ねずみ男 幻想郷に立つ   作:狸狐

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こんにちは。

 最近仕事が終わったら刃牙ばかり見てます。面白すぎる。親子喧嘩編もアニメで見れて嬉しいっすね。やっぱり。

 ジョジョ9部の一巻が発売されて即買い。もう最高の一言しかない。











人里編
疫病神? 苦笑の孤独①


 

 幻想郷で小さな異変が起きていた。

 誰も気にしないような小さな異変が起きていたのだ。

 

 

 

「あのぉ…、この薬はお腹にも効きますか?」

 

「勿論勿論!この薬、一粒飲めば、あっという間に腹痛も治るどころか、寿命も3年延びるおまけ付き!あの博麗の巫女もお墨付きでして!今なら一つ5万円のところを5,000円!!お安いですよ!」

 

「それじゃあお一つ──「ちょっとお待ちを」」

 

「この薬は偽物です!」

 

「なっ!?」

 

 

 とある日の昼ごろ。

 露店を開くねずみ男が、行者姿の女と揉めていた。ねずみ男は里の人間たちに『ビビビ印の何でも治療薬』という薬を売っていたのだが、突然現れたこの行者に止められたのだ。行者が薬の袋を開けて、中身を取り出す。そこには黒くて小さな塊が一つ入っていた。

 

 

「なっ、何を根拠にそんな事をっ!!れっきとした営業妨害だぞコレは!」

 

「・・・根拠も何も…っ、うわっ、コレ、鼻くそですよね?毛がついてます」

 

 

 乾燥しているが、明らかにそれは鼻くそだ。

 それを適当に丸めて袋に入れているだけだった。女性は悲鳴をあげると、さっさと逃げてしまった。その騒ぎを聞いていた、ねずみ男の元で薬を買ったお客たちが怒りの形相でやってくる。ねずみ男は直ぐに立ち上がり、逃げる準備をする。

 

 

「ぐぎぎ〜〜っ、商売あがったりだぜ!あばよっ!!」

 

 

 ねずみ男は捨て台詞を吐くと逃げていった。

 騙された人々が追いかけるが、結構稼いだ5000円札の山を持って逃げて、消えていった。

 

 

 

 

 

「お母さん…っ、お腹痛いよぉ」

 

 

 夕刻。

 とある家の中で小さな事件が起きていた。その内容は、腹痛。今日はとにかく暑く、少女はお腹を出して寝ていた。それが良くなかった。お腹を冷やしてしまいギュルルと音を立てて苦しんでいた。

 

 

「腹巻きして寝れば、すぐ良くなるわよ」

 

「良くならない…。永琳(えいりん)先生のとこ、連れてって……」

 

「そんなことで連れていけません!」

 

「うーっ」

 

 

 あまりにも苦しく、涙が溢れてくる。

 そんな時だ。外を見れば、大きな笠を被り、大きな葛篭を背負った姿が見える。あれは幻想郷の薬売りだ。

 

 

「はぁ、しょうがない。お薬買ってきますから」

 

「うん」

 

 

 財布を持って、外に出る。

 行者の格好をした薬売りは「薬ー、薬はいらんかねー!」と元気な声が聞こえてくる。もう直ぐで夕飯の時間になるというのに感心なものだと思いつつ近づくと、薬売りは気付き、葛篭を降ろす。

 

 

「いらっしゃい」

 

「お疲れ様、鈴仙(れいせん)ちゃん。腹痛の薬はあるかしら?」

 

 

 鈴仙と呼ばれた少女は笠を取る。

 するとピョンとウサギの耳が飛び出した。紫色の長髪の少女がニコリと笑い、腹痛の薬を取り出した。彼女は、『鈴仙・優曇華院・イナバ』。幻想郷の病院である永遠亭に住む『月の兎』という種族で、薬師の八意永琳の弟子である。普段は師匠の手伝いをしているが、時間がある時には薬売りという仕事をしている。

 

 

「ありますよ!一つ150円です!」

 

「150円ね。ちょっと待って……」

 

 

 

