ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

29 / 64
こんにちは、狸狐です。


 7月中に最新話あげたいと言っておきながら、なんと今日まで先延ばしにしてしまいました。何かに取り憑かれていたのか、だらけており、書くパワーが出ませんでした。申し訳ない…!

 前の話を忘れた方は読んでからお願いしますね!
 では!












地霊殿の女主人の妹

 

 

 

 

「おい、あれ見ろよ」ヒソヒソ

「勇儀姐さんに、博麗の巫女、そしてあの覚妖怪だぞ。2度と見れない組み合わせだな、こりゃあ」ボソボソ

「もしかしたら姐さんと巫女が、あの覚妖怪の公開処刑をするために連れ出したとか?」ニタニタ

「そりゃあ見ものだな」ケラケラ

 

 

「うるさいよ。お前らは離れてな!!」

 

 

 鬼たちが道端でその三人組を見て、噂をする。聞こえないように言ってるかもしれないが、心の読めるサトリに取っては小さい声で話すなんて意味のないことだ。だが彼女は決して怒ることはせず、ただ現場へと歩いて行った。

 

 

「ここですか」

 

 

 犯行現場に辿り着いた3人。死体は流石に片付けられているが、壁や地面に染み付いた血は残っており、凄惨さだけは伝わってくる。

 

 

「それじゃあ頼むわよ」

 

「・・・ふん」

 

 

 心を読む──。

 確かに完全犯罪を目論む犯人になら強い。しかし、事故現場に来てその能力がなんの役に立つのだろう。・・・と普通の人は考える。なぜ勇儀と霊夢は彼女を連れてきたのだろうと。

 

 実は『心を読む程度の能力』には、更なる力があるのだ。

 それは『残留思念を読み取ることができる』という物だ。その場所に残っている人々の想いや感情といった思念を読み取ることができる。つまりその場に犯人がいなくても、その現場に行くだけで分かってしまうというまさにチート能力だ。

 これは心を読む能力を極めた物でしか使うことができないので、心を読む妖怪は色々いるが、現状使えるのは彼女だけだろう。

 

 

「・・・」スゥー

 

 

 目を閉じる。その代わりに第3の目だけが今までよりも開き、思念を読み取るために集中する。段々とさとりの頭の中にこの場に残る思念が入っていく。

 

 憎しみ。怒り。殺意。恐怖。快楽。愉悦。

 

 そういった感情が読み取れる。徐々に、薄らと、その感情を発した者の顔が見えてくる。包丁を握り、怯える鬼たちの体を刃物で滅多刺しにしている小さな影。その影がだんだんと形になっていく。

 

 

「・・・!」

 

 

 その顔は、本当に久しぶりに見たその顔は・・・。

 

 

「こいし・・・?」

 

 

 鬼たちを殺していたのは自分の妹だった。

 家出してから一度も見ていない我が妹の顔をこんな場面で見て、少したじろぐ。霊夢はやっぱりな、という顔をしていた。

 

 

「おーおー!なんたる偶然よ。お三方!にひひ」

 

 

 そんな時、3人の前に間の抜けた声が響く。

 

 

「ねずみ男!」

 

「よお」

 

「見ないと思ったら、何してたんだ」

 

「いやーちょいと野暮用ですよ、勇儀さん。でも幸運、幸運。さとりお姉様がいるじゃないの。わざわざ地霊殿に戻らなくて正解だった。ほれ、連れてきましたよ。貴女の妹!」

 

「!!」

 

 

 ねずみ男の後ろには深く帽子を被ってはいるが、チラリと見える癖っ毛や閉じた第三の目から、直ぐにこの渦中の古明地こいしだと察した。勇儀はよくも仲間を殺したなと怒鳴りたかったが、グッと飲み込み耐える。どうやら自分よりも話したい奴がいるようなので。

 

 

「どういう事なの、おじさん」

 

「いやー、実はお前の姉ちゃんにさ、お前を探して欲しいって言われたんだよねえ。………って、あれ?なんか感動の場面って感じしないナ」

 

 

 ねずみ男はこいしの耳元で呟く。

 

 

「家出したのは知ってたけど、本当に顔も見たくなかったくらい嫌いだった?もし辛いなら、なんとか逃がせるけどよ」ボソッ

 

「・・・大丈夫。嫌いだけど、私も“用”があったのは思い出した」

 

 

 そう言ってこいしはさとりに近づく。

 さとりもまた同様に前に出た。

 

 

「こいし・・・」

 

「お姉ちゃん・・・」

 

「早く謝礼をォォーーーィイデデデッ!」

 

「少しは空気読みなさい。ほら、あっちで一緒に待ってるわよ」

 

「分かったからヒゲはっ、ヒゲは〜〜!」

 

「勇儀、頼むわ」

 

「ああ」

 

 

 霊夢はねずみ男の髭を引っ張って、この場から離れる。姉妹の間に何があったかは知らないし興味もないが、あまり他の人には聞かれたくないだろう。当事者と仲間を殺された勇儀だけが聞いていればいい。

 

 

「あー痛え。全く酷いことするぜ。霊夢ちゃん」

 

「私たちは関係ないんだから聞かなくていいのよ。大体、アンタは何にでも首を突っ込みすぎなんだから」

 

「ひでぇ事言うぜ。俺ほどの紳士はなかなかに居ないってのによオ。よいしょ…っと」

 

 

 疲れたねずみ男は木製の何かに腰掛ける。

 

 

「ん?あんた、何に座ってんの?」

 

