ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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 こんにちは、狸狐です。
 みなさん、夏好きですか?私は嫌いです。暑いの嫌いです。冬が良い。冬になって欲しい。



















地霊殿の女主人

 

 とある旧都の居酒屋。

 他の居酒屋ではガチャガチャと食器が鳴る音と酔っ払いたちの笑い声といった賑やかな音が響き渡る中で、この居酒屋は静かに1人で酒盛りをする男がいた。誰もが友達や仲間と楽しそうに飲んでいる中で、たった1人で楽しそうに飲んでいる姿に加えて地上からの客人は珍しいようで、他の客はその男を見ていた。

 

 

「うひぃーっ!この地酒サイコーッ!美味すぎだろォッ。それにこの……まぁ、何の肉か分かんねえけど美味えぇ〜!大将、この肉串お代わりぃ」

 

「・・・あいよ」

 

 

 ジュウウゥゥゥと肉の焼ける音と香ばしい匂いが店全体を包み込み、その匂いで更に酒が進む。お猪口でちょっとずつ飲み、その度数でどんどん温かくなり、頭もポーッとしてくる。

 

 

「うふぃ〜。霊夢もあのデカ鬼女も忙しそうだし、俺は自由に地底観光が出来るってわけだア。らっきぃ〜〜」

 

 

 のびあがりの件から逃げて、その晩をこっそりと過ごし、翌日に勇儀の家の中を窓から覗くと霊夢と一緒に何十枚かの写真を真剣に穴があくまで見ていた。

 

 

「ありゃあ何か異変とかに巻き込まれている様子。金を稼げそうにも無いし、アイツらが忙しい間にお金儲けでもしねえとなあ」グフフノフ

 

「はい、肉串だよ。……お客さん、本当によく食うし飲むねえ」

 

「そりゃあよ、こんなに美味えんだから食い溜めしておかねえとな。うしうし……」

 

「そりゃあ嬉しいが、お客さん」

 

「あん?」チビチビ

 

「お金はあんだろうね?」

 

「──ぶふっ!!」

 

「うわっ、大丈夫かい」

 

 

 酒を吐き出した後を片付ける店主。

 ねずみ男は“大丈夫大丈夫”と言いながら、どんどんと顔が真っ青になっていった。

 

 

「い、いやぁ〜。酔っちゃったナ、あはは。お金、お金ね、うんうん。大将、もしお金ないって言ったらどーする?」

 

「そりゃあねえ」ジロリ

 

 

 大将は常連客に目を向ける。

 それを察したのか、常連客たちは急に指の関節をポキポキ鳴らし始める。まるでこの店に無礼を働いたらタダじゃおかないぞと言わんばかりに。

 

 

「あっ、あはは、えーと、トイレどこかしらん?」

 

「トイレなら店の奥の…」

 

「ちょっと借りますね〜」

 

 

 トイレの中に逃げ込むように入る。

 便器に座りながらねずみ男はダクダクと冷や汗を流す。予想通り、お金を持っていなかったのだ。

 

 

(こここ殺されるぅぅぅぅ……っ!?!?)

 

 

 適当なことを言ってツケにしてもらおうという甘い考えに罰が当たったようだ。恐怖に震えながら、そっと壁に耳を当てると、外の声が小さく聞こえてきた。

 

 

(……ねえのが分かったら……)

 

(ああ…。小指以外、全部折ってやるよ)

 

 

 その言葉に更に汗が出る。

 もう全身がびちゃびちゃだ。

 

 

(外とは違え…!なんて物騒なんだよぉっ、なんとかして逃げねえと…!!)

 

 

 ちりりん──。

 鈴の音だ。

 

 

(ん?)

 

 

 不思議に思って、振り向くと小窓があった。ゆっくりと立ち上がり、窓を開ける。思い切りカラダを捻って、身体を無理やり折り畳むようにして抜け出した。

 

 

「ラッキー!脱出成功だぜ。あとはバレずに逃げ出さねえとな」

 

「本当だよ。さっさと逃げないと殺されるよ」

 

 

 ちりりん、と鈴の音。

 そして女性の声がした。

 

 

「え?」

 

「鬼ってのは嘘つきを許さない。いつまでもここにいたら、捕まってミンチにされちゃうよ」

 

「あ、あわわわぁぁ……っ!!??」

 

 

 女性の声がしたはずなのに、そこにいたのは──。

 

 

「“猫”っ!?」

 

「にゃん。こんばんは、お兄さん」

 