──キャアアア……

 

 

 

「娘の声っ!?」

 

「お母さん、ここで待ってて!!」

 

 

 少女の悲鳴を聞いて、母親よりも早く鈴仙が荷物を置いて走った。家の中に入ると、布団の中で震える少女に近づく謎の妖怪がいた。

 

 

「その子から離れなさい!里の人間に手を出してはいけないのを知らないの!」

 

「薬売りさん、助けて」

 

『エッ…』

 

 

 振り向く妖怪。

 その顔に、鈴仙はゴクリと唾を飲む。その妖怪の容姿は何とも醜い、恐ろしいものだった。白い肌に、山羊のようなツノを生やし、人間のような目と鼻を持つ姿。だが人型には違いないが、例えるなら悪魔のような姿とも言える。

 

 

『エッ…、エッ…。お、オレェ…』

 

「ひぃいい」

 

 

 その声はガサガサで、聞いていてゾッとする。子どもは一瞬の隙に逃げ出して、薬売りの元へ駆け寄る。

 

 

「怖いよぉ…っ」

 

「大丈夫?ケガは?」

 

『マ、待ってっ、オレ…ッ、ウゥッ…』

 

 

 その妖怪は悲しそうな顔をすると、窓を開けて逃げていった。ホッと一安心していると母親が、鈴仙の置いていった荷物を持ってやってくる。

 

 

「お母さん!!」

 

「ど、どうしたの!何があったの!?」

 

「怖い妖怪が私のお腹を触ってきたの…っ!紫色の爪でサラッて」

 

「ケガは!?」

 

「無いけど…。あれ?お腹痛いの治ってる?」

 

「ちょっと見せてください」

 

 

 鈴仙が少女のお腹を見る。

 どこにも異常は見られない。変に傷があるわけでもなく、呪いがかけられてはいない。更には腹痛の様子は見られず、寧ろ良くなっているのではないかと診察をしてみて感じた。

 

 

「・・・とりあえず、戸締りは忘れないほうがいいですね」

 

「は、はい」

 

「私は少し見回りをしてきます」

 

 

 外を見てみる。

 窓の外には紫色の液体がテンテンと垂れていた。後を追ってみると、次第に液体の跡は消えて行く。謎の妖怪の行方は追えなかった。

 

 

「・・・」

 

 

 葛籠を背負い、笠を被る。

 その後も里で薬を売ってから、帰路に着く。一度入ったら必ず迷うとされる迷いの竹林を抜け、和風家屋の永遠亭に辿り着く。

 

 ここは通称『闇の病院』。

 この病院の先生である八意永琳の医療の腕は天才的である。たとえ首が取れたとしても簡単につなげてしまうと言われるほどである。そして闇と呼ばれる理由は、ここに来たものは人間だろうと妖怪だろうと分け隔てなく診察をするから、いつしか言われるようになった。

 

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい、優曇華」

 

「師匠!今日も腹痛の薬がたくさん売れましたよ!」

 

「今日も、か」

 

 

 調合の手を止める。

 葛籠の中を見てみれば確かに腹痛の薬は売り切れており、他は全く売れなくなっていた。

 

 

 

「…()()()()()()()()()()()()()()()わね」

 

 

 

 ここ最近、幻想郷では腹痛が流行っていた。だが、腹痛は命に関わるほどではない。しかし原因は不明。水質調査をしても結果は出ず、皆んなは腹を温めるか、八意印の薬しか対策しようがなかった。

 

 

「異変でしょうか?」

 

「異変…。だとすると地味すぎるわ」

 

「後ですね…」

 

 

 鈴仙は先程出会った妖怪の話をした。

 とても怖い見た目をしており、紫色の毒のような液体が含まれた爪を、少女に向けていた事を。

 

 

「・・・それは『疫病神』かもね」

 

「疫病神、ですか?」

 

「ええ。人間たちに未知の病気を齎す悪神ね。仮にそうなら色々と辻褄が合うわ。・・・でも、原因不明の腹痛を起こして何がしたいのかしら」

 

