ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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あけましておめでとうございます!!

 更新遅れて申し訳ありません。
 実は正月明けてから目に不調があり、眼科に行き、治療に専念しておりました。とても痛い、へるぷみー

 今年もゆっくりやりますので、よろしくお願いします。



















「病院食ってなんでこう味が薄いのかしら」

「だよなァ。おーい、優曇華、醤油あるー?」

「患者は黙って治療に専念しててくださいっ。行きましょ、苦笑」

「ウ、ウン、オダイジニ・・・」


 去ってしまう2人。
 魔理沙は聞こえるように大きな舌打ちをした。


「看護師ならもっと優しくしろよなァ」

「そう文句言わないの、魔理沙」

「あ?えっ!?…紫!!」


 文句を垂れる魔理沙を諌めたのは、八雲紫であった。まさか、なんと今までカーテンで区切られていたお隣さんが紫であり、そんな隣には包帯ぐるぐる巻きの藍が泣いていた。流石の霊夢を口をあんぐりと開けて驚いている。


「あんたが何してんのよ、こんな所で」

「いやぁ…、実はね」




















八雲家vs.ぬらりひょん一味

 

『げひっ、げひひっ、愉快愉快』

 

 

 人間達の死体の山の上で返り血を浴びた小柄な少女。自分の身長よりも大きなスプーンを持ち、子ヤギのような角を生やしている彼女は下衆な笑い声を、今で言う()()()()まで届けていた。

 

 

『人間の欲とは実に素晴らしい。私を殺したい、平和にしたい、愛する者と一緒にいたい……。甘美よなぁ。あ〜…じゅるる……んっ、べぇ〜…』

 

 

 スプーンで死体を抉り、血肉を頬張る。

 

 

『でも足らんなぁ。私の腹は満たされないなぁ。ん〜〜〜……近隣の村は全部壊したし、少し遠出して城を二つ三つ滅ぼそうかなァ』

 

「随分と欲深いな、〇〇」

 

『おや?おやおや…、お前は……九尾の狐!』

 

 

 死体の山からジャンプ。

 9つの尾を持つ狐の元に駆け寄る。身長差はまるで親子のようである。

 

 

百年(まえ)に見たときよりも美しくなって。どうした、その着物は。美しいなぁ。それになんとも大きく育っておるなぁ。実に美味そうだ。その二つの果実……』

 

「黙れ、下郎」

 

『げひひひひっ、そう殺気立てるなよ。抱き合い、求め合った仲じゃあないか。互いの全てを知り尽くしているんだぞ。そう、例えば、お前は……んべぇ、わらひのながいヒタで……んぐっ…ぐちゅぐちゅにされるのが好きだったよなァ』

 

「ふん、忘れたよ」

 

『酷い奴だ。……それで何のようだ?狐』

 

「ふん。お前の噂を聞いてな。このままでは我の国を奪われそうと思って釘を刺しに来たのだよ」

 

『げひひ、()()()()だとォ?』

 

「そうだ。我こそがこの地を支配する。今までは見逃してきたが、流石に殺し過ぎだ。我の楽しみを奪うな。疾く失せよ」

 

 

 射殺す視線を浴びせられるが、子ヤギは笑顔を崩さない。

 

 

『おいおい、いつからこの国はお前のものになったんだ?この国は皆んなのものだろう?私らは同じ畜生ではないか。分け合えば良いだけではないか』

 

「分け合う?そんなつもりないくせによく言う」

 

『心外だナァ』

 

「お前の言葉は空だ。信じる者などおらん。・・・畜生というのを訂正しろ。お前と同じなわけないだろうが」

 

『同じだよ。我々は薄汚い畜生だ。欲望のままに生きるのが我々だ。誰にも指図を受けず、やりたい事だけをやる。違うか?』

 

「違う。畜生はお前だけだ。……だが、確かに“やりたい事だけをやる”という考えは同意見だ」

 

『九尾、お前のやりたい事は?』

 

「決まっておるわ」

 

『げひひひぃっ!!』ビクビクビク

 

「目障りな畜生だ。我、自ら殺してやる。光栄に思え」

 

 

 その言葉に涎をぶちまける子ヤギ。

 体をくねくね動かして、下品な声をあげ続ける。

 

 

『殺意もまた欲。こんな強烈な欲を浴びせてくるなんて久しぶりに濡れてきたよ、九尾ぃ〜。でもごめんな。私は黙って死ぬわけにはいかねえんだよ』

 

 

 彼女の武器であるスプーンを向ける。

 

 

『喜悦も利便も呪詛も憎悪も欲望も全て手に入れないと気が済まない。お前には一つとてあげないよ。・・・(あい)し合おうか』

 

