ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは!狸狐です。

 仕事でのミスや嫌なことが続き、病んでいました。
 そして更にGWで休んでいた事もあり、明けには仕事に行きたく無いなとまた病んでました。

 そんな気分で書きました〜〜…
















気力?無気力?ぐーたら幻想郷①

 

 ◻︎◻︎年前、幻想郷。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ、くっそ……!!」

 

 

 手足に力が入らない。

 目の前の敵に立ち向かおうとする気力、()()()()()()使()()が失われていく。全てを投げ出してしまいたくなる気持ちに段々となっていく。

 

 

「も、もうダメ…」

 

「紫!!」

 

 

 共に戦ってくれていた仲間が膝をつく。あんなにやる気に満ちていたのに地面に伏してしまった。他の頼りになる者たちも既にやられてしまい、残っているのは自分だけであると察する。

 

 

「あとは頼む、わ…。()()()()()……。ぐっ…」

 

「やって、やるわよ…!!あんなのこの世にいてはならない!」

 

 

 頬を叩く。

 気合いを入れろ。

 ゆっくりと、それでも力を込めて、足に力を込めて地面を蹴り上げ、走る。

 

 

「天よ、地よ、廻れ廻れ…!進みゆく時と命の元に!古の悪を一撃で屠たまえ!!」

 

『・・・!』

 

 

 目の前の敵は驚くが、直ぐに興味をなくす。大きな欠伸を一つしてから地面に転がる。

 

 

「ガアアーーーーーッッッ!!!!」

 

『・・・』

 

 

 護符を敵に貼り付ける。

 このままではただの紙切れだが、詠唱を行うことで紙に()を降ろし、悪きものの力と体を奪う武器となる。

 

 

「夢想封印ッッ!!」

 

 

 詠唱終了と共に、敵の頭上に五芒星と『封』の字が浮かぶ。敵は驚いたり、抵抗するような素振りもなく素直に封印を受け入れていた。身体が霧散していき最後に笑った。

 

 

『これで眠れる……』

 

 

 そう言葉を残し、封印された敵。

 護符には敵の姿が浮かび上がり、完全に封印されたことを示していた。巫女はそれを拾う。

 

 

「終わったようね」

 

「ええ。今までにないくらいの敵だった。……ホッとした」フゥ

 

「それ、どうするの?」

 

「大切に保管するわよ。コイツは世に出て良い妖怪じゃないからね」

 

 

 そう言って、倉の中に保管する。

 箱の中に、もしもの時のための妖怪の詳細をまとめた封筒と護符を入れておいた。だがこのまま誰にも見つからず忘れられるのが1番好ましい。

 

 

「そうは言っても普通、煎餅の箱に入れておくの?不用心じゃない?」

 

「ふふん、紫には分からないでしょうね」

 

「何が?」

 

「木を隠すなら森の中。なら物を隠すなら物置の中よ。変に神社の中に隠したら逆に目立つって考えよ。どんな賊でもまさかゴミ置き場に封印された妖怪がいるとは思わないでしょ」

 

「そういうもんかしら…」

 

「それに昔からゴミ置き場になってる。誰もわざわざ倉に行こうと思わないわよ」

 

 

 妖怪にとって忘却こそが死に繋がる。こんなのはあまり好ましく無いが、そうなってくれる事を願いながらしまうのだった。

 

 

「・・・さぁ、永遠に眠りなさい。それが貴方への唯一の救済よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いわね、これは。ゲホッゲホッ…」

 

 

 現代。

 その倉を霊夢を掃除していた。いや、掃除というよりも“漁っている”という表現の方が正しいだろう。無数に積まれたガラクタを一つ一つ外に出していた。

 

 

「邪魔するぜェ」

 

「ゲホッゲホッ、ねずみ男…」

 

「よっ。腹減ったから(たか)りに来たんだよ」

 

「集り…ってアンタねえ。悪いけど何も無いわよ。ここ最近は参拝客も来ないし、私だって毎日雑草ばっかり食べてるのよ」

 

「ケッ、来るとこ間違えたな。それでそっちは何してんだよ?」

 

「流石の私も毎日雑草はキツいからね。何か売れるものないか探してるのよ。でも家には売るものは何もないから倉を久しぶりに開けてみたのよ…っと」

 

