ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

20 / 23

こんにちは、狸狐です。

 なんとか一月中に終える事ができて良かったです。
 ここでこの話の裏話ですが、ひだる神は読者様のリクエストです。ひだる神の能力は5期を元にしました。

 2月はまた少し忙しくなりますが、次は射命丸文か、幽香をメインにした話かなぁと考えております。

──

【ゲゲゲの謎】の感想書きました。
もうネタバレは大丈夫だと思いましたので、投稿させていただきます。







新年大食い大騒動 ③

 

『こ、の…!』

 

「・・・!」

 

 

 畑怨霊は霊夢を食い殺そうと、血のように真っ赤で大きく長い舌を伸ばすだけではなく、白く細い髪の毛を伸ばして空中を舞いながら捕まえようとしていた。その姿勢はまさに鬼。空気中には巨大な鬼の憤りが漂っていた。

 

 

『届かねえ・・・っ!!』

 

 

 霊夢は空を駆け巡り、機敏に畑怨霊の攻撃をかわしながら、神経を尖らせて逃げ続けていた。彼女の心臓は激しく鼓動し、これまでの経験を駆使して追撃から逃れようと奮闘していた。それが更に怒りを煽る。ギチギチと歯を震わして血眼になる。

 

 

『ちょこまかと飛びやがってェエ……!!』

 

(このまま里から離れさせないと…)

 

『グルルルッ。腹減ったぁ…、ん…?』

 

 

 畑怨霊は鼻をヒクヒクと動かす。

 今は正月だ。美味しい匂いが鼻腔を刺激し、唾液がダラダラと溢れ出す。直ぐに霊夢の事は思考から消えた。

 

 

『ンマそうな匂いだアァァッ!!』

 

「ちょっ…!?どこ行くの!!」

 

 

 霊夢のことはもう眼中にない。満たされることのない欲望に駆られ、腹が減った畑怨霊は勢い余って和菓子屋に顔面を突っ込み、壊してしまった。崩れる瓦礫の中から溢れる正月の美味しい雰囲気が漂うと、食事という名の欲望を更に暴走させた。

 

 

『ぁぁぁ……ああっ!!こ、これってぇええ"っ!?』

 

 

 ゴロゴロと紅白の宝石が転がる。

 正月の時に食べられる縁起物。子どもの頃は食べられたが、大人になってからは中々食べられない特別な物だ。これは三郎の気持ちだけではない。身体の中の内なる声が叫んでいる。“食べたい”と。

 

 

『あむ…っ、あぐぅっ、ううう美味え美味え…!!餅なんてガキの頃以来食うことが出来なかったからなっ』

 

 

 気づけば和菓子店は消えて無くなっていた。瓦礫と一緒に店の中にある餅や小豆、砂糖に塩といった調味料でさえ腹の中に入れてしまった。

 

 

『オ…ッ…オオオ……!!』

 

 

 畑怨霊の全身を構成するのは餓死者の怨念。

 その“腹を満たしたい”という欲が、餅等のお菓子を取り入れたことにより大爆発した。体が、魂が、食べ物を求めている。これじゃあ足りない、満たされないと暴れている。その枠の中に無理やり押さえ込められた欲求が遂にドバッと溢れ出した。

 

 

『もっと食ってやる"う"ぅぅぅぅっ!!』

 

「あっちの方向は──」

 

 

 家々の飲み込みながら方向を変える畑怨霊。

 とにかく目の前にある物を舌で叩き壊し、掴み、飲み込む。その暴食列車が行き着く先には生き残った人間たちのバリケードがある所だ。

 

 

「止まりなさいッ!このッ!!」

 

 

 針が畑怨霊の顔面に突き刺さる。とても細くて小さな針なのだが、その一つ一つには魔を祓う力を持つ博麗の印が彫られている。その為、それを大量に連射すれば妖怪には必ずダメージを負わせる事が出来るのだ。

 

 

『ベロロロォッ!?』

 

「アンタの相手はこっちよ!無視してんじゃ・・・ねえぇっ!!」

 

 

 

 

──ドガンッッ!!