「何って、何?適当に落ちてた……あら、これ棺じゃない。なんでこんなところに」

 

「棺……、はっ!!ねずみ男、あんたすぐにそこから離れて!!」

 

「へ?訳わかん──」

 

 

 棺を拳が突き破る。

 座っていたねずみ男は・・・。

 

 

「アラァァァーーーッ!?!?」

 

 

 彼方へと吹き飛ばされた。

 その拳の持ち主は棺を粉々にして、立ち上がる。途端に辺りには死臭が漂っていく。

 

 

『あゥウ……』

 

 

 それは以前、霊夢が戦った相手。

 死体操術により強制的に動かされている元人間であり人造妖怪のキョンシーであった。

 

 

「こいつ…。はっ!?」

 

『グジュゥゥグジュゥゥゥ……』

『ベロベロベロお?』

『あぞぼ、あぞぼ』

 

 

 いつの間にかキョンシーたちの群れに囲まれていた。今回は以前と違って、形は人型に近く、手が多かったり、目玉が沢山あったり、舌がいっぱいあるくらいで、あまり強そうには見えないが、かなり数は多かった。

 

 

「こんなに…!?まさか、あの女が…」

 

『ウヒャヒャヒャアァッ!!』

 

 

 シュッ!!

 伸びた舌が地面を抉る。考え事をしていた霊夢はギリギリで回避していたので無傷ではある。まあ、仮に当たっていたとしても大したダメージにはならないだろうが。そのまま伸びた舌を掴み、引き寄せ、その顔面を殴り飛ばした。

 

 

『べびぃひっ!?』

 

「ちっ、きったな」

 

 

 

 

 

 少し離れた地点。

 

 

 

「いてぇ〜。何だよもう、踏んだり蹴ったり。今日の俺はついてねえナア」

 

『それは可哀想だな、ねずみ男』

 

「ほんとだよ。大体、この大物である俺がこんな目に遭うってどこか世の中間違ってるよな……ってどなた?」

 

 

 吹き飛ばされ、倒れていたねずみ男。

 起き上がり、話しかけてきた人物を見る。

 

 

『儂だ。久しぶりだな』

 

「ぬぅ──!?」

 

 

 今までの人生で1番冷や汗が流れる。

 それ程までに命の危機を感じていたからだ。

 

 

「ぬ、ぬぬ、ぬぬぬぬぬぅぅうう、ぬらりひょんっ!?」

 

『ぬらりひょん?』

 

「……ぬらりひょん大先生じゃあないですか!うへへへへ」スリスリ

 

 

 ぬらりひょん。

 忘れもしない。あのゲゲゲの鬼太郎を何度も殺しかけた最強最悪の妖怪が目の前にいた。

 計算高く、それでいて強く、何よりも邪悪。よく使えない部下はあの刀が仕込まれた杖で処刑されていたのを知っているので、とにかくゴマをする。

 

 

「悪党妖怪たちの親玉であり、我々一般妖怪たちを導く総大将の“ぬらりひょん”様じゃないですか!お久しぶりでございやすねぇ、えへへ」

 

『ああ。まさかこの世界で出会うとはな』

 

「本当でございますよ。本当にもうねえ!うふふ。でも、でもー、ここに鬼太郎は居ませんよ、センセッ」

 

『知っておるわ』

 

「そ、それならなぜここに」

 

『・・・お前に言って、何か儂に得はあるのか?』

 

「ひぃいい、ごもっともでございやすっ」

 

『まぁ、いい。なぁ……、ねずみ男よ。儂はお前に用がある。だから今から儂の言うことには全て“はい”と返事をしろ。それ以外の返事をした場合は首が飛ぶぞ。よいな』

 

「あ、あは、あはは、は……はいはいはいィィィ」

 

『ふっ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

「こいし」

 

「お姉ちゃ──」

 

 

 パンッ!!

 さとりがこいしの頬を1発平手打ちをした。乾いた音が響き、その後暫しの間、静寂が流れた。

 

 

「さっき()()()。鬼を殺したのは貴女みたいね」

 

「──つっ」

 

「勇儀。悪かったわね、身内が迷惑かけて。けどここでは殺しは日常茶飯事。この子は私に任せてもらえますか?」

 

「あ、ああ」

 

 

 勇儀に口の挟める余裕は無かった。

 あの鬼たちを殺した責任を取らせようとは思ったが、確かにここではよく喧嘩で誰かは殺される。弱肉強食の世界だ。姉が身内に罰を与えるというのなら納得せざるを得ない。

 

 

「馬鹿なことなんかしてるんじゃないわよ。どうして、貴女はお姉ちゃんに迷惑ばかりかけるの?家出して構ってもらおうとしたり、あの鬼たちに意地悪されたから仕返しでもしたんでしょ。くだらない」

 

 

 冷たい目でギロリと睨む。

 こいしは顔を伏せたままである。

 

 

「昔から言っているけど、私たちは最強の種族。馬鹿にされて怒るなんて恥ずかしい真似だけはしないでくれる?」

 

 

 そう言って、こいしの手を掴み、ぐっと引き寄せる。

 こいしが嫌がり抵抗しようとしても、体の大きい姉には力で負けてしまう。

 

 

「ほらっ、いい加減戻るわよ。話の続きは屋敷でするから」

 

「・・・めてっ」

 

「家出の件も含めて話すわ。私がどれだけ心配したのか分かってるのかしら。全くこの子は……!!貴女の居場所はあの屋敷だけだっていうのに」

 

「〜〜〜っ、やめろぉおお〜〜〜ッ!!」

 