 

 後ろから覗くと倉の中は本当に沢山のガラクタがあった。埃を被った日本人形や鳥や狸の剥製、そして骨董品であろうか分からないが刀や壺などが見える。

 

 

「んー、どれもこれもゴミばっかりねぇ。先代もガラクタを残して何がしたかったのかしらねェ」

 

「この壺は?売れそうだけど」

 

「ダメダメ。ほぼ壊れてて買い取ってもらえないわよ」

 

「この沢山の箱は?」

 

「空箱よ。振っても何も音がしなかったの。何か入れてるならまだしも空箱をこんなの集めておくなんて阿呆らし。あとで全部処分ね。……お!これなら売れそう」

 

 

 比較的に綺麗で形の整った物、お宝を見つけると喜ぶ霊夢。ねずみ男には目をくれず、自分の仕事をせっせとこなして行く。ねずみ男はその行為に対して興味は薄く、お宝アンテナも反応しないことから、この神社にいても特になることはないと早々に察し、帰る準備をする。

 

 

(ちぇっ、何もねえし帰るかな…)

 

 

 帰ろうと体を反対に向けた時に足先が埃を被った古い煎餅の箱にぶつかる。カランと乾いた音の中にフサァと別な音も聞こえた。

 

 

「ん?」

 

 

 煎餅の箱を拾い、霊夢にバレないようにこっそりと振ってみる。振ってから耳を当てると微かに紙切れの擦れる音が聞こえた。

 

 

(もしかしてこりゃあ・・・へそくり、か!?先代とかいう奴が忘れてったのか!明らかに……数枚はあるぞ、これ!霊夢の野郎は気づいてねえみてえだし…。このまま処分されるよりは俺が貰ってやるか……)グフフフフ

 

 

 ねずみ男はニヤリと笑う。

 幸いなことに霊夢は気づいてはいないし、興味もなさそうだ。そして全てを空箱だと思い込んでいる節も見られる。

 

 

「ねー、この箱もらって良い?」

 

「良いわよー。でも空箱なんか何に使うのよ」

 

「アクセサリー入れにしようかなってよ」

 

「なるほどねー……って、小物入れ!?アンタみたいなガサツな男が小物入れ!?」

 

 

 その発言に驚き、振り返るがもうねずみ男の姿はどこにもなかった。何かの箱だけを持って消えてしまった。

 

 

「いない。・・・まっ、いっか。アイツだって小物くらい持っているだろうし。他に売れるものは〜〜〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博麗神社から逃げるように走り出す。

 神社と里のちょうど中間地点辺りでもう良いだろうと思って、走るのをやめた。じんわりと汗が噴き出すが、気にする事なく近くの岩に腰掛けて、直ぐに箱を開けた。

 

 

「さぁて、幾ら入っているのかなぁ〜……。んん?何だ、これェ」

 

 

 中に入っていたのはボロッボロで少し虫に食われた封筒と札が入っていた。色も空気のせいか、黄ばんでおり一般人ならば汚らしく感じる。まぁ、ねずみ男にとってその程度の汚れは全く気にならないが。

 

 

「先代の仕事道具か?まぁ何にせよ…、使い道のねえゴミよなぁ。封筒の中は気になるから読んじゃうけどネ」

 

 

 ボロボロの封筒から折り畳まれた紙を取り出して、中身を読む。あまりにも達筆な字なのと至る所を虫に食われていたので中々に読むのは苦労する。

 

 

「なになにぃ……」

 

 

 

 之を読む者へ

 

 私こと、博麗……は幻想郷に危機的状況を齎す妖怪、『……虫入道』を封じた。

 この妖怪は人々のやる気と……を奪い、人を無気力にしてしまう。これだけの能力ならば見逃すが、恐るべきことに……。

 

 この妖怪の………は時間が経つにつれて、……が伝染していき…。

 

 

 

「よっく分かんねえなア。肝心な所はボロボロだし。まぁ用は人のやる気を奪うだけの妖怪がこの札の中に封印されてるって訳だよな。そんなに危険かねェ」

 

 

 ねずみ男は少し考える。

 そして、少し経ってからニヤリと笑う。

 

 

