性質を持つ。つまり人間たちがひだる神になってしまえば、食べ物が作られることもなく捨てられることもない。全員が何も食べれずに苦しみ続けるこの世界こそ三郎が夢にまで見た『平等な世界』なのだ。

 

 

「三郎。頼む、やめてくれ。こんなやり方じゃあ何も解決しない…!」

 

『分かったようなこと言ってんじゃねえぞ。……人肉の味も知らねえくせに。全員がお前らみたいに清く生きられるわけじゃねえんだ』

 

 

 俯く三郎。

 彼は懐から謎の緑色の球を取り出した。曇り濁った緑色の玉の中からは無数の人の顔のような模様が浮かび上がっており、この世の物とは思えない程に禍々しかった。

 

 

『何があっても生きてやりたい。生き残りたい。死にたくない。そう思いながら死んだ俺の恨みを・・・晴らしてやるよ』

 

 

 玉を口元へ運び、ゆっくりと飲み込んだ。

 食べ物や飲み物は受け付けないが、それ以外なら大丈夫という理由なのかは不明だが、しっかりと喉を通り胃の中に落ちていくのは確認できた。

 

 

『んぐ……っ、ん、うぐぅ…っ』

 

 

 ドクン。

 心臓が大きく鼓動した。

 

 

『あ、ああ、ぁぁぁぁ………ッ』

 

 

 全身が燃えるような感覚に襲われる。予想外の激痛と苦しみに立ってはいられず膝をついてしまう。全身が焼かれる、引き裂かれる、吐き気がする、頭痛がする、眩暈がする。それでも意識を失わずに耐えられたのは空腹の辛さを知っていたからであろう。

 

 

『アアアアアアアーーーーッ!!』

 

 

 禍々しい闇と邪気に包まれ、三郎の姿が地面の中に溶けていった。身体がいきなり水のように限界を保っていられずに崩れ出していき、最後には三郎の姿が完全に消えてしまった。

 

 

「何だ、あの野郎…。溶けちゃったぞ?・・・え!まさか、勝手に死んだのか!やったやったー!これで一件落着ぅぅ……う?」

 

 

 ねずみ男が喜んでいた束の間、ガタガタと大きくはあるが短めの地震が起きた。全員が困惑する中、霊夢が全員が立っている地面を指さして叫ぶ。

 

 

「地面から何か出てくる!全員空に飛ぶか、この場から早く離れなさい!」

 

「地面からって何を大袈裟な・・・げげげぇっっっ!?!?」

 

 

 ねずみ男が立っている地面から巨大な口が飛び出してきた。“飛び出してきた”、まるで3D映画を観ているように立体的で全員がその迫力に固まってしまう。

 

 

『ア"アアアァァァーーー』

 

「あぁぁらぁぁ〜〜〜……・・・」

 

 

 逃げもしないで驚き叫ぶねずみ男をそのまま口はバクンと飲み込む。ねずみ男が巨大な口に飲み込まれたと同時に、口だけでは無く顔面が飛び出してきた。実体のある顔面と違って、幽霊のように透けている身体が異様な雰囲気を出していた。

 

 

『んぐぅ……。もっど喰、ウ"ゥゥゥーーーッ!!!!』

 

 

 平屋建ての家が3つ程重なった位の大きさに、緑色の顔面、爛々と赤く光る目玉、鬼のような角、白髪を生やした巨大な妖怪が霊夢たちを見下ろしていた。

 

 

『いただきますゥッ』

 

 

 鬼は涎を垂らしながら一言そう言うと体が透けていった。目の前からいなくなり、全員に緊張感が走る。

 

 

「どこに行っ──」

 

 

 

──バクンッッ

 

 

 

 声を発した二郎の姿はどこにも無かった。

 その代わりに、巨大な鬼が現れて口をモグモグと動かしていた。

 

 

「二郎が喰われた…っ!?三郎ッ、貴様ァッ!!」

 

 

 一郎は飛ぶ。錫杖を振り上げて、鬼の顔面を叩こうとする。しかし鬼は笑い、タイミングよく口を大きく開けた。

 

 

『あむ"っ!』

 

「皆んな食べられた…!」

 

 

 一郎を飲み込むとペロリと舌なめずり。

 美味しそうな顔をしてから霊夢を見る。

 

 

「こいつ…」

 

『ヒヒヒ。今度はお前だ』

 

「舐めるな!──ぁッ!?」

 

 

 動けない。

 避難するために空を飛ぼうとしたが、足に細くて白い線のような何かが巻き付いている。

 

 

(これ、髪の毛…!?)