 

 

 

 

 ヤギと狐の戦いは1週間続いた。

 この地を懸けて、2人は殺し合った。突き刺さったスプーンで狐の臓物を抉ったと思えば、狐の爪で片腕片足をちぎられる。

 

 ここはまさに地獄だ。

 誰も彼もがそう思うだろう。こんなの理性のあるものがやる戦いではない。獣同士の殺し合いだ。

 

 

『うひゃひゃひゃ──』

 

 

 だが・・・・。

 その喧騒も憎悪も、終わってしまえば静けさだけが残り、地面に走る亀裂、そして散る血の飛沫と臓物などががその戦いの凄まじさを物語る。遂に2人の戦いに決着がついた。

 

 

「──はあっ!!」

 

『ガッ、……ガハッ、げぼっ、あぅぅぅ……ッ』

 

「ここまでだな」

 

『げ、ひひ…っ、げひ……っ、そうみたいだ』

 

 

 狐がヤギの首を刎ねた。

 ごろん、と転がり、そして頭部が一言。

 

 

『…また、会おう』

 

「くたばれ」

 

 

 ぐしゃり。

 頭を踏み潰す。柘榴のように中身が飛び出し、完全に死んだ。

 

 

 

 その後、九尾の狐は中国を支配した。

 中国での支配に飽きると、日本を支配しようと乗り込む。

 

 そこで九尾の狐の人生が変わる出会いがあったのだが、それはまた別のお話・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(四凶、破壊の檮杌…。何よりも争いを好み、人間同士の戦争に乱入し、どちらにも加担する事なく、両方とも滅ぼす。面識はあるが()()()()()()()()()()

 

 

(何をしてくるかは分からないがこれだけは知っている……)

 

 

 

 

(四凶は殺してはいけない…!!殺さずに一気に拘束、霊夢に協力してもらい封印する)

 

 

 

 

 

『らーん♡』

 

 

 土が盛り上がる。

 そこから大地を突き破り、2メートルほどの鉄の武器が現れた。先端は球体で、その球体の周りには鋭い棘が生えていた。これは『星球式鎚矛(モーニングスター)』である。ドイツ製の棍棒であり、主に拷問や頭を潰すために使われる武器だ。

 

 

『私を感じさせてね♪』

 

(殺さない、か。式神が使えない状況でこれは骨が折れそうだ…っ)

 

 

 自分の身長と同じサイズの武器を左手で軽々と持ち上げて構える。能力を封じられている藍は八極拳のような構えを取る。檮杌が走り出した時点で戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

『うふふ──』

「ふんっ!!」

 

 

 大きく重い一撃が迫る。

 檮杌が大振りに振るうとぶぅんと重い音を立てた。しかし余程重いのか、隙だらけである。最初の流れで動きを予測し、全体に付いているモーニングスターの棘が藍の肌に突き刺さる前に藍の掌底がその顎を打ち砕き、そのまま拳を脳天まで突き上げた。

 

 

『うっふふっ』

 

「はぁっ!!」

 

 

 

 顎を打たれ、上を向いた檮杌。

 かなり重い武器を握っていたので宙を舞う事はなかった。だが軽くジャンプした程度、地面から数センチくらい足が離れた。その僅か1〜2秒程度の地面から離れた瞬間を見逃さない。

 

 

──メリリリィィィ……ッッッ!!!

 

 

 それは音速の蹴りである。

 常人には見えないほどのスピードで蹴りを腹にぶち込んだ。靴の上からでも分かるつま先に広がる肉の柔らかさと内臓の温かさ。それを突き破るくらいに力を込めて蹴りを放つ。

 

 

 

『んふっ』

 

 

 しかし、武器は手放さない。

 そのため背後に少し仰反る程度で、遠くまで吹き飛ばされる事はなかった。檮杌は仰け反った時に脚を思い切り曲げた。脚、いや(もも)が、まるで破裂する寸前の風船のように膨れ上がった。血液が腿に集中し、カンフーシューズが地面を踏みしめ、前へ跳躍した。

 

 

「!!」

 

『んふふ♡』

 

 

 ダメージを与えたはずなのに檮杌は怯まない。再度、突進を繰り出したのだ。蹴りを繰り出したので今度は藍に隙が生まれたこの時を狙っていたかのようだ。

 

 

「──ッ!!」

 

 

 体を丸めて衝撃に備える。

 その瞬間に、来た。

 

 

「──ぐぁっ!?」

 

 

