ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは

大変!遅くなって申し訳ありません…。
新年度が始まり、仕事が忙しくなりまして。とりあえず落ち着くまでに土日にしか書く余裕がありませんでした。失踪した訳ではないのでご安心を!













射命丸文とねずみ男③

 

 大会まで2日。

 2人(殆どが文なのだが)は新聞作りに励んでいた。集めた資料に説明するための記事を書く。しかしあの日以来愛宕に会うことはできなかったので、手元にあるもので作るしかなかった。

 

 

(でも、これは新聞というよりも週刊誌みてえだな……)

 

 

 きっと作っている文も作業をしながら感じているだろう。この今書いている新聞には決定的なものが足りていない。それこそが“真実の裏取り”だ。本当の事なのかを取材をしたり、渦中の人物に聞いて確認する作業が必要なのだが、それが出来ていない。

 

 

(そうなるとメッセージ性が大事になってくる、か…と偉そうにいうが書くのは俺じゃねえし。最悪優勝できなくても盗んじゃえばいいもんねぇ〜)

 

 

 突然、文の手が止まる。

 今書いている内容に疑問を持ち始めた。

 

 

(私の書きたいのは本当にこれなの?愛宕さんは実は偽物で…変な機械が……。違う…。違う!私の書きたいのはコレじゃない……!!目指していたものはこれじゃない!!)

 

 

(そう。私は人里や他の住人たちの素晴らしさを伝えたい。仲間たちには山だけに拘って欲しくない…!もっと外を見てもらいたい。なら書くべきものは──)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで新聞大会当日。

 文は手続きのため先に会場に行くと言い、ねずみ男に場所を指定してそこへと向かっていた。

 

 

「ひぃいい……何だよ、この崖は…っ。本当にこっちに会場があるのかよお〜」

 

 

 まさに断崖絶壁。

 ねずみ男は震えながら歩みを続けていた。そんな彼の背後にゆっくりと何かが近づいてきた。

 

 

「・・・ん?うわぁぁぁっ!?」

 

 

 ドンと押される。

 そのまま突き落とされて、ねずみ男は落ちていく。彼が最後に見たのはニヤリと笑う謎の男の姿だった。

 

 

『ふふふふふふ…』

 

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

 

 会場内部。

 文は手続きを済ませて、後からやってくるねずみ男の事を待っていた。だがいくら待っても彼はやって来ず、時間だけが過ぎていき、もう少しで大会が始まってしまう事に焦っていた。

 

 

(何やってんのかな…、ねずみ男さんは……)

 

 

 待ちながら、他の参加者の様子を見る。光のない目を開きながら全員静かに下を向いて座っているだけだ。不思議な事に彼らから生気を感じられず、葬式会場の真ん中にいるような感覚に襲われた。

 

 

「あ、あの〜今日はよろしくお願い……」

 

「・・・」

 

 

 文は話しかけるが途中で言葉を止める。聞く耳を持たず、振り返る事もしない。そして彼らは無反応というよりもそこにいるのは姿形が天狗だけの中身のない人形のようにも感じられた。

 

 

『そろそろ審査の時間です。皆さんお集まりください……』

 

「あっ…」

 

 

 時間が来てしまった。

 その言葉に反応して、座っていた天狗たちはゆっくりと立ち上がり、呼びに来てくれた大会側の天狗の後をついて行った。

 

 

(こんなに静かな大会は初めて……。はたても愛宕さんも居ないし、ねずみ男さんは結局来なかった……)

 

 

 ついて行った先には幹部たちや天魔が審査員として座っていた。参加者、観客席に座る天狗たち。全員が先程と同様、目に光はなく表情は脳面のように貼り付けたような顔で佇んでいるだけ。自分だけが別な世界に来てしまったのかと錯覚してしまう。

 

 

『では評価を始めま〜す……』

 

 

 まず初めに取り上げられる新聞。

 それを読んだであろう審査員が評価を始めた。

 

 

『何だよ、このゴミ。大体なんでこの内容なの?俺ならここはコウするけどネェ。努力が足らないんじゃない?あとさ前提として無意味な改行とか多過ぎて読みにくいから。読者のこと考えてるの?まぁっ、それ以前につまんないから』ゲラゲラ

 

 

 耳を塞ぎたくなるような罵詈雑言。自称アドバイスという名の自分のストレス発散のための悪口の連打。言っている方の声色は言うたびに楽しくなってきたのかテンションが高くなっていき、言われている方は虚ろな表情を崩さない。

 

 

(最低…。言い返せないのを分かってて……。それにあんなのアドバイスでも何でもないっ。酷すぎる…!!)

 

 

 頑張って作ったであろう作品を嘲笑し、目の前まで破る。天魔はそれを見ても表情を崩すことはない。上司たち全員で晒し首を用意し、笑っているようだった。その行為に悔しさと怒りが込み上げてくるが、大会という手前何もできなかった。

 

 

『怪奇新聞はやっぱり面白いナァ』

 

 

 今の所、唯一褒められているのは怪奇新聞。審査員はベタ褒めであり、幹部や天魔たちも一言も発しないが笑顔で読んでいるところを見ると好評のようだと受け取れる。

 

 

『最後は……くふっ、文か』

 

「・・・っ」

 

『ぷっ!何だよこれ!“組織の改善と変わることの勇気”ぃ……?ぶはははっ!よく!こんなんで優勝を目指そうと思ったな!才能無いくせに新聞なんか書いてんじゃねえよ。努力しても無駄なことくらい理解しろよ。ばーか』ゲラゲラ

