ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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 どうもっす!狸狐です。
 
 ジムに通い始めました。ダンベルなどを持ったのは初めてで、全身が痛いです。筋肉痛です。でも続けたいとは思っています!


















ようこそ!地底へ ②

 

 地底への入り口に霊夢と勇儀が立って、底を見下ろしていた。

 

 

「久しぶりね。ここに来るの」

 

「さて、頼むぞ。博麗の巫女。私は犯人探しできるほどの頭持ってねえからよ」

 

「謙遜とか似合わないわよ。親分のくせに」

 

「それは腕っぷしのお陰さ。それじゃあ行くぞ。よいっしょ」

 

 

 2メートルほどの巨大な鬼が飛び跳ねる。

 岩へ岩へと飛び移り、豪快に下へ降りていく。その後ろを霊夢はフワフワと飛んで着いていく。勇儀も空を飛ぶことはできるが、地に足をつけた方が良いという考えの持ち主でどこに行くにも歩いて行く。

 

 

「よっ、ほっ」

 

「あの巨体で、この軽やかさ…。やっぱり凄いわ…」

 

「よっ・・・、ん?」

 

 

 途中で勇儀の足が止まった。

 真っ赤な血の色をした2本の樹の前で立ち尽くしていた。

 

 

「あら、そんな趣味あった?花より団子の性分じゃ無かったっけ?」

 

「いや愛でてるわけじゃないさ。ちょいとこの樹に見覚えがあってね」

 

「まぁ、見たら忘れないわよね。地底にこんな真っ赤な木が生えてたら」

 

 

 勇儀は手を伸ばして枝を握る。手のひら全体にドクンドクンと血液が流れる感覚がする。まるで植物ではなく生物のような温かさも感じた。

 

 

「間違いない。これは“吸血木(きゅうけつき)だ」

 

「吸血鬼?レミリアの仲間なの?」

 

「違う違う。“き”は(おに)の方じゃなくて、植物の木の方だよ。変なとこで天然だな、お前は。それにしても何でこれが……」

 

「生えてるのがそんなにまずいの?ただの木でしょ……うわっ!?脈打ってる…」

 

 

 霊夢も枝を握ってみると温かみと脈を感じた。植物も生きているのは知っているが予想以上だ。植物とは思えない。

 

 

「分かったろ。これは元々、何らかの生物だ。種を植え付けられて木にされた。最悪なことに種は血を養分としてどんどん成長する」

 

「成長しきると?」

 

「最後は枯れる。それは寄生された生物が死んだってことなんだよ」

 

「一体誰が・・・」

 

「こんな事が出来るのは……でも、まさか」

 

「知ってんの?」

 

「ああ…。霊夢は知ってるか?元々地底にあった地獄が地上に移転した理由を」

 

「ええと、確か獄卒と十二王が行方不明になって亡者たちが溢れ出した……とかいうやつよね?」

 

「概ね正解だ。でも正確には行方不明じゃなくて、全員この吸血木にされたんだ。たった1匹の地底妖怪によってな」

 

「そんな奴が地底に…!?」

 

「そいつの名は……ってこんなとこで喋っている場合じゃないね。移動しながら説明するよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

 

 

 

『キィ〜!キヒヒヒヒィ〜〜ッ!!』ケラケラ

 

 

 手が向かってくる。

 1人、また1人と襲われていく。

 

 

「何なんだよ…っ、何なんだよコイツはァァァーーーッ!?!?」

 

「お困りですか?ンフフフ」

 

「え?」

 

「私、あーいう悪い妖怪を立ち所に退治するハンター……、その名も」

 

 

 ぷちっ

 

 

「ビビビの!」

 

「いっ、あ、ああ、助け──ウガァァァ……ァッ…」

 

「あっ、あら……」

 

 

