───────
「寺の方でドンパチ聞こえると思ったら……これは一体どういうこと?」
階段を上り、“村紗水蜜”が顔を出し中を覗く。
彼女はここのメンバーの1人で種族は『船幽霊』である。外に遊びに出ていっていたが響子の声で異変を感じ、急いで帰ってきたのだ。
「ぽっぽっぽー」
「鳩の真似はやめてよね。やっぱりあんたも帰ってきたんだ、一輪」
「うん。まさかお相撲さんと戦うなんてね。一生に一度とかもないかも」
同じく、ここのメンバー“雲居一輪”である。
種族は『入道使い』と呼ばれる世にも珍しい妖怪。雲山と呼ばれる見越入道を倒し、今は従えている。
「さーて、ここで騒ぐんならとっちめないとね」
水蜜が腰に下げてる柄杓を手に取り、余った左手を大きく前に振るう。振るわれた手には、本来は海で船を繋ぎとめる錨がガシャンと現れた。それをぐるんぐるんと振り回す。
「行きましょ、一輪。抜錨ッ」
飛び出そうとした水蜜を遮る一本の鉾。
そんな2人を階段の上で止めるものがいた。
「お待ちください」
「あんたは・・・」
「この勝負、手出し無用です」
彼女こそ、毘沙門天の化身。
寅丸星。
そして側に使えているのが、毘沙門天から遣わされた星の付き人ナズーリンである。
「何言ってんの?聖が危ないんだよ?」
「それでもです。あの河童…、道を踏み外しています。ならばここの住職が正すべきです。数で挑んでは更生できない」
「関係ないよ!」
無理やりでも争いを止めようとする村紗水蜜。
それをナズーリンが止めた。
「それならば私と戦うかい?毘沙門天に逆らうのなら、このナズーリンがお前を止めるからさ」
「・・・っ」
「はぁ、分かったよ。水蜜、やめよう」
「ふん・・・」
「ただし本当にやばくなったら止めるからね」
「ええ。恩にきます」
シバテン。
高知県や徳島県に伝わる別名、
そんなシバテンの一族に、とある男児が産まれた。
初め、男児は他の子と何も変わらなかった。3歳から4歳まで相撲の練習をしても誰にも勝てないくらいに弱かった。そのままスクスクと成長し、5歳の時に河童ジュニア相撲大会に出た時に伝説的なことが起きた。なんと生まれてから勝ったことのない5歳の少年が優勝したのだ。河童界に激震が走り、シバテン一族にとっては期待の星であった。
そして大会を優勝していき、わずか8歳にて河童相撲大会を優勝。誰も彼には敵わなかった。そのままガラッパ部屋に入り、15歳で『激竜山』と呼ばれる四股名を頂く。激竜山は横綱となり順風満帆な人生を送るはずだった・・・。
しかし“勝ち続けた”という経験が彼を悪へと堕としてしまった。心の底から天狗になってしまった彼は強いものは何をしても良いという考えを持ってしまい、暴行、恐喝、強盗事件を立て続けに起こした。遂には16歳の大会で相手を殺してしまった。理由は単純であり、放った技を避けられ、そのまま場外に落ち、負けた。プライドが傷つき、腹を立て、避けた相手と止めにきた行司を殺したのだ。その身勝手さとこれまでの行いにより、親類や親方に見捨てられ、結果として河童界を追放。
野に放たれた獣は、自分を守ろうとしなかった家族や親方を殺す。鬼太郎と天狗ポリスに捕まるまでの2ヶ月で自分に逆らうもの、意見するもの、気に入らないものを殺し続け、合計35人の同胞が亡き者となった。
『のこったぁあっ!!』
前傾姿勢からの突進。
2メートル、体重150キロの巨体から出ているとは思えないほどスピード、それに比例して重い攻撃。例えるならば至近距離から放たれる大砲の球だ。
「来い──」
構えの姿勢。
足先は内側を向け、自然に
「!!」
──ズドンッッ
「聖っ!?」
後方に吹き飛ばされる。
命蓮寺の一部の柱に直撃、崩れ落ちる瓦礫に巻き込まれた。
『ふー…ごっつぁんです』
“相撲”とは日本古来から存在する格闘技。
だが、格闘技といっても本来の意味合いは殺し合いである。天皇に強者であることを認めてもらうために強者たちが集まり、天覧会と呼ばれるところで殺し合う。
つまり、殺し合い“相撲”の技は、全てが最強で強烈なのである。そんな技を食らったらひとたまりも無い。
「いっ、ててっ……」ガララ