 

 ねずみ男がこの世で最も嫌いで、最も憎むべき存在。それは猫だ。大きさも歳も関係ない。猫という存在がかなり嫌いなのだ。生涯の天敵と言っても過言では無い。過去に頭を噛まれ食われかけたこともあるくらいに大嫌いな存在なのだ。

 

 

「ば、化け猫だァァァーーーっ!!」

 

「ふにゃっ!うるさいねえ、そんなに騒がしくしているとバレちゃうよ」

 

「ハッ!」

 

 

 店の中から怒鳴り声が響いているのが聞こえた。

 ふざけるな、あの野郎逃げやがったと罵詈雑言の嵐が段々と路地裏、つまりこちら側に近づいてくるのも。

 

 

「ここここ殺される!でも逃げようにも化け猫が前にいる…っ、前門の虎後門の狼!!」

 

「にゃはは。ほら、言わんこっちゃない」

 

「どうしよ!」

 

「どうする?私なら逃してあげられるよん」

 

「ほ、ほんとか!?」

 

「でもタダって訳にはいかない。助けて欲しいなら、ちょいと力を貸してもらうよ。ビビビのねずみ男さん」

 

「な、なんで俺の名前を……って、んな事どうでも良いっ!早く助けてくれ!!」

 

「おっけー!んじゃ、ついといで」

 

 

 猫は細い道を走り出す。

 ねずみ男もその後を急いで着いて行った。

 

 

「ひぃ、なんて細い道なんだよ…。よいしょっ、よいしょ」

 

「ふふーんふーん♪」

 

 

 逃げ出すねずみ男。

 そんな時、彼の側を1人の少女が通り抜けた。鬼の連中と違って可愛らしい風貌をした少女は鼻歌を歌いながらスキップをして、反対方向、つまりブチギレ鬼がいる居酒屋の方へ向かっていった。

 

 

「あっ、おい…!」

 

「え?」

 

「そっちは危険だぞ!マジギレの鬼がいるんだ!殺されちまう!」

 

「おじさん、私のことが見えるの?」

 

「何をふざけたこと言ってんだよ。幽霊ごっこは後にしなって!ほらっ」

 

 

 手を取り、引っ張る。

 しかし振り解き、ねずみ男の顔を見て笑う。

 

 

「大丈夫だよ。優しいおじさん。ばいばい」

 

「えっ、ちょっ、くそっ!どうなっても知らねえぞ!!あばよ」

 

 

 わざわざ虎穴の中に進んでいく少女を助けなきゃとは思ったが、自分の命と秤にかけると自分の方が大事だ。遠くなる猫の背中に危機感を感じて、走り去ることを選ぶのだった。

 

 

「私が見える人って優しい人多いな。また心配してもらっちゃった。えへへ」

 

「あの野郎、どこに行きやがった!?」

 

 

 入れ替わるように鬼たちが青筋を立てて飛び出してきた。しかし、誰も少女が近くにいることに気づいていない。まるでこの世に存在していないかのように鬼たちは彼女の気配も、雰囲気も、感じないのだろう。

 

 

「近くにいるはずだ。探──いだぁっ!?」

 

「おい、どうしたっ、おい腹から血が出てるぞ?」

 

「大丈夫だ…っ、ちっ、いでで……」

 

 

 鬼の腹には小さな刺し傷。

 刃物で刺されたような傷が“いつの間にか”腹にできていた。大したことはないが一体、どこで、どうやって、怪我してしまったのか身に覚えがない。

 

 

「……ふぅ、お爺ちゃんに教えられたように意識しながら『無意識』を操るのはキッツイなぁ。でも心を読む力なんかよりもよっぽど良いやあ。えいっ」

 

「いでぇっ、またかよ!」

 

「いーっつもアンタらに殴られた時、鬼の拳ってとっても硬いんだなって思ってたけど、お腹はそうでも無いんだね。こんな包丁が簡単に刺さっちゃうんだもん。お酒の飲み過ぎで柔らかくなっちゃったのかな。うふふ」

 

 

 こいしの手には和包丁が握られている。それは何か特別な力が込められた物でもなければ、曰くつきの物でもない。適当に飲食店を通った時に盗んできた、ただのどこにでもある包丁だ。

 

 

「ったく、何なんだよ。食い逃げされるし、腹は痛えし」

 

「あだ!?うわっ、俺の太ももから……!」

 

「な、なぁっ、なんかおかしくねえか!なんで急に怪我すんだよ!誰もいねえってのによおっ」

 