 地底には吸血木が咲き乱れていた。

 飲み屋の屋根を突き破り、地面に根を張り、一生懸命に命を散らして。その間を鬼や荒々しい顔をした妖怪たちが必死に逃げていた。時には木を折ってしまい、そこから噴き出す鮮血を浴びて真っ赤に染まりながら逃げる者もいた。

 

 

「おいおい…、ちょっとやり過ぎじゃねえかっ!」

 

 

 その光景を隠れて見ていたねずみ男も最初は笑っていたが、段々と焦ってきた。金をふんだくろうとする度に木にされていちゃ商売にならないし、この明らかな程の被害者の数に、このままでは金を持っている奴もやられかねないと思ったのだ。

 

 

『ギィィヒヒャア〜〜ッ!!』

 

「それに前よりも遥かにデカくなってるしよぉ」

 

 

 植物が増えれば増えるほど生気が舞い上がり、それを美味そうに食らう妖怪。それに比例して身体はますます大きくなっている。そしてその成長を喜び、また襲っているように見えた。ねずみ男は怒りながら協力者の妖怪の元へと走る。

 

 

「お〜〜〜いっ!ストップ!ストップだよ!!」

 

『キ?』

 

「流石にやり過ぎだよ!これ以上やったら、この街から金づるがいなくなっちゃうデショッ!!もう少し加減ってものをさあ──」クドクド

 

 

 ああ、こんな奴いたな。

 初めはすごい匂いで攻撃してくる強いやつかと思ったけど、大したことないじゃないか。それにあの鬼二人は地上にいるらしい。天敵もいない、大きくなった私にはもっと敵はいない。ならばこの地底で無敵じゃないか。

 

 ならコイツも要らないや。

 

 そう思った。

 

 

「──って訳なんだから、襲うのはこれで一旦おしまい!あとは俺がやるから、お前は少し休憩してろっての」

 

 

 

 ぷちっ

 

 

 

「ぷち?あ、あら〜〜〜ッ!!助けてぇえへ───」

 

 

 用済みとなったねずみ男。

 首に種を植え付けられて、あっという間に木になってしまった。他の木と比べて見窄らしく、葉も弱々しく咲いているその姿に妖怪はため息をつく。

 

 

『キ〜…。ン、ペッペッ!?』

 

 

 生気も全然美味しくない。

 吐き出して、口直しに別の木から吸おうと移動する。

 

 

「おい、待てよ」

 

 

 声がした。

 さっきから邪魔ばかりが入るな。

 そう思った。

 

 

『キ?・・・キ、キィィィイ〜〜〜ッ!?!?』

 

 

 戦慄した。 

 自分に怖がらず呼び止めたのは、自分を封印したあの時の鬼の1人だったから。

 

 

「久しぶりだな。『のびあがり』・・・!!」

 

「ふーん、あれが地獄を機能停止にした『地底妖怪のびあがり』」

 

 

 

 のびあがり。

 地底に住む妖怪。おたまじゃくしのような姿をしており、大きな目玉を一つと触手が腹の辺りにズラリと並んでいる。普段はその触手を使い移動しているが、空を滑空することも可能である。

 

 そして、この妖怪の能力は『種付(しゅふ)』。

 体内から様々な植物の種を生成できる能力である。この能力を使って、人間や妖怪などの血液を養分とする吸血木の種を手のひらから生成することができるようになった。これを相手に植え付けることで生気を放つ植物を簡単に生やし、自身の栄養にすることができるのだ。

 

 

「よくも私の仲間を…。覚悟はできてんだろうなアッ!!今度は封印なんかじゃ済まさないよ!!」

 

「だってさ」

 

 

 同胞たちがやられ、青筋を立てて怒る勇儀と霊夢がのびあがりを睨みつける。彼女達の登場に逃げ惑い、隠れていた鬼たちが一斉に飛び出し歓喜する。

 

 

「勇儀の姉御だ!!」

 

「姉御が帰ってきてくれたぞーー!!」

 

「「「姉御!姉御!!」」」

 

 