「きゃっ!?」

 

 

 ドンッ。さとりの手を振り払い、押した。尻餅をつくさとりの表情は痛みよりも妹が自分に手をあげたことに驚きで固まってしまう。

 

 

「私の居場所はアンタのところじゃない!」

 

「何を言って・・・!」

 

「あんたは何にもっっっ!!何にも分かってないっっっ!!」

 

「・・・え?」

 

「私は友達が欲しいの!誰かと一緒に遊んだり、ご飯食べたり、お喋りしたりしたいの!アンタみたいに引き篭もって死ぬまで動物(ペット)と暮らすなんて嫌なのッ!!」

 

 

 彼女の本心であり、叫び。

 涙交じりの言葉に嘘なんか何も混ざっていない。怒り、悲しみ、苦しみに憎しみ、とにかくぐちゃぐちゃになった負の感情を初めて向けられて、さとりは当初は固まっていたが直ぐに立ち上がり、こいしの肩を掴んで揺らす。

 

 

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!私たちの力を理解して、友達になってくれる人なんていると思ってるの!?夢見てんじゃ無い!!」

 

「・・・っ、うるさい」

 

「何をしたって嫌われるのに貴女は昔から友達欲しさに外に出て、傷だらけで帰ってくる。それを見て、私がどれだけ辛かったか分かる!?初めから関わらない方がずっと幸せなのに!どうしてそれが分からないの!私は貴女のことを思って、言ってるの!!」

 

「黙れェッ!!」

 

 

 血で刃がボロボロになり、肉片や体液でガチガチに固まった包丁を取り出す。やり取りを黙って見ていた勇儀はその包丁が仲間を殺した凶器だと直ぐに気づいた。

 

 

「そ、それは……!」

 

「私はアンタとは違う。私を理解してくれないなら、無理矢理でも理解させる。私を大切にしてくれる人だけの世界を作る!!だから……、私にアンタはもう要らない……!!」

 

 

 包丁を振り下ろす。

 さとりの顔面を狙って、狂気に染まった凶器を突き立てようとした。しかし刃は彼女に当たることはない。

 

 

「ガキが刃物なんか振り回してんじゃないよ……」

 

「…ぐぅ…っ!!」

 

 

 手のひらで包丁を受け止める。

 ボロボロな刃では鋼鉄の肌を傷つける事はできない。そのまま刃先を握るとボキリと折れてしまった。包丁は柄だけになり、こいしは舌打ちをして投げ捨てた。

 

 

「くっ、じゃっ、邪魔すんな!」

 

「ふん、私だって姉妹喧嘩の邪魔をするつもりは無かったさ。でもね、これだけは見過ごせない。やり過ぎだ」

 

「うるさい!!どいつもこいつも邪魔ばっかりぃぃぃ……!いっつもそうだ。私は何もしてないのに皆んな意地悪してくるっ、それなのに私ばっかり悪者扱いされるしぃぃぃ…!!」ブツブツ

 

 

 頭をガリガリと掻いて髪の毛がぐしゃぐしゃになる。涙が溢れ、血眼になり、錯乱状態になっていた。

 

 

「立てるか、さとり」

 

「・・・やめて」

 

 

 勇儀の差し伸べた手を払い、自分の力で立ち上がる。

 

 

「私は鬼が嫌いなの。聞き分けのない妹を止めることくらい1人で出来る」

 

「・・・そうか」

(馬鹿だな、私は)

 

(コイツらが影で酷い目に遭わされたのは知っていた。でも私は口で注意するだけで本気で止めようとしなかった。関わるのを避けていた。あの子がこんな風に変わったのは止めようとせず傍観していた私のせいでもあるってのに)

 

(何が“鬼の首領”だ!くそがっ、下らねえ差別を止めることもできないってのにっ)

 

 

 2人のやりとりを見て、どれだけ彼女らが暗い過去を送ってきたのか伝わってきた。そんな心の叫びをさとりは聞いていた。

 

 

「・・・」

 

 

 こいしは近くの石を拾うと──。

 

 

「う、うぅうぅぅぅぅ……っ!邪魔するならお前も死ねっ!!」

 

 

 来た。

 殺意を向けて、ただ単純に飛びかかる。この動きなら簡単に止められる。まずは落ち着かせないといけない。手刀ならば簡単にいなせる──。

 

 

 

『あらあら〜』

 

 

 目の前の地面に大きな穴が開いた。

 

 

 

「もがっ!?」

 

『ダメよ、こいしちゃん。それじゃあ簡単にやられちゃうわよ。相手は鬼なんだから』

 

 

 飛びかかるこいしを、穴の中から現れた青髪の女が優しく抱きしめて止める。まるで母親のように慈しみながら話しかけると、こいしは少し落ち着き始める。一方で勇儀に対してはいつでもかかって来いと言わんばかりに背中を向け、余裕そうに笑っていた。勇儀は直ぐにこの女は自分の1番嫌いなタイプだと直感する。

 

 

「誰だ、お前」

 

『あらあら、怒らずとも名乗りますわよ。私は霍青娥。ただの天才仙人ですわ。そしてぇ……こいしちゃんの新しいお友達☆』

 

 

 天才だと自称するあたりも気に入らない。

 しかし我関せずと言葉を続ける。

 

 

『せっかく久しぶりに会った家族が心からのコミュニケーションを取ろうとしているのに石じゃあつまらないでしょう。もっと盛り上げようと思って出てきちゃった♡』

 

「お前がこいしに何か吹き込んだのね」

 

