ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

34 / 64
どうもです、狸狐です。




────


「ふぃ〜、今日もお仕事終了〜」


 地底世界のさらに深くに存在する場所。
 その名も“間欠泉地下センター”。
 ここは旧地獄、現温泉施設だ。その温泉の命とも言える温度を司るのがこの場所で、ここを管理しているのが彼女──霊烏路空(れいうじうつほ)。彼女はさとりのペットであり、種族は地獄鴉(八咫烏)。
 

「今日の晩御飯はなーにかなあー」


 空を飛びながら我が家へ帰る。
 帰ったらさとり様とご飯を食べて、お燐と遊んで、寝て、毎日が楽しくてたまらない。


「ん〜?なんか地底が騒がしいなあ」


 ずっと施設にいたので、異変に気づかなかった。
 なんかめちゃくちゃだ。また鬼でも暴れているのかな。そう思いながら、辺りを見渡す。


「うにゅ?」


 なんか見える。
 なんだあれ。
 あれってご主人?あんなところで何してるの?なんだ倒れているの?なんかあかいのがみえる、


「ごしゅじん・・・?」








vs.人道の桐一兵衛 

 

『お姉さん、あーそーぼー!』

 

 

 ゔぃいいいん。

 ゔぃいいいん。

 少年が握るのは近代武器(武器ではない)チェンソーである。ホラー映画の殺人鬼が持っていたり持っていなかったりする有名なものだ。幻想郷には無いもので、改造されているのか、煙を吹き、刃はギュルルルと回転している。

 

 

「ふっ!」

 

『うひゃひゃひゃ!!』

 

 

 咲夜は遠距離からナイフを投げる。

 しかし、桐一兵衛はチェンソーを盾にしながら距離を詰めてくる。ナイフ如きではチェンソーは壊せない。

 

 

「・・・なるほど。ならば」

 

 

 咲夜は“懐中時計”を取り出した。

 興奮した桐一兵衛は構わず特攻を続ける。

 

 

『死ねぇえっ!!』

 

咲夜の世界(ザ・ワールド)。私だけの時間よ」

 

 

 

 カチリと懐中時計のボタンを押した。

 蓋がパカリと開き、時計のケースが見える。カタッ、カタッと秒針が無機質に動いていた。

 

 そしてボタンを押してから、この世界全てに異変が起きていた。それは全てが静止しているのだ。夜空の雲の流れは止まり、コウモリたちも空中で固まり、美鈴が注いでいる紅茶もカップの中に入るところでピタリと動かない。もちろん敵も狂気の笑みを浮かべながら動いていない。

 

 

 “全てが静止する”

 

 

 これこそが十六夜咲夜の能力『時間を操る程度の能力』である。厳密には、この世の全ての時間を遅くしたり、早めたり、最終的に止めたりする正に最強の能力である。操っている間のこの空間を自由自在に動けるのは咲夜自身であり、他のものは動くことはできない。

 

 但し、この能力は5秒間しか持続しない。

 再び使うのに1分間のインターバルがある。この間は自分で対処するしかないので、最強とは言えないが、元から体術やナイフ術などが強いので基本は心配することはない。

 

 

 

「時間を止めた・・・」

 

 

 そして与えられた5秒という自由時間。

 咲夜は桐一兵衛の細い腕をナイフで切断し、チェンソーの刃の向きを桐一兵衛側に向けた。これらを4秒で行うと、懐中時計の蓋をパチンと閉じた。

 

 

「そして時は動き出す」

 

 

 瞬間、止まっていたものが全て動き出す。

 雲や蝙蝠、注いでいた紅茶が動く。桐一兵衛も例外ではない。切断面から鮮血が吹き、そのままチェンソーへと突っ込んでしまう。

 

 

『ぎゃあ、あ、あ、あ、あ、あ──』

 

 

 皮膚や肉、体液、頭髪などが刃に絡まり、チェンソーが止まる。そのまま倒れるチェンソーと、地面にはぐちゃぐちゃになった元桐一兵衛らしき肉片が散らばっていた。

 

 

「・・・」

 

 

 敵は確実に死んだはずだ。

 だが、先程から感じる違和感。泥の中で歩いているような重さとしつこさがある。そう。自分は2、3度、この敵を殺している。だがコイツは平気な顔して現れるのだ。だが今回は大丈夫なはず・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、咲夜さん。モヤモヤしてますねぇ」

 

「そりゃあそうでしょうね」

 

 

 戦いを観戦する2人。

 興奮が治ったのか、冷静になりつつあるレミリアは戦いを分析していた。その隣で紅美鈴は紅茶を淹れる。

 