 だが、対するのびあがりも初めは怯えていたが段々と恐怖ではなく怒りが湧いてきた。なんで大きな自分がこんなに小さな相手に怯えなければならないのだと。

 

 

『キィィィーーーッ!!』

 

 

 初手、のびあがりは腹部の触手を一斉に伸ばす。関節のない腕の動きは変幻自在でありその軌道を読むのは至難の業だ。掴まれば種を植え付けられる危険性を孕む攻撃が始まった。

 

 

「よっ!ほっ!」

 

 

 しかし、相手は霊夢だ。その反射速度と動体視力ならば変幻自在の攻撃も目で追え、体を動かし、反応することができる。前、後ろ、右、左、斜めからと迫る攻撃を全て躱す。

 

 

「ここっ!」

 

 彼女の武器であるお祓い棒を取り出して、触手を弾き飛ばせる。避けた瞬間に棒を叩きつける。

 

 

『キキ』

 

「うっ!?」

 

 

 しかし弾き飛ばされたのは霊夢だった。直撃したはずのお祓い棒は触手を通り抜けて地面へと落ちる。スカっと外した感覚が手のひらに伝わったのと同時に腹部に触手がめり込み、そのまま壁までめり込まされる。

 

 

『キキキキ!!』

 

「悪い!こいつの身体に()()()()()物理攻撃は効かないんだった!」

 

「はやぐいいばざいよ…。ぐはっ」

 

 

 のびあがりの身体はゲル状である。

 物理攻撃はそのまま通過してしまう。そして最悪なことにのびあがりからの接触は可能なのだ。圧倒的理不尽である。

 

 

『キィ──』

 

 

 まずは1人。

 そのまま触手をくらってめり込んでいる巫女に直接種を植え付けてやる。霊夢の腹部を押している職種の先端から種が生成され、体内に植え付けようと力を込める。

 

 

「させるかァッ!!」

 

『ギヒャアァッ!?』

 

 

 そんな触手を勇儀は思い切り踏みつける。あの太い脚を大きく振り下ろす一撃は斧と同等の威力であり、完全に切断する。その痛みにのびあがりは大きな叫び声を上げる。

 

 

「はぁっ、はっ、物理攻撃効かないんじゃ……っ」ゼェゼェ

 

「まっ、普通はな。でもあたしの能力なら触れられるのさ」

 

 

 星熊勇儀の能力。

 『怪力乱神を使える程度の能力』。鬼の長らしく豪快なパワーを使うだけの脳筋能力にも思える名前だが、実際は違う。元より怪力乱神とは理屈では説明できない4つの力のことを指す。

 

 一つ、『怪』。常識を越えること。

 二つ、『力』。圧倒的な力。

 三つ、『乱』。理を曲げること。

 四つ、『神』。不可思議であること。

 

 物理攻撃不能の体質を持つはずの“のびあがり”に攻撃を与えられたのは、触れる事ができないという理を曲げた三つ目の『乱』の能力が理由であった。触れないことを()()()に変えたのだ。

 

 

『ギ・・・ギィイイイ!!』

 

 

 残る触手全てを総動員。雨霰のように降ってくる触手の猛攻を霊夢は躱す選択をしたが、勇儀にそんな選択はない。

 

 

「この程度かよ」

 

 

 向かってくるものは拳で払いのける。

 ゲル状の腕を拳で吹き飛ばすたびに、勇儀の空気を震わすその一撃は波紋のように広がり、のびあがりの身体全体に衝撃を与え、震わす。

 

 

『キィイ…!!』

 

 

 だが、のびあがりは怯むことはなかった。

 まだまだだと言わんばかりに触手を揺らす。先端の手から青色の『種子』を生成し、それを握りつぶすと自分の瞼に塗り付け、大きな目玉をグルンと動かして瞬きを数回行う。

 

 

 

 

──ふわぁああ〜〜……

 

 

 

 

