ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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皆さん、お久しぶりです。狸狐です。

 2月は一度も投稿できずにすいませんでした。
 福岡・熊本旅行や栃木出張。そして幼い頃からずーっと夢だった鳥取に行っており楽しんでいたらいつの間にか1ヶ月過ぎておりました。

 境港はマジで凄いですね。町全体で鬼太郎と水木先生を盛り上げていて、何から何まで鬼太郎で感動しました。

 とりあえず三月になり時間が出来たので投稿します!









射命丸文とねずみ男

 

 今日は最悪の目覚めだった。

 ねずみ男はゴミ捨て場の中から起き上がった。時間は大体3時頃である。彼は家を失い、眠る所はもう無い。とりあえず寒さを凌そうなところを見つけると草の上でも石の上でもゴミの中でも構わなかった。そんな生活を続けたせいで肩や腰はガチゴチボロボロ。お前にいつも裸足だから霜焼けになりかけて痒い。

 

 

「・・・ちっ」

 

 

 以前のひだる神騒動で少しずつだが復興を遂げていく人里なのだが、外来人区域は未だに修復されることはない。元よりねずみ男しかその地区には住んでいないから、後回しにされている。加えてひだる神騒動の元凶とされたせいもあるだろう。

 

 

「あんなに稼いだ金は一夜で消えて……、今じゃ野良犬同然の生活。何か新しい商売でも見つけねえと流石の俺も死んじまうぜ」

 

 

 起き上がって向かった先はとある飲食店の裏側。今まで生ゴミがたくさん捨てられていたのだが、自分のせいで生ゴミが減ってしまった。里にとっては良いことだが自分にとっては想定外。何軒か周り、やっとの思いで腐りかけのリンゴを見つけた。

 

 

「おほほ、ラッキー!ついてるナ、こりゃ」

 

「くぅーん」

 

「野良犬、か」

 

「何だよ、これは俺のだ。あむ……」シャリシャリ

 

「くぅーんくぅーん」

 

「う……っ、確かにお前らの飯が無くなったのは俺のせいだけど…。この世は早い者勝ちで……」

 

 

 自分と同じように食事を探している野良犬(なかま)。なんとまぁヒョロヒョロな体。自分の引き起こした騒動の結果のせいで食事にありつけない被害者である野良犬のウルウルとした目に根負けし、彼はリンゴを手渡した。

 

 

「はぁ〜。世は情けだナ、相棒。食いな」

 

「わう!」

 

 

 モシャモシャとリンゴを頬張る野良犬。その時“パシャリ!”とシャッターの音がする。それに加えて、バサバサと羽ばたく音が路地裏に響き、野良犬は逃げ去った。ねずみ男の前にカメラを持った少女が降りてきた。

 

 

「まさかのゴミ漁りと野良犬に餌付け…。あんなに稼いでた人とは思えない程の転落人生ですね」

 

「何だよ、文句あんのかよ。あと勝手に写真撮るな!ったく、プライバシーを考えろっての」

 

「あやや、これは失敬」

 

 

 ねずみ男の前まで来ると懐から革のケースのような物を出して、そこから名刺を渡す。

 

 

「私、この幻想郷で新聞記者をしてる鴉天狗の『射命丸(しゃめいまる)(あや)』と申します。以後お見知り置きを」

 

「射命丸文ぁ?・・・どこかで見たな、その名前」

 

「あら。私の事をご存知でしたか?それは嬉しいです。『文々。新聞』を読んでくれたんですね!」

 

「“文々。新聞”……。ハッ!?思い出したァッ!」

 

 

 以前、彼女のばら撒いたあの新聞のせいで行ってきた犯罪を白日の元に晒されてしまい、挙げ句の果てには住むところを失ったのだ。

 

 

「よくも有る事無い事書いて、俺を晒したな!!お陰で炎上して、未だに鎮火してねえんだぞ!」

 

「酷い言い掛かりですねぇ。私のモットーは“嘘偽りは書かない”なんです。そりゃあ多少は誇張しましたけど全て真実じゃあありませんか」

 