「……こいつを使えば金儲けができるカモ。ぐふふのふ〜。どうせ大した妖怪じゃねえし、俺が上手いようにコントロールしてやるか」

 

 

 札を手に取り、ねずみ男はビリリィッと破った。パラパラと散る紙吹雪と共に黒い煙が現れた。それはねずみ男の前で煙が固まっていき、形を成すと実態を持った。

 

 

『・・・ふあぁぁ〜〜。よく寝たァ。けどまだ眠いやぁ……』ムニャムニャ

 

「お、お前さんが封印されていた妖怪か?随分とまぁ凄い見た目ね・・・」

 

 

 現れたのは、坊主頭の男だった。だが普通の何処にでもいるような男では無い。上半身は人間なのだが、下半身が芋虫であり、見ていて不快感や気持ち悪さが込み上げてくる姿だった。

 

 

『そう…だよぉ……。オイラは火間虫(ひまむし)入道…。ぐぅぐぅ……』

 

「暇…?聞いたことねえが、随分とのんびりした野郎だな」

 

 

 

 『火間虫入道』

 虫と成人男性の合体した姿をした妖怪。上半身は人間、下半身は昆虫(それも芋虫的な感じ)といった奇妙でおどろおどろしい姿をしているのだが、性格はのんびり屋である。争い事を好まず、常に気怠く眠そうな顔をしている。

 

 元々は普通の人間ではあったのだが、生粋の怠け者であった為に死後このような妖怪へと変貌した。

 

 

 

『ぐぅ…』

 

「おい起きろ!お前の力が必要なんだよ」

 

 

 ペシペシと頭を叩く。

 何度か叩かれると嫌そうな顔をしながら目を覚ます。

 

 

『力なんて貸したくないよぉ。やだよぉ。働きたくないよぉ。大体オイラに出来ることなんて何も無いよ。頼る奴間違ってるよォ』

 

「何も力仕事しろとか言ってるんじゃねえよ」

 

『エェ〜?』

 

「俺が必要としてるのは人手じゃなくて、お前の能力だ。……ったく、俺だって幾ら困ってても猫とお前みたいな虫男に手は借りねえよ」

 

『能力ぅ?オイラを封印した奴は最悪な能力って言ってたのにィ?』

 

「どんな力も使い方。俺が上手く使ってやるからよ。それに、誰かの役に立てるって良い気持ちになるもんだぜ?」

 

『ん〜〜〜…どうしようか…ぐぅ…』

 

「・・・この野郎!!」

 

 

 ビビビビィッ。

 慣れたような手つきでビンタの雨。久しぶりにねずみ男の得意技の一つであるビビビンタの炸裂だ。頬を腫らした火間虫入道はイテテと言って目を覚ました。

 

 

『ごめん。悩んだりするのって面倒だし……寝ちゃおうかなって…』

 

「次寝たら屁をこくからな」

 

『そんなに怒らないでよぉ。お詫びにちゃんと協力するからさ』

 

「本当だな?」

 

『本当だよぉ。ただ歩くの面倒だから背負ってねェ』

 

「ケッ、調子のいいやつ」

 

 

 

 ゴロンと転がる入道を持ち上げる。

 眠っている子どもや脱力した物、ただの物体を持ち上げたようにかなりの重さだ。ある程度覚悟を決めるとヒィヒィ言いながら移動するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「へへへ…、まずは実験だな。どこかに丁度良い実験体は居ねえかなア」

 

 

 ぐうぐうと寝息を立てる入道を背負いながら、ねずみ男は里中の人間を路地裏から観察していた。こんなヘンテコな姿のやつを背負って歩いていたら注目されたり、怪しまれてしまうので、隠れてやるしかない。

 

 

「・・・おっ!良い感じのガリ勉発見」

 

 

 そんな時に教科書を読みながら歩く青年がいた。ねずみ男はニヤリと笑って影から後をつける。長い間悪いことをしてきた賜物だろう。気づかれることなく青年は家を特定されてしまった。

 

 

「ここだな。……おい、起きろ」

 

『ん〜〜』

 

「着いたぞ。この家の坊ちゃんに取り憑け」

 

『もう着いたんだぁ。うぅ、動くかぁ。あーあ、ちょっと寝たかったなぁ』

 

 