 青い粒子が飛び散る。

 戦いを見ていた観客の鬼たちはそれを意図せず吸ってしまう。吸った鬼たちはそれぞれ尻餅をついたり、膝をついたりする。

 

 

「な、なんだ…。なんか段々と眠く……」

 

「ぐぅぐぅ……」

 

 

 1人、また1人と眠っていく。

 異変に気づいたものは口元を覆い、霊夢も吸わないように体を屈める。しかし勇儀は青い粒子を他のものと同様に吸ってはいるが、眠ることはなく堂々と仁王立ちをしていた。

 

 

「眠り花の花粉か。吸うなよ、霊夢。一吸で24時間は夢の中だぞ」

 

「う、うん。アンタは大丈夫なの?」

 

「ああ。効かない」

 

「!」

 

 

 霊夢はとある事に気づく。

 花粉が勇儀に付着することがなかったのだ。身体の表面に付着する前に彼女の体温で焼け落ちていた。

 

 

(うわ、怒りで血液が高速で循環して、発熱しているんだ。どんな体の構造していたら出来るのよ、そんな芸当を。それも無意識で……)

 

「小細工は効かないぞ。私を殺したいなら正々堂々と来い」

 

『キ…』

 

 

 眠り花の花粉が効いていない。

 ならば──。

 

 

『キィィィーーーッ!!』

 

「はっ…」

 

 

 最後にとった、のびあがりの行動。

 それは“突進”。

 無策と見えるが、実際はその逆。確かに小柄なものの突進など簡単に避けられる、止められるが、相手は超巨大!!仮に無策だとしてもその攻撃は圧倒的な破壊力を持っている。しかし、誰も負けたとか、絶望することはなかった。何故ならその嵐のような猛攻の前に立っているのは我らが親分なのだから。

 

 

「やればできるじゃないか──ッッ!!」

 

 

 大きく大きく振りかぶる。

 腰を大きく捻り、拳を固く握りしめた。彼女の周囲の大気が歪み、揺れていく。

 

 

 

──ゴオォォォッ!!!

 

 

 

 勇儀の拳と、のびあがりが正面からぶつかる。

 その2人の重量差にしておよそ200倍。凄まじいまでの一撃が、のびあがりのゲル状の身体一つ一つの細胞に破壊を与え、その身体を削ぎ、砕き、圧倒していく。

 

 

『ギャアアアァァァーーーーッッッ!?!?』

 

 

 ゲルの身体にヒビが走る。

 その傷口から緑色のゼリーのような液体が噴き出す。ドプンドプンと周囲に体液が飛び散っていく。確実にダメージが入っているのが見てとれた。

 

 

『ウギャァァァ……ッ、アギギ…ッ!!』

 

 

 釣られた魚のようにビチビチと跳ねて苦しそうに悶え、充血した瞳からは涙が溢れ出している。

 

 

「これこれ。真正面からの力と力のぶつかり合い。戦いってのはこうでなくちゃな」

 

「うわぁ……、アンタは敵に回したくないわ。……ん?」

 

 

 霊夢は勇儀の足元の地面を見た。

 少し盛り上がって、何か飛び出そうとしていることに気づいた。緑色でゼリーのようなプルプルとした何かが。

 

 

「──ッ!勇儀、危ない!!」

 

 

 ぷちっ

 

 

「うわっ!?いきなり何すん、だ、……、霊夢!!」

 

「ぐぅっ!!」

 

 

 霊夢の足から芽が飛び出ていた。

 のびあがりの触手が伸びて、地面の中を通ってきたのだ。そのまま邪魔をしてきた霊夢の足に種を植え付けた。

 

 

「あ"ぁ……っ、があァッ!!」

 

「のびあがりの野郎ッ、痛みでのたうち回っているんじゃなかったッ!」

 

『キキキ…』ニタァ

 

 

 あんなに暴れていたのびあがり。だがもう暴れるのをやめて、自分の計画がうまく行ったぞという表情でこちらを見ていた。

 