「何ぃぬねのオオぉぉ〜〜ッ!!」ギリギリ

 

 

 反論できない。だがムカムカは止まらない。自分の行いは確かに詐欺なのだが、それをバラしたせいで炎上したのだ。そんな状態になり悔しそうに歯軋りするしかない。

 

 

「そんな過去のことは水に流して、今日はお話しに来たんですよ」

 

「流せるかっ……と言いてえけど腹減ってこれ以上怒れやしねえや」グゥ

 

「良いお店しってるんですヨ、私。どうです?そこでお話でも?」

 

 

 文はお酌をする手振りを見せる。

 

 

「こんな時間にやってる店なんてあるわけねぇだろ。もう直ぐで日の出なんだぞ」

 

「人間の店は、ですよね」

 

「むっ?」

 

「美人な女将の屋台が外に出ているんです。どうです?奢りますよ?」

 

「美人っ!?奢るっ!?…──ごほっ、ごほん。まぁ、俺様も小さい男じゃねえ。話くらいは聞いてやるサ」

 

「そうですか!ささ、こちらです!」

 

「うへへへへ〜っ、人の金で食えるなんてツイてんねぇ〜!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 森とは反対側。

 綺麗な小川が流れる河原に屋台があった。小さなタイヤが付いており、移動式のようである。その屋台には【八目鰻】と書かれた赤提灯がぶら下がっており、パチパチと焼ける音と香ばしい匂いが鼻腔を刺激した。最近何も食べれていないねずみ男は本人でも気づかないうちに涎を垂らしていた。

 

 

「あ、あれか!?」

 

「ええ。あそこは八目鰻が絶品でしてね……って」

 

「うひょおお〜〜!」

 

「あっ、1人だと危ないですよ!」

 

 

 飛び跳ねるねずみ男の背中をパシャリ。

 そして笑う。

 

 

「・・・。怒ったり子どもみたいに喜んだり……。本当に詐欺をやっていたのか疑いたくなるくらいの不思議な人ですね」

 

 

 ねずみ男は走り、屋台に近づく。

 良い匂いが強くなると共に小さな歌声が聴こえてきた。

 

 

「ラララ〜〜♪か〜ら〜す〜何故鳴くの〜♪カラスの民意でしょう~っと」

 

「どうも〜!女将さぁん、まだやってる!?2人なんだけど!」

 

「いらっしゃいましぃ。空いてますよ〜……。あら、ふふ、お兄さん。寒かったでしょ。ここは温いわよ。さぁ、どうぞ」

 

「ぐふふ、本当に美人……。じゃあ、まずは熱燗だろ。それと…あれ?メニューが見えないなぁ……あら、あらら段々と視界が暗くなってきたゾ?」

 

「お兄さん……。目が見えないの?あらあら、なんて危ないのかしら。どこかの()()()()()()()()()()()文句は言えないわよ。うふふふ……」

 

 

 置いてあったメニューを手に取り、書いてある食べ物を頼もうとしたのだが急に視界が真っ暗になる。何も見えないと闇の中で慌てている中で、女将の笑い声だけがゆっくりと近づいてくる。

 

 

「臭っ!!」

 

 

 バタンと倒れる音。

 それと同時に視界が回復し、普通に見えるようになった。

 

 

「急に見え始めた。何だったんだ?……って、おいおい!何倒れてんだよ、大丈夫かい?」

 

「ううぅっ、強烈ぅ」

 

 

 視界が回復したねずみ男の前には鼻を押さえている女将さん。膝をついて苦しそうである。そんな事をしている間に文も入ってきて、ねずみ男の隣に座る。

 

 

「ダメですよ、ミスティアさん。彼は私の連れなんですよ」

 

「うぅっ、文ちゃんの知り合いならそう言ってよぉ。てっきり人間を連れてきてくれたのかと思ったのにぃ……くちゃい〜」

 

「な、何なんだ。まさか俺を食おうとしたのか!?もしかして、文、テメェ〜!用があるって俺を妖怪に食わそうとしたってわけか!?」

 