 

()()()()()()()()()()

 

「え、あー、やっぱり」

 

「あら、本当に気づいてたの?」

 

「確信はないんですけど、違和感というか、なんか変な気を感じてはいたんです」

 

「咲夜は気づけるかしら。この敵の能力が再生だとか、回復なんかじゃあ無いってことを………それにしても…美鈴」

 

「はい?」

 

「この紅茶、苦いっ!お砂糖入れてくれたの!?」プンスカ

 

「えっ、砂糖入れて飲んでいるんですか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 咲夜は落ちたナイフを拾う。

 一本一本大切に研いだナイフであり、数には限りがある。そう簡単に新しいのにはできない。

 

 

「・・・」

 

『不思議なんだよなぁ〜』

 

 

 ナイフを拾う手が止まる。

 頭を上げると、壁に寄りかかる桐一兵衛。

 

 

『お姉さんと戦っていると、気づいたらバラバラにされているんだよなあ』

 

 

 斧を握りながら不思議そうに言う。

 そのまま咲夜の方へと歩き、斧をグルングルンと回す。

 

 

『ねえ、なんで?なにか不思議な力でも持ってるの?』

 

「それはこっちのセリフよ。確かにバラバラにしたはずなんだけど、どういう原理?不死身なの?」

 

『先に質問したのはこっちなんだけど、なっ!!』

 

 

 ブゥンッ。

 空振りする斧。大振りな一撃は隙も大きい。そのままナイフを投げて、脳天に直撃する。

 

 

『がぁっ…』

 

 

 また殺せた。

 とても簡単に、今回も殺せた。

 

 

「弱い。とても弱い」

 

 

 気づけば辺り一面に血と肉が散らばり、紅魔館の周りを囲む外壁はより真っ赤に染まっていた。歩けば、ぐぢょぐぢょと音がして心地悪い。だがそれ以上に倒した感覚がしない方が心地悪い。何度も殺したのになぜ蘇れるのか。奴は答えなかったが、もしかしたら本当に不死身なのかもしれない。

 

 

「不死身以外に考えられるとすれば──」

 

 

 

 

 パァンッッッ!!

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 ぱん、と大きく破裂するような音がした。

 勢い良く、鉄の杭を壁に打ち込むような、瞬間的ながら激しい響きが、聞こえた。

 

 

「ぐぅううっ!?」

 

 

 お嬢様の前で悲鳴は上げていられない。

 唇を噛み、痛みを堪える。

 

 

『なんの能力かは分からないけど、僕の見立てじゃお姉さんは“高速移動”でもできるのかな。なら、とりあえず脚を奪っちゃえば動けないよねえ』

 

 

 なんだあの武器は。

 初めて見る。

 

 

『あっ、これ?気になる?えへへ、これさ拳銃っていうんだ。種類は知らない。こっちの世界に来る前にさ、色々買ってもらったんだよ。優しいお爺ちゃんにね』

 

 

 ガチャンとスライドを引く。

 銃口を咲夜に向けたまま、桐一兵衛は笑う。

 

 

『外の世界じゃ、これで毎日人間は命のやり取りしているんだよ。凄いよねえ、人間って。人を傷つけるものを毎日生み出しててさ。お互いに殺し合うんだから、僕みたいな殺し屋は廃業になっちゃうかもねぇ』

 

「・・・っ」

 

『まっ、そんな事どうでもいいや。ばい──』

 

 

 カチリ。

 時が止まった。

 相手が勝手に能力を決めつけてくれて本当にありがたい。足が弱点だと思い、不意打ちで急所ではなく足を狙ってくれた。仮に頭や心臓を撃たれていたら流石に死んでいただろう。先入観は思考を止めてしまう物だと改めて思い知らされる。

 

 

(なんて失態だ。情け無い…。お嬢様に無様な姿を見せてしまった。こんなことでは従者失格だ…)

 

 

 自分に悪態をつきながら、ナイフを投げつける。

 笑う桐一兵衛の鼻先には刃先がぴたりとくっついた。そのまま銃口からズレた場所へ足を引き摺りながら、移動する。

 

 

(とにかく距離を取らなければ・・・っ)

 

 

 大した距離も移動できなかったが、何とか離れることはできた。時間制限だ。懐中時計のボタンが勝手にカチリと押された。

 

 

 

『──ばい、あがぁっ!?』

 

 

 即死。

 ばたりと地面に背中から倒れた。血飛沫が舞う中で咲夜は息を切らす。先程、先入観は思考を止めると言ったが、咲夜にもそれは当てはまっていたからこんな目に遭うのだろう。敵は弱いと思ってしまった結果、こんな状況に陥ってしまったのだから。

