ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは!狸狐です。

 ダンダダンにハマりました。
 アニメの2話にお相撲さんエイリアンが襲来したけど、ジョジョみたいにやっつけてて、とても良かったです。

 アクさらは福島県の妖怪らしいですよ。


















vs.地獄道のムチ

 

 

 

 妖怪・ムチについて・・・

 

 

 

 

 

 

「ムチのことを知りたい?なぜ俺に…いや、当然か。俺は生き残りだもんな。だが少しだけだぞ」

 

「・・・アイツは元死刑囚」

 

「奴の罪は殺し過ぎたこと。動物も、人も、・・・妖怪も。奴を逮捕しようとした同僚は一瞬で殺されたよ」

 

「天狗空手大会で優勝した経験があったんだぞ。でも、空手なんかじゃあダメだ。奴に近づく前に殺されて、それを見て逃げた部下たちも殺された」

 

「俺?俺は……助けてもらったんだ。鬼太郎さんとその仲間たちに」

 

「死刑判決が出た時には心の底から安堵したよ。もうあんなのが外に出ることはないんだって。でも、なんでだよ。なんで。……刑務所を襲撃されるなんて予想できるわけないだろ」

 

「俺も天狗ポリスの1人だから精一杯囚人たちを取り押さえたけど、ムチは脱獄した。あんたも出会ったら死を覚悟するんだな。アイツは脱獄囚の中でかなり強いんだから」

 

「・・・俺はポリスを辞めたよ。もういいかい。あいつの事は思い出したくないんだ。……ああ、出てってくれ」

 

 

 ──羽のない天狗。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢…。刀とは()()()()()。物も、命でさえも。何でもだ。だが刀を使う者の度量によって刀は()()()()を失い、切れる物は狭まる。人斬りが人しか斬れないように」

 

「そして、今のお前もだ。幽々子様に仕える者がそれではいけない。今よりももっと実力を上げ、刀の本来の力を呼び覚ませ。庭師として、幽々子様の従者として、全てを断ち切れ」

 

 

「儂か?・・・儂は斬りすぎたよ」

 

 

「この境地。つまらない事限りなし。いつか叶うならば、壁に出会いたい」

 

 

「──ふははっ!いやはや、どうやら儂は従者に向いていないようだ。従者として尽くす喜びよりも、己が夢に焦がれるとはな。妖夢、今の話は幽々子様には内緒だぞう」

 

 

「ではあとは任せた。……達者でな」

 

 

 

 

 

 

 とある老人の言葉。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に!斬れぬものなど、あんまり無い!!いざ、尋常に勝負!!」

 

『泣けるねぇ…』

 

 

 ムチが右手を振るう。

 上から下への振り下ろし。突進していた妖夢はすぐに方向転換し、右へとズレる。

 

 パァンッ…!

 

 瞬間に、地面が割れる。

 あのまま直進していたなら割れていたのは妖夢の頭蓋骨だろう。そんなことを考えながら、妖夢は走り、剣の間合いに入る。楼観剣の刃先がきらりと光る。

 

 

「今だッ!剣技──」

 

『ヒュウ…!』

 

「!!」

 

 

 ムチが左手を真横、水平線の如く振るう。

 楼観剣と見えない何かが直撃し、キィイインと金属同士がぶつかる音が響き、妖夢はその勢いに負けて後方に吹き飛ばされる。縁側の座板に背中を打つ。

 

 

「う"っ…」

 

『・・・』

 

 

 痛い。

 痛いけど負けられない。目を開けると、目の前でムチの腕がぐちゃぐちゃと動き、先程よりも太くなっていた。そのままゆっくりと両腕を振り下ろす。初めは見えていた腕が、肩より下に下がった時、太い腕はまた見えなくなる。

 

 

飴鞭(あめむち)

 

「──ッ!」

 

 

 妖夢はとっさに刀で何かを防いだ。

 斬撃と衝撃が衝突すると再び金切り音が鳴り響き、瞬間的に鋭く空気を振動させる。防がれても直ぐにムチの攻撃が二度、三度、容赦なく襲いかかれば、妖夢がそれを受け止める。

 

 

(重ッ──!?)