 

 

 現在の天狗の組織の問題点を挙げ、それにより引き起こされるデメリットを元に丁寧に時間をかけてまとめてグラフにしたものを、それを目の前で破る。

 

 

「・・・あ」

 

『え?何?ショック受けてんの?ゴミになんだから別に良いじゃん。そんな事よりもお前が直ぐにすべき事はな、無駄な想像力を捨てる事だよ。どいつもこいつも面白くない!新聞記者ごっこの学級新聞!才能無し!文も、お前もお前も!やるだけ全部が無駄なんだよ!』

 

 

 ビリビリに破られた新聞。

 これまでの努力を目の前で踏み躙られる。しかし文は他の天狗たちとは違った。目から光は消えていなかった。ギッと目の前の審査員を睨みつける。

 

 

「・・・こんなの間違ってる」

 

『は?何?悔しいからって審査への文句は無いだろ。天魔さまも怒っちゃうぞ?』

 

「我々は記者です。プライドがある。だからどんな批評も意見もしっかりと受け止めるつもりです。そう……書いて世に出している以上、厳しい言葉も聞いて、成長していかないといけない」

 

『分かってんじゃん。なら何が間違ってるんだよ!』

 

「しかし!」

 

 

 その気迫に審査員は少し引く。

 ビクッと情けなく少し退いてしまう。

 

 

「しかし、貴方がやっているのは審査という名の暴言です。どこが悪いのかを言わずにただ人格を否定するようなことを言うなんて間違っているんです!!」

 

『・・・チッ、正論きっしょお。こんなくだらねえ大会にガチになってんじゃねえよ』

 

「な、何を言って……。神聖な大会でそのような言動は罰せられて…」

 

『はいはい。()()()()()()()()、ね。はぁーあ、もう良いや。虐めても折れないで立ち上がってウゼェし。相棒、術を解いていいぞお』

 

 

 そう言うと文以外の全てが重厚な靄へと変わっていった。今の現状を把握できていない文でも異常事態が起きているのは直ぐに分かった。

 

 

「会場が!皆んなの姿が・・・!!」

 

 

 立っていた場所から見える景色全てが変わる。どうやらここは天魔の部屋の前、つまり山の頂上近くであることが分かった。

 

 

『ふへへへへ』

 

 

 もう審査員の姿はどこにも無い。

 その代わりに、赤黒いローブを身につけた醜男が代わりに立っていた。墨のように黒い肌、分厚いたらこ唇にすきっ歯だらけの口、濁った垂れ目に黒く鋭い爪を持った男が馬鹿にするように笑いながら現れた。

 

 

「何者だ・・・、お前は」

 

『俺か?へへへ…。俺の名はぐわごぜ』

 

「ぐ、ぐわごぜ…?今一体何が起きて……」

 

『何だよ、理解できてねえの?想像力が足りてないんじゃな〜い?』

 

 

 頭をトントンと叩き、馬鹿にする。

 

 

『この会場も、観客も、そしてさっきまでの俺の姿も全部偽物なんだよーん!ここには俺とお前しかいなかったのさ。相棒は幻を見せる力を持っていてな。ここの連中は簡単に騙されてて笑いを堪えるのが大変だったぜ』

 

「ここの連中?まさか──」

 

『そのまさかだ。2ヶ月前から潜入していたのさ。立派な組織力とか誇ってたくせに、コロっと騙されるんだから笑いを堪えるのが大変だったぜ。でもやっと我慢せずに笑えるよ。うひゃひゃひゃひゃひゃあ〜〜〜!!』

 

 

 一通り笑うと、散らばっている新聞の紙切れをグリグリと踏みつけ、更には唾を吐いた。

 

 

『安心しろよな!お前以外の天狗全ては偽物でも、コイツらが書いたのは本物だからよぉ〜〜っ!!必死に書いてたのにご苦労なこった』

 

 

 どんな相手にも敬語を使う文でさえも口調が荒くなった。嘲り、騙し、馬鹿にされ、仲間の誇りが傷つけられただけではなく、ぐわごぜのやってきた所業にも怒りが込み上げてきたからだ。

 

 

「皆んなの努力の結晶を……っ」

 

『努力の結晶?ふん、俺が幻を使って書いた捏造まみれの怪奇新聞を称賛してた奴らの作った作品なんかどうせゴミじゃねえか』

 

「自分で作った?どこまで面の皮が厚いんだ。さっきまで自分の作品を自分で褒めるなんて……」

 

『俺は自画自賛が好きなんだ。だから気にしねえ』

 

「そんな事よりも他の皆んなをどこにやった!!」

 

『おいおい…、さっきからよぉ。良い加減落ち着けよ。全員閉じ込めただけだ、無事だよ。初めに愛宕を襲い幽閉し、俺が愛宕に成りすます。幹部の見た目だからか誰も疑わずに部屋に招き入れるから全員地下牢にぶち込んでやったぜ』

 

「閉じ込めた・・・。よかった、みんな生きてる」

 

『殺す訳ねえさ。死んだら想像力が集められないからな』

 

「想像力…?」

 

『そうさ。俺は他人から想像力を奪う能力がある。今から起こす大計画のために、この想像力が集まる新聞大会はうってつけだったから2ヶ月前から潜入してこっそりと奪わせてもらったのさ』

 

 

 