 文句を言いながらねずみ男の背中から降りる。下半身の芋虫部分をウニウニと動かしながら、ゆっくりと移動して敷地内に入って行った。

 

 

「さぁて、ガリ勉はここからどう変わるかなあ。ウケケケケ」

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

『ここかなぁ〜』

 

 

 地面を這い、床下に潜る。気怠そうに、それでも慣れたように火間虫入道はガリ勉の今立っている位置に移動する。そのまま足元から染みのように身体を広げていきゆっくりと取り憑いた。

 

 

「ん?うわっ、床が濡れてる!?」

 

 

 勉強している途中の出来事だった。

 足元に違和感を感じて見てみれば床が濡れていた。手元に置いた飲み物を確認するが倒れているわけではない。ただ地面から滲み出てきたかのようである。

 

 

「ボロ家め…。早く金持ちになってもっと良い家に住んでやる…。その為にも勉強して良い会社に入って偉くならないと・・・」ブツブツ

 

『馬鹿だなぁ』

 

「!?」ビクゥッ

 

 

 突然の声に飛び跳ねた。椅子に座っていたのだが、そのまま転げ落ちる。痛む頭を抑えつつ周囲を見てみるが、周りには誰もいない。

 

 

「げ、幻聴?疲れてんのかな…。くそ、疲れてる暇なんかないのに……」

 

 

 そんな時だ。座り直して鉛筆を手に取る。ノートに書き込もうとした時にベキと嫌な音がした。

 

 

「チッ、芯が折れた…。ええと、カッターは…」

 

 

 カッターを探そうと机の中を漁る。その時の不注意で手を机にぶつけてしまい、そのまま置いておいたコップを倒し、中身を全てひっくり返してしまった。

 

 

「うっわ!やっちまった…!くっそ…。最悪だ。あーもー!何なんだよ、さっきから…」

 

 

 ノートはびしょびしょ。

 片付けをしている間に一気にやる気を失ってしまう。座布団にどかっと座り、そのまま寝転んで天井を見上げた。

 

 

「クソが。勉強のやる気が失せちまったよ」

 

『ならこれを機に勉強なんか止めようよぉ』

 

「うわっ!?やっぱり聞こえる!?」

 

 

 幻聴なんかではない。

 何処からかと言われたら分からないとしか言いようが無いが、この部屋の中で確かに聞こえたのだ。

 

 

『このまま何も考えずにボケェッと空を眺めてさ、寝落ちするんだ。めちゃくちゃ気持ちいいぞ〜』

 

「この声、自分の頭の中から…!?」

 

 

 誰もいないのに自分の頭の中に声が響く。もしかしたら、この声の正体はもう1人の自分なのかもしれない。いやそれとも何か重大な病気になっていて幻聴が鳴り響いているだけなのか。色々と考えるが、その考えの中で共通しているのは自分の頭の中から聞こえてくるというものであった。

 

 

『そう。オイラはもう一人の君だ。勉強ばかりしている君を止めに来たんだよぉ』

 

「ふん。もう1人の自分だというなら僕が止める気がない事くらい分かるだろ。考え無しに僕を作って、旦那に早々と捨てられた馬鹿な母ちゃんみたいになりたくないんだ。絶対に幸せになるんだ。その為には学力は必要なんだよ」

 

『ふ〜ん』

 

「分かったなら黙ってろ。僕はなんと言われようと勉強を続けて、名門一家の所で働くんだからな」

 

 

 自分の心の中のモヤモヤを吐き出した。

 どうだ。何も言い返せないだろ、と多少スッキリとした気持ちになる。もう1人の自分は少し黙ってからポツリと口を開いた。

 

 

『なんか君って馬鹿なんだねェ。お母さんそっくりだ』

 

「なにっ!?」

 

 

 言われたくないことを言われて、飛び起きる。

 もう1人の自分の言葉とはいえ聞き捨てならなかった。

 

 

『馬鹿だよ、馬鹿。大馬鹿だ。良いことを教えてあげるよ。この人里でどんなに勉強を頑張っても意味なんか無いんだ。やるだけ無駄だったんだよ。ご苦労さん』

 

「何だと!?いい加減なことを言うな!!」

 

 