『言いがかりはやめてくださいよ〜、お姉さん』

 

「・・・!心が読めない」

 

『うふふ。仙術『悟り封じ』。私、仙人の中でも天才でして。いつでも心に鍵をかけることくらいできるんです』

 

 

 霍青娥に抱きしめられていたこいしはモガモガと苦しそうにしているので、青娥はにっこり笑ってから解放する。

 

 

「ぷはっ、もう!青娥さん……っ、止めないでよ」

 

『あらあら。止めに来るわけないでしょ。私は応援に来たの。こいしちゃん、よく聞きなさい。石で勝てるわけがないし、能力を使わないのは自殺行為よ。ほら、これあげるから落ち着いて戦ってね』

 

「これ…!」

 

 

 渡されたのは小さなナイフ。

 だが()の部分は骨だった。それも動物の骨ではなく、人骨のように太いのは直ぐにわかった。更には少しだが宝石やらで装飾しているのも見て取れる。

 

 

『呪具『鬼骨(きこつ)』。私が作ったオリジナルの武器なの。専門はこういうのじゃ無いんだけどねぇ。ほーら、握ってみて』

 

「お、とと…。うわっ、意外としっかりしてるんだ」

 

『さあ!頑張って!筋肉鬼女は私が止めるから、分からず屋のお姉ちゃんなんか殺しちゃおー!』エイエイオー

 

「うん」

 

 

 頷くと同時にこいしの姿は消えた。

 いや、消えたというよりも我々が認識できる範囲の外へと出て行ったのだろう。更にはこいしは心を閉ざしているので、さとりの心を読む能力は使うことができない。まさかの妹が天敵であった。

 

 

「ぐっ!?」

 

「さとり!!」

 

 

 背中がいつの間にか出血していた。

 心を読み、先に行動し、相手の攻撃を避けることができるさとりにとっては久しぶりの痛みであり、悲痛の声を上げる。

 

 

(ふふっ、ふふふふっ!!包丁なんかと違う!これ、すごい!)

 

「はぁっ、はぁっ…!っつぅ……!!」

 

(次はどこを刺そおかな……あ)

 

「……くっ!!」

 

 

 抵抗できずに、さとりの身体は出血していく。新しい傷の上にまた新しい傷ができる。切られ、刺される度に痛みと熱が全身に広がって行く。さとりは傷口を抑えながらその場を立ち去っていった。

 

 

『こいしちゃん!ちゃんと殺してくるのよ〜』ヒラヒラ

 

「何言ってんだ!自分の姉だぞ!!家族で殺し合いでもさせる気か!?」

 

『姉だからこそ、血の繋がった家族だからこそ、ああやって自分の思いを吐き出すことができる。それに散々こいしちゃんに我慢させてきたんですから、身を持って発散させてあげるのが姉の勤めというもの。私達はこうやってあの2人の家族の形を見守ってあげましょうよ』ヨヨヨ

 

「てめぇ、ふざけんな……!」

 

 

 霍青娥の肩を勇儀は掴む。ミシミシと音を立てて、女の骨は軋む。しかし痛がる素ぶりはない。嫌な笑顔をやめずにニタニタと笑い続ける。

 

 

「あの2人の問題は見せもんなんかじゃねえんだ!それなのにわざわざ武器なんか寄越しやがって!何様のつもりだ!?」

 

『それよりも勇儀さん。私、実はあなたにお話があったの。通り魔の噂があるでしょう』

 

「なんだ急に・・・?」

 

『アレね、私のことですの』ボソッ

 

「・・・は?」

 

『鬼って筋肉も凄いけど骨も立派なのね〜。加工する時、大変だったわ。あっ、加工っていうのは、さっきこいしちゃんに渡したナイフ!あれ、あなたの仲間──』

 

 

 バギャァ……ッ!!

 骨が砕け、肉が千切れる音が響く。女の右肩から下全てが引きちぎられ、その腕はそのまま地面に投げ捨てられる。女は怯むことはなく、寧ろやられることは分かっていたので気にしていないようであった。

 

 

『あらあら、酷いわ〜』

 

「ふざけやがって!!お前だったんだな。私たちの仲間をあんな目に遭わせたのは!!」

 

『別に良いじゃない。クズをどう使おうが私の勝手でしょ。はぁ〜あ、それよりも私の腕があんなに遠くまで…。治すの大変なんだからね』

 

 

 腕を拾い、取れた箇所にくっつけ、糸と針で縫合した。その処置のスピードはわずか10秒。止める間も無くとはこの事だろう。

 

 

「私の仲間がクズだと…?」

 

『こいしちゃんからあなた方の事聞いたんだけど・・・、お仲間の鬼さんはあの子のこと散々虐めてきたんでしょう。心が読めるからって殴って、無視して、差別して…。それをクズと呼ばずして何と呼ぶのォ?本当に最低な種族ねェ。だからこんな騒動が起きたんじゃないの』

 

「そ、それは……」

 

『貴女は虐めの件を知ってて、無視していた。なら貴女も同罪よ。いや、見て見ぬふりはそれ以上のクズかもね。でもそんなクズが上に立てるんだから、鬼ってやっ──』

 

 

 

 パギャッ

 

 

 

『ぱアっ』

 

 

 言葉を続けようとした霍青娥。

 しかし、その前に顔面を凹まして、背後の大岩にまで吹き飛んでいった。そのまま大岩に直撃すると粉々に砕け、瓦礫と共に沈む。

 

 

「あんな言葉に惑わされてんじゃないわよ」

 

