ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

31 / 64

こんにちは、狸狐です。

 混世魔王の名前の元ネタは西遊記に出てくる敵妖怪です。牛魔王とかも良いなと思ったんですけど、牛要素ないからやめました。

 遂に始まりました。六文銭vs.幻想郷。
 お楽しみください。
 あとリクエスト妖怪いましたら、ぼそっと言う感じでも構いませんのでよろしくお願いします。








六文銭 

 

「敵襲だ〜〜ッ!!門を閉じろ!」

 

 

 カンカンカンカンッ!!深夜だというのにも関わらず、騒々しいくらいに甲高い警鐘が里全体に鳴り響く。すぐに人里の門が閉じられる。屈強な男たちや門番、自警団の連中が力を合わせて、妖怪たちの侵攻を防ごうと門を内側から押さえる。

 

 

『GJAAAAーーーッ!!』

 

 

 外の異形の者、それらは死体を繋ぎ合わせた人や野良妖怪とも違う存在、キョンシーであった。筋肉質な者や細く頭だけが大きいアンバランスな者、十人十色な死体たちが門をこじ開けようと猛威を振るってくる。

 

 

「博麗の巫女が来てくれるはずだ!彼女が来るまで頑張るぞ!!」

 

「「「おおーーー!!」」」

 

 

 彼らの精神的支柱である幻想郷の守護者“博麗霊夢”は今までたくさんの異変を解決してきた。頼りにできる存在。彼女が来てくれることを信じて、人々は勇気と力を振り絞る。

 

 だが、いくらただの人間が力を合わせたところで現実は虚しい物だ。なぜなら敵は人を襲う異形。次第に押されていく。門に隙間が開くと、そこから指を入れてきたり、顔を無理やり突っ込んできたりする。その度に人が力み、押して、挟んできた相手の肉や汁が飛び散っていく。しかし痛みを感じないのか、全く持って怯まないので、人間たちが心も体も疲弊していくだけだった。

 

 

「くそぉ…!」

「だ、だめだ…っ!!」

「もう無理っ」

 

 

 死体たちの腕が入るくらいに門が開く。自分たちの頑張りも時間の問題だと気づき始め、人々の心が折れかけていく──。

 

 

「お前たちィッ!!」

 

「「「!?」」」ビクゥッ

 

 

 グンッと力強く門が押された。

 開きかけていた門が勢いよく閉じ、奴らが押してもビクともしない。里の人間たちを助けたのは、幻想郷の守護者ではなく、人里の守護者であった。

 

 

「諦めるなッ!!」

 

「慧音さん!」

 

「遅くなってすまなかった。他の門の補強に回っていたんだ。お前たち、よく持ち堪えたな!」

 

 

 空には大きな満月が浮いていた。月の満ち欠けにより半妖としての力が目覚める彼女にとって、満月というのは100%の力を行使することができる。見た目もいつもの姿とは違い、帽子はかぶっておらず、代わりにリボンをつけた角が生えており、獣人のようである。

 

 

「ここも補強する!“柱”、頼むぞ!!」

 

(了解です。先生!)

 

 

 いつの間にか、門には木霊たちがくっついていた。これらは以前倒して改心させた『逆柱』が産み出した木霊であった。寺子屋の柱となった逆柱は慧音や子どもたちと過ごす事で更に人間と仲良くなり、彼らを守るために力を貸し、木を司る木霊は木材で出来た門の強度と硬度を増し、壊れにくい頑丈なものへと進化させた。

 

 

「安心してくれ。お前たちにも、この里の歴史にも、指一本触れさせはしない!」

 

「「「慧音さ〜ん!やっぱり僕らの先生だァ〜!」」」ウェーン

 

「泣くのは早いぞ」

 

「え?」

 

 

 門の外で炎が燃え上がった。

 至る所で業火が舞い上がり、死体たちが爆発したり焼けたり、あんなにいた敵たちは一掃されていく。

 

 

「あの炎は、まさか…!」

 

「妹紅さんだ!妹紅さんが来てくれたぞ〜〜!!」

 

 

 姿は見えないが、確かにあの炎は藤原妹紅が放つ炎で間違いはなかった。彼女が外の敵を倒し、慧音たちが内側を守る。まさに鉄壁の布陣である。

 

 

「ふっ!」

 

 

 殴りかかってきたキョンシーの顔面に蹴りを入れる。瞬間に炎を発火させると爆発したかのように敵は吹き飛び、顔面の肉がそこら中に飛び散る。それを踏みつけて、第二、第三の死体たちが突進してくる。

 

 

「“自傷火焔大旋風”ッ!!」

 

 

 自身から炎を発火させ、自分を中心に渦を作り出す。燃え盛る炎が亡者の群れを一瞬にして灰にする。炎が消えると火傷や擦り傷といった外傷だらけの妹紅がタバコを吸いながら現れた。炎は体から発火しており、皮膚などがその熱に耐えられないのでこのような姿になってしまうが、本人はあまり気にしてはいない。

 

 

「・・・大したことはないな。強さも成人よりちょっと強い程度。厄介なのは数だが、炎でカバーができる。謎なのは急に現れて、襲ってきたことか。こんな輩は見たことがない。思考があるように見えないし、誰かが操って攻撃でも仕掛けてきたのかねぇ…」プハー

 

 

 冷静に現状を分析する妹紅。そんな姿を木の上から眺める者がいた。始末リストと書かれた紙の束をめくり、妹紅の人相書きが書かれたページを本物の妹紅と見比べながら。

 

 

『あれが藤原妹紅。炎を操る能力ねぇ。・・・くくっ!それなら“たくろう火”を倒した私の相手じゃあないね。……よっと』

 

 

 手の上では“心臓の形”をした何かを握りながら、木から飛び降りる。それを手のひらで転がしたり、ヒョイヒョイと投げたり取ったり、ニギニギしながらニヤリと笑う。

 

 

『へへへ、聞いた時には何言ってんだと思ったがぁ、念願の幻想郷に来れたんだ。成り上がってやるよ・・・!!』

 

 

 そのままキョンシーの群れの中へと飛び込んだ。

 死体の匂いと独特の動き、様々な形をした姿のせいであっという間に存在を感じられなくなった。

 

 