 重い鉄の塊が右半身に直撃する。恐ろしい腕力から放たれる衝撃が広がり、腕と足の骨にひびが走る。……と同時に棘が突き刺さる。藍はそのままホームラン。吹き飛ばされて、マヨヒガの結界にぶつかり、落ちる。

 

 

「がっ、はっ……」

 

 

 これこそがモーニングスターの恐ろしい所。

 鉄の棍棒なのでぶつけられるだけでも肉や骨は叩きつけられ、砕け、折れて、全身にダメージが入るというのに、それに棘が付いているのだ。皮膚を裂き、刺すので肉が露出し、急所が増えてしまう。

 

 

「貴様……」ヨロ

 

『もっと殴ってぇん♡』

 

 

 モーニングスターをぶんぶんと振り回して笑う。

 冷静に見れば、檮杌も口と腹部から出血しているようだ。藍の攻撃は一応効いているらしい。

 

 

「ダメージが無い?」

 

『足りない足りない足りないわぁぁぁ』

 

「くそ…。殺さずには制圧はできないっ!」

 

 

 走る檮杌。

 藍はグゥッと顔をしかめて、悲痛な声で呟いた。

 

 

「紫様…、申し訳ございません。私は……、藍は…、少しだけあの頃に戻らせていただきます…っ」

 

 

 藍の周りが歪み始めた。

 黄金の毛並みは白くなり、9つの尾から柔らかさが消え、先端が鋭利なものとなる。それぞれが別の生き物のように動き、手足の爪が伸び、牙が尖っていく。

 

 

『もっと私を殴って、蹴って、吊るして、折って、刺して、犯して、燃やして、嬲ってぇぇぇ──』

 

 

 動かない。

 潰す絶好の機会。大きな棍棒が藍の頭上へと迫る。頭に直撃する刹那、藍は頭を上げ笑った。

 

 

『!』

 

 

 ぎぃいいいいいいん……と固いもの同士がぶつかる音があたり一面に響き渡った。檮杌は目を見開く。九つの尾が盾のように本気の一撃を防いだのだ。バランスを崩し、流石によろめく。その瞬間に藍の左足が前に出た。

 

 

 ぶしゅ……っ

 

 

 一歩、左足で踏み込むと同時に撃ち抜かれる貫き手。その槍の如き五指が檮杌の左腕に直撃した。藍の指は完全に貫いている。これでは終わらない。藍の紅眼が光ったと思ったら、すぐに追撃がきた。

 

 

「ッッシィィッッ!!!」

 

 

 牙を噛み締め、藍が手刀を打ち下ろす。

 空気を引き裂いて打たれる手刀が左肩に落とされた。攻撃され続けた檮杌は決して怯まない。藍の顔を見て、裂けるくらいの笑みを浮かべると同時に、すぐに走る。

 

 

『あら?』

 

 

 反撃しようとモーニングスターを構えようとした時に違和感を感じる。地面を見ると自身の左肩から下が転がっていたのが見えた。あの手刀で斬り落とされたのだ。まるで巨大な斧で切断されたかのように。気づくと同時に傷口から噴水のように血液がブシャアアアっと噴出した。

 

 

「いつ見ても血は美しい…」

 

『あ、ああ……』ヨロ

 

「早く来ないと()から行くぞ?」

 

 

 

 八雲藍とは【九尾の狐】

 アジアを滅ぼし続けた九尾は、中国では神として崇められている。しかし善神ではない。本来、九尾とは破壊、苦しみ、悲しみ、絶望、死、を何よりも愛する悪神である。

 

 日本で人間たちに倒され、八雲紫と出会い、その出会いにより九尾は変わった。そのために()()()()()()()()()。それを今、解放する。本来の残虐性を取り戻し、檮杌の血のシャワーを浴びて、恍惚な表情を浮かべる。

 

 この状態の藍を人呼んで『白面モード』。

 式神が使えなくなる代わりに、理性を捨て残虐性を向上させる。加えて、肉体全ての能力も上昇する藍の奥の手である。

 

 

 

「返事がない。本当にいいんだな?」

 

 

 嗚呼、この女の臓物をぶち撒けたい…。

 目玉を抉りたい……。

 殺したい。

 

 理性が消える、思考が歪む──

 

 

「では行くぞ」

 

 

 ゆらり、と幽鬼のように動いた。

 そして震える檮杌に一気に近づくと、右から左足にかけて斜めに爪を振り下ろす。衣類を引き裂き、皮膚、血管、神経、肉さえも引き裂き、血が雨のように降る。檮杌は以前立ったままだ。

 

 

「うっふふふふふ!!」

 

 