 

「気づかせないようにしてたのか!腕を地面に潜り込ます動作をッ!!」

 

「うっ、ふー…ふー……っ、ぐぅ…!?」

 

 

 霊夢の足から全体に根が伸びていく。

 ズルリズルリと体の中を無数の棘を持つ蛇が這っているような感覚。ぢぐりとした痛みが伸びる度に広がっていき、呼吸をするたびにダクダクとした汗が噴き出る。

 

 

「霊夢!」

 

「私は……っ、大丈夫だからっ!早く奴を…!」

 

「・・・!」

 

 

 霊夢は冷や汗を流しながら勇儀に言う。

 その覚悟を汲み取った勇儀は頷くと、再び飛行を始めるのびあがりを睨みつけた。気づけば全身の傷は癒えてきて体液も固まってきているようであった。地底全体に漂う生気、つまり生命エネルギーを吸い、成長できる体質によりダメージも回復させることができるようだった。

 

 

『キィィィーーーッッ!!』

 

 

 のびあがりの目玉がキラキラと七色に光る。

 そして標準を合わせると目玉から極太のレーザー光線が溢れ出す。魔理沙の必殺技“マスタースパーク”と同様な力を持った攻撃が勇儀に向かって発射された。その威力ときたら家々だけではなく地面を溶かすほどだ。

 

 

「ヌゥンッッ!!」

 

『!?』

 

 

 しかし避けることはしない。

 そのレーザー光線に向かって手を伸ばし、それを握る。皮膚が溶け、肉と血管が出ている中、肉の焼ける匂いが立ち込め、その腕に光線がギュルギュルと音を立てて塊のようになっていた。

 

 

「──ゥゥグゥ…アアァァァァッッ……!!!!」

 

『!?!?!?』

 

 

 光は掴めないのが常識だ。のびあがりだって自分の攻撃、武器の一つであるのでどういう物かハッキリと知っている。だが何故だ。何故、あの女は光を掴めるんだ!?

 

 

「……っぐぅ、ちっ、これで終いだ・・・!」

 

 

 彼女の腕で光が巨大な塊となり、螺旋を描く。

 

 

「お前の身勝手な行動もッ!考えもッ!この騒動も!全てェェッ!!」

 

 

 思い切り、しゃがみ込む。そして足に全体重を乗せた。ピキピキと血管が浮き上がり、普段よりも更に太くなる。

 

  ググゥゥ……ッ!!

 

 今の彼女の足は、例えるなら本気で押しつぶされたバネ。ぎゅぅっと押さえつけられたバネは力から解放された瞬間に思い切り吹き飛ぶ。勇儀も限界まで足の筋肉を押さえつけ、一気に解放した。

 

 

『キ──』

 

 

 彼女の腕の中で更に大きくなる。

 加えて、技お妖力と能力が組み合わさることで太陽のように周囲を照らす金色の光を放つ。ひと目でわかる程の圧倒的質量を高々と掲げる。

 

 

「光鬼『超・金剛螺旋』ッッ!!!」

 

 

 その目玉に直撃。

 とてつもない回転エネルギーが目から全身へと伝わり、のびあがりの体が思い切り絞った雑巾のようになり、治りつつあった傷口や目玉からゲル状の体液がビューッと吹き出す。

 

 

『ヒギャアアアア──…!!』

 

 

 体液が減るたびにあんなに大きかった身体が一瞬にして小さくなる。それと同時に吸血木からたっぷりと吸い、蓄えていた生気も地底全体に散っていくのだった。そしてその散っていく生気は吸血木に触れると段々と枯れていき……

 

 

「・・・!」

 

「あ、あれ、私たち、確か木に……」

 

「助かったみたい」

 

「よ、よかった。いひひひ、これでまた新しい首ゲットできる…!いひひ」

 

 