 激昂するガリ勉。あまりの怒りに眼鏡がずれるが気にすることなく、自分しかいない部屋で怒鳴り散らす。しかし内なら自分は至って冷静に続けた。

 

 

『君の言う名門一家って稗田(ひえだ)家の所だろう?』

 

「そうだ。名門の稗田家だ。『幻想郷の書記』という立派な役割を持っていて、そこで毎年行われる筆記試験と面接に合格できれば、共に歴史の編纂の手伝いができるんだ。給料も良いし、そこで働けるのはとても名誉なんだぞ!!」

 

『でも、あそこの試験を受けれるのは“名家”だけだよ』

 

「・・・え?」

 

『あれ?知らなかったの。なら良い機会だ。教えてあげる。確かにあそこは毎年人員を募集している。そこでは、かなりの学力と人となりが求められる。だけど……それだけじゃあない』

 

 

 声は段々と大きくなる。

 耳を塞ごうにも頭の中で響く声はどうしても聞こえてくる。

 

 

『学力と性格、そして“価値”を求めているんだ。募集で集められた稗田家で働く者たちはそれなりの名家の人間だ。そりゃあそうだよね。名門一家に一般庶民は必要ない。汚れた血なんか欲しくない。そんな奴と働いて、何か粗相でもしでかしたら稗田家の価値が下がっちゃうもん』

 

「そ、そんなのって…」

 

『生まれた時からの“勝ち組達”の中でも更に努力を重ねた奴が行ける世界だ。それで君はどうなの?』

 

「あ、ああ……」

 

『どこの誰かも分からない奴との間から生まれた価値のない君が努力したところで“出生”には敵わない。そこは努力じゃひっくり返せない。それが現実なんだよ』

 

「うっ、ううっ、そんな、そんなぁぁぁ…」

 

『ねぇ、それでも勉強なんかするの?』

 

「分かんないっ、分かんないよっ、唯一の夢が消えたんだ。僕はこれからどうすれば良いのか分かんないよ…。うっ、ううっ、教えてくれよ!!」

 

『そんなの簡単だよ』

 

「え?」

 

 

 もう1人の自分は明るく言った。まるで何も悩む事はないんだよと、初めから全てを知っていてどうすればいいのかという解答を持っていたかのように明るく言った。

 

 

『寝ちゃえばいいんだよぉ〜〜〜』

 

「ま、待って!待ってよ!それじゃあ何の解決にもならないじゃないか!?」

 

『そうだよ〜』

 

「そうだよ、って……!ふざけてんのか!』

 

『でも今の状態で次どうしようかって考えられるの?』

 

「それはそうだけど…」

 

『自分を次に進めるために今は休むんだよ…。今はそれが必要なのさ。さあ、そのまま目を瞑って……』

 

 

 少し少年は悩み、そして頷いた。

 

 

「分かった」

 

 

 ゆっくりと目を瞑る。

 そう言えば、最近こうやってゆっくり眠ろうとしたことはなかったな。いつもは勉強しなきゃって焦ってたけど、それが無くなるとこんなにも楽になるもんなんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 少年が目覚めたのは正午過ぎの事であった。寝過ぎたと後悔しつつ、台所で適当な物を胃に放り込んで、また布団に横になる。いつもは食べる時間を割くか、軽食のみだけだったが、久しぶりにお腹いっぱいになったのだ。

 

 

「ふぅ…、さぁてこれからどうしようかなぁ」

 

『とりあえず寝てから考えようよ。お腹いっぱいだとまともに思考なんて出来ないよぉ』

 

「確かに…」

 

 

 ゆっくりと。

 ゆっくりとゆっくりと確実に。

 怠惰という甘美な毒が全身を蝕んでいった。

 

 

 

 

 

 

 3週間後。

 部屋から出てこない我が息子を心配した母親が部屋の前に来た。息子は旦那に捨てられ貧乏暮らしをさせてくる母を恨んでいたが、母は息子を愛していた。少しでも楽をさせようと朝から晩まで働いて、勉強を頑張る息子を応援しようとしていたのだが、最近部屋から出て来ず姿を見せない息子が何をしているのか気になり声をかけた。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 返事はない。

 戸に手を伸ばす。

 

 

「入るわよ」

 

 