 八雲藍はいない。

 そこにいるのは1匹の獣だ。

 暴力に対する躊躇というブレーキがない。執拗に顔を殴り、尾で脇腹を抉り、爪で急所を一気に突く。だが、それでも檮杌は倒れない。なのでサンドバッグのように叩かれ続ける。

 

 

「さあて……」

 

 

 

 がしっ……

 

 

 

「ん?」

 

 

 拳が止められた。

 檮杌が藍の拳を片手で優しく包んでいる。ぴちょん、と藍の頭の上に液体が垂れてきた。上を見る。檮杌の身長は2メートル超えなので、檮杌よりも小さな藍が見上げると、そこには法悦し、気持ち良さそうに涎を垂らす表情があった。

 

 

「な──」

 

『……ああぁん♡ぃぐぅぅうっ♡』ビクビクビク

 

 

 アザだらけなのに、目玉は片方潰れているのに、血は止まらないのに、檮杌は喜んでいたのだ。藍が与えてくれる暴力に。

 

 

「ひぃっ!」

 

 

 その顔の気持ちが悪さに血の気が引く。

 白面藍はいじめて人を苦しめることが大好きであるが、いじめられて喜ぶ奴は大嫌い。気味が悪い、気持ちが悪い、不愉快、吐き気を催す……。途端に残虐性は心の中に逃げていき、藍の毛の色は金色に戻ってしまった。

 

 

「こ、の…っ!!」

 

 

 

 一気に距離を取ろうとする。

 

 ぎゅっ……。

 

 しかし離れない。拳を包まれており、全く動かないのだ。まるで拳を生のセメントに突っ込んで放置してしまったかのように。ガチガチに動かないのである。しかも段々とその力が増していっている。痛みが強くなってくる。檮杌は藍に顔を近づける。

 

 

 

『らめぇぇ…っ、はなれちゃ、らめなのぉぉぉぉ……っ!もっとぉ、もっとぉぉぉ……』

 

「化け物が!!」

 

『あへぇ、えへへへへ……、ふんっ!!』

 

 

 

 ぐしゃっ……。

 檮杌が藍の顔面に頭突きをした。鼻先から一気に潰れる。鼻が折れ、涙が吹き出し、前歯がポロポロと落ちていく。

 

 

「がっふ…!?」

 

『何やってんのよぉぉぉ…、冷めちゃうでしょ。私は罵れ、なんて言ってないの。さっきみたいに私を虐めて欲しいのよオ。感じないのよ!早く私を感じさせて!!』

 

 

 怒鳴りつけてから、2度目の頭突き。

 鼻元がベッコリと凹み、藍の意識は飛びかける。今にも白目を剥いてしまいそうなのが良い証拠だ。

 

 

「あ、う……」

 

『ダメよ、ダメ。絶対に眠らせないっ。感じさせてくれるまで止めないからっ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の戦いを見ていた蛇骨婆はケタケタと笑う。

 

 

 

『しゃーっしゃっしゃっしゃっ!八雲藍、お前さん、檮杌という妖怪を知らんなァ?相手を知らんくせにボコボコと殴りおってぇ。しゃしゃしゃしゃ!!』

 

 

 

 

 檮杌(とうこつ)

 

 中国神話に出る妖怪の名である。

 伝説によると、猪のように猪突猛進であり、犬の牙を持つ獣とされている。常に戦場に現れ、暴れ狂う妖怪だという。

 

 

 それこそが彼女である。

 

 凶悪頑迷な性格である。人間たち同士の戦争に混ざるのが大好きで、常に戦場を撹乱し、めちゃくちゃにする。最後は両方とも潰し回り、新たな戦場を求めて荒野を進むのである。

 

 

 

 そんな檮杌の能力は──『難訓(なんくん)

 中国の皇帝から善行、道徳、理性、感情について教えられた際に理解できなかった(聞く気もないと思うが)のが能力の由来となっている。

 

 その力は・・・

 

・戦闘時にのみ自動的に発動する能力である。

 ()()()()【教えられる、与えられる、施される、齎される】などのことがあった時、それに対して全く価値が分からず、全く理解せず、全く感じさせない能力である。

 

 つまり戦闘時の檮杌はいくらダメージを受けても痛みを感じず、バフをかけられても強化されず、呪われても変わらない身体となっている。

 

 

 

 

 相手からの攻撃によるダメージは感じないが、痛みを和らげるために檮杌自身の脳内物質は出続けているため、攻撃されるとダメージではなく快感となってしまう。そして檮杌はその快感が何よりも好きなので、敢えて攻撃を受けにいくのだ。

 

 

 

『まさに戦闘特化型!どんな相手であろうと、どんな場所であろうと、どんな能力であろうと、檮杌は何も感じないッ!!死なない限り永遠と動き続けるんじゃ!!しゃーっ!しゃっしゃっしゃっ!!』