 ぐわごぜの能力。

 それは【想像力】だ。

 それは妖怪も人間も関係なく、どんな奴の頭の中に必ずある想像力や妄想を吸収して自分のものにできる変わった力だ。だが奪われた方は別にダメージを受けることはない。吸われた方は頭の中にある考え等を奪われてしまい、焦ったりストレスで周りを傷つけるようになる。

 

 だが対処はもちろんある。難しいことはない。ただ落ち着けばいいのだ。アイディア等は帰って来ないが、落ち着けばさらに良い事を思いつくかもしれない。文も一度奪われかけたが、ねずみ男に諭されたことで落ち着きを取り戻せた。

 

 

 これはきっと()()()()()()()()()()が大好きな“ぐわごぜ”の歪んだ心から生まれた能力だろうが、邪魔することに特化した能力であるため実害も無く何の役にも立たない。

 

 

 

「大計画…!?」

 

『説明するよりも見せてやるよ。天狗共から集めた想像力を妖気定着装置へと送り込む事でェェ〜〜〜……!!』

 

 

 濃い煙が定着装置内に吸収されていき、メーターの数値が98%となった。ゴウンゴウンと大きな音を立てて、上部に設置されているアンテナからバリバリと電気と電波が放射される。

 

 

()()()を発生させる!』

 

「怪気象・・・!?」

 

 

 山全体に広がる靄と装置中の想像力を含んだ電波エネルギーが混ざり合い、以前見たような靄のドームが山を包んだ。

 

 

『怪気象ってのは、怪奇現象を引き起こす異常気象の事さ』

 

 

 気持ちよさそうに説明するぐわごぜ。

 全ては自分の思い通りだと言っているようだった。

 

 

『相棒の幻を見せる靄と、定着装置内に入れた想像力を混ぜる事で怪気象を発生させ、そこから発生するエネルギーから()()()()()()()()()()()()事ができるのさ。さぁ、出てこいィッ!!』

 

 

 紫電が走る。

 猛烈な風が吹き出す。

 そして靄の中から見たことのない妖怪たちの群れが現れ始めた。意識がないのか虚ろな瞳で立っていた。

 

 

「・・・これはっ」

 

『そうビビるな。安心して良い。これは…そうだな、例えるなら立体映像……いや、逆に分かりづらいか。まぁ本物によく似た人形みたいなもんだ』

 

 

 そう言われて手を伸ばす。

 鉢巻を結んだのっぺらぼうは触れられた瞬間にパッと消えた。

 

 

『勿論触れば感触はあるが……本物の妖怪じゃない。ただ妖気を定着させて想像力を混ぜ込む事で、()()()()を作れるのさ』

 

「・・・昔、飯綱丸さんに“妖怪の中には人間の想像や想いから産まれた奴もいる”と教わった事がある。貴様、まさか新たな妖怪たちを生み出そうとしているんじゃ──」

 

『おお、正解だ』

 

 

 妖怪の姿は多種多様。だが分類分けが可能である。

 一つは、古くなったものから生まれる『付喪神』

 一つは、年老いて霊力を得た『動植物』

 一つは、喜怒哀楽といった『感情』

 最後に、人間の持つ未知への『恐怖』

 

 この『恐怖』……つまり闇の中に“何か”いるかもしれない、祠を壊したら“何か”に祟られるかもしれない、誰かに見られているかもしれない、跡をつけられているかもしれない、といった『想像力』から妖怪というのは生まれることもある。(べとべとさん、びしゃがつく等々)

 

 

『これこそが誰も成し得なかった【新妖怪】の誕生!コイツらは俺の指示通り動く人形であり、結果的に指示を与えられる俺がコイツらの王となる事ができる!そして怪気象は誰にも干渉されない不可侵の力が持つ』

 

 

 不可侵。

 つまり怪気象の中に出入りはできなくなる。

 

 

『つまり怪気象で包まれたこの山は外の世界と幻想郷から切り離された()()()()()、俺だけの国となる。俺はこの異界を拠点として、誰もが俺を称える民と共に、幻想郷に独立国を創造するのさ!!』

 

 

 紫電が更に強くなる。

 妖気定着装置を特異点として、幻想郷と外の世界の間を隔てる博麗大結界の間に無理やり何処にも存在しない異界を作り、割り込ませたのだ。

 

 

『うひゃひゃひゃ!!計画は大成功!わざとお前を残しておいて良かったよ!』

 

「なに?」

 

『苦しんでいる顔が見れるからだよ!昔から俺はなガキを虐めるのが好きなのさ!特に頑張っているガキはな!こうなるならもっともぉーっと……お前らの新聞(さくひん)を頭ごなしに否定してやれば良かったよなア〜ッ!!頑張る奴の足を引っ張る事こそ最高よなァ〜!』

 

 

 文の額に青筋が浮かぶ。

 ギリギリと奥歯を噛む。

 カッカとマグマのようなものが全身を駆け巡り、目が血走り、握り拳を無意識に作っていた。

 

 

「・・・けるな」

 

『あ?』

 

「ふざけるなっ!!外道!何が“最高”だ!!馬鹿にするな!ここにいる皆んながどんな想いで一生懸命に書いたと思っているんだ!」

 

『知らねえよ。ここにいるのは殆どが優勝も出来ないカス共。そんな大した人気もねえ作品にィ〜〜ッ、この俺がわざわざ目を通してェェ〜〜ッ、批評してやったんだぞォ〜〜ッ。感謝されたいもんだねぇエ〜〜〜ッ!!』ゲラゲラ

 

 