 少し開けて部屋を覗く。カーテンで陽の光が入らず、昼間だというのに薄暗い。そして汗だけではなく何か…糞尿のような臭い匂いが部屋の中に充満していた。

 

 

「何これ……!?あ…」

 

 

 茶色に変色した布団の中に前よりも痩せこけた息子がいた。一瞬、死んでしまったのかと思ったが、呼吸のリズムに合わせて体が動いているのを見て、ほっとはする。

 

 

「ん〜。開けないでよぉ。眠いよお」

 

「ね、ねえ!どうしちゃったの?どこか悪いの?」

 

 

 返事をしたので起きている。

 体調でも悪いのかと問うと息子は呟いた。

 

 

「……さい」ボソ

 

「え?」

 

「面倒くさいよお〜〜。閉めに行くの面倒臭い。お腹減ったけど食べに行くのも面倒臭い。お風呂もトイレも面倒臭い。こうやって喋るのも・・・めんど〜くさぁ〜〜い」

 

「!?」

 

 

 明らかに異常事態だった。

 あんなに真面目だった息子がこんな風に自堕落になるなんて考え付かなかった。何かあったのか、心が折れたのか、この姿を見て一瞬で色々と頭の中に嫌なことが浮かんでくる。

 

 

「めんどくさいから寝ちゃお〜……ぐぅ…ぐぅ」

 

 

 母親の気持ちなんかつゆ知らずぐうぐうと寝始めた。母親は少しボォっとしていたがすぐに我に帰り、家を飛び出した。

 

 

「息子があんな風になるなんて…!!こんなの絶対に何かあったに違いないわ!?もしかしたら何か悪いものに取り憑かれたのかもしれない!」

 

 

 絶対におかしい。

 いきなり人が変わるなんてあり得ない。これは妖怪のせいに違いない。そうじゃなくても何か力ある者からの助言が欲しい。そう思って向かった先は一つだけだった。

 

 

「博麗神社に行かないと……きゃああっ!?」

 

 

 ゴチン。

 焦っていたので目の前の人にぶつかってしまった。尻餅をつき、相手の方を見ると、目の前には──。

 

 

「巫女……さま…?」

 

「そうよ〜。おほほほ、んふふふふふふ」

 

 

 白粉をべったりとつけた白い顔に、適当な口紅。

 目立つほどの出っ歯を曝け出して笑う巫女服を着た男のような女、いや女のような男、どちらかは分からない人物が立っていた。

 

 

「私は博麗神社からやってきた博麗出張サービスのNo. 1お祓い巫女の“ビビ子”でございますぅ。因みに博麗霊夢の師匠でもありましたわ。おほほほほ」

 

「は、はぁ」

 

「悪い気配につられてこの家に来てみたのよ。そしたら案の定、悪い妖怪が憑いておりますあられけるわ〜」

 

「やっぱり…!!あ、あのビビ子さま!私の息子が!」

 

「皆まで言わなくても良いぞよ。さぁて息子の元へ案内するのじゃ」

 

 

 ビビ子を息子の部屋まで連れて行く。

 息子の方は何も気にせず、ぐうぐうといびきをかいて寝ていた。そんな息子の姿を見て泣き崩れる母親を尻目にビビ子はお祓いの準備を始める。

 

 

「さーて、祓っちゃうぞよ!あ〜〜…アンマンニクマンピザマン〜〜…血糖値上昇コレステロルも上昇ぉぉぉお〜〜…」

 

 

 何を言っているのかわからないが物凄く気合を入れて唱えている巫女に合わせて同じ事を繰り返す。

 

 

「ハァア〜〜〜…カァーーーーツッッッ!!」

 

「!」

 

 

 息子がムクリと起き上がる。

 まるで前から示し合わせていたかのような位に息がピッタリだった。しかし母親からすれば助けてくれた人に違いはない。深々と頭を下げて息子を抱きしめる。

 

 

「おかあ…さん…?」

 

「良かった〜。元に戻ったのね」

 

「素晴らしきかな。家族の愛情!」

 

「巫女様、なんとお礼を申し上げたら良いか…」

 

「お礼なんてそんなそんな!この位の謝礼が貰えたら十分ですよん。ぐふふふふふ」

 

「へ?」

 

 