「何言ってんですか、違いますよ。ここの女将……ミスティア・ローレライさんは人間を襲うのが好きで、貴方を人間だと勝手に勘違いして襲っただけです。返り討ちされたみたいですけどね」

 

「こっわ…。本当にここは怖い世界だネ」

 

「そんな事より……お食事しながらお話しましょっか」

 

 

 ここは妖怪『夜雀(よすずめ)』のミスティアが営む移動式の屋台。22時から4時までやっているようで、場所は決まっていないとの事だ。2人は座り、酒を酌み交わす。ここの目玉である八目鰻の蒲焼は本当に絶品で、目の前でじっくりと焼かれた八目鰻の身はまるで高級な肉のようである。更には値段が安いので遠慮なく食べては頼み続けている。

 

 

「美味いッ、美味いねェ〜ッ!ハフハフ……こりゃあ幾らでも食べれちゃう」

 

「でしょ?ここ、味だけは本当に絶品なんですよ!」

 

「味だけはって……酷い事言うわね。悲しいから歌っちゃお。チュンチュンチュンッ、チチチチチ〜〜〜♪」

 

「これが嫌なんですよぉ。こういう静かな所に合わない歌ばっかり歌って〜」

 

 

 なんだかんだで1時間くらいが経過し、両者とも良い塩梅に熱ってきた。熱燗による酔いと温い温度が体を温めていく。

 

 

「はぁ、それでそのぉ〜ねずみ男さん、それでお話なんですがね」

 

「あぁ。そういや…ンッ……ふぅ〜、なんか用があるとか言ってたな」

 

「はい。実は1週間後、妖怪の山の天狗たちで()()()()()()()が開かれるんです」

 

「幻想郷新聞大会?」

 

「はい。天狗たちの間のものなんですが幻想郷が出来た頃から続く伝統的な物で、個人で作った新聞で面白さやどれだけ売れたかを競い合う大会があるんです」

 

「へぇ〜。ここだと天狗たちってのは皆んな新聞記者やってんだな。外の世界じゃあ警察やってんのに」

 

「外だと警察なんですか…!!それもそれで気になるなァ」

 

「それでよ、俺がどう関係すんだよ?」

 

「あっ、そうですね!実は私ッ!貴方のことを書きたいと思っているんです!」

 

「お、オレェ?」

 

「ズバリッ!『幻想郷に次々と異変を起こす!噂の外来人特集!!』……!どうか協力してもらえませんか」

 

 

 両手を合わせてお願いする文。

 ねずみ男はお猪口を置いて少し考える。

 

 

「ふむふむぅ、大妖怪で大天才のこの俺を記事にしようと考えたのは賢いネ」

 

「それなら──」

 

「けど、嫌だねェッ!ケケケ」

 

「えっ、な、なんで」

 

 

 あの口ぶりから断られるとはあまり思わなかった。

 

 

「俺に何の得があるってんだよ!この俺を取材したいなら分かってんだろ?ン?」

 

 

 この男は基本的に損得勘定でしか動かない。

 文に向かってクイクイと手を動かす。

 

 

「ほれほれ」

 

「え、と?」

 

「鈍い奴だネェ〜。金だよ、かーね!」

 

「あっ、お金ですか…」

 

「人にお願いする時は相手のことを思う気持ちが大事なの。そして気持ちってのは形にしなきゃ伝わらないノ。これは社会の常識よん」

 

「あややや……、その、申し訳ないんですがお金がここの支払い分しか無くて…」

 

「はい?」

 

「支払える程のお金がありません…、です」

 

「じゃあ交渉決裂でぇい!」

 

 

 ねずみ男は大きな舌打ちをして立ち上がる。

 タダで腹も膨れたし酒も飲めた。気分は良いが、それとこれとは話が違う。お金の切れ目が縁の切れ目とも言うし、それならばここにいる必要もないのでさっさと帰ろうとした。止められる訳もなく文は悲しい顔をしながらため息をついた。

 

 

「はぁ〜…()()()()は夢のまた夢か」

 

(優勝…賞品……ッ!?)