 

 

「はぁっ、はぁっ…」

 

 

 ハンカチを傷口に詰めて止血する。

 スカートの端をビリッと引き裂き、自分の足に巻いて包帯代わりにした。そして力を込めて、立ち上がる。ふらつくが先程よりはマジだ。痛みに慣れてきた。

 

 

『あれれ、おっかしいぞ〜。脚を奪ったんだけどなあ。どうしてか、また先にこっちが死んじゃったよ。高速移動じゃなかったんだ。一体なんだろうね、お姉ちゃんの能力。ちゃんと見てたのに分からないし、気づいたらそっちに移動しているし。不思議だなァ』

 

「はぁっ、はぁっ……」

(今、おかしなこと言わなかったか?)

 

 

 言葉の違和感に気づく。

 

 

()()()()()()()?)

 

(あの瞬間、こいつは即死した。それなのに私がここまで移動したことを見ていたの?)

 

 

 

 痛みのせいで思考がグチャグチャになっていたが、冷静になって考えてみると色々と違和感がある。

 

 初めてバラバラにして殺した時、こいつは背後の闇から現れた。

 

 考えられる能力は不死身?それとも再生か?私の能力に似た巻き戻し系?いや。いや、全て違う。それらはない。何度も何度も殺したが、別のところから何事もなかったかのように現れてきた。肉片が一つにまとまって復活したわけでもない。

 

 それに先程の客観的な発言。他人事のような言い方。まるで今さっき死んだやつが戦っていた時にどこかで見ていたのか?どこで?いや、分かりきっているじゃないか。闇の中、つまり建物の影や茂みの中で隠れて見ていたんだ。見つかるとマズイから。

 

 

 見つかるとマズイ・・・。

 

 ──そうか。

 

 この刺客の能力は。

 

 

 

(なら、この場所がよく見える場所は・・・)

 

『ねぇ、聞いてんの?』

 

「そこだっ!!」

 

『!』

 

 

 この位置がよく見える場所。

 近くの茂みにナイフを投げた。

 

 

『ひぎゃああああ〜〜〜っ!?』

 

 

 茂みの中から肩にナイフが刺さったもう一体の桐一兵衛が飛び出した。そいつはそのまま地面に転がり、咲夜とは正反対な程に情けない声を出し続ける。

 

 

『いでぇ!いだいよぉお〜〜っ!』

 

「やはり()()が隠れて見ていたのか」

 

『・・・』

 

「殺しても殺しても現れるので不死の能力かと思いましたが、よくよく考えてみれば武器や現れる場所がバラバラだった時点で気づくべきでした。貴方の能力は──“分身”を作るですね」

 

 

 ピクリと反応する。

 

 

「分身を作り、それを私と戦わせる。分身が死ねば新たに作る。それを繰り返していた。そこで転がっている本体はそ分身を戦わせる間に情報収集をし、私の倒し方を考える」

 

『〜〜〜っ』プルプル

 

「その反応、どうやら正解ですね。ならば今、情けなく転がっている本体を殺せば、全てが終わる!!」

 

 

 ナイフが飛ぶ。

 次は肩ではなく、しっかりと急所を貫いた。本体であろう桐一兵衛は“ぎゃひっ”と情けない声を出して、叩かれた虫のようにバタバタと足を動かしたあと、ピタッと動かなくなった。

 

 

『〜〜〜〜ぷっ!!』

 

「?」

 

『うひゃひゃひゃ!』

 

 

 死んでしまった本体(仮)の姿を見て、残された桐一兵衛はゲラゲラと笑う。その奇行に咲夜は焦る。

 

 

「何がおかしいっ!!」

 

『うひゃひゃひゃ!おかしいに決まっているだろう!お前の予想は違うんだからな!!』ゲラゲラ

『そう笑うなよ、可哀想じゃん』

 

「!!」

 

 

 2人目がいた。

 笑っているやつの肩に寄りかかり、ニタニタと笑う。

 

 

「まさか、先程のも分身!?」

 

『のんのん。あれは本物だったよ』

『そうそう。でも分身かぁ。良い線は行ってるね』

『厳密にはちょっと違うけどね』

 

 

 ぞろぞろと茂みの中やら近くの建物の陰から桐一兵衛が現れる。全て同じ顔で分身というよりもクローンといった方が正しいだろう。全員手にはバット、包丁、メリケンサックに木槌、刀といった多種多様な武器が握られていた。

 

 

「ぶ、分身じゃないだと?」

 