 

『ふっ、その顔。分かるよ。重いんだろう?飴鞭を受けるとな、初め甘味のように優しく衝撃が全身に広がっていき、最後痛みが来るんだ。泣けるだろぉ〜〜。これが今からずっと続くんだからな』

 

 

 一瞬解説のために攻撃が止んだ。

 その瞬間に手のひらが赤く染まり、ジンジンと腕まで痛みが広がっていく。しかしその痛みを感じているのももう終わりだ。再びムチが腕を動かし始める。

 

 

飴鞭(あめむち)連打(レンダ)

 

「!?」

 

 

 両腕を持ち上げて、再度振り下ろす。

 これは先程と同じだ。

 ただ今までと違うのは、振り下ろされたあとにもう一度両腕を持ち上げるまでの動作がかなり素早いのだ。

 

 

「〜〜〜〜っっっ!!!!」

 

 

 豪雨のように降ってくる衝撃。

 ガチガチ、ギチュギチュと刀と鞭のぶつかる音が鳴り止まない。

 

 妖夢とムチの攻防戦は、一見拮抗しているかのように見えた。ムチが連打と言った後の数分間。ムチの攻撃は休む事なく連続して繰り返され、その度に鋭い金属音が響き続ける。息つく暇も与えないムチの連続攻撃を、妖夢は必死に防ぐ。

 

 

『凄いねえ。長刀で俺の攻撃を防ぎ続けるなんて神の御業だよ。誇っていい。……けどその御業はいつまで続くかなあ』

 

(……っ、この妖怪……!)

 

 

 強い。

 加えて、速い。

 まさかこれ程までとは予想外だ。震々(ぶるぶる)なんかとはレベルが違う。初めは腕を振るった時に衝撃波を発生させる能力を持っているのだと思っていたが、向き合って分かる。全然違う。しっかりとした質量が重くのしかかってくる。生半可な剣術は、この敵に決して届かないのは直ぐに分かった。

 

 

(攻めなきゃ……!!)

 

 

 革と金属の擦れる音が集中の邪魔をする。

 このまま様子見を続けるなんて、そんな悠長な事をしている場合ではない。攻めなければ、こっちがやられる。しかしその攻める時間を相手が与えてくれない。どうにかして手を止めさせなければならない。

 

 

(そうだ。一か八か…ッ!!)

 

『ふふふうぅ、ぬぅっ!なんだ!?』

 

 

 ムチの顔面に妖夢の半霊が覆い被さる。

 むにゃっとした柔らかさと、あまりの純白さにより、ムチの視界は一瞬だけ奪われる。すぐに払われるが、その10秒にも満たない間だけ攻撃が止まった。

 

 

『邪魔だっ!くそっ、泣けるねえ。良いところで邪魔が──』ハッ

 

「一気に、片を付ける!!」

 

『やるねぇ』ヒュウ

 

 

 妖夢は前のめりにも近い形で腰を低く落とし、走った。対するムチは直ぐに両手を横に振るう。水平の薙ぎ払いは妖夢を狙うが躱されて、空を切る。

 

 

「剣伎──」

 

 

 目で追うのさえも困難な程の超高速。目の前のガラ空きになったムチの胴体へ急接近した妖夢が剣技を振るう。

 

 

桜花閃々(おうかせんせん)!」

 

『!』

 

 

 すれ違いざまに渾身の斬撃をムチに浴びせる。

 修行により攻撃力とスピードを増して放たれた妖夢渾身の剣術の一つである。剣はムチの腹部に入る。そのままいつものように相手の背骨を断ち切って真っ二つに切断する。──はずだった。

 

 

「浅い…っ!!」

 

 

 今までたくさんの相手を切ってきたから理解る。

 切れていない。

 刃は確かに腹部へ当たった。だがそこから断ち切ることは出来なかったのが感覚でわかる。直ぐに振り返ると、案の定ムチは何事もなかったかのように佇んでいる。特に動揺する事もなく、至極冷静かつ涼しげに。寧ろ笑っていた。

 

 

『ひゅう〜〜』

 

「馬鹿な……。妖怪を切れないなんて…」

 

 

 自分の握る楼観剣を見る。

 刃こぼれなどはしていない。ならば原因は自分自身の実力不足か、相手が切られる寸前に何かをしたのかのどちらかだ。もし前者ならば素直に悔しいっ!!