 

 

 ねずみ男の足が止まった。

 髭がビビビと反応する。全身のお宝アンテナと久しぶりの興奮とエネルギーが満ちていくのを感じた。

 

 

「・・・ふぅ〜。やーっぱり礼金は要らないカナぁ〜(棒)」

 

「えっ!ねずみ男さん、帰るんじゃ……」

 

「いやさ、俺もね帰ろうと思ったんだよ。社会のマナーやルールを教えるために()()()()()()()()言ってさ!でも……ッ、でもよぉ〜……自分に正直になって考えてみれば、やっぱ大事なのって社会のルールより“己が信念”だよ。うん。あーあ、困ってる奴はやっぱり助けなきゃいけないよなぁ〜。これだから俺の全身を流れる正義の味方の血には困るぜぇ〜〜」

 

「そ、それじゃあ!」

 

「うん。お手伝いするよん!……とりあえず、おじさんに優勝賞品のこと教えてくれるかナ??」

 

「は、はい」

 

 

 ミスティアは長い事客商売をしているから分かる。この男の狙いは優勝賞品だということを。だが言わない。ここから2人がどうなるのかの方が気になるからだ。それに元々、妖怪というのは正しいことをしない。面白いと思ったことをしてしまう性を持っている。傷心しているからか甘い騙されかけている文を見続けるのも悪くない。

 

 

「優勝賞品は……私達の上司である天魔様のお宝、です」

 

「お宝・・・!」ゴクリ

 

「詳細は不明ですが……とても凄い物と聞いています」

 

「ンフフフ〜♪いいネ、それ。まぁ、お宝なんて俺は興味が無いサ。優勝するために頑張ろうぜ!!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 すっかり日が昇り、居酒屋を出た2人は適当な倒木に腰掛けて話を続けていた。大会の内容やこれまでの傾向、何によって評価されての優勝なのかが分からなければ意味が無い。だからこそ直ぐに行動するのではなく、ひっかりとした情報収集が大事になってくる。

 

 

「この新聞大会は三つの部門に分かれています。“面白さ”、“タメになる”、“売上高”……。私は今まで売上げ部門に絞っていましたが失敗続きなので、今回は面白さ、タメになる辺りで狙っている感じです」

 

「売上げとかの方が簡単に見えるがなァ。適当な事言って年寄り達に買わせりゃあいいんじゃねえの?」

 

「せこいですねェ…。私はそんな方法で勝ちたくありませんし、ルールにも詐欺はダメとありますからやりませんよ。その方法は」

 

「へいへい。せこくて悪かったな。・・・っあ、そういやさ俺みたいな部外者が協力するのは…その“ルール”的にいいの?」

 

「はい、大丈夫です。我々は組織で動く妖怪です。だから組織内外で協力し合うのは連携力等を向上できるので推奨されています。私は今まで個人でやっていましたが……」

 

「なるほどね。そうなると俺たち以外にもチームを組んでる奴らがいるってことか。こりゃあ、気合いを入れなきゃな」

 

「では早速、取材を──」

 

「待て待て。焦んなよ」

 

「でも大会まであまり時間が…」

 

「敵を知り己を知ればなんとやら、っていうだろ。まずは他の奴らの新聞を知らねえとな」

 

「そんなカッコいい事言って……新聞が解るんですか?そういう風には見えませんが…」

 

「見くびるんじゃねえぜ。このビビビのねずみ男様は外の世界では雑誌の編集・販売をしていたサラリーマンだったんだぜぇ?」

 

「マジですか!?」

 

「マジマジ」

 

 

 嘘はついていない。

 ねずみ男は外の世界で雑誌の編集を行い、それを自分の手で売り捌いていた経歴を持っている。

 

 

(まっ、ポルノ雑誌だし。真面目にやるのも馬鹿らしくて長くは続かなかったんだけどヨ…。嘘はついてねえよなぁ)

 

「でも結構数ありますよ?」

 

「わーってるよ。俺だって全部読む気はないさ。面倒くせえ。俺たちが読むのは優勝者達の新聞だ。どういうのがウケて、何が嫌なのかを見極めなきゃならん」

 