『僕たちは全員が本体。誰が本物で他は偽物ってわけじゃない。誰かを殺せばいいってわけじゃあない』

『でもね元々は1人だったんだよ。お姉さんがバラバラにしてくれたおかげでこんなに増えちゃったんだから』

 

 

 バラバラにしてくれたおかげ。

 その発言で全てが繋がる。

 

 

「そうか。分身なんかじゃない!お前たちの能力は……!」

 

『やっと分かった?そう、僕らの能力は〜〜〜』

 

 

 全員が声を揃えて言う。

 

 

『『『“分裂(ぶんれつ)”だよ!!』』』

 

 

 

 桐一兵衛。

 別名──【斬一倍(きりいちばい)】。

 名前の通り、この妖怪は身体が斬れた時に、肉片から新たな身体が再生される。1体を半分に切れば2体に、2体を切れば4体にと、どんどん増えていくのだ。但し、この妖怪一体一体はかなり弱い。だからこそ数で攻める。武器もたくさん使う。それが彼らの戦い方である。

 

 これを使い、新潟県のおのぼり峠で老若男女問わず人を食い殺し続け、指名手配されていた。だが最後は目玉親父の知恵のおかげで、斬撃などは繰り出してはいけないことを事前に知っており、鬼太郎の霊毛ちゃんちゃんこでグルグル巻きにしたことにより、妖怪刑務所に収監されてしまった。

 

 

 話を戻すが、彼の能力【分裂】とは──。

 一欠片でも自分の肉片が残っていれば、そこから新たな自分が生まれてくるというものだ。つまりバラバラにされるほどに、その肉片分、桐一兵衛が増えてしまう。よって全てを一気に消滅させなければ倒せない。不死身に近い存在なのである。再生速度も自由自在に操作可能であり、ゆっくり再生することも、素早く再生することもできる。

 

 プラナリアという生物がいる。プラナリアも体をバラバラに裂かれても、破片がすぐに再生。足りない部分を作り出し、裂かれた分増えることができる。桐一兵衛もそれができるということだ。

 

 

 

『どんなに君が強くても、僕を倒すことは──』ブシャッ

 

「黙れ、俗物。殺してもないのに勝った気でいるなよ」

 

 

 ナイフが突き立てられる。

 笑顔のまま死ぬ桐一兵衛。その死体をしゃがみながら見て、抵抗してくる咲夜を鼻で笑う。

 

 

『あーあー、無駄なのにな』

『でも()()()()()()()()()()よね。刺すとか、殴るとかはやめて欲しいな』

『分裂できないからさ』

 

 

 そう言って、1人が死体をバラバラに解体する。

 すると解体された肉片はウネウネと動き、数十体の桐一兵衛が誕生した。

 

 

(こいつらは・・・。バラバラじゃないと分裂できないんだ。分裂できなければ殺せる!!)

 

 

 

 咲夜の予想通り。

 この【分裂】は不死身に見えたり、倒すのは困難なように思えるが、実は大きな弱点がある。それは肉片を出さないやり方だと能力が発動しないのだ。血液からは分裂できない。自分の体が裂けた時に発動する。だから殴る蹴るでは基本増えることはできない。もちろん刺す、燃やす、溶かされるも肉片が出ないなら分裂はできない。

 

 

「・・・」

 

 

 隠し持っていたナイフを取り出す。そして構えた。対する桐一兵衛たちはそれぞれが持つ武器をしっかりと持って、たった1人で立つ咲夜の情けなさを笑った。

 

 

(お嬢様にこれ以上失態は見せられない。メイド長として、あなた様の従者として、忠義を示します──)

 

 

 カチッ。

 チッ…、チッ…、チッ…。

 時計の秒針が動くたびに咲夜の手元のナイフの本数が増えていく。敵にとってそんな小さなことは気づかない。

 

 

「ねえ、手品は……好き?」

 

『手品?』『なになに、見せてくれるの?』

 

「ええ……。十六夜咲夜のとっておき。種無し手品ショーの開幕よ」

 

『楽しそ──、あれ?いない?』『逃げた?』『えー、だっさあ』

 

 

 笑う数百体。

 そんな中、たった一体が夜空を見上げた。空中を何かが舞っていた。目を凝らすと土埃で汚れたあのメイドだ。

 

 

『いた!皆んな、上だよ!』『えっ、空ぁ!?』『人間って飛べんの!?』『飛んで逃げてんだろ』

 

「──“メイド秘儀「操りドール」”」

 

 

 気づいた時にはもう遅い。

 奴らが見ていた夜空からナイフの雨が降ってくる。咲夜が時を止め、約40メートルから相手の眉間を貫けるほどのナイフ投擲技術により、大量のナイフを視界内半分の桐一兵衛の額へと投げていた。