「それにしてもなんて数だよ!!倒しても倒してもキリがねえェェッ!!」

 

 

 拳が顔面にめり込み、発火する。そのまま肉が焼けていき、司令塔の脳みそが一瞬で沸騰し、弾け飛んだ。

 

 キョンシー達には【食欲】しかないので気づいてはいないが、死体との戦いにおいて藤原妹紅ほど相性が良いものはいない。死体は痛みを感じないので、殴る蹴る切る打つ叩く等といった打撃では基本止まらない。だが炎ならば肉を焼き、固くなる。臓器や筋肉も燃えれば、死体としての機能も失う。

 

 それはきっと霍青娥(せいさくしゃ)も分かっているだろう。だが、その弱点を上回るほどの利点こそが“数の多さ”と“恐怖のない所”だ。動かなくなっても気づかず、無限に行進し続ける。そのせいで()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「しつこいんだよオォッ!!」

 

『grrrrrrッ!!』

『なら終わらせてやるよ』

 

(今、唸り声の中に別の声が・・・)

 

 

 

 

 

──ボゴンッッッ

 

 

 

 

 

「・・・あ?」

 

 

 腹部に違和感。

 その違和感の箇所を見れば、そこには大きな穴が開いていた。自分の腹に穴が空き、後ろを見れば壁全体に自分の臓物や肉や皮や骨が飛び散っていた。ポタポタと雨のようにこぼれ落ちる血は気づけば滝のように流れ始める。

 

 

「いっ…だい、な、に"が……ごぼっ、あ、あ……」

 

『おー!腹から外の景色が見える見える!血生臭くて窓の代わりにはなりはしねえがな』ケラケラ

 

 

 目の前には手を赤く染めた少女がいた。あの拳で自分はやられたのだと察する。

 

 

「お…まえ……だ、れ…ぁ」

 

『いつまでも立ってんじゃねえよ!!』

 

 

 胸あたりを蹴り付けると簡単に倒れる。

 体に穴を開けられ、背骨なんかも吹き飛んでいるのに、立っているなんて化け物すぎるなと心に思いつつ、一瞬の決着の余韻にすぐに浸る。

 

 

『私が誰か?教えて欲しいか?教えてやんねー!!』

 

 

 倒れた妹紅。一斉にキョンシー達が群がり、屍肉を頬張る。バリバリ、くちゃくちゃと汚い咀嚼音が出しながら永遠に満たされることがない欲を満たそうと髪の毛一本、血の一滴も無駄にはせずに食べ続け、あっという間に妹紅が存在した痕跡さえも消してしまった。

 

 

『六文銭とか関係ねえ。ここから支配してやるよ、幻想郷……!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よいしょ…」 

 

 

 木の葉が舞う。枝が地面に転がる。白玉楼の庭園が美しく剪定されていく。鳥や熊、蝶々といった野に生きる物たちの形へと整えられていく。まさに職人技だ。そんな技術を持っているのが、彼女。

 

 

「こんなもんかな」

 

「やっぱり見事な刀捌きねぇ。いつ見ても惚れ惚れしちゃうわぁ」

 

「えへへ、ありがとうございます!特にどの辺りが……」

 

「お庭を見ながらお団子なんか食べれたら幸せなんだろうなあ」ウットリ

 

「・・・はぁ。幽々子様は花より団子ですよね」

 

 

 呆れながらそう言うと、妖夢はパタパタと駆けていき屋敷の中に戻る。そして財布と買い物かごを手に持って再び外へと出てきた。

 

 

「あら、どこ行くの〜?」

 

「買ってくるんですよ、お団子」

 

「いやーん。気を遣わせちゃったかしら。ごめんね、妖夢〜」

 

「良いんですよ。貴女に仕えることが私の喜びなんですから!」フフン

 

 

 

『泣けるねえ〜〜〜』

 

 

 

 ヒュッ──。

 

 空気の切れる音がした瞬間に、買い物かごがバラバラになって空を舞う。妖夢は音が聞こえたと同時に手に持っていた物を全て投げ捨て、幽々子の元へと駆け寄っていたので何事もなかった。直ぐに刀を抜いて、警戒する。

 

 

「曲者ッ!?」

 

「あら〜、お客様かしらぁ」

 

 

 ヒュン。

 ヒュンヒュンヒュン。

 

 空気を斬る音がどんどん増えていく。先程、剪定したばかりの木々が粉々になっていく。更には小石一つさえない程にきれいに掃除されていた地面にも切り傷のようなものが出来ていく。

 

 

『美しい主人と、忠義を尽くす従者。そしてその絆……。それが今から消えると思うと泣けるねぇ〜〜』

 

「何者だ、貴様!」

 

 

 コツコツと革靴の音が響く。

 幽々子と妖夢の元へとスーツを着た黒く長髪の男がゆっくりと進んでくる。一見ただの外から来た人間のように見えるが、彼の腕は見えない。そして彼が歩くたびにその周囲のものは壊れていく事から人ではないことは分かった。

 

 

『失礼。俺は六文銭の1人、《地獄道のムチ》』

 

 

 足を止めた。

 同時に音は止まり、ちゃんと腕が見えた。ムチと呼ばれる男の指には一枚の紙が摘まれている。幽々子の人相書きが書かれており、その顔の上からは墨で大きくバツと書かれている。

 

 

『西行寺幽々子さん。恨みはないが、そのお命、頂戴いたします』

 

「私の命が欲しいの〜?情熱的なのね、貴方。別にあげてもいいけど……」

 

(・・・? 娘がいない)

 

 

 タタンと地面を蹴り上げる音。

 月で明るかったはずなのに、頭上が急に暗くなっていく。空を見上げた時にはもう長刀を抜刀した妖夢が急降下していた。

 

 

「私の可愛い可愛い従者が許してくれるかしら〜」

 

「幽々子様へ仇なす。つまり敵。敵なら斬ります。例え、敵じゃなくても斬ります。斬れば全てが分かります!!」

 

『……泣けるねえ〜』

 

 

 ムチは焦らなかった。

 ただ、ゆっくりと片腕を上げることだけ。その時もまた彼の腕は見えなかった。

 

 

「──つっ!!」

 

 