「な、なるほど。ではひとっ飛びして集めてきます…!」

 

 

 文は羽ばたき、森へと向かう。

 ねずみ男は姿が見えなくなるのを確認すると、彼女が新聞を集めてくるのは時間がかかるだろうからと予想して少し眠ろうかと横になる。

 

 

「少しキューケイっと…」

 

「何寝てるんですか」

 

「ゲゲゲェッ、何がなんでも早すぎだろッ!?なんだァ?集められずに帰って来たのか──」

 

 

 バサバサと地面に落ちる新聞紙の束。

 叱ってやろうかと思ったが、その考えは消え失せてしまった。本当にあの短時間で集めて来てしまったのだから。

 

 

「──マジかよ」

 

「えへへ。こう見えて、私最速ですから」

 

「ほへぇ…」

 

「昔は魔理沙さんが最速だったんですけど、私が競走で勝ちまして。……って、そんな事はどうでも良かった!早く読みましょ」

 

「おぉっとそうだったな、まずはこれだ。どれどれ」

 

 

 2人は一つ一つをしっかりと読んで、事細かに分析していく。どういったものがウケるのか、何を知りたがっているのか、逆に知りたくないことは何か等々。

 

 

「なるほどなぁ」

 

 

 全てを読み終えて、ねずみ男はウンウンと頷く。どうやら傾向が分かったらしい。

 

 

「まずは好まれる傾向だが……天狗達の活躍や天狗の優位性を示す系、他の種族の悪口か。ニヒヒ、こりゃあ随分と天狗ってのは自己愛が強いんだねェ。逆に嫌われているのは霊夢みてぇな人間側の活躍とかだな。プライドも高けぇや。こりゃあ天狗も妖怪も基本は変わらねえんだな。都合の悪い物には蓋をして見て見ぬフリ……」

 

「うぅ、お恥ずかしい」

 

「特に、この1()()()()()()()()()()()なんて……新聞ってより天狗の英雄譚じゃねえか」

 

「天狗は誇り高い種族です。だからか幹部たちや同僚たちは絶賛してますよ」

 

「・・・けど文ちゃんはそうでもない感じだな」

 

「いやー!私も昔は天狗が1番だと思ってたんですがね。森から出て色んなものを知ったり、異変解決に参加したり………特に“霊夢さん”と出会ったりして、改めました」

 

「やっぱり外を知らないとダメだよネ」

 

「はい。他の天狗(なかま)たちは森から出ないから偏ってしまう。集団でいるから、それにも気付けない。けど私以外にもしっかりしている仲間はいますから勘違いしないでくださいね」

 

 

 ずっと同じコミニティーにいたり、自分の信じるものだけの話を聞いていればどんな奴も偏ってしまうのは世の常。だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がこの世を生き抜く術だ。そうじゃないと必ずそういう心の闇に悪い奴がつけ込んでくる。

 

 

「はいよ。それじゃあ早速、文ちゃんの『文々。新聞』、読んで比較するか」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 一枚一枚丁寧に、しっかりと読み込む。

 誤字脱字などは無く、読み手を飽きさせない書き方であり、伊達に新聞記者を名乗ってはいないのが直ぐに分かった。

 

 

(面白いじゃねえかよ。でも、こりゃあ・・・)

 

 

 読み終えた。

 そして比較してみた結果を伝える。

 

 

「よく書けてる。でも……これじゃあ読者はつかねえな」

 

「・・・」

 

「天狗の活躍よりも……異変や妖怪退治。これは妖怪よりも人間向けだ」

 

「やっぱり…」

 

「気づいてたのか?」

 

「そりゃあ出す度に上の幹部連中からボロクソ言われますから。“人間に媚び売る内容”とか“組織を壊す気か”って。でも……そうかぁ〜…天狗(じぶん)たちを褒める内容じゃないからか〜…」

 

 

 悔しそうな表情を浮かべる。

 ねずみ男は少し悩むとこう言った。

 

 