 文以外にも人気が出ずに燻っている天狗たちはいる。だが、彼らはそれでも適当にはならずに上達しようと勉強し、頑張って、何度も挑戦しているのだ。その行為に、上から目線で批評し、ストレス発散のためだけに意味のない悪口を言って、やる気と心を折り邪魔をする。そういう捻じ曲がった奴を前にして文の怒りが爆発した。

 

 

「殺す──」

 

『やってみろよ……と言いつつ相棒!!』

 

 

 シューと靄が何処からか吹き出す。

 しかし文は気にする事なく間合いを詰めて、ぐわごぜにスピードの乗った拳を突き出す。矛先は顔面、人中。

 

 

『──!!』

 

 

 見事にヒット。文に対して何も対処できない事から、天狗という種族よりも明らかに劣っている事と戦闘経験の無さを読み取る。

 

 

『ぶべらっ!?』

 

「まだまだァッ!!」

 

 

 鼻から血を噴き出して、背後に吹っ飛ぶ。

 追撃しようと再び地面を蹴って間合いを詰めようとするのだが、吹き飛んだ場所にはぐわごぜの姿はもう居なかった。

 

 

「なに…っ」

 

『い、今のは痛かった…!』

 

 

 背後から声がした。いつの間に回ったんだと振り返るが、そこには驚きの光景が映っていた。

 

 

『がふっ、俺は強い奴と戦うのは嫌いなんだ』『いつだって虐めたり殺したりするのは…頑張り屋の弱い子どもだけって決めてるのに』『でも相棒がいれば大丈夫』『今度はこっちの番だぞ、クソ天狗』

 

 

 目の前には数百体のぐわごぜ。

 奴らの会話から謎の相棒からの支援で増えた事は分かったので、この中の1人を除いた全てが幻だとは気づいたが、どうやって本物を見抜けるのかが鬼門であろう。

 

 

「こっちの番?自分の幻に包まれて勝ったつもり?笑わせないで。所詮は幻。本物を見つけてボコボコにしてやるわ」

 

『おいおい…。なに勘違いしてんだよ』

 

「は?」

 

『確かに今までならただの幻。だが、ここは怪気象の中って事を忘れてねえか?』

『幻に想像力と妖気を定着させて、俺の型を作っているんだぜ』

『つまり全員実体を持っているってコト』

 

「・・・!」

 

 

 直ぐに理解した。

 確かに幻なんだろうが、全員が本物の指示通りに動く。つまり相手は1人ではないのだ。

 

 

『さあて、気付いたところでお楽しみ(リンチ)タ〜イムの始まり始まり♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

(・・・・・ちゃん)

 

 

 誰だ。

 

 

(・・・ねずみ男ちゃん)

 

 

 誰だ。

 誰かが俺を呼んでいる。

 頭の中で声がする。

 

 

(起きて、ねずみ男ちゃん)

 

 

 

 

 

 

「──はっ!?イィッデデデェェ……ッ」

 

 

 誰かに呼ばれている。

 そう思って起きた瞬間、頭に鋭い痛みが広がり苦しむ。しかし痛みがあるので生きているのは分かった。周りに散らばる折れた枝から、どうやら崖に落とされた時に木々の枝がクッションとなり、頭を打った時のダメージを軽減したのだろうと察する。自分の事ながらなんて悪運の強いのだろうと感心してしまう。

 

 

「いきなり背中を押されて…転げ落ちて……。こ、ここは何処だ…ッ」

 

 

 周りを見渡すとどうやら地下のようだ。

 上に地上波の穴が見える。

 枝から枝へと引っかかりながら、ズルズルとここまで穴に落ちてきたのだろう。

 

 

「あーあー最悪だよ。あんなに高いところ、どうやって出れば良いんだぁ?」

 

 

 とりあえずライターを取り出して、辺りを照らす。

 ポタポタと雫が垂れていて、湿っぽい地下世界が辺りにはあった。止まっていても意味がない。とりあえず道が続いているようなので前へと進む。

 

 

「どのくらい寝てたんだ、俺はよぉ。いちちち……もう大会は終わったかもなあ。文ちゃんは優勝出来たのかなア……えっ!?」

 

 

 前へと進んでいるときらりと光る物が見えた。近づくとそれは水晶だ。自然に形成されて生まれた水晶があった。一瞬にして文のことを忘れ、水晶へと走る。

 

 

「マジかよォ〜!!うひひひぃ、売れば金になるかも。少し拝借……っと。こうなると奥にはもっとお宝が」

 

 

 果てもない道をとにかく真っ直ぐ進む。

 すると少し下へと降るための穴が見えてきた。

 

 

「・・・さて、入るぞ!待っててお宝ちゃん!!」

 

 

 穴を進んでいくと開けた場所に出た。

 全身土まみれになりながら、飛び出た場所はカビ臭く、何処か不気味でそれでいて嫌な気で満ちている牢獄であった。

 

 

「何だここは・・・。山の地下にこんな地下牢があるなんて・・・」

 

(誰かいるのか?)

 

「ひええっ、頭の中に声が!?」

 

 

 突如広がる声に怯えるねずみ男。

 一つの牢を覗くと、そこには鎖で全身を縛られて頭に護符を貼られた天狗の姿が見えた。また隣にも同様のがあった。

 

 

「なんだよ、これ。めちゃくちゃ天狗たちが捕まってんじゃん。全員で食い逃げでもして捕まったのか?」

 

(こっちだ。こっちに来てくれ)

 

「こっちって、どっちよ〜。と、とりあえず進むからストップって言ってくれ…」

 

 

 声に導かれて、とある牢屋の前に立つ。

 中を覗くと他の天狗とは違って、一際大きな天狗が誰よりも鎖などで強く拘束されて苦しそうにしているのが見て取れた。

 

 

(名も知らぬ者よ。我をここから出してくれ)

 

「出してくれって言われてもなぁ。牢屋に捕まった犯罪者を出すほど俺も堕ちてねえっての。しっかりと反省しな。・・・それにしてもアンタ、デカい天狗だねェ。赤嵐坊みてえだな。顔は全然違うけどよ」

 

(赤嵐坊を知っているのか?)