 

 

 

 

『ウガガガァッ!?』

 

 

 封魔針で怯み、ほんの一瞬だが動きが止まった瞬間にお祓い棒を振りかぶり鼻に直撃させた。華奢な女性から出るとは思えない程の物凄い強い一撃により後ろへと吹き飛ばす。

 

 

『イデェェ〜〜…ッ、イデデデェェ…ッ!!この餓鬼がぁぁぁ…!やりやがったなア!?俺はな、まだまだ食いたいんだっ、足りねえんだよォ…!邪魔すんじゃねえええ〜〜〜ッ!!』

 

「うっさい。アンタの事情なんてど〜っでも良いわ」

 

『な"に"ぃぃ〜っ!?』

 

「所詮はただの八つ当たり。その言い訳を聞いたところで無駄だって言いたいのよ」

 

『このオォォォ…くそ餓鬼ゃああッ!!』

 

 

 炎を吐いた。

 メラメラと吐き出した怨嗟の炎が周囲を焦がしていく。

 

 

『八つ当たりだとオッ!?俺の気持ちなんて知らねえくせに“八つ当たり”だと言ったのかア!?』

 

「そうよ。アンタ……、いや()()()()は皆んな、食べる事ができない苦しみも、痛みも、悲しみも知っている。なのに何も関係ない人を自分たちと同じ目に遭わせようとしてる。それを“八つ当たり”と呼ばないで、何て呼ぶの?」

 

『ウッ!ウグググゥゥ……ッ!?』

 

「境遇には同情する。でもね、その八つ当たりを理解するつもりはない。──私が貴方を成仏させるわ」

 

『ぅぅぅぅ……うががああ〜〜〜ッ!!!!』

 

 

 

 食い殺してやる。

 そう言わんばかりに大きな口を開けて、目の前の霊夢に突進をした。霊夢を避ける素振りを見せずに寧ろやり返してやると言わんばかりに右手を突き出し、左手を腰に据え、がっしりと大股になり構えた。

 

 

「・・・こいっ!!」

 

 

 ズドン、と霊夢と畑怨霊の下の歯がぶつかった。

 ダンプカーに直撃したのと同じ衝撃が小さな霊夢の体に響く。立っていた地面がベコリと凹んだ。そんな巨大な衝撃に耐えながら必死に立ち向かい、その顔面からの押し潰しをなんとか受け止める。身体が激しく揺れ、霊夢は押し潰されそうになりながらも持ち堪えた。

 

 

(た、耐えやがった───)

 

「はあ…っ、はあ…っ。八方龍殺、久しぶりだけど出来た…!!」

 

 

 博麗流奥義その一、八方龍殺。

 初代博麗の巫女から脈々と受け継がれた奥義の一つ。相手の攻撃を一身に受け、その衝撃を地面に流す防御技。だが修行不足によりこの技は未完成。

 

 

「っつう……ごぷっ!!」

 

 

 致命傷にならずに済んだが、ダメージは残る。流し切れない衝撃は霊夢の体を巡り、行き場がないまま骨や内臓は響き渡り、口からドボンと血の塊を吐き出した。

 

 

「まだ……まだぁぁぁあぁ!!」

 

 

 痛いと言っている暇はない。距離を取られないように目の前の唇を掴むと鼻へ蹴りを放つ。

 

 

 

──スカ……

 

 

 

「え・・・?」

 

 

 しかし蹴りは外れた。

 避けられたのか?いや違う。正確には脚が()()()()()のだ。貫通したわけではない。掴んでいた唇も鼻を狙った一蹴も透けて、畑怨霊が目の前から消えた。妖気さえも完全に絶たれてしまった。

 

 

(ひだる神たちを食べる時に畑怨霊は消えて、すぐに背後から出ていた。体に似合わない高速移動かと思ったけど…、体験してみて分かる。これは“幽体化”だ……!!)

 

 

 霊夢の考えは大正解。

 

 畑怨霊の能力が【幽体化】である。これは自分の好きなタイミングで実体のある体を幽霊と同じにする能力。幽霊になれば物理攻撃は全て無効化し、消えることができる。畑怨霊の場合、地面に潜ることで完全に消えることが出来る。但し、幽霊になっている間は自分からも攻撃をすることが出来ないデメリットもある。

 

 

(神経使うわね、この戦い)

 

 

 霊夢は幽霊を見たり触れたりすることが出来る。だがそれは意識している時だけだ。霊力を纏わせることで干渉できる。しかし霊力は幽霊に対して通用する技で妖怪にはあまり効果はない。つまりこれからは任意で幽霊になれる畑怨霊を相手に、霊力をオンオフしなければならないということだ。

 

 

「どこから来る…」

 

『ヌウッ!!』

 

 

 背後から顔面を使った突進。

 気を張ってはいたが回避までは出来ず、腕をクロスして攻撃を受ける。その衝撃に背後に思い切り、吹き飛ばされる。

 

 

「くぅっ」

 

 

 瓦礫の中に埋もれながら目の前を見る。

 既に畑怨霊の姿は無かった。背中のジクジクとした痛みに耐えながら、立ちあがろうとする。

 

 

『ベロリン』

 

「!?」

 

 

 突然、目の前から舌だけが現れて倒れてくる。

 地面を転がり何とか回避するが、どこから現れるのか分からない攻撃を回避するか、受けきるしか方法がなく、攻撃に持っていけない防戦一方を強いられていた。

 

 

(どうやら遠距離攻撃はないみたいね。必ず突進か、舌を使った叩きつけをやってくる。なら、狙うはカウンター…!!)