「霊夢…!でも、確かにあの女の言う通りで……」

 

「うっさい。あんたらの問題なんだから、外野がとやかく言ってきても気にする必要はないわ」

 

「だ、だが」

 

「大体ねぇ、他種族が初めから仲良くできるなんて無理ってもんよ。だったら、これからは共存していけるようにアンタが引っ張っていけばいいじゃない」

 

「・・・!」

 

「いつまでも後ろばかり見てんじゃ無い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「そうだな。そうだよな。ありがとよ、霊夢。目が覚めた」

 

「ふん。大体、弱気は似合わないっての。前向いてこそのアンタでしょ。それよりもまだ終わってないわよ」

 

「応」

 

 

 土煙が晴れる。

 瓦礫の中からゆっくりと血まみれの霍青娥が起き上がった。折れた鼻を自分の手でグギッと直し、そして笑う。

 

 

『随分な挨拶だこと……。ご機嫌麗しゅう、博麗霊夢さん。もう倒したんですの?私のキョンシー達』

 

「アンタさ、芸がないわよね。あんな雑魚、いくら寄越したところで無意味なんだけど」

 

「知り合いか?」

 

「ええ。前に妖怪の復権を目指しているから仲間にならないかって紫と私に勧誘してきたの。断ったら襲ってきてね、返り討ちにしてやったわ。まぁ、その時は逃げられたけど、もう逃さないわ」

 

 

 青娥は手で印を結び、笑う。

 

 

『あらあら。あれはただの前座。本番はこれからですわ。──下法「死体御遊戯(シートーヨシーフー)」』

 

 

 以前、博麗神社でも使った彼女の十八番。

 地面から棺を召喚した。しかし以前とは異なり、棺の数は一個だけである。

 

 

「何だありゃ…、棺か」

 

「あそこからキョンシーが出てくるのよ。まぁ、相手じゃないけどね」

 

『うふふっ、今からご覧頂くのは期待できますわよ……!!』

 

 

 ゆっくりと棺が開く。

 辺り一面に猛烈な死臭と血の匂いが立ち込める。太く真っ赤な脚がズシンと大地を踏み鳴らす。皮膚がないのか、筋肉繊維と血管がビクンビクンと脈打っていた。そして同様に真っ赤な剛腕が棺を粉々にする。丸太2、3本をまとめたくらいの太さで、拳を固めると大きな岩と違わないサイズだ。

 

 

『フシュゥゥゥ……ッ、フシュゥゥゥ……ッ』

 

 

 頭部は頭蓋骨や脳みそが剥き出し。両のこめかみからは角が2本ずつ生えていた。口元は唇がないので常に歯茎を剥き出しにし、涎を垂らし、黄色や白色の大理石のような歯をガチガチと鳴らしていた。呼吸音は苦しそうではあり、瞼のない剥き出しの8つの目玉からは表情には怒りの感情が読み取れる。

 

 

『この子こそ新たな材料で作りし大傑作のキョンシー……!名前はそうですね…、えーと…、そう!混世魔王(こんせいまおう)!!……とでもお呼びください。うふふ♡』

 

『グロロロロォォォーーーッ!!』フシュゥフシュゥ

 

 

 名前を呼ばれた瞬間に、呼応するように咆哮をあげた。その肉体と妖力量は今までのキョンシーとは比べ物にならない。何度もキョンシーと戦ってきた霊夢は何もかもが違うと直感する。

 

 

「この妖気。新たな材料……。まさかっ、貴様!この化け物…、犠牲になった鬼で作ったのか!?」

 

是的(シィダ)。御名答!こっちが私の真骨頂!!人間の筋肉では限界がありまして、何かもっと良いものがないかと思っておりましたら、丁度いい材料がこの地底にウジャウジャといるものですから、作ってみました。如何です?亡くなった同胞にまた会えた気持ちは……?』

 

「外道が──ンンッ!?」

『グロロォォォーーーッ!!』

 

 

 青娥に殴り掛かろうとした勇儀の拳を混世魔王が片手で止めて、もう片方の手で顔面を掴み、遠くへと連れて行った。青娥はヒラヒラと手を振り、頑張ってねと応援する。

 

 

『あら〜。きっと元リーダーと積もるお話があったんでしょうねェ。……それで、どうします?あっちこっちでやってますし、私達もやりますか?』

 

「良いけど戦えんの、アンタ?」

 

『うふ、うふふふふ。こうみえて武闘派ですのよ』ニマァ

 

「ならやりましょうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うふふふ。鬼さんこーちーらー』

 

「このっ」

 

『手のなる方へ〜』パチパチ

 

「あー!めんどくさい!!」

 

 

 手が届きそうで届かない。

 付かず離れずの攻防戦に苛立つ霊夢と、自身の能力で地面を抜けたり壁を抜けたりする霍青娥。飛び道具や近接での攻撃を仕掛けると敵は攻撃はせずに余裕に躱し、壁や地面をすり抜けて、いつの間にか背後に居たり、耳元で囁かれたりされる。

 

 

「攻撃できるくせに何のつもりよ!!」イライラ

 

『だって簡単に殺したらつまらないでしょ。うふふ。ほらほらこっちよー。捕まえてごらんなさいな〜』

 

「言ってくれるじゃない…!!」

 

 

 拘束するために護符を飛ばす。

 追尾するが、得意の壁抜けで避けられてしまう。青娥はニタニタと笑い言った。

 

 

『紙切れ飛ばしてばかりで、そちらこそ芸が無いんじゃない?』

 

「この…っ!!このこのこのっ!」

 

 

 追いかけているうちに霊夢は動きを止める。

 

 

(ん?あれ?これ、もしかして・・・)

 

 

 攻撃をしてこない様子と煽るような口調にイライラして追いかけていたが、もしかしたらここへ誘導されていたのかもしれないと。そう気づいた時にはもう遅かった。壁や地面に目玉がついた心臓が設置されていた。

 

 

「罠・・・!」

 

『うふふ。“道符「タオ胎動」”──』

 

 

 目玉が一斉に霊夢を睨む。ドドドドドッと鼓動する。

 暴ッッッ!!