 巫女から紙切れが渡される。そこには相談料、妖怪との仲介料、お祓い料などなど様々な事が書かれており、最後に合計10万円と書かれていた。その数字を見て母親は血の気が引く。1ヶ月分の給料だ。これを払えば今度は家賃が払えなくなる。

 

 

「なんです?まさか払えないとでもぉ?」

 

「うぅ…流石に10万円は……」

 

「へぇ〜〜。まぁ、何だっていいですわよ?私、祓うだけじゃなくて呼ぶこともできますカラ。無駄働きさせるならネェ〜」

 

「そんな……!?」

 

 

 脅しだった。

 だが金と息子、そんなの天秤に乗せるまでもない。巫女の脅しを聞いて悔しかったが直ぐに決めた。

 

 

「分かり、ました……っ」

 

「へへへ。毎度ォ」

 

 

 

 

 

 

 

 十万円を受け取り、他の困った人を助けに行くふりをして近くの路地裏に隠れる。誰もいないのを見計らって指をペロペロと舐めて、お金の枚数を数え始めた。

 

 

「十万円ゲットぉ〜…」

 

 

 やっと手に入れたお金は嬉しいが素直には喜べない。ねずみ男はチラリと横目でゴミ袋の上で横になり寝ている火間虫入道を見た。この十万円を手に入れるために3週間かかり、こうなると素直に肉体労働をした方が早かったかもしれないと思い始めた。

 

 

「なぁ…もうちょっと早くダメ人間にできねえのか?」

 

『むぅ〜りぃ〜』

 

「チッ」

 

 

 大きな舌打ちをする。

 十万円を懐にしまい、腕を組みながら外を眺める。目を閉じてこれからのことを少し考える。

 

 

(つっっっかえねえ〜〜!!これじゃあダメ人間をたくさん作らせて、俺が直すっていう商売ができねえじゃねえか。あーーーもっとテキパキやってくれよぉ〜)

 

「ん?何やってんだ、そんなとこで」

 

(効率よくする為にはどうしたら良いだろうか。まずはこいつの性格を治すことから……)

 

「おい、無視するなよな」

 

(あー困ったァ)

 

「無視すんなよッッ!!」

 

 

 ボカッ!

 ねずみ男の頭に大きなたんこぶがプクゥッと膨れ上がる。誰が殴ったんだと睨みつけると、いつの間にか目の前には怒った表情の魔理沙が立っていた。

 

 

「イデデデ……って魔理沙ちゃん!?」

 

「何だよ、気づかなかったのか。一体何悩んでんだ、こんな所で」

 

「えーといやそれは…」

 

 

 露骨に目を逸らすねずみ男を見て、何か悪い事をしているんだと直ぐに察した。

 

 

「ははーん、何かまたよからぬ事考えてたな」

 

「うっ!?そ、それは…」

 

「さあっ、正直に言え!」

 

「分かったよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜ねずみ男説明中〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人を怠け者にするだけの妖怪ねぇ〜」

 

「でもコイツじゃおまんま代は払えないしよぉ。せっかく封印から目覚めさせたのに意味ねえよ」

 

「確かにこんな奴封印してもなあ。先代は何考えてたんだか」

 

「あーあ、もっと早く人を怠け者にできねえかなあ」

 

「・・・」

 

「はあ」

 

「出来るかもしれないぜ」

 

「・・・へ?」

 

「私ならコイツを使って出来るかもしれないって言ったんだよ!」

 

 

 魔理沙はニヤニヤと笑い、何かを企んでいる顔をしていた。

 

 

「へへへ。丁度新しい魔法道具を作ろうと思ってたんだ。コイツを研究すればきっと誰でも簡単に怠け者に出来るぜ」

 

「意外だな。霊夢ちゃんにチクられると思ってたけど」

 

「ふん。私をなんだと思ってんだぜ。いいか?私は霊夢のライバルだ。ここでドカンと新しい武器を作って誰が幻想郷で最強かハッキリさせたいんだよ!くくく」

 

「ンフフフ。まさか魔理沙ちゃんが手伝ってくれるとは〜!これで俺は金儲けできるな」

 

「おいおい」

 

「ん?」

 

「勘違いするなよな。流石にやり過ぎてたら止めるからな」

 

「わーってるよ」ニヒヒヒ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────

 