 

 

 ひとしきり笑ってから、小さなため息ひとつ。

 

 

『・・・まぁ、戦闘時は回復もできんくなるので全くもって役に立たん能力ではあるがな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「藍!まずい、早く助けに行かないと…」

 

『あちょー』

 

「くっ、この、鬱陶しいっ!!」

 

 

 宮古芳香の足が跳ねる。その瞬間、カンフーシューズが紫に迫る。スパンと直上への伸び上がるような脚が、紫の右胸部をかすめてその身を引かせた。

 

 こちらもこちらで戦い真っ只中である。

 宮古芳香(キョンシー)vs.八雲紫の戦い。普段通り能力がある状態ならば一瞬でねじ伏せられる相手であるが、能力を封じられ、相手は死体なので不規則で予測不能な攻撃ばかりしてくるので珍しく苦戦を強いられていた。

 

 

『よく避けたな。褒めてやるぞー。……ってあれ、何褒めるんだっけ?あれれれれ?そういえばなんで戦ってんだっけ?えーとえーと……』

 

「大丈夫なの、この子」

 

『おもいーーだせないーーぞーーー!!うがーーー!』

 

 

 脳みそが腐っているので正常に起動できない。霍青娥やぬらりひょんから何を命じられていたのかも思い出せない。目的をすぐに忘れてしまい、途中途中で思い出そうと固まってしまう。このまま動かないのではと思うかもしれないが、彼女はキョンシーという妖怪である。つまり頭は空っぽでも相手を襲い、喰らう本能はしっかりと残っている。

 

 

『あたま使ったら腹減ったァァーーー!!』

 

「!」

 

 

 飛びかかり、紫に拳を叩きつける。

 しかし工夫もない真っ直ぐな攻撃だ。するりと避けた。芳香はそのまま地面に拳をぶつけた。途端に地面が泥のように沈み込み、岩盤が割れて亀裂が走る。

 

 

「なんて力。あの時より確実に強くなっている…!!」

 

 

 霊夢と戦った時から数十回も改造手術を受けている。今の芳香は鬼10人分くらいのパワーだろう。地面に埋まった手を抜いて、すぐに再度飛び掛かる。

 

 

『食べてやるぞーーー!!』

 

「そこっ!!」

 

 

 ほぼ垂直に真下から跳ねる蹴り。

 紫の脚が芳香の顎を突き上げる。軸足と蹴り足が、見事なまでに縦一直線に並ぶ。がきいんっ、と上顎と下顎がぶつかる音がして芳香の体が浮く。

 

 

『あ"ごっ……!!』

 

「潰れろ」

 

『けぱっ!?』

 

 

 宙を舞う芳香に近づく。

 そのまま芳香の顔面に紫の手が覆い被さり、地面に叩きつけられる。立っていたはずだが、そこからしゃがみこむような姿勢に流れた紫が、全体重、全腕力を載せて芳香の頭部を地面へと叩きつける。

 

 

『〜〜〜っ!?!?』ジタバタ

 

 

 抵抗する芳香。

 バシバシと紫を殴るが、紫は物ともしない。そのままさらに力を込めて、みしり…みしり……と骨の軋む音が体内にこだまする。抵抗しても意味がないとわかったのか急に動きが止まる。

 

 

「・・・?」

 

 

 びちゃあぁぁぁ……。

 

 

「!」

 

 

 指の間から口角を釣り上げ、頬を緩ませ、にやあ、とニタニタ粘っこく笑う芳香が見えた。そしてドロドロとした唾液が隙間から溢れ出してくる。

 

 

『いいにおひ〜〜♪』じゅるり

 

「まさか!?」

 

 

 手を離さなければ──。

 しかし、芳香はガシッと両手で紫の手首を抑えていた。ぎゃうううっと力を込め、全く離れようとしない。ならばこのまま顔面を潰してやろうと芳香の掴んでいる手のひら全てに力を込めた。

 

 

『いひ、ぎぎ……、いひひ…』

 

「こ、んのぉぉ……っ!!」

 

 

 ずるんっ

 唾液のせいで指が滑る。顔面から指が離れてしまった。

 

 

『いただきま〜す』

 

 

 

 バクンッッッ……!!