 

『バウワアッ!!』ガチガチ

 

 

 今度は噛みつき。

 起き上がる霊夢を狙った完全なる不意打ち。そして霊夢の身体を噛み砕いた。

 

 

『バワッ!?』

 

 

 霊夢の体が砕けた瞬間に、その体が全て護符となる。そのまま護符は舞い、畑怨霊の周りをぐるぐると回りながら囲う。これが霊夢の狙っていたカウンターだ。護符を身代わりとするこの技で不意打ちをやり返す。近くの瓦礫から本物の霊夢が現れると印を結ぶ。

 

 

「霊符『夢想封印』」

 

『グゥウウッ!!』

 

 

 護符数百枚が一斉に貼り付く。

 一枚一枚が光り、畑怨霊を封印させようと力を発揮する。どんな妖怪もこの技で封じてきた。霊夢はそのまま詠唱を唱え始めた。

 

 

『この程度ォォォ……ッ、この程度をォォォ…ッ!!』

 

「怨みの魂、我が祈りに屈せしめ…。神々の加護、この儀に宿り、悪しきものよ、我が、手に……っ、我が……くぅっ!?」

 

 

 バチバチと嫌な音がする。

 護符から黒い煙が吹き出していた。畑怨霊の身体を構成する10万の恨みと怨念の塊を数百枚の護符が浄化しようと力を行使していたのだが、その念の塊に護符が負けていた。

 

 

『効かんわアァァァーーーッ!』

 

「きゃあっ!?」

 

『レロロォォーーッ!!』

 

 

 

──グリィィ…

 

 

「ぐふっ…!!」

 

 

 腹に舌がめり込む。

 筋肉の塊が内臓器官を潰して、猛烈な痛みと吐き気を引き起こす。白黒な視界に揺れる霊夢に畑怨霊は追撃をした。

 

 

『レロオォォォーーーッ!!』

 

 

 ぐぱあぁ……!!

 

 

「──ぁ」

 

 

 霊夢は気づく。ハアハアと荒い息に唾液と体温による湿気を肌で感じたことにより今自分自身が置かれている現状に気づいた。足に舌が巻きつき、ぶら下がっている。目の前には畑怨霊の口の中が見えた。

 

 

『ほのほきうぉお……まっへは…!!』

 

「や、ば」

 

『いらだぎぃまふぅっ!!』

 

 

 霊夢は逃れるためにせめてもの抵抗として舌に封魔針を刺した。だがハイになっている相手にその程度意味がない。一気に舌を口の中に戻した事で霊夢も同様に畑怨霊の口の中に吸い込まれる。

 

 そのまま歯の上に置かれて、ギロチンのように落ちてきた上の歯に潰される寸前に両手で押し返す。噛まれないように必死に抵抗した。

 

 

「う、ぐぐぅ……っ!!」

 

『レロレロオォォン』

 

「うわっ!?」

 

 

 だが抵抗虚しく、分厚い舌という名の肉の壁に全身を包まれて、喉の方へと引き込まれる。噛まれずに飲まれるのは唯一の救いだったのかもしれないが、霊夢からしたら処刑台に無理やり連れて行かれる罪人のような気持ちだろう。

 

 

『あ〜〜〜』

 

「あ……いや、いやだっ……やめ……!」

 

 

 身をよじって抵抗しようとする霊夢。しかし舌というのは全てが筋肉。流石に力がある霊夢とはいえ抵抗したところで、びくともしない様子から、理解したのだ。本当に食われると。

 

 

「んんんぅっ………!?」

 

 

 抵抗する間も無く──

 

 

『ゴクン…!!』

 

 

 飲み込まれた。

 グニグニと喉の肉が動き、霊夢を飲み込もうと流動する。ぎゅむっ、ぎゅぷと肉肉しい音が響き渡る。熱くドロドロとした体液にぐっしょりと濡れて、ゆっくりじっくりと嚥下されていく。

 

 

「うぅ、っぐ……ごぶっ……!?」

 