「分かりません。でも…とても悲しそうな目をしてました」

 

「・・・まぁ、どんな病気がきても私ならワクチンが作れるから安心しなさい」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

 

 ここは里の外。時刻は夜。

 ねずみ男は稼いだお金を全て居酒屋に使い、とても酔っ払っていた。外は危険だと聞いてはいたが、野良妖怪たちだって好みはある。ガリガリで臭い男を食べようとは思わないから見逃していた。

 

 

「クソがよォ〜。折角、里の人間たちが腹痛で苦しんでるっていうのによぉ〜。本当は、ひっく、もっと稼げたっていうのによぉ〜。馬鹿にしやがって」

 

 

 フラフラと歩く。

 途中でブルブルと体が震えた。

 

 

「うぃーっ、催してきたな。……よいしょっと」

 

 

 ジョボボボボと溜まりに溜まっていた小便が発射される。ねずみ男の膀胱は常人よりも大きく丈夫なので、めちゃくちゃに溜まる事ができる。昨日の今日でトイレをしていなかったので溜まっていた全てを出す。

 

 その尿の酸が、辺りに生えている植物を枯らしていく。そしてあまりの勢いで跳ねに跳ねまくり、黄色い水滴が蜘蛛の巣だらけの小さな社に降りかかる。そして社の中にあった『石』を濡らした。

 

 

「へへっ…」

 

 

 神聖なものを穢すという背徳感に身震いしながら、しっかりと社に目掛けて発射した。屋根を溶かし、中の石に直撃。ねずみ男は気づかない。その石に彫られた『疫災封印』の文字も溶けていく事を。

 

 

「ふぅ〜っ、スッキリした。……ん?」

 

 

 社から邪気が噴き出している。

 ねずみ男は驚き、そのまま後ろに倒れた。噴き出し終えると、ガタガタと音を立てて社が崩れ、中から人型の何かが出てきた。

 

 

『んー!500年ぶりの外の世界』

 

「お、女が出てきたァっ!?」

 

 

 突如として、妖艶なる雰囲気をまとった女性が、ねずみ男の目前に現れた。その美しさは、月明かりの下でさえも鮮やかに輝き、彼女の存在はまるで幻想の世界からの訪れ人のように感じられた。一気に伸びる鼻の下。自分でも気づかないうちに舌がベロンと出てしまう。

 

 

『ふふふふふ……』

 

「お美しい女神様!あなたは一体?」

 

 

 女は、目の前のねずみ男に気づく。

 この男が封印から解いてくれたのだろう。そのままねずみ男にもたれ掛かり、頬を撫でる。

 

 

『・・・そうね、とりあえず“ホウコ”とでも呼びなさい』

 

「おぉ〜!ホウコさんの細長い指が私の顔にぃ♡」

 

『それにしても、あなたが封印から解いてくれたのね〜。アリガト〜!ねっ、私、あなたにお礼がしたいんだけどォ』

 

「お礼なんてそんな…、へへへ。 寧ろ、お礼したいのはこっちの方ですよん。貴女みたいな美しいお姉様に出会えたんですから!むふふふふふ」

 

『そう?・・・なら、私の仕事を手伝ってくれるぅ?』

 

「はいはいはい!何でもやりますよ!それで“仕事”って何やるんすか?」

 

『それはねぇ──…』

 

 

 耳元で囁かれるとぶるりと震える。

 その甘い声に脳が痺れるが、ちゃんと内容は聞いている。

 

 

『─ってことをやりたいの』

 

「お任せあれ!ひひひひひ」

 

『期待してるわっ、色音さん』チュッ

 

 

 チュッと頬にキスされる。

 もうねずみ男は完全にこの女の虜になっていた。昔から彼は、お金と権力と美女には逆らえない。

 

 

「色男ってェ…そんな当たり前なこと言われても、デヘデヘデヘ……♡♡」

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 少しずつだが、幻想郷には腹痛が広がっていった。

 幸いにも命に別状はない程度ではあるが、免疫力の弱い子ども達から徐々に腹痛を起こしていった。誰もが腹を冷やした、悪いものを食べたのかなどを考えていたが関係ないことが判明し、謎の感染病だと考えられた。とりあえず寺子屋は一時的にやらないようになる。