『なっ!?こいつ…』
聖白蓮は瓦礫の中から起き上がる。
シバテンはずっと不思議だった。初めに自分の拳を受け止められたことや、今のぶちかましを正面から受けて無傷であることが。この女はただ者ではない。本気でいけ。本能がそう告げている。
『ならもう1発ぅ…っ、りゃああっ!!』
再度の突進。
確実に沈めようと、先ほどよりかなり低い体勢で走った。
力士の身体の中で最も重要であり強い部分。それは──“脚”である。150キロ以上の自身の体重を支えながら、相手と突き合い、投げ合い、さらに負担をかけることで作り上げた物こそ大木のように太い脚。シバテンがこの脚を使って走れば、本職の陸上選手さえも上回るほどの速さとなる。
「ふっ!」
『!!』
背中を触られた。
足を止めて振り向けば、聖白蓮は自分の背後に立っていた。あの突進の瞬間に飛び跳ね、甲羅を押し、背後へ回ったのだろう。見切られたのだ。そして猿のような身のこなしで躱された。
「次は…こちらの番ですよ!」
『こんのっ!!』
すぐに叩き潰さんと、シバテンは腕を大上段に振りかぶる。胴体に絶対の防御力を確信するからこそ可能な、大上段からの振り下ろす。シバテンの拳が目標にめり込み、聖白蓮の体がぐるりと回る。
その時の感触は──。
『軽いィッ!?』
まるで流れる川に手を突っ込むような感覚だ。聖は回りながら倒れこむかに見えて、その勢いのままにほぼ一回転。瞬間的に“脱力”し、拳の勢いをいなして回転力に変える。回転とともに拳が握られ、シバテンの脇腹に突き刺さる。
『ぐあああ……っ!!』
シバテンは、脇腹を押さえ、脂汗を吹き出す。口元を噛み締めながら、自分にこんなダメージを与えた相手を見つめる。
『馬鹿な……!はっ!?』
休んでいる暇は与えてくれない。
更に追い込みをかける聖を迎え撃とうと再び拳を振り上げるが、完全に読まれていた。
「しゃあああ!!」
腹部から顔面にかけて正中線5連突き。人体の急所である5つの箇所に聖白蓮の拳が叩きつけられた。防御力には自信があったのに、それを超えた衝撃が全身に走り、シバテンは白目を剥き、膝をついてしまう。
『ガァ…ッ』
「出たァァーーッ!」
響子は歓声を上げる。
手を突き上げて叫び、手を叩いて賞賛する。
「聖の5連突き!どんな分からず屋も沈めてきた最強の技だ!」
傷は癒えていないが、この戦いを黙っては見ていられないくらいに盛り上がっていた。それほどまでに興奮していたのだ。聖白蓮はふーっと息を吐いて、構えを解く。勝敗はついた。敵は意識を失っていて、命までは取るつもりはない。ならば戦いは終わりだ。
「そこまで傷は深くなさそうで良かったですよ。立てますか?」
「あっ、興奮してて痛いの忘れてた〜。立てないからおんぶしてよ〜」
「やれやれ」
そう言っておんぶさせてあげようと響子に背を向けた瞬間──。
『どっせい!!』
「きゃぁっ!?聖!」
張り手が聖白蓮の顔面を撃ち抜いた。
横からの一撃が横顔に当たると、耳からの出血。鼓膜が破れた証拠であった。吹き飛ばされそうになる瞬間に髪の毛を掴まれて、地面に叩きつけられた。
『油断したでごわすなァ?』
「ひ、卑怯者!!」
そのまま持ち上げられると、ぶらんと垂れ下がった状態になる。よく見れば、先ほどとは違い、ダメージをかなり受けていた。響子は非難するがシバテンはペッと唾を吐く。
『うるせえ。勝ちゃあいいんでごわすよ。それよりも、だ。どんな理屈だ、お前。ダメージ受けたり、受けなかったり……』
「そっち…、こそ……。確実に倒したはず…」
『わっしは負けねえんでごわす!わっしには史上最強の能力【
シバテンは相撲をこの世で最も愛する妖怪である。
そんなシバテンにはこんな伝承が一つある。それは相撲を取り、負ける度に身体が強く大きくなる…というものだ。他の河童たちはその力を一度負けた相手に次は必ず勝てることから、負けを無かったことにする『無敗』と呼んでいた。
そんなシバテン一族の中でも激竜山の“無敗”は、自分自身の身体が敗北した際に、身体が強く大きくなるのに加えて、体内の筋肉量やスピード等の身体能力もどんどん増していく。