 

 ざしゅ、ざしゅざしゅざしゅ

 

 

「あ、あ"ぁっ!?いででぇっ」

 

「刺されるっ、身体に穴が空いていく…!!」

 

 

 腿を刺される。

 腕を刺される。

 腹も背中も、体中の至る所を見えない攻撃が迫ってくる。急所を狙う気はないのか、わざと殺さないように刺されても致命傷にならない箇所を何度も刺されていく。

 

 

「助けてくれぇ……っ!!」

 

「るーるるーらららん♪」

 

 

 身を屈める。悲痛の声を上げる。痛みと恐怖に震えながら涙を流して、見えないが明確に敵意を持った相手に止めてくれと叫ぶ。しかし新しい傷はどんどん出来ていく。

 

 

「あぎゃっ、があっ」

 

「いだい、痛いィィィ…」

 

「あ、ああ……っ、頭がぼおっと…」

 

 

 血が抜けすぎて貧血となる。

 朦朧とする意識の中で隣を見た。常連客たちの背中に包丁を持った少女が抜き刺ししていた。その奇妙奇天烈な格好と第三の目がかなり特徴的である。さっきまでいなかったのに、いつの間にかいて、仲間を殺していた。

 

 

「お…まえ……は…」

 

「ねぇ、誰か探してるの?もしかして、さっきのおじさんかな」

 

 

 くるりと振り向く少女の顔は血に濡れていた。全て返り血だ。仲間は抵抗する暇もなく滅多刺しにされているのだ。

 

 

「ダメだよ」

 

 

 少女は立ち上がると、包丁をくるくると楽しそうに回す。そして刃を鼻先に向けた。ギリギリ触れるか触れないかの近さである。

 

 

「ここの連中ってさ、嫌いな相手がいたら虐めるよね。笑いながら殴って蹴って……。いつも何が可笑しいのかなって思ってたけどさ」

 

「ひぃっ!?」

 

「やる側になって分かった。これさ……とーーーっても楽しいね!」

 

 

 ざくぅっ。

 ごりぃ、ぎりぎり、ざしゅっ。

 

 

「ひぎゃああああーーーっ!!」

 

「あれ。上手くできないな…んっ!」

 

 

 右頬から左頬へ真っ直ぐに刃が動く。

 鼻の骨を断裂し、硬い肉を抉る。先ほどから肉を切ったり刺したりしたせいで刃こぼれしており、スーッとは行かず、ギチギチと無理やり力を入れて動かす。

 

 

「お爺ちゃんには計画が始まるまで好きにしてて良いって言われたし〜!次はぁ、ここをざくっざくぅ…」

 

 

 何度も刃を突き立てる。

 何度も何度も突き立てる。

 相手は既に生き絶えているが、気づくことはなく、楽しそうに鼻歌を歌いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──

 

 

 

 

 

「一体どこまで行けばいいんだ…!!」

 

 

 もう騒がしい声が懐かしくも感じる。飲屋街を通り過ぎ、いつの間にか静かな場所へと向かっていた。ただ響くのは鈴の音だけ。それを頼りにねずみ男は無我夢中で走るしかない。止まれば鬼に殺されてしまうという恐怖で足は止められなかった。

 

 

「ひぃっ、ひぃっ…」

 

「ほらもう少し」

 

 

 ちりん。

 鈴の音が止まる。

 

 

「着いた」

 

「ぜぇぜぇ…、やっとかよぉ……っ!」

 

 

 汗を拭いながら、ゆっくりと頭を上げる。

 目の前には──。

 

 

「お、おお…!!」

 

 

 かつて地上で見た紅魔館に負けず劣らずの西洋風の屋敷が聳え立っている。煌びやかでスタングラスの窓に目を奪われる。鬼たちの居酒屋を見ていたので、和風な場所を予想していたのだが、これは予想外すぎた。

 

 

「なんて・・・金持ちそうな家ぇぇうへへッッ!!」

 

「ようこそ、地霊殿(ちれいでん)へ」

 

「地霊で……ムッ!?」

 

 

 今まで喋っていた猫の姿はもうない。

 そこにいたのは真っ赤な髪を三つ編みのおさげにして黒いリボンをつけ、前髪はぱっつん。猫耳と尻尾がチラリと見えている。服装は黒と緑を基調としたゴスロリファッションである。

 

 

「……猫娘?」

 

 

 懐かしき我が生涯のライバル。

 それを彷彿とさせ、思わずポロリと出てしまう。

 