「外来人特集はやめよう。売れねえ。勝ち目ねえよ」

 

「嫌です。私は書きたいものは何がなんでも曲げたくないです」

 

「なっ、ならよぉ……、外来人の部分は小さくして、他の天狗が好きそうな内容とかを見つけてくるんだ。面白い物をパクれば周りも喜んでくれるもんさ!もしくは()()とか」

 

 

 捏造。つまりはフィクション。

 その言葉に文は何か思うところがあるのだろうか、怒りの表情を表す。

 

 

「捏造は絶対にしません!!」

 

「そう堅いこと言うなよ。捏造くらいしなきゃ勝てないぜ?嘘でも何でも好きなもの見せておけば、一気に人気出て買ってくれるさ。新聞の才能はあるんだからよ」

 

「無理です」

 

「もーぅ!なんでそんな意固地なんだ?」

 

「私は新聞記者です!そりゃあ多少は誇張はします。でもそれらは真実に基づいていることです。新聞記者の本来の仕事は真実を求めて、それを記事にすること!私には誇りがあります。そういった捏造や嘘は私のポリシーに反します!」

 

 

 誇張はするが、嘘や捏造はしない。

 彼女が新聞記者を志した際に決めた事だ。それを曲げるということは自分自身を曲げることになる。そんなのは死んでもしたくない。

 

 

「立派なのは認めるよ。けど売らなきゃ意味ないだろ」

 

「ぐっ…うぅっ…、分かってるんです。そうしなきゃ売れないことは」

 

「なら─」

 

「でも、それでも、真実を伝えるのが記者の仕事だと思っています。それに世間では事件やゴシップは面白いとされていますが、私はそういったネガティブな事よりも、ちゃんとした真実を伝えていきたいんです……」

 

「けどよぉ……」

 

「誰になんて言われても曲げたくないんです…っ」

 

 

 

 文はグッと目を瞑っていた。

 否定の言葉を真正面から受け止めようとする一種の防御姿勢のように見えたその姿は、実は彼女の中にグルグルと果てしなく渦巻く『闇』と向かい合っているものであった。

 

 理解されずに嘲れ、馬鹿にされ、唾を吐かれ、悪口を言われ、無視され、貶され、指を指され、()()()()()()()()辛い思い出。それこそが彼女の中に渦巻く闇。

 

 

『お前の新聞に読む価値なんかねえよ。まぁ、便所の紙の代わりにはなるかな』

『つまらないなぁ。才能なんか無いんだし、やめたら?』

『僕ならこうは書かないね。……まぁ努力は認めてやるよ。でも今後はもっとこうした方がいい』

 

 

 鴉天狗の世界では新聞が売れれば尊敬されるが、売れないと馬鹿にされる。頼んでも無いのに感謝をしろと言わんばかりのアドバイス、評価ではなくバカにすることが目的となった批評。こんなのに負けたくない。ここで奴らの好みに合わせて良い評価なんか貰いたくない。

 

 

 

「・・・ちっ、分かった。俺が悪かったよ」

 

「へ?」

 

「全く呆れるぜ、その真っ直ぐさ。でも、まぁ…俺の……ダチもそういう真っ直ぐな奴だから分かるんだよな。何言っても自分を曲げないってよ」

 

 

 顔を見せないでねずみ男は背中を向ける。

 照れくさそうに耳をポリポリと掻く。

 

 

「それに俺はその評論家気取り達にも腹が立つね。大体な、頑張って書いてるやつに文句あるなら、自分で書いてみろよってな」

 

 

 ねずみ男にも一所懸命に頑張り、それを批判される気持ちは分かる。昔手作りの『妖怪シール』を売っていたが、酔っ払いに目の前で馬鹿にされた事がある。めちゃくちゃ腹が立ったからこそ彼女の気持ちはできるだけ尊重したいと思ったのだ。

 

 

「ねずみ男さん…」

 

「まっ、始まったばかりだ。やってやろうぜ」

 

「はいっ!では手始めに・・・何しましょうか?」

 