 

 ぐに…ぐに……

 じゅぷっ、じゅぷっ……

 

 

(な、にこれ……からだ、ビリビリぃ…。いだぁぃっ)

 

 

 唾液だ。この唾液に含まれる消化酵素がじんわりと霊夢の肌をゆっくりだが確実に溶かしていってるのだ。服は既に半分くらい溶けていき、半裸状態となる。

 

 

「ふっ、ん゛ぐぅ!?ん゛ぅ、ん……!!」

 

 

 霊夢を包む肉壁が再び力強くぐにゅぐにゅと動き始め、押しつぶし、獲物を胃袋まで奥まで運んでいく。普通の生き物なら圧死するか、窒息してもおかしくないのだが強靭な身体故に長い拷問を味わい続けないといけない。そして、そのまま胃袋の方へと流されていった。

 

 

『げふぅう〜〜…!!美味え美味え。力の強い人間は全部が美味えぇえへへへ。でも、まだ入るぞ!もっと人間食ってやるウ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霊夢が丸呑みにされた。

 戦闘を見守っていた紫が遂に立ち上がる。霊夢には何もするなと言われていたが、ここで動かなければならないと決めたのだ。

 

 

「霊夢、今助けるわ……!」

 

 

 能力を使おうとした時、ドカドカと何かが走ってきた。ぬらりひょんのようにいきなり現れる物ではなく、遠くからだんだんと近くなるのを感じた。

 

 

『おっ、八雲紫がいたぞ』

『本当だ本当だ』

 

「お前達…、何でここにいる」

 

 

 野良妖怪たちの群れだ。

 猿や鳥に似た奴もいれば、昆虫のような妖怪、生物の形をしていない不定形な妖怪たちが集まっていた。

 

 

『何でってそりゃあ…、あの博麗の巫女の最期が見れるって聞いたんだよ』

『いつも俺や仲間達を攻撃するから嫌いだったぜ』

 

「ふざけてるのか?貴様ら。霊夢がやられて、人間達がいなくなればお前達だってどうなるのか分かっているだろう!」

 

 

 忠告を受ける。

 しかしビビる事なく、寧ろ笑っていた。

 

 

『それを何とかするのがお前だろうがよぉ。八雲紫さまぁ』

『昔みたいに保護してくれよなア』

『安心して観れるぜ。博麗の巫女の殺戮ショー!!』

 

『紫サマァ。貴方サマは我々ノ仲間デスヨネ?』

 

『お前、仲間、殺す、ダメ。やったら、嘘つき』

 

 

(ぬらりひょん……、野良妖怪達に入れ知恵をしたな。私が動かないようにコイツらに余計な事を吹き込んだのか)

 

 

 一本取られた。

 これでは動けない。霊夢を助けたり、畑怨霊を倒すことは出来ない。仮にやったら暴動が起きてしまう。

 

 

「霊夢……」

 

 

 まだ感じる命のエネルギーに全てを託すしか、彼女に出来なかった。

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「ぶはぁっ!?」

 

 

 霊夢は長く辛い食道地獄から解放されて、広い部屋に出た。そこは至る所に瓦礫や食べ物が液体の上に浮いていた。そこからこの場所は胃の中だと察する。

 

 

「はぁ…っ、はぁっ……!!」

 

「え!?嘘、霊夢ちゃん?」

 

「・・・ねずみ、おとこっ」

 

 

 瓦礫の中からねずみ男がひょっこりと現れた。そういえば1番初めに飲み込まれていたが、何とも平気そうである。何なら畑怨霊が飲み込んだ餅を拾うとねずみ男が代わりに食べている位だからだ。ねずみ男は餅をムシャムシャと食べながら、霊夢の所に駆け寄る。

 

 

「霊夢ちゃんもやられちゃったのかよ。俺の次に来た2人のひだる神達は直ぐに取り込まれちゃったぜ。多分、大量の魂の一つになっちまったな。南無南無……」

 

「・・・」

 

「それにしても服がボロボロ。へへへ……こう見るとなんだか霊夢ちゃんも女なんだねぇ」

 

「・・・っさい」

 

「何だよ。いつになく萎らしいじゃねえかよ」

 

「うっさい…って。少し……ぐすっ、黙ってなさい…よ……」

 

「へ?」

 

 

 あの霊夢が泣いていた。基本的に冷たくて、他人に対してあまり興味がない冷血生物だと思っていた博麗霊夢がポロポロと涙を流していたのだ。空気が読めないと言われてきたこの男も異常事態に口を噤む。

 

 