 

「あら、やっぱり有名人なのね。勿論知ってるよ。天狗ポリスの長で、堅物のめちゃくちゃ強い化け物」

 

(我は赤嵐坊の姉、天魔だ。邪悪な者の手によりここに封じられたのだ)

 

「ええーーーっ!!天魔ってここの偉い人でしょ!うひぃいいっ、弟さんのこと悪く言ってすんませんしたァッ!!」

 

 

 見えていないかもしれないが、とりあえず土下座をする。

 

 

(我をここから出してくれ。神通力を使い、外の様子を伺っていたが、このままでは幻想郷が大変なことになる。文が1人で戦っているが時間の問題だ。頼む)

 

「マジですか!?よっしゃ!任せてくださいよ……あっ、勿論お礼はお願いしますね。天魔様ぁ」グフフフフ

 

 

 ねずみ男を服の中に手を突っ込み、適当に弄るとクリップを取り出した。それを伸ばして、まず初めに牢屋の扉の鍵穴に突っ込む。

 

 

「ここをこうして、ちょちょいのちょい……っと」

 

 

 ガチャリと音を立てて牢が開く。

 中に入り、今度は鎖についている錠前にクリップを差し込みカチャカチャと動かして解く。そのまま手を伸ばして猿轡を外す。

 

 

「どうっすか?」

 

「……っぷは、ふぅ…感謝する。後は全身に貼られた護符だけだが妖怪が触れてはいけないらしい…。…どうやら君も妖怪のようだな。剥がすのは無理か」

 

「いや、多分大丈夫かも……っと」

 

 

 ベリリィィ…。

 ねずみ男は少し痛そうな顔をしながら、護符を全て剥がす。驚く天魔にねずみ男は恥ずかしそうに笑う。

 

 

「半分人間なんで少し痛いけど出来ましたね……」

 

「なるほど、半妖怪か。助かったよ、ねずみ男」

 

「あれ?俺の名前」

 

「神通力で外の様子を見ていた時に、文と関わっている君の事は勿論見ていたさ。では私は文の助太刀に行く。他の者も助けてくれ。お礼は勿論するからな」

 

「お任せをーーー!!」ビシッ

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 今ここで集団による暴力が振るわれていた。

 手足を押さえつけられて暴れて抵抗する文だが、流石に何体ものぐわごぜに掴まれれば無意味となる。

 

 

『うひゃひゃひゃあっ!!』

 

「ごふっ、がふっ」

 

 

 空を舞い、滑空して蹴りや拳を放つ。倒しては現れ、倒しては現れ、消費されるのは文の体力だけでぐわごぜは全然余裕そうである。疲労が見えてきた頃に1人が背中に飛びかかり、そのまま一緒に地面に落下。その隙に嬲られてしまう。

 

 

『泣けッ!泣けッ!泣けェェッ!!』

 

「う"ぅぅ…っ」

 

 

 5、6人で羽や手足を押さえつけている間に7人目のぐわごぜが愉快そうに笑う。ごしゃっと顔面に鋭い衝撃が走り、視界がぐらりと揺れる。すぐ続けて2発、3発と蹴りや拳が飛んできた。腹にも拳がめり込み、胃の中の内容物が逆流して口の中にビュッと込み上げる。

 ぐわごぜは殴り慣れていないので拳が痛くなったり、殴り疲れてくると、今度は8人目、9人目が襲いかかる。4発、5発、6発・・・。口の中が鉄の味でいっぱいになり、少しずつ意識が薄れていく。

 

 

『ぐふっ、ぐふふふっ……、なぁおい、この女の服脱がすぞ』

 

 

 1人のぐわごぜが言った。

 すると手足を拘束していた数人は頷くと服へと手を伸ばして──。

 

 

『辱めようぜ。ウケケケケ』

 

「あぅ、やめっ、やだっ」

 

『ハァ…ハァ……』

 

「やだぁぁあ……!!」

 

 

 ビリリリリィッ。

 鋭い爪で服を切り裂き、白い肌と淡い色の下着が露わになる。痣だらけの腹部が見えて、隠そうと身体をくねらすが手足を拘束されているせいで出来ずに恥ずかしさと痛みに悶える。

 

 

『ぐふふふふふ…!!次は下着を…』

 

 

 下衆な顔を浮かべながら、文の身体に手を伸ばす。嫌がる文の悲鳴がぐわごぜをさらに興奮させて鼻息を荒くする。

 

 

『何が見えるか、な・・・ぁ?がぶふ、ぅっ……?』

 

 

 ぐわごぜの心臓部分に穴が空いていた。

 突然の異変に対応しきれないまま身体が消失する。

 

 

『な、何だ…!?』

『おいっ、空に何かいるぞ!?』

『あ、あれは、まさかっ!!』

 

 

 見上げた先には巨大な翼。

 天狗たちを導く唯一の存在にして最強の1人。

 

 

「てん、ま、さま・・・!!」

 

『天魔だとオォォォーーーッ!?』

 