 

 

『妖怪を切ることに特化してるんだねぇ。泣けるねえ。妖怪の俺には危なすぎる。でも残念だったね。君には切れないよ、俺の鞭は』

 

「!? なによそれ…」

 

 

 ギチ…ッ

 ギチギチ……ッ

 ムチの腹部に両腕が巻き付いていた。関節部分がないのか、しっかりと隙間なく、ぐるんぐるんと巻きついていた。その腕は普段よりも異常に長くなっており、鉛のように黒い色となっている。指は全て繋がり、本物の鞭のように鋭くなっている。

 

 

『今さっき言っただろう。これこそ俺の鞭』

 

「鞭・・・?」

 

 

 しゅるるる……。

 長い腕が短くなって、元の長さになる。妖夢へ手のひらを見せて、元に戻った指を動かして見せる。

 

 

『俺は両腕だけ自由に“鞭”できる体質なんだよ。硬い鞭、柔らかい鞭、長い鞭に短い鞭。変な形の鞭にもなる。だから人間たちは俺をムチと呼ぶのさ』

 

 

 説明を終えると両腕が再び伸びて、地面に垂れ下がる。先程の手は直ぐに鞭になる。

 

 

『この体に巻きつけた鞭は“ゴムの性質”を持つ。衝撃を吸収し、分散し、和らげる鞭を切断することは、どうやらできなかったようだねえ〜』

 

「・・・くっ」

 

『降参するかい?』

 

「甘く見るな!」カチャッ

 

 

 楼観剣を右手のみで持ち直し、空いた左手で残ったもう片方の剣“白楼剣”の柄を手に取る。魂魄妖夢の祖父『魂魄妖忌(ようき)』から受け継いできたこの剣術は、一刀流だけではない。楼観剣と白楼剣。この二刀流こそ、彼女の剣術の真骨頂だ。柔らかいものだって断ち切ってやる。

 

 

現世斬(げんせざん)”ッッ!!

 

教鞭(きょうべん)

 

 

 一際大きな金属音が、周囲に響き渡る。あまりにも強い衝撃が妖夢の腕を走り抜けて、全身の感覚を麻痺させる。握る拳に痺れが走り、擦れ合う二本の剣と敵の手刀がカチカチと音を立てている。ムチの腕は伸びず、短いままだが黒く変色している。

 

 

(う、受け止められた……!?)

 

 

 状況を妖夢が理解するよりも先に、拮抗していたムチが動きだす。片腕で刀を押さえつけていたが、もう片方の手を添えて両腕を使い、そのまま妖夢を押し返し始めた。力技で攻めに入った妖夢の剣術を受け止め、そのまま弾き返す。力技で押し返され、妖夢の小柄な身体は、簡単に吹っ飛ばされる。

 

 

「くっ……!!」

 

『力技が来ると思ったよ。だから鞭の性質を変えた。この技“教鞭”は、腕が全く伸びない代わりに超硬化される』

 

 

 その両手は例えるなら黒い槍。

 しかし長い鞭ではないので攻撃力がかなり落ちた。だが短いからこそ細かな動きが可能となり、圧倒的な防御力を兼ね備えるようになった。つまり防御とスピードを兼ね備えた盾と槍の性能を持っている技なのだ。

 

 

『泣けてくるよねぇ』

 

「だまれっ・・・!その伸びた鼻を切り落としてやる!!」

 

 

 

 キンッ、キンッ…!

 

 

 

「りゃああああ!!」

 

『ひゅう〜〜〜』

 

 

 諦めずに斬撃を浴びせ続ける。

 目にも止まらぬ連続攻撃をムチは防ぎ続ける。斬撃を跳ね返し、力を押し返し、意思や感情さえも弾き飛ばす。自分の刀が届かないもどかしさ、悔しさが背中を押してくれるが、それ以上に相手との実力差が壁となる。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

『終わりかい?』

 

(落ち着け。ぐちゃぐちゃな気持ちじゃ、刀は届かない…。とにかく落ち着かないと)

 

 

 深呼吸をして構え直す。

 敵は攻めてくる気はないらしい。余裕ぶっているのが良い証拠だ。ならばその余裕を利用させてもらう。

 

 

「すぅ…ふぅ……」

 

『?』

 

 

 集中──。

 切ることのみに集中しろ。

 今まで色んな相手を切ってきた。巨大な妖怪の手首を切断した、ゼリーみたいな妖怪もバラバラにした、触手も全て切り落とした、岩のような獣の首も刎ねた。

 

 

(お爺ちゃんが言っていた。刀本来の持つ力・・・。それを目覚めさせる時。できる。落ち着き、冷静になり、無心となれ・・・)

 

 

 ふぅ…。

 

 

(そう。私なら切れる──!)