 

 

「里の活気が無くなってる」

 

 

 薬を売りにきていた鈴仙。

 事態が事態なので、永琳の指示もあり、一つ一つ家を回りながら薬を無償で配りに来たのだ。

 

 里に着いて少し歩くと、掲示板に『白イ妖怪 里ニテ現ル報告多数 気ヲ付ケルベシ』とお達しがされていた。直ぐにあの時見た『疫病神』だと理解する。

 

 

「疫病神の影響が広がってる。・・・早く配ろう。ん?」

 

 

 活気がないと思っていたのに里の中心に、人だかりが見える。皆んな、お腹を抑えながら行列を作って並んでいるのだ。どこに並んでいるのかと思い、目を凝らすと、あの偽の薬を売り捌いていた男と謎の美女がいた。

 

 

「どんな病気も一瞬で治す『万能丸』!今ならたったの500円だよー!買った買った!」

 

「売ってくれ」

「こっちにも!」

 

「はいはい!押さない!押さない!薬は逃げませんよ〜!ニヒヒヒヒ」

 

 

 また詐欺をやっていた。しかし、以前騙されたと憤慨していた人たちも見える。何故だ。何故あの男を信じているのだ。近づいてみると人々は買った薬を直ぐに飲んでいた。腹痛を訴えていた人たちの顔が楽になる。いや、だが、怪しくはないのだろうか。とにかく、目の前の男にちゃんと話を聞いてみるしかない。

 

 

「ケケケ…、すごい儲け」

 

「飽きもしないで、また同じ詐欺ですか?」

 

「あっ、お前はあの時の薬売り!開口早々に“詐欺”とは何たる失礼なやつだ」

 

「鼻くそを売りつけていた人が何を言いますか。さっさとお金を返しなさい」

 

『ちょっと何事?』

 

 

 陰から美しい女性が現れた。どうやら今回は二人で営業しているようだった。

 

 

「ホウコちゃん! クレーマーだよ、クレーマー!俺たちの薬が売れてるからって文句言ってきたんだよ!」

 

『へぇ〜』

 

 

 そう言うと、彼女は袋から丸薬を取り出した。

 大きさ的には普通の錠剤と変わらない。黒色で、墨のように見えた。それを鈴仙に渡す。

 

 

『お嬢さん。何を疑ってるのか知らないけど…ちゃんとした薬よ、これは。何でも治る特効薬…。あなたもお一つ如何かしら?』

 

「特効薬?そんなものある訳が・・・」

 

 

 いつのまにか、薬売りの周りに、ねずみ男から薬を買った人々が集まっていた。誰もが清々しい表情をしており、先程まで苦しんでいたとは思えない。

 

 

「薬売りさん、これは凄いぜ!本物だ」

「腹痛だけじゃなくて腰の痛みまでなくなったわい」

「皮膚病もスッキリよん」

 

 

 そう口々に言ってきたのは、最初に騙されたと怒っていた人々だ。彼らが全員、ねずみ男の味方をしている。

 

 

「ですが!医者でも無いものが作った薬は怪しいに決まってます。成分、材料、実験、それらをちゃんと調べたのですか?」

 

「まあまあ……鈴仙さん。確かに最初はまた鼻くそでも売りつけられるんじゃねえかと疑ったんだ。そしたら、試しにあの別嬪さんが飲んでみろって言うから飲んだわけよ。そしたら腹痛以外にも身体の異常が全部無くなったんだよ!!こりゃあ本物だぜ」

 

『因みに…一度飲めば、これから先は病気になることはありませんわ』

 

「毎回150円払うよりも、一回500円の薬を買ったほうが安上がりってもんよ!」

 

 

 ねずみ男は、鈴仙に近づき、家々の奥を指差した。あそこは所謂、貧民街と呼ばれる所でお金に困る人たちが暮らしている所だ。

 

 