 

 離れた瞬間に口の中に手を突っ込まれる。そのまま歯でぶぢんっと手首から先を持ってかれてしまった。紫の身体は特別製だ。簡単に食いちぎることはできない。しかし、芳香の能力が組み合わさった噛力により、不可能を可能としてしまう。

 

 

 

「がぁっ!?……やられたっ」

 

『もむもむもむ…ごくんっ…。ぷはぁ、美味い!……あっ、手に血がついてる。勿体無い勿体無い…ちぱちぱ』

 

 

 すぐに脇の下に力を込めて、無理やりに血を止める。

 手首を持っていかれても紫は焦らず、応急処置をしながら、冷静に分析した。

 

 

(結界や私の体を食べることができるのを見ると、このキョンシー……。死体のくせに能力持ちか)

 

 

 スッと蛇骨婆の方を見る。

 檮杌と藍、紫と芳香の戦いを見ながらも儀式を続け、祈祷しているようだ。能力を封じられ、こちら側は予想外にも苦戦している。以前と同じと侮ったのが失敗だった。敵は確実に強くなっていた。体術だけでどこまでやれる!?

 

 

(キョンシーよりも先に蛇骨婆の方を倒す──)

 

 

 作戦変更。

 真に倒すべきはあのババアだ。倒すためにも芳香を止めなければならない。

 

 

『う〜〜。もっと食わせろぉぉぉ〜〜っ!!』

 

 

 血を舐め終えると再び芳香は向かってくる。完全に味を占めたようで、涎が止まらない。もっと紫を食べたいと欲望のまま追いかけてくる。

 

 

『おりゃりゃ〜』

 

 

 ぶんぶん、と大振りな攻撃。

 それを避けて、距離を取る。しかし芳香は流さない。芳香の爪が太く、じっくりと伸びる。熊や獅子といった肉食獣のような爪になった。

 

 

毒爪(ゾンビクロー)っ!』

 

「こざかしい」

 

 

 右後方に腕を振りかぶり、拳を固めた。

 芳香が自身にぶつかる寸前に前方へ拳を飛ばす。風圧で爪が折れ、メリメリィッと顔面に直撃、陥没する。そのまま芳香は背後に吹き飛ばされる。

 

 

「片手を奪った程度で調子づくな」

 

『ぎゃっ!?か、かおぉ…、つぶれらりるれ』クラクラ

 

 

 死体故に倒せてはいないが、動けてもいない。

 すぐに蛇骨婆の方へと走り出す。

 

 

『しゃしゃっ!?こっちにくるぅっ!』

 

 

 危機が迫る蛇骨。

 しかし逃げ出せない。ここから動けば、呪いの力が途切れてしまう。途端に能力を取り戻されれば、勝機を逃してしまうからだ。だからやばいと思いながらも呪いの儀式を続けなければならない。

 

 

『わわわ儂を守れぇい!赤蛇、青蛇!!』

 

 

 蛇骨婆の体に巻き付いていた赤と青の蛇が迫る紫に飛び掛かる。赤蛇の口からは炎、青蛇の口からは氷塊が発射された。

 

 

「ふっ!」

 

 

 氷塊を、まるで子どもがドッジボールでキャッチするときのように、受け止めるとそれで炎を塞ぐ。そしてその流れのまま、両方の蛇を蹴り飛ばした。紫の蹴りにより完全ノックアウト。そのまま端の方で伸びてしまう。

 

 

『じゃじゃじゃあっ!?』

 

「これで終わりだ!!」

 

『こ、こうなればぁぁぁ……ちんちなちなちなちなぱっぱっ!!』

 

 

 蛇骨婆は高速詠唱しながら、胸元から一つの壺を取り出した。大して大きくもない蛇の描かれた古い壺だ。口が空いている壺を、サッと紫に向けた。

 

 

『奥の手ェーーッ!【蛇太鼓(へびだいこ)】ぉぉぉっ!!』

 

「!?」

 

 

 壺の中から無数の蛇が飛び出した。

 壺に収まるはずもないくらいの蛇が津波のように噴射された。流石の紫も予想外。その蛇の津波に流されてしまう。そのまま芳香がいる方へと飛ばされると、無数の蛇は泡のように消え去っていく。

 

 

「くっそ…!」

 

『今じゃあ!芳香!!』

『りょーかいーっ』

 

 

 その掛け声と同時に芳香は紫にのしかかる。

 すぐに片腕で芳香の首を掴み、握りしめるが、対する芳香は一切怯むことはない。そのまま反対に紫の首をぎゅううぅっと締める。死体に絞技はあまり効果はない。芳香は笑みを浮かべながら、その首に爪を立てる。

 

 

毒爪(ぞんびくろー)…!』

 

「ぐぅっ、あぐっ……!!」

 

 

 首に爪が刺さり、紫色の液体、つまり毒が首筋を伝う。更にはそのまま締め続けられるので酸素が得ることができない。

 

 

『ぎっ、いひ、ひひひひ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 勝った─。

 

 勝ったぞ、ぬらりひょん──。

 

 能力を封じられれば奴らは体術しか使えない。そんな脳筋には痛みを感じない奴らをぶつける。・・・つまり、もう、これは!!