「よくぞ耐えたぞ、文。貴様ら、覚悟は出来ておろうな」

 

 

 大鷲の如き、白く巨大な翼。

 文の2倍もの身長を持ち、ミニスカートを身につけており、手には銃剣を持っていた。

 

 

「地獄を見せてやる」

 

『ひぃいい〜ッ!!ま、待て!何する気だ・・・!?』

 

「第六天魔王の一撃を喰らえッッ!!」

 

 

 銃口は妖気定着装置の方を向いていた。

 天魔とは、別名第六天魔王。その一撃こそは天下を総べる地獄の一撃。引き金が引かれて銃弾が放たれる。

 

 

 

──カチッ、ゴゴゴゴ……ッ

 

 

 

『あああ〜〜〜ッ!?!?定着装置がぁ〜〜ッ!!』

 

 

 妖気定着装置が火を吹いた。所々から小さな火花と爆発を引き起こし、アンテナから出ている電波や靄の中の紫電が乱れていく。ドーム状に固まっていた靄が砕けて、辺り一面に霧散していく。怪気象はゆっくりと消えていき、外と幻想郷の隔たりを司る博麗大結界の歪みも次第に収まっていく。

 

 

「文、立ち上がれ。馬鹿にされようと自分を曲げずに立ち向かってきたお前が決めるのだ!この山の靄を全て吹き飛ばしてしまえ」

 

「は、い…!!おぉおお……!!」

 

 

 彼女の手には既に団扇が握られていた。

 痛みに耐えながら文はそれを大きく振るう。

 

 

「全てを吹き飛ばせ!!──『風符「風神一扇」』ッ!!」

 

 

 今この場に巨大な竜巻が現れた。

 巻き起こされる風が周囲の靄を吹き飛ばす。偽物のぐわごぜ達や新妖怪達の姿も同時に消えていった。

 

 

『馬鹿なァァァッ!!俺の完璧な計画があああぁぁ〜〜〜…!!あ、ああ、相棒!相棒、逃げるぞ!!』

 

「悪いがお前の相棒とやらは共に逃げられないようだぞ。なぁ?」

 

『相棒!?』

 

【ぴぴぴぃ〜っ】

 

 

 『巨大な蛤』が天魔によって踏みつけられていた。

 逃げ出そうとするがその踏み付けの力から逃げることはできずにピクピクと動くことしかできない。

 

 

「それが・・・相棒?」

 

「ああ。これは【お化け(はまぐり)】。別名、(しん)という妖怪だ。何百年と生きた蛤は蜃気楼を出して人々を騙す……らしいが本物は初めて見たな」

 

 

 お化け蛤、蜃。

 上記の説明の通りで長年生きた蛤が霊力を宿して、蜃気楼を見せる力を持つようになった。ぐわごぜはお化け蛤と協力して他人に化けたり、色々な景色や環境を形成してきたのだ。

 

 

【ぴぴー…】

 

 

 蛤は苦しそうな声を出していた。

 天魔は更に足に力を込めるとバリリィッと音を立てて、殻にヒビが走る。

 

 

「ぐわごぜよ。自分の言うことしか聞かない民を作り、そこの王になろうとするとは所詮は子どもの飯事(ままごと)よ。元より王になる器など無いくせに高望みをするものではない」

 

『うううぅぅ……うるせえエエェェーーーッ!!』

 

「このっ、お前はもう終わりだっ!!」

 

 

 文が飛びかかり組み伏せる。

 ぐわごぜは悔しそうに顔をぐちゃぐちゃにして涙と鼻水を垂らしながら最後の力を振り絞って叫ぶ。

 

 

『終わらないィィ…、終われないィィィ……ッ!!ウガァァァーーーッ!妖気定着装置に残った全ての想像力よ、お化け蛤の元に集まれぇええい!!』

 

 

 叫びに共鳴する機械の中の想像力たち。ガタガタと震えて空へと舞う。

 

 

『【歪んだ想像力(ガンゴオジ)】!!』

 

【ぴぃいいい……!?】

 

 

 未だに煙の止まらない装置の中から大体30%程の残った想像力が這い出て、お化け蛤の体内に吸い込まれていった。天魔の足元にいた蛤はガタガタと震えるとピタリといきなり静かになる。

 

 

「殺生はしたくなかったがやむを得ん!このまま踏み砕くぅ、わっ!?」

 

【ぴきゃああああ──アアアァァァッ!!』

 

 

 お化け蛤は更に巨大化。

 乗っていた天魔はバランスを崩してひっくり返る。蛤のウネウネとした柔らかい部分が動き出し、形を大きく変化させる。

 

 

「嘘、でしょ」

 

 

 2枚の殻が黒い車輪となる。

 その車輪の間に屋形と呼ばれる箱。

 そして青く冷たく恨めしそうな巨大な人の顔が中央に現れた。ざっくばらんな髪の毛の中には鬼の角が生えていた。

 

 

『うひゃひゃひゃ……!暴れろ、お化け蛤……いや、想像力により進化を遂げた妖怪戦車……【朧車(おぼろぐるま)】よ!!』

 

『◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎ーーーッ!!』

 

 

 声にもならない慟哭を上げる。

 ギギギギィィ…と鈍い音を立てて車輪が回転を始める。初めはその場でゆっくりと、次第に勢いを増していき、地面に車輪の焼き跡が出来るほどの回転力が重なっていく。

 

 

「……!!」

 

『ガァアァァァーーーッ!!』

 

 