 

 

『あがっ』『うぎっ』

 

 

 悲鳴らしい物をあげられず、バタバタと倒れていく。なんと凄い技法だろうか。誰1人肉片を飛ばすことなく、頭から出血させて殺している。驚いている残り半分。

 

 

『は、はあっ!?』『有り得ねえよ!!』

『と、とにかく!』

解体()らさないと!!』

 

 

 一瞬にして半分がやられたことに驚きながらも、頭を振って、倒れている自分の解体作業へと移る。

 

 

「まだ公演中よ。最後まで見ていきなさい」

 

『何言って──』

 

「メイド秘技“殺人ドール”」

 

 

 カチリ。

 今度は1人1人の正面にナイフの刃が向いていた。瞬きする間も無く、残り半分の脳天を貫き、全てが即死した。

 

 

「・・・これにて閉幕」

 

 

 どくんっ。

 ごぽっ。

 どろり、と濃厚な血が口から溢れる。

 

 

「はっ、あ"ぁっ、はぁっはぁっ……」

 

 

 何度も何度も時を止めると、十六夜咲夜の心臓や体に負担が重くのしかかる。どんなに鍛えても、身体の中身だけは鍛えることはできない。臓器はもう限界だった。吐血だけではなく、鼻からも血が垂れた。目も真っ赤に充血し、手足が震えている。

 

 

(お嬢様……っ)

 

 

 テラスから紅茶を飲嗜みながら、試合を観戦するレミリア。紅美鈴は慣れないながらも給仕を必死に勤めていた。レミリアの表情は少し満足そうではあった。

 

 

(良かった……)

 

 

 

 

 コロン…

 

 

 

 

「・・・?」

 

 

 桐一兵衛の死体に何か黒くて丸いものが飛んできた。それは小さいながらも固く、ずつしりと重そうで、まるで爆弾のような──。

 

 

「──!!」

 

 

 対処する判断が遅かった。

 懐中時計のスイッチを押す直前に、それは爆発した。爆発の威力は大きくは無い。だが半径1メートル内の物は爆裂し、血肉と臓物が飛び散り、周囲は再び鉄臭くなった。

 

 

『いやぁ、すごい手品だったなあ』

 

 

 パチパチと拍手をしながら、霧の湖の方から桐一兵衛がやってきた。片手でもう一つの爆弾を転がして愉快そうに笑いながら。

 

 

『あっという間に僕が死んじゃうんだもん。それも肉が飛ばないように。……念の為に持ってきてて良かった〜。手榴弾。ニ個しかないけど手に入れるの大変だったんだぜ』

 

「全員殺したはず・・・」

 

『念には念を入れててね。ここに来る前に自分で指を切ってたんだよ。僕はその切り落とした親指さ。そして再生してから、ずっとあの湖から見ていたんだ。黙って観察していたおかげで自爆できたよ』

 

 

 得意そうに言ってから2個目の手榴弾を投げて、爆発させた。

 

 

『僕らの能力って最強かと思ってたんだけど、意外と穴があるんだよ。教えてくれたのは鬼太郎っていう偽善者なんだけどね。あいつに捕まって初めて弱点を知ったよ。その日からいつでも自殺できるものは持ち歩いているんだ』

 

 

 ぐちょ…っ。

 ぐちょぐちょ。

 うねうねうねうね。

 破片から新たな桐一兵衛が再生していく。全てを片付けたと思っていたが、たった一体が生き残っており、そいつのせいで振り出しに戻ってしまった。

 

 

『あっ、そうだ。お姉さん。またさっきの手品を見せてやってよ。こいつらの誕生祝いにさ』

 

『おはよぉ』『あれ、どうしたの?』『面白そうなことやってんじゃん』

 

「舐めるなよ……」

 

 

 懐中時計のボタンに手をかける。

 押そうとするが指に力が入らない。

 

 

「!? ち、力が……っ、はぁっはぁっ…」

 

 

 能力を行使する為の力が出ない。

 

 

『時計が能力を発動するためのトリガーか何かなんだね。でも、もう摩訶不思議な能力は使えないみたいのかなぁ〜。かなあッッ!!』

 

「!」

 

 

 ごんっ

 思い切り顔面を殴られる。視界がチカチカする。口の中に一気に鉄の味が広がった。そのまま地面に倒れるが、屈することはない。すぐに立ち上がり、ギロリと睨み続ける。力が入らない彼女にとって唯一できる抵抗であった。

 

 

「・・・っ!!」

 