彼は幼少期に負け続けたおかげで、5歳の時には成人並の筋肉量を体に秘めていたのだ。成長と共にそれも比例して強くなり、河童と天狗を超えた力を得ていたのだった。
『わっしは負ければ負けるたびに強くなる。すぐにわっしを倒した相手も倒してしまう。よって負け無し。最強なのよ!!ぐはははは』
「愛別離苦…、怨憎会苦…」ブツブツ
『何を言って──がふっ!?』
顎を膝で打たれる。
舌を噛み、聖の髪の毛から手を離す。
『があ、がふっ……、ぐぅう、こんの
聖白蓮の出血が止まっていた。
生傷も少しずつだが癒えて、先程よりも腕や脚が太くなっており、筋肉量が増していた。
『こ、こいつ、俺の能力と似てんのか…!?』
「いえ、違います。私は【身体能力を上げる能力】です。あなたのように肉体改造するわけではなく、私の体の基礎を向上させる力とでもいう感じですかね」
聖白蓮の能力。
正しくは【魔法を使う程度の能力】ではあるが、彼女の場合は魔法で身体能力を上げることしかできない。シンプルではあるが、複雑な能力よりもシンプルさはかなり強い。
拳は鋼となり岩をも砕き、走れば雷よりも速い。いくら殴られても壊れないほどの肉体の耐久力と弾丸を躱せるほどの反射神経、短時間で癒えてしまう自然治癒力など…etc。人体の持つ全ての能力を底上げすることができるチート能力である。
但し、常時発動ではなく魔法なので詠唱をしなければならない。もし彼女と戦うならば、先ほどと同様、不意打ちが1番である。
「……弾幕勝負ばかりで忘れていました。本来の戦いにおいて油断したものが悪い。そこに卑怯もラッキョウもありませんよね。この鼓膜の傷は私への罰なのでしょう」
『・・・』
「もう2度と油断はしません。さあ、かかってこい!」
『かかってこい・・・?』イラァ
まるで自分の方が上だと言っているように聞こえる。偉そうに仕切りやがって。わっしは命令されるのも、指示されるのも、同格だと思われるのも許せないんだよ。
『舐めんなァッ!!尼如きにわっしが負けるわけねえだろうが!戦いの世界にいたものの恐ろしさを教えてやるよ!!』
両腕をグッと広げて、素早い張り手が放たれた。
(大振り。躱せる。……!? 足がっ!)
下を見れば、いつの間にか足を踏まれていた。動けない。ならばと思考を切り替え、直ぐに防御の姿勢をとった。大木すらなぎ倒す威力を秘めた一撃、当たれば強化していても大ダメージである。しかしダブル張り手は顔面を狙わず、聖の顔面の空間を叩いた。
「くぅっ!?」
パンッッと強烈な音。当たるか当たらないかギリギリの攻撃が目の前で生じたことによる衝撃。それらが要因で目をぎゅうっと閉じてしまう。
『猫騙しィッ!』
猫騙しは目潰し、奇襲攻撃の一つである。眼前で起きる衝撃と音により大抵の相手は本能的に目を閉じてしまう。聖が目を閉じて開くまでのわずか5秒の間に本日3度目の前傾姿勢。2回目と同様かなり頭を低くしての突進を繰り出した。
『“屁の河童”ァッ!どっせえええいっっ!!』
「ぐぅっ!?」
壁に猛烈に押し付ける。屁の河童とはオナラを推進力として突進の威力を上げるシバテンの技である。先程よりも威力がかなり上がっていた突進により、壁に押され続け、離されない。どんどんめり込んでいく。
「こ、んのぉおお……っ!」
『ぬんっ!!』
「お、お"ざれぇ……づづげでぇぇぇ……!!」
人間は押され続けると、初めに肺に空気が行かず声が出なくなる。次第に毛穴や涙腺が開いていき、涙や汗が吹き出してくる。聖も例外ではない。掠れ消えそうな声に溢れる体液。それでも構わずに腹でどんどん押されていき、小さな聖は抵抗することができない。身体強化により耐久力が向上しているのでこのまま壁と肉に挟まれ続ける拷問は続く。
「がぁああ……!!」
腕に力を入れて、押し返そうとする。
しかしさらに力を入れられると、聖は再び肉の中に沈んでいき、わずかな希望も潰される消される。
「聖!待ってて!私が今──」
『無駄だ!さっきお前にやられたおかげで能力が発動した。もうお前の声に
「くっそ…!だったら……!!」
聖がやられてしまう。
響子はシバテンへ走り出した。そして太ももへポコポコと慣れない打撃を繰り出すが数一つつかない。