 そして大きな音を出しながら次々と爆発していった。回避は出来ずに爆発に巻き込まれ、辺りは黒煙に包まれる。

 

 

「・・・けほっ、いったぁ」

 

 

 しかし霊夢は生きていた。服は焦げて少しボロボロになってはいるが、咄嗟に護符を全て用いて、自分の周りを守るように囲むことで爆発から身を守ったのだ。

 

 

『普通はバラバラになるのにすごーい』

 

「ふん、笑わせないでよ。でも、まぁ……死体とごっこ遊びしかできないイかれた奴はこの程度よね。ほら、どんどんやりなさいよ。ご自慢のキョンシー呼べば良いじゃない。私の顔面を蹴ったやつとかさ」

 

『芳香のことかしら?ちゃんと名前があるんだから、そう呼んでほしいわ。よいしょ』

 

 

 爆発から逃れるために壁の中に入っていたが、収まったので壁からヌルリと這い出て、近くの岩に腰掛ける。艶かしい生足を組み、余裕そうに佇む青娥に向き合う霊夢は構えを解くことはない。

 

 

「死体は死体でしょ。名前なんかつけて馬鹿みたい。いい歳なんだからオママゴトやめたら?オバさん」

 

『オバ……っ、あ、あらあら。そんな安い挑発には乗りませんの。ごめんなさいね。それと芳香は別件で動いているんです。貴女の相手をしてまた壊されても困りますし』

 

「別件?」

 

『あっ、口が滑っちゃいましたア。……というわけで口封じしなきゃッ』

 

 

 簪で岩をツンと触る。

 そのまま吸い込まれるように岩の中に消えると、霊夢の立っている地面から青娥が飛び出し、霊夢の指を喉元狙う。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 瞬時に身体を捻り、攻撃を躱す。攻撃を避けられた青娥はそのまま目の前の壁の中に吸い込まれていき、近くの岩から現れる。

 

 

「いきなり急所とか。なに、焦ったの?それともオバさんって言われて怒った?」ニヤニヤ

 

『別にそんなじゃありませんわ。ただ下手なことを言ったから、他の人に告げ口される前に口を封じなきゃと思っただけです。これ、ご覧なさいな』

 

「ん?」

 

 

 青娥は自慢するように爪を見せる。その爪、いや指から爪にかけて紫色の金属製アクセサリーがついていた。宝石などで綺麗に装飾してある。それを鳴らすと金属が擦れたようなチャリチャリという音が鳴る。

 

 

『これは指甲套(しこうとう)という爪を守るためのアクセサリー。その先端には毒虫数百匹の毒を混合した激毒が含まれてますの。これを貴女のその白い肌に突き刺したら、どうなるのでしょうね』

 

「御託はいいから」

 

『・・・なら、遠慮なく』

 

 

 青娥は地面を蹴る。猫科の動物のようにグッと姿勢を屈めて、バネのように水平に跳ねた。そのまま霊夢の腹部へと飛びかかり、片腕を大きく振り上げながら突進。

 

 

「──!」

 

 

 ただ真っ直ぐにくる攻撃を横に飛ぶことで避ける。だが、青娥は壁にぶつかると同時に両脚で蹴り、まるでゴム玉のように反射しながら、横に避けた霊夢へ再び攻撃を仕掛ける。

 

 

「──ッ!!」

 

 

 無規則に見えて、必ず霊夢が避けたところへと跳ね返る規則性を含めた攻撃。キョンシーを用意したり、トラップを仕掛けたりする参謀的なタイプかと思われたが、まさかの近接戦も心得ていた。そして敵の爪には猛毒が含まれているので迂闊に反撃を繰り出せないのをいいことに、青娥は更にスピードを上げていく。

 

 

象形拳(しょうけいけん)虎脚(こきゃく)!!』

 

「やば」

 

 

 大きく円を描いて背後から頭上へ、そして爪が直上へ、空気を引き裂きながら振り下ろされる。人間を超えた柔軟性によって加速した爪が霊夢の胸に食い込み、やすやすと切り裂いた。

 

 

『あら…。また避けられた』

 

「はぁ、はぁ」

 

 

 胸から腹部にかけて切り裂いたかと思ったが、裂けたのは服だけだ。爪の上で焦げた服がジャワァと音を立てて溶けていく。どれだけ強力な毒かというのは直ぐに理解した。

 

 

『踏み込みが甘かったか。いやねえ、いつも芳香にこういうの任せてるから感覚が鈍ったのかしら〜』

 

「何よ。戦えんじゃない!!」シュッ

 

 

 退魔針を投げつける。

 それらを全て爪で弾き落とす。カランカランと金属が地面に落ちると、霊夢は針も打ち切ったのか構え直す。それを見てから青娥は再び虎のようにゆっくりと構える。

 

 

『打つ手無しってところかしら。ご自慢の体術も封印術も使えなさそうだしねえっ!!』

 