 枯れた木の中からキスメとヤマメが出てくる。所々、皮膚から血が出ていたりと生傷は絶えないが無事であった。2人以外にも木になった人々はあっという間に元に戻るのだった。

 

 

「やった…!皆んな、助かったみたいだ!」

 

 

 全員の無事を確認し、安堵する勇儀。

 助けられた妖怪や鬼たちは彼女が救ってくれた事に感謝し、歓喜の声を一斉に上げる。地底に勇儀を褒め称える声が響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが──。

 

 

『キヒャ……ァァ…!!』

 

 

 終わっていなかった。

 ゼリー状の体液が水溜りのようになっており、その中で身体が裂けてめちゃくちゃになった小さなのびあがりがゆっくりと起き上がる。身体は原型を留めておらず、目玉もひび割れて、もはや何故生きているのか分からないくらいの状態でゆっくりと触手を持ち上げる。

 

 

【殺してやる。殺してやるぅぅぅぅ……!!】

 

 

 殺意のみでのびあがりは動く。

 手のひらから種を生成し、勇儀の背中を狙う。

 あと数十センチ…。

 あと数センチ…。

 もう触れられる。グッと狙いを定めて、一気に腕を伸ばす。今だ。種を植え付ける……!!

 

 

「終わりにしなさい」

 

『!』

 

 

──ザクッ…

 

 

 鋭い針が触手に打ち込まれていた。

 そして生成した種も一緒に針に突き刺さり、体内に打ち込まれていた。

 

 

「退魔針は霊体でも突き刺せる。このまま木になって永遠に眠りなさい」

 

『キィィィ・・・』

 

 

 そのまま、のびあがりの体内に一気に根が回っていき、一本の小さな吸血木になるのだった。

 

 

「のびあがり、まだ生きてたのか。また助けてもらったな、ありがとうよ。霊夢」

 

「あんたは強いくせに詰めが甘いのよ、っいてて」

 

「身体の方は?」

 

「あんたが奥義を喰らわす前に、体内から根っこを()()()()一気に引っこ抜いてやったわ。けどまぁ、あんな風に皆んな助かるなら抵抗しなくても良かったみたいね。あーあ、無駄に怪我したわ」

 

 

 余裕そうに言う霊夢の腕の皮膚はパックリと裂けて、肉からは血が滴り落ちている。無理をしているわけではなさそうだがダメージを食らっているのはすぐにわかった。

 

 

(お前は私のことを敵に回したくないって言ってたけど……。それはこっちのセリフだよ…!)

 

 

 生唾を飲む。

 やはり巫女に選ばれる者は強者のみだと改めて感じる。

 

 

「霊夢。とりあえずは終わった。治療するから私の家に来い」

 

「そうさせてもらうわ。それと……」

 

 

 シュッと針を発射する。

 それが近くの瓦礫に突き刺さると、その中からねずみ男が飛び出してきた。

 

 

「ひ、ひぃいいっ!?」

 

「やっぱり来てたのね、ねずみ男」

 

「お前…!もしかして、のびあがりを目覚めさせたのは……」

 

「俺は今回何もしてねえよっ!!アンタらに吹き飛ばされて、気づいたら地底にいて、あの妖怪に木にされて……!俺は完全に被害者なんだよぉ。ねっ、信じて!」

 

 

 勇儀はねずみ男にぐっと詰め寄る。

 やっと助かったというのに再び生命の危機を感じ、冷や汗が噴き出る。

 

 

「嘘じゃないだろうね?」ギロリ

 

「ぼ、僕は嘘なんかつきません〜〜!!」

 

 

 嘘だ。

 のびあがりを焚き付けて、地底の面々を襲わせたのはコイツのせいだ。しかしここでバレたら酷い目に遭うことはわかっているので考えるよりも先に嘘が飛び出る。

 

 

「それじゃあサヨナラァァァ〜〜ッ!!」

 

 

 そして逃げ出した。

 一瞬にして見えなくなるくらいに遠くまで行ってしまった。2人は大きなため息を着くと、向きを変える。

 