 何かが来た。本能か、経験からか防御の構えを作る。その瞬間に、キィンと長刀“楼観剣”から火花が散る。そのせいでバランスを崩すが、直ぐに妖夢は半霊を踏み、そのまま空中でクルリと回転。そして体勢を立て直す。

 

 

『よく見抜いた。風よりも速い俺の技をこうも避けられると泣けてくるねえ〜』

 

「・・・」キィッ

(また謎の攻撃。咄嗟に躱せたから良かったけど、当たっていたらただじゃあ済まなかった。もっと集中しないと)

 

「妖夢、大丈夫ぅ?任せてもいい?」

 

 

 心配した。

 否、煽っていた。幽々子を守るために前に立っているので表情は見えないが主人がこの状況を楽しんでいるのはすぐにわかった。きっと久しいのだろう。命のやり取りというのは。ならば、その想いに応えよう。

 

 

「心配無用です。幽々子様は安心して待っていてください。直ぐに切り伏せてみせますから」

 

『・・・泣けてくるねェ、そこまで舐められるとさあ。なら……依頼にはないが特別サービスだ。お前から先に殺してやるよ!!』

 

 

 ムチが大きく振りかぶる。

 それと同じタイミングで妖夢も突進した。

 

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に!斬れぬものなど、あんまり無い!!いざ、尋常に勝負!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅ〜〜。ぐぅ〜う〜」

 

 

 門に寄りかかる紅美鈴。

 頭の上には小鳥たちが乗っていた。その位に立ったまま熟睡をしており、鼻提灯も見事なものが出来ていた。

 

 

「・・・ん〜」

 

 

 目が覚めたのか、大きく体を伸ばす。

 鳥たちは驚いて飛んでいく。我関せずと固まった関節をグゥーっと伸ばして、伸脚や屈伸運動を繰り返す。

 

 

「はぁ〜あ、長閑(のどか)ですねえ〜」

 

 

 静寂だった。

 真夜中ということもあるが、あまりにも静かだった。

 

 

「それで……、いつまで私のことを見てるつもりです?隠れていても私には分かりますよ。用があるなら話しかけてきなさい。逃げも隠れもしませんから」

 

 

 美鈴は闇に向かって声をかけた。

 気を読むことができる彼女は寝ながらも常に周囲に気を張り続け、異常を感知することができる。つまり目の前の闇に何かは確かにいるのだろう。

 

 

「うっ…うぅっ……」

 

「こ、こども!?ええ、なんで…!」

 

 

 呼びかけに反応したのか、現れたのは傷だらけの少年。ボロボロな体を引きずりながら涙を流してやってきた。

 

 

「助け、て…。お姉……ちゃ…ん…っ、痛いよぉ…」

 

「だ、大丈夫!?」

 

 

 倒れる少年が地面と接触する前に、抱き寄せる。触れると分かる。この子どもの体力がどんどん無くなり、衰弱し切っていくのが。怪我もしており、血が滲んでいた。

 

 

「どうしたの、僕?酷い怪我…、夜中に出歩くからだよ」

 

「里に化け物、来て…っ、みんな、襲われた。僕……、はぁはぁっ、逃げて、気づいたら……うぐぅっ」

 

「里に?そんな馬鹿な。霊夢さんや慧音さんが守ってくれるでしょう?」

 

「来なかっ…た。お姉ちゃん、助けて…。お願い……!!」

 

 

 それを聞いて、困ったように頬をかく。

 

 

「お姉ちゃん・・・!!」

 

「いやぁ。助けに行きたいのは山々だけど、私はここを守る使命があるのよねえ…。それに……」

 

 

 美鈴は少年の腕をギュッと握っていた。

 首筋に当てられたナイフは動くことはなく、喉元を抉ることも刺さることもない。少年は力を込めて腕の中で動かそうとするが、困り顔をした美鈴の力には敵わなかった。

 

 

「殺意は消さなきゃ」

 

「うそン。ばれてラァ』ニチャア

 

「気が読めると言ったでしょう」

 

『隠してたんだけどなあ』

 

「貴方、妖怪ね」

 

『うん!僕は人道の桐一兵衛って言うんだ!よろしくね』

 

「桐一兵衛くん。演技ならもっと上手くやりなさい。真夜中に子どもがここまで辿り着けるはずがないっての。それで何の用?」

 

 

 そのまま片腕を掴まれた状態で持ち上げられる。

 ぷらーんと垂れ下がりながら、子どもは言った。

 

 

『えーとね、レミリア・スカーレットを殺そうと思ってね』

 

「ふぅん」

 

 

 傷を見る。

 戦闘経験豊富だからこそ分かる、本物の傷と偽物の傷。これは本物だ。何か血液を付着させたわけでもなければ、土を被ったわけでもない。本当に切り付けられ、何かに襲われた跡がある。つまりは満身創痍というわけだ。

 

 

「その傷で、そんな武器で、今の貴方がお嬢様に勝てるとでも本気で思ってるの?私の手も振り解けないくせに」

 

『いっ、いでででぇえ〜〜〜っ!?』

 

 

 力を込めると骨の軋む音。

 抵抗するのをやめ、頭に叫ぶだけだった。既にナイフは落ちており、この状態では勝てないのは当然だ。

 

 

「もう少し大きくなったら出直してらっしゃい」

 

『うわっ!?』

 

 

 ぽいと地面に投げ捨てられる。

 赤く腫れ上がる腕を押さえながら、涙目で笑う。

 

 

『ってて、……で、でも良いのかなあ。僕、これで自由になっちゃったわけだけど』

 

「構わないわよ。どうせ貴方じゃお嬢様には届かないもの」

 

『それで見逃すっての?随分と甘いんじゃないかな?』

 

「ええ。本当に甘い」

 

「!?」

 

 

 紅美鈴とは別の声。

 ビクンと体を硬直させ、無意識に気をつけの姿勢をしていた。

 

 

『メイドさんだ!僕は人道の桐一兵衛!よろし…、あれ?』

 

 

 目の前にあるのはなんだ?