「あっちなら、アンタのチンケな薬を買ってくれるかもな!買う金があるならだけどよ!うしゃしゃしゃ!!」

 

「そうですか。・・・ですが皆さんに忠告しておきます。何の説明もない薬よりも、お医者さんの薬の方が100倍安心です。都合のいいことだけを何でもかんでも鵜呑みにしたら酷い目に遭いますからね」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 ねずみ男や里の連中には腹が立つ。なぜ医者の言うことよりも訳のわからない情報を信じてしまうのだ。だが、きっと我々の薬を必要としている人はいるはずだ。そう決めて、貧民街エリアに向かった時、チラリと白い何かが動いているのが見えた。

 

 

「あれって…」

 

 

 それは一度見たら忘れない白ヤギのような妖怪だ。妖怪は、鈴仙に気づいていないのだろう。そぉっと家の中に潜り込んでいった。鈴仙も急いで後を追い、窓から家を覗く。

 家の中では3人の家族が腹痛に苦しみながら横になっていたのだが、その妖怪は爪を立て紫色の液体を垂らしながら、その3人に近づき、そしてその爪で3人の腹を撫でようと手を伸ばした。

 

 

「そこまでよっ、疫病神!」

 

『ア"ッ!?アゥ…アウゥゥ…ッ、エイッ!!』

 

「あっ!?」

 

 

 妖怪はその家族全員の腹をさっと撫でると、急いで逃げていった。後を追う前に鈴仙は3人の様子を伺うと、その表情は落ち着いており、先ほどまでの苦しそうな顔は消えていた。父親が先に目を覚まし、目の前の鈴仙を見て、彼女が助けてくれたのだと察した。

 

 

「……薬売りさんが助けてくれたんですね」

 

「えっ、いや、その」

 

「おかげでとても楽になりました。でも、まだ眠い……すぅ…」

 

(眠った。体のどこにも異常は無さそうね。寧ろ、良くなっている?まさか……でも、あの妖怪が犯人じゃなかったの?とりあえず追いかけよう)

 

 

 鈴仙は急いで後を追う。

 今度はあの紫色の液体はちゃんと残り、続いている。追いかけて行くと森の中に続いており、足音を立てずに歩く。

 

 

 

 

 

 辿り着いた先は川だった。岩に腰掛けて妖怪はうずくまっていた。

 

 

『ウッ…ウゥゥゥッ……』

 

(泣いてるのかしら?とりあえず話はしないと…。それにもし襲われても……)

 

 

 護符を持ちながら、鈴仙がこっそりと更に近づこうとした時、落ちていた枝を踏んでしまう。パキッという音に反応した妖怪は驚きながら振り向く。そして先程出会った薬売りの姿を見て、怯えながら逃げようとする。

 

 

『ヒィイイッ!?』

 

「ま、待って。私は話を──」

 

 

 反応や表情から敵意は感じない。この妖怪から感じるのは恐怖だけだった。護符を見て、鈴仙が自分を退治しにきたと思ったのか必死に逃げようとするが、砂利に足を取られ、転んでしまう。足から血を流し、白い体毛を赤く染め上げながら逃げようとする姿を『可哀想』に思い、直ぐに葛籠から救急セットを取り出した。近づいてくる鈴仙から逃げられないと思い、妖怪は頭を守る態勢になる。

 

 

『殺サナイデッ、コ、ココ、殺サナイデッ』

 

「落ち着いて…、私は治療をしたいだけなの」

 

『アウゥゥ…』

 

「大丈夫…。危害は加えないから…」

 

 

 消毒液と包帯を取り出し、手際よく妖怪の足を治療する。永琳の隣で、弟子として、看護師として修行を積んできた成果が出ていた。その所作は完璧であり、あっという間に巻き終える。

 

 

『・・・ア、アリガトウ?』

 

「どういたしまして」

 

 

 鈴仙は敵じゃないと判断したのか落ち着きを取り戻す妖怪。鈴仙は包帯などをしまいつつ、目の前の妖怪を観察すると白い体毛で気づかなかったが、全身に切り傷や打撲の跡が残っていた。やはり命を守る者としてほっとけない。それに、仮に疫病神なら、腹痛を止めなければならないからだ。