「うぅっ…」

 

(え、ええっ、何で泣いてんだよォ。待って待て待て。俺のセクハラが原因かよ!?えーっ、嘘だろ!?ただのおじさんの挨拶じゃねえかよ……っ)

 

「何でっ、っ……、ぅ……、平気なのよぉっ、アンタは…」

 

「何がだよ・・・」

 

「飲み込まれたのよっ。ぅぅ……ひぐっ、し、死ぬかと……思う、で、しょ…っ」

 

 

 必死に涙を拭う霊夢。泣いている姿はあまり見られたくないのだろう。顔を隠し、ゴシゴシと目を擦る。

 

 

(あ〜…、そっか……。それが普通の反応か)

 

 

 ねずみ男はこれまで何度も妖怪に食われてきた。大抵はその臭みで吐き気を催させて食われずに済んできたが、そういうのを気にしない奴は平気でガブガブと噛んで、飲み込んでくる。いつの間にかそれが日常となっていたので次第に何とも思わなくなっていた。霊夢は確かに強者に部類されるが、弾幕勝負とは話が別なのだ。本当の命のやり取りを実感したからこその涙であろう。

 

 

「俺はよ、外でよく人喰い妖怪たちに食われてきたんだよ。それで慣れちまったのかナ」

 

「慣れ、る……って意味わかんない…っ」

 

牛鬼(ぎゅうき)っていうな、どデケェ妖怪に頭からバリバリと喰われた時は流石に終わったと思ったネェ。懐かしいなァ〜。そうだ!俺からのアドバイスだけどよ、喰われた時は抵抗しねえってのがベストよ。そうしたらスルルゥゥ…って胃に行けるからな。それとよ──」

 

 

 霊夢の隣に座ったねずみ男。

 初めは霊夢を元気付けようと思って話していたが、いつの間にか外の世界での思い出話が盛り上がってきて、彼女の反応を見ることなく1人でにずっと話し続けていた。

 

 

「……ぷっ、ぅふふ…」

 

「今日は表情豊かだなぁ」

 

「ふふ、アンタがこんな時にも楽しそうだからよ。泣いてる自分が馬鹿みたい」

 

「どんな時でも明るくなきゃな。笑ってこその人生よ」

 

「そういうもんかしらね…」

 

「そういうもんさ」

 

 

 落ち着きを取り戻した霊夢。

 無くしていた元気と力を取り戻して、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

「休憩終わり。出口を探さないと…」

 

 

 辺りを見渡す。

 うねうねと動く肉壁と煙を立てる消化液。こんな所にいたら死ぬのは時間の問題だ。だが、食道へと続く道は見当たらない。

 

 

「へへへ。闇雲に探したところでそんなもんはねえさ。俺がとっくに探したからな」

 

「じゃあどうすんのよ」

 

「ケケケ。出口ってのは作るもんだぜ?」

 

「どういう意味よ」

 

「まっ、見てな。()()()()の住人はな……飲み込まれてからが本番だからよ」

 

 

 不敵に笑うねずみ男の手にはマッチが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……!!」

 

「殺さずに…っ、倒すってのも大変なもんだな」

 

「しかも数が増えてるみたいだぜ」ゼェゼェ

 

 

 正面から、路地裏から、天井から、塀の向こうから、わらわらと魔理沙たちに目掛けて近寄ってくる無数の“ひだる神”たち。動きは遅いが、どんなにダメージを与えて吹き飛ばしても少し経てば動き出す。それを繰り返しているうちに里全体にいた他のひだる神達もやってきて、お祭りの時のように大量の群れが迫ってきていた。

 

 

 

『だるい。ひだるい。ひもじいィィ』

『殴られても蹴られても燃やされても……』

『どんな痛みよりも空腹の方が辛いよぉ。痛いよぉ』

 

『他のやつにも味わってもらおう。我々の痛みを味わってもらおう』

 

『そうしようそうしよう』

『だるい。ひもじい。ひだるいィィィ』

 

 

 

 空腹な亡者達の大行進。

 その動きは誰も止めることができない。この3人も仲間にして、残りの人間達もやってしまおうと進み続ける。

 

 

「しつけぇんだよっ!他の奴らも不幸にした所で、お前らが幸せにはならねえだろうが!!」

 

 

 妹紅は敵の間合いを見極め、豪快な蹴り技で次々とひだる神たちを蹴散らす。一箇所出来た空いた穴にジャンプ。群れの中に飛び込み、炎を纏った蹴りでひだる神達をを一掃する。

 

 

『アウアアッ!?』

 