 

 

『儂の勝利じゃあああ〜〜〜っ!!』

 

「──まだです!」

 

「「!!」」

 

『ほぇ?』

 

 

 聞き覚えのある声に紫と藍は反応した。

 蛇骨婆は目を凝らす。

 何か割れた結界の先から近づいてきた?

 小さくて、素早くて、それは──猫?正確に目で捉える前に、既にそれは目の前にいて。

 

 

「にゃにゃにゃにゃあーーーっ!!」

 

 

 ガリガリガリィ…ッ!!

 

 

『ひぎゃああああ〜〜〜っ!?!?』

 

 

 顔面を引っ掻かれてぶっ倒れる蛇骨婆。そんな婆の上に跨って、顔を引っ掻き続けているのはピアスのついた猫耳に、茶髪の幼い、2本の尾を生やした少女であった。

 

 

『じゃかしぃ〜っ!?なんじゃあ貴様は!!』

 

 

 払い除けると、空中でくるりとバク転をして華麗に着地をする。流石は猫だ。運動神経はかなり良さそうである。

 

 

「私は化け猫にして!藍様の式!──(ちぇん)!!大体のことは分かってますが、とにかく紫様と藍様の危機を感じて、助けに参上しました!!紫さまー!藍さまー!」ブンブン

 

 

 

 歪む視界の中で、藍は橙に手を伸ばす。

 

 

「来ちゃ…ダメだっ!お前には……危険すぎる…っ!!」

 

「いいえ!私は大切なお二人を守ります!とりあえずこのお婆さんの呪いをどうにかすればいいんですね!!」

 

 

 蛇骨婆は引っ掻き傷だらけの顔を押さえながら笑う。

 

 

『しゃしゃしゃ!儂の動きを止めれば呪いが止まると思っているな?馬鹿が!もうとっくに対策しとるわ!!──見よ!』

 

 

 指さす先には呪いを発生させるために最初に用意した白蛇たち。奴らから黒いオーラが溢れている。

 

 

『儂の呪いの効果を高めさせるために用意した白蛇たちじゃ。そいつらに呪いの詠唱を託させた。儂がここから離れても、奴らが呪い続けるわ!!しゃーっしゃっしゃっしゃっ!!残念じゃったのお』

 

「・・・」

 

『わざわざ殺されに来て哀れよのぉ。一思いに・・・!!』

 

 

 蛇骨婆が巨大な大蛇の姿となる。

 これが蛇骨婆の本当の姿である。舌をチロチロ出して、橙を睨みつける。

 

 

『飲ミコンデクレルワァッ!!』

 

「・・・ふふ」

 

『? 何ヲ笑ッテ…』

 

「策士策に溺れましたね」

 

『シャア?』

 

「確かに私では勝てません。でもあの小さな白蛇には勝てます。行け!私の眷属たち!ニャニャニャ!!」

 

 

 橙が入ってきた結界の割れ目から幻想郷中の野良猫たちが一斉に飛び出してきた。彼らは一斉に白蛇たちに飛び掛かる。猫と蛇。反射神経、強さ、身体能力的に優れているのは猫である。しかもこの数、白蛇たちは抵抗する間も無く噛み殺されていった。

 

 

『やっ、ヤメェ──』

 

「詠唱は強い貴女が続けるべきでした!そしたら私たち、猫が束になっても苦戦していました。ですが慢心したのが運の尽きです!!」

 

『コ、コノ糞猫ォォォォ……、ハッ!!能力ガ戻ルゥッ!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しき、が、み・・・っ」

 

『何をボソボソ言ってるの、よ・・・?げぽっ…』

 

 

 檮杌の胸から槍が飛び出していた。

 振り向くとそこには鎧を着込んだ牛がいた。牛は力をさらに入れて、ぐるぐるとかき回すと引き抜いた。臓物も一緒にどばっと流れ出る。

 

 

『あ・・・っ♡』

 

 

 力が抜ける。

 檮杌は恍惚な顔をしながら、膝をつく。その瞬間、12本の武器が檮杌の全身を貫いた。いつの間にか12体の獣たちが囲んでおり、藍を守護している。

 

 

『お"っほ…っ!しゃいこぉぉお……♡♡』ブシャア

 

 

 ばたん。

 遂に地面に倒れる。悦びの表情のまま地面に沈み込み、檮杌は絶頂したまま絶命したのであった。その亡骸のそばで藍も倒れ込む。全身に力が入らなくなってしまった。

 