 

 

「ねぇ…少しいい?」

 

『・・・』

 

 

 近くの岩に2人は腰をかける。

 警戒していた妖怪だが、目の前の川の流れや、魚の泳ぐ姿、虫の声を聞いていると次第にリラックスしていくのがわかった。

 

 

「あなたは一体何者なの?幻想郷で一度も見たことがないんだけど、森の妖怪なの?」

 

『オ・・・、オレ、“苦笑(にがわらい)”。ゲ、幻想郷、知ラナイ……。気ヅイタラ、ココ、イタ』

 

(嘘はついてないわね。この妖怪は……外で忘れられたことで迷い込んだのか…)

 

 

 彼女の『能力』。

 これを使うことで相手の精神や心が嘘をついているのか見分けることができる。具体的な詳細は今は省くが、心の中を読むことはできない。

 

 

「ええと…苦笑?は、自分がお尋ね者になってるの知ってるの?噂だと、人間を襲おうとする姿を見たって周りは言ってるんだけど…」

 

『オ、襲ウツモリナイ…。ココ、キタラ、子ドモ泣イテタ…。助ケヨウ、思ッタ』

 

「助ける?」

 

『俺ノ能力ハ……“正反対毒(いんどく)”。コレ、爪カラ出ス。コノ毒…、病気ヲ治ス力、アル』

 

 

 

 ここで紹介タイムに入ろう。

 

 苦笑(にがわらい)

 その名の通り、常に苦笑いをしているので、その名がつけられた。見た目は二足歩行する白ヤギのようだが顔が人間に近いことが特徴である。但し、肉食獣と同様に手足には爪がある。

 

 何をするのか不明だとされている妖怪だが、唯一分かっている最大の特徴として、その能力が挙げられる。

 【苦笑の生成する毒は、何でも反対する力が備わっているのだ。例えば、不味い料理に混ぜれば美味しくなり、美味しい料理に混ぜれば不味くなるといったものだ。】

 

 この能力を応用する事で、何か病気になっている者に、この毒を使えば簡単に治ってしまう。勿論その反対もあるから、簡単に使うことはできない。

 

 

『俺、困ッテル人、助ケタイ…。デモ、俺、嫌ワレテル。コワイ顔、コワイ爪、コワイ声…。ミンナ、俺、嫌イ。 俺、1人ボッチ。ズットズット』

 

 

 この身体の傷は、迫害を受けてきた証拠だ。

 人間たちから恐れられていると自覚しているのに、苦笑は人間のために尽くそうとしている。それは何故か? 一人でいる方がずっと辛いからだ。そんな痛みに比べれば、暴力なんて気にならない。

 

 

「・・・そんな事ないよ」

 

『?』

 

「ずっと一人ぼっちなんかじゃない。ねぇ、苦笑……。私と友達にならない?」

 

『エ…、エッ…?』

 

「私もね、ここに来たばかりの時は里の人から嫌われてたわ…。でもお師匠や、皆んながいてくれたから乗り越えられたの」

 

 

 鈴仙や永琳たちは元々は月の住人だった。

 ここに来たばかりの時、()()()()()()の影響で月の住人は煙たがられる存在だった。だが、同じ地で生きていくと決めたのだから協力していこうと、嫌われながらも関わり続けた結果、今のように薬売りとしてやっていけている。勿論、心が折れそうになったこともあるが、それらは仲間と共に乗り越えてきた。

 

 そんな過去もあり、目の前の存在がかつての自分と重なる苦笑に手を差し伸べる。

 

 

「どう、かな…?」

 

『──アリ、ガトウ。初メテノ・・・友達!!」

 

 

 ゆっくりと鈴仙の手を握った。

 今までずっとひとりぼっちだったからだろう。手を取るのと同時に、自分の存在を肯定してくれる人と出会えて、涙を流していた。

 

 

「よし!それじゃあ貴方の無実を証明しに行きましょう!!」

 