 

『おや、降伏かなぁ?』

 

 

 妖夢は走り出した。

 壁を蹴ったり、途中で曲がったり、周囲を跳び回って、不規則な動きを続ける。そのままムチの死角へと走り込む。

 

 

『消えっ──』

 

 

瞬歩(しゅんぽ)

 妖夢が日常生活の中で編み出した歩行技。

 走ったり、歩いたり、緩急をつけた移動速度は、ある程度鍛えた人ならば視界に捉えられる。しかし今の妖夢は“見えない”のではなく“目で追えない”状態だ。この技は対象の死角に回り込み続ける事で、まるで姿を消したかのように思い込ませることができるのだ。

 

 

空観剣(くうかんけん)六根清浄斬(ろっこんせいじょうざん)ッッ!!」

 

 

 死角からの攻撃。

 妖夢にはしっかりと見える。身体のどこも巻いてガードしていない。ならば首を跳ねて確実に殺す。

 

 

 

 

 

──ギィイイイン……ッ!!

 

 

 

 

 その直後に響くのは、鋭い金属音。

 ムチが、ムチがその両手で妖夢の斬撃を弾いた音が無情にも響き渡る。冷静になったところで妖夢の実力は何も変わっていなかった。

 

 

「そ、んな──」

 

『泣けるねぇ〜』

 

 

──ドスッ

 

 

「い"っ・・・!?」

 

 

 動きが止まった妖夢の脇腹に手刀がめり込む。

 グリリィッと強い衝撃が走り、彼女は成す術なくも吹っ飛ばされてしまう。地面を転がった妖夢は、遅れて響いた鈍痛から激しくむせ返った。

 

 

「ぐっ、ぐはっ、げほっ、ごほっ…」

 

 

 身体が軋む。

 激しく息を切らす。

 響き渡る鈍痛が妖夢の身体の自由を奪う。

 

 

『泣けるねえ。視界から消えたところで無駄なんだよねぇ。呼吸、音、風の流れ。目に頼らなくても分かるんだよ』

 

 

 

 妖怪【ムチ】。

 彼は人型ではあるが、実際のところ、彼は【風の妖怪】だ。“魔風”という異名があるくらい。風と共に現れ、道行く人たちや動物を鞭で叩くのだ。

 

 だからこそ、風や空気の流れにかなり敏感だ。

 つまり死角なんてどこにもない。

 

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ」

 

 

 ヨロヨロと立ち上がる。

 呼吸を整えろ。

 祖父に教わった痛みを和らげる呼吸法を使い、なんとか体勢を整える。

 

 

『次はこっちの番だよ』

 

 

 一旦、元の人間のような手に変わる。

 そして手のひらを向けると指がぐんぐんと伸びていき、右手左手を合わせて、10本の鞭となる。

 

 

薔薇鞭(ばらむち)

 

「!」

 

 

 10本の鞭が襲ってくる。

 今度は、防御に集中にしろ。

 2本の刀で往なす、往なす往なす、往なす往なす往なす──。

 

 

 パァンッッッ!!

 

 

 

「ひぎぃっ!?」

 

 

 往なしきれずに何本かが背中に当たる。

 その痛みに悲鳴が飛び出た。

 そのまま転げ回りたい。しかし幽々子への忠義がそんな弱気を吹き飛ばしてくれる。

 

 

「こ、んのぉぉおおっ!!」

 

 

 再度往なし続ける。

 だが、全てはダメだった。脚、腕、背中、胸、首に鞭が直撃する。2本程度なら防ぎ切れる。だが疲労と傷のせいで10本は流石に捌ききれない。

 

 

「ぐっ!? きゃっ!? いっ!?……」

 

 

 どんどん、みみず腫れが出来ていく。

 元より技の元ネタであるバラ鞭とは殺すための攻撃ではなく、拷問用の道具だ。痛めつけることが目的の武器は、妖夢の身体に傷を作り続ける。服が血で滲んでいく。

 

 

「・・・っ、まだまだァッ!!」

 

『シュウッ!』

 

 

 10本の鞭が迫る。

 1本1本は不規則。それがリズムを崩させ、対処に遅れる。だがその10本の流れは同じ。それがこの攻撃の突破口。

 

 

(見えたっ!横薙ぎ払い一線!!)