 見覚えがあるな。

 あと熱い、すごく熱い。焼けるように熱い。何が起きて。

 

 

『僕の手が無い、足も無──』

 

 

 落ちてるのは僕の手だ。

 さっきまで繋がっていたのに何でいきなり。ちゃんと見ていたはずなのに。いつの間にか千切れて、熱くて。

 

 

『あ・・・』

 

 

 バタンと倒れる少年妖怪。

 手足は切断され、路上に転がる。額には既にナイフが刺さっており、絶命していた。

 

 

「おおおおお疲れ様です!咲夜さん!」ビシィッ

 

「お疲れ様」

 

 

 彼女の名前はメイド長“十六夜咲夜”。

 紅美鈴の上司でもある冷徹メイドだ。

 

 

「それで貴方は一体何してたのかしら?」

 

「な、何とは?ちゃ、ちゃんと門番は務めていましたよ!?」

 

「ちゃんと?」ギロリ

 

「ひぃいい〜〜っ!!あぎゃあ〜〜っ!!」

 

 

 気づけば紅美鈴の頭には三本ほどナイフが刺さっており、血のシャワーがピューっと噴き出した。そのまま倒れて、メソメソと涙を流す。

 

 

「酷い。こんなに頑張ったのに…」

 

「“ちゃんと”。つまりは完璧ということよ。どんなに弱くて、幼くても、お嬢様の命を狙うとするなら、それは賊。確実に殺さなきゃならないでしょう。敵の子供を憐れみ見逃したら、その子が大人になって帰ってきて、無事に殺されたって話もあるくらいなんだから、しっかりしないといけないの。それに〜〜」クドクド

 

「うぅ、お説教タイムだ〜」

 

「咲夜」

 

「「!」」

 

 

 2人の動きが固まる。

 

 

「もう許してあげなさいな」

 

「お嬢様…」

 

 

 空から我らが主人が舞い降りてきた。今は真夜中なので日傘はいらない。吸血鬼の時間だ。とっておきのオシャレをして、優雅にカリスマ溢れるように格好良く君臨した。

 

 

「今日はとても心地が良い。説教で時間を潰すなんて勿体無い」

 

 

 久しぶりの満月に加えて、今この場に充満している血の匂いに高揚しているのだろう。頬が少し赤く染まっている。最近は甘い物を食べ過ぎて丸くなったとパチュリーに言われたので、ダイエットを始めた。そのため吸血を控えていたので本能が少し目覚めてきているのだろう。

 

 

「あぁ…、月夜に照らされながら血が見たい」

 

「ん?この気は」

 

「あら、お嬢様。僥倖(ぎょうこう)ですわ」

 

 

 咲夜はナイフをそっと取り出し、静かに構える。

 3人の前には先程バラバラにしたはずの少年が手に斧を持って現れた。ニコニコと笑顔を絶やさず、決して数に対しての文句は言うことはなかった。

 

 

「お嬢様の望みはすぐに叶えられるでしょう」

 

「ならお願いね、咲夜」

 

『あっ!貴女がレミリア・スカーレットさん!すっごい吸血鬼って聞いたからもっと凄そうかとおも──』

 

 

 グシャリ。

 目の前でナイフが全身に刺さり、ハリネズミのような状態で桐一兵衛は死んでいた。

 

 

「あー…たまらない。この血液の香り。咲夜、最高よ」

 

「お褒めに預かり光栄です」

 

「さっすがですねえ、咲夜さん。それにしても桐一兵衛くん、手足バラバラにされてよく生きてましたよね。再生能力が凄いのかな」

 

 

 うーんと考える美鈴を横目に、咲夜は闇から目を離さない。

 確実に殺したはずの桐一兵衛が鼻歌混じりにやってきたからだ。自分よりも長い刀を背負って。

 

 

『やほー』

 

「それは本人に聞いてみましょう」

 

「そうですね」

 

「ここは私が任されたの。貴女はお嬢様のためにワインを用意してきなさい」

 

「えー給仕じゃないのになぁ〜」

 

 

 美鈴は屋敷に行き、レミリアは後ろで尊大に構えている。

 

 

『遊ぼーか、メイドさん』

 

「喜びなさい。お嬢様の為に死ねることを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズル……。

 

 ズルズル……。

 

 

 

 

 妖怪の山の反対側、向日葵がたくさん咲き誇る平原。その場所に正式な名前はないが人々は【太陽の畑】と呼ぶ。夜なので向日葵は下を向いているが立派に育っており、必ず見た物を圧倒させるくらいの美しさである。

 

 

「・・・ふふっ」

 

 

 そこを楽しそうに散歩する1人の女性。

 赤くチェック柄のロングスカートを身に付け、癖っ毛のある緑色の髪をし、日傘を手に持った彼女を一目見れば、騒いでいた妖精たちは蜘蛛の子を散らしたように一斉に逃げ出した。

 

 

「夜の花にはやはり静寂が合う。綺麗ねえ」

 

 

 彼女の名前は、風見幽香(かざみゆうか)

 特定の棲家を持たず、群れるよりも1人を好み、花が咲く場所に現れる。人よりも妖怪よりも花を愛し、花に愛された彼女を人々は敬意を持って四季のフラワーマスターと呼んだ。

 

 

「・・・貴女もそう思う?」

 

『ウゥゥゥゥ……』

 

 

 幽香が振り向き、闇が月に照らされると、そこには地面に着くほどの長い黒髪をした女がいた。猫背なのか前傾姿勢。ズルズル…と音を立てて、人間の男3人ほどを髪の毛で引きずりながら現れた。引きずられた男たちは全員泡を吹いて死んでいた。

 

 

「花はいいわ。無駄に喋らず、大切にすれば必ず応えて、こんなにも生き生きとして咲き誇っている。でも、そんな場所に死体だなんて無粋ではなくて?」

 

『違うの。コ、コイツらは……絡まっちゃったの…。取れないの…。いつもそうなの。あの人のことが頭から離れないの』

 

「・・・」

 

『お花、見たら忘れられると思ったんだけど、ダメなの。やっぱり…ダメなの』

 

 

 ガリガリと頭を掻く。

 抜け落ちた毛が地面に散らばり、幽香の視線がキィイと鋭くなる。

 

 

『殺さないとダメなの。お花よりも男を殺さないと忘れられないの…!』

 

「貴女の事情に微塵も興味が湧かないわ。あとそうやってさボロボロ髪の毛落とすのやめてくれない?綺麗な場所が汚れるんだけど」

 