 

「誰と勘違いしているんだい。私は火焔猫燐(かえんびょうりん)。種族は“火車”だよ」

 

「火車…ッ!?火車ってあの餅と死体を食うのが好きな…ッ!?」

 

 

 火車

 それは人間の死体を葬儀中や墓から掘り返すなどをして強奪する妖怪である。その後は死体を食らう、または地獄に送る。年老いた猫が化けるとも言われているが、その正体は未だに謎に包まれている。

 

 ねずみ男は外の世界で火車と出会っている。乱暴な性格で、人の死体を奪って、残された家族の悲しみの顔を見て喜んでいた。その被害に遭った子どもが鬼太郎に手紙を送り、退治しに行ったのだが、火車には最強の能力があり一時負けかけた強豪な相手であった。

 

 

「私は死体なんて食わないさ。餅もそんなに好きじゃないし。まぁ確かに死体を食べるのが好きな奴もいるんだろうけど、皆んなが皆んな同じだと思わないでよね」

 

「そ、そうなのか…」

 

「そうだよ。大体、食べるってヤバすぎでしょ。うぇー、あり得ない。気持ち悪ぅ…」

 

「お…おぉ……!火車にも倫理観あるんだ…」

 

「はぁあ。死体ってのはね芸術品なんだよ。冷たくて硬くて無機質で・・・生きてた頃とは全てが真逆。それをどう美しくするかが重要だってのになア」

 

「やっぱり倫理観もクソもねえ。猫ってやっぱり頭がおかしいわ…」

 

「って話してる場合じゃなかった。さぁ、助けたんだから力を貸してもらうよ。中に入って」

 

 

 大きな扉が開き、中の様子が見える。

 扉の先、その家の中を一言で例えるなら──動物園としか言いようがなかった。

 

 

「な、何だこれ…!?」

 

 

 なぜ動物園と例えたのか。

 それは普通に廊下をあの肉食獣の王様ライオンが闊歩しているからだ。更には階段の手すりにはとても大きなアナコンダが巻き付いており、その近くには生きる恐竜コモドドラゴンといった超危険生物たちが自由気ままに暮らしている光景がそこにあったのだ。

 

 

「ほげぇ〜〜」

 

「どうしたの、さっさと行くよ」

 

「い、いやいや、何驚いてんのよみたいな顔しないでよ。何なのここは?幻想郷のお家動物園なの?」

 

「ああ。そっか初めてならそういう反応か。この子達はご主人のペットだよ。そして私もね」

 

「ペット…!?」

 

 

 飼育しているのではなく、手懐けて一緒に暮らしている家族(かぞく)である。その言葉を聞いて、ねずみ男は震え上がる。こんな猛獣たちをペットにする主人はきっとかなりの強者、もしくはめちゃくちゃ怖い存在なのかもしれない。

 

 

「・・・っ」ゴクリ

 

「この部屋だよ」

 

 

 震えているうちにとある部屋の前に辿り着く。

 この先にコイツらのご主人様がいるのだ。心の準備ができないまま猫燐は部屋をノックした。

 

 

『どうぞ』

 

「許可もらえたね。さぁ行くよ」

 

「ちょっ、まっ──」

 

 

 何も準備ができないまま先へと進んだ。

 その部屋の中には家具らしきものは殆どなかった。大きめな本棚が一つと椅子が一つ。その椅子に腰掛けて、読書をしている紫色の癖っ毛な少女が1人いた。フリルを着ていて、何処となくメルヘンチックなお姫様に見えるが、それに似合わない物がある。

 

 

「め…だま……?」

 

 

 そう、目玉だ。

 彼女の身体からコードのようなものが出ており、それが目玉と繋がって浮いていたのだ。

 

 

(な、何だよ。あんな猛獣を手懐けるから剛力な奴が出てくるかと思ったけどただの──)

 

「“ただのガキかよ、ビビらせやがって。”──って思ったでしょ。外の世界からの来訪者ねずみ男さん」

 

「へ!?」

 

 

 なぜ名前を知っているんだ、いやそれよりもなぜ自分の考えていたことが分かったんだ。そう思っていると彼女は本をパタンと閉じ、ねずみ男の方を見た。

 

 

「“なぜ考えていることが分かるんだ”……。それは私が(サトリ)という妖怪だからです」

 

「覚…っ!そういや昔、会ったことがある!人の心を読むことができる妖怪だ!!」

 