 

 

 真横から来るなら避け方は二つ。

 一つ目はジャンプ。だが飛べるとはいえ咄嗟に飛んだなら遮蔽物などがない空中では格好の的になってしまう。

 ならば二つ目の避け方。それは体勢を低く、屈めること。そうすることで相手の攻撃を避けて、ガラ空きの胴体に刀を当てられる。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 頭の上で鞭が横切る。

 狙い通りだ。

 そう思って、頭を上げると、頭上に先ほど横切った鞭が迫ってきていた。

 

 

「!?」

 

『そう躱すと思ってたよ。だからこその軌道修正』

 

 

 妖夢の頭を過ぎた瞬間に腕をくいっと動かすことで鞭の流れを変える。妖夢のガードは間に合わず、鞭が頭に直撃する。

 

 

 

──スパパパパァンッッ!!!

 

 

 

「あ──」

 

 

 頭が揺れる。

 そのまま地面に叩きつけられた。

 痛みよりも意識がぐちゃぐちゃになっていることに気づいた。ダメだ。悔しいけど立てない。力が入らな──。幽々子さまがあんな顔を、悲しそうな顔をしている……!!

 

 

「くぅっ!」ヨロヨロ

 

『気合いで立ち上がるか。いや〜泣けるねえ〜。そんなボロボロな姿になっても主人のために立ち上がるなんて……』

 

「はぁ…、はぁ…」ゼエゼエ

 

 

 刀を持ち直す。

 涙を拭い、ゆっくりと構えた。

 これは虚勢だ。正直な話、全身に力が入らない。痛みもあるが不思議と力が抜けていく。

 

 

「ごほっ、ごほっ…」

 

『とどめだ』

 

 

 腕の変形。

 10本の鞭が元の形となり、そして二本の鞭となる。その腕、いや鞭の長さは約4メートル。ムチ自身が約2メートルサイズなので、身長の二倍のサイズである。

 

 

一本鞭(しんべん)

 

「ごぼっ…、え……なに、これ…」

 

『おやぁ?』

 

 

 口から血の塊が吹き出た。

 唾液や体液と混ざり、ネトネトになった粘性のある血の塊は地面へと落ちて、びしゃりと散る。

 

 

『おやぁ?おやおやおやおや・・・時間切れのようで。一本鞭を使うまでもなかったな』

 

「な、に・・・?」

 

『それは毒だ。お前の身体には今、()()()()()()()んだよ。泣けるよねえ〜』ニヤリ

 

「毒……!?」

 

『そう。俺の能力は腕を鞭にすることじゃあない。これは体質だからな。俺の持つ能力は──毒手(どくしゅ)

 

 

 

 【毒手】

 文字通り、毒を手から出すことができる。

 ムチに叩かれた動物や人間の死因は鞭で叩かれたことによるショック死や出血死ではない。全て毒によって死んでいる。

 

 ムチに叩かれた際、皮膚が裂ける。その時に手から出る毒が傷口から侵入して、体に巡っていく。

 

 

 

『お前はもう呼吸するのも辛いはずだ』

 

「……げぼぉっ、おええ…。く、くそぉ……!」

 

『お前の忠義はもう飽きたよ。折角だから一本鞭を味わって死にな。…──切断打(せだんだ)ッ!!』

 

 

 腕を振るった。

 今までの鞭は傷つけるための物。これこそは殺すためのものだ。長さに特化した鞭から放たれる衝撃は大根やビン・カンを粉々に砕く。もし人に当たったのなら皮膚は裂け、肉は千切れ、骨は砕け、身体は崩壊する。

 

 

「あ"ぁ……っ!!」

 

 

 防ぎ切れない。

 長刀で受け止めるが、力が入らない。直撃を避ける事はなんとかできたものの、そのまま妖夢は地面に叩きつけられる。瞬間に全身に空気の塊が飛んでくる。所謂、ソニックブームが全身を滅多打ちにする。

 

 毒と痛みで態勢を立て直すことさえも到底叶わず、妖夢は背中から地面に激突する事となる。・・・なんという衝撃。息ができなくなり、意識が飛んだ。

 