『私ね、本当は男を殺したいの』

 

「聞いてないし」

 

 

 ウネウネと髪の毛が蛇のように動き出す。

 絡まった男たちを持ち上げて、まるで武器のようにぐるんぐるんと振り回す。死後硬直が進んでいるのか振り回してもぴくりと動かず、まるで鈍器のようだった。

 

 

『あのね。ごめん。ごめんね。女を殺すのは不本意だけどね。仕事だから。貴女を殺したら、ここの男はみんな殺すからねェェ──えぶぅっ!?!?』

 

 

 顔面に日傘がめり込んでいた。

 顔にまで垂れ下がる髪の毛ごと顔面に一撃を与えると、太陽の畑よりも外へと吹き飛んでいった。

 

 

「殺す殺す、うるさい。いいからさっさとやりましょうよ」

 

 

 女は遠くまで飛んでいき、地面にぶつかるとそのまま転がって、一、二度跳ねてからそのまま動かなくなった。確実に死んだと思うとつまらない顔になる。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ブゥン……ッ。

 

 

「! へぇ、生きてたんだ……!!」ニタァ

 

 

 日傘を二、三度振るった。

 ぐしゃ、べちゃっ。

 遠くから思い切り“死体が2つ飛んできた”のでそれらを全て払い除けた。飛んできた死体は幽香の一振りによりミンチとなって地面に飛び散る。どれも花には血はつかず、ただ地面を濡らすだけ。

 

 

「アイツを片付けたら、地面を綺麗にして、美味しいお水をあげるからね。それまで待っていてね…。でも遅くなりすぎたらごめんね。やっと骨のあるやつが久しぶりに出てきたの。殺戮(おあそび)に夢中になっちゃうかも……♡」

 

 

 花は答えるかのように風もないのに揺れた。

 幽香は振り向いて、腹を空かせた肉食獣のようなじっとりとした視線を送る。

 

 

『うぅぅぅ…。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのお。ああああ……あの人に裏切られたからだ。あんなに好きだったのに。酷いよ。あの人のせいで私は、私は……!!』

 

 

 残り一つの死体を引きずりながら、幽香の視線に怯えることなく女は現れた。吹き飛ばされたのだろうがダメージはあまり無く、髪の毛のせいで表情は見えないが、幽香ではなく別の何かに怒り悲しんでいるのは声色などで伝わってくる。

 

 

「あぁ、久しぶりに滾ってきたわ。殺意を向けてくる相手がいなくて暇してたの。私に向かってくるんだもの。呆れさせないでね?」

 

『ううぅ…、イライラするよぉ。モヤモヤするよお。あの人が頭から離れないよお』

 

「でもここじゃあダメよ」

 

 

 幽香は空を飛び、花畑から離れ、そのまま近くの荒野に辿り着く。後ろからは長髪の女は追ってきており逃すつもりはないのだろう。周りには愛する者たちがいないようなので振り向き、幽香は日傘の先端を向ける。

 

 

『殺す。殺すわ。殺してやるわ。貴女を殺して、あの人を殺す。男を殺す。私は鬼髪。餓鬼道の鬼髪。風見幽香…、私のために死んでね。ヒヒヒぃィィィ……!!』

 

「いいわあ、その表情。その殺意。ぐちゃぐちゃにしてあげる!!」

 

 

 気狂いvs.お花大好き戦闘狂

 今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この場所は命蓮寺(みょうれんじ)

 人と妖怪の価値は平等であるが、その中には報われず救われない妖怪もいる。そんな妖怪を救済することを活動の主としているのがこの場所である。毘沙門天を祀り、様々な妖怪や人間がここは修行に来ている。

 

 

「ふーんふふん♪よーるの月はきれーだなー♪あーさの月も見たいけどー♪しゅぎょーがあるから見れないなー♪」ボエー

 

 

 闇夜の静寂を切り裂く大きな声。フクロウや小動物、虫たちは嫌な顔をして離れていく。この声の主は幽谷響子(かそだに きょうこ)。種族は妖怪【山彦(やまびこ)】である。ここで修行をしている身だ。

 

 山彦とは、皆さん子どもから大人まで経験があると思うが、山に向かって“やっほー”と叫ぶと、“やっほー”と返ってくる現象を引き起こす妖怪である。つまりはただ山に住み、声が聞こえれば叫び返すだけの人畜無害で人間と長い間関わりのある存在なのである。

 

 

「はーあー。一輪(いちりん)水蜜(みなみつ)もいないし、つまんない〜〜!しゅぎょ〜もつまんない〜〜♪やることないし寝よーかなー!」

 

 

 

 ドシンッ!!

 

 

 

「うわっ!?」

 

 

 どしんっ、どしんどしんどしんっ!!

 

 

「な、なにぃっ!?天変地異の前触れぇ〜!?どしんどしんどし〜〜ん!!」

 

 

 揺れる。

 地蔵道が揺れる、灯籠の道が揺れる、命蓮寺へと続く階段が揺れる。近づくに連れて音が大きくなる。響子はその音を声真似しながらも恐る恐る上から階段を覗いてみた。

 

 

「か、かっぱぁ…?」

 

 

 頭にはお皿があった。背中に甲羅を背負い、成人男性よりも少し大きな体をしている。体毛は濃く、くちばしがあった。着物を着ながら行進し続け、階段を登り切る。

 

 

『階段…、ぜぇぜぇ……、キツイでごわす…』

 

「うわー!お相撲さんだ!!こんばんはーーーー!!」キラキラ

 

『ぬわっ!?なんちゅう声!!山彦でごわすな…。お、お嬢ちゃん。この寺のもんでごわすか?』

 

「そうだよー!河童のおじさん」

 

『わっしは“シバテン”。外の世界からやってきたんでごわす』

 

「へー、じゃあシバテンおじさんは修行をしにここに来たの?」

 

『修行?ぶわっはっはっはっ!!そんなことせんでもオジサンは強いから必要ないでごわす。それよりもここの関係者なら話が早い』

 

 

 響子に一枚の紙を見せる。そこには命蓮寺の住職にして、響子を含め様々な妖怪に修行をしてくれたり教えを説いてくれたりする女性、聖白蓮(ひじりびゃくれん)が写っていた。