『いいねえ。その顔がもっと歪むところ見たくなっちゃったよぉ……!オラァッ!!』

 

 

 桐一兵衛は、咲夜の頭部を狙った上段蹴りを放つ。

 だが咲夜はその蹴り足を避けた。途端に力のベクトルを外され、そのまま同時に軸足を掬われ投げられてしまう。

 

 

『いっっっ…』

 

「はぁっ、はぁっ……。舐めるなと言っただろ」

 

『俺らもいること忘れんなよ!』

 

「がっ!?」

 

 

 後頭部を岩で殴られる。

 そのまま顔面から倒れると、桐一兵衛たちは一斉に咲夜へと襲いかかった。

 

 

『死ね死ね死ねぇっ!!』

 

 

 まるで津波に飲み込まれるようだった。

 顔面に鋭い衝撃が走り、視界がぐらりと揺れる。すぐ続けて2発、3発と蹴りや拳が飛んできた。ひとりが殴り疲れてくると、今度は別の桐一兵衛が襲いかかる。4発、5発、6発・・・。殴られた数を覚えていたのは、30発くらいまでだった。

 

 

「ぐぅ、あ"ぁっ、がはっ…」

 

『ねえ、皆んな手足押さえつけて』

 

『『『オッケー』』』

 

『オラッ!』

 

 

 小さな拳が鳩尾にめり込む。

 たまらず胃の中のものを吐き出した。

 

 

「う"っ、おっ、お"ぇぇえ……っ」ビチャビチャ

 

『きったねえ〜』

『おいおい、休んでる暇はないよ〜!このメスが!!』

 

「げぽっ!うっ、ううっ…」

 

 

 口の中が吐瀉物と鉄の味でいっぱいになり、少しずつ意識が薄れていく。全身から力が抜けていく。自分が立っているのか、寝ているのかわからない。とうとう咲夜は地面に倒れこんだ。それでも桐一兵衛達は手を休めない。横たわった咲夜の腹を何発も蹴り上げる。

 

 

「お…、じょうさ、ま……」

 

「・・・」

 

 

 テラスにはもう居なかった。

 我が主人は月夜をバックに空を優雅に舞っていた。

 

 ああ、なんと情けない。レミリアお嬢様の従者として、このような輩を簡単に倒すことができなかった。敗因はなんだ。能力を見極められなかったこと? いや、違うな。自分の力を過信し過ぎたことかな。……悔しいな。

 

 

「申し訳、ござ、いません……」

 

 

 全身が打撲痕だらけ。美しい姿がまるでボロ雑巾のようだ。そんな咲夜の頭を一体が踏みつけた瞬間に、この勝負の勝敗が決まる。桐一兵衛の勝利となった。

 

 

『それじゃあ次は君の番だよ』

 

 

 自分達の強さに酔いしれながらレミリアの方を見た。

 

 

『レミリアお嬢さ、──…は?』

 

 

 分裂した彼らは思考を共有することはできない。

 それぞれが自分は何をすべきなのかを考えて行動するため、数は多くても集団としての力は低い。

 

 

『は、はああ……!!??』

 

 

 そんな彼ら全員が考えを合わせたわけでもないのに、一つのものに視線が集中する。それを見て、殆どがゴクリと唾を飲んだり、かたかたと震え上がり動かなくなった。

 

 

「“神槍(しんそう)スピア・ザ・グングニル”──」

 

 

 螺旋状の赫い槍。

 回転をするたびに空気を巻き上げ、巨大になっていく。レミリアはその槍を軽々と持ち上げると、ゆっくりと構え始めた。

 

 

『な、なんだよ、あれは……!!』

 

 

 人生で初めて見る巨大なエネルギーの塊。

 それを遂に投げた。

 誰もがそのエネルギー体に怯える中、1人が言った。

 

 

『あのメイドを人質に・・・っていねえ!?』

『逃げたんだ!いつの間に!?』

 

『へっ、大丈夫だ。安心しろよ。所詮どんな攻撃を貰っても、ほんの一欠片の肉が飛び散れば、俺たちは死ぬことはな───』

 

 

 ジュウゥゥッ──。

 発射されたレミリアの攻撃は曲がったりすることなく一直線に進んで行った。その直線上にいた全ての桐一兵衛たちは血も肉も髪の毛一本も残すことなく消滅した。残りは数十体である。先ほどの一撃でほとんどが消えたからだ。

 

 

『──ぎゃあああっ!!』

 

 