「・・・!」

 

 

 先程と同様に初撃を避ける。だがこの技は避けられてからが本番だ。目の前の壁に脚を向けて蹴り上げれば──

 

 

 ガクンッッッ

 

 

『なぁっ!?』

 

 

 硬い壁を蹴るはずなのにあまりにも柔らかい。まるで布の上に立っているかのように。両脚が壁の中にめり込んでいく。

 

 

『な、何が…、これは──』

 

 

 壁を蹴っていなかった。壁だと思って蹴り上げたのは敷き詰められた大量の護符だった。霊夢が追いかけている時に投げた護符が壁の前の空間に固定されており、青娥はそこに足を突っ込んでしまったのだ。

 退魔針は霊夢にはもう技が無いことを勘違いさせるため、護符は使い切った、もしくはあの爆発で使い物にならないと思わせるためのブラフ。そう気づいた時にはもう遅い。バランスを崩し、傾く身体に。

 

 

「そこォッ!!」

 

『ガフゥッッ───』

 

 

 その瞬間に、頭に向かって踵落とし。

 霊夢の空中を回転しながら振り下ろされた踵は、例えるならば大きな金槌。ベギィッと鈍い音を立てながら、青娥の頭は凹み、硬い地面の上を2、3度跳ねて止まる。

 

 

「からの、封印(こうそく)ッ!!」

 

 

 身体を飲み込んでいた護符が青娥の全身に張り付いて、完全に固定する。多分脳震盪を起こしているのでジタバタ暴れることは無いが、これで抵抗することはできないだろう。

 

 

「やっぱりアンタ、キョンシーだけ作ってたほうがいいわよ。弱いんだから。・・・おばさん」ニヤァ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『グルルル…!フシュゥゥゥーーーッ!!』

 

(いい加減に・・・!)モガモガ

 

 

 壁まで追いやられた勇儀。

 爪先で魔王の足の甲を踏み、動きを止めると、即もう片方の脚で顎を蹴り上げる。I字のようにピンと真っ直ぐに繰り出された蹴りにより、魔王は押さえつけていた手を緩めてしまう。

 

 

『!!…ガアァァァッ』

 

「・・・しゃあああ」

 

 

 直ぐ。

 両者、身体を捻り──

 

 

『グロロオォォーーーッッ!!』

「ラアァァァっっっ!!」

 

 

 轟音が鳴り響く。拳と拳がぶつかった。力は拮抗しているのか、お互いに動きは止まるが、すぐに両者とももう片方の拳を繰り出す。

 

 

「ダアアァァーーー!!」

 

 

 ラッシュ対ラッシュ。

 お互いの剛腕と剛腕が何度もぶつかり合う。この拳の勢いをどちらか一方でも緩めたならば、緩めた方が確実に拳の豪雨に押し潰されてしまう。

 

 

『グゥゥ…GROOOーーーッ!!』

 

「!?」

 

 

 敵の拳がどんどん重くなってくる。

 混世魔王の腕が更に大きくなる。体の内側でギチギチと音を立てて、ぶくぅーーーっと膨れ上がっていた。

 

 

(筋肉の増加だとォ…!?)

 

 

 徐々に押される勇儀。

 それもそのはず、この敵はただのキョンシーではない。霍青娥により改造に次ぐ改造をされたことで人工的に【筋肉を増減できる程度の能力】を得ることが出来た最強人造妖怪なのだから。

 

 

『ゲギギギィィ!!』ニタァァ

 

「“力”だけなら幽香と同等・・・!!」

 

 

 鬼がまだ地上にいた頃、喧嘩に明け暮れていた勇儀は幽香と戦ったことがある。【純粋な怪力】と【圧倒的な暴力】のぶつかり合いの結果は引き分け。しかし勇儀はその戦いに対して自身の敗北を認めた。能力を使った勇儀に対して幽香は一切使わなかったからだ。つまり力の戦いで負けたということだ。このキョンシーとの戦いからそんな過去を思い出す。

 

 

「でもなァッ!!」

 

『アギィッ!?』

 

 

 ラッシュの刹那。敵との殴り合いを勇儀はやめ、身体を捻る。その巨大な拳を捻ると同時に脇腹で挟み、腕でガッチリとホールドする。そして両足から背中に思い切り力を込めた。約0.2秒に一気に流れが変わる。

 

 

「私だって成長したんだよォォーーーッ!!」

 

『ィィィ──』

 

 

 見事な一本背負いが決まる。

 脳天から硬い地面に直撃し、辺り一面にぐちゃぐちゃになった脳みそや脳髄が飛び散った。全身は硬い筋肉で覆われており、どんな攻撃も通さない筋肉の鎧を持ってはいるが、脳が露出した頭は脆いことは簡単に見抜かれていた。初めのうちはピクピクと痙攣していたが、直ぐにだらんと体の力が抜けていった。

 

 

「勝てても……、こんなのなんも嬉しくねえよ…っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ!」

 

 

「・・・っ」

 

 

「こいし!近くにいるんでしょ!」

 

 

 さとりは大きな声で虚空に叫ぶ。

 

 

「戻ってきなさい!!あんな連中といたら貴女は本当にダメになる!」

 

 

 ザクゥッ。

 いつの間にか太ももがざっくりと裂けている。そのまま転び、手のひらや膝を擦りむく。

 

 

「ぐあ"ぁ…っ、私たちは、誰とも関わっては、いけない…っ、お父さんとお母さんが……ぐぅっ、あっ、…殺されたのは他種族と関わろうと……して…不用意に近づき、すぎたから。…力を怖られ、嫌われたから…、殺さ、れた…。はぁ、はぁ……」