「その言葉に嘘では無いようですね。そう、私がこの地霊殿の主人……『古明地さとり』です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 現場は騒然としていた。

 小さな居酒屋ではあったが、義理人情に厚い店主の性格や常連客との仲の良さが周りから好かれ良い雰囲気を作り出し、勇儀も通う名店とも呼ばれていた場所が現場となっていた。

 

 

「・・・っ」

 

「酷いわね」

 

 

 店主と常連客2人、合わせて3人。

 全身を滅多刺しにされていた。死因は出血多量だろう。背中に刺し傷や切り傷が多いことから必死に腹部を守ろうとしたのは見てわかった。

 

 

「死んでからも刺していたみたい。それにこの顔の傷、目玉も潰されている……。犯人はよっぽどこの店の奴らが嫌いか、鬼自体に深い憎しみを抱いているのか……。まぁ、どちらにせよ鬼3人を殺しているのを見るとかなりの実力者とも予想できるわね」

 

 

 死体に触れて分かったことや考えられることを言った。霊夢は妖怪や幽霊、怨霊に悪霊といった物に加えて、死体も別に見慣れてはいる。修行時代や巫女としての使命を全うしている時に嫌というほど見てきたおかげではある。だが彼女は探偵ではない。とりあえず現状わかることをそのまま伝えた。

 

 

「……確かにまぁ私ら鬼ってのは乱暴なところはあるさ。欲に素直だからな。みんなが皆んな仲良しこよしってのは無理だ。誰かに嫌われるのも無理はないさ。でも、それでも…、こんなやり方はねえだろうよ」

 

 

 死体に向かって手を合わせる。

 鬼も手を合わせたりするんだな、と霊夢はそこに意外と驚く。手を合わせ終えると勇儀は近くの子分たちに指示を出す。

 

 

「埋めてやってくれ」

 

「「「うっす」」」

 

「これで17人目。本格的に捕まえないと……」

 

 

 霊夢は腕を組み、少し考える。

 朝、勇儀と共に殺し方の資料や死体の写真を見た時と、今回の殺し方から何か違和感を感じたのだ。

 

 

「ねえ、犯人はおそらく3人よ」

 

「何?」

 

「殺し方には3つのパターンがある。一つは手足をもがれた殺し方。手足は見つかってない。このパターンが一番多い。しかも鬼だけじゃない。二つは細切れ。かなりの剣技の持ち主がやった。そして今回の滅多刺し。かなり怒りや憎しみが籠った殺し方。そこから犯人は3人と特定できるわ」

 

 

 そして霊夢は死体が転がっていた地面に手を触れる。

 

 

「3人のうち2人は感情は感じられない。でも今回の犯人だけは違う。明確な殺意を持ってやっている。そういう相手は足がつきやすい」

 

「でもどうやって?」

 

「感情とか、こういう場所に残っている思念っていうのを、読み取れる奴がいるじゃない」

 

 

 その言葉に勇儀はハッとしたあと、かなり嫌な顔をした。

 

 

「アイツかぁ……。アイツなら確かに出来るだろうが…、苦手なんだよなあ。偉そうで。私は嫌いだよ、アイツ」

 

「喧嘩になったら困るし…、私も行くわ」

 

「あんがとよ」

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 

 さとりの膝の上には猫形態になった猫燐が乗っており、ゴロゴロと喉を鳴らしている。そして頭を撫でられ、尻尾の付け根の部分をトントンされると甘えた声を出して喜んでいた。

 

 

「私は貴方に用があって、この子…猫燐を使い呼んでもらいました」

 

「よ、用って…」

 

「ねずみ男さんは話さなくて結構。心読めますので無駄は省きましょう」

 

 

 その威圧的な態度と冷酷な目にブルリと震えて、ただ頷く。

 

 

「私の用とは人探しです。……その人とは私の“妹”。名前は古明地こいしと言います。二年以上も家出をしています」

 

(一年以上も家出って……。俺は探偵じゃねえっての。この天パちゃんが…)

 

「・・・て、てん。ふぅ……、最後に見かけたのは5日前、この地底です。まだ地底にいると思うので探してください。お金なら用意します」

 

「か、かか、金ェェ〜!」

 

「貴方がお金好きなのは分かってます。私は屋敷からは出ませんし、ペット達では限界がありますし、地上には行けない。断るのは自由ですが……地底で暴れた“のびあがり”の件、全て勇儀に話します」

 

 

 ビクンと体が跳ねる。

 

 