 どんな攻撃も体の一部があれば復活できる。仮に殴り殺されたりして破片が出なくても、解体すれば大丈夫。だがこれは別だ。全てが溶ける、いや消滅するなんて。皮膚も、肉も、骨も、何も残らないほどに。やばい。これはダメだ。能力が使えないなら早く逃げなければならない。一斉にレミリアとは反対の方向に走る。

 

 

『聞いてないっ、聞いてない…!!』

 

 

 レミリアはもう一度同じ技を繰り出すためにエネルギーを溜め始める。それを見て、桐一兵衛は朱の盆に言われたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーとですね。これが幻想郷のメンバーの情報をまとめた物でして……」

 

『いらんいらん!どんな相手にも負けないのがわっしでごわす。この聖白蓮の居場所が書いてある紙だけで十分!!ガハハハハハ!』

 

『うっ、うううう……。なんで、なんでよ。なんで、全部女なのォォォ。相手なんか誰でもいいっ。あの人以外興味なんかないィィィ』ブツブツ

 

 

 朱の盆は用意してきた。

 幻想郷のターゲットの情報を、慣れないパソコンを使い、資料にしてきたのだ。しかし誰も読んでくれないことにショックを受ける。

 

 

「ちぇっ、せっかく作ったのになあ」

 

『ねえ、それちょうだい』

 

「ええ!貰ってくれるの!?桐一兵衛くん!」

 

『僕はあの2人と違うのさ。どんな相手か知って、どういう風にいじめてやるのかを考えるのが楽しみでね。どれどれ……』

 

 

 れみりあ・すかれっと

 おひめさま

 かねもちでおおきいいえ。

 めいどやひつじがいっぱいいる。

 いもうとがめちゃくちゃつよい。

 

 

『ふーん、大した相手じゃなさそうだ。ボンボンな高飛車って感じかな。きっと人を見下すタイプだからいじめがいがありそうじゃん』

 

「えっへへ。その情報に間違いないぜ。なんたって俺はぬらりひょん様の一の子分!得意分野は情報収集だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただの金持ちって聞いたのに!あの中で1番弱そうだったのに!!聞いてた話と全然違う!!』

 

 

 逃げる桐一兵衛たち。

 先程と違って、バラバラに逃げ始めた。まとまっていたら一瞬でやられてしまう。ならば1人でも生き残る方を選ぶ。

 

 

「くだらん考えだ」

 

 

 そういうと逃げる桐一兵衛たちの前に無数のコウモリが行く手を阻む。全てレミリアの眷属であり、普通のコウモリと違い、1匹1匹が野良妖怪と変わらない戦闘力を持っている。

 

 

『た、助けてぇっ!!』

 

 

 奴らに襲われ、逃走方向を変える。

 気づけば残った桐一兵衛たちは全員同じ場所に集まっていた。逃げられない。その現実から。

 

 

「なんと哀れな。私のメイドを倒せたのだから、せっかく相手してやろうと思ったが・・・興醒めだ。消えろ、蛆虫」

 

『聞いてないっ、聞いてない、聞いてない聞いてない!』

 

「神槍スピア・ザ・グングニル」

 

『ぼ、僕はただ虐めるのが好きなだけなのにっ、殺されるなんて聞いてない!!誰か助けてぇぇぇええっ!!』

 

 

 

 槍が放たれた。一瞬にして周囲のものが消滅していく。今まで体験したことない感覚。

 

 これが──死だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・・あ、れ?』

 

 

 目を覚ますと、そこは真っ暗な闇の中だった。

 自分たちが溶けていく姿を見て、泣きじゃくっていたはずなのに。おかしい。

 

 

『なんで僕生きて・・・、あれ?』

 

 

 動けない。

 そして痛い。痛い痛い痛い……!!

 

 

『何が起きて──、いだいっ、いだぁっ、どこなの、ここ!誰か!誰かぁぁぁ……』

 

 

 きぃいい…

 重いものが開く音がして、眩しい光が顔を刺した。自分はどうやら狭い箱のようなところに閉じ込められていたようだ。全てが光の中に包まれると自分に何が起きたのかが判明した。

 

 

『・・・え?』

 

 

 頭を持ち上げて、自分の体を見る。

 手が、足が、四肢の全てが切断されていた。ダルマのようになって箱の中に入れられていたのだ。そして体のあちこちに細い管が刺さっていた。

 

 

「無痛魔法が切れてきたのね」

 

 

 箱の扉を開けたのは、紫髪の女だった。

 彼女は面倒くさそうに何か言っていた。

 

 

『あ、あの!僕死んだんじゃ…!それに、ここはどこですか!僕は一体どうなったんですか!?』

 

「質問が多いわね。レミィに喧嘩売って返り討ちにされたでしょ。あなたはその中の生き残り……といっても溶ける前に美鈴が保護したの」

 