 

 

「あっ、(ひじり)だ。すごいなー、やっぱり有名人なんだなー」

 

『わっしは探しているんでごわす、どこにいるか教えてくれ』

 

「聖なら今は中で座禅の修行中かなぁ。夜中はあーやっていっつも座ってんだよね。よくできるよね〜。私なら3分も我慢できないよ」

 

『そうでごわすか。ならばお邪魔するでごわす』ニヤリ

 

 

 満足そうに頷くと、ズンズンと進んで行った。

 慌てて響子は追いかけて、シバテンの前に立ち、手を広げて通せんぼの形をする。

 

 

「待って待って!夜のお参りはやってないよ!明日の朝に出直してきて!」

 

『悪いがわっしには関係ないでごわす』

 

「関係ないでごわす…って言ってもダメだってば!」

 

『・・・』

 

 

 無視して突っ切る。

 怒った響子はそんなシバテンの着ている着物の裾を引っ張った。

 

 

「なんで無視するのっ、ねーぇー!!無視しないでよ!」

 

『・・・』イラァ

 

「い・ま・は・ダ・メ・な・の〜〜〜ッッ!!」

 

『このくそガキィッッ。お前なんかに用はない!!わっしは聖白蓮を殺しに来たんでごわす。邪魔するな!』

 

「殺す?きゃっ!?」

 

 

 振り払われて、ひっくり返る。

 少し涙目になりながらも響子は起き上がり、地団駄を踏んだ。流石の温厚な彼女もこの仕打ちには腹が立った。

 

 

「いてて…っ、こんのぉ〜!許せないっ!無視するだけじゃなくて、聖を殺す?ふざけないでよね!私が許すわけないでしょ!」

 

『お前の許しなんかいらん!失せるでごわす!』

 

「そうやってイライラの気持ちがこもった声を出すなら、それを返してやる!!」

 

『あ"〜?』

 

「大声『チャージドクライ』ッ!」

 

「スゥゥゥ〜〜〜〜〜……ッ」

 

 

 

「ヤッホーーーーーーーーーーッッッ!!」

 

 

 

『ぬっ!?!?』

 

 

 限界まで吸い込んだ息を、自慢の声量と共に吐き出す。音というのは防ぎようのないもので、いくら耳を塞いだところで空気を振動させているために肉体全部を共鳴させ、耳を含めた全てを破壊してしまう。

 

 

『ウギギギギィィ〜〜ッ!?』ビクビク

 

 

 シバテンの場合、響子の声を真正面から受けた瞬間に耳を塞がなかったので鼓膜が吹き飛び、甲羅や皿が割れ、泡を吹いた。山彦を甘く見たために起こった悲劇である。但し、響子はシバテンに対して殺意は抱いてはいない。無意識に力をセーブしており、死ぬことはなかった。だからこの程度で済んだのだろう。

 

 

「げほっ、けほ、の、喉が……」

 

 

 この技、かなりの攻撃力がある反面、デメリットがある。それは喉にかなりのダメージが入ってしまう。喉が使えなければ山彦の能力は一時的に使えず、ただの小娘妖怪になってしまう。まさに諸刃の剣の技であり、聖白蓮からは使うことを制限されていた。

 

 

「でも、おじさんが、悪いんだから、ね…」ケホッ

 

『・・・』ピク

 

「ここ…、私の、居場所…。守るんだから……」

 

『ゥゥゥ……ま、だだ…』

 

「・・・え?」

 

 

 傷だらけになっていたシバテンを見ていた響子は目を疑う。なんと傷がピクピクと動き、ゆっくりと閉じていったからだ。耳から流れていた出血も止まり、割れた甲羅も皿も再生していく。

 

 

『わっしは……、負けた…、ことが…無いでごわす!!』

 

 

 完全復活。

 ボロボロになった着物を投げ捨てて、まわしの姿(試合の時の姿)になる。傷ひとつない玉のような体、それを包む筋肉がピクピクと動き、さらに大きくなったように錯覚させた。そんなシバテンは満面の笑みで響子に笑いかける。

 

 

『いや〜、それにしてもわっしに土をつけさせるとは中々やるでごわすな』ニッコリ

 

「え、えと──」

 

『このクソ虫がァァァーーーッ!!』

 

「ひいっ!?」

 

 

 笑顔が一瞬にして羅刹のような顔になる。

 顔中に血管が浮き出て、唾を撒き散らしながら怒鳴りつける。

 

 

『声真似しか能がねえゴミクズがっ!俺をコケにしやがって!!ぶち殺してやる!』

 

 

 前傾姿勢。グゥウウウ……っと、しゃがんだ状態から全身をバネとして使い、突進。強烈な力の篭もった肉弾が響子に直撃した。

 

 

「ぁっ……!!」

 

 

 この光景を例えるなら、トラックと少女の衝突。

 その一撃は、目の前のものを全て破壊した。響子はボロ雑巾のように地面に転がり、肺の骨が折れたのだろう。体中の空気が口からひゅぅ…ひゅぅ…と漏れ出てくる音が聞こえた。

 

 

『まだ生きてるでごわすか。丈夫なのも腹立たしい』

 

「ひゅぅ…ひゅぅ……」

 

『生きてる価値もねえクズ虫はさっさと死にやがれぇいっ!!』

 

 

 おおきく振りかぶって、動けない響子に追撃。

 手をグッと固めて拳状。そうして猛烈な一撃を叩きつけた。響子は逃げることができないので、ただ目をぎゅっと瞑る。

 

 

「〜〜〜っ、あ、れ……、えっ!」

 

『ば、馬鹿な…。わっしの拳を……!?』

 

 

 拳は届かない。

 響子に当たる前にその拳を“彼女”が防いだから。自分の体重の三倍もある相手の重い重い拳をがっしりと両の腕で止めていたから。

 

 

「聖〜〜!!」

 

「ふんっ!」

 

 

 拳を弾いて、押し返す。

 流石に驚いたシバテンは距離を取った。

 

 

「深夜なのに何やら大きな音がするかと思えば、力士が響子を虐めているとは。響子、身体の方は?」

 

「全部痛くて…、動けないよ〜……」

 