 

「今回のことは関係なくても、これだけ釘を刺しておけば大丈夫かな。それじゃあ行こうぜ」

 

「明日から通り魔探しね。やれやれ、ゆっくり出来る日はいつくるのか……」

 

 

 

 のびあがりは倒された。

 町は再び活気を取り戻し始める。瓦礫を持ち上げ、修理をしたり片付けたりしている人々の足元を1匹の黒猫が走り抜ける。ちりりん、と鈴の音を鳴らして誰にも踏まれることなく通り過ぎてから、少し離れたところで町の様子を見る。

 

 

「何やら面白いことが起きそうニャ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

 

 

「よっわ〜。結局誰も倒せてないよぅ?」

 

 

 遠くで眺めていたこいし。

 のびあがりがやられてしまった事にブーイングをしていた。

 

 

「いや、これで良い」

 

 

 ぬらりひょんは笑って答える。

 その言葉は負け惜しみなどではない。隣で見ていたこいしは、今の所計画は順調に進んでいるのだ。という自信満々な雰囲気を感じ取っていた。

 

 

「博麗の巫女をここに連れてくることが目的だ」

 

「のびあがりはアイツらを殺すために復活させたんじゃないの?」

 

「あれはただの保険よ。()()()()()()()()()()()()()()()()。来なかった時のために、のびあがりで騒動を起こして地底を混乱の渦に巻き込む。そうなれば幻想郷を守る使命を持つ巫女は出動せねばなるまい。まぁ、通り魔の時点で鬼の頭が呼びに行ってくれたから杞憂ではあったがな」

 

「通り魔ってお爺ちゃんのことじゃなかったんだ」

 

「あれはたまたま目の前にいたから殺しただけだ。通り魔として地底の連中を襲っていたのは──」

 

 

 

 地面に大きな穴が開く。

 そこからにゅぅっと青い髪の女性が現れた。こいしよりも全てが大人という感じの女性だ。手には簪を握っている。

 

 

「私でぇす。よろしくね、こいしちゃん!ギューッしてあげる!」

 

「うわっ!?」

 

 

 突然現れた女性は思い切りこいしを抱きしめる。そして愛玩動物を愛でるかのように思い切りワシャワシャと頭を撫でる。

 

 

「可愛いー♡私、(ちい)ちゃい女の子大好きぃ!くんくん、良い匂い♡」ハァハァ

 

「きゃあああ、何ぃっこの人っ!?」

 

「でも死んだほうがもっと可愛いよ♡私に任せてくれたら、楽に殺してあげるし、死んだ後も可愛がってあげるけどどうする?」

 

「ひぃいい〜〜っ!!」ガタガタ

 

「やめんか、馬鹿者が」

 

「あだっ!?」

 

 

 ぬらりひょんが杖で青髪の頭を叩く。

 涙目になり頭をさする。こいしは直ぐにぬらりひょんの後ろに隠れた。

 

 

「こいつは儂の仲間、霍青娥だ。青娥、準備はどうだ?」

 

「完璧ですわ。地底の連中は筋肉質で面白いのが作れましたの。それに芳香の改造もできたし〜♡うふふふふふー」

 

「・・・それじゃあこれからが本番なんだ」

 

「そうだ」

 

 

 ぬらりひょんは何処からか小さな蛇を取り出した。蛇はぬらりひょんの手の上に乗ると口をぱかっと開く。

 

 

「それは?」

 

「儂の部下が用意した念波蛇だ。これを持っているもの同士、どんなに離れていても念波で連絡が取れる。……蛇骨、聞こえるか?」

 

 

 ぬらりひょんはそのまま蛇の口に話しかける。すると、今度は口の中から別の人の声が聞こえてきた。

 

 

『聞こえておるぞ。シャシャシャ…』

 

「準備は良いか?」

 

『出来ておる。……が、お主はそこにいてええのかぇ?』

 