「おらおらおらぁっ!!」

 

 

 

──がしっ

 

 

 

「・・・あ?」

 

 

 バタバタと倒されたひだる神の一体が、妹紅の足を掴んだ。ギュウゥゥっと力強く握られ、足が止まる。

 

 

『ひだるい、ひもじいィィィ……!!』

 

「クソがぁぁぁ…」

 

「妹紅っ!!」

 

 

 掴まれた足からジワジワと皮膚の色が土色へと変わる。ジクジクと音を立てて、潤っていた皮膚から水分が奪われていき、身につけていた服も他のひだる神と同様に変化していく。

 

 

「あ、あアァ……あ…ァだる、い……ひだるい、ひもじい…っ』

 

「マズいな。このままじゃ私達も」

 

「霊夢、早く本体を倒してくれ・・・!!」

 

『ふははははァッ!!!!』

 

「今度は何だぁ?」

 

 

 地面から響き渡る笑い声。

 ものすごい地響きに大地が揺れて、ひ弱なひだる神達は転倒する。そのまま地面から畑怨霊がヌゥウウ…っと現れる。すると不思議なことにひだる神達の動きが止まり、襲いかかるのをやめた。

 

 

『あの巫女なら来ないぞオォォォーーー!ガハハハハハッ!!』

 

「お前が本体…」

 

「霊夢はどうした!?霊夢はお前を倒すって言ってた!!」

 

『ぶわはははっ!アイツは腹の中だ!レロレロオォォ…ッ!!』

 

「そんな…。霊夢が……」

 

『そう悲しむな。お前達も直ぐに俺の腹の中に入れてやる。レロレロオ〜〜〜ッ!!』

 

 

 ひだる神が再び動き出す。あんなにゆっくりと動いていたのに、突如として走り出す。まさかの動きについていけず魔理沙と慧音は押さえつけられた。1人ならどうとでもなるが、大人数のために抵抗できなかった。

 

 

「動けねえっ、ぐぅっ!?」

 

「くそっ!?何だこの動きぃっ!急に強く…」

 

『レロレロォォォン!全部俺の指示だよぉ。コイツらは全員俺の操り人形だからなア』

 

 

 大きな口を開いて、ゆっくりと迫ってくる。

 

 

『お前らを食った後は後ろの人間達もっ、ひだる神達もっ、食ってやるゥ。他の妖怪達も、生きてる奴も全部全部……食ってやるウゥゥゥ〜ッ!!』

 

「クソぉおおおーーーっ!!」

 

『ンアアア〜〜〜・・・・あ?』

 

 

 畑怨霊の動きが止まった。

 両者とも何が起きたのかが分からずに固まってしまう。口を大きく開けていた畑怨霊は口をぱくぱくと動かし始めた。

 

 

『な、何だ…?腹が……腹があぁぁぁっ!?』

 

「クソ野郎の腹が膨らんでいく!?」

 

 

 畑怨霊の腹部がぷくぅっと膨らんできた。苦しみから逃れようと幽体化をするが、自分の内部で起きている異常なので透けた所で解決することがなく、何度も幽体化と実体化を繰り返す。その間にも腹部は膨らみ続けていった。

 

 

『がふっ、あふぅっ、何がっ、がががっ!?──ンガガアァァァ〜〜〜ッ!?!?』

 

 

 

──ドガンッ

 

 

 

 畑怨霊の体内で爆発が起きた。

 膨らみ切った腹部が破れて、火花が舞う。口や鼻といった顔中の穴という穴から煙が吹き出した。畑怨霊に確実なる大きなダメージが入ったからか、ひだる神達の動きは再び止まり、2人はもがいて脱出する。

 

 

「な、何が起きてんだよおっ!?慧音、何で急に爆発したんだよ!!」

 

「私にも分からん!」

 

「先生だろオ!?」

 

「先生だって万能じゃないんだよ!!・・・むっ!?破れた腹から何か出てくるぞ」

 

 

 慧音の指摘通り。

 畑怨霊の破れた腹から影が見えた。目を凝らしてよく見てみると、それは気絶した霊夢を抱えるねずみ男だった。

 

 

「へ、へへ……。さくせぇん、大成功ぉ〜。けほっ」

 

「ね、ねずみ男!?」

 

「あれ?魔理沙ちゃんに慧音先生じゃねえか。2人もボロボロね」

 

「私達の事はどうでも良い!それより、一体何をしたんだ!」

 

「まさか霊夢に何かしたのか!?」

 

「落ち着けって!爆破はよ、これを使ったんだよ」

 