「ゲゲゲェェ〜〜ッ!なんでそれをーーーっ!?」

 

「はぁ…、言ったでしょう。私には心の中が読める。読みたくてもどんなものでも読んでしまう。今言おうと思ったこと、さらに奥深くのやましい気持ちも隠したい秘密も…、全部ね……」

 

「脅すのかよ、この俺を・・・!!」

(このガキィィ…、なんて──)

 

「使えるものは何でも使う性分でしてね」

 

 

 読みたくなくても読んでしまう。心の中なんて別に見たくもない聞きたくもないのに。勝手に嫌われる。嫌われてきた。生まれた時から嫌われてきたんだ。ならこんな風に悪いことに使っても気にしない。この男も罵詈雑言を言うんだろ。早く嫌え。そっちの方が楽だ。

 

 

(なんて()()()()()()…!!くぅううう〜〜〜っ!!)

 

「・・・え」

 

(心が読める。改めて思うけど羨ましいィィィ〜〜っ!俺様にもそんな力がありゃあ、もっとがっぽり稼げるってのによお〜っ!!)

 

 

 何だこいつ。

 憎まれるんじゃなくて羨ましがるなんて。

 

 

「初めてそんな事言われました。でも、二度と軽々しく言わないでください。この呪いの能力を持つと何をしなくても嫌われますよ。私みたいにね」

 

 

 たっぷりの嫌味を込めて言う。

 簡単に羨ましがると言った、この“生まれ持っての呪いの力”。それを手に入れることの辛さも悲しみも知らないくせにふざけるなという思いをめちゃくちゃに込めて。

 

 

「別に良いね、俺は」

(別に良いね、俺は)

 

「・・・っ」

 

 

 第三の目がギロリと睨みつける。

 心が読めるのに信じられなかった。言葉も心も。だからか、無意識に能力がねずみ男の心の奥底を暴こうと発動する。

 

 

──どっち付かずの半妖怪が!

──穢れた奴だよ、お前は。

──生まれたことが罪なんだよ。

 

 

(生まれたことが罪、か。私も言われたっけな……)

 

「そんな事よりよ!初めから金をくれるって言ってくれよ。俺はよ、金くれんなら何でもやるよ。それでそれで幾らだよ!ンフフフ」

 

「・・・くふっ」

 

「え?今笑った」

 

「笑っていません。ただ貴方みたいな人は初めてだなと思っただけです。では、やってくれるという事で」

 

「お任せください!」

 

「最後に。妹は基本的に見えません」

 

「見えないって透明人間…ってこと?」

 

「透明人間では無いです。妹は心を読む程度の能力を捨てて、新たに無意識を操る程度の能力を得ました。人が意識的に認識する世界の外を操ります」

 

「ほへぇ?」

 

「・・・つまり全く認識されないということです。認識されないということは誰にも見つけられない。透明になる能力ではなく、()()()()()()()()()能力という方が正しいですかね」

 

「なんだそう言うことね!りょーかいりょーかい」

 

「了解ってなんて気楽な…」

 

 

 ねずみ男は地霊殿を後にする。

 アテは無いが、見つかるだろうという根拠のない自信と共に進み始めた。彼にとって悩む時間は無駄なので、とりあえず動くのだ。

 

 

「久しぶりに見ました」

 

「何を?」

 

「人と話しているところですよ。さとり様、人嫌いじゃないですか」

 

「そうよ。今も嫌い。人も妖怪も全て嫌い。まぁあっちも心を読んでくれる奴なんて嫌いでしょうからお互い様ね。だから私は貴女たちが好き。心が読めない動物たちは大好き。愛したら愛してくれるもんね……」

 

「にゃーん」ゴロゴロ

 

「でも……ふふ、変な人だったわね。思っていることと言葉が同じ。単純というか馬鹿というか、まるで動物そのもの」

 

「狩りたくて堪らなかったニャ」

 

 

 さとりの撫で方で猫燐は再び蕩けてしまう。

 

 

「あっ、そうか」

 

「うにゃ?」

 

「ねずみ男…。ネズミか……!そういえばまだペットにしてなかったな。ペットといえばお空はちゃんとやってた?」

 

「やってましにゃ〜ん。あ、ああ、気持ちいいィィィ〜〜〜っ!そこそこぉん♡」

 

「ここ?ここかな?ここか〜?」

 

 

 どんどんどんどん。

 

 

「・・・」

 

 

 戸を叩く音で手が止まる。

 猫燐は膝から降りて、人間の姿になる。

 