 

 

 土下座の形のように体を丸めるさとり。今できる唯一の防御姿勢。その状態で必死に掠れる声を発し続ける。対するこいしは今までの鬱憤を姉で晴らしており、それはそれは満悦な表情であった。

 

 

『くふ』

 

 

 震える姉の背中を足で何度も踏みつける。ああ、今まで偉そうにしてきた姉が自分の足の下で震えているこの感覚。病みつきになりそう。こいしは心の中でそう叫び、笑い声が漏れていた。

 

 

「いっ…、ひっ、あ"ァっ…!!私は…っ、貴女を、守ると…、決めたッ!!両親と、同じ目に遭わせるわけには……ッ、いかない……!」

 

(うっぜえんだよ!自分さえ良ければいいくせにっ!聖人ぶるなッ!本性出せ……よっ!!)

 

「う"ぅっ!?」

 

 

 脇腹を蹴られて、その場を転がる。

 悪いところに当たったのだろう。お腹を抑えながら苦しそうな声をあげていた。

 

 

「げぼっ、ぐふぅぅ……、ご、こいしっ、あ、あんな輩とつるんでいたら…っ、貴女は破滅するに決まって……っ」

 

(・・・は?)

 

「安全な…、安全なところに"……っ、私たちの家に帰ろ……」

 

(うるさい…!うるさいうるさいうるさい!!私に命令すんな!自分のことは自分で決める!!)

 

 

 ドンッ、グリリィィ…。

 刃物で刺した時に生じた傷口に靴の先端をめり込ませるようにグリグリと押し付ける。ジンワリと血で濡れていき、靴は赤く染まっていく。

 

 

「ぃぐあ、い"、い"だァ……、ひぎぃいい…っ」

 

(もう私にっ!お前は!必要ない!!)

 

 

 最後の一撃と言わんばかりに顔面を蹴り上げる。

 ゴツッと鈍い音がした。口が切れたのか、ゴボッと血を吹き出し、鼻からはダランと血が垂れる。動かなくなった姉を見て、一安心したのか力を抜く。すると全身からバァ〜っと発汗した。

 

 

『・・・っつぅ。……っはあ、はあ。能力の制御はやっぱり神経使うなあっ。でもこれも訓練っ。集中を持続しないと無意識に飲み込まれちゃうから気をつけないと』

 

 

 そのまま地面に突っ伏した姉を放っておいて、こいしは勇儀と霊夢を見た。

 

 

『2人とも大変そうだな。・・・よしっ、青娥さんの方を助けに行こ──』

 

「行かせない…、はぁっ、はぁっ、絶対に…」

 

『!?』

 

 

 肩を掴まれる。

 手のひらも出血しているのか、肩にじんわりと妙な暖かさを感じて、こいしは震えた。すぐに払い除け、ナイフを向ける。目の前の姉は血反吐を吐きながら、こいしへ手を伸ばしていた。

 

 

「こ、いしぃ…っ、げぼっ、」

 

『あんなにやったのに、まだ動けるなんて…!!……はっ!』

 

 

 遠くの方で轟音がする。

 見れば、混世魔王と霍青娥は倒れており、霊夢と勇儀がこちらに向かってきているのが見える。

 

 

『そ、そんなっ、みんな、やられたの!?なんで、ああ、あ……っ』

 

 

 初めてできた仲間が敗北したことと、2人が集結したら自分はどんな目に遭うのだろうという恐怖、そしてあんなにボコボコにした姉が未だに動くその執念に固まってしまう。

 そうしている間にさとりの手がこいしへと──。

 

 

「こいし…!こいし……!!」

 

『ひぃいいっ!?』

 

 

 ザクゥッ……。

 

 

「こい──、ぁ、れ?……ごっふ、げぼぉ…」

 

 

 届くことは無かった。

 体が動かない。とても痛い。内臓が痙攣し、血が抜けていく感覚がする。目を動かして腹部を見れば、腹部から鋭い刃が突き抜けていた。背中にはぐりぐりと刀を押し付けている老人が張り付いていた。嗚呼、自分は刺されたのかと理解したと同時に意識が無くなった。

 

 

「さとり…!」

 

「いつの間に……!?傷だらけとはいえ、あのさとりの背後を取れるなんて…!」

 

 

 急いで駆け寄ってはいるがなかなかに距離がある。その間に老人は刀を抜いて、血を振り払った。刀を抜くと更にそこから血がゴポッと噴き出す。

 

 

『こいし、大丈夫か』

 

『お爺ちゃん!!』

 

『全く青娥はやられたのか。情けない』

 

 

 気づかなかった。

 突然、さとりの背後に現れてあっという間に倒してしまった。顔中に刻まれた皺と小さな身体から想像のつかない身のこなしにただ物ではないとすぐに直感する。

 

 

「・・・なるほど。アンタがこの一連の黒幕のようね」

 

「…ってことはコイツが!!」

 

『くくく…』

 

 

 老人は笑い、霊夢たちの方へ向く。

 

 

『お初にお目にかかる。儂こそが妖怪の復権を目指す革命軍のリーダーにして、妖怪総大将……“ぬらりひょん”である!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





こいしの能力は、ドラえもんの石ころ帽子と同じ効果と考えてもらえればわかりやすいと思います!

 そして。
 遂に対面ですね。
 では、次回もお楽しみに!

 この一連が終わったら、バトル回は少し減らしますのでよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。