「喋れるなら大丈夫。回復してきている証ですよ。今はゆっくり休んで、あとは任せておきなさい」

 

「うん……」

 

『お前が聖白蓮でごわすな』

 

 

 シバテンは再び前傾(ぶちかまし)姿勢。

 対する、聖白蓮も拳法化のように構えの姿勢をとる。

 

 

『迎えにいく手間が省けた。そこのゴミ虫が邪魔をしなけりゃ、わっしがちゃんと迎えに行けたというのに』

 

「ゴミ虫なんておりません。全ては平等なのです」

 

『下らねえ。わっし以外は皆ゴミクズ。お前らの教えなんかこの力で叩き潰すでごわす』

 

 

 そう言うと、片足を上げた。

 そして地面に思い切り叩き落とし、四股を踏んだ。地震が起きたと思ってしまうくらいに地面が揺れ、木々に止まっていた鳥たちは一斉に逃げ出す。

 

 

『わっしは修羅道のシバテン。聖白蓮、お前のゴミクズみてえな命、捨ててやるでごわす。──はっけよい……、のこったあああっ!!』

 

「──いざ、南無三」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・』

 

 

 

 幻想郷、上空。

 六文銭のメンバーの中で唯一飛行能力を持つリーダー【襟立衣】は探していた。

 

 

『何処だ。何処にいる。八雲紫、八雲藍…!!』

 

 

 それは彼の標的、八雲一派の居場所だった。

 他の面々はもうすでに戦いを始めているというのに、自分はいつまでも見つからずに迷っていた。

 

 

『ぬぅ〜〜っ、頭として不甲斐ない。たかが狐1匹と女1人を見つけることもできんとは!!』

 

 

 しかし、しょうがないだろう。

 彼女の拠点である八雲家はマヨヒガという別次元の場所に存在しているからだ。そこを行き来できるのは八雲紫と式神の八雲藍のみであり、入りたいならあらかじめ許可を貰わなければいけない。

 

 

『こうなったら……!!』

 

 

 地面が割れて、その破片が持ち上がる。

 破片は襟立衣の周りを囲うように浮遊するとギャルルルルと回転し、先端が鋭利な岩槍と化した。

 

 

『自分から出てくるのを待てばいい。隠れていようが人間や妖怪たちが死ねば、賢者共は流石に出てくるだろうよ!!』

 

 

 里に向かって、発射した。

 人でも妖怪でも物でもなんでもとにかく壊れればいいという意味合いで攻撃を仕掛けた。

 

 

 

──豪ッッッ!!

 

 

 

『来たか!!』

 

 

 極太の光が岩槍全てを撃ち砕く。

 背後からの攻撃に襟立衣は笑った。だが振り向いた時にその笑顔は消え失せる。

 

 

「よう…」

 

『誰だ、貴様?八雲藍ではないな?』

 

 

 そこにいたのは魔女だった。

 箒に跨り、手には小さな箱のようなものを握っていた。ニヤリと笑う、その口には八重歯がピカッと光っていた。

 

 

「幻想郷最強の魔法使い、霧雨魔理沙さまだぜ!!」

 

『知らんわ!くそっ、外れか!!』

 

「おいおい…、私を知らないとはお里が知れるぜ。まぁ私もお前が敵ってことしか知らねえけどな!」

 

 

 バチバチと魔力が溢れ出す。

 

 

「まぁいいさ。霊夢よりも先に異変を解決だぜ!!必殺のマスタースパークッ!」

 

『妖力…、否、溢れ出る魔力をあの小箱で一本の線にまとめ上げて発射する気だな。馬鹿が!!』

 

 

 襟立衣を狙った攻撃。

 しかし、目を見開いた瞬間にレーザーは止まった。いや、止まったのではなく襟立衣の目の前に見えない壁があり、そこにぶつかって攻撃は防がれる。

 

 

『効くかァッ!』

 

「ならこれはどうだ!」

 

『!?』

 

 

 目の前からレーザーは出続けているのに、魔理沙は背後にいた。あの小箱、ミニ八卦炉は誰も跨っていない箒に固定されて、レーザーを出し続けており、本体の魔理沙は瞬時に背後に回ってもう一つの新たな八卦炉を手に持って力を放つ。

 

 

「背面マスタースパークゥッ!!」

 

『チィッ!?』

 

 

 

──ジュッ……!!

 

 

 

 躱しきれずに頬を火傷する。

 嘴をぱっくりと開き、充血させた目を向ける。鳥の威嚇のようだった。

 

 

『そんなに死にたいなら相手してやる。儂は……最強の天狗、僧正坊(そうじょうぼう)を超えた存在だ……!!』

 

 

 襟立衣はフゥ…と息を吐く。

 口から出た息は小さな火花となり、宙を舞うたびに火花は炎へと変わる。その炎は()()()()のような形となる。巨鳥はぐるりと舞ってから咆哮を上げる。

 

 

【クゥエエエエーーーッ!!】

 

『天狗傀儡・・・、“松明丸(たいまつまる)!!』

 

「おお…、すげえ……!」

 

 

 松明丸と呼ばれた鳥が翼を動かすたびに熱風が髪の毛や服をチリチリと焦がす。かなり近くにいるはずの襟立衣はどこも焦げてはおらず、見えない謎の壁が炎と熱から守っていた。

 

 

『儂と松明丸で相手してやるわ』

 

「へへ・・・、上等」ニヤリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは現実とは切り離された世界、マヨヒガ。

 

 現実を結ぶ境界の隙間に存在し、許可された者か、もしくは偶然的に迷い込んだ者しか入れない。つまりは入ろうとしても入れない空間なのである。いつから存在しているのかも分からない、紫が切り開いただけからもしれない。だが、ここで八雲一家は暮らしている。

 

 

「・・・状況報告」

 

「はい。地底にて霊夢、勇儀が霍青娥、ぬらりひょんと交戦中……。しかし突然映像が途切れてしまいました。隙間での侵入も不可能。何らかの妨害でした。申し訳ございません」

 

「続けて」

 

「地上では異物が数百体、そのほとんどが殭屍(キョンシー)。現在は幻想郷の住人のみで対処可能です。ですがその中に6人は少しは出来そうです。現在は交戦中」

 

「実力は?」

 

「実力は我々に遠く及びませんが、能力は未知数…。すいません……、知らない種族のものたちでして」

 

「いいわ、大丈夫。それよりも住人たちでその6人の対処は可能なの?」

 

「あの者たちは私に負けず劣らずの強者ですから」

 

 

 八雲紫は縁側から外を覗く。

 庭の先は霞がかり、何も見えない。いや紫には見えているだろうが、我々には本当に何も見えない。

 

 

「これが霊夢の見たお告げ、幻想郷の危機……」

 

「手を出せないのが歯痒いです」

 

「そうね。でも、ぬらりひょんが裏で糸を引いている以上、私たちが介入しない方がいいわ。敵とはいえ我々が妖怪に手をかけたら、それを何かに使われるかもしれない。悔しいけどここは見守りましょう」

 

 

 

 

 

──がぶりっ

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

 がぶっ…!