 

「私が行きます。さとり様はここで」

 

「ええ、お願い」

 

 

 猫燐は玄関へと向かう。

 そして、そこに立っていた相手を見て、たじろいでしまった。何故なら目の前には地底の鬼たちのまとめ役と博麗の巫女が立っていたからだ。

 

 

「よぉ、覚妖怪の愛猫さん。邪魔するぜ」

 

「アンタのご主人はいるわよね。ちょっと話があるから上がらせてもらうわよ」

 

 

 そう言って入ってこようとする2人の前に立ち塞がり、声を荒げる。

 

 

「待っ、待って!さとり様の許可なく入るのは、うわっ!?」

 

「どいてな。ペットにゃあ用はねえ」

 

「ぎゃっ!?」

 

 

 胸ぐらを掴まれて投げ飛ばされる。

 本気では無いだろうが、鬼の投げはめちゃくちゃに強い。地面をごろごろと転がり、目を回す。

 

 

「どうも」

 

「覚妖怪。久しぶりだね」

 

「・・・」

 

 

 ペラペラと本を捲るさとり。

 2人のことに目は向けず、完全に無視をした。読みかけだった本の続きを読む。

 

 

「・・・あー、いきなり来て悪いんだけどよ」

 

「──断ります」

 

「ちっ」

 

 

 きっぱりと断るさとり。

 何を頼むのかを先読みして答えた。勇儀はその冷たさに舌打ちをして、面倒くさいなという嫌な態度を出す。

 

 

「あなた方のお仲間がこの先何人殺されようと私には関係ありません。お引き取りください」

 

「・・・あ"?」

 

「“同じ地底の仲間がやられたってのに何だその態度は”……。どう思われようと構いませんが、私はあなた方を一度も仲間と思ったことはありません。寧ろ、大嫌いです。ごめんなさいね」

 

 

 馬鹿にするように笑うさとりを見て、血管が一気に浮き出る。殺意を向けられてもさとりは怯えることなく余裕そうに鼻で笑う。

 

 

「テメ……ッ」

 

「落ち着きなさい。勇儀」

 

「・・・ちっ。だから言ったんだ。偉そうな覚妖怪が手伝ってくれるわけがないんだってな!」

 

 

 間に入った霊夢。勇儀を抑えて、今度は自分が表に立つ。

 

 

「ねえ、さとり。手伝ってよ。あんたの力が必要なの」

 

「・・・。・・・!」

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「見つけてやるとは言ったものの、こうやって堂々と出歩いていたらあの鬼に見つかるんじゃねえかという不安に襲われてしまうナ…」

 

 

 あの鬼たちに見つかったらボコボコにされてしまうのでは無いか、という不安に襲われて繁華街の方に進めずにいた。とりあえず外周をゆっくりと歩いて、様子を伺う程度であった。

 

 

「あーあ。歩いている途中でひょっこり出てこないかな。そっちの方が楽なのに……ん?あれって」

 

「・・・」ポー

 

「あの時のガキ!無事だったのか!」

 

 

 手を振って近づいてみると彼女はボーッとした表情でふらふらと歩いており、ねずみ男には全く気づいていなかった。呼びかけに答えることはなく無表情な顔に何かあったのでは無いかと不安になってしまう。近づいてみると彼女は血に濡れて、顔や服が真っ赤に染まっていた。

 

 

「な、なぁっ!?血塗れじゃねえか!どっか怪我してるんじゃねえのかよ!?」

 

「・・・」

 

「おーい、おい、大丈夫かよ」

 

「・・・」ペチペチ

 

 

 呼びかけながら頬を軽く叩く。

 すると意識を取り戻したかのように彼女の瞳に光が戻る。

 

 

「・・・んぁ、あれ?おじさん?また会ったね」

 

「へへへ。よぉ元気かよ。フラフラしてたけど大丈夫かい?」

 

「あ……っ、いつの間にか意識無くなってたのかな」

 

「おいおいおい意識無くなるって大丈夫かよ。随分と真っ赤だけどよ、あの鬼に変なことされなかったか?」

 

「あ、これ?えへへ……心配してくれてありがと。でも大丈夫だよ。これ全部ね、返り血だから」

 

「か、返り血…っ!?人は見かけによらないっていうけどホントなんだな」

 

「・・・怖くなった?」

 

 

 脅かすように言う少女。

 ねずみ男は馬鹿にするなと言わんばかりに鼻で笑う。

 