『ほ、保護?』

 

「そして、ここは樽の中よ」

 

『樽?』

 

 

 意味がわからない。

 頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。何を言っているのか分からなくなってきて、ただただ目の前の女を見つめる。

 

 

「そっ。こうやってさ樽の蛇口をひねると……」

 

『ぎゃあああ……っ』

 

 

 ジュウウウウと吸われる。

 自分の全身に刺さった管が血を吸い上げている。そして管の先に繋がっている蛇口をひねると、赤い液体がどぽどぽと流れて行った。それを女はコップに注いで見せてきた。

 

 

「これ、あなたの血よ。あなたは紅魔館のドリンクサーバーになったの」

 

『へ?』

 

「なんかね。レミィがあなたの能力を見て、思いついたんだって。ほら、あの子って吸血鬼でしょ。残虐な発想ができちゃうのよ。私は飲む気はないから安心して」

 

『ど、どりんくさーばー?』

 

 

 え?

 まさか?

 自分はこのまま死ぬまでこうやって血を抜かれ続けるのか。その事実を知って、呼吸が荒くなり、震える。

 

 

『助けてっ、死にたくない!!』

 

「ぷっ!何ビビったフリしてんのよ。あなたの戦いを見てたけど、こんなの平気でしょ。それにあなたの切断した手足から分裂した奴らは檻に入れといたから、好きに死んでいいからね」

 

『いやだ!いやだいやだいやだ!』

 

「五月蝿いわねえ。殺し屋なら自分がひどい目にあう覚悟くらいしときなさいっての。サービスで無痛魔法かけてあげるから。全く、今日だけだからね」

 

『出して!ここから出して!!』

 

 

 

 ゆっくりと樽の蓋が閉じられる。

 きっと次開けられるのは自分が死んだ時だろう。

 

 大人しく刑務所にいたのなら、どれだけ良かったか──

 

 

 

 ばたん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴。咲夜はどう?」

 

「治療完了です!今は薬で眠っています」

 

「そう。なら起きた時に伝えてくれる?月夜に照らされながら血が見たい……、私のお願いを叶えてくれてありがとうって。とても興奮できたわ」

 

「いいですけど……」

 

「なに?何か言いたいの?」

 

「どうせお嬢様のことですから、賊が来ることも分かってたし、どんな能力かも知っていたんでしょう?」

 

「まあ、大体はね」

 

「なら今回の相手、咲夜さんとかなり相性が悪いのは分かっていたはずです。私なら分裂させずに鎮圧できたし、咲夜さんもこんな怪我を負わずに済んだ。わざわざ2人を戦わす必要があったとは思えません」

 

 

 レミリアは近くの椅子に腰掛けると、“やれやれこれだから美鈴は何も分かってないわねえ”と言わんばかりに笑う。少しその表情にイラっとくるが我慢した。

 

 

「咲夜には知っていて欲しかったの」

 

「何をです?」

 

「自分の実力を、よ」

 

「はあ」

 

「咲夜の戦い方はスマートかつ丁寧。でも威力のある攻撃が全くない。加えて今回の敵のように切る能力が無効化された場合、手も足も出なくなってしまう。それを知ってもらいたかったの。でも、もうあの子ならきっともう分かっている。ここからどこまで成長できるかが楽しみね」

 

「もし出来なかったら?」

 

「人間はこの程度か、と切り捨てるわ。私の従者に役立たずはいらない」

 

「・・・!」ゾク

 

 

 時折見せるこの顔にびびってしまう。

 我が主人は見た目は小さく、幼い時があるが、改めて最強種族なんだなと思ってしまう。

 

 

「もちろん美鈴。貴女もね」

 

「ひぃいい〜〜っ!すぐに門番やってきますぅ〜っ!!」

 

 

 やばいと思ったのか逃げ出す美鈴。

 そんな背中を見て、レミリアは少し微笑むのだった。

 

 

「なんてね♪」ウフフ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

 咲夜vs.桐一兵衛 桐一兵衛の勝利でございます。
 六文銭初の勝利ですな!!
 まぁ、最後はアレですが…。

 因みに朱の盆の資料は、事実を元に作られたわけではなく、彼が対象に対して知っているものと、自分から見て強いか弱いかくらいの情報しか書いてないので全然役に立ちません。

 樽の中の桐一兵衛の切断面は魔法で綺麗に傷口を塞いでもらったので、そこから新たに手足が生えることはありません。切断された四肢はすでに分裂済みで、地下牢に閉じ込められてます。樽の中身が死んだら交換する流れになっています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。