「エ…ッ、デ、デモ、信ジテモラエルワケ……」

 

「最初から決めつけない!貴方の力で今幻想郷に蔓延る病気を治したら、噂なんか直ぐに消えるわ!善は急げよ!」

 

 

 

 

 

 

 

─────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「何これ…っ」

 

 

 2人が幻想郷に戻ると、そこには異変が訪れていた。あんなに元気だった人々が地面に倒れ、家の中で倒れ、全員が顔を赤くして苦しんでいた。

 

 

「ゲホッ…ゲホッ…苦しい」

「痛いよぉ」

 

 

「あんなに元気だったのに…」

 

 

 倒れている人に駆け寄り、診察すると熱は40℃を超えており、手や足など末端からブツブツと発疹が出ていた。明らかに腹痛の範疇を超えていることは直ぐにわかった。そしてそれは1人だけではなく、里全体で人々が倒れていたのだ。

 

 

「何故こんなことに…。直ぐに治療しないと…!ええと、でも、まずは何を…っ」

 

「エイッ!!」

 

「苦笑…!」

 

 

 苦笑が倒れている人に毒を注入する。

 すると、体内に入った毒素が全身に広がる病原菌を殺していく。数分経たずに一瞬にして熱が引き始めた。

 

 

「ミンナ、助ケル…!!」

 

「そうよね。私も出来ることをやらないと…。それにしても、この症状、どこかで……」

 

 

 苦笑は、1人、また1人と毒を注入しに回る。

 あっという間に中心エリアの人々の病気が治っていく。鈴仙は里中を走り回り、この場所に連れてくる。この状況で、苦笑しか治せるものがいないなら自分はアシストに回るだけだ。

 

 

『ねぇ、これはどういう事?』

 

「「!?」」

 

『これ、あなたがやったの?』

 

 

 ゆっくりと2人に、ねずみ男と一緒にいたホウコと呼ばれていた女がやってくる。彼女は、今ちょうど病気を治している最中の苦笑の前に立つと大きく足を張り上げて──。

 

 

『目障り』

 

「エ─」

 

 

 苦笑の顔面を蹴り上げた。

 突然の出来事に避けるは出来ず、ヒールが顔面を直撃し、近くの家屋の壁まで吹き飛ばした。苦笑は鼻血を噴き出し、顔面がぐちゃぐちゃになってしまった。

 

 

「苦笑ッ!?」

 

「オ、オレ、ヘーキ……。ソレ、ヨリモ、ア、アノ女ニ……気ヲツケ……」

 

『あら?死ななかったの?案外丈夫なのね』

 

「貴様ァッ!!」

 

『私の計画の邪魔をするからいけないのよ。そしてアンタも邪魔よ、このブスが──』

 

 

 瞬間、鋭利なヒールの踵が鈴仙の身体にぶつかる。その威力に抗うことなど不可能であった。身体は無慈悲な力によって宙に舞い上がり、遥か遠くへと吹き飛ばされた。

 

 

「ぐふっ……!!」

 

『飛んだ飛んだ。随分と軽かったってことは中身が全くないのかしらね』

 

 

 馬鹿にするように笑う目の前の敵。そんな女の陰から、ねずみ男はひょっこりと現れる。彼は大量の500円玉を抱えながらニヤニヤと笑っていた。

 

 

「計画はうまくいったね、ホウコちゃん」

 

『・・・ねずみ男』

 

「う、ぐ……っ、計画、ですって…?」

 

 

 ふらつく体を起こして無理やり起こす。目の前の光景が歪んではいるが、必死に足に力を入れて立ち上がる。ねずみ男はニヤニヤと笑い、鈴仙の前に立つ。

 

 

「へへへ……。ボロボロだな、ウサギ女」

 

「ぐ・・・っ」

 

「冥土の土産に教えてやるよ。俺たちがやっていたのは侵略だ!里に病気をばら撒くだけじゃなくて、その病気をさらに重くする丸薬をホウコちゃんが作り、俺が人間たちに売りつけて侵略する。こうも上手くいくなんてな!!これで()()()()()()()()()()!」