「構わん。さっさと始めろ」

 

『承知した』

 

 

 蛇は口を閉じ、ぬらりひょんの服の中にモゾモゾと入っていく。ぬらりひょんはキセルを取り出すと美味しそうに吸って吐く。

 

 

「ふぅ〜…。こいし、何故私が巫女を地底に呼んだか分かるか?」

 

「地底に注意を向けさせるため、とかかな」

 

「ほぉ。なぜそう思った?」

 

「妖怪の復権だっけ、その計画を幻想郷で実行する為に必ず障害になるのは霊夢と八雲紫。でも2人とも地上にいるから少しでも戦力を分散させたかった…とかかなって」

 

「ほぼ正解だ。賢いではないか」

 

「やた!えへへ」

 

「巫女も紫も最強の部類で殺すなんて不可能ではないが容易くはない。そんな2人を相手に地上で戦争を仕掛けようものなら、それは負け戦だ。ならば戦力を削げば良い」

 

 

 そう言って、地上へ続く唯一の出入り口を見る。

 

 

「八雲紫は自由自在に移動できる力を持つので閉じ込めることはできない。だが博麗の巫女は別だ。幸いなことに地上への道は一つだけ。そこで、だ!!」

 

 

 ゴオオオオと地響きが起こり、地上への穴が塞がれた。日が登ればほんの少しは陽の光が入っていたのだが、それさえも失われ、完全な闇となる。

 

 

「閉じてしまえば奴はこの地底から出ることはできん」

 

「あの穴、閉じちゃうんだ。でも鬼が無理やり開けるかもよ」

 

「そこも手は打ってある。安心しろ」

 

 

 

 

 

 

 全てを説明することはなかったが、地上ではぬらりひょんの部下である蛇骨婆が大岩に護符を貼って、一心不乱に呪詛を唱え始める。すると岩の表面に文字が浮かび上がり、禍々しいオーラがメラメラと湧き上がる。

 

 

蛇腹蛇蜾蛇螺(じゃばらじゃらじゃら)、蛇腹、蛇螺蛇螺……。飲み込め、丸呑み、蛇の口ぃぃぃ……、うむむむむむぅぅぅぅ…喝ァァァーーーツッ!!」

 

 

 呪いの言葉により大岩が鋼鉄の壁となる。

 蛇骨婆がその壁に手を触れるとビリビリと紫電が走る。すぐに手を引っ込めて腫れた手を撫でながら、笑う。

 

 

「計画はうまく行ったぞぃ、ぬらりひょん。能力封じの壁の完成じゃ。触れればどんな奴も能力が使えん。これなら、いくら怪力無双な鬼でも能力無しでは突破することはできんぞい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「蛇骨も、青娥も予定通り。あとは朱の盆、仕上げはお前だ」

 

 

 そう。

 ぬらりひょんにとって“能力を封じる蛇骨婆”や“通り魔の噂を流す霍青娥”の2人はそこまで重要では無い。要なのは外の世界にいる朱の盆である。

 

 

 

 

 

 

 

(あわわ、あわわわ、ぬらりひょん様ぁ…!!)

 

 

 朱の盆は今、とある屋敷の中で震えていた。目の前にある6人の圧に圧倒され、臆病な心の持ち主である彼にはかなり居心地の悪い空間になっていたからだ。

 

 

『それで……お話とはなんですかな、朱の盆殿』

 

「えっ、ええとっ、じ、実は……」

 

『手短に頼みますぞ。儂らは暇では無いのでねェ。クカカカカ…!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

 のびあがり戦、決着。
 勇儀はやっぱりめちゃくちゃに強くしたい。前作だとただの怪力キャラでしたが、今作はもう少し改良してみました。未だに能力を調べてもよくわからないので、ほぼ私のオリジナルです。

 そしてそろそろ一章の終わりが見えてきましたな。朱の盆が会っている謎の6人の正体とは・・・!



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