 

「ケケケ、怖くないね。怖がらせたいなら血塗れよりも猫を用意しろってんだ」

 

「なーんだ。怖がって泣いちゃうかと思ったのにつまんないのー!……あはは!」

 

「なははは!俺はそんなガキじゃねえっての!」

 

 

 無邪気に笑う姿に子供らしさを感じ、少し安心した。血塗れ姿は別に怖くはないが、彼女はまだ幼い。トラウマなどになり精神的に何かあったら大変だと思っていたからだ。2人は笑い合いながら近くの岩の上に座る。

 

 

「はーあ、久しぶりにこんなに笑ったなあ。……おじさんって変な人だよね。私のこと見えるし、私の事いじめないし、心配してくれるし」

 

「そんなに変かぁ?普通だと思うけど」

 

「変だよ。だって、私は嫌われ者の“覚妖怪”だもん。普通はみんな嫌うよ」

 

「まぁ勝手に心を読まれるのは良い気はしねえな」

 

「でしょ?」

 

「でもそれを嫌う嫌わないは自由だろ。俺は周りに流される気はねえ」

 

 

 誰かを嫌うのは自由だ。合う合わないは必ずある。だが、その嫌う理由が()()()()()()()()()()だと話は変わってくる。そこに自分はいない。それで良いわけがない。しかし悲しいかな、世の中には多数の意見に流され、自分の意思を持たず、周りと共に人を害する輩も多いのが現実だ。

 

 

「それに元々読まれても構わねえしな。……あと、俺だって好かれたことなんかねえさ。生まれた時から鼻つまみもんだ。なんか、お前の気持ち少しは分かるのさ」

 

「何で?おじさんも覚妖怪なの?」

 

「いや、俺はどっちつかずの半妖怪なんだ。人にも妖怪にもなれない半端者。……まぁ、だからかな。俺は誰に嫌われても気にしねえのよ。自分さえ良ければいいんだ。だからお前も周りなんか気にするなよ。自分だけを大切にしろよ」

 

「自分だけ?」

 

「そう。いつだって自分を守るのは自分なんだ。だからお前も誰かについて行くとしても自分だけは大切にしろよ?」

 

「・・・分かった」

 

 

 ねずみ男にとって強い奴には絶対服従。だけどそこで自分の魂だけは売ってはいけない。あくまで利用すれば良い精神で生きている。だからこうしてしぶとく生きてられるのだ。仮に惚れ込んで魂なんか売っていたらここにはいないだろう。

 

 

(この子も若いのに苦労してんだなァ。……あれ、あれれのれ?そういやさっきこのガキンチョ…、自分のこと覚妖怪って言ってなかったか?)

 

 

 横目で彼女を見る。

 考えてみると、古明地さとりに似てる気がする。

 

 

「あ、あのよ〜」

 

「?」

 

「今更だけど自己紹介しておこうぜ。俺はビビビのねずみ男って言うんだけどよ。お嬢ちゃん、お名前は?」

 

「私?私の名前は“古明地こいし”だよ」

 

「ムハーッ!」

 

 

 髭がビビビッと動く。

 彼女こそねずみ男の求めていた存在。なぜ家出をしたのかは不明だが、この子を姉の元へ連れて行くだけで報酬金を貰えるんだ。それを考えるだけで笑みが溢れていく。

 

 

「こいしちゃ〜ん。今暇かな?良いところに連れてってあげるよ?キキキキ」

 

「良いけど……、なんでそんな不審者みたいに言うの」

 

「良いから良いから。げへへへ、じゃあ行きましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

「・・・・」

 

「本気で…、本気で思っているんですか?博麗霊夢」

 

「ええ」

 

 

 スンとした表情の霊夢に、さとりは若干怒りを見せながら言葉を放ちながら詰め寄った。

 

 

「・・・良いでしょう。貴女の考えが間違えであることを証明してあげます」

 

 

 さとりは読みかけの本を机の上に置き、ついに立ち上がる。そして自室に向かい出かける準備を始めた。

 

 

「感情ゼロ野郎をよく動かせたな」

 

「感情ゼロ?本当に言っている?あんなに感情的なやついないわよ」

 

「一体どうやって……」

 

 

 こそこそと話す2人の前に外出の準備ができたさとりがやってくる。

 

 

「では行きましょうか」

 

「ええ」

 

「もう何なんだよっ!?勝手に2人で話を進めんなよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました!

 次回も7月中に投稿できたら最高です。
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