 とてつもない叫び声。

 その気迫に少し押されたと瞬間に、朧車の目から白い光線が放たれる。突然のことに対処しきれない天魔に光線が直撃する。

 

 

「う、うぅ……っ、なにが起きて…!!」

 

 

 天魔は自身の異変に直ぐに気づいた。

 足先や指先の感覚が段々と失われていく。身体中の関節が固まり、いつの間にか体が動かなくなる。肌から水分が失われていき、乾いた石のようになっていく。

 

 

「ああっ、そんな…っ」

 

 

 いつの間にか首から下が石となる。

 何も感じない、動かせない。

 石化の呪いのようなものがゆっくりと頭の方にも登っていく。

 

 

「ま、さか・・・」

 

 

 次第に舌の根本からも石に変化していく。

 声も出なくなり、内臓も石になっていく。目玉も石となり何も見えない。頭まで石なった時、抵抗なんて何の意味もなく天魔は石像となっていった。

 

 

「天魔さ──」

 

 

 突進。自身にも見切れない速さで巨大な牛車が文に突っ込んでいく。全身に直撃してくる朧車を右腕で防御するが、ドンと衝撃。全身の骨が軋む音と一撃が響く。骨にヒビが入るその音が、中から軋んで鼓膜を揺らす。

 

 

「っ、ぐぅぅういぃぃっ!」

 

『ひぃいいい…っ、相棒っ、俺も居るんだぞぉぉぉ……っ!?』

 

 

 ぐわごぜを押さえていたせいで片腕でしか防御ができずに吹き飛ばされる文。そして彼女を吹き飛ばした張本人は、足元の仲間に目を向けることはなく虚な瞳を文の方にギョロリと動かして追撃しようと再び車輪を回転させる。

 

 

『ゥゥゥ・・・』

 

『おおお、俺を無視するなぁぁぁ……っ!!』

 

『・・・』

 

『何だよ、相棒…!その目はァァァ……ッ!!お前を強くしたのは俺だぞォォォ…!!』

 

 

 朧車の目玉がギョロンと動く。

 二つの黒目がぐわごぜを捉えると、両目から光線が発射された。

 

 

『ひぃぃいぎゃああああーーーッ!?!?この俺がぁぁぁ…こんなと、ころ、でぇぇ…え………・・・ 』

 

 

 その場には、石化したぐわごぜが転がっていた。元々は仲間だったはずなのに暴走なのか、力を得て過信したのかは不明だが、力を与えてくれたぐわごぜは物言わぬ石となってしまった。

 

 

──グシャ…

 

 

 それを朧車は轢き、粉々に砕けるが、何とも思わずに文への追撃を開始した。ギギギギと朧車は歩みを進める。対する文は全身に受けた負傷を持ちながらも、ゆっくりと起き上がり、距離を離そうと逃げるように後方へと下がる。

 

 

(痛いっ、痛い痛い…っ、天魔様がやられてしまった…!次は私の番……!)

 

『ヒヒヒ…』

 

「嫌だ、嫌だ嫌だ、死にたくないっ!!来ないでっ!」

 

 

 そんな声は届かない。

 朧車の目がキラキラと白く光り始める。天魔を石にしたように、ぐわごぜを粉々にしたように、文の命ももうこの朧車の手のひらの中だ。

 

 

『ギィイイイ───!!』

 

「あ、ああ・・・っ」

 

 

 朧車の目から光線が放たれた。

 全身の骨が折れているのか動けずに、これ以上逃げる事もできずにやられてしまうのだ。

 

 

(もう、ダメ──)

 

「文ちゃんっ!!」

 

 

 光線が直撃しようとした、瞬間。

 誰かが飛び込んできた。

 それはあの時突然いなくなってしまった、共に新聞を作ろうと協力した、あの男が。

 

 

「ねずみ男、さん・・・!!」

 

「うおおおおーーーっ!!」

 

 

 ねずみ男だ。

 水晶をその腕に一杯抱きしめ、盾のように向けて光線の前に立つ。水晶の中で何百回も反射を繰り返した光線が朧車に跳ね返る。

 

 

『うっ!!があぁぁ……っ、ひいぎぎぃ〜〜っ!?!?』

 

 

 苦しそうな声を上げる朧車。

 石化する様子はないが、反射した光線という想像もできなかったまさかの反撃に悲鳴を上げる。目を痛めたのか、目を閉じて涙を垂らしているので効いてはいるのだろう。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ、あ、あはは…っ、やったぜ」

 

 

 一矢報いたからか緊張の糸が解けて、そのままバタリと倒れる。水晶は粉々に壊れていた。もう一度の反射はできないだろう。倒れたねずみ男に文は駆け寄ると、照れくさそうに笑った。

 

 

「ねずみ男さんっ!」

 

「へへへ…、俺は大丈夫さ。それよりも今だぜ。文ちゃん。奴を倒すチャンスだ…!!」

 

「・・・!はいっ!」

 

 

 ねずみ男が使った水晶を拾う。

 痛む体に鞭を打ち、残っている力を全て振り絞って空を舞う。文は未だ苦しむ朧車を睨みつけ、最後の一撃を加えようと助走をつける。

 

 

『ウウウゥゥゥ……ッ!!』

 

(仲間を嘲笑い、手をかけ私たちの誇りを汚す。そして何よりも人の頑張りを馬鹿にするその所業…!絶対に許さない!!)

 

 

 水晶の先端を向けて、大回転。

 風を纏うその姿は“台風のドリル”!!