 

 

 ゲラゲラと笑うねずみ男。金も十分に手に入った、今この場で圧倒的に誰よりも上に立っている充実感に満ち満ちていた。幻想郷に来て、そんなに経っておらず、知り合いも少ない彼が、まさに今この地で立っているのだ。

 

 そんな彼に、ホウコは近づく。耳元でそぉっと、優しく、エロく言った。

 

 

『ねずみ男ちゃん♡♡言い忘れてたことあったわ♡』

 

「でへへへ、何よ急に!もしかして愛の告白じゃ──」

 

『アンタも邪魔になった』

 

「へ?」

 

『ウフ』チュッ

 

 

 

 そして、優しく頬に口づけ。

 ねずみ男は突然の言葉や行動に固まる。固まり、現状をやっと理解し、思考が終えた頃にねずみ男はそのまま地面に倒れる。

 

 

「……た、立てね、え? 全部が揺れて……、あれ、頭が痛いっ、体が痛い…っ」

 

 

 見て分かるほどの発熱。身体中が赤く染まり、湯気が吹き出す。

 だがそれ以上に目を見張るものがある。それは全身にできた発疹。顔、手足、背中、腹部。至る所でブツブツと皮膚が膨れ上がり、そこからブチュっと膿が吹き出した。

 

 

「こ、この症状は……っ」

 

 

 鈴仙はその症状を見たことがある。永遠亭で、数年前に師匠からこの地球という場所で発生したウイルスによる感染症の種類や症状、歴史を講義してもらった際に見たのだ。

 

 

「──天然痘(てんねんとう)!!」

 

 

 天然痘。

 それは日本だけに留まらず、全世界中で発生した殺人ウイルス。このウイルスの感染力は凄まじい。そして何より恐ろしいのは人種や性別、貧富の差関係なく、誰をも大量に殺してきた。

 

 

「で、でも天然痘は、根絶されたはず。だから幻想郷で発生するなんて──」

 

 

 その通りだ。

 大量に人間を殺してきた天然痘は何と皮肉なことか。天然痘は、人間の手により根絶された唯一のウイルスだ。

 

 だから幻想郷でも発生するわけがない・・・と思っていた。

 

 

「いや、だからか!幻想郷だから!・・・絶滅したもの、根絶されたもの、幻想となったものを呼び寄せてしまう幻想郷だからこそ、天然痘が発生した!!」

 

 

 全てを受け入れる幻想郷。それは良い言葉に聞こえて、最悪の言葉。

 

 根絶され、外の世界では幻想とされる天然痘が、幻想郷に訪れていたのだ。だが感染することはなかったが、この女が現れたことで本来の力を取り戻したのだ。

 

 

『そうよ。うふふ、あははは!!・・・この地に来れてよかった。世界から消えた私が復活でき、力を蓄えるには最適の地だった』

 

 

 ホウコの全身に、人間たちの天然痘に対する【恐怖】【畏怖】【絶望】【死】という感情が集積していく。

 

 

『──封印された身ではあったが、気づけばこの幻想郷に辿り着き、ゆっくりと病を撒き散らした。情けなかった…、自分が非力になってしまったことを呪った…。私が…腹痛しか起こせなかったことを』

 

 

 幻想郷の、隅の隅に蔓延る病原菌。それらも一気に集約される。

 

 

『だが偶然にも封印は解け、愚かな男を利用し、幻想郷に天然痘を起こさせた』

 

 

 妖怪にとって涎を垂らしてしまう程の、羨ましい程の圧倒的な『畏れ』が、妖力へと変換される。

 

 

『さあて……大感染(パンデミック)を始めるわよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 苦笑。
 出してみたかった妖怪です。見た目は怖いですけど、水木先生の図鑑を見ると意外と良いやつ、かも。

 私の作品では気は弱いけど優しい妖怪としてみました。


 さぁて、今回のゲスト妖怪はもう1人──『ホウコ』の正体は??

 次回に続く。
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