「マッチ?」

 

「実は・・・」

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

「そのマッチを使うのよ」

 

「へへへ。俺から離れて鼻をつまんでな」

 

「何でそんな事…」

 

「スゥ〜〜〜………ンンンンーーーーッ!!」

 

 

 大きく息を吸ったねずみ男。

 そして直ぐに力み出す。

 

 

「何をして・・・、まさか!?」

 

 

 ねずみ男の腹が膨らむ。

 ブクブクと音がお腹の中から響き渡る。霊夢は聞き覚えがある音だった。人間の体の中で生成されるアレの音だ。

 

 

「アチョオオオーーーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

──ブババババババババァァァンンン

 

 

 

 

 

 ねずみ男の胃や腸は独自の進化を遂げていた。

 毎日のように食べられる生ゴミに、貧相な農夫でも国にすることのないゲテモノ、更には妖怪といった物を食べてきた。それらを消化して生きる為にエネルギーに変換しなければならないと長い年月をかけて進化してきた体内にはメタンガスがブクブクと溜まり続けてきた。それに加えて、腸内細菌により様々な成分がプラスされており、ねずみ男のオナラというのは唯一無二な物となっていた。それを全て出し尽くす。妹紅に追い詰められた時よりも濃厚で重いガスが胃の中に充満したのだ。

 

 

「──うっ」バタン

 

 

 鼻をつまんでいても感じる刺激臭に霊夢は気絶する。ねずみ男は我ながら恐ろしいと心の中で思いながら、マッチ一本に力を込める。

 

 

「いっけええええ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

「──って訳なんだよ」

 

「オナラで脱出するなんて全く凄いやつだぜ。お前は」

 

「うぅ…、本当に死ぬかと思ったぁ……っ」

 

「目を覚ましたんだな。良かった」

 

 

 呆れてしまうが、それよりも生きて帰ってきただけで嬉しかった。しかし、喜んでいたのも束の間、煙の中から怒りと痛みに苦しむ大きなうめき声が響いてきた。

 

 

『よっ、よぐも"……っ、よぐも、やっでぐれだなあ"ぁぁぁ……っ!!』

 

「俺の屁爆発(オナラ)は建物を吹き飛ばす威力があんだぜ・・・。それなのに、まだ生きてんのかよっ」

 

 

 地面からうっすら見える腹部からは血が飛び散り、内臓が噴き出ている。耳や鼻、口からは黒煙が舞っていて、歯はほとんどが折れたり頬などに突き刺さっていた。口を動かすたびに傷口から血が飛び散って、周囲を赤く染めている。

 

 

『ご、ごろ"じでやう"ぅぅぅぅ〜〜ッ!!!』

 

「最後の仕事ね…っ」

 

「霊夢、大丈夫か?」

 

「大丈夫よ。アイツは私が封印する。あの爆発で妖気が漏れている今なら確実にできる」

 

 

 数枚の護符。最初に封印できる筈だと焦り、無駄にしてしまったので、残っているのは5枚程度。だが弱体化している今ならば確実に行ける。ボロボロの服の裏から取り出した。

 

 

『俺に"、がふっ、一回負けたくせに"…っ、今度は勝てるど思っでるのがァッ。馬鹿にしやがってえええーーーッ!!!!』

 

 

 ガチガチと歯を鳴らす姿はまるで威嚇をする昆虫のようだ。唾液と血の混ざった体液を撒き散らしながら叫ぶ。

 

 

『食ってやる、全部食ってやゔぅっ!俺たちだって幸せにな"る権利はあるんだアァァァーーーッッ!!』

 

「アンタらの無念は痛いほど分かる。でもね、自分たちが辛い目にあったからって関係ない人に当たるのは間違っている。そんな事が分からない位に落ちたのなら……封印させてもらう」

 

 

 激しく怒り狂い、大きく口を開けての突進。

 霊夢は巨大な畑怨霊の突進に立ち向かい、手にした護符を高く掲げる。空気中に光と神聖なエネルギーが漂い、霊夢は懸命に詠唱を始める。

 

 

「大いなる太陽の護りよ。この畑怨霊を封じ給え」

 

 

 護符から放たれる光が畑怨霊を包み込む。畑怨霊は巨大な顔面を振り乱し、あの時のように封印と浄化から抵抗するが、霊夢の力強い詠唱と護符の力に押し戻されていく。更に体内からどんどんと妖気も力も抜けていくのを感じる。

 

 

(もう終わりだよ、三郎)

 

(お前…!?お前達は……!!)