 

 

 鬼の白い髪の毛が植物のように地面から生えて、霊夢の身体に巻き付いていた。霊夢に気づかれないように一郎、二郎を食べながら髪の毛を地中へと伸ばしいたのだ。

 

 

『貰ったアッ!!』

 

 

 

 

──バクンッッ!!

 

 

 

 

『ングゥゥゥ…あれ…?ペッ…』

 

 

 口をモゴモゴと動かす畑怨霊。舌を動かして、口内を探るが何処にもあの女の肉の味はしない。とりあえず口の中にあったものを吐き出すが、それは自分の髪の毛だった。

 

 

「油断しすぎ。博麗の巫女の名が泣いてるわ」

 

「はぁ…はぁ……っ、分かってるわよ」

 

 

 次元が割れ、その隙間から紫と冷や汗をかいた霊夢が現れた。喰われてしまう瞬間に紫が髪の毛を切断し、能力である隙間を開いて救出したのだ。

 

 

「霊夢、あれは危険よ。集中しなきゃ勝てないわ」

 

「分かってるっての。それよりもアレは何」

 

「・・・【畑怨霊(はたおんりょう)】」

 

 

 

 【畑怨霊

 気候や情勢など色々あるが、凶作により発生した飢饉で()()()()()()()()の恨みや憎しみという怨念が地面に染み込み、その土地の地縛霊となった。その地縛霊が無念を晴らそうと怨霊へと変わり、その怨霊が更に長い年月をかけて妖怪と化した存在である。

 

 

 

「多くの人々の負の感情の集合体よ。直ぐにでも対処しないと、人間が全員食い殺されるわ。ここは私が──」

 

「ダメ」

 

 

 汗を拭いながら霊夢が止める。紫ならば一切の被害を出すことなく畑怨霊を3分で退治することができる。それを知っていて尚、霊夢は紫の手首を握り止めたのだ。

 

 

「この騒ぎを()()()()()()()()()()()()

 

「・・・そのようね」

 

 

 チラリと周りを見渡せば、姿は見えなくても視線と妖気をガンガンに感じた。人間達がいなくなれば『畏れ』が集められず自分たちの身が危ないと知って気になっているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。笑い声や野次が小さく耳に入ってくる。

 

 

「笑ってるの?この危機を」

 

「何でかは分からないけどね。全く状況分かってるのかしら。・・・まぁ、とにかく妖怪の顔役のアンタが妖怪(どうぞく)を殺したら印象が悪くなるわ。ここは私がやる」

 

「出来るの?」

 

「今度は油断しないわよ」

 

 

 そう言って、畑怨霊を見た。霊夢がいなくなって、探しているのか辺りのものを破壊していく。

 

 

『どこ行ったあぁぁぁーーー!!』

 

「こっちよ、頭でっかち!!」

 

『見つけだああっ!』

 

 

 飛んでいく霊夢。その後ろを畑怨霊は追って行った。畑怨霊は元々地面に染み付いた怨霊の集合体だ。霊夢のように飛べないので上空の霊夢を睨みつけながら追っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢なら何とかなるだろうと無言で見送るが、何かあった際には直ぐに自分が出向く事は覚悟する。なぜならば相手は異常なほどに大きい畑怨霊だからだ。これまでに別個体の畑怨霊を見たことはあるが、あそこまでは大きくない。

 

 

「誰かの仕業とか…?」

 

『気になるのか』

 

「──!?!?」

 

 

 一気に距離を取る。背後を取られるなんて何百年ぶりだろうか。冷や汗をかきながら自分の背後を確認した。そこには杖をつく1人の老人がいた。老人はその反応に満足そうにして、少し笑ってから言った。

 

 

『久しぶりだな。八雲紫』

 

ぬらりひょん・・・?」

 

 

 ここに居るはずのない男が立っていた。

 紫は距離を縮める事はしなかった。自分の方が圧倒的に強いのは分かっているが、もし隙を見せたならやられてしまうような空気に飲み込まれてしまう。

 

 

「何しに来たの?貴方は外の世界に行ったはずでしょ」

 