 

「はぁ…っ、はぁ…っ、くそ……、こ、ころして、しまった…」がくっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!」

 

『このまま首ポッキぃぃ・・・?あれぇ?』

 

 

 芳香は気づいた。

 いつの間にか両腕が取れていることに。

 

 

『いつ取れた、ぁうっ…!』

 

 

 頭からつま先まで部位ごとにバラバラになる。身体、足、腿、腕、手首、頭と全身が色んなところに散らばっていた。

 

 

「げほっ、げほっ……、まさか、橙が助けてくれる日が来るなんて……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ア、あ、あああ〜〜〜っ!?勝ってたのに、儂が勝っていたのにぃぃぃ……っ!?ぬ、ぬらりひょん!!ヘルプミぃぃ〜〜っ!!』

 

 

 老婆の姿に戻ると手に持っている頭蓋骨に向かって叫ぶ。

 するとカタカタと動いて、口の骨がパクパクと動き始めた。そこから声が漏れ出してくる。

 

 

【おう、蛇骨。すまんな、すっかり失念していた。我々は帰還したぞ。蛇骨、お前も檮杌、芳香を連れて帰還しろ】

 

『出来るならしておるわ!!檮杌も芳香もくたばりおった!儂を守るものがいないんじゃよ。八雲紫が来るゥッ!!』

 

【おお!檮杌が死んだか!よくやった。死に難いと思っていたが、予定通りだな】

 

『ゔぁっかもん!!呑気にそんな話をしてる場合か!!』

 

【安心しろ。手は打ってある】

 

『?』

 

 

 

 マヨヒガの地面から棺桶が飛び出してきた。

 全てにメイドインSEIGAと書いてある。それらはゆっくりと開き、中からキョンシー兵が低い唸り声を出しながら現れる。

 

 

【アウゥゥゥ……】

 

「嘘でしょ…っ、まだ出るの…!!」

 

「あわわわ、怖いですぅ」ガクブル

 

「橙!」

 

「は、はい!!」

 

「藍を連れて、この場から退却!!ここは私に全て任せなさい!」

 

「しょ、承知しました!!眷属(みんな)っ、藍様を助けに行くから手伝って!」

 

「「「にゃっ!!」」」

 

 

 

 キョンシー達は紫、藍、橙を視認。

 すぐに走り出した。

 

 

【ウウウ〜〜〜】

 

『芳香ぁぁぁ〜〜〜ッ!!!』

 

 

 ついでと言わんばかりに霍青娥も現れる。

 実は地底で外の世界に戻ったのはぬらりひょん、朱の盆、こいしだけであり、青娥は芳香のことが心配で残ったていたのだ。

 

 

『青娥、お前も儂を助けに──』

『邪魔よ!!』

 

『うげぇっ、散々じゃあ〜〜っ!!』

 

 

 キョンシー達が暴れている間に、蛇骨婆は大蛇の姿になると、檮杌の死体を飲み込み退散する。霍青娥もバラバラになった芳香を全て回収。1分間の間にぬらりひょん一味は幻想郷から全員撤退するのであった。

 

 

「全て去ねッ!!」

 

【ウ──】

 

 

 妖力を全て使い、マヨヒガ中の異物を消滅させた。隙間に閉じ込め、その異空間で粉微塵とした。そのまま逃亡した蛇骨婆たちを追おうとしたが芳香の毒が体内で暴れ回り、その場で倒れてしまう。

 

 

「不甲斐な、い・・・っ」がくっ

 

「藍様を安全なところに……に"ゃあっ!?ゆ、ゆゆ、紫様ぁぁぁ〜〜〜っ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ってことがあったのよ。侮ったのが運の尽きね。私ももう引退かしら」

 

「そんな事ありません、紫様!!本来なら私が全て片付けなければならないのにっ!式として情けないっ、穴があったら入りたいっ!!」

 

「あんたが引退したら、私がゆっくり出来ないでしょ。しっかりしてよね」

 

「おい!ってことは誰もアタシの活躍を見てないのか!?」

 

 

 霊夢たちと同じ病室で横になる2人。

 藍は折れた骨を治療し、紫は体内に残った毒を抽出しているところである。

 

 

 

「そんな事より……知ってた?もうお正月、とっくに過ぎてんのよ」

 

「「「!?」」」

 

「こんなのが始まりなんて最悪よォ!今年こそはずぅっとのんびり暮らしてやるんだから〜〜〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました

 一章 終幕は直ぐに書きたいと思います。よろしくお願いします。
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