 

「──…」ピクピク

 

 

 

 ムチvs.魂魄妖夢

 

 ムチの勝利で決まった。

 妖夢の今の実力では、鞭を断ち切ることはできない。悔しさと怒りと共に闇の中に意識が沈んだ。

 

 

『・・・なぜ、まだ生きている?俺の毒は猛毒だ。それが確実に回っているはずだが』

 

 

 ムチは勝ったが、スッキリしない。

 目の前で倒れている妖夢がまだ生きているのだ。毒で全身がピクピクと動いてはいるのが証拠だ。

 

 

「それはまだ()()()()()だから、ですわ」

 

『なに?』

 

 

 試合を見ていた西行寺幽々子が遂に出向く。

 対峙するムチは謎の悪寒に襲われた。

 

 

「妖夢は半人半霊。あなたが勝利したのは人の部分。半身である霊体は、ほら」

 

 

 指差すところを見る。

 倒れる妖夢の周りに、先程顔面にくっついてきた人魂のようなものがくるくると心配そうに回っていた。

 

 

『あれは・・・!』

 

「もしどっちもやられていたら妖夢は確実に死ぬでしょうね」

 

『そうかよ…!』

 

 

 ブンッと鞭を振るう。

 会話中に放つ不意打ち。自分は殺し屋だ。卑怯なんて関係ない。容赦なく、強烈で正確な一撃が、幽々子の顔面へと放たれる。確実に殺すために放った一撃はパアンッと乾いた音と共に辺りに土煙が舞う。

 

 

『・・・なっ!?』

 

「うふふ」

 

 

 土煙が晴れると、無傷のターゲットの姿があった。

 確実に顔面を狙い、その顔を吹き飛ばしたはずなのに、怪我一つしていない。

 

 

『躱した!?』

 

「驚いている暇はないですわよ。早く私を殺さないと反撃しちゃいますわっ」

 

『・・・泣けるねぇ。たかが一撃避けただけでその得意顔。ぐちゃぐちゃにしたくなるよ』

 

 

 腕が再度変形する。

 今までと違い、黒や茶色ではなく、黄金に腕が輝く。そしてその長さは先ほどの形態『一本鞭』の5倍。20メートルもの長さの武器と変わる。鞭は長ければ長いほど扱いが難しくなる一方で、強さも増していく。

 

 

『俺の最強にして最高の必殺技……打神鞭(だしんべん)!!』

 

「さーん…」

 

『──ッ!!』カチン

 

 

 幽々子がカウントを始めた。

 ムチは必殺技を見せたのに、そんな反応されて青筋を立てる。ムチはその伸ばした鞭をコマを回すときのように自分の体に巻き付け、つま先立ちをするとグルグルと回り始めた。履いていた靴の先端がその摩擦で溶けていく。

 

 

『打神鞭は回転を加えながら放つことでッ、山さえ切断するッッ!!』グルグルグルグルッッッ

 

「にー…」

 

『くたばれぇぇぇえッッッ!!』

 

「いーち…」

 

 

 体に巻き付けていた鞭を解き放つ──!

 

 

封神演義(ほうしんえんぎ)ィィッ!!』

 

 

 ムチが技を放つ。

 幽々子にその一撃は命中。加えて、その衝撃波により幽々子の住む屋敷である白玉楼が粉砕した。灯篭も全て砕け散る。必殺技とは、必ず殺す技だ。そこにある物全てが砕けた。

 

 

『くっ、くくくっ、勝った・・・!』

 

 

 確実に殺した。

 自分の両腕が直撃した感覚があった。仕事をやり切ったことから満たされる充実感と、自分の強さに震える。

 

 

『依頼達成・・・』

 

 

 段々と砂埃が晴れる。

 その時に見えた不可解な物。全てが崩れていく中で何か一つだけが立っている。

 

 

『まさか・・・』

 

「ぜーろ」

 

 

 気づけば、自分は蝶に囲まれていた。

 蝶が舞い、女が踊る。

 悔しかな、傷ひとつない。

 

 

「……死出の旅路に赴く前に…、花束抱いて…、そっと口付けしましょうか。あなたの来世が良くならんこと。祈り続けて。憐れむなかれ、これでさようなら……」

 

 