「それは俺も考えてたんだが、お題を変えねえか。俺が主役ってのは気持ち良いが、外来人特集ってのはどう考えても見向きなんかされない」

 

「何でですか。さっきまで応援してくれてたのに。別に書きたいのを書けば…」

 

「やっぱり読みたくなるような見出しは肝心だ」

 

「えー」

 

「文句言うな。書きたいのを書くのは良いが、あくまで優勝が目的なら別なことにした方がいい」

 

「別なことですか」

 

「外来人よりも……もっとこう…大きな目を引くような……」

 

「異変、とかですかね」

 

「そういう感じだな。ひだる神以来、何もしてないし俺は何も持ってねえな。そっちは?」

 

「一応飛び回って不思議なモノや面白そうな物を撮ってますのであります。使えるかは別ですが…」

 

 

 そう言って、肩にかけているバッグから数十枚の写真を取り出した。それを2人で見れるように地面に並べていた時だった。2人の周囲を白い(モヤ)が包むと同時に、強烈な風が吹いた。不思議なことに風が吹いたはずなのに()()()()()ことはなかった。

 

 

 

「うわっ、写真が!」

 

『あら、ごめんあそばせ。見えていませんでしたわ』

 

「・・・貴女、何の用ですか」

 

『そんな怖い顔をしないでくださる?ふふ、……文さん』

 

 

 2人の前に現れたのは白い羽を持った女性の天狗。髪型はロールを巻いており、服装は少し上品で装飾品も高そうなところから文よりも位が高いことは見て分かる。心底嫌そうな顔をする文とニタニタと笑うロール天狗の間のねずみ男は気まずくて黙ってしまう。

 

 

『わざと、じゃないのよ。ほら、もう少しで始まるでしょう?新聞大会。それのネタ探しをしてたの。そしたら負け犬がいるもんですからね、取材しようと思って降りてみれば、文さんだったってわけなのよ』

 

「そうですか。残念でしたね、私達で」

 

『うふふ。全然残念じゃあないわよ。敵情視察できたんですもの。まぁあ……貴女程度の新聞、気にかける必要はありませんが!オーッホッホッホッ!』

 

 

 ケラケラと文を嘲笑い、途中からチラリと横目でねずみ男を見る。品定めするような視線である。ねずみ男はあまり気にはしないつもりでいたが、その分かりやすさに嫌な気はした。

 

 

『協力しても良いとルールはあるけど……、ぷふっ、文さんにピッタリね。ゴミ屑を書くしか才のない女とホームレスの男。お似合いね』

 

 

 何も言い返さないのを良いことに嫌味と悪口をこの女は散々言った。そして満足したのか、その大きな羽をバサリと動かして空へと飛ぶ。

 

 

『文さん。燃す為の新聞が無くなってきたから試合の日に用意しておいてね。買ってあげるから!おーほほほ!!』

 

 

 山へと飛んでいった天狗。

 バラバラと至る所に散らばった写真を拾い集めて、文は大きなため息をついた。

 

 

「ケッ、嫌な奴。何なんだよ、あの高飛車は」

 

「今のは幹部天狗。私の上司の愛宕(あたご)さんです。……色んな方から酷いこと言われますが、あの人が特に酷くて。2()()()()()()()前からはもう嫌がらせもしてきますし…」

 

「嫌なところだなぁ、天狗の組織ってのは。他の上司に報告は?」

 

「一介の鴉天狗なんかの話は無視ですよ。理解してくれる飯綱丸龍(いいずなまるめぐむ)さまは最近冷たいし、天魔様のお姿も見えませんし……」

 

「飯綱丸?天魔様?」

 

「飯綱丸さまは八大幹部のリーダーで、天魔様は全ての天狗の長です。確か天魔様は……外の世界にいる赤嵐坊(せきらんぼう)という大天狗の姉だそうですよ」

 

「赤嵐坊っ!?そ、そっか〜…あはは」

 

「ご存じで?」

 

「いやいーや全然」

 

 

 冷や汗をバレないように拭うねずみ男。

 勿論、その名前は知っていた。

 

 

(赤嵐坊っていやぁ……あの鴉ポリスの長じゃねえか。苦手なんだよなぁ、怖くてヨォ。その姉ちゃんとなればきっと鼻が長くて顔が赤くて厳しくて……嫌だなぁ。あんまり森にいたくねえよ〜…!!)