 

 

「その腐った根性ごと・・・砕け散れェェーーーッ!!」

 

『アァッ!!』

 

 

 目を開き、朧車が見た景色。

 それは自分に迫ってくる大嵐。

 

 

「『風神「天狗颪」』ーーーッ!!!!」

 

『ガァア──────』

 

 

 巨大な顔面の眉間に穴が開く。

 貫き、朧車は粉々に砕け散った。車輪は割れて、砕け、貝殻に戻る。あんなに厳々とした屋形は柔らかい肉へと堕ちる。鬼のような顔面は夢のように儚く消えていった。

 

 元のお化け蛤の姿に戻るが、そのまま肉体は消滅して魂は何処へと飛んでいった。

 

 

 

「文、大丈夫!?……って、あれもう終わったの?」

 

 

 はたてを筆頭に囚われていた天狗たちがゾロゾロと現れる。それぞれが武器を持って文を助けようと来たのだが、全てが終わっていることに全員が驚き、文の方を見る。

 

 

「まさか文が倒したのか!!」

「おおおおーーーっ!!天狗がやり返したぞ!」

 

 

 喜ぶ声を一斉に上げる天狗たち。

 ホッとする文とねずみ男。

 そんな歓声を上げる天狗たちの元に天魔が降臨する。朧車が倒されたことで元に戻ったのだ。

 

 

「て、天魔さま…!!」

 

 

 喜んでいた声が静まり返り、全員が平伏する。

 天魔は全員に顔を上げることを許可し、言葉を続けた。全員が黙ってその言葉を聞く。

 

 

「我らは未曾有の危機に陥り、あと一歩のところで敵の策により幻想郷を壊してしまうところであった。私だけではなく幹部までもがやられてしまい不甲斐ないの一言で済まされない」

 

「自分の都合のいい言葉だけを信じ、情報の判断をしてこなかった。自分たちの種族と力を驕り、自己研鑽を怠ってきた。更には上司の言葉は絶対という上下関係。・・・何も変わらず、そのままでいた自分たちが招いた結果でなかろうか」

 

 

 全員がその言葉にハッとした。

 思い当たるところがあるのだろう。悔しそうな顔をするものや、自分の情けなさ、自分への怒りで顔を歪める者もいた。

 

 

「あの敵……【ぐわごぜ】は、元々は元興寺という寺の下男。そして妖怪になる前は師の物を勝手に売り、弟子の坊主たちへ嫌がらせをしてきた。バレて追放され、死んでから妖怪になっても性格は変わらずに元興寺に現れる鬼として子ども達を虐めて殺してきた。何も変わらない…、()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

「我も含め、我々は変わらなければならない!山を管理し、幻想郷を守る一員として成長していかなければならないのだ!!」

 

 

 天魔は文を見る。

 その瞳にはいつも通りの威厳だけではなく、感謝の念も感じられた。

 

 

「文は先に変化を受け入れ、変わろうと努力し、我々に訴えてきた。そんな彼女だからこそこの危機から我々を救ってくれたのだ」

 

 

 天魔はある物を取り出して、全員に見せた。それは文が作成した新聞である。その内容は偽物の愛宕天狗のことだけではなく、現状の危機と天狗たちは変わらなければならない、というメッセージも込められていたのを天魔は読んで知ったのだ。

 

 

「今回の大会の優勝は──文だ!!優勝賞品は後日渡そう」

 

「・・・!!」

 

「次からは我々の偉業などではなく、変化したこと、誰かと協力する事も採点の内容に含める。以上だ。我は今から八雲殿の元に行き、ことの顛末を話してくる。全員は会場の修復と、これまで以上の鍛錬に励め!──では!」

 

 

 一瞬にして消える天魔。

 そして再びの歓声が上がる。全員が文の元にやってきた。感謝をしたり、今まで馬鹿にしてきたことを謝罪するものもいた。文は照れくさそうに対応し、ねずみ男はそんな笑う彼女を見て、そそくさと帰っていくのだった。

 

 

 変化を拒むものは必ずいる。

 

 いつだって変わろうとする者とそうでない者は争い続けるであろう。

 

 だが、天狗たちはここから一歩ずつ変わっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日。

 ねずみ男の元に優勝賞品と天魔からのお礼が届いた…。

 

 

「これが賞品とお礼・・・?」

 

 

 優勝賞品は天魔の直筆のサイン色紙。『ねずみ男くんへ、天魔』と書かれている。もう一つのお礼の方は天狗と河童の共同作品であるきゅうり1週間分であった。サイン色紙は他の天狗達からすると名誉あるもので、今後の昇給にも関わる。そして共同作品のきゅうりは栄養価が高く、機械や農薬に頼っていない状態で完璧を追求して作られたものであり、数が少ない超レアなのである。

 

 

「・・・こんなの嬉しい訳あるかアァァァーーーッ!!やっぱり天狗なんか大嫌いだァァァーーー!!」

 

 

 

 





長文お疲れ様でした。
急いで書いたので粗雑な内容は申し訳ないです。

 ぐわごぜ、別名『元興寺の鬼』の説明は天魔が言っておりますので省略。
 ぐわごぜの能力は4期のを参考にしました。
 ねずみ男が気絶してる時に頭の中に響いた声の主は一体誰なのか・・・、怪気象が引き起こした幻なのか、別の次元からの介入なのか、それは読み手次第です。

 この朧車は本物ではなく、想像力でぐちゃぐちゃにされその姿になりました。本物をこの小説に書くときに説明などをしたいと思います。


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