『そんな警戒せんでも良いだろうが。ただ久しぶりに会いたくなっただけのことだ』

 

「本当かしら。何故か油断するなって頭が言ってるの」

 

『おいおい悲しいな。酒も酌み交わした仲だってのに。摩多羅(またら)は……居ないのか。久しぶりにアイツにも会いたかったな』

 

「そんな事、今はどうでも良いわ。それよりもあの畑怨霊のこと知ってるの?知っているなら教えてくれる?」

 

 

 ぬらりひょんは戦場となっている人里を見る。

 姿を消したり現して、魔理沙と霊夢を撹乱する畑怨霊を見て、楽しそうに笑った。

 

 

『勿論だ。天明の飢饉を知っているだろう?』

 

「ええ」

 

『日本で起きた飢饉の中で最も多くの被害者を出した。その死者数は約10万人。その10万人の無念と憎しみ、恨みや辛み。それがあの畑怨霊の正体だ』

 

「10万……!?馬鹿な…。そんな物がいきなり幻想郷に現れる訳がない。ぬらりひょん、貴様が何かしたな?」

 

『カカカ』

 

 

 一気に空気が冷たくなる。

 紫の全力の殺気が全身に向けられ、遠くにいるはずの森の妖怪達は怯え出すが、ぬらりひょんはケロリとしていた。

 

 

『野晒しにされた死者たちの怨念がたぁ〜っぷりと染み込んだ地面から、その怨念を抽出、加工して球体に変えた。そして、それをひだる神に与えたのさ。計画は無事上手くいったようだ』

 

「ひだる神も貴方が?」

 

『いや、あれは計画外。元々は里の何処か適当な場所に玉を埋めて畑怨霊を作ろうとしていたが……、それ以上に良い畑を見つけたのでね。ふはははは!ひだる神と畑怨霊は境遇や素質、特性において全てが近い!上手く実ってくれたようで満足満足!!ふははははァッ!!』

 

「・・・」

 

『ふははははは、は──ぁん?』

 

 

 

──シュ……

 

 

 

「うるさい。これ以上は口を開くな」

 

 

 ぬらりひょんの首が切断された。

 鮮血が飛び散り、ゴロンと頭が転がった。身体も軸を失ったのか、時間が少し立ってから倒れた。

 

 

「チッ。あー、くそ。……やっちゃった。霊夢に止められたのに」

 

 

 同族殺しは他の妖怪達に悪い印象を与えてしまう。元より野良妖怪達は紫のことをあまりよく思っていないので、これで更に悪くなってしまうだろう。だが、芽は積んだ。しかし安心の元に行けるのはまだ遠く先のようだ。転がった頭がゴロゴロと動いて、紫の足元までひとりでに動いた。

 

 

『容赦ないな!流石は八雲紫だ!うははははは!!』

 

「・・・ふん。まぁ、丸腰で来るわけは無いと思ってた」

 

『そりゃあそうだ。誰も虎の巣穴に裸では入らん。念には念をしていて良かったわ。とりあえず今日は顔を見れて良かった。では、また今度しっかりと“挨拶”に来るとしようか』

 

「私はもう会いたくない」

 

 

 

──ぐしゃああ……

 

 

 

 ゆっくりと生首に足を乗せて、思い切り力を込める。1番硬いはずの頭蓋骨がまるでスポンジのようにいとも簡単に潰れていき、ぬらりひょんの頭は完全に粉々になった。

 

 

(精巧な肉人形。こっそりと私の後ろに置いたのか、あのジジイ。そりゃあ気づかない訳か)

 

 

 それにしても襲撃者の数が多い。

 幻想郷には居ないはずの妖怪達に、キョンシー使いに中華男。これらの背景には必ず大きいな闇があるはずだ。そして今回のことで大体の見当がついた。ぬらりひょんだ。理由や目的は不明だが、この一連の流れにアイツが絡んでいるのは間違いない。

 

 

(博麗神社でのお告げ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました
 珍しく3話目行きます。
 よろしくお願いします。

 ひだる神、畑怨霊
 どちらも餓死した人間ですが、違いは個人か群かですね。能力も違いますが、やはり集団になると攻撃的になるのでしょう。

 因みに畑怨霊は創作妖怪らしいです。文献が無いので。
 水木しげる先生や他の方が広めたおかげで認知されて命を得た妖怪なのでしょうね。
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