 がぶっ、がぶがぶっ!!

 

 

「何の音?」

 

「裏からですね。私見てきます」

 

 

 藍が屋敷の裏を見に行くと、空間に“歯型”が出来ていた。小さな穴がポコポコと開いている。マヨヒガと幻想郷を繋ぐ境界に虫食いの穴が現在進行形でどんどん開いていった。

 

 

「何だ、これは…」

 

『あむっ、んぐんぐ……』

 

 

 今、咀嚼音とチラリと口が見えた。

 まさか、まさかだとは思うが。

 

 

「壁を食べているのか!?」

 

『ぷは〜っ、まだまだ入るぞ〜。……って、あれ?変なとこ出た。ここ何処だ〜?あれ、そういえばなんで見えない壁なんて食ってんだ?あれ、あれれ?』

 

「お前は」

 

 

 目の前の存在を知っていた。

 以前、霊夢と紫様がぬらりひょんの刺客と一戦交えた際に、霊夢が倒したキョンシーの一体。聞いたときは有象無象の1人と重要視していなかったが、一体どうやってここまで辿り着いたんだ。

 

 

『あっ、狐だ!狐みたいな女?あれ、女みたいな狐?んー、どっちでもいいか。モフモフしてていいなあ。食べたらどんな味かなあ?えへへ』ジュルリ

 

「宮古芳香・・・!一体どうやって」

 

『え?えと、んーと、分かんないぞー!ねぇ、なんでだっけ』

 

『貴女の能力で、でしょう。自分の力も把握してないんですの?』

 

『知らん』エヘン

 

 

 開いた穴からもう1人現れる。

 黒髪ロング、身長は大体2メートル半くらいの大きめな女性。髪の毛と似合う黒いゴスロリのような服を着ていた。露出した右肩には虎のタトゥー、左肩には猪のタトゥーが見える。

 

 

『そんな自信満々で言うことじゃないでしょう。やれやれですわ。……あら』

 

(なんだ、この女どこかで・・・)

 

 

 目が合うとニヤリと笑う。

 チロリと口からスプリットタン、蛇のような舌が出る。

 

 

『うふふ。妲己(だっき)……、いや、今は八雲藍でしたっけ?』

 

「その名を、なぜ……。私を知っているのか?」

 

『勿論。牙を抜かれる前のあなたをよぉく知っていますわ。傾国の美女と呼ばれ、アジアを滅ぼしかけた最強の狐。それがなんと八雲の犬に成り下がっているとは何とも潰し甲斐がない』

 

「貴様は一体何者だ」

 

『私の名は・・・、檮杌(とうこつ)。お久しぶりですわね。九尾』

 

「檮杌だと……!?」

 

 

 その名前を聞いて、ハッとした。

 目の前にいるのは【歩く災害】であるということを。そしてその正体を思い出した。

 

 

四凶(しきょう)、破壊の檮杌(とうこつ)……!!」

 

『思い出してくれてありがとう』

 

(私としたことが……。紫様が以前戦った相手は窮奇(きゅうき)だと聞いたときに思い出すべきだった。奴の正体を…!)

 

「藍…!」

 

 

 少し遅れて紫がやってくる。

 見に行くだけなのに帰ってこないので、直ぐに藍が置かれている状況を察してやってきた。

 

 

「新手ね。よくもここまで来れたものね。でも、たった2人で挑むなんて無謀にも程があるんじゃない?」

 

「いや、その逆かもしれません。我々の実力を知ってのこのメンバーの可能性があります」

 

『その通りじゃ!!』

 

「「──!?」」

 

 

 マヨヒガ全体に逆五芒星の結界が張り巡らされる。

 至る所に蛇が湧いてきており、その蛇たちから他の蛇たちへと邪悪な力が繋がっており、それが結界を形成している。

 

 

蛇法(じゃほう)姦姦蛇螺(かんかんだら)ッ!!』

 

 

 ビリビリと藍と紫の体に電流が走る。

 ダメージにもならない、静電気程度の威力だが、違和感だけが残った。

 

 

「これは……」

 

「くだらないわね。呪いをかけるとは」

 

『しゃーっしゃっしゃっしゃ!!古今東西色々な妖怪はいるが、呪いの効果は平等に効くものよ。どんなに強くてもなぁ』

 

 

 赤い蛇と青い蛇を巻いた老婆。

 髑髏を持って、歯抜けの口をカタカタと震わし、ケタケタと笑う姿はゾッとする。

 

 

「蛇骨婆。気配遮断を得意とする呪術家か」

 

『お褒めにいただき光栄だよ、八雲紫。そのお礼に教えてやるわ。貴様らにかけたのは【不能の呪い】。能力を封じるものよ。これで隙間や式神を使うことはできんて…!』

 

「丁度いいハンデよ。行くわよ、藍」

 

「はい!」

 

『強がりおって!檮杌、芳香!儂が力を抑えているうちにやっておしまい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございます。

とりあえずは
①鬼人正邪vs.藤原妹紅
②ムチ  vs.魂魄妖夢
③桐一兵衛vs.十六夜咲夜
④鬼髪  vs.風見幽香
⑤シバテンvs.聖白蓮
⑥襟立衣 vs.霧雨魔理沙

場外では 檮杌&宮古芳香&蛇骨婆 vs. 八雲紫&八雲藍


 里にいる萃香は酔っぱらって寝ています・・・。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。