「聖を離せぇ!」
『うるせえな。邪魔だ!』
足で払い除けられる。
きゃっと珍しく小さな声を出して、ひっくり返る響子。まだ傷は癒えていないのだ。だが響子の勇気ある行動のおかげで、足を動かした瞬間に力が綻び、向いていた力の流れが変わる。
「い、ま……!」
顎へ掌底。
掌底とはダメージを与える技ではなく、バランスを崩す技。小さな綻びを大きくする技だ。見事にシバテンは大きくバランスをずらし、壁と肉の間に隙間が生じる。その時に脱出した。
「はぁ…、はぁ……」
『弱者が…。もう俺にそんな技は効かん!』
無敗発動。
掌底で揺れてしまう頭を補強する首の筋肉が増量。異様に首だけ発達する。なんとも不気味だが、着実に弱点がなくなっていくのは確かだろう。
「このままでは勝てませんね…」
『このまま?フン、初めから勝てないんだよ!!』
ゆっくりと聖白蓮は目を閉じた。
深く息を吸い、気を集中させる。
「すぅ……」
『ウゥラアアァァァーーーッ!!』
動かないならサンドバッグと変わらない。
顔面に向かって張り手を放つ。山をも吹き飛ばしてしまうかのような威力を秘めた一撃は、聖白蓮に触れ、一瞬、確かにその顔面を撃ちぬくかに見えたのだが、聖の体がぐにゃりと歪んだように見えた。水のように下方に回避している。その流れでぐるんと回転し──。
「“超人化”──」
大きく踏み込み。胴回しと共に裏拳が、シバテンの腹筋に触れた。触れた瞬間に拳が更に剛直し──。
「【インドラの雷】ッ!!」
──ドグンッッッッ!!!!
『がッッ!』
無敗により200キロを超えたはずのシバテンの体、その両足が、地を離れていた。そのまま、ずん、と重厚な音とともに落下。全身が地に付き、土埃まみれになる。腹部に生まれた信じがたい衝撃と筋肉繊維と太い骨が砕ける感覚。口から真っ赤な血が噴き出す。
『がぁ……っ、お"ぉ、おえ"ええ……っ!!』
血と共に吐瀉物も出る。
思考がまとまらない。
なんだ、何が起きた。なぜ?焦る。苦しい。パニックだ。立てない。痛い。あの時に無敗は発動したんだ。体は強くなった。負けないはずなのに。なんだ、なぜ自分に攻撃が通じたんだ。なぜ立てないんだ。苦しい。
「ちょ、超人化…!聖がその技を使うの初めて見た……」
【超人化・超人『聖白蓮』】
身体能力を向上させる魔法を極めた者のみが到達できる場所。人体の持つ全ての限界を超える。武、技、力、体、心がどんな生物や妖怪を超える。文字通り、“人智を越えた存在”となる。
『こ、こんなことあり得ない。あり得ないィィィ…!!』
無敗発動。
折れた骨がさらに太く硬くなる。筋繊維が再生、強化される。身長3メートル、体重200キロの身体がさらに大きくなる。身長は4メートル、体重は300キロとなる。
『あり得ないんだよォォォオ〜〜ッ!!』
張り手、張り手、張り手。
連打連打連打。
拳の強襲、雨霰。
『こんのぉおおお〜〜〜っ!!』
「“ヴィルパークシャの目”」
全ての攻撃が捌かれる。
当たらない。流される。全てを見切られている。聖は全ての打撃をずるり、とすり抜けてその内側に踏み込み、腹部に肘を当てた。爆発の如き衝撃に体が浮く。光が弾ける。
「“ハヌマーンの舞”」
『ぐばぁっ!?』
血反吐を吐きながら後退するシバテンにさらに追撃。謎な威力を持つ打撃にシバテンがはっきりと焦りの色を浮かべる。今までの経験にない。今までの人生にはない。無敗が発動したのに勝てないという事実に。
「らあああっ!!」
額、人中、顎、喉仏、心臓、活殺、還元、金的、水月、命門、亜門……。踊るように流れる動きで人体の急所を全て撃ち抜く。一つの急所にあたるたびに意識が飛び、もう一つに当たり目が覚める。それを繰り返し続けた。
だが、そのたびに自動的に無敗が発動していく。
『ヌゥオオオオッ!!』
聖白蓮に向かって、両腕を叩き落とす。
しかし躱されて甲羅を割られる。甲羅から血と肉が飛び散るが、直ぐに甲羅が再生して固くなる。
『このオォォォッ!!』
踵落としで頭の皿が割られる。
泡を吹くが、直ぐに皿が再生し、次は壊れないように硬い膜のような物が広がっていった。
『負けないィィィ……ッ!!』