 

(お前の無念はきっと届いた。我々は休もう)

 

(休み方なんか…分からねえよ……)

 

 

 無数の魂で構成されている畑怨霊の身体から、魂たちが抜けていく。霊夢の護符の力で浄化されていっているようだ。

 

 

「畑怨霊。そして荒ぶる魂たちよ。静寂に包まれ、安らかなる眠りにつけ。霊符『夢想封印・集』」

 

『ああ…あ………!!』

 

 

 畑怨霊の巨大な姿が次第に光に包まれ、その存在が褪せていく。黒雲に覆われていた空には穏やかな光が広がり、畑怨霊の凶悪な気配も消え去っていった。霊夢の立ち向かう強い意志と神聖な力が、長い年月をかけてべったりと染み付いた怨念の塊を封じ込める瞬間が訪れた。

 

 

「終わったのか…?」

 

「ええ」

 

 

 そう言って、護符を一枚見せた。

 封印と書かれた文字の表面に墨で描かれたような【ひだる神】の3人の姿が写っていた。

 

 

「ひだる神…?畑怨霊じゃなくて?」

 

「畑怨霊は無数の魂の集合体だったのよ。魂達は多分……封印の途中で浄化されて、あの世に行けたんだと思う。だから封印されたのは本体のひだる神だったのかな」

 

「2人とも皆んなを見てくれ!」

 

「おっ!元に戻ってく!」

 

 

 ひだる神達が次々に倒れていき、元の姿に戻っていった。本体である畑怨霊、ひだる神が倒されたおかげである。

 

 里の人間達は意識を取り戻し始めた。泣いて喜ぶ者もいれば、抱き合う者もいる。妖怪達に対して恨み言を言う人々も見られた。魔理沙はそんな人たちを見て、ポツリと言った。

 

 

「今回の件、お前はどう思った?」

 

「どうって?」

 

「私には、ひだる神達だけが悪かったとは思えないんだぜ…。やり方は問題あったけど…、それは皆んな食べ物を平気で捨てたり残したりしてたからだ。自分たちは満足に食べられなかったのに、今では食べ物があるのは当たり前で、誰も大切にしていない。そんな姿を見たら……やっぱり腹が立つと思うんだぜ」

 

「そうね。確かにこんな状況を招いたのは人間達の自業自得。怒るのは当たり前」

 

「だろう」

 

「でもね」

 

「?」

 

「その問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()。自分たちで間違いに気づいて解決しようと努力し続けなければならないことなの。……きっとあの2人はそれに気づけたから、全てを告発しようとしたのよ」

 

「ん。でもなぁ…努力し続けるって、具合的にはどうすりゃあ良いんだよ」

 

「簡単よ。“いただきます、ごちそうさま”…。これを忘れない事よ」

 

「ハァ?そんな当たり前のこと…」

 

「その“当たり前”が出来ないからこんな事になったの。当たり前が出来るようになってから、やっとスタートできるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 その後、紫たちの協力もあり、里は復興を遂げた。壊された家屋は建て直され、前よりも良くなったと喜んでいる人たちも見られた。そして人々はひだる神達になったからなのか、食べ物を残すことは減った。

 

 大量に作るのではなく食べ切れる量にする、大切さを教える食育を寺子屋に取り入れる等、全員がしっかりと意識をするようになった。小さな事かもしれないが変わろうという意識はハッキリと見られたのだ。

 

 

「おばちゃん、団子を…ええと〜…10本ね!全部みたらしで」

 

「魔理沙、そんなに食えんの?」

 

「今腹ペコなんだよなぁ。・・・でも確かに10本は流石に多いか。食べ切れる量、だったな」

 

 

 団子を頬張る魔理沙。

 霊夢はお汁粉を啜る。

 

 

「ふぉういやあ……んぐんぐ…」

 

「飲み込んでからにしなさいよ。子どもじゃあるまいし」

 

「ん…っ、ふー、ねずみ男はどうしたんだ?」

 

「知らない。気づいたらいなくなってた」

 

 

 この団子屋の裏、外に置かれたゴミ箱が揺れて倒れた。飛び出る仲間と共にねずみ男も一緒に飛び出した。

 

 

「ちぇっ、食べ物を大事にし過ぎたせいで、生ゴミの量が減ってらあ。あーあ!また金稼がねえとな〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
 これを書くのにあたって、やはり『当たり前のこと』が当たり前じゃなくなってきているなと思っております。いただきます、ご馳走様、しっかりと食べ切る事をするのが、飽食の日本が出来る始めの一歩だなと思います。




▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。