 ぴしゃり。

 扇子が閉じる。

 

 

“死蝶「華胥(かしょ)の永眠」”

 

 

 

 どくんっどくんっ、

 どくん……っ。

 

 

 

『!!……あ"っ、があっ!?』

 

 

 

 呼吸ができない。

 全身が冷たくなっていく。

 暴力や病気などではなく、ただただ命が無くなる。いきなり寿命が尽きる。抵抗もクソもない。こんなの、初めから──

 

 

『そ、ぅいうっ……、ごど、か、よ"っ…。ぬら、りぃ……』

 

 

 死にゆくムチの脳裏に、自分達に依頼してきたぬらりひょんの顔が浮かんでくる。こんな相手と戦わせるなんて、勝ち目のない相手と戦わせるなんて。

 自分たちは()()()だ。笑うしかない。幻想郷の、奴らの実力を調べるためのただの道具にすぎない。ああ、ここまで来たら後の祭りだ。

 

 

『泣け、る、ねぇ……、がふっ…』

 

 

 ばたりと倒れるムチ。

 白目を剥き、泡を吹き出し、もう動くことはない。散々命を奪ってきたものの最後がなんと情けないのだろうか。幽々子はそんな死体の前で一瞬申し訳なさそうな顔して、すぐに愉快そうに笑う。

 

 

「ごめんなさいね。一つ黙ってたことがあるの。私ね、すでに死んでいるの」

 

 

 西行寺幽々子

 種族は【亡霊】。つまり、既に死んでいる。彼女に物理攻撃は効かない。元よりこの戦いは誰が挑んでも負け戦であるのだ。一応ダメージを与える手段は弾幕や気などではある。だが倒せても殺すことはできない。初めから死んでいる相手は封印か成仏させないかぎり倒しようがないのである。

 

 

「だから初めからあなたに勝ち目なんか無かった。だから……、ごめんなさい」

 

 

 さらに説明しよう。

 彼女の能力は『死を操る程度の能力』。

 相手に命があるならば必ず殺してしまう最強の能力。彼女の能力に制約なし。死を招く蝶に触れた時点で、命は既にあの世へと行く。生前は自身の能力に悩みはあったが、死んでからは特にない。

 

 

 ぐぅるるるる……っ

 

 

「・・・能力使ったら、お腹減っちゃったあ。妖夢ぅ〜……は毒で倒れてるんだった。…よいしょっと」

 

 

 お腹が鳴ると、いつもののほほんとした雰囲気に戻る。ご飯を作ってもらおうと思ったが、大事な妖夢は倒れているので抱き上げる。

 

 

「とりあえず永遠亭かしら〜。妖夢、待っててねえ〜」フワフワ

 

 

 幽々子に抱かれ、運ばれる妖夢。

 運ばれながら、ぼそりと一言。

 

 

「ごめんなさい……、幽々子さま…」

 

「妖夢・・・」

 

 

 

 

 幽々子には、この試合の決着は予想がついていた。

 妖夢は強い子ではある。──が、まだまだ実力不足である。初代従者である彼女の祖父の足元に全く及んでいない。幻想郷での妖夢の実力を三角形で表すと真ん中くらい。

 

 しかし、自分は剣の才能も戦闘スキルもないので、修行をつけることはできない。自分では妖夢を成長させることはできない。

 

 

 だから敢えて、格上の相手と戦わせた。

 自分よりも強い相手と戦うことで、妖夢に屈辱感と劣等感を与えたかった。それを乗り越えて、今後何かを得られるように。

 

 

 

 

「ここからきっと辛いことが待ち受ける。私がいなくなっても立ち向かえるように。でも心配はしてないの。だって貴女なら簡単に乗り越えてもっと、もーっと強くなれるから…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






「おっ、おお〜〜!地底に映り出された7つの画面!始まったと同時に4人がやられたよ!!」

「妬ましい。あーやって皆んなからチヤホヤされるんだわ。私はチヤホヤなんてされたことないのに」ブツブツ

「これはもう、ぬらりひょんに付く理由はねえな。安心して霊夢ちゃんたちのところにいーよお!」


 バチッ…
 バヂィィッ、バチッ…


「ん?・・・ゲゲゲェェッ!?」

「なによ?うひゃあっ!?」




「「ご主人を刺したのは、あのジジイだな!!殺してやる!」」
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