無敗発動。
無敗発動、無敗発動。
無敗発動、無敗発動、無敗発動。
無敗発動、無敗発動、無敗発動、発動、発動、発動、発動、発動……。
発…動……。
は、つ、どう……。
「哀れな・・・」
目の前には筋肉の塊があった。
ピクピクと血管が動き、手足が潰れている。
『ま、まげ、まげなぃ』ピクピク
「何なの?」
「肥大化しすぎた筋肉に押し潰されるなんて。能力に頼りすぎた者の末路ですね」
『お"、おオ、レ、まけな』
「・・・」
正拳突きの構え。
その拳に力が溜まり、ゆっくりと肉塊に解き放つ。
「一発精魂……、ドゥルガーの魂」
『があぁぁぁ』
「ドゥルガーの魂は攻撃にあらず、精神の浄化が主です。その能力から解き放ちましょう」
ぷしゅううう…と空気の抜ける音と共にシバテンの身体が萎んでいく。5メートル以上に肥大化した体が1メートルほどへと小さくなった。
シバテンと言う妖怪の本来の大きさは子どもと変わらない。成人だとしてもこれ以上は大きくならない。能力のおかげで大きくなれる。
『こ、こんなに小さく…』
「勝敗を分けた理由、わかりますか?」
『能力の差に決まっているだろうが!!負けたら強くなる能力なんかよりも初めから強くなる能力の方がいいに決まっている!くそっ、くそが!卑怯だよ、卑怯!』
「違います」
『じゃあなんだってんだよ!?』
「鍛錬の差です」
『た、たんれん・・・?』
「力士とは初めて戦いましたが、あなたの使った技は張り手と突進、猫騙し位…。力があっても技がない。お互い力を持つもの同士なら勝敗を分けるのは鍛錬により技を極めたものに決まっているでしょう」
『ば、馬鹿らしい。鍛錬なんて能力の前では無意味なんだよ。現にわっしはこれまで勝ち続けてきたんだ。これまでの経験がそう言っているんだ。わっしはこれからも最強だ。最強、負けない、俺は絶対に負けない……』
「まさに井の中の蛙、いや河童ですね。強者に出会わなかったことが貴方をここまで堕としてしまった。考えを改めなさい」
『馬鹿にするな!!……うわっ!?』
飛びかかるが簡単にいなされる。
どてっと転ぶ姿はなんとも情けない。
『ちくしょおっ、ちくしょお…』
「もし仮に本気で相撲に取り組んでいたなら私が負けていたでしょうが、相撲を見限り、能力だけに心酔した時点で敗北は決まっていた。それだけです」
聖白蓮は基本的に能力に頼らず、鍛錬を続け、自分自身を信じてきた。自分はその正反対。だからこそ、その言葉はシバテンに響く。
『あ、ああ・・・』
「もしやり直したいなら命蓮寺に入って、一緒に修ぎょ・・・」
『ああああ・・・!!』
「・・・」
『ギャアアアアアーーーッ!!』
勝つことだけで保っていた精神。
敗北により崩れ去った。
信じていた能力も役に立たないことにより、心が壊れた。
『あひあひあひぃ〜!誰かぁ〜、一緒に相撲とろぉ〜。わっしは誰にも負けないからぁ〜!あひあひあひ〜!』
「ひ、聖。終わったの?」
「ええ。でも、この子どうしますかね・・・」
「やっぱり我らが聖白蓮だ。圧勝だったね!」
「えっへん!」
「なんでアンタが自慢してんのよ」
「どんな者も必ずどこかで道を踏み外す。元に戻れるかは自分次第ですよ」
「・・・ご主人」
「どうしました?」
「今、幻想郷に何体かの敵が侵入し戦闘をしているようです。聖白蓮は、幻想郷で上位に入る存在ですので、対処しきれました。きっと今戦闘をしている者たちの中には聖と並ぶものもいるでしょう。ですが・・・」
「力が足りないものがいる、と?」
「ええ。苦戦をするものが必ずいます」
「どんな苦難も等しく訪れます。乗り越えられなければ、それまでですよ。だからこそ我々は修行を続けるのです」
「要は自分でなんとかしろってことですね」
「・・・てへ」
「てへってねえ」
「本物の毘沙門天様ならお救いしてくれるでしょうが、私はまだその段階に至らずです。力不足で申し訳ない。ただ」
「ただ?」
「ここの連中はただでは負けないですよ」
聖白蓮vs.シバテン
聖白蓮の勝利
地底。
「ぬ、ぬらりひょん」ボソリ
「なんだ」
「雲行き怪しくないかしら。二敗しているんだけど」コソコソ
「黙って見てろ…。ふん」