 

「顔色悪いですけど…、本当に大丈夫なんです?」

 

「ダイジョーブヨ。それよりも始めるか。アイツらに負けないネタ探し!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖怪の山 最深洞窟の地下牢。

 

 光の入らない薄暗くジメジメとした空間には数百という牢屋が存在していた。ここは幻想郷で大犯罪をしたり規則違反をした妖怪を投獄、収監する場所である。しかし入れられることは過去に数回程度であり基本は退治か封印される。仮に、という事があるかもしれないと天魔が考え、部下の天狗たちに用意させた使われることのない墓場のような場所だ。収監される妖怪がいないので人が入ることは滅多にない。

 

 

『フン♪フフ〜ン♪』

 

 

 そんな誰も寄りつかない場所に()()()が充満していく。何も見えない位に立ち込める靄の中で鼻歌とベタリベタリと足跡を立てて、牢屋の中を歩く者がいた。白い翼にロール髪の愛宕である。彼女はニコニコと笑いながら1番奥の部屋を覗いた。

 

 

『お元気?』

 

「・・・ンーー!!ンー!」

 

『2ヶ月も経っているのに飲まず食わずで生きているとは()()()()()()

 

 

 その部屋には手足を拘束され、額に札を貼られ、口を布で塞がれたもう1人の愛宕がいた。少し痩せているが元気そうではある。ここから抵抗できずに唸っているだけなので自力で出ることはできなさそうだ。

 

 

「ンーーーッ!!」

 

『そう怒るな。私、いや()()()()が上手くいけばァ……ここから出してやるさ』

 

 

 そう言って、牢屋を出て再び鍵を閉める。

 そのまま奥の部屋から出入り口の方へと向かう。その途中の別の牢獄には別の幹部天狗たちが拘束されていた。その中には他の幹部天狗と違い、鎖と数十枚の護符でガチガチに拘束された天魔と飯綱丸の姿もあった。2人は偽物であろう愛宕を睨む。

 

 

『どいつもこいつもタフだねぇ。まぁ、無駄だろうけど』

 

 

 地下牢獄から出ていくと同時に靄も晴れていく。どうやら偽愛宕と共に靄が発生しているようだ。そのまま偽愛宕は歩き続け、玄武の沢へと向かった。沢には愛宕を待つ河童たちがいた。

 

 

『頼んでいた物はできたか?』

 

「は、はい」

 

 

 河童たちは天狗の組織に属している。その部下に当たる河童たちの背後には継ぎ接ぎだらけの重々しい巨大で半月型の金属の塊がプシューと熱い煙を吐き出しながら立っていた。それを少し撫でながら、大勢の河童の代表として『河城にとり』が前に出た。

 

 

「完成しましたけど、何に使うんです?」

 

『新聞大会で使うのさ。それよりもこれを天魔の部屋前に運べ』

 

「て、天魔様の部屋に!?それに試運転もしてないんですよ……」

 

『つべこべ言わずにやれェッ!!全て天魔様の指示だぞ!』

 

「は、はいぃ〜!」

 

 

 怒鳴られて震える河童たち。

 彼女らは急いで機械を持ち上げると“エッホエッホ!”と掛け声を出しながら山へと向かっていった。

 

 

『フフフフ……、新聞大会まであと少し…。その日が来れば俺は幻想郷の王になれる……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 天狗の組織というのはとても大きく、天魔を筆頭に、飯綱丸、他の幹部たち、下に鴉天狗や哨戒天狗。そして同盟相手として河童がいるようですが・・・。

 どうやらそこに綻びがあるそうです。
 (幹部天狗の元ネタは日本八大天狗です。リーダーを飯綱丸にしました)

 偽愛宕の正体、この時点で分かる人いますかね?
 当てられたら凄い笑
 
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