 

 

 

 

 

「遊びに来たわよ〜…って何やってんの、霊夢!?」

 

 

 隙間から紫が現れた。

 そんな彼女の前には大量の骨董品(ガラクタ)を背負った霊夢が立っていた。倉の中はほぼ空で空箱などが焚き火で燃やされている。

 

 

「これからこの子達を売りに行くのよ。これで夕飯はお肉ね!!……アンタにはやらないわよ」

 

「あ、あわわ、わわわわわァッ!!」

 

「なに慌ててんの?らしくないわね。わーったわよ、お肉ならあげるから」

 

 

 青ざめた紫は霊夢に詰め寄る。

 

 

「なんて事してくれたのオオッ!!」

 

「うぎゃあっ!?」

 

 

 その剣幕にひっくり返る霊夢。転がって骨董品をぶちまけて、粉々になってしまう。バラバラになったお宝?たちはもう2度と元には戻らない。

 

 

「私のお宝ちゃん達が!!ふざけんじゃないわ、よ!?!?ぎゅむうっ!?」

 

 

 霊夢は頬を掴まれたまま壁に押し付けられる。久しぶりの紫のアイアンクローを食らい、抵抗するが一瞬にして動けなくさせられる。

 

 

「自分が何したかわかってんの!?」

 

「もがもがあ!」

 

「あの中には超危険な妖怪が封印されているのよ!?」

 

「もがぁっ!?」

 

「煎餅の箱にお札が入ってたんだから!!燃やしたら出てきちゃう!直ぐに封印する準備を──」

 

 

 

──ドゴンッッ

 

 

 

「あぅっ!?」

 

 

 霊夢の鋭い蹴りが紫の腹部に刺さる。

 吹き飛ばされる紫と頬を赤くした霊夢が睨み合う。

 

 

「はぁ…はぁ……!煎餅の箱なんか知らないわよっ!」

 

「それは本当なの!?」

 

「そうよ!それに一つ一つ中身は確認してんのよ!もしかしたら金が入ってるかもしれないから!それなのに初めから疑うなんて!」

 

「それじゃあどこにあるってのよ!倉の中はもう空じゃない!」

 

「煎餅の箱はねずみ男が──あっ」

 

「あ」

 

「「アイツか……!!」」

 

 

 そうだ。

 霊夢は思い出した。

 ねずみ男が似合わない事を言っていた。小物入れにしたいとか何とか言って、箱をニヤニヤしながら持って行ったのだ。

 

 

「小物入れにするとか何とか言ってた…!」

 

「あの子が小物入れなんて持つわけがないでしょう……って!ねずみ男に持たせたということは」

 

「もう封印解かれているはず!アイツの性格ならやりかねない…!」

 

「急いで探さなきゃ!」

 

 

 紫は隙間を開き、入ろうとする。

 そんな彼女を霊夢が止めた。

 

 

「待ちなさい」

 

「何よ。疑ったのは悪かったわよ。でもここで悠長にしてる場合はないの!」

 

「違うわ。私も探すの手伝うわよ」

 

「なんで?」

 

「アイツのせいで!私はアンタのアイアンクローを喰らわされたのよ!この痛みはアイツのせい!貧乏なのもアイツのせい!腹ペコなのもアイツのせい!!仕返ししないと気が済まないわ」

 

「・・・じゃ、じゃあ探しましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怠け者は伝染する。

 1人が怠ければ、それを見た人も怠ける。次第に怠惰は全員を巻き込んで収集がつかなくなってくるのだ。

 

 

「でも十万で貴方が助かったなら安いもんよ。私、もっと働くから勉強頑張ってね」

 

「ありがとう。お母さん」

 

「ふふ。でも安心したら眠くなってきちゃった。仕事は明日からやろうかな」

 

「なんか僕も」

 

「「ふぁ〜〜」」

 

「「明日から始めればいいよねえ」」

 

 

 部屋の中にはゴキブリが走り回っていた。

 1匹見たら30匹いると思え。

 怠け者も同様だ。

 絶対に1人では怠けない。次第に増えていくのだ。

 

 

「「ぐぅぐう……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーあ。なーんにもやる気出ないナア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとう、ござい